1978 年の改革開放以降、多くの中国のNPO研究者がサラモンのいう「連帯革命」によ って世界規模で民間非営利組織が増加した。そして、その潮流が中国にも波及し「市民社 会」が構築された、または広がりつつあると考察していることを前節で示した。それでは、
中国の研究者によって、どのような組織がいわゆる「市民社会」を構成する組織として認 識されているのだろうか。
2-1. 中国のNPO研究者による中国民間非営利組織の分類
康暁光は、中国の民間非営利組織を政府、企業以外の組織の集合体であるとした上で、
人民団体、国家の規定によって登記が免除された社団、民政部門に登記されている組織(社 会団体、基金会、民弁非企業単位)、そのほかの政府部門に登記している組織、海外の民間 非営利組織の中国支部、合法組織下における組織、単位や社区の内部で活動している組織、
公園や街角における趣味の組織、ウェブ上の擬似組織、反政治組織、非営利活動に従事し ている企業法人として登記している組織に分類している(康,2011: 9-10)。康の分類では、
機能上一部政府部門と重なるような組織も包括しており、極めて広義的であるといえよう。
それと同様に広義的に捉えている者に華安徳がいる。華は組織の自治レベルという側面に 注目して分類している。国家と関係の深い組織は、市民社会に対して合法性と信用の提供
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を助けると指摘した上で、自治のレベルが低い組織から群衆団体(中国共産党-国家体制 の一部分を成し、党と特定の社会団体をつなぐ役割を持つ組織。党に属し職員は国家幹部)、
GONGO24と基金会(政府が設立した社団、基金会)、サービスを主とする民間非営利組織
(主に民弁非企業単位)、独立した基金会(基金会管理条例に基づく、自らの資金によって 設立された基金会)、研究あるいは学習団体(多くは社会団体名義で登記される学術研究団 体。所属する組織の下部組織になることが可能)、商業団体(会員の利益を代表し、業界の 発展・促進を目的とする組織)、特定課題解決型団体(環境問題など特定の課題解決を目指 す組織。自発的に組織されたものが多く、環境問題に携わる北京地球村や自然之友などが 代表的)、農村社団(伝統的な農村社会の文化形式をもつ組織。宗教団体、寺廟社会、血縁 関係、文化組織などを含む)、草の根団体(未登記組織。多くは合法組織の下部組織である)
に分類している。なお、華は直接政府機関に属している群衆組織は分類の外にあるべきと 言及しているが、民間非営利組織の機能を備えているため分類に加えている(華, 2007:
38-52)。
次に、賈は、中国の民間非営利組織の定義を「営利を目的としない、主に公益もしくは 互益の活動を展開する党と政府の体系から独立した正式な社会組織」(賈, 2004: 13)とした うえで、中国における民間非営利組織を法律の地位に基づいて、まず法定民間組織、草の 根民間組織、准民間組織に大別する。法定民間組織は、各々の組織の法を根拠とした社会 団体、基金会、民弁非企業単位を指す。その他、賈は政治協商会議に参加している人民団 体と国務院から登記が免除された社会団体を行政色が濃く、一定の政治的機能を有すると 指摘した上で、その範疇に含んでいる。草の根民間組織は、非政府性や非営利性を持つ組 織ではあるが、政府から認可を得ていない、社会団体あるいは事業単位の下部組織として 設けられた二級機関として活動を展開している組織や、企業登録をしている組織を指す。
その他にも、社区における公益組織や農村における公益・互益の組織などが多数存在する と指摘している。准民間組織は、転換期にある事業単位やウェブ上の社会団体などを指す という(賈, 2004: 14-15)。
最後に、商玉生は、中国の民間非営利組織をまず法人 NPOと非法人 NPOに分類する。
法人NPOは賈でいう法定民間組織にほぼ該当するものである。但し、商は人民団体を准政 府組織、国務院機構管理の団体をGONGOと見なし、法人 NPOの範疇には包括していな
24「government organized non-governmental organization」の略。政府が設立した非政府 組織を指す。
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い。また、賈が准民間組織として分類していた事業単位および、民間草の根組織として分 類していた企業登録の非営利性・非政府性の高い組織を商は、公益性事業単位、企業法人 NPOとして法人NPOに含んでいる。非法人NPOは、単位の内部で設立されたNPO、二 級NPO 機関・特定目的のために基金を管理する機関、未登録・未批准のNPOに分類して いる。賈は企業登録の民間非営利組織を政府から認可を受けていない草の根民間組織に分 類していたが、商はそれを独立した組織として法人NPOに分類している(商, 2003: 1-3)。
2-2. 中国における草の根組織をめぐる考察
中国の研究者の多くが、民間非営利組織研究の理論的支柱の 1 つとしているサラモンと アンハイアーの民間非営利組織の定義は、つぎの要件を満たす組織とされている。
(1)正式に組織されていること。ある程度組織化されていること。重要なことはその組 織がある程度、組織的な実在を有していることである。
(2)民間であること。組織的に政府から離れていること。非営利組織は、政府機構の一 部でもなければ、政府の役人に支配された理事会によって統治されているものでも ない。
(3)利益配分をしないこと。その組織の所有者あるいは理事に組織の活動の結果生まれ た利益を還元しないこと。
(4)自己統治。自己管理する力がある。非営利組織は統治のための独自の組織内手続き を持っており、外部の組織によってコントロールされていないということである。
(5)自発的であること。その組織活動の実行やその業務の管理において、ある程度の自 発的な参加があること。
(6)非宗教的であること。宗教的礼拝や宗教的啓蒙の促進に基本的に関わらない。
(7)非政治的であること。選挙で選ばれる職の候補者を支援するようなことに関わらな いこと。
(サラモン、アンハイアー, 1996: 20-25)
サラモンらの定義と中国の研究者による民間非営利組織の分類とを比較すると、政府組 織との関係が極めて密接な康の分類でいう人民団体や国家の規定によって登記が免除さ
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れた社団、華の分類でいう群衆団体、GONGOと基金会などは、サラモンらのいう民間で あることという要件を十分に満たしているとはいい難い。また、中国の NPO研究者自身 が挙げている定義、例えば康のいう政府、企業セクター以外の組織の集合体(康, 2011: 9) や、賈が挙げている中国の民間非営利組織の定義である営利を目的としない、主に公益も しくは互益の活動を展開する党と政府の体系から独立した正式な社会組織(賈, 2004: 13) という定義の範囲ともズレが生じている。このことは、中国の民間非営利組織の特殊性、
また既存の西洋諸国における研究成果では十分に考察しきれないことを表わしていると いえる。このような現状は、中国の研究者に民間非営利組織研究の枠内において、先述の ような人民団体などの研究を促進させるのではなく、確実に民間非営利組織の定義の枠内 に収まると思われる草の根組織にその関心を向かわせている。
そして中国の研究者は、近年の草の根組織の増加という現象から、「市民社会」の拡大 もしくは構築の可能性に言及する。例えば徐宇珊は、草の根組織を「民間の人々によって 自発的に設立し、自主的に活動している『ボトムアップ型』の民間組織」(徐, 2008: 5)と 定義し、さらに草の根組織間の交流や協力関係の構築は、市民社会における自助・互助の 精神の体現であると述べており(徐, 2008: 6)、草の根組織のネットワーク構築が、市民社 会を拡大、構築することを示唆している。また、李妍焱は『台頭する中国の草の根NGO―
市民社会への道を探る』のなかで、草の根組織(李は「草の根NGO」としている)を「『植 えられたもの、育てられたものではなく、自生してきたNGO』、つまり政府や政府の関係 組織の動員、呼びかけに応じてできた組織ではなく、草のように大地から自然に生えてき た『野生』NGOの意味に用いる」(李, 2008a: 10)と定義しており、中国に市民社会が形 成されているとはいえないと前置きしたうえで、草の根組織が市民社会を支える底流とな り得ることを強調している(李, 2008c: 219)。李妍焱はその後、2012年出版の『中国の市 民社会―動き出す草の根 NGO』では、「市民社会は決して市民社会的伝統を有する欧米の 国々、あるいは国家権力の相対化を追求する民主主義制度の『特許的領域』ではない。市 民社会の伝統を有さない国においても、社会主義を標榜する国においても、国家が公共の 問題をすべてコントロールできない以上、市民社会の存在が現実的に可能となる」(李,
2012: 3)と中国におけるその存在を示唆し、市民社会を「公共的な事柄に関する討論と決
定に人々が、自ら参加する権利、仕組み、及び文化」(李, 2012: 7)と定義している。その うえで、中国の現状について参加の文化は、伝統的、社会体制的原因で欠如し、参加の権 利は、憲法で保障されているが、それを実現するための制度が不十分と指摘している(李,
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