第 2 章 環境微粒子中核物質同位体比 迅速分析法の原理
2.2 アルファ・フィッショントラック比による Pu グレード評価法
2.2.2 モデル計算による使用済み核燃料中 Pu の適用性検討
29 𝑇𝛼
𝑇F =𝑡𝑚𝑒𝑎𝑠(𝜂238𝜆238+ 𝜂239𝜆239+ 𝜂240𝜆240)
2𝜑𝑡𝑖𝑟𝑟𝑎𝑑𝜂239𝜎239 (2-5)
ここで、兵器級Puのようにη240が十分に小さい場合、η239 ≈ 1が成り立ち、
またプルトニウム生成過程よりη238がη240に比べさらに十分に小さくη240λ240 >>
η238λ238 が成り立つと仮定すると、η240は次のように表すことができる。
𝜂240 = 𝜂239 1 𝜆240(𝜂238𝜆238
𝜂240𝜆240+ 1)(2𝑇𝛼 𝑇F
𝑡𝑖𝑟𝑟𝑎𝑑
𝑡𝑚𝑒𝑎𝑠𝜎239𝜑 − 𝜆239)
≈ 1
𝜆240(2𝑇𝛼 𝑇F
𝑡𝑖𝑟𝑟𝑎𝑑
𝑡𝑚𝑒𝑎𝑠𝜎239𝜑 − 𝜆239) (2-6)
上式を求めるにあたり近似を用いたが、本評価法では、プルトニウム同位体 比によらずη240の指標になる値として、評価値R240を
𝑅240 ≡ 1
𝜆240(2𝑇𝛼 𝑇F
𝑡𝑖𝑟𝑟𝑎𝑑
𝑡𝑚𝑒𝑎𝑠𝜎239𝜑 − 𝜆239) (2-7)
と定義した。これにより、実験条件であるtirrad、tmeas、φと、原子核乾板中に記 録された飛跡数Tα、TFにより、240Puの評価値が得られる。次節ではこの評価値 と240Pu同位体比の関係を用いたプルトニウムグレード評価について述べる。
30 でいる (Fig. 2.5 b)。
また、評価対象の試料が生成から年数が経っていることが考えられるため、
精製後10、20、30年経過し、Puの壊変により234-238Uと241Amが増加した場合 のR240の変化をFig. 2.5に示す。この時、Puは(2-8)式に、その娘核は(2-9)式に従 って原子数を変化させ、孫娘核はいずれも長寿命であり評価値に影響を与えな いため計算を省略した。
𝑁1(t) = 𝑁0𝑒−λ1𝑡 (2-8) 𝑁2(t) = λ1
λ2− λ1𝑁0(𝑒−λ1𝑡− 𝑒−λ2𝑡) (2-9)
ここで、N0、N1、λ1 は親核の初期原子数、t 年後の原子数、崩壊定数であり、
N2、λ2は娘核のt年後の原子数及び崩壊定数である。234-238U及び241Am同位体の 性質をTable 2.3、Table 2.4に示す。238,240,242Puのα崩壊で生じる234,236,238Uは長 寿命かつ熱中性子誘起核分裂断面積が小さく、239Puのα崩壊により生じる 235U は断面積が大きいが、Pu に比べて原子数が少ないため TF及び Tαにはほとんど 影響を与えない。また、241Puのα崩壊で生じる237Uは短半減期のβ崩壊核種で あり、241Amと237Uの娘核種である237Npは長寿命なため、これらも評価値にほ ぼ影響を与えない。一方、241Puのβ崩壊で生じる241Amは半減期が親娘とも比 較的短い(それぞれ14.35年、432.2年)ためTα及びR240が増加し、またプルト ニウムの崩壊定数の違いからη240が増加するため、プロットは右上に移動した。
Fig. 2.5 240Pu同位体比η240と評価値R240の傾向及びPuグレードと評価グレード。
aは全ての範囲を、bはη240 ~0.14を拡大したもの。W、F、RはそれぞれPuグ レードが兵器級、燃料級、原子炉級である範囲あり、W’、F’、R’は評価グレード
が兵器級、燃料級、原子炉級である範囲。
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Table 2.3 234-238U同位体の性質 [2] [3]
234U 235U 236U 237U 238U
半減期 (y) 2.455×105 7.038×108 2.342×107 6.75 days 4.468×109
α崩壊率 100% 100% 100% 0% 100%
自発核分裂確率 1.64×10−9 7.0×10−9 9.4×10−8% 0% 5.45×10−5% 熱中性子誘起
核分裂断面 (barn) 0.0670 585.1 0.00026 1.702 16.8×10−6
α線エネルギー (MeV)
4.774 (71.38%) 4.722 (28.42%) 4.604 (0.20%)
4.398 (55%) 4.366 (17%) 4.215 (5.7%) 4.596 (5.0%) 4.556 (4.2%)
4.494 (73.8%) 4.445 (25.9%) 4.332 (0.26%)
-
4.198 (79.0%) 4.151 (20.9%) 4.038 (0.078%)
Table 2.4 241Amの性質 [2] [3]
241Am 半減期 (y) 432.2
α崩壊率 100%
自発核分裂確率 4.3×10−10% 熱中性子誘起
核分裂断面 (barn) 3.122
α線エネルギー (MeV)
5.486 (85.2%) 5.443 (12.8%) 5.388 (1.4%) 5.544 (0.34%)
5.512 (0.2%)
32
・評価グレード閾値の設定
評価値を元に試料のプルトニウムグレード評価を行うための閾値を設定する。
ここで、2つの閾値RLとRHを定め、0 ≦R240 <RLを兵器級、RL ≦R240 < RHを燃 料級、RH ≦R240を原子炉級であると評価する。以後、このようにして評価値か ら得られたプルトニウムグレードを評価グレードと呼ぶ。閾値が適切でない場 合、兵器級を燃料級に、もしくは原子炉級・燃料級を原子炉級に評価する過小 評価や、原子炉級を燃料級が兵器級、燃料級を兵器級として評価する過大評価 を多数許すこととなる。評価グレードにより分析の優先度を設けるとした場合、
過小評価は兵器級プルトニウム発見の遅延や見逃しに繋がり、分析の迅速化・
効率化に悪影響を与える。一方で、過大評価は言わば安全側の評価であり、同 位体比分析の対象が増えることになるが、兵器級プルトニウムの見逃しを防ぐ ことが出来る。また、経年により評価値が増加することが示されたため、こう した試料に対して過小評価することのない閾値を設ける必要がある。以下では 生成後30年経過した試料を適切に評価する評価値を求める。
評価値の設定にあたり、次式のようにプルトニウムグレードを「正しく評価 できた割合」から「過小評価した割合」を差し引いた値の合計を、その閾値の 組み合わせのスコアS とし、RLと RHを0.1 刻みで変化させ、S が最大となる組 み合わせが最適な閾値であると判断した。
S ≡ 𝐺′𝑊− 𝐺′𝐹− 𝐺′𝑅
𝐺𝑊 +𝐺′𝐹− 𝐺′𝑅 𝐺𝐹 +𝐺′𝑅
𝐺𝑅 (2-10)
ここで、GW、GF、GRはそれぞれ本来のグレードが兵器級、燃料級、原子炉級 の試料の数であり、G’W、G’F、G’Rは評価グレードが兵器級、燃料級、原子炉級 となっている試料の数である。このため、過大評価と過小評価が全くない場合、
G’W = GW = 5、G’F = GF = 37、G’R = GR = 88となり、Sは最大値である3となる。
精製後30年経過した試料について、RLを0.1 ~ 0.5、RHを0.5 ~ 5.0で変化させ た時のスコアの変化をFig. 2.6に示す。この結果、RL = 0.3、RH = 1.8とした場合
がS = 2.88で最大となり、最適な閾値であることが判明した。この値を用いて精
製後0 ~ 30年の試料を評価した場合の各グレードの適正・過大・過小評価の割
合はTable 2.5の通りであり、精製後30年に至るまで過小評価することなくプル
トニウムグレードの評価が可能であり、精製直後のものであれば兵器級を22%、
原子炉級を 48%、さらに年数が経過するにつれ適正に評価できる割合が増える ため、分析の効率化が期待できることが示せた。
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Fig. 2.6 閾値とスコア
Table 2.5 評価精度 𝑮′𝑾
𝑮𝑾 適正
𝑮′𝑭 𝑮𝑾
𝑮′𝑹 𝑮𝑾
𝑮′𝑾 𝑮𝑭 過大
𝑮′𝑭 𝑮𝑭 適正
𝑮′𝑹 𝑮𝑭 過小
𝑮′𝑾 𝑮𝑹
𝑮′𝑭 𝑮𝑹
𝑮′𝑹 𝑮𝑹
過小 過大 適正
0年 100% 0% 0% 78% 22% 0% 0% 52% 48%
10年 100% 0% 0% 24% 76% 0% 0% 19% 81%
20年 100% 0% 0% 12% 88% 0% 0% 5% 95%
30年 100% 0% 0% 9% 91% 0% 0% 3% 97%
・U混入時の評価値の変化
これまでの議論は、微粒子中にPuのみが初めから含まれている場合について 検討した。しかし、実際の試料では単一の微粒子中でPuとUが混在しているこ とがあり得る。そこで、235Uと 238U に着目し、様々な割合で Uと Pu と同時に 混在していた時のR240について検討する。
235U濃縮率が0.2%(劣化ウラン)、0.72%(天然ウラン)、10%、50%、90%のU
がPuとの原子数比で0%、10%、50%、90%存在しているとした時のR240はそれ
ぞれFig. 2.7になった。前述の通り、238Uは長寿命かつ熱中性子誘起核分裂断面
積が小さいため、評価値に大きな影響を与えないが、235U が誘起核分裂を起こ すためTFが大きくなり、評価値のプロットは下方に移動している。これにより、
特に高濃縮ウランを多く含む試料では過大評価されてしまう可能性があるが、
兵器級プルトニウムの見逃しを防ぐことができ、また高濃縮ウランを含む試料
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も保障措置上重要な試料であるため、RIMSによる詳細な同位体比分析に繋げる ことが出来る。また、一部の評価値では値が0 を下回り、高濃縮Uになるほど その割合が多くなっている。このことから、特に 235U が大量に含まれている試 料の評価も可能であるという見込が得られた。
Fig. 2.7 ウラン混在時の評価値の変化 (a: 劣化ウラン、b: 天然ウラン、c: 10%
濃縮ウラン、d: 50%濃縮ウラン、e: 90%濃縮ウラン)
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