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第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討

2. プロジェクトの内容を決定する際に検討が必要な事項

一般的には、円借款 によるプロジェクト支援を決定するためには、地熱発電開発及 び発電所建設に関する事業化の可能性を示す情報やデータが必要である。地熱発電事業 の場合、初期の段階では比較的大きな地熱資源開発リスクがある。このリスクのために 予定出力の発電を行うための蒸気を確保できない場合もある、このリスクを最小化し、

適切な円借款事業とするために、従来の地熱発電円借款事業では、対象事業が次の内容 で FS が実施され、必要な情報やデータがそろえられている。

地熱資源開発(蒸気供給・熱水処理のための坑井掘削・配管)について ・地熱資源賦存確認

・地熱流体の特性把握(蒸気条件)

・資源量評価(坑井データを用いた貯留層シミュレーション解析)

・蒸気生産・熱水処理計画(坑井データを用いた貯留層シミュレーション解析による蒸

第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討

・坑井掘削及び配管工事に伴う適切な環境保全策 ・妥当な事業費積算結果

・ODA 事業としての妥当な経済・財務評価結果

・適切な事業実施計画

地熱発電所建設(送電線工事も含む)について

・蒸気条件や供給条件に適合した技術的に妥当な地熱発電所概念設計と建設計画 ・技術的に妥当な送電計画(送電線建設計画)

・適切な環境保全策 ・妥当な事業費積算結果

・適切な地熱発電所建設及び送電線建設事業実施計画

2010 年 12 月に実施されたインドネシア側との協議では、これらのデータ・情報が不 足しており、ES 借款 が本事業支援には適切と考えられたと思われる。ES 借款事業では、

地熱発電所建設のための円借款の実現の準備のために、調査井データを用いた資源評価 を含む FS を行うことが望ましい。ただし、ES 借款 は金額的には小さいとは言え、資 源開発リスクのある地熱発電開発のための ODA 借款であることから、融資を受けるため の技術的な条件が設定されると思われる。

地熱発電 FS のための地域を選定する条件については、“JICA Preparatory Survey for Geothermal Power Development, Sector Loan (2010)”に記述されているが、ES 借款事 業では FS が行われることから、これらの条件は ES 借款事業にも適用されるものと思わ れる。 これらの条件は表3-2にまとめられる。

表 3-2 事業化可能性調査地点選定基準

Essential

item

Method Criterion Priority Remarks

A) Existenc e of geotherm al reservoir

Heat/Fluid

Geochemical (and isotopic) data of hot spring water and fumarolic gases (or well discharge)

Neutral pH chloride type water(chloride ion content of higher than some hundreds ppm) and/or fumarolic gases derived from the reservoirs, fluid circulating water (not trapped or magmatic water)

1 st Neural pH Cl type hot spring water originated from meteoric water or sea water strongly indicates the reservoir existence.

B)

Reservoi r temperat ure

Heat/Fluid

Geochemical (and isotopic)

thermometers of neutral pH chloride type water and/or fumarolic gases derived from the reservoirs (or well discharge) (Fluid inclusion homogenized temperature)

Higher than 200 o C 1 st Temperature of neutral pH Cl type water is the most reliable information.

Temperature from the fumarolic gases and the fluid inclusion are given decreased priority due to many and large disturbing factors.

C)

Existence of volcanic rocks and activity of as heat sources Heat

Geological data of rock dating

Younger than 0.6 million years ago

2 nd

D) Existenc e of alteration rocks by hydrothe rmal activity Heat/Fluid

Geological data of alteration rock dating

Younger than 0.3 million years ago

2 nd

E)Existence of geologic al structure suitable f formatio n of geotherm al reservoir

Structural data in geological study and geophysical surveys such as gravity survey and

resistivity surveys

Possibility of existence of high permeability along faults and in formation.

Possibility of existence of impermeability as cap rocks or sealing zones around the reservoirs

2 nd

第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討

ES 借款を用いて地熱発電開発のための FS、基本設計を行う地熱地域は、上述の条 件のほとんどを満たす必要があると思われる。上述の検討のためのデータや情報のほ とんどは、一般的には地表探査で得ることができる。これらのデータや情報の妥当性 は、調査井掘削によって検証されることとなる。

地熱資源の賦存が地表調査や調査井掘削により検証されれば、地熱資源量は計算で 得ることができる。一般的には、モンテカルロ解析を組み込んだ容積法でポテンシャ ルは計算される。充分な資源量が賦存する可能性がある場合には、地熱発電事業のた めの事業化調査、基本設計や発電開発準備が ES 借款を用いて実施される。

b. 地熱資源概況

大スマトラ断層は、ブンクル州とジャンビ州との州境付近およびブンクル州と单 スマトラ州との州境を北西から单東へ伸びており、多くの地熱地域が州境付近に分 布している(図3-2)。これらの地熱地域のうち、フルライス地域はブンクル州の 州都ブンクル市の北約 80km に位置する約 120km

2

の地域である。行政上は、ルボン県 と北ブンクル県にまたがっている。ただし、現在検討されている開発範囲はルボン 県单ルボン郡内に位置している。フルライス地域の单西部は北西から单西へ伸びる 尾根となっており、地域单西隅に標高 2,130m のフルライス山が存在する。北東部は、

標高 500m 前後の比較的平坦な地形となっており、クタフン川が单東から北西へ流下 している。

図 3-2 フルライス地域位置図

700 900

500

700

300 500

900 1100

1500

1500 1700

1300

1300 1100

900 1500

700 700

N E S W

緯距

(m ) 9635000 9640000 9645000 9650000 9655000

レゲス山

コレン山

フ ル ラ イ ス 山

テ ィ ガ 山

パ ブ ア ル 山 ル ム ッ ト 山

チ ェ メ 山

ムアラアマン

スマラコ ク タ フ ン 川

アマン川サンタン川

スバングレゴ

テ ス 湖 ル ボ ン 県

北 ル ボ ン 郡

南 ル ボ ン 郡

北 ブ ン ク ル 県 ラ イ ス 郡

トゥランララン

フ ル ラ イ ス 地 域

スバンアグン

ブ リ テ ィ ク チ ー ル 山

ブ リ テ ィ ブ サ ー ル 山

第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討

c. 地質および地質構造

フルライス地域およびその周辺は主として第四紀の火山岩類によって覆われてい る(図3-3)。第四紀火山岩類はルムット山やフルライス山、ブリティブサール山、

ブリティクチール山、コレン山などの山体を構成しており、完新世のパブアル黒曜 岩(PBO)、更新世のルムット安山岩(LMA)、パブス凝灰岩(PBT)、フルライス安山 岩(HLA)、ティガ安山岩(TGA)、コレン安山岩(KLA)、レカット安山岩(LKA)、レ サム安山岩(RSA)およびムバイ角礫岩に分類されている。

図3-3の範囲内の地表に露出する最も古い岩石は、北東部のチュグ安山岩(CGA)

と单部のチョゴン閃緑岩(CGD)であり、新三紀中新世の岩石と考えられている。ま た、クタフン川沿いには、沖積層(al)が広がっている。なお、本地域の基盤岩と して先新第三紀の堆積岩が地下に存在すると推定されている。しかし、この堆積岩 は、本地域およびその周辺には露出しておらず、現時点ではまだ確認されていない 地層である。

この地質図範囲の北西約8km に位置するタンバンサワ付近には中新世の花崗岩や 白亜紀の花崗閃緑岩が露出している。珪質岩が周辺に露出していること、更新世以 降の安山岩質マグマの活動が認められることなどから、これらのマグマ活動が本地 域及びその周辺における熱源と推定される。

フルライス地域およびその周辺では、8つの断層が推定されている(図3-3)。 北西-单東方向の断層 F1、F2、F3 および F5 は大スマトラ断層と密接に関連した断 層群と考えられる。北北東-单单西方向の断層 F4、单北方向の断層 F6、北東-单西 方向の断層 F7 および東北東-西单西方向の断層 F8 の伸びは比較的短い。

d.地熱徴候および変質帯

ルムット山からフルライス山を経てブリティブサールへと北西-单東方向に伸び る尾根の北側に温泉や噴気などの地熱徴候が分布している。フルライス山の山頂付 近には、スバンアグンの変質帯と噴気がある。また、フルライス山北側斜面のスバ ングレゴおよびブリティブサール山北斜面には噴気を伴う地獄が形成されている。

これらの噴気地の北側に位置する比較的標高の低い地点に温泉が湧出している。こ れらの噴気や温泉の性状については、次項で述べる。

図 3-3 フルライス地域地質図

KLA CGA MBB

RSA MBB CGA

TGA HLA

フルライス山 スバンアグン

スバングレゴ

チェメ山 スマラコ

プンドゥバダロ

RSA TGA

al SO4

HCO3

Cl-HCO3

HCO3

A B

F1

F8 F5 F3 F2

泥火山を伴う地獄地帯

LKA PBT LMA HLA

RSA TGA KLA PBO

MBB CGD

al

沖積層

パブアル黒曜岩 ルムット安山岩 パブス凝灰岩 フルライス安山岩 ティガ安山岩 コレン安山岩 レカット安山岩 レサム安山岩 ムバイ角礫岩 チョゴン閃緑岩

完新世更新世

第四紀

凡例 噴気

温泉 変質帯 崩壊構造 断層

B

A

断面位置

700 900

500

700

300 500

900 1100

1500

1500 1700

1300

1300 1100

900 1500

700 700

N E S W

経距 (m) 緯距

(m)

185000 190000 195000 200000 205000

9630000 9635000 9640000 9645000 9650000 9655000

レゲス山

コレン山

フ ル ラ イ ス 山

テ ィ ガ 山

パ ブ ア ル 山 ル ム ッ ト 山

チ ェ メ 山 ムアラアマン

スマラコ ク タ フ ン 川

アマン川サンタン川

スバングレゴ

スバンアグン

テ ス 湖

ル ボ ン 県

北 ル ボ ン 郡

南 ル ボ ン 郡

北 ブ ン ク ル 県

ラ イ ス 郡

フ ル ラ イ ス 地 域

LKA

PBT

LMA

RSA HLA

TGA

KLA

CGA

PBO MBB

CGD F2 F3

F4 F1

F6

F8

F5 F7 al

B

A

トゥランララン

ブ リ テ ィ ク チ ー ル 山 ブ リ テ ィ ブ サ ー ル 山

第3章 プロジェクトの内容および技術的側面の検討

e. 地熱流体の化学特性

温泉や噴気、地熱井から噴出する地熱流体の化学性状から、地熱流体の起源や温 度、流動を推測することができる。本地域では、地熱井の噴出実績がないことから、

温泉と噴気の化学成分既存データを元に、これらの検討を行った。

既存調査としては、PT. Pertamina が 1994 年に本地域の 16 カ所の温泉と2カ所の 噴気から試料を採取し(図 3-4)、分析を行っている(Budiardjo et al., 2001)。 また、JICA のインドネシア地熱マスタープラン調査において、温泉水と噴気がそれ ぞれ1試料ずつ採取されており(JICA, 2007)、これらの分析値を解析に用いた。温 泉・噴気の湧出温度は 40~98℃であり、比較的活発な地熱徴候である。

温泉水の化学性状は、单部の温泉が酸性で Cl 濃度の低い SO

4

型の蒸気混入型で、

北部の温泉が中性で Cl 濃度の高い Cl-HCO

3

~Cl 型(Cl 濃度~3,160mg/L)の蒸気加 熱~深部熱水混入型である(図 3-5、表3-3)。水の酸素同位体比・水素同位 体比の関係(図 3-6)から、本地域の地熱流体の起源は天水であり、Cl 濃度の高 い海水の寄与はないと判断され、北部の温泉水中の高い Cl 濃度は、高温で岩石と反 応した深部熱水の混入を示唆している。深部地熱流体は、Cl/HCO

3

濃度比分布図、

HCO

3

/SO

4

濃度比分布図、土壌ガス中の水銀濃度から、单部(スバンアグン)付近が地 下からの上昇域であり、北部に向かって流出していると考えられる。ただし、单部

(スバンアグン)付近には、Cl 濃度が 1,400mg/L とやや高い温泉水も湧出している ことから、一部の Cl 型深部熱水が地表近くまで上昇していると考えられる。

貯留層温度については、温泉や噴気の化学成分濃度比から、岩石-水平衡反応を 用いて計算によって求める手法が確立されている。本地域の温泉水の地化学温度か らは 200℃程度しか得られていないが(Na-K 温度;表3-3)、噴気の地化学温度か ら 250~280℃が計算されており(CO

2

-H

2

S-H

2

-CH

4

温度、CO

2

/Ar 温度;表3-3、表3

-4)、温泉水は流動の過程で伝導冷却されていると推測されることから、深部熱水 の貯留層温度は 250~280℃程度と考えられる。

地熱井から噴出する地熱流体の化学性状は、Cl 濃度=3,000mg/L 程度以上の中性・

Cl 型と想定される。分離熱水中には、冷却されると沈殿し還元ラインを目詰まりさ せるシリカ(SiO

2

)が多く含まれることから、高温で還元するなどの対策が望まれ る。蒸気中の非凝縮性ガス濃度については、参考となるデータがないため、近隣の ルムットバライ地域と同じ 1.0wt%と想定している。