第二節 工程に伴う儀礼
14 オワタマシ
〔能登北部〕オワタマシ(珠洲市)
〔加賀北部〕オワタマシ(大徳郷・金沢市・尾口村) おあらたまし(旭郷)
〔富山県〕オワタマシ
17『日本の民俗 石川』(pp.55-57)
ヤワタリイワイ 白峰村では、新家へ移ってからヤワタリイワイ(家渡り祝い)をす る。そのとき親類知人からフシギミマイ(普請見舞)に金品が贈られる。手伝った人 を招いて手厚くもてなし、酒食を供するが、にしんのこぶ巻きや生魚まで出して振る 舞う。金沢市西部では、オワタマシといい、オズシサマ(仏壇)を迎えて住職に読経 を頼み、祝う。
落成後、神棚・仏壇を新居に移し、僧侶を招き法要を行う。その行事をオワタマシと呼 ぶが加賀・能登とも同じ用語である。
真宗大谷派発行の『改訂 お内仏のお給仕と心得』(註 1)に『ご本尊並びに仏壇移徙い し(お わたまし)』 とあるように、仏教用語(真宗用語?)である。
新版 角川古語辞典(註 2)には
わたまし【渡座・移徏】名《「徏」は移るの意》貴人の転居をいう尊敬語。「殿
(との)
渡り」とも。「新しく家を造りて、―せられける夜」〔十訓六〕
浄土真宗信者の家では、最初に僧侶に依頼し、お厨子(仏壇)を仮住居から移し、次いで 神棚を移した。
(能登北部)珠洲・鳳至 珠洲市史
オワタマシ 新築の家に引越す、「オワタマシ(家移り)」を始めるが、真っ先に神棚、
ついで仏壇を入れる。これは、人間や家財道具の移動より、何よりも、神々や先祖が 最初に、新築の家に移って戴く心情の発露である。具体的には、午前に神主を、午後 に僧侶を招き、祝詞をあげ・読経して「神様のオワタマシ」、「仏様のオワタマシ」を する。ワタマシとは、「渡る」の古い敬語である。施工主が、分家・新宅であれば、
大工棟梁は、神棚を製作して寄贈するのが慣行であった。(珠洲市史 第五巻=資料 編 近・現代 p.751)
(加賀北部)河北・金沢・石川 大徳郷史(現・金沢市)
その後、屋根がふかれ、コウマイ(木舞)がかかれ(組まれ)壁がぬられ、いよい よ内の造作や建具、たたみも入ってシッタイ(出来上り)すれば家や移うつりし、おずしさ ま(仏壇)も迎えてオワタマシ(渡座=僧を招いてお勤めし、祝うこと)する。(大 徳郷史 p.730)
金沢市史
おわたまし 戸障子・畳が入ると最初にオズシ(仏壇)を迎え入れる。新居披露を兼 ねて、僧侶・親類を招いて 仏 事おわたましをおこない、先祖への感謝とお祝いするのであった。
(金沢市史 資料編 14 民俗 p.218)
旭郷土誌(現・白山市)
家のうつり 新築の家屋にうつるのを「家うつり」といいこれを記念し、披露する意 味で法坐を催す。これを「おあらたまし」と言って今日でもそれが続けられている。
(旭郷土誌 pp.736-737)
「わたまし」は転居、転宅、神輿の渡御の事であるが「おあたらまし」は「おわたまし」
の誤用であろう。
尾口村史(現・白山市)
オワタマシ 新築の家に引越すヤウツリ(家移り)を始めるが、何物もさておき、真 先に入れるのが仏壇である。次に仏壇の中に仏様と先祖の位牌を入れる。村の坊様を 招き、読経の後、家族一同水入らずで、仏前で新築祝の御馳走をいただく。この儀礼 を「オワタマシ」とよぶ。儀礼の意味は、新築の御恩を宗祖や仏に感謝する事より、
亡き先祖と共に新築を喜びあう性格が強いように思える。「ワタマシ」は「渡る」の 古い敬語であり、真宗王国の一面をうかがわせる儀礼である。(尾口村史 p.640)
白峰村史上巻(現・白山市)
ヤワタリイワイ いよいよ家ができ上がって新家に引越しすると間もなく、ヤワタリ イワイ(家移り祝)をする。これは先にフシギ見舞をくれた人や、手伝いに出てくれ た人びとを招いて料理屋料理、手料理などで酒食を饗応する。この御馳走にもニシン のコブマキから生ざかなまである。最近では恩講と一緒にする者もある。(白峰村史 上巻 p.416)
富山県史(民俗編 pp.61-64)
富山民俗の位相(pp.62-65) 二書は同文である。
オワタマシ 家移りをすると僧侶を招いてお勤めをしてもらう。これをオワタマシと いう。分家の場合は、親類などからヤワタリミマイといって鍋釜などの実用品を贈る。
檀那寺からもミマイがくる。
建築過程の折目折目に親類や村人からミマイの品は、現在は赤飯・酒・まんじゅう などの程度であるが昔はかなり自由で、バラエティに富んでいた。よく昔の普請帳が 残っていて、その具体相を知ることができる。一例として砺波市太田お お た、金子宗右衛門
家の享和三年(一八〇三)の「大工木引等附込覚帳」に記されたミマイの品をみよう。
家渡り〈酒・とうふ・やきとうふ・大根・竹の子・こつくら(ブリの稚魚)
(註 1) 菊池祐恭著 真宗大谷派宗務所出版部(東本願寺出版部)発行 1966 第四章 年中行事 ご 本尊並びに仏壇移徏 p.84
(註 2) 久松潜一・佐藤謙三編 角川書店発行 1979 p.1233
筆者の経験
筆者は二度屋移りをした。一度目は結婚して住んでいた県営住宅から、新築した自宅へ。
真宗門徒の分家として、母から仏壇を贈られ、僧侶を呼びそのオワタマシを行った。
二度目は 23 年経過し改築する際、僧侶を呼び「お 精しょう」を抜き、仏壇は仏壇屋に預けた。
5 ヶ月後、新居が完成し仏壇安置の際、僧侶を呼び法要を行った。特に吉日を選ばず、日 曜に行った。家族全員が休める日であったとの理由である。