1. はじめに
2.3 VPCC の輸送コスト低減に向けた課題
2.3.3 インドネシア東部島しょ部の LNG 輸送(VPCC)の問題点及び今後の課題
① LNG 輸送コストに関連する政策背景
前項までの通り、VPCC の最適な輸送ルートの試算の結果、輸送コストは Bontang LNG 出荷基地からハブ基地であるスラウェシ島の Makassar 及び Manado までの一次輸送で 0.26$/mmbtu、ハブ基地を中心とした二次輸送で平均 0.75~1.03$/mmbtu、合計で 1.01
~1.29$/mmbtu となった。
現在インドネシア政府が設定している国内発電用のガス価格(発電所プラントゲート 渡し)についてはエネルギー鉱物資源(ESDM)大臣令 No.45/2017 にて ICP×14.5%/mmbtu とベンチマークが定められている。
ESDM 大臣令 No.45/2017 で改訂される前は、ESDM 大臣令 No.11/2017 で、国内発電用の LNG の FOB 価格のベンチマークとして ICP×11.5%(USD/mmbtu)が定められていた背景 から、LNG(ガス)の中下流コストには ICP×3%(USD/mmbtu)のベンチマークをインド ネシア政府が設定していると推測できる。ICP は、Indonesia Crude Oil Price の略称で インドネシア公式原油価格を表している。
ICP の前提を仮に 60 $/bbl とした場合、インドネシア政府が求めている中下流コスト は USD1.8/mmbtu であると想定され、輸送コストに加え再ガス化コストも含まれる。前項 までの通り、今回スタディの対象である島しょ部では、最適化を図った輸送コストだけ でも 1.01~1.29$/mmbtu という結果となった。インドネシア政府が求めている上記水準 を達成するのは、島しょ部のような少量のガス需要に対して実現は極めて難しいと言え るが、少なくとも以下課題はコスト低減に向けた更なる検討事項と考えている。
② 検討課題
本試算の結果を踏まえ、今後インドネシアの島しょ部においてさらなる輸送コストの 低減及び最適化を図るにあたり、対応すべき以下 3 つの課題が挙げられる。
CAPEX 及び OPEX の低減
今回の最適な輸送ルートの試算では、CAPEX を構成する LNG 船の本体価格に新造船を ベースとした価格(7,500m3 の LNG 船で 40 百万ドル)を用いたが、中古船の使用を前提 とすることで、更に CAPEX を低減させる余地があると考えられる。然しながら、現時点 VPCC の必要 LNG 船の隻数全て満たすことはできないため、優先順位を考える必要がある。
インドネシアの運輸相規定(05 年第 71 号)によりカボタージュの完全導入が決定さ れ、現在インドネシアにおける国内 LNG 海上輸送事業は、インドネシア人船員が配乗す るインドネシア国船籍の船で、イ国法人が 51%以上出資する会社が保有する船でされな ければならないと定められている。船費は船舶を維持管理するために必要な直接船費と、
金利及び償却費等を意味する間接船費に分けられるが、今回試算の間接船費を構成する 金利については、インドネシア法人がルピア建て借入を行うという前提に基づき 7%の 調達金利を用いているが、外国法人がドル建てで調達を行う場合には調達金利を更に低 くすることも可能と考えられる。
インドネシアの島しょ部のインフラ開発のためには、資金調達コストの引き下げのた
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めにも、投資規制分野(ネガティブリスト)を見直し、国内 LNG 海上輸送事業における 外資の規制上限比率を引き上げる等規制の緩和が必要であると考える。
加えて、ESDM 大臣令 No.45/2017 では、ICP×14.5%/mmbtu(発電所プラントゲート渡 し)という水準で LNG(ガス)の調達ができなかった場合には別途大臣が方針を示すと 記載されているが、上記の対応策を講じた上でも当該水準の達成が難しい場合には、島 しょ部でのガスインフラ開発を実現の為には一定のコストがかかるという認識の下、何 らかの政府、規制当局による支援(ベンチマークの見直し等)が必要と考える。
港費の低減
今回試算では単位輸送コストに占める港費の割合が比較的大きいということが分かっ た。港費は寄港回数に比例して増加する要素であることから、ハブ&スポーク方式をミ ルクラン方式に組み合わせる等により寄港回数を減らすことが解決策として考えられる。
また、港費は船舶関係費用(トン税、入港料、曳船料(タグボート)、水先料、綱取放 料、警戒艇料等)とターミナル施設費用に分かれるが、曳船料は、船型が一定規模以下 であれば、別途調査は必要であるものの、バウスラスター(出港・接岸作業のための旋 回や変進を行う装置)を LNG 船に搭載することにより削減余地があると考えられる。
MIGAS ワーキングへの報告会実施の際、MIGAS から港費前提額(前項までの輸送コスト 計算では、全て 10,000USD/隻/港をベースに計算)を変化させた場合の感度チェックを 試して欲しいという要望があったことから、VPCC 条件下の港費前提額を変化させた幾つ かのケースの輸送コストを下表に示す。LNG 船及び ISO のどちらの輸送方式にも港費減 額の効果が表れている。「2.2.2 VPCC の輸送コスト試算結果について」の図表 29 の通り、
全体輸送コストに占める港費の比率は、LNG 船の平均が 15.4%、ISO の平均が 28.4%とな っていることから、同結果及び下表の通り、ISO を用いた輸送方式の輸送コストの方が、
港費減額の効果がより出やすいことが分かる。
図表 42 港費前提額の変更による感度チェック(LNG 船)
輸送方式 Cluster エリア 港費(USD/隻/港)
2,500 5,000 7,500 10,000
LNG 船
Ⅰ
Sorong 0.98 1.01 1.04 1.07 Jayapura 1.36 1.40 1.45 1.50 Timika 1.18 1.23 1.27 1.32
Ⅱ
Manado 2.74 2.77 2.80 2.83 Maba 0.81 0.88 0.94 1.00
Ⅲ
Lombok 1.10 1.18 1.26 1.34 Kupang 1.43 1.48 1.52 1.57 Pomala 0.87 0.92 0.96 1.01 平均 1.31 1.36 1.41 1.46
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図表 43 港費前提額の変更による感度チェック(ISO)
輸送方式 Cluster エリア 港費(USD/隻/港)
2,500 5,000 7,500 10,000
ISO
Ⅰ
Sorong 2.11 2.25 2.40 2.54 Jayapura 2.41 2.60 2.80 3.00 Timika 1.94 2.13 2.33 2.52
Ⅱ Maba 1.79 1.96 2.13 2.30 Ambon 1.52 1.67 1.82 1.97
Ⅲ Kupang 3.35 3.62 3.90 4.17 Pomala 2.20 2.43 2.67 2.90 平均 2.19 2.38 2.58 2.77
複数の需要地をミルクラン方式によって LNG 供給する際は、寄港回数の増加は避けら れないため、港費そのものを低減、あるいは削減(免除)することは、効果的な手段と 言える。
開発ロードマップの策定
今回の VPCC の検証においては、全ての需要地へ LNG を配給するモデルに対して、輸送 方法の変更が輸送コストにどのような影響を及ぼすのか明らかにできた。しかしながら、
実現には、①需要地(電源開発)の完成年度、②入船に必要な港湾設備の整備状況、③ 各島々における LNG の必要性、等の観点で、優先順位や事業収益をコントロールしなが ら実現可能性の高い計画(開発ロードマップ)に仕上げていくことが重要である。
また、小型 LNG 船の傭船可能性や、LNG 受入施設の実現可能性など、開発ロードマッ プを描くまでには、調査すべきことが多い。今回の調査では、机上検討の範囲ではある が、需要地の大きいところへは可能な限りハブ&スポークで輸送し、他の小需要地は、
効率的にミルクラン方式を採用する方がコスト低減できると提言した。実用時にはこの ステップを参考にしつつ、東部島しょ部への LNG 配給順序をどのように考えていくのか、
目的や意義の観点からロードマップを描き、インドネシア東部の LNG 配給インフラ開発 を促進するための手段として、VPCC の実現に向けた絵姿を示されることを期待する。
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