第7章 実用化システムの概要
7.2. AUV「うらしま」
我々は,海洋中を安定して航行し,各種の観測データを取得するためのプラットフォームとして,長 距離航行型の無人探査機の開発を行った。これまでは,深海において長距離の海底探査を行う観測 システムとして深海曳航体(ディープトウ,Fig.7-1)が用いられてきた。これは,水上船舶から動力線と 信号線(電線或いは光ファイバ)を内包したワイヤケーブルの先に吊下した曳航体と呼ばれるフレーム 構造体を曳航し,このフレームに搭載したカメラシステム,サイドスキャンソーナー,サブボトムプロファ イラ等の観測装置を用いて海底を観測するものである。深海曳航体システムの特徴は,1)水上船舶か ら電力を供給するため,観測時間の制限が無い,2)フレームを吊り下げるだけなので,比較的コストが 安い,ということが挙げられる。このため,現在も頻繁に使用されている。一方で,深海曳航体システム
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は,1)ワイヤーロープで水上船舶と繋がっているので,船舶の動揺が曳航体に伝わる,2)定点保持は 基本的にできない,3)海底付近を状況を確認しながら曳航するため,中層を同一深度で曳航すること が難しい,という問題点がある。このため,海中を安定した姿勢で航行可能な,自律航行を行う無人探 査機を開発することとなった。本システムは,自律型巡航探査機「うらしま」と名づけられた(Fig.7-2)。
「うらしま」は,自律航行を行うため,ケーブルが無く,水上船舶の動揺の影響を受けないため,非常に 安定した姿勢で,等深度航走や等高度航走が可能である。
Fig.7-1. Deep-tow system. (4K camera system)
Fig.7-2. AUV “URASHIMA”
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試験を繰り返し,2005 2月に,「うらしま」は動力源として燃料電池を使用して,317 km
達成した。これは,燃料電池を動力源とする方式の AUV における世界最長連続航走記録である。現 在は,リチウムイオン二次電池に再換装し,自律航走のためのプログラムの開発や,次期AUV開発の ための試験機として運用を行っている。この AUV は母船として支援母船「よこすか」を用い,航走する 海域まで母船で搬送し,航走海域において母船から着水・揚収する。動力源をリチウムイオン二次電 池とした場合の,「うらしま」の内部設備の配置を Fig.7-3 に示す。また,Table7-1 は,「うらしま」の主要 目を示す。様々な音響機器が,「うらしま」に搭載されており,これらの主要目をTable7-2に示す。
船体は,長距離巡航用に流体抵抗を減らすため,魚雷型をしている。Fig.7-3は,動力源としてリチウ ムイオン二次電池を搭載した場合の配置図である。船体中央に主耐圧容器を搭載し,この中に「うらし ま」の制御部を格納している。姿勢制御は,船底に装備された前後方向に錘を移動させる方式のツリム 調整装置と,船尾の垂直方向舵で行う。また,上昇下降を円滑に行うために,垂直スラスタとともに,可 変バラストタンク(VBT: Variable ballast tank)を主耐圧容器の前部に搭載している。
音響関係の機器は,船首部分に音響ホーミングソーナー(Acoustic Homing SONAR)及び前方監視 ソーナー(Obstacle avoidance SONAR)を装備し,船底には,進路・速度検出用のドップラソーナーを 搭載している。さらに,その後方には,海底からの高度を検出する高度ソーナーが装備されている。ま た,船首付近底部には,海底面マッピング用のサイドスキャンソーナーを装備しており,「うらしま」が海 底付近を一定高度で安定して航走できることを生かした高分解能の観測が可能となっている。
音響ホーミングソーナーは,自律航行モードにおいて,海底に幾つか設置したトランスポンダをウェ イポイントとしてこれをたどっていくような航行を行う時に使用する。「うらしま」には,高精度リングレーザ ージャイロが搭載されており,これを用いて進路を計測しながら航行するが,ジャイロシステムは時間と ともに誤差が蓄積されていくものであるので,その補正用として,トランスポンダを使用する。周波数は
7 kHz付近を使用しているので,音波の到達距離は,約 10 km程度である。このトランスポンダの応答
範囲内に入ると,「うらしま」はトランスポンダまでの方位・距離を計測し,位置補正を行う。あらかじめ設 定したトランスポンダからの距離以内に到達したと判定すると,次のウェイポイントにターゲットを変更し て,航行を続ける。
前方監視ソーナーは,音響レンズを用いた音響TVシステムを採用した。航行中の前方に障害物が あった時に検出,回避をするために使用する。周波数は 400,500,600 kHzである。
水中音響データ伝送システムは,船体の背部に装備されており,船首側にダウンリンクの受波器,船
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尾に近い所にアップリンクの送波器を取り付けている。送受信の干渉をできるだけ排するために,送受 波器間の距離を大きく取るようにしている。更に,音響的に船体の雑音が最も少ない船首付近に受波 器の側を装備するようにした。
「うらしま」には次の4つのオペレーションモードがある。(Fig.7-4)
1) 光ファイバによる遠隔制御モード(UROV モード: Un-tethered ROV モード)
細径光ファイバにより母船とAUVを接続し,母船上から遠隔操縦を行うモードである。光ファイ Fig.7-3. Equipment layout of the AUV “URASHIMA”.
Table7-1. Main specifications of “URASHIMA”.
Length 9.7 m
Height 2.4 m
Width 2.55 m
Weight in air 7 ton Operation depth 3,500 m
Speed 3 kt (cruising speed) 4 kt (maximum)
Cruising range 100 km (with Lithium ion secondary battery) 300 km (with fuel cell)
Table7-2. Acoustic equipment on “URAHSIMA”.
Sensor name Frequency Operation range
Obstacle avoidance SONAR 400, 500, 600 kHz 100 m Acoustic lense
Homing SONAR 5.8, 6.6 kHz
6.9, 7.2, 7.5 kHz 10,000 m SSBL Side scan SONAR 190 – 210 kHz 500 m (each side) Chirp pulse
Dopplar SONAR 307 kHz 200 m
Altitude meter 123 kHz 100 m
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使用する。母船上,AUVそれぞれにこのケーブルを巻いたスプーラを装備し,AUVの移動或い は潮の流れ等により,ケーブルを巻きだすことにより,ケーブル自体への張力の付加を抑えて,
通信を行う。光ファイバで接続されていることにより,UROV モードでのオペレーション時は,極 めて高速のデータリンクが形成できる。このため,AUV で取得する画像は動画を伝送でき,コマ ンドもリアルタイムで伝送可能である。本モードは,AUV 投入時の動作確認等,母船の近傍或 いは深度の浅い時に使用する。また,潜航時もケーブルを出し切るまでは UROV モードでの運 用が可能である。
2) 音響遠隔制御モード
母船と AUV の間にケーブルは無く,音響信号を用いた無線遠隔操縦モードである。母船が AUV の直上付近にいる場合,及び直上付近を追走する場合に本モードでの運用が可能であ る。
3) 自律航行モード
「うらしま」本来の制御モードであり,母船からの制御は無く,予めプログラムされたシナリオに 基づき,航行,観測を行うモードである。シナリオに従っての航走中,障害物があった場合は避
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ける等,AUVの内部の制御で航行を続けることが可能となっている。本モードでの運用時には,
必要に応じてアップリンクの送信を行わせておくことが可能となっているので,母船がAUVの直 上付近を併走する場合には,母船上でAUVの状況をモニタしながら航行させることが可能であ る。
4) 電波による遠隔制御モード(揚収時)
VHF (Very high frequency)の無線による遠隔制御モードである。電波は海中では使用できな
いため,主に揚収時等,AUVが海面に浮上した後,母船が AUVを捕まえるまでの間の制御を 行うためのモードである。
音響データ伝送システムは,2)の音響遠隔制御モードにおける制御,および3)の自律モードにおけ るモニタリングに使用する目的で開発された。更に,自律モードで航走中に,シナリオを入れ替える等 のオーバーライドも可能としている。この音響データ伝送システムの主要目を Table7-3に示す。本シス テムの周波数はFig.7-5のように割り当てられている。図中の音響航法(Acoustic navigation)は,「うらし ま」の音響ホーミングソーナー及び母船「よこすか」の音響航法装置で使用する周波数帯域である。ま た,Sea Beam は,母船「よこすか」に装備されているマルチナロービーム音響測深装置が使用する周 波数帯域である。その他の,「うらしま」搭載音響機器は,使用周波数が高いので,本図からは省略し ている。通信距離を考慮し,また,他の音響機器と干渉しないように本システムの使用周波数帯域を定 めた。