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第 3 章 研究方法

3.3 データ収集

研究材料は、L1及びL2ライティングの思考発話プロトコル・データ、L1及びL2プロダ クト、ライティングの計画メモ、ライティング方略使用と動機づけに関する事前アンケー ト(Mu & Carrington, 2007; 田中・廣森, 2007に基づき作成した5件法90項目、付録7参照)、

インタビュー、L2能力診断テスト(CELT)の結果である。アンケートのライティング方略 に関する70項目からは、本研究で扱うメタ認知方略(計画、評価)や社会的/情意的方略な どに関する参加者の考え方が読み取れる。また、英語学習の動機づけに関する20項目から は、参加者の内発的動機づけ、外発的動機づけについての情報を得ることができる(内発 的動機づけ、外発的動機づけについては、第4章、p.125を参照のこと)。

データ収集は3回のセッションに分けて行った。まず、第1回セッションを一斉実施し、

L2能力診断テスト(CELT)と、ライティング方略と動機づけに関するアンケート、思考発 話法の説明と練習(伏字計算と簡単な英作文)を行った。数日後の第 2 回セッションは個 別に実施し、思考発話法によるL1あるいはL2ライティングと補足インタビューを行った。

L1及びL2ライティング課題には、賛成、反対の立場を決めて意見を述べる論証文を用い た。平成25年度から実施される高等学校の新設科目である「英語表現Ⅰ(Ⅱ)」の目標は、

「英語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとともに,

事実や意見などを多様な観点から考察し,論理の展開や表現の方法を工夫しながら伝える 能力を養う(伸ばす)(文部科学省, 2010)」であり、論証文を書く能力の育成は、特に重 視されていると考えられることから、論証文を選択した。

第2回セッションの数日後、第 3回セッションを第2回セッションと同じ手順で実施し た。ただし、第2回セッションでL1ライティングを終了した参加者にはL2ライティング を、L2ライティングを終了した参加者にはL1ライティングを行ってもらった。参加者の半 数がL1 ライティングから、残り半数がL2 ライティングから行うようにして実施順序のバ ランスをとった。

以下では、思考発話法によるライティングとその直後のインタビューについて、手順の 詳細について述べる。

3.3.1 思考発話法によるライティング

ここでは、思考発話法によるライティンの手順について述べる。

まず、第 1 回セッションにおいて、思考発話法の説明と練習を行った。簡単な掛け算で 思考発話法の実験者による実演を見てもらった後、Wong (2005) と海保・原田 (1993) に基 づき、以下のように思考発話法について説明した。説明で最も強調したのは、参加者の考 えのプロセスの変容を避けるため、分かりやすく語ったり、説明したりせず、考えている ことをそのまま声に出して欲しいという点である。

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1.頭の中の様子を実況中継してください。作文の過程を明らかにすることが目的ですので、

頭に浮かんだことを全て躊躇せず声に出してください。

2.なるべく間を空けずに話し続けてください。少なくとも 5 秒に一回は話してください。

「何も考えが浮かばない」でも構いません。8 秒以上の沈黙には、「今何を考えています か。」とお聞きします。

3.聞き取れるように話してください。声が小さくならないよう気をつけてください。

4.簡潔に話してください。完全な文で話そうとしたり言葉を選んだりしないでください。

5.解説したり、わかりやすく言い直そうとしたりしないでください。

6.過ぎたことを詳細に述べようとせず、今考えていることに集中してください。

7.英語、日本語どちらで話されても結構です。または英語と日本語を混ぜて話されても構 いません。

8.実験者をいないものと思い、存在を気にしないようにしてください。

続いて参加者に、以下の伏字計算と、短いL2エッセイを思考発話法で書く練習をしても らった。

DONALD +GERALD

ROBERT

「D=5のときに、アルファベットの各文字に0から9の文字を一つずつあてはめなさい。」

(海保・原田1993, p.89)

数日後の第2回セッションにおいて、思考発話法の簡単な練習後、L1またはL2ライティ ングを行った。ライティング中は、手元の録画と、IC レコーダーでの録音をした。厳密な 時間制限は設けずに30分を目安とし、30分を超えても中断せず、参加者が書き終えたと判 断するまで実験を続行した。このような時間設定は、Sasaki (2000)、Hirose (2005) に準じた ものである。Sasaki (2000) は、同様のタスクで学生の8割以上が30分以内にライティング を終えたことと、パイロット・スタディより、ライティング後のビデオ録画を使用したイ ンタビューのセッションが 2 時間を超えると参加者が疲れてきちんと考えられなくなる可 能性があると分かったことから、ライティング後のセッションを 2 時間以内に収められる ように約30分の時間を設定した(p.268)。本研究で厳密な時間制限を行わなかった根拠は、

制限時間を設けると、例えば、「計画」や「修正」が少なくなるなど、ライティング・プロ セスが抑制される可能性があるというWang & Wen (2002) による指摘である(p.244)。ま た、Kobayashi & Rinnert (2008) は、参加者が自分の最高のライティング能力を発揮でき るように、時間制限なしでライティング実験を行い、EFL 学生のライティング平均時間が

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L1、L2共に32 分台であった(pp.14-15)。以上の先行研究より、30 分目安の時間制限な

しという時間設定が妥当であると判断した。実際の本研究の参加者全員のライティングの 平均時間は、L1では29分10秒、L2では27分53秒で、1時間を超えた参加者はいなか った。

字数・語数制限も設定しなかった。ただし、L2ライティングについては、150語から300 語程度を目安として欲しいと伝え、150語程度の英文原稿を見せて、どの程度の量を書くこ とを期待されているかを示した。語彙も評価の対象であること、辞書の英文をそのまま使 用される可能性があることを考慮して、辞書の使用は認めなかった。修正の痕跡を残すた め、ボールペンを使用してもらった。ライティング用紙数枚の他に小さめの用紙も準備し ておき、計画などに使用してもよいし、使用しなくてもよいこと、メモはL1、L2どちらで 書いても構わないことを説明した。

課題は、Manchón et al. (2005, p.193) の論証文課題に変更を加えて使用した。以下が、実 際に使用した課題のプロンプトである。

L1プロンプト:

「教育の成功の要因としては、学校教育課程の内容や質よりも家庭の役割や子供の頃のし つけの方が大きい。」あなたは、この考えに賛成ですか、それとも反対ですか。あなたの考 えを日本語で書いてください。

L2プロンプト:

School failure is more a matter of teachers’ teaching and guidance than that of the attitude, effort, and motivation of the students. Do you agree or disagree? State your opinion in English.

「学校の落第は、生徒(学生)の態度、努力、動機づけが原因の問題というよりも、教師 の指導の問題である。」あなたは、この考えに賛成ですか、それとも反対ですか。あなたの 考えを英語で書いてください。

課題の選定においては、課題がかける認知負荷と、参加者のトピックへの馴染み深さを 考慮した。即ち、全ての参加者に馴染みのある教育分野のトピックを選び、より認知活動 を要求する論証文とした。ただし、学生グループのL2能力に配慮し、認知負荷がプロトコ ルの産出を妨げないよう、L2プロンプトにはL1の訳をつけ、語句のヒントが得られるよう にした。また、最初に書いたものが後のライティングに直接影響しないよう、L1とL2は異 なるトピックで、半数の参加者がL1ライティングから、残りの半数が L2ライティングか ら行うようにした。それと同時に、プロダクトの質と量に大きな差が生じないよう、L1 と L2は類似のトピックとした。

実験者は、書き出しまでにかかった時間、ライティング中のポーズ時間、ライティング

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完了時間を計測すると共に、参加者の様子を細かく観察し、記録した。8秒以上の沈黙には

「今、何を考えていますか。」と問うた。3 秒以上のポーズについては、ライティング直後 に、録画映像を使用し、インタビューして何を考えていたのかを確認した。インタビュー では、ライティング背景についても調査した。インタビュー方法について、次の項で述べ る。

3.3.2 インタビュー

ライティング直後にインタビューし、録画映像の助けも借りて、思考発話プロトコル・

データを補足した。インタビューでは、発話されなかったライティング方略の使用や、特 定のライティング方略を使用した理由について確認した。また、ライティングの背景を知 るため、ライティング経験についても質問した。Hirose (2005, p.243) やBeare (2000, p.102) の アンケートも参考にし、一部インタビューに取り入れた。本研究が発話データの補足にア ンケートではなくインタビューを採用したのは、直前に行ったライティングについて、観 察記録やビデオ映像で確認しながら、ライティング中の実際のふるまいについて詳しく調 査することができるからである。インタビューの主な質問事項については、付録 8 を参照 のこと。