第 3 章 代数 33
3.16 表計算ソフトで数列の和
コンピュータが得意なことは,四則演算(加減乗除)の 繰り返しである。だから, どんな数学の問題も, 四則演 算の手順に置き換えることができれば, 計算機を活用で きる。その好例は数列の和である。
例3.27 以下の数列の和: 1
0!+ 1 1!+ 1
2!+ 1
3!+· · ·+ 1
n! +· · · (3.97)
3.16 表計算ソフトで数列の和 45 を表計算ソフトで計算してみよう。
先ほどのスプレッドシートは保存せずに, まず, 新た にスプレッドシートを立ち上げる。そのやり方がわから ない人は, いったん表計算ソフトを終了し, もういちど 起動すればよい。次に, スプレッドシートのセル(A1, B1, C1, A2, B2)に以下のように入力してみよ:
A B C
1 k 1/k! sum
2 0 1
3
ここで第1行(A1, B1, C1)に入れた内容は, 単なる メモである。
第A列(A2, A3, A4, ...)には,数列の項番号k, すな わち0,1,2,3,· · · が入る。A2にはその最初の数(0)を 入れた。A3以降には, 1,2,3,· · · と入れたいが, ひとつ ずつ「1」「2」「3」...と打ち込むのは面倒である(とい うかバカらしい)。そこで,セルA3には,「=A2+1」と 入れてみよう。すると,そこには「1」という数が表れる だろう。これはひとつ上のセルA2の値に1を足した値 を計算機が自動的に計算してくれたのだ。では, このセ ルA3を「コピー」し, セルA4からセルA10くらいま で「ペースト」してみよう(コピーとペーストのやり方 がわからない人は, ネットで「エクセル コピー ペース ト」で検索!)。このとき, セルの1つずつにペーストし ていく人がいるが,手間がかかって仕方がない(10個程 度のセルならできなくもないが,後で100個以上のセル にコピーペーストするような場面も出てくる)。マウス ドラッグによって,セルA4からセルA12までを一気に 選び, そこにペーストすれば, 一気にそれらのセルに式 がペーストされる。
すると,以下のようになるはずだ:
A B C
1 k 1/k! sum
2 0 1
3 1
4 2
5 3
... ... ... ... 12 10
先ほどセルB2に入れた「1」は,数列の初項(1/0!)で ある。我々は, セルB3には1/1!が入り, セルB4には 1/2!が入り, ...というふうにしたいが, これを実現する には,まずセルB3に,「=B2/A3」と入れる。この式に
よって,セルB3には,ひとつ上のセルB2の値(つまり 1) をひとつ左のセルA3の値(今の項番号, つまり1) で割った値が入ることになる。このセルB3をコピー し,セルB4からセルB12くらいまでペーストしてみよ う*6:
A B C
1 k 1/k! sum
2 0 1
3 1 1
4 2 0.5
5 3 0.1666· · · ... ... ... ...
12 10 0.000
これで項番号kの階乗の逆数(1/k!)が第B列に並んだ。
よくある質問50 セルB12が変です! 2.0877E-009って出 てます。... ソフトや設定によってはそうなることがありま す。これはエラーではありません。これは, 2.0877×10−9,す なわち, 0.0000000020877を意味しています。ほとんど0で すね。このように,計算機では, 10のなんとか乗を,「Eなん とか」と表示するのです。
あとは, 第B列の値を足し算すればいい。ここでは, 第C列に部分和(途中までの和)の値が表示されるよう にしよう。まずセルC2に「=B2」と入れる。これは第 1項だけの部分和である。次に,セルC3に「=C2+B3」 と入れよう。これをコピーし,セルC4からセルC12く らいまでペーストしてみると,
A B C
1 k 1/k! sum
2 0 1 1
3 1 1 2
4 2 0.5 2.5
5 3 0.1666· · · 2.6666· · · ... ... ... ... 12 10 0.000 2.71828· · ·
となる。セルC12には,式(3.97)でのn= 10までの和 が表示される。ここで出てきた2.71828· · · は,実は,式 (1.44)で学んだネイピア数なのだ! (例おわり)
この例でわかるように, 表計算ソフトは, 個々のセル の計算機能だけでなく, セルどうしで値を参照しあう機
*6小数点以下の表示桁は,「書式」→「セル」→「小数点以下の 桁」などで調整できる(LibreOfficeの場合)。
能を活用することで, 大量の数からなる複雑な計算を, 容易に処理できる。そこが電卓との大きな違いである。
と こ ろ で, 上 の 例 で, 例 え ば セ ル C3 に 入 っ た
「=C2+B3」という数式は, そのままセルC4にコピー
ペーストすると,自動的に「=C3+B4」という数式にな る。このことに疑問を持った人もいるのではないか? 実 はこれは 相対参照 という機能である。これは「絶対参 照」という機能とペアで, 表計算ソフトの大事な機能で ある(詳しく知りたい人は,「相対参照 絶対参照」でネッ ト検索!)。
もうひとつ注意。君が何かの作業を表計算ソフトの スプレッドシートでやるとき, どこのセルにどういう値 (や計算式)を与えるかは,君が自由に決めればよい。例 えば上の例では,第1行にメモを入れ, 第2行に項番号 や数列の最初(初項)を入れたが,もし「第1行は空白 にしておきたいな」と思えば,第2行や第3行から始め てもよい。セルどうしの参照に関する位置関係さえ正し いならば, スプレッドシートのどこで仕事をしてもOK である。
● 問75 以下の数列の和を考える:
∑n k=1
1 k2 = 1
12 + 1 22 + 1
32 + 1
42 +· · ·+ 1
n2 (3.98) なお,この数列の和は,n→ ∞のときπ2/6 = 1.64493...
に収束することが知られている*7。君の学籍番号の下3 桁をn とし(例えば学籍番号が201610987 ならn = 987), 式(3.98)を表計算ソフトで計算して, 小数第7位 まで報告せよ。
ヒント: 例3.27を参考にして, まず第A列に1から nまでの整数を並べる。これが項番号kである(前例と 違って今回はkが1から始まっていることに注意せよ)。 次に,第B列に, 1/k2に相当する計算式を入力する。例 えばセルB2に, 「=1/(A2*A2)」と入れればよい。そ れをコピーし,セルB3から下の方まで(第A列のnの 値が入っている行まで)の範囲にペーストする(ペース ト先の全体をマウスドラッグで一気に選んで, ペースト すること。でないと大変だよ!)。最後に(もういちど例 3.27を参考にして)それらを足せばよい。
よくある間違い13 上のヒントの操作で,カッコ( )を忘れ て「=1/A2*A2」と入れてしまう... その書き方では,まず1
*7その証明には「フーリエ級数」というものを使う。秋学期の「基
礎数学II」で学ぶ。
をA2で割り,その後にA2を掛けるという順序で計算されて しまいます。利用者が望むとおりの順序で計算機が演算をし てくれない,というのは大変よくあるトラブルの原因です。そ れを避けるために,演算順序を明示するためのカッコはできる だけ丁寧につけましょう。
よくある質問51 「=1/(A2*A2)」のかわりに「=1/A2ˆ2」 ではダメですか? ... よく知っていますね。実際,それでも結 果は同じになります。多くの場合,計算機では累乗をˆで表し ますから, ˆ2で「2乗」を表すことができます。ただし,これ は気をつけて使って下さい。ソフトウェアによっては,累乗 をˆで表さないこともあります。また,試しにどこかのセルで,
「=−3ˆ2」と入れてみてください。−9になって欲しいのに, 9になっちゃうでしょ? これは,表計算ソフトが,累乗より負 号(−)を優先する仕様になっており, (−3)2 を計算したから です。こういう微妙な仕様の違いは,複数のソフトウェアを併 用したり,数学本来の書式での数式と較べたりするときに,ミ スの原因になります。そして,こういうトラブルは,発見しに くいのです。乗算記号*はどのソフトでも共通ですし,念のた めにカッコで演算順序を明示すれば,トラブルは起きにくくな ります(こういうふうに,どこに出しても同じように通用する ことを 可搬性 といいます)。これが4乗とか5乗なら*で書く のは躊躇しますが, 2乗くらいなら*で十分です。
よくある質問52 コピーペーストの方法がわからずひとつず つ打っていったら全然終わりませんでした。パソコンの使い 方から教えてほしいです。... 「教えてもらう」ことを待って いてはダメです。質問に来てください。
演習問題
演習問題 7 楽器の音階について考えよう。音階, すな わち音の高さは,音の周波数(振動数;単位時間あたりに 空気が何回振動するか)で決まる。周波数が大きくなる ほど,音は高くなる。ある音階に対して,その周波数の2 倍の周波数の音階のことを,「1オクターブ上の音階」と いう。例えば, ドレミファソラシドという並びでは, 最 後のドは最初のドの「1オクターブ上の音階」である。
西洋音楽では, ドから1 オクターブ上のドまでの間 を, 12個の音階に分割する。すなわち, ド, ド#,レ, レ
#,ミ,ファ,ファ#,ソ, ソ#,ラ,ラ#,シとなる。これ を12音階と呼ぶ。ピアノの鍵盤を思い出そう。1オク ターブの中に,白鍵が7つと黒鍵が5つ,計12個の鍵が ある(図3.1)。
さて, 音階を, 周波数が等比数列になるように決める
3.16 表計算ソフトで数列の和 47
図3.1 ピアノの鍵盤
ことを,平均律と呼ぶ。多くの楽器は平均律で調整され ている。以後,平均律の12音階を考える。
(1) 楽器の調律やオーケストラのチューニングでは, 音 階の基準として周波数440 Hzの「ラ」の音が使わ れる。この音の2オクターブ上のラ音の周波数はど のくらいか?
(2) 12音階の平均律において, 周波数の等比数列の公比 はどのくらいか?
(3) 多くのピアノは, 88個の鍵を持つ。つまり, 88個の 音階を出せる。そのようなピアノの最高音の周波数 は, 最低音の周波数の何倍か?
(4) 人間の耳は, 概ね, 20Hzから20000Hzまでの音を 感じることができる。その範囲は何オクターブに相 当するか?
(5) 上記の範囲をカバーするピアノを作るとしたら, 鍵 はいくつ必要か?
(6) 基準の「ラ」の音(周波数440 Hz)の, 1.5倍の周波 数を持つ音は, 12音階の中で, どの音階になるか? (7) 1オクターブの中で, ド,ミ,ソのそれぞれの周波数
は, およそ4:5:6という整数比に近い比になること
を示せ。これが, ドミソが綺麗な和音になる理由で ある。
問題の解答
答52与式は両辺とも0以上なので,式(3.13)より, 左辺2≥右辺2を言えばよい。
(左辺)2−(右辺)2= a2+ 2ab+b2
4 −ab
=a2−2ab+b2
4 =
(a−b 2
)2
≥0
よって与式は成り立つ。この式で,等号が成り立つとき は{(a−b)/2}2= 0なのだから, (a−b)2= 0。式(1.33)
より,a−b= 0。従ってa=b。 ■ 答53
(1) 4·3·2·1 = 24 (2) 5·4·3·2·1 = 120
(3) 1 (4) 1
(5) 存在しない。
答54 5! = 120通り。
答55式(3.21)において,m=nとすれば,
nPn =n!/(n−n)! =n!/0! =n! ■ 答56 8人から3人を選んで順に並べ, その順番で会長・
副会長・会計係を割り当てればよい。つまり, 8人から 3人を選ぶ順列だから,8P3= 336通り。
答57 28= 256通り。
答58 (1) 4 (2) 10 (3) 10 (4)n(n−1)(n−2)/6
(5) nC0 = n!/(0!n!) = n!/n! = 1。ここで0! = 1を 使った。 (6) 1
答59式(3.24)より,
nCm= n!
m! (n−m)!
一方,式(3.24)でmをn−mと置き換えれば,
nCn−m= n!
(n−m)!{n−(n−m)}!
= n!
(n−m)!m! = n!
m!(n−m)!
よって,nCm = nCn−m ■ 答6040C3= 9880通り。
答61 2x3+ 3x2χ−3xχ2−2χ3 答62
(1) 式(3.32)でa=x,b= 1,n= 7とすれば, (x+ 1)7 = 7C7x7 +7C6x6 +7C5x5· · · となる。x3の項は, 7C3x3= 35x3。従って, 35。 (2) 式(3.32) でa = 2x, b = −3, n = 6 とすれば,
x3の項は6C3(2x)3×(−3)3 =−4320x3。従って,
−4320。 答63