第 5 章 微分 65
5.3 微分の公式
f(x+dx) = x−dx (x+dx)(x−dx)
= x−dx
x2−dx2 (5.26)
ここで, 分母のdx2を無視すると, f(x+dx) =x−dx
x2
= 1 x− 1
x2dx
=f(x)− 1
x2dx (5.27)
式(5.5)と較べると,dxの係数は−1/x2だから, f′(x) =−1
x2 (5.28)
ところでこれは,式(5.24)でn=−1とおいた場合に一 致する。もともと式(5.24)では, 定数nを1以上の整 数としたが, n=−1のときも成り立つことがわかった。
(例おわり)
5.2 数値微分
これから具体的に関数を微分する方法を学ぶのだ が, まず, 計算機で微分するやり方を学ぼう。それを
「数値微分」 という。数値微分は原理が単純で, 微分の アイデアを理解するのに良い題材だ。また, 実際に世の 中で数値微分は様々な場で使われている。というわけ で,微分の勉強はまず計算機から入るのだ。
式(5.9)で学んだように,微分は次式で定義される:
f′(x) := lim
∆x→0
f(x+ ∆x)−f(x)
∆x (5.29)
実際は, ∆xが「限りなく0に近く」なくても,ある程 度まで0に近づければ,このリミットを無視しても, そ こそこ正確に計算できるだろう:
f′(x)≒ f(x+ ∆x)−f(x)
∆x (5.30)
これが, 計算機に微分をやらせるときの考え方である。
すなわち,f(x)について隣り合うセルどうしの引き算を して(f(x+ ∆x)−f(x)), それをxについて隣り合う セルどうしの引き算(つまり∆x,つまり刻み幅)で割れ ばよい。
例えばf(x) =x2を微分してみよう。スプレッドシー
トで,xの値を−1から1まで0.05刻みでA列に与え,
f(x)の値をB列に与える:
A B C
1 x f(x)=x^2 f’(x)
2 -1 1
3 -0.95 0.9025
4 -0.9 0.81
5 -0.85 0.7225
· · · · · · · · ·
ここで右端の列(C列)で微分f′(x)を計算するには, セルC2に, 「=(B3−B2)/(A3−A2)」という式を書き 込む。ここでB3−B2というのはf(x+ ∆x)−f(x)に 相当し, A3−A2というのが∆xに相当する。厳密には, このような計算式で与えられる微分の値(つまり微分係 数)は,x=−1のときではなく, x=−1とx=−0.95 の中間付近だが,どうせxの刻み(∆x= 0.05)は小さい から, あまり気にしない。気になるなら, 刻みをもっと 小さくとればよい。
そして, C2セルの内容を, C3以降のC列全体にコ ピーペーストすれば, C列に, 近似的ではあるが, f′(x) ができあがる。こうして計算機で関数の微分を近似的に 行うことを,数値微分 と呼ぶ。
● 問102 表計算ソフトで, 関数f(x) =x2を, −1 ≤ x ≤ 1 の範囲で数値微分し, その結果を, f(x)と, 解 析的*6な微分結果f′(x) = 2xとともに, グラフに描け。
∆xは各自で適当に定めよ。結果は図5.2のようになる。
5.3 微分の公式
実際に関数を微分するときは, 微分係数(導関数)の
定義式(5.5)に遡ってやることは少ない。複雑な関数の
場合は前節でやったように数値微分を使うし, そうでな ければ, 以下に示すような, いくつかの便利な定理(公 式)を活用してちゃっちゃとやってしまうのだ。以下, f(x), g(x)を,任意の(微分可能な)関数とする。
*6理論的に厳密な計算(式変形)で答えを導くことを 解析的 とい う。「数値的」の対義語である。
図5.2 y=x2とその数値微分(dy/dx),そしてy= 2x。xの刻みは0.05。数値微分とy= 2xは,刻みを 小さくすればもっと近くなる。例5.2の結論を数値微 分でも確認できた!
微分の公式1: 足し算はバラせる
{f(x) +g(x)}′=f′(x) +g′(x) (5.31) 証明: F(x) =f(x) +g(x)とおくと,
F(x+dx) =f(x+dx) +g(x+dx)
=f(x) +f′(x)dx+g(x) +g′(x)dx
=f(x) +g(x) +{f′(x) +g′(x)}dx
=F(x) +{f′(x) +g′(x)}dx (5.32) ここで, dxの係数に着目すると, 微分係数の定義から,
F′(x) =f′(x) +g′(x)。 ■
例5.5 f(x) =x2+2xを微分しよう。公式1を使うと,
f′(x) = (x2+ 2x)′ = (x2)′+ (2x)′ (5.33) となる。例5.2から, (x2)′ = 2xであり,式(5.20)から, (2x)′= 2である。従って,
f′(x) = 2x+ 2 (5.34)
となる。(例おわり)
微分の公式2: 定数倍は前に出せる aを定数として,
{af(x)}′=af′(x) (5.35)
証明: F(x) =af(x)とおくと,
F(x+dx) =af(x+dx) =a{f(x) +f′(x)dx}
=af(x) +af′(x)dx
=F(x) +af′(x)dx (5.36) ここで, dxの係数に着目すると, 微分係数の定義から,
F′(x) =af′(x)。 ■
微分の公式1と2のような性質は, 数列の和Σにも あったこと(P.42)を覚えているだろうか? (線型性)
例5.6 f(x) = 3x2を微分しよう。公式2を使うと, f′(x) = (3x2)′= 3(x2)′ (5.37) となる。例5.2から, (x2)′= 2xである。従って,
f′(x) = 3(2x) = 6x (5.38)
となる。(例おわり)
例5.7 関数f(x) =x3+ 2x2+ 3x+ 1を微分しよう。
公式1,公式2より,
f′(x) = (x3)′+ 2(x2)′+ 3(x)′+ (1)′ (5.39) ここで, 右辺の(1)′ とは定数関数1(すべてのxに対し て定数1を対応させる関数)の微分であり,式(5.21)よ り, もちろん0である。(x3)′ や(x2)′, (x)′に式(5.24) を使うと,
= 3x2+ 4x+ 3 (5.40)
(例おわり)
● 問103 以下の関数を微分せよ: (1) f(x) =x2+x+ 1
(2) f(x) = 4x2+ 5x+ 6 (3) f(x) = 3x2+ 3x+ 4
(4) f(x) = 5/x(ヒント: 例5.4を使う) (5) f(x) =x−1/x
5.3 微分の公式 71 微分の公式3: 積の微分
{f(x)g(x)}′ =f′(x)g(x) +f(x)g′(x) (5.41) 証明: F(x) =f(x)g(x)とおくと,
F(x+dx) =f(x+dx)g(x+dx)
={f(x) +f′(x)dx}{g(x) +g′(x)dx}
=f(x)g(x) +f′(x)g(x)dx +f(x)g′(x)dx+f′(x)g′(x)dx2 ここで, dx2を無視し, さらに, dxの項を整理し, また, f(x)g(x)をF(x)で置き換えると,
F(x+dx) =F(x) +{f′(x)g(x) +f(x)g′(x)}dx dxの係数に着目すると, 微分係数の定義から,
F′(x) =f′(x)g(x) +f(x)g′(x) (5.42)
■
例5.8 関数F(x) = (x2+ 2)(x2+x+ 3)を微分しよ う。f(x) =x2+ 2, g(x) =x2+x+ 3として, 公式3 を使うと,
F′(x) = (x2+ 2)′(x2+x+ 3) + (x2+ 2)(x2+x+ 3)′
= 2x(x2+x+ 3) + (x2+ 2)(2x+ 1)
= 4x3+ 3x2+ 10x+ 2 (5.43) となる。一方,先に因数を展開してしまって,
F′(x) = (x4+x3+ 5x2+ 2x+ 6)′
= (x4)′+ (x3)′+ 5(x2)′+ 2(x)′+ (6)′
= 4x3+ 3x2+ 10x+ 2 (5.44) とすることもできる。どちらのやりかたでやっても, 答 えは一致する。このように,数学は色んなやり方で正解 に到達できるものなのだ。(例おわり)
● 問104 以下の関数:
f(x) = (x2+x+ 1)(x2−x−2) (5.45) について,
(1) 2つの関数: x2+x+ 1とx2−x−2の積とみなし て, 積の微分の公式を使って微分せよ。
(2) 因数を展開して(つまり掛け算を実行してカッコを 外して)から微分し, 前小問の結果と一致すること を確認せよ。
「関数f(x)」などの(x)を省略して書くことがよくあ る。式が単純になって見やすいし覚えやすい。公式1, 2, 3は,それぞれ以下のようになる:
(f+g)′ =f′+g′ (5.46)
(af)′ =af′ (5.47)
(f g)′ =f′g+f g′ (5.48) さて,多くの学生がつまずくのが次の公式である。と いっても, しっかり説明を読めば難しくないはずだ。
微分の公式4: 合成関数の微分
{g(f(x))}′=g′(f(x))f′(x) (5.49) 注: ここでg′(f(x))は,g(x)の導関数g′(x)のxの 部分にf(x)を代入したものであり, g(f(x))の導 関数ではない。
証明の前に例を示す:
例5.9 関 数 (x2 + 1)3 を 微 分 し よ う 。こ の 関 数 を,
「g(x) =x3という関数のxの部分に,f(x) =x2+ 1と いう関数を入れたもの」とみなす。g′(x) = 3x2だから, 公式4より,
{(x2+ 1)3}′ ={(f(x))3}′= 3(f(x))2f′(x)
= 3(x2+ 1)2{(x2+ 1)′}= 3(x2+ 1)2(2x)
= 6x(x2+ 1)2 (5.50)
となる。これで完了としてよいのだが, ここではあえて 式(5.50)を展開すると,
6x5+ 12x3+ 6x (5.51)
となる。一方, (x2+1)3を先に展開してから微分すると, {(x2+ 1)3}′= (x6+ 3x4+ 3x2+ 1)′
= 6x5+ 12x3+ 6x (5.52) となる。式(5.51), 式(5.52)は一致している(つじつま 合っている)。(例おわり)
この例は別に公式4を使わなくても,式を展開してか ら普通に微分すれば解けた。しかし, 次の例のように, 公式4がどうしても必要になる場面もたくさんある: 例5.10 次の関数を微分しよう。
1
2x2+ 1 (5.53)
f(x) = 2x2+ 1, g(x) = 1/xとして, 公式4を使おう。
式(5.28)よりg′(x) =−1/x2である。従って, { 1
2x2+ 1 }′
=− 1
(f(x))2 ×f′(x)
=− 1
(2x2+ 1)2 ×(2x2+ 1)′
=− 4x
(2x2+ 1)2 (5.54)
となる。(例おわり)
実際には, こういうふうにg(x)やf(x)をわざわざ 作ったりしないで,頭の中でまず2x2+ 1をひとつの変 数とみなして全体を微分し,さらに2x2+ 1をxで微分 して掛け合わせ,いきなり式(5.54)の最後の行を暗算で 導出できるようになるのが望ましい。最初は難しいかも しれないが,慣れるまで練習しよう。
では公式4を証明しよう: F(x) =g(f(x))とおくと, F(x+dx) =g(f(x+dx))
=g(
f(x) +f′(x)dx)
(5.55) ここで, dx は0に限りなく近い微小量なので, それに f′(x)を掛けた数,すなわちf′(x)dxも, 0に限りなく近 い微小量とみなすことができる。そこで, 微分係数の定 義式(5.5) において, f(x)をg(x)とし, x0 をf(x)と し,dxをf′(x)dxとすれば,
g(
f(x) +f′(x)dx)
=g(f(x)) +g′(f(x)){f′(x)dx} (5.56) となる。右辺第一項のg(f(x))は, もちろんF(x)であ る。従って,式(5.55)式(5.56)より,
F(x+dx) =F(x) +g′(f(x))f′(x)dx (5.57) dxの係数に着目すると,微分係数の定義から,
F′(x) =g′(f(x))f′(x)。 ■
この公式は, 一見, 複雑そうに見えるが, 式(5.13)の ような書き方を使うと,
dg dx =dg
df df
dx (5.58)
と表せる。右辺に現れる2つの微分の掛け算を, 形式的 に, 微小量dg, df, dxの分数の掛け算とみなせば, 右辺 を約分したものが左辺になるだけだ。
● 問105 以下の関数を,合成関数の微分の公式を使っ て微分せよ:
(1) F(x) = (3x2+ 2)3 (2) F(x) = (x2+x+ 1)3
(3) F(x) = (x5+x4+x3+x2+x+ 1)2 (4) F(x) = (1 + 1/x)2
● 問106 関 数 u(x) の 逆 数 で あ ら わ さ れ る 関 数 1/u(x)の導関数は,以下で与えられることを示せ*7:
(1 u
)′
=−u′
u2 (5.59)
ヒント: g(x) = 1/x,f(x) =u(x)として公式4を使う。
● 問107 関 数 v(x) と u(x) の 比 で 作 ら れ る 関 数 v(x)/u(x)の導関数は,以下で与えられることを示せ:
(v u
)′
= v′u−vu′
u2 (5.60)
● 問108 以下の関数を微分せよ: (1)
f(x) = 1 1 +x2
(2)
f(x) = x 1 +x2 ヒント: (1)ではu(x) = 1 +x2 として式(5.59)を使 う。(2)ではu(x) = 1 +x2, v(x) = xとして式(5.60) を使う。
例5.11 1/xnを微分してみよう(nは1以上の整数の 定数とする)。この関数は,
g(x) =xn と,f(x) = 1 x の合成関数とみなせる。実際
g(f(x)) = (1
x )n
= 1
xn (5.61)
となる。ところで,式(5.24)よりg′(x) = nxn−1 であ り, 例5.4よりf′(x) =−1/x2だから, 式(5.49)より, 次式が成り立つ:
( 1 xn
)′
=n (1
x
)n−1(1 x
)′
=n (1
x )n−1(
−1 x2
)
=− n
xn+1 (5.62)
*7式(5.59),式(5.60)では関数u(x)の「(x)」を省略して書い ていることの注意せよ。
5.3 微分の公式 73
式(5.62)は次のように書き換えられる。
(x−n)′ = −n x−n−1 (5.63) これは, 式(5.24)でnを−nと置き換えたものに一致 する。もともと式(5.24)では,nを1以上の整数とした が, これで,定数nが負の整数のときも成り立つことが わかった。
次に学ぶ公式は, 公式4の応用だ。これはP.9で学ん だ対数を微分したりするのに使う(その話は後の章に出 てくる)。
微分の公式5: 逆関数の微分 g(x)をf(x)の逆関数とすると
g′(x) = 1
f′(g(x)) (5.64)
注: ここでf′(g(x))は,f(x)の導関数f′(x)にg(x) を代入したものだ。f(g(x))の導関数ではない。
証明:
合成関数の微分より,
{f(g(x))}′=f′(g(x))g′(x) (5.65) である。ところで, g(x)はf(x)の逆関数なので, P.59 の式(4.38)より,恒等的にf(g(x)) =xである。従って, {f(g(x))}′= (x)′ = 1 (5.66) 式(5.65)と式(5.66)より,
f′(g(x))g′(x) = 1 (5.67)
この両辺をf′(g(x))で割れば, g′(x) = 1
f′(g(x)) (5.68)
となり, 式(5.64)に一致する。 ■
例5.12 f(x) = x1/nを微分してみよう。ただしnは 1以上の整数とする。g(x) =xnとすると, g(f(x)) =x だから, g(x)とf(x)は互いに逆関数。一方, g′(x) = nxn−1である。式(5.64)(逆関数の微分)より,
f′(x) = 1
g′(f(x))= 1
n(f(x))n−1 = 1 n(x1/n)n−1
= 1
nx(n−1)/n = 1
nx−(n−1)/n
= 1
nx(1−n)/n= 1
nx(1/n)−1 (5.69)
(例おわり)
式(5.69)は,式(5.24)でnを1/nと置き換えたもの に一致する。これで, 式(5.24)は, 定数nが正の整数の 逆数のときも成り立つことがわかった。
式(5.24), 式(5.63), 式(5.69)からわかったように, 定数αが正の整数または負の整数または正の整数の逆 数のとき,
(xα)′ =αxα−1 (5.70)
が成り立つ。そのことと合成関数の微分の公式を使え ば,αが負の整数の逆数のときや, 0以外の有理数(整数 どうしの比であらわされる数)のときもこれが成り立つ ことが証明できる。実数は有理数の極限としてあらわ されるので*8, 有理数で成り立てば, 実数でも成り立つ。
従って,以下の公式が成り立つ:
微分の公式6: べき関数の微分 定数αが0以外の実数であれば,
(xα)′ =αxα−1 (5.71)
例5.13 もういちど関数f(x) = 1/xを微分してみよ う。1/x=x−1だから,式(5.71)でα=−1とすれば,
f′(x) = (x−1)′=−1·x−2=−1
x2 (5.72)
これは式(5.28)と一致する。つじつまがあっている。
(例おわり) 例5.14 √
xを微分してみよう。
(√
x)′ = (x1/2)′ =1
2x1/2−1=1
2x−1/2= 1 2√ x (5.73) (例おわり)
● 問109 公式6を使って,以下の関数を微分せよ。
(1) 1 x
(2)
√1 x
(3) x2/3
(4) x−5
● 問110 微分の公式1〜5を証明せよ。
*8このあたりは高度な数学になるので,詳細はわからなくてもよ い。