【司会:久保英也】それでは,後半のディスカッションに入りたいと思いま す。先ほど実務家の視点から村田様,そして,法律分野と,どちらかという と新しい研究領域について,今井先生と新山先生からお話をお伺いいたしま した。また,新山先生からは,これに加え,新人,若手の研究者を育成する ポイントや,他学会の若手育成に関する経験もお話いただきました。一気に 議論に入ると,少し混乱しますので,先ほど,私が示した絵にある⽛将来の 姿⽜というところに従い,若い研究者が何を求めているのか,から考えてみ たいと思います。おそらく,主要研究分野に時代を先取りできるものがなけ れば,学会における議論も盛り上がらないですし,研究者の学会活動も盛り 上がらない。学会活動を通じて,研究業績が上がり,その中で自分が成長で きることが大きい。それを具体的に実現するためには⚓つぐらいの方法があ ると思いますが,村田様からは,うち,⚒点について提案いただきました。
すなわち,⚑つは,この学会を支援してくれる各組織から大学に講師を派遣 しているのですが,その教育内容を変えてはどうか,一新してはどうかとい う提案です。もう⚑つが,実務家と一緒に戦略的な研究を,数々の制約を克 服しながら進めていくのはどうか,という提案です。
そこでまず,村田様の⚒つの提案についてから議論に入りたいと思います。
実は,実務家の方々に対して行いましたアンケート調査の中から,魅力的な 提案であった⚘本のテーマを選び,その具体化にむけて当該実務家の方と話 し合った結果,1本のテーマだけですが,実務家と研究者による研究が行わ れました。その1本を担当された柳瀬先生に,そのあたりの状況のご説明と
⼦今,学会の存続をかけた若手研究者の育成⼧
平成29年度大会シンポジウム
ディスカッション
ご意見をいただけないでしょうか?
【柳瀬典由(東京理科大学)】東京理科大学の柳瀬と申します。半年ほど前,
村田様から自動車保険の更新に関するアンケートデータをいただきました。
これを使って,何か研究できないか,さらにこの先の展開について何か考え られないか,といったところからスタートしましたが,まだ現段階で,具体 的な方法,分析の結果やそれを学術的にどう使うか,実務にどう提案するか,
といったところまでには至っておりません。ただ,データをいただいてから の経過を少し振り返り,何かこのシンポジウムに成果があればと思い,その 観点からコメントをさせていただきます。
私はまだ中堅ぐらいになると思うのですけれども,特に今の大学は全国的 にアカデミックな分野における業績を非常に重視していると思います。こう したなか,企業の方と組んで独自のデータを分析,研究できるということは,
研究業績への貢献という意味において,非常にありがたいことだと思います。
他方で,既に収集済みのデータ,つまり,ある特定の領域のマーケティング など,社内の何らかの具体的な問題を解決するために集めたデータは,非常 に興味深い一方で,私たちにはある種の分析上の制約があるのも事実です。
たとえば,学術的な文脈からみて,こういうデータが追加であるともっと興 味深い分析ができそうだなあ,という点が随所に見られたのも事実です。
そういった意味で一つ提案があるとすると,アンケートの設計段階から時 間をかけて,産学で協力し合うことができれば素晴らしいと思います。⽛こ れを追加してくれないか⽜と会社にお願いする代わりに,研究者の方も会社 に多少は役に立つ作業をする,言わばギブアンドテイクです。そうしたギブ アンドテイクのもとで,できるだけ早い段階から,アンケートの設計やデー タの構築に関して協力し合っていければ,お互い Win-Win の関係になるの かなというのは感じております。今回のように,今こういうデータが手元に あるから,これを使って何か成果がでないかということを,短期的に求める ということは,たまたま上手くいくケースもあれば,どうこれを調理すれば いいのかということにすごく頭を悩ませることもあります。今回は,そうい
うことを感じたところでございます。
【司会】どうもありがとうございました。フロアの方から,とりわけ実務家 の方で,研究者の先生が持っているスキルと,企業の中にあるデータをうま くマッチングをして,それを研究もしくは商品開発に生かす,さらには顧客 の対応改善に生かすといった辺りに着目をされている方はどなたかおられる でしょうか。
【藤本 昌(全国大学生協共済生活協同組合連合会)】大学生協共済連の藤本 と申します。ご参考になるかどうか分かりませんが,ちょうど明日のポスタ ーセッションでも発表しますが,弊会では,共済元受団体として取り扱って いる生命共済と火災共済,並びに契約団体である学生賠償責任保険等の分析 をずっと経年で行っています。このデータは全国の学生の60万人強,すなわ ち日本の⚕人に⚑人ぐらいの学生の病気・ケガ・事故の傾向を示すものと考 えています。そうした視点で,明日ご覧いただければ,弊会のデータを何か に生かしていただけるようなヒントがひょっとしたらあるのではないかと思 い,発言させていただきました。
【司会】ありがとうございました。他にはどうでしょうか。
【村田 毅】柳瀬先生,ありがとうございます。われわれの反省点でもあり まして,そういう調査はいろいろ過去にもやってきているのですが,後から 見ると,一つのクエスチョンに対して,多元的に回答ができてしまって,評 価が非常に難しいものとなってしまうことがあります。恥をさらすようです が,ああ聞いているけれども,こうも取れるし,こうも取れるみたいなクエ スチョンを出しているというものが見受けられました。このようなこともあ り,知見のある方と一度検討しておけば,アカデミックに使えるかどうかの 前に,調査の有効性そのものを確認できるので,是非そういう機会があれば と思います。
同じようなことにお気づきの実務家の方は,他にも何人もおられると思い ますが,フロアの中でいかがでしょうか。
【重原正明(第一生命経済研究所)】第一生命経済研究所,重原と申します。
どちらかというと実務家側の立場からお話させていただきます。昨日もリス ク認知に関する学習,そちらの方のセッションでも出ていたのですけれども,
やはり,アンケートというのは結構難しく,単純に例えば⽛あなたは保険が 欲しいですか⽜というような聞き方をしても,あるいは⽛リスクについてど う思いますか⽜と聞いてもバイアスがかかったりします。こういったバイア スの危険があるのかを,先生方と組みながら確認していくというのは,一つ の方法として必要なのではないかと思います。
【司会】それ以外にどうでしょうか。ニッセイ基礎研の野呂社長の顔が見え ました。目的も制約もある中で,どのようにして研究者と実務家をセットす ればいいのかということについて,何かご意見があればいただければと思い ます。
【野呂順一(ニッセイ基礎研究所)】:野呂と申します。(突然のご指名をいた だきましたので,頭の中が整理できておりませんが,)今は,私は研究所に おりますけれども,日本生命での仕事は商品開発が非常に長く,その関係で,
保険学会の皆さん,とりわけ保険法の先生方に大変お世話になっていました。
たとえば第三者受取の問題や自殺免責の問題について,過去の判例や諸外国 の取り扱いなどから,日本ではどう取り扱うべきか,法律解釈や他制度との 矛盾はないかをご指摘いただきましたが,そうではなくて,過去の事例とか 海外にも全く前例のないことについて,保険学会がオリジナルで論じて,こ うあるべきだというようなことを考えていけるのかという点に関心がありま す。といいますのは,昔,日本生命で介護保険を開発したときに,受取人が 認知症の場合,誰が給付金を請求するかという問題にぶつかり,色々な先生 に聞いたことがあります。そのときは,委任状の問題や過去の判例から,第 三者が給付金を代理請求することはできないということでしたが,その後,
公的介護保険が創設され,成年後見人制度ができると,それをベースに受取 人が認知症の場合の代理請求の議論が展開されていきました。もしもっと早 い段階で,学会の方から,今は前例はないが,こういう代理請求の方式を想 定することができるというような,言わば発明的な論文を出していただくよ
うなことがあれば,おそらく実務家は研究者と接点を持とうと考えるはずで す。その辺りはどうなのでしょうか。
【村田】ストレートなお答えではないのですが,少し具体的な事例について 申し上げます。根拠のない何かを使用することはできませんが,例えば,数 値的なデータ,あるいは心理学の知見があり,それに基づいてものを言うこ とはできます。例えば,パンフレットを直すときに,どれだけの長さの文章 であれば,何人の人がどこまで読むか,インクの乗っている割合がどれだけ だと何割の人が嫌になるかとか,それらはきちんと定量化できます。そうし た定量化をした上で文章を簡略化して改善するなら,簡略化することのリス クはありますが,簡略化するという方向の議論ができました。そのときには,
保険会社の内部のノウハウではなく,研究者のノウハウをお借りしており,
そういうインタラクティブな,ニーズと知見というものを出し合って,新し いことをやるというのはあり得るものなのだろうと思います。この程度のこ とは少し思い出したのですが,多分,本当におっしゃっていることにはお答 えできていなくて申し訳ないと思います。
【司会】次に,今井先生の方から法律分野の目線で,お願いできますか。
【今井 薫】特に日本の場合は難しい問題だと思います。生命保険の場合で いえば,生命保険を金融商品化して,下取りするというビジネスモデルはオ ランダで最初に始められました。このように,⽛規定がないからできること⽜
と,⽛規定がないから難しいこと⽜という発想の違いはあると思います。わ れわれ法律屋はとりあえず概念です。何らかの実例があれば,⽛こうしたこ とを行っている例がある⽜とアプライできるのですが,全く実例がないと,
見落とした点がないかが怖いと感じてしまいます。
実際問題として,例えば今,傷害保険が販売されていますが,わが国の傷 害保険の場合,何歳以上は駄目だというような規定は置いていないと思いま す。私の知る範囲ですと,イタリアでは75歳以上に傷害保険はありません。
また,例えば,日本には猟犬の保険はないそうですが,ドイツでは猟犬の保 険をハンティングの保険の中で売っています。その保険には年齢制限があり,
⚖歳くらいから入れますが,その代わり13歳以上は払いませんといったよう にはっきりと謳っているのです。ところが,日本はそこまで言ってしまって いいのかという判断が働くようで,なかなか年齢制限は難しいそうです。
お年を召した方が突然倒れて動けなくなってしまった際,傷害保険で保険 金を支払って欲しい方に対し,⽛それは加齢による加齢現象だ⽜と伝えると,
皆,⽛いや,昨日まではちゃんと動けていた⽜と怒られるわけです。加齢は 傷害保険金の給付対象としない旨をはっきり約款で書くとか,給付可能だが 給付しないことのマッチングの問題もあるかと思われます。私のつたない経 験から,わが国の場合には,そもそも約款には明瞭に規定していないが,実 はできないということが⽛暗黙値⽜としてあるのではないかと感じておりま す。このような回答でよろしいでしょうか。
【司会】新山先生は,何かご意見がありますでしょうか。
【新山陽子】ご質問の点は,私がお話させていただいた内容とやや異なりま すが,それを人々の高齢化に伴う判断能力の状況をどう考え,それを社会的 にどういうふうに分類化するかと考えました。私たちの世界,食品安全の分 野では,異常な問題が起こると,どういうふうに対処するか,どんなルール をつくるか,どんなリスク削減措置をつくるかなどが主な研究分野ですが,
多くは,⽛国際的に共有している事象や基準⽜ということが⽛知恵⽜なので す。なかなか,一国で急にどうするか考えてみても,いい知恵が出ませんか ら,先立つ国があると,そこがどうしているかを調べ,ともかく情報を集め て,一番いいところを取り入れられないかと考えてやっていきます。
ですので,今,私が逆に保険の分野ではどうされているのかなと思う点は,
保険のルールの決め方で,例えば,約款をどういうふうに決めるのかという 点です。そういう決め方について,国内の議論だけではなくて,今井先生や ご専門の方がたくさんいらっしゃるでしょう海外でどのように工夫されてい て,それが日本とはどう違うのか。また,海外のルールを日本で取り入れる ことができないのか,できる点はないのか。そして,日本のルールを海外に どう照らして,その妥当性をどう考えていったらいいのか,などを議論する
ことが学会の貢献の大きいところだと感じています。
【司会】ありがとうございました。今井先生,それに関して少しコメントが ありますか。
【今井】あまり関係ないかもしれないのですが,日本の保険会社はかつて,
同一約款を使っていました。A社が売るならB社でも売る,どこも皆,同じ 商品を売っていたようです。先ほどドイツの例をご紹介しましたが,ドイツ では会社によって売っている商品が違います。例えば Provinzial は,キール に本社がある会社と,ミュンスターに本社のある会社が一つの持ち株会社の 中に帰属していますが,たとえば責任保険においても販売している商品は全 然違います。
それから,先ほど時間の関係でご紹介できませんでしたが,火災保険を売 っている会社は火災保険に特化しているわけです。Hamburger Feuerkasse の場合には火災保険に特化していますが,非常に面白いサービスも提供して います。例えば,北ドイツは土地が低いところが多く,雨が降ったり,オル カーンと呼ばれる台風みたいなのがやってくると,地下室に水が入ってしま います。奥さん方はそこにキュウリのピクルスみたいなものとか酢漬けのキ ャベツなどをつくっていますが,そこに水が入ってしまうわけです。そうす ると,落胆のあまり精神的にダメージを受けます。そうした際に,心理カウ ンセラーを派遣したり,建物に何が起こっているのかを確認するため,建築 専門家を派遣するというサービスなどです。
ここで,私が言いたかったのは,売れない商品まで売ることはないという ことです。先ほどご紹介しましたように,損害保険というのは地域的特性が 非常に大きく,売れない商品は売れないけれども,売れる商品については自 分たちのノウハウで細かいサービスを提供することで売れる商品に仕立てる ことができる。わが国ではあまり紹介されていない事ですが,動物保険や住 宅保険にみられる個性は一つの品質ではないかと思います。
【福田弥夫(日本大学)】福田です。実は私,若手研究者の後継者の養成につ いて,全く違う視点で考えていました。というのは,大学院の博士前期,博
士後期を担当したとしても,実際に学生が来ないのです。というのは,修士 に入ったからといって,博士後期までストレートに進んでいって,その後,
大学の教員になれるかどうか分かりません。非常にアンセキュアな状態です。
また,従前に比べて,助教のポストというのが任期制になってきました。
ここで,新山先生にお伺いしたいのは,農業経済学会とかリスク研究学会 はそういう問題は一切なくて,若手はどんどん,どんどん,大学院に入って きて,それで,博士後期課程から,あるいは大学の教員として就職できてい るのであれば,われわれ日本保険学会はやはり,農業経済学会,リスク研究 学会がやっている手法を学びながら,われわれのそういうジョブマーケット の位置とか,マーケティングに問題があるのだということになるとは思うの です。
私などは一番大きな問題が,実は若手の研究者養成といった場合に,従来 型の大学院の博士前期,後期,指導教授の下で育てていく,そうして時間を かけて,研究者に育て上げていくという流れの中で,今の日本の経済状況だ とか,あるいは民間企業の就職状況だとか,奨学金制度であったりするので はないか?自分の経験から,一番大きいのは,今は育英会とはいいませんけ れども,私も竹濵さんも400万近くもらったやつを返さなくて済んだ奨学金 ではなかったか。研究者になったら免除するという制度が消えてしまいまし たが,そういうものが実は研究者として残していきたい学生さえ研究室に残 せないのです。学生自体も積極的に研究者の道を選ぶよりは,民間に就職し たり,あるいは公務員になって働いてお金をもらった方がいいのです。研究 者等仕事自体が,魅力が少なくなってきたのかなと,そういうところを少し 考えたりしているのです。
私は,研究の指導体制は,保険分野において,私などでもそれこそ30年以 上前から指導されてきましたが,東京では西嶋先生,石田先生,金澤先生,
倉沢先生が共同の研究会みたいなものを持っていて,集団指導体制を組み,
実務家の方との判例研究などの交流を含めて,どんどん,どんどん,育てら れてきた記憶があります。ところが,それを早大の大塚先生や甘利先生とで
やろうと思っても,育てるべき院生がいないのです。です。それも僕らのせ いなのかなというと……。ただ,やはり僕らも院生に声をかけるときに一生 を決めてしまう重みから非常にジレンマに陥っているところがあります。新 山先生,その辺はいかがでしょうか?
【新山】おっしゃったことは,私ども共通の問題だと思います。基本的にや はり,そういったコースに進む学生がすごく減っています。残念ながら,農 学部でもそうです。そして,農業経済の場合は,同じ社会科学系ですので,
景気動向に大きく左右されます。景気がよくなると,早く所得が得られる方 を選びます。そして,もう一つ,まさにおっしゃられた通り,目先の状況が 見えません。若い教員のポストがないので,そこへ次行けるとか,そこで活 動している人たちがどんな活動をしているかなど,そのモデルとなる存在が いないというのは,おっしゃった通り,とても大きな問題だと思います。
要点は⚒つあると思うのですが,まず,第⚑点は学会としてできる課題で はありません。それこそ,例えば,こちらだと滋賀大学は国立大学ですが,
国立大学協会として,政府に働き掛けるとか,また,教員のプロフェッショ ンの世界-大学自身も一種の職業団体として動くということしか,もうない と思います。
第⚒点は,その中でいかんともし難いかというと,いくつかの分野を見て おりますと,先ほどお話しましたように,学生も迷いますけれども,やはり 面白いことをやりたいという気持ちは多くの学生が持っています。それを実 現できるようなことがあればやりたいとかということは現にあります,その ような学生は,面白く,活気のある,研究ができています。そして,それが 将来もやっていけるという確信が持てると,その分野を選ぶ学生は出てきま す。ですので,どういうやり方をするかによって,学生間でアンバランスな 状況が出てきているのではないかなと思います。
ですので,私としてはぜひ,プロフェッションとして,政府に働き掛けて いくようなことをお互いやりたいということと,もう一つは,自分の研究分 野で少し頑張ってみて,ほかの職業より魅力があるのだということを学生に
示したいのです。企業に入っても,なかなか大変ではありますが。すみませ ん,企業で仕事をしておられる方の前においてですが,研究者も同様に大変 です。将来がはっきりしませんし,職に就けるかどうかもはっきりしません が,しかし,研究という仕事は本人の名前で行え,そして,どういう仕事を するかを自分で切れることができます。これには制約がいっぱいありますが,
先ほど出ていましたように,インパクトファクターの学会誌に出さないと評 価されないとか,だんだん環境は厳しいことは事実です。それでもまだ何を するかということを自分で考えていける面白い分野ですので,やはり,そう いう魅力をお互い,これもプロフェッションのメンバーとして共同で訴えて いきたいと思います。
【今井】逆に,福田先生や竹濵先生にお伺いしたいのですけれども,まだお 二方の大学はロースクールを運営されています。今,ロースクール制度がで きてしまったことで,教員の側が大変忙しくなったという側面と,今度は逆 に,研究者になるためには実定法はまずロースクールに行きなさい,そこで 2年終わったら,今度は博士課程に行きなさいという話があります。ところ が,これが大きな足かせになって,重要なことが抜け落ちています。例えば,
今まで法律系の研究者になるためには,英語やドイツ語,フランス語などを 山のようにやらされていたのですが,それが後の糧となります。先生方もご 記憶にあるとは思います。ともかく,それは非常に大きな負担だったのです けれども,今,ロースクールに行ってしまうということは,そんな語学など 悠長なことをやっている場合ではないのです。ともかく,実定法をきっちり,
司法試験科目をきっちり押さえてて勉強しないといけません。研究者になる にはロースクールで必ず司法試験に受かりなさいという話ではないのですが,
少なくとも,合格する程度の実力がある者だけ研究者になってほしいわけで す。そうすると,試験に合格した学生を研究者にしたいと思っても,受かっ た学生はそうは考えにくくなります。
つい数年前までは,国から経済的な支援が無く,みなし公務員としてただ で働けという,とんでもない制度だったので,受かってしまったら経済的に
研究者になどなっている場合ではなくなります。もし,よろしければ,そこ の苦衷のところを逆にお伺いさせていただきたいのです。
【福田】私は,ロースクールを持っていませんけれども,やはり受かったら,
今度は借金を返さなくてはならなくなります。そこがものすごい足かせです。
そういう意味で,先生がおっしゃったように,一緒にアメリカのケースブッ クを読もうかという,そういう余裕のあることはできないのです。ですから,
私法学会であっても,今年の個別報告は惨憺たる現状で,日本の私法学会の 将来展望にある意味,みんな危機感を持ちました。関西学院の大会でのこと でした。ですから,大学院の博士後期にいるのは,こういう言い方が適切か どうか分からないですけれども,留学生の方が中心になってしまって,日本 人の学生がほとんどいないと,そういう状況になってしまっているといます。
竹濵先生,立命館大学はいかがですか。
【竹濵 修(立命館大学)】似たようなお話でございますが,やはり経済的な 負担もそうなのですが,世の中のサイクルが非常に早くなってきているとい う部分もあって,養成されるプロセスで,どういうテーマを選ぶかというの は,昔であったら,比較的古典的なテーマでもよかったのですが,今だとや はり,それなりに突っ込んだ最先端のことを基本的なテーマと関わらせなが ら,検討していくということでないと,それこそインパクトのある研究とい うことになりませんので,なかなか発展のさせ方も,伸び方が難しいという 面が一層出てきたのかなと思います。繰り返しになりますが,以前のところ だと,比較的基本的なテーマを選んで勉強していったら,それなりに将来伸 びるという形があったのだと思うのですけれども,養成する側としても,小 さなテーマではなくて,根本的な問題にチャレンジするような,大きなテー マで頑張れという指導もできたと思うのですけれども,そうすると,なかな か時間もかかって,良い成果が出るかどうかというのは本当に賭けみたいな 話になるという面もあって,養成しにくいというところは出てくるのです。
それに加えて,先ほどお話のあった経済的な問題がありますし,法律学の方 ですと,古典的なテーマだけではなくて,先端の議論をやろうとすると,場
合によっては立法論ということになって,これはある意味,少し今井先生も おっしゃっていたように,無いものを作りだしたりするという面があります ので,かなりリスキーで,これは多分野のその基本理論を分かっていないと,
それを構築しきれるかという不安もあって,なかなか若手の人にチャレンジ がやりにくい条件が今そろっているというようなことで,難儀している感じ がいたします。
【司会】ありがとうございました。酒井先生,いかがですか。
【酒井泰弘(滋賀大学・筑波大学)】日本リスク研究学会,名誉会員(元会 長)の酒井泰弘です。さらに永らく,日本保険学会会員でもあります。私は 公式上は⽛引退⽜ということですので,自由に発言できる有難い立場にあり ます。
⽛国の研究教育体制⽜のありかたにつきまして,私見を申し上げたいと思 います。皆様が御存じのように,この体制が近時劇的に変化しまして,研究 教育予算上の制約が以前よりも非常に厳しくなってきております。私の経験 によりますと,各人の⽛研究予算⽜は概ね20万円から30万円というのが少な からずあると思います。これでは,欧米での学会出席が年に一度出かけるの も大変でしょう。学生が頂く奨学金の問題も深刻です。私の指導学生(大学 院)の一人は,1000万円以上に上る返済金をかかえております。学部の学生 を例にとりましても,400万円や500万円の返済義務を負っておりまして,国 からの思い切った解決策が求められています。
もう一つ,⽛入学試験のあり方⽜に問題があるように思います。欧米の大 学と比較しますと,日本の大学の入学試験にかけるエネルギー量は異常なほ ど大きいでしょう。抜本的改革が求められております。
さらに,私がかつて会員を務めていた⽛日本学術会議のありかた⽜にも相 当な改善が必要だと痛感しております。詳しいことは申しませんが,⽛小さ な大学⽜からの声が最近一段と小さくなっているのではなかろうか,と危惧 しております。
総括しますと,日本の大学の研究教育体制はいまや相当に深刻な状況にあ
ると心配しております。各学会・研究会の会員数につきましても,ほとんど は長期低落傾向にあると伺っております。本シンポジウムは皆様方から自由 な意見を開陳する場所を提供しています。私の⽛辛口の意見⽜が皆様方のご 参考になれば,誠に幸甚であります。
【司会】酒井先生のお思いの本心を述べてもらいましたけれども,外部でわ れわれを取り巻く環境で,育成しにくいというのは先ほどの国の政策もあり ましょうし,それから,大学院の制度の問題もあるかと思います。けれども,
私も保険学会とリスク研究学会,⚒つで活動をさせていただいていますけれ ども,不思議なことがあるのです。例えば,今回の大会の中で,リスク研究 学会の場合は⚘つの企画セッションというのができてくるのです。企画セッ ションとは何かというと,われわれのような大会実行委員がこういうシンポ をやるとか,共通論題をやるということではなくて,会員自らがこのテーマ で世間に問いかけをしたい,もしくは,この研究に意見をもらいたいからセ ッションを作るものです。このような動きが,何もしなくても⚘つぐらいす ぐに出てくるのです。確かに,そのうちの⚒つは新山先生からご紹介があっ たように,学会としてのプロジェクトの部分も入ってはいます。確かに,私 が説明したように両学会の年齢構成に少し差があるというのは事実ですが,
大学内部研究者育成環境が厳しいとか,就職の条件が厳しいというのは多分,
保険学会の研究者だけの問題ではないと思うのです。同じ厳しい環境の中も,
リスク研究学会の活力をどうとらえればよいのでしょうか?要は,厳しい環 境の中でも,学会を構成するわれわれ自身としてできることはないのかと考 えることが重要なのです。
もう若手を育成する対策はなくしようがないと手を挙げてしまって,あと は自分が定年になればいいという考え方もあるかもしれませんが,⽛時代を つなぐ責任⽜というのも我々に同時にあるように思うのです。今回の看板に 初めて,72回大会と書きましたが,わざわざこの数字を入れているというの は,先人たちが積み上げてきてくれたおかげで今,やっと72回目の大会を運 営させていただいていると感じたからです。これを,何十年後まで続けられ
るでしょうか。環境が変わったから,学会も店じまいという選択もあるかも しれませんけれども,嫌なのです,私は嫌なのです。何か少しでも抵抗した いのです。そこで,先ほど来,議論していたことの一つのヒントや解答があ るかもしれません。
なぜ,私が今まで,学会ホームページに掲載しているシンポジウムの報告 要旨やパワーポイントに記載してきた多くの事象をこのディスカッションの 時間の材料としていないかといえば,ここにいる全員が同じ目線になり議論 を始めることが重要だと思ったからです。保険学の研究分野を広げる可能性 を議論の1つの対象にしたのも,これなら全員が観点は違うものの議論にの れます。
苦しい環境の中で,今が見えない中で,次の一歩を見出すときにはどこを 目指せばよいのでしょうか?恐らく,まずは,将来すべてを見通せなくても 小さな一歩を踏み出せば,そこから,次の展開が見えるのではないかと思う のです。
しかしながら,その小さな一歩も,今日までの私も含め,われわれは踏み 出していないかもしれません。この仕組みを変えることは難しい,既存制度 は動かせないとか,自分が一歩進めることは忙しいのでしんどいとか思った 瞬間,イベントとしてのシンポジウムになってしまいます。皆で一歩を踏み 出すために全員で自分たちで考えて欲しいと思います。
少し話を戻しますけれども,新山先生の方からは消費者というようなキー ワードが出ましたけれども,過去の保険学雑誌を見ても,本当に正面から消 費者行動を分析した研究というのはないわけではありませんが,やはり非常 に少ないと思うのです。保険業界は,お客様も保険会社がその保険を販売す る際には本当のニーズを知るために多くの保険会社が恐らく,市場分析やお 客様属性分析を行い商品・サービスを提供しています。学会は,この分野に ついては実務の世界として,手を付けていなかったのかもしれません。村田 様の領域にも関係するのですが研究対象として正面から消費者を取り上げる ということは,保険会社の方にしても,非常に重要で魅力的なことではない
でしょうか?新山先生のお話でいえば,潜在的なニーズを知り,それはもし かすると,保険の価値を知るということかもしれません。この分野は,保険 会社側としても,まさに戦略的に共同研究を進めたい対象ではないのかとい うふうに思いますがどうでしょうか。
【西羽 真(損害保険ジャパン日本興亜)】損害保険ジャパン日本興亜の西羽 と申します。今井先生のお話もあわせて,今まで聞いたことがないような話 があって刺激的でした。お話にあった⽛保険会社と消費者との距離の問題⽜
が学会の若手育成にもつながっているのだとすると,保険会社としても責任 が大きいと思いました。ただ,立論の過程で少し疑問に思うところもありま して,その点についてまず述べたいと思います。それから,お尋ねの,研究 についてちょっとこういったことがあるといいのではないかというところを 述べたいと思います。
今井先生のところで言いますと,そもそも,保険法が企業中心に向いてい て商法の中にあったが,これを債権法の契約法の下に持っていくべしという ところは非常に共感をしたところであります。ただ全体要旨の⽛たとえば,
契約代理権を有する代理店が…⽜云々というところ1)で,少し一般手法と保 険の実務に遊離があるのではないかということを書いていらっしゃるのだと 思うのですが,保険実務を考えた場合にそもそも,保険会社が提供できない ようなリスクの話をしてしまっていた場合には,それはこういう結論になる のだと思うのですけれども,何らかの保険会社が提供しているようなリスク であれば,多分こういう結論にならない,ということもあります。また,お よそ提供できないようなものについて話をしていたという場合はそもそも,
無権代理の話にもなるので,そこは別に一般手法とは違う対応ということに は現状はなっていないのではないかなというふうに思いました。
1) ⽛たとえば,締約代理権を有する代理店が,誤って商品紹介をしたため契約 を締結後,実は目的のサービスが付保対象外であった場合,一般の個別契約で あれば,当該給付約束は法的に履行されるべきところであるが,保険の場合は,
給付が他の契約者の出捐に依存する性質上そうはならない。⽜(全体要旨⚖頁)
新山先生のところでは,フランス契約法の情報は何のことをおっしゃって いるのか,よく分からないのですが,⽛互いに相容れない約款情報は無効⽜
というのは,これはどこの国の契約法規においても同じ話なのかなというふ うに思います。日本の保険の実務においても,お互いに相容れていない情報 が有効になるということはないのかなと思いますのでこの辺りはもう少し,
丁寧にご説明いただけるとありがたいと思っているところです。
一方で,新山先生からはいろいろとこういうことも必要ではないかという 話があって,すごく刺激になったと思っていまして,こういうことはできな いのかなというところをお伝えしたいです。基本的に保険の実務もそんなに 一般手法の原則から遊離しては進んでいないと思っていますし,逆に債権法 改正で見送った情報提供義務が業法に入っていて,かなり進んだ取組をして いるところもあると思いますが,そういったところをどう評価するべきでし ょうか。例えば,業法で,情報提供義務と意向把握義務が入ったりしていま すけれども,こういったものにかなりの負荷をかけて対応しております。そ の負荷をかけただけの効果がきちんと上がっているのだろうかというところ を,消費者の分析をしていただいて,コストと効果の検証をする,そういっ たところがあれば,実務家としては頑張ったかいがあるのだということが分 かって,あるいは課題が分かって,さらに消費者の目線で何をやっていかな ければいけないのかというのが見えて良いと思います。そういったところを ぜひ,今後の戦略的な研究をしていただければと思いました。以上です。
【司会】ありがとうございました。フランス法のところも含めて,今井先生 の方からご回答をお願いできますでしょうか。
【今井】どうもありがとうございました。今おっしゃったことは,私も同じ です。ただ,一つは無権代理だとおっしゃるのですけれども,お客さんの方 が代理権を踰越(ゆえつ)しているということを知らないという場合があり ますね。そうだとすると,保険会社の方がいくら代理権に制限を加えたとし ても,それを主張できないかもしれないという側面はあるかと思います。実 際に判例を見ると,実はそういう議論ではなくて,保険契約の場合,裁判所
は,団体性は否定できません。そうすると,代理店さんとあなたとは OK という契約をしたかもしれないけれども,締約代理権があるから,その効果 は会社に及ぶかもしれないけれども,他の保険契約者が払った保険料でその 合意した事項の給付を受けてしまえばタダ乗りになる。それはいかんでしょ うという話に裁判所の見解としては,なっているかと思います。
逆に,私の方から質問させていただいてよろしいでしょうか。実は,御社 は違うのですが,いわゆるネットで契約する保険会社が今,非常に増えてき ていると思うのですけれども,そういう保険会社が例えば,車両保険を売る ときに,代理店を通せば,その車両の現状がどうかということが把握できる わけですが,ネットの場合には,その車がどういう状態なのかということを 多分,確認していないと思うのです。それを同じ条件で売ってしまっていい のかなと思います。例えば,待ち期間を⚒カ月とか⚓カ月持てば,その間に,
車がぶつかったり何かすればそのぶつかった箇所にさびが出て,それは今直 近の事故ではないということが分かるだろうと思うのですけれども,今そう いうことをやっておられないですよね。ネットで売るのはいいのだけれども,
ネット固有の問題というのも出てきていると思います。先ほどの話ではない けれども,販売チャネルによって売る商品に差があってもいいのではないで しょうか。あるいは,そういうふうにして売るべきではないかというふうに 思っているのですが,ご見解を伺わせていただければ幸いです。
【西羽】そういったものがかなり,リアルで問題になっているかどうかとい うのは理解していないのですが,問題になっているのだとしたら,当然ネッ トの保険会社も保険の実務を変えることを検討しているはずだと思いますの で,現状は,そういったことでかなり不正契約が横行しているとかというこ とではないのかなというふうに思います。そうだとすると,やはり保険会社 としても,コストと効果を考えながら実務を考える中では,できるだけ安く することがお客様のためにつながるのであれば,あえて必要以上に厳しく条 件を付けるということをしなくても,まだいいのではないかという判断で,
多分やられているのではないかというように私は思います。
【司会】ありがとうございました。それでは,新山先生の方から。
【新山】ご意見ありがとうございました。情報提供を義務的には果たしてい るけれども,それに負荷がかかり,その効果が上がっているかどうかを知り たいということでしたが,それはぜひ,研究者と共同して研究するように仕 掛けられたら良いと思います。ただ,どういうふうに検討していくというの は,また大きな課題になると思います。
逆に少し伺いたいことがあるのですが,食品の世界から見ると,やはり少 し違和感を感じることがあります。何かといいますと,情報提供の義務は果 たしているというふうにおっしゃったわけですが,情報提供の義務を果たし ているということと,提供されている情報が消費者に十分理解できるのかど うかということは,別だと思うのです。提供した情報が消費者にどのように 読まれているのか,意図していることを消費者がきちんと読み取っているの かどうかということは,会社の方ではどのように把握してこられたのかが重 要です。食品について言いますと,問題が起こり,その都度,上から規制さ れるよりも,お互いにルールを決めて,そして,安全でない食品を市場に出 さないようにしないと考えます。もし安全でない食品を市場に出して健康に 悪影響が起こると,これはもう食品を提供するという役割も果たせないこと になりますので,お互いにそういうふうにルールを作っていくわけです。
ところが,ルールをつくって,例えば検査の基準値を決めて,その基準値 ならば,健康には影響が出ないだろうという検査をして出荷します。しかし,
それについては消費者に全く理解が得られないわけです。検査結果を数字で 公表する。これはすごくお金がかかることですけれども,公表します。そし て,細かく検査が必要だと言われるから,何回も検査をして,特に放射性物 質などは検査をするのに5ó000~6ó000万かかる機械が必要で,その機械を使 っても,⚑日にできる検体は,⚑つの検体が⚒つの検体のような状態なので す。それだけのコストがかかっているということを消費者の人たちはどうい うふうに認識してくれているのかという問題もあるわけです。⽛検査をしっ かりやっているから買って⽜と言っても,消費者が買わないものはどうしよ
うもないわけですので,いかにやっていることを理解してもらえるかという ことに心を砕かざるを得ないわけです。しかも,どのようにしても,リスク はゼロにできないということも消費者に理解してもらわないといけません。
しかし,一方向で説得するコミュニケーションはもうやっても限界で,説 得はできないということも分かっています。リスクがあれば嫌だという消費 者もいらっしゃるけれども,それはそれで,お互いにコミュニケーションを して,お互いにどう考えているか,お互いに理解し合えるのか,し合えない のか,立場がどう違うのかも含めて,立場の違いを相互に理解するところに 持っていかざるを得ないわけです。
日ごろ,そのような食品の世界に身を置き,しかも日本リスク研究学会で もリスクコミュニケーションというのはとても重要な領域になっています。
リスクを取るということは,相互に,関係者間で非常に感覚の開きがあるこ とですので,その開きをお互いに認識して,そこをどうして埋めるかなどを 考えざるを得ません。今日,少しお話をお聞きしただけですけれども,約款 についてコメントしますと,内容的には必要なことが書かれており,恐らく,
改定をされたり,説明書を印刷し直したり,コストもかけられています。た だ,⽛やっているのだから⽜と言われても,それは私自身も一消費者として 失礼ながら,とても約款は読めないです。字も小さ過ぎて,虫眼鏡でもない と読めません。読んでも意味が到底分かりません。こちらは一消費者として の,一市民としての立場になってしまいますが,どうしようもなく,専門家 としてやっている食品の世界と保険の世界のあまりの落差に少し驚きを隠せ ません。ぜひ,またそのこのあたりについて様子を聞かせていただきたいと 思います。
【村田】冒頭の方で,柳瀬先生にご発言いただいたアンケートの件です。そ れの中では,更改の帳票をお読みいただいた方に対して,⽛見ましたか⽜と いう問いと,理解していますかではなく,⽛覚えていますか⽜というのを聞 いています。もちろん,⽛見ていない⽜もたくさんありますし,読んだけれ ども覚えていないというのが結構な割合であったりしまして,検証するのは
非常に難しいのが事実です。もちろん,極力分かりやすいようにしようとい う努力と,かといって,必要な情報は全部入れるという要請との間でせめぎ 合いをしながら,それでも⚗プラスマイナス⚒には到底なっていないだろう と思いますが,相当情報量は絞ってきました。その結果として,どの程度,
見てくれたのか,見たということを記憶しているのか,理解しているのかと いうことを何とか検証しようという努力はしています。それが十分にうまく 調査できるか,その調査を評価するために,うまいきちんとした調査の仕掛 けをつくっているかというと,まだ課題があると思います。
【新山】調査をされているということは研究会でも伺っていまして,了解し ました。このような調査は社会心理学の領域で,かなり専門的にやられてお りまして,私たち自身もそういう勉強をさせてもらいながらやっているとこ ろなのですが,そういう共同作業に入ってはどうかなと思います。例えば,
リスクコミュニケーションです。例えば,放射性物質が健康にどのように影 響を与えるかを低線量の場合どうなのか,高線量の場合どうなのかは,違う わけです。そのことを,政府も市民に伝えようとし,私どもも伝える努力は してきたのですが,文字とそれから絵とか数字で示してもそれがどれぐらい 理解されるかということになります。実際,情報をまとめて提供して,例え ば,ウエブサイトで提供して,それを読んでもらって,その反応を見るとい うふうなことは結構やります。まとめ方について言えば,文字の大きさなど ももちろんあります。ですので,書かれていることを覚えているかどうかと なると,そんなに覚えていられないかも分からないけれども,読んだ直後に 何が書かれていたかを聞くということですと,読めたのかどうかというよう なことは分かると思いますし,その辺は具体的にいろいろ工夫ができるとこ ろではないかなと思って,伺いました。
【司会】新山先生,どうもありがとうございました。まだまだ消費者のとこ ろ,保険会社も,われわれ学会もそうですけれども,そこにまだ,埋めない といけない,もしくは研究の可能性がある部分というのは非常に残っていま す。私も不思議に思うのですけれども,その部分の研究手法というのは経営
の分析と同じぐらい確立されたものがたくさんあります。でも,それを保険 会社,私も含めて,それをあまり意識したことがないし,そういう発想に出 なかったということは真摯に受け止めないといけないと思うのです。もしか すればこのような対応に終始しているために今井先生の ADR のところへ,
そのしわ寄せが全ていっているのではないのかなとふと思います。保険経済 の頼りなさが,保険法分野にご迷惑がおかけしているのではないかとまで少 し感じたりもしています。
【中居芳紀(東京海上日動火災保険)】東京海上日動の中居でございます。先 ほどの今井先生のご質問についてです。通販,大丈夫かということで。私は 東京海上日動の前,外資の金融機関におりましたので,文化的に外資の方が 詳しいのですけれども,通販の自動車保険に関しまして最近,一日保険とい うのが出ておりますけれども,実際に事故対応に当たっている部門の人間に 聞きますと,アフロスが多いようだと言っております。いわゆる事故を起こ した後に加入してくるケースです。少しその辺は心配です。大都市圏は昔か らの専業代理店よりは通販の方の加入率が高くなってきています。今後考え ていかなくてはいけない問題と思います。
それから,私自身が外資との比較で,業界に感じていることを申し上げま す。私ももう64歳ですので,大昔の話になりますが,若いころ,外資でいろ いろなマーケティングの社外研修に出ていました。そこで言われたのが,
⽛中居さんの業界,変わっているね⽜と。富士フイルムとかカネボウなどメ ーカーの人間が出ているセミナーで,商品の価格付けをどうするか,マーケ ティングでどういう戦略を取るかというときに,私の若いころは,約款は全 て全社同じ,料率も全部同じでした。そうすると,マーケティングのディス カッションにすら入っていけない業界だったのです。そこら辺が1996年,保 険の自由化を迎えましたけれども,その直後に私がまた言われたのは,再就 職支援会社のコンサルタントの女性が,経営破綻した生命保険会社社員の再 就職支援をやっていたのですけれども,こう言われました。⽛中居さん,保 険業界の人って,なんであんなに無能なの⽜と。その時に感じたのが,この
保険業界は商品も全社同じ,料率も同じです。その中で,われわれは何に知 恵を使ったかというと,ただ単にいわゆる戦力強化をして,⽛売れ,売れ,
売れ,売れ!⽜と発破をかけるだけの業界にいたがゆえに,先ほど食品業界 の方から言われた,保険業界って分かりにくい文書を平気で提示していると か,やはり大蔵省の護送船団の感覚がいまだにこびり付いているのかなと感 じております。これは海外に行きますと,二千数百社の保険会社がバトルを していますので,やはり相当文化は違うのかなという感じは,私は個人的に 受けております。
【司会】どうもありがとうございました。さて,ここまで議論を積み重ねて きましたが,ここで,若手研究者はどういう学会になれば,保険学会で自信 を持って活躍してもらえるのかということについてを少し,お聞かせいただ けないかと思います。いかがでしょうか?では,上野先生。
【上野雄史(静岡県立大学)】私は伝統的な保険論を学んできた人間ではなく て,岡田太先生のご紹介で,保険とか年金についての会計をやっていたので,
とりあえずヒントになればということです。多分,今井先生が一番,お答え を持っているのかもしれないですけれども,他分野からの取り込みというの はすごく重要なのかなと思います。あまり具体例は出ていませんけれども,
ファイナンス分野から逆に保険の方に入ってきたという研究者が何名かは同 世代でもおります。それは,共同研究を通じて,兼業のつもり研究を積み重 ねてきたら,保険の方が面白く,その分野を侵食しているという人もいます。
私も,今年からリスクをやっているということで,保険論を立てるのは少し ハードルが高かったので,リスクマネジメント論という講義を立ててみたら,
受講生は⚑学生総数150名ぐらいに対し⚓,⚔年生合わせて110名ぐらい来ま した。結構,リスクと保険ということに関しての世間の関心度というのはそ れほど低くないと思いました。
ですから,伝統的な保険論ももちろんコアで大事だと思うのですけれども,
ここをうまく活かしながら,他の分野,私の場合は会計ですが,との融合と いうのはどう図っていくことがキーになっていくと思います。また,私はあ
まり感じなかったのですけれども,保険学会自体に敷居が高いと感じられる 人もいるらしく,保険会計の研究をしているような研究者も結構いるのです けれども,そういう人が保険学会においても活躍できるように他分野からの 取り込みというのがキーになるかなと思いました。
【司会】ありがとうございました。まだまだ議論は尽きないのですけれども,
時間の方が迫ってまいりました。今回は,わざと若手育成を阻む制度的なと ころは外して,皆さんが議論しやすいように,研究分野であるとか,新しい 保険研究領域の可能性について,議論をさせていただきました。制度的な厳 しいところにつきましては,私のペーパーにも書いてありますので,少しご 覧をいただきたいと思います。またそのことについては,また理事会等々で も,議論を続けていきたいと思います。何よりも今回,この中にもおられる のですけれども,日本リスク研究学会の方と日本保険学会の方が一緒に顔を 合わせて,こういう議論ができ,初めて気づかされたことが結構多かったと 思います。そこに,日本リスク研究学会の元気な研究者のように,保険学会 の若手研究者を増やし変えていくヒントがあるかもしれないと思います。
もう一度,今日集まった皆様方で,今日の議論を振り返っていただいて,
自分たちでできることを少し考えていただければと思います。また理事会で 戦略的に考えていきたいと思います。またこの議論は次回の大会にも続くと 思いますし,何よりも今回の2017年の滋賀大学での大会を50年後にもう一回,
滋賀大学でやりたいと考えています。そこまで日本保険学会を残すようにお 力をお貸していただければと思います。つたない司会で恐縮でございますが,
これで,シンポジウムを閉会にしたいと思います。再度,シンポジストの 方々に拍手で感謝の意を伝えたいと思います。どうもありがとうございまし た。