• 検索結果がありません。

技術革新と保険法の課題

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "技術革新と保険法の課題"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

■アブストラクト

近代法の下,自然人は,土地に縛られた封建制度の身分的拘束から解放さ れて人権を勝ち取り資本主義社会における経済活動の主体として権利能力が 生まれながらに付与された。さらに権利義務の統一的帰属主体として法的価 値判断を経た実体にも法人格が付与され資本主義社会の経済活動の主体とし て登場した。法人の誕生である。このような⽛人⽜に対し,⽛物⽜は物権の 客体であって財団等の例外を除いては法人格が与えられることはない。この ように近代法の建前では,⽛人⽜と⽛物⽜は厳格に区別されるのが原則であ る。しかし,近年,特定の事項については人間と同様に⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒 作⽜する人工知能が,銀行,証券会社及び保険会社のような金融機関,医療 現場,工場及び建築現場等でも活用されている。人工知能はそれ自体⽛人⽜

ではなく⽛物⽜でもない。それと平仄を合わせ,保険法上,人工知能は,物 保険としての⽛保険の目的物⽜であると割り切ることは実態に合わないし,

自然人である⽛人⽜であると認めるわけにはいかない。このような両者の中 間形態としての人工知能に保険保護を与えるべきであろうか。また,複雑な 仕組みにより機能する人工知能が誤作動を惹き起こして被害者に損害を与え た場合,責任保険は適用されるであろうか。被害者の損害賠償責任の発生が 明らかにされなければ,責任保険は適用されない。そのためには,事故時と その前後の記憶媒体装置設置義務が法定化される必要があるといわれている が,どの法律に義務規定を新設すべきかが問題となる。

技術革新と保険法の課題

人工知能(AI)が搭載された新技術に対する保険適用等の検討

肥 塚 肇 雄

/ 平成30年11月⚘日原稿受領。

(2)

■キーワード

人工知能,被保険者,記録媒体装置設置義務

Ⅰ はじめに

保険法(平成20年⚖月⚖日法律第56号)成立以降,先進諸国では,情報通 信技術(以下 ICT という),人工知能(以下 AI という)1)及びビッグデータ 等の新技術が,金融の分野ではフィンテック(FinTech)として,保険の分 野ではインシュアテック(InsurTech)として,それぞれの分野で応用され 新しいモノやコトが生み出されている。わが国は,2016年度から2020年度ま での第⚕期⽛科学技術基本計画⽜が2016年⚑月22日閣議決定され,科学技術 政策の基本指針の⚑つとして⽛Society 5õ0⽜の実現に向けて各種計画が立案 された。⽛Society 5õ0⽜とは,Cyber Physical Systems(以下 CPS という)が 活用されたデータ駆動型社会をいう。2016年⚖月15日,⽛Society 5õ0⽜実現 に向けた⽛未来投資戦略2018⽜が閣議決定された。CPS を活用したテレマ ティックス保険及び健康年齢連動型医療保険,健康増進型保険等が既に導入 され本格的なデータ駆動型社会の到来の足音は着実に近づいている。他方,

ビッグデータの本格的活用に伴い,AI が徐々に社会に浸透してきており,

将来,Internet of Things(以下 IoT という)によりありとあらゆるものが インターネットで結ばれるようになる2)

1) 本稿において,AI とは,⽛人間の脳の仕組みとは異なる技術で実現された人 間の脳の認知・判断・操作等の活動⽜と定義する。総務省編⽝平成28年版情報 通信白書⽞233頁(2016年)の AI の定義参照。

2) 世界中の胎児を対象とした周産期管理のためのネットワーク,Internet of Fetuses(IoF)構想も示されており(原量宏⽛香川県で開発された周産期管 理システム,モバイル CTG のグローバル展開への道⽜百十四研究所調査月報 358号12頁(2017年)),スウェーデンでは,既にマイクロチップを身体に埋め 込み電子決済が行われ交通 IC カードの代わり使用されており,この流れは世 界的潮流となって,やがて本格的な Internet of Bodies の時代が到来すると思 われる。肥塚肇雄⽛新しい技術と保険法の課題⽜ジュリスト1522号58頁~59頁

(3)

このような時代の趨勢の中で,近代法における AI が搭載された自動運転 車やロボットの位置づけは難しく,それに伴い保険法における位置づけも問 題となってくるように思われる。

すなわち,自然人の知的活動が⽛人⽜とはいえないように,AI が知的活 動(􀀽􀀽知能)だとすれば,AI は有体物でもないから⽛物⽜でもなく,もち ろん⽛人⽜でもない。また,⽛人⽜の脳だけを取り出して,物権の客体とし て⽛物⽜と評価できないし権利能力を有する⽛人⽜と評価することもできな いように,AI だけを取り出して⽛物⽜や⽛人⽜と評価することはできない。

AI の活用事例として,たとえば自動運転走行の場面では,ロボットがド ライバーのようにハンドルを握って運転するのではないが,AI がドライバ ーと同様に⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒操作⽜を行って自動運転走行が可能となるのだ から,AI 搭載自動運転車及び AI 搭載ロボット等(以下,熟した用語では ないが,⽛AI 搭載 Things⽜という)は,民法の領域で,単純に⽛物⽜(民法 85条以下)と割り切ることもできず,⽛人⽜(民法⚓条以下)と認めることも できない。保険法の領域では,責任保険契約及び費用保険契約の財産保険契 約(狭義)を除いて,AI 搭載 Things に保険をかけるとき,その保険契約 は,AI 搭載 Things を⽛保険の目的物⽜(保険法⚖条⚑項⚗号)として⽛物 保険契約⽜になるのか,AI に⽛被保険者⽜(保険法⚒条⚔号ロハ)性が認め られ⽛人保険契約⽜になるのかが明確ではない。

そこで本稿は,第⚑に,自動運転走行やロボット等が徐々に社会実装され つつあるわが国の社会において,自動運転車及びロボット等に搭載の AI が 保険法上どのように位置づけられるかを考察することを目的とする。第⚒は,

責任保険契約の実効性を確保するために,保険法に記憶媒体装置の設置を義

(2018年)。なお,Brain-Computer Intrface については,山本龍彦⽛⽝身体の自 由⽞のゆくえ <サイバー/フィジカル>が融合する世界の中で⽜法律時報90 巻 12 号 44 頁( 2018 年 )。See, Ienca, M. & Haselager, P., Hacking the Brain:

Brain-Computer Interfacing Technology and the Ethics of Neurosecurity, 18 Ethics & Info. Tech. p. 117, pp. 119-129 (2016).

(4)

務付ける規定を新設すべきかどの法令に定めるべきかを考察することを目的 とする。なぜならば,⽛人⽜の意思活動に近い機能を有する AI の誤作動を 原因として事故が惹起され被害者が損害を被った場合,AI 所有者又は AI 管理者の⽛過失⽜の立証や AI の⽛欠陥⽜の証明は困難であるため,AI 所 有者又は AI 管理者に対する不法行為責任やメーカー等に対する製造物責任 を追及することは実際上不可能であることから,事故時とその前後の状況を 記憶する媒体装置を設置する義務を法定化することが求められるようになる からである。

Ⅱ ⽛人⽜と⽛物⽜の融合化 中間形態としての AI 搭載 Things の登場

⚑ AI 搭載 Things は⽛人⽜か⽛物⽜か

近代法においては,⽛人⽜と⽛物⽜とは厳格に峻別されている。たとえば,

民法の領域においては,家族法及び相続法を除いて,人と人との法的関係を 規律する債権法と人と物との法的関係を規律する物権法とに分けられ,後者 の物権法においては,⽛人⽜(民法第⚑編総則⽛第⚒章人⽜以下)が⽛物⽜

(民法第⚑編総則⽛第⚔章物⽜以下)を管理・支配(使用,収益及び処分3) することを前提とする。すなわち,物権法においては,権利を得て義務を負 うことのできる地位又は資格である権利能力を有する⽛人⽜(自然人及び法 人)が権利能力を有しない⽛物⽜に対し物権を有するという関係で構成され 4)。そして,前者の債権法においては,権利能力を有する⽛人⽜が,⽛人⽜

との間で⽛法律行為⽜を行い又は単独で⽛人⽜が⽛法律行為⽜を行い,その 法的効果として一定の権利義務関係が⽛人⽜と⽛人⽜との間で形成される。

これと平仄を合わせ,保険法においても,保険事故の発生の客体は何かとい

3) 所有権の内容は,使用,収益及び処分である(民法206条)。なお,本稿にお ける民法の条文は平成29年改正法(平成29年法律44号)にしたがう。

4) 無主物については,所有の意思をもって占有した者がその所有権を取得する

(民法239条)。

(5)

う基準から,保険契約を⽛人保険契約⽜と⽛物保険契約⽜に分類する5)

⽛人保険契約⽜は,保険事故発生の客体が⽛生死⽜(生命保険契約の場合)か,

⽛傷害⽜又は⽛疾病⽜(傷害疾病保険契約の場合)である。これらはいずれも ペットや家畜等に発生する⽛生死⽜,⽛傷害⽜又は⽛疾病⽜ではなく,⽛人⽜

に生じる⽛生死⽜,⽛傷害⽜又は⽛疾病⽜である。ここにいう⽛人⽜が⽛被保 険者⽜(保険法⚒条⚔号ロ,ハ6))である。これに対し,⽛物保険契約⽜は,

保険事故発生の客体が⽛保険の目的物⽜(保険法⚖条⚗号かっこ書)である。

保険法上も,⽛人⽜を⽛物⽜として扱う規定は存在しない。

ところが, こんにち,⽛人⽜でもなければ,単純な⽛物⽜とも割り切れな い中間形態の AI 搭載 Things が生れ実社会で活用されている。

たとえば,AI だけに着目しても,ホテル予約サイトで予約するとき,そ の予約サイトには AI が使われており,当該ホテルの近くでのイベントの数,

集客数,当該地域でのホテルの部屋数等の情報を収集して分析し⽛人⽜が関 与することなく値段設定が行われサイトから予約者が申し込むシステムが動 5) 責任保険契約及び費用保険契約については,保険事故発生の客体は,一般財

産であるから,財産保険契約(狭義)に分類される。

6) 傷害疾病損害保険契約における⽛被保険者⽜は,この保険契約が損害保険契 約の一種である(保険法⚒条⚗号⽛損害保険契約のうち⽜)ことから,⽛損害保 険契約によりてん補することとされる損害を受ける者⽜(同法⚒条⚔号イ)と 定義される。しかし,傷害疾病損害保険契約の定義規定中,傷害疾病損害保険 契約においててん補されることが予定される損害は⽛(当該傷害疾病が生じた 者が受けるものに限る。)⽜(同法⚒条⚗号かっこ書)とされていることから,

結局,傷害疾病損害保険契約における⽛被保険者⽜とは,⽛当該傷害疾病が生 じた者⽜に限定されることになる。たとえば,人身傷害保険契約において,直 接自動車の運行等に起因して⽛当該傷害が生じた者⽜の父母,配偶者又は子は,

傷害疾病損害保険契約の⽛被保険者⽜(同法⚒条⚔号⚗号)には該当しない

(⽛自動車保険の解説⽜編集委員会⽝自動車保険の解説2017⽞376頁~377頁(保 険毎日新聞社,2017年))。すなわち,人身傷害保険契約は,保険法上の傷害疾 病損害保険契約とそうではない(保険法が適用されない)傷害疾病保険契約

(通常の損害保険契約(山下友信=米山高生編⽝保険法 生命保険・傷害疾病 定額保険⽞143頁〔洲崎博史〕(有斐閣,2010年))といえるかは疑問がある)

との複合保険契約である。

(6)

いている。ホテル予約サイトシステム􀀽􀀽AI 搭載 Things であり,従来⽛人⽜

が行っていた承諾の意思表示を AI が行っている7)

このような AI 搭載 Things は,保険法上,⽛物⽜として扱うべきかそれと も⽛人⽜として扱うべきかが問題となる。すなわち,たとえば,AI 搭載の 自動運転車が歩行者に衝突し歩行者に後遺障害を負わせた場合,当該自動運 転車が責任帰属主体として⽛人⽜と認められるかが議論されている8)。また,

論じられ得る議論として,AI 搭載の自動運転車が電柱に激突した場合,当 該自動運転車は保険金請求者として⽛人⽜と認められるかという問題が考え られる。後者の議論は,具体的には,AI 搭載の自動運転車に車両保険契約 が適用されるか,それとも自損事故保険契約が適用されるか,すなわち傷害 保険契約における⽛被保険者⽜性が AI 搭載の自動運転車に認められるかと いう議論でもある。

さらに,分析すれば,AI 搭載の自動運転車については,先述のとおり AI だけを⽛人⽜として扱うことは適切ではないが,しかし⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒 作⽜という自然人の自動車の運転と同様の一連の動きを可能とするのは AI だけではできず,AI と他の部分とが連携してはじめて運転は可能であり

(AI 搭載 Things),また,車体自体にセンサーが埋め込まれているので,車 体からこれらを保険契約上分離して取り扱うことは不可能であるとすれば,

AI 搭載の自動運転車全体(AI 搭載 Things)を⽛人⽜として扱うべきだと いう考え方も成り立ち得る9)

7) 大屋雄裕⽛ロボット・AI と自己決定する個人⽜弥永真生=宍戸常寿編⽝ロ ボット・AI と法⽞68頁(有斐閣,2018年)。

8) 自動運転加害車に法人格を付与することは,保険法との関係では,新しい責 任保険契約の創造を意味する。肥塚・前掲注2)60頁。肥塚肇雄⽛保険会社の ICT を使った危険測定と自動車保険契約等への影響 人工知能及び自動運転 を対象として ⽜保険学雑誌636号198頁注23)掲載文献参照。

9) (仮称)⽛車載 AI 傷害保険保険契約⽜を考えることができる(肥塚・前掲注8) 208頁)。なお,AI の法⽛人⽜性については,たとえば,Solum, L.B., “Essay:

Legal Pearsonhood for Artificial Intelligences”, 70 N.C.L. Rev. p. 1231 et seq. 参 照。

(7)

⚒ 損害保険契約における⽛保険の目的物⽜

損害保険契約では,被保険者と⽛保険の目的物⽜との間にある⽛被保険利 益⽜(保険法⚓条)が保険契約の目的となり,損害保険契約においては,被 保険利益の存在は,その保険契約の有効要件である。⽛保険の目的物⽜とは,

⽛保険事故によって損害が生ずることのある物として損害保険契約で定める もの⽜(保険法⚖条⚗号かっこ書)である。ここにいう⽛物⽜とは,保険法 上定義規定はおかれていないので,民法にいう⽛有体物⽜(85条)を意味す ると解される。⽛物⽜は有体物であるから,そして,被保険利益を経済的に 評価した⽛保険価額⽜は,一般に⽛保険の目的物⽜の価額とされている(保 険法⚙条)。したがって,⽛人⽜の生命,身体又はその一部を⽛物⽜と同じよ うに取り扱って,命の値段や身体の一部の値段を経済的に評価することは認 められない。そうすると,AI 搭載 Things は⽛物⽜として保険法上取り扱 えば足りるのであろうか。

この問題の本質には,責任保険契約及び費用保険契約のような財産保険契 約(狭義)を除いて,保険上,⽛人⽜􀀽􀀽Not⽛物⽜,Not⽛人⽜􀀽􀀽⽛物⽜という 関係があるのか(図①),⽛人⽜􀀽􀀽Not(⽛物⽜􀀫􀀫 􀎱􀎱),Not⽛人⽜􀀽􀀽⽛物⽜􀀫􀀫 􀎱􀎱 関係があるのか(図②)という問題である。

10) (図③)で示す􀎱􀎱を保険法上,⽛人⽜でもあり⽛物⽜でもあるという意味の 中間形態(併存説)として捉える考え方も成り立ち得るが,保険法上は,⽛人⽜

か⽛物⽜かの択一的な捉え方をしているので,そのような考え方は認められな いと思われる。

(図①)

(図②)

Î

(図③10))

Î

(8)

思うに,(図②)で示された􀎱􀎱の部分のような中間形態(以下􀎱􀎱(図②)

という)は,⽛人⽜ではない以上,⽛人⽜を前提とする⽛生存又は死亡⽜及び

⽛傷害又は疾病⽜という観念を入れ込む余地はないから,保険法上,􀎱􀎱(図②)

を⽛被保険者⽜とする生命保険契約及び傷害疾病定額保険契約は想定されて いない。傷害疾病損害保険契約においても,保険法⚒条⚗号のかっこ書に示 されているとおり,􀎱􀎱(図②)に⽛傷害疾病⽜が生じるわけではないから,

傷害疾病損害保険契約は想定されていない。損害保険契約では,上記で検討 した傷害疾病損害保険契約を除いて,⽛一定の偶然の事故によって生ずるこ とのある損害⽜に対してん補義務を履行する可能性があるものであれば,

􀎱􀎱(図②)を⽛保険の目的物⽜とする損害保険契約も構成できるが,擬⽛人⽜

的な AI 搭載 Things を単純に⽛物⽜として扱うことは実態に合わないよう に思われる。

そこで,AI 搭載 Things が擬⽛人⽜的存在であるとすれば,その実態に 合わせ,むしろ⽛人⽜に近いものとして11),AI 搭載 Things に⽛被保険者⽜

性を肯定できるかを検討すべきではないかと考える。

⚓ 人保険契約における⽛被保険者⽜性

胎児は⽛人⽜ではなく,したがって,権利能力を有しないのが原則であ 12)。また,保険契約において,被保険者になる地位又は資格として,⽛人⽜

であることが求められ(被保険者の⽛者⽜),⽛生存⽜又は⽛死亡⽜,⽛傷害⽜又 は⽛疾病⽜という保険事故が客体としての⽛人⽜に発生する人保険契約にお いては,被保険者は自然人でなければならないというのが論理的帰結である。

かつて,無保険車傷害保険契約の被保険者に胎児が該当するかという議論 があった。それは,X2(原告・被控訴人・被上告人)の運転する自動車が

11) See, EU Parliament, Report with recommendations to the Commission on Civil Law on Robotics, p. 18 (2017).

12) 民法上は,例外的に胎児に権利能力が認められる場合は,損害賠償請求権

(722条),相続(886条),遺贈(965条),認知(783条)である。

(9)

Y1(被告・控訴人)の運転する自動車と衝突し,妊娠34週間目の胎児だっ た X1(原告・被控訴人􀀽􀀽控訴人・被上告人)が緊急帝王切開手術を受け重 度仮死状態で出生し重度の精神運動発達遅滞(痙性四肢麻痺)の後遺障害が 残ったという事案においてである13)。無保険車傷害保険条項においては,相 手方自動車が任意対人賠償保険契約を締結していない等のために,被害者が 任意対人賠償保険契約により救済されない場合に,⽛被保険者⽜が死亡した か又は後遺障害を負ったときに,無保険車傷害保険金を請求できると定めら れている。加害者 Y1 が任意保険契約を締結しておらず任意無保険状態であ ったため,X1の父親である X3(原告・被控訴人・被上告人)が Y2 社(被 告・控訴任􀀽􀀽被控訴人・上告人)との間で締結する任意自動車保険約款に 附帯する無保険車傷害条項に基づいて,本件事故時に胎児だった X1 も無保 険車傷害条項にいう⽛被保険者⽜に該当するとして,Y2 社に対し無保険車 傷害保険金を請求したのである。最高裁は,平成18年⚓月28日,胎児は損害 賠償請求権については例外的に既に出生しているものとみなされることを確 認し,X1 らは,本件傷害等による損害について,加害者に対して損害賠償 請求をすることができると述べ,無保険車傷害条項に基づいて支払われる保 険金は,⽛賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有する⽜か ら,⽛本件保険契約は,賠償義務者が損害賠償債務を負う損害はすべて保険 金によるてん補の対象となる⽜との意思で締結されたと解するのが相当とし,

X1 らの無保険車傷害条項に基づく保険金請求を認めたのである(上告棄 却)14)

13) 本件事故は保険法施行前に発生しており保険法の規定は適用されない(なお,

保険法附則⚒条ただし書・同⚓条⚑項~⚔項)。仮に保険法の規定が適用され た場合には,保険法⚒条⚗号の傷害疾病損害保険契約の定義規定においては,

傷害疾病損害保険契約とは,保険者が⽛人⽜の傷害疾病によって生ずることの ある損害をてん補することを約するものと定められている関係上,胎児が

⽛人⽜に当たるかが問題となる。

14) 最⚓小判平成18年⚓月28日民集60巻⚓号875頁,判時1927号142頁,判タ1207 号73頁。

(10)

しかし,胎児が例外的に損害賠償請求権について権利能力を有することか ら,最高裁判決は無保険車傷害保険契約を Third-Party 型である責任保険 的に捉えて理論構成しているので,First-Party 型の傷害保険契約に最高裁 判決の射程が及ぶと見るべきではないであろう。無保険車傷害保険契約も搭 乗者傷害保険契約におけると同様に,First-Party 型の傷害保険契約の一種 であるが,⽛被保険者⽜に胎児も含まれると解すべきである。⽛被保険者⽜に 権利能力を求めるのは,モラルハザード誘発防止の観点から,⽛傷害⽜又は

⽛疾病⽜を被った⽛被保険者⽜に保険金が支払われるべきだと考えられるこ とによる。したがって,被保険者死亡事案を除いて,⽛被保険者⽜が保険金 受取人又は保険金請求権者として指定されるのである15)。のみならず,実際 上,受傷した⽛被保険者⽜が⽛通院⽜,⽛入院⽜又は⽛手術⽜等のための保険 金が必要なのであり,その者に保険金が支払われるべきである。

このように考えれば,モラルハザード誘発防止の観点からは,胎児の時に,

母体から⽛傷害⽜又は⽛疾病⽜を被り出生後それにより後遺障害が残った場 合,胎児が⽛被保険者⽜であっても,出生後,新生児が保険金受取人又は保 険金請求権者となって保険金請求権を取得してもモラルハザードの誘発は防 止できるであろうし,出生後,母親が保険金受取人又は保険金請求権者とな って保険金請求権を取得してもモラルハザードの誘発は防止できると思われ る。

AI 搭載 Things を疑⽛人⽜的な存在16)と認め AI 搭載 Things を⽛被保険 者⽜と認めることが法的に可能であれば,AI 搭載 Things が AI の外部から の作用又は内因的な作用によって機能が一部又は全部が不全に陥った場合,

傷害疾病定額保険契約では,指定された保険金受取人が,傷害疾病損害保険 15) 第三者の傷害疾病の保険契約となる場合でも,⽛被保険者⽜が保険金受取人 又は保険金請求権者となるので,被保険者の解除請求は不要であり(保険法34 条⚑項),したがって,⽛被保険者の同意⽜は不要である(保険法67条⚑項ただ し書,74条⚑項ただし書,76条)。

16) 傷害疾病損害保険契約の定義規定である保険法⚒条⚗号には,⽛⽝人⽞の傷害 疾病によって⽜と明記している。

(11)

契約では,保険金請求権者が,それぞれ保険金請求権を取得することになる。

このとき,傷害疾病損害保険契約に関しては問題が次のとおり⚒つ生じる。

⚔ 傷害疾病損害保険契約と AI 搭載 Things

第⚑の問題点は,傷害疾病損害保険契約における被保険者に被保険利益が 必要かである。保険法上,損害保険契約における⽛被保険者⽜(⚒条⚔号イ)

は⽛保険の目的物⽜(⚓条)との関係において,⽛被保険利益⽜(⚖条⚗号か っこ書)を有していなければ,当該損害保険契約は無効となる。傷害疾病損 害保険契約も損害保険契約の一種である(保険法⚒条⚗号〔⽛保険契約のう ち⽜〕)と定められていることから,保険法の規定を素直に読むと,傷害疾病 損害保険契約は,当該被保険者(⚒条⚔号)が⽛被保険利益⽜を有しなけれ ば,その効力は無効となるように思われる。しかし,傷害疾病損害保険契約 は⽛人保険契約⽜の一種である以上,当該被保険者は自らの身体について

⽛被保険利益⽜を観念することはできないと思われ,仮に観念できるとした 場合何について⽛被保険利益⽜を有する必要があるのかがはっきりしない。

むしろ傷害疾病損害保険契約の⽛被保険者⽜には,⽛被保険利益⽜は不要 であると解すべきである17)。すなわち,傷害疾病損害保険契約においては,

⽛被保険者⽜の定義は保険法⚒条⚔号イの定めにしたがうが,傷害疾病損害 保険契約が損害保険契約の一種であっても(⚒条⚗号〔⽛保険契約のうち⽜〕),

保険法⚓条の規定は適用されないと解するのである。

⽛被保険利益⽜とは,保険事故が発生することにより不利益を被ることの あるべき経済的利益18)をいう。損害保険契約においては⽛被保険利益⽜がそ の契約の成立及び存続の要件とされるのは,モラルハザードの誘発を抑止す るためである19)。人間は自己保存本能を有するものである20)し,第三者の傷

17) 金澤理⽝保険法⽞278頁,281頁(成文堂,2018年)。

18) 山下友信⽝保険法(上)⽞307頁(有斐閣,2018年)。

19) 山下(友)・前掲注18)77頁,307頁。

20) 金澤・前掲注17)278頁。

(12)

害の損害保険契約の場合には,被保険者(第三者)は保険契約者に解除請求 すること(保険法34条)によって,モラルハザードの誘発を防止し得る。ま た,⽛被保険利益⽜が被保険者と⽛保険の目的物⽜との間に認められること によって,⽛保険の目的物⽜に発生した保険事故から損害が⽛保険の目的物⽜

と被保険者との間の被保険利益を介して被保険者に帰属するという因果関係 を説明することが可能となる。しかし,傷害疾病損害保険契約は被保険者の 身体に⽛傷害⽜又は⽛疾病⽜が発生したことによる損害を保険事故とするも のであり,被保険者の身体を⽛保険の目的物⽜と扱うことはできない。のみ ならず,責任保険契約における⽛被保険利益⽜を,⽛責任債務の発生により 被保険者の財産状態が変動しないことについて有する被保険者の利益⽜21) 同様に,たとえば,⽛被保険者の身体に傷害が発生することにより被保険者 に損害が発生しないことについて有する被保険者の利益⽜等と定義しても意 味があるとは思われない。モラルハザードが万一発生した場合については,

故意による事故招致免責又は重大事由に基づく解除を定めることによって,

不正な保険金請求を排除することも可能である。

このようにして,傷害疾病損害保険契約においては,⽛被保険者⽜に⽛被 保険利益⽜は必要なく,したがって,保険法⚓条の規定は傷害疾病損害保険 契約に適用されないと解する。

第⚒の問題は,傷害疾病損害保険契約において,AI 搭載 Things を⽛被 保険者⽜として認めることができるかである。保険法⚒条⚗号の傷害疾病 損害保険契約の定義規定においては,傷害疾病損害保険契約とは,保険者 が⽛人⽜の傷害疾病によって生ずることのある損害をてん補することを約す るものと定められている。そこで,この定義規定との関係では,AI 搭載 Things が⽛人⽜に該当するかが問題となる。保険法上⽛人⽜についての定 義規定はおかれていないので,保険法の一般法である民法の規定が適用され ることになる22)。民法上⽛人⽜とは自然人と法人をいう23)。傷害疾病損害保

21) 西島梅治⽝保険法〔⚓版〕⽞269頁(悠々社,1998年)。

22) 保険法は消費者保護の規定(多数の規定があるが,その典型は,片面的強行

(13)

険契約の保険事故は身体の傷害であるから,⽛傷害⽜という概念に⽛人⽜の 身体に対する完全性を害するという意味が内包されている以上,保険法⚒条

⚗号にいう⽛人⽜⽛被保険者⽜には法人は含まれず生身の身体を有する自然 人を意味すると考えられるのは当然である。そうだとすれば,AI 搭載 Things は傷害疾病損害保険契約の⽛被保険者⽜になり得ないように思われ る。

しかし翻って考えるに,権利能力は,自然人の場合,個々人の個別具体性 を捨象して抽象的観念的に人間に付与されたものである。すなわち,権利能 力は,個人が封建的身分制度から解放されたことの証として,資本主義経済 において主体として行う経済活動の単位として,法の世界にあらわされたも のである24)。法人の場合,法人の本質論と関連するが,資本主義経済の取引 単位,すなわち法の世界において,権利義務の統一的帰属主体として法的に 価値判断を経て,立法政策上法人格を付与されたものである25)。法人に法人 格が付与されるのは,立法政策の問題であるのと同様に,AI 搭載 Things に法人格が付与されるのも立法政策の問題である。

ところで,権利とは意思をもって利益を主張することができる法律上の力 であり,最終的に国家権力により利益の実現がなされるものであるから,権 規定〔⚗条,12条,26条,33条,41条,49条,53条,65条,70条,78条,82条,

94条〕である)が数多く定められているため,この点を重視すれば,保険法は 消費者契約法と特別法と一般法の関係にあると捉らえることも可能である。こ の場合は,⽛人⽜とは,解釈上消費者を意味することになり,事業者が保険契 約者となる場合でも,保険法は適用されないことになる(保険法36条は確認規 定と捉えることになる)。しかし,保険法は民法に定められている典型契約と は異なった特殊な保険契約を定めるものであり,この点において,保険法は民 法を一般法とすれば特別法の関係になると解される。

23) 旧くは,松本烝治⽝人法人及び物⽞41頁,43頁,48頁(巌松堂書店,1912 年),我妻榮⽝新訂 民法総則⽞44頁,50頁,114頁(岩波書店,1965年),幾代 通⽝民法総則 «現代法律学全集⚕»⽞22頁,88頁(青林書院新社,1969年)等 参照。

24) 四宮和夫⽝民法総則〔新版〕⽞44頁(弘文堂,1980年)。

25) 四宮・前掲注24)82頁。

(14)

利の主体はその利益が国家権力を背景にその法律上の力で実現される主体で あれば足り,権利の目的である利益の主体である必要はなく26),権利の手段 である意思の主体である必要もない27)。意思能力を有しない者でも,権利の 主体であり,権利の手段としての意思を法定代理人が補充することが可能で ある28)。したがって,犬や猫等のペットが適正な飼育又は保管を求め,⽛健 康及び安全を保持するように⽜(動物の愛護及び管理に関する法律⚗条)求 める意思を表示できるか否かは権利能力の有無に結びつかないし,ペットが 資本主義社会における取引の主体となって経済活動をすることは到底見込め ない。しかし,AI 搭載 Things は,犬や猫等と異なり生命体ではないが,

資本主義社会において経済活動の一翼を担う取引主体と法的に評価し得る余 地がまったくないとは言い切れない。ただ,AI 搭載 Things が取引行為は はたして意思表示(民法93条以下)に基づいてなされているのかは問題であ 29)

このように,⽛人⽜であるためには,法人格が付与されているかどうか,

権利能力が認められているかどうかという視点からの議論がなされるが,保 険法上傷害疾病損害保険契約の⽛被保険者⽜になるべき⽛人⽜かどうかは法 人格が付与されているか否かの視点とは違った角度から論じられるべきで あるように思われる。すなわち,⽛被保険者⽜が胎児のように,保険事故時 に権利能力を有していなくても,傷害の直接の結果として,出生後に傷害又 は後遺障害という結果が生じ傷害による損害又は後遺障害による損害を負 った新生児はもちろん,父母も保険金請求権者として保険金を請求し得る。

26) 松本・前掲注23)44頁,48頁,49頁。

27) 松本・前掲注23)48頁。

28) 松本・前掲注23)48頁。

29) AI 搭載 Things が行う取引行為は⽛法律行為⽜(民法90条以下)と法的に評 価できるかは疑問である。⽛人⽜が一定の法律効果を欲する旨の意思表示を要 素として行う行為が⽛法律行為⽜であるから,AI 搭載 Things が行う取引行 為には一定の法律効果を⽛欲っする⽜意思表示を要素としていないと考えられ るからである。

(15)

これと同じように,保険事故発生時に,権利能力を有していない AI 搭載 Things は自然人のような生命体ではないが,擬⽛人⽜的に,外部からの作 用を受け機能障害が発生した場合にそれによって AI 搭載 Things の所有者 を典型として損害を受けた者が定型的に存在すれば,その者に損害をてん補 することが可能ではないか。この場合,モラルハザード誘発防止の観点から,

Things に搭載の AI の機能不全により損害を受け保険金を請求し得る者を 絞る必要がある。

傷害疾病損害保険契約において,たとえば,死亡による損害は⽛被保険 者⽜の命の値段そのものではなく,したがって,この保険契約による損害て ん補の対象とはならない。逸失利益は,⽛被保険者⽜が死亡したことによっ て労働能力を喪失した結果生じた,将来得られるであろう経済的利益の損失 であるが,これは⽛被保険者⽜の生命が侵害されたことよって相当因果関係 上派生した損害であって,⽛被保険者⽜の生命の値段そのものではないが,

この保険契約の損害てん補の対象となり得る。したがって,⽛被保険者⽜の 命を経済的に評価できず,精神的損害(慰謝料)にも値段が付けられないか ら,慰謝料は,個別具体的な事案に適した損害額を見出すための調整機能と しての損害である30)。葬祭費も生命侵害から派生した損害である。

このように考えると,奇異に感じるであろうが,AI 搭載 Things を疑

⽛人⽜的に扱い⽛被保険者⽜と認め,AI 搭載 Things 自体の損害をてん補す るのではなく,Things に搭載の AI の機能不全から相当因果関係上派生し た損害として,破棄費用,得べかりし利益(営業利益に類する損害)等をて ん補する傷害疾病損害保険契約も契約自由の原則の範囲内にあるように思わ 30) 慰謝料の本質は,⽛損害⽜の概念(差額説,労働能力喪失説,死傷損害説及 び死傷不利益説)と関連するが,制裁説はとり得ず,賠償説によるべきである

(慰謝料についての生活能力喪失説は⽛生活能力と人生教授利益の喪失による 不利益に対する賠償⽜と捉える)。慰謝料の機能としては,てん補的機能,制 裁的機能,満足的機能及び克服的機能等が唱えられてきた。藤村和夫=伊藤文 夫=高野真人=森冨義明編⽝実務交通事故訴訟大系⚓巻 損害と保険⽞460頁~

466頁〔津川哲郎〕(2017年,ぎょうせい)参照。

(16)

れる。

ただ,この傷害疾病損害保険契約は,保険法上の傷害疾病損害保険契約に 分類することはできず,保険法により規律されない保険法⽛非⽜適用傷害疾 病損害保険契約というべきである。

Ⅲ 責任保険契約とAI

原因究明のための記憶媒体装置設置義務の法定化

自動運転車では,Things に搭載の AI が⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒操作⽜を行っ て走行する。車載 AI が⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒操作⽜の過程のうち,適切に認知 ができず,判断ができず,又は操作ができず,その結果たとえば歩行者を跳 ねて後遺障害を負わせた場合,自動車損害賠償責任保険契約又は同共済契約

(以下⽛自賠責保険契約⽜という)が適用されるかどうかが問題となる。こ の問題については,自動運転車事故においては,自動車損害賠償保障法(以 下自賠法という)⚓条ただし書の⚓免責要件を保有者が立証しない限り,自 動運転車の保有者が⽛運行供用者⽜責任を負い(自賠法⚓条),したがって,

保有者が自賠責保険契約を締結しているならば31),被害者は保険会社に損害 賠償額の支払請求権(直接請求権。自賠法16条)を行使して損害がてん補さ れる。

しかし,検討すべきは,⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒操作⽜して自動運転車を走行さ せている AI 搭載 Things に賠償責任を負わせることができるかという問題 についてである。自賠責保険契約も責任保険契約の一種である以上,⽛被保 険者⽜が損害賠償責任を負う可能性がなければ,AI 搭載 Things を⽛被保 険者⽜と定める自賠責保険契約は原始的履行不能となって,当該自賠責保険 契約の効力は無効となる。そこで,AI 搭載 Things は⽛被保険者⽜にあた るかである。

まず,自賠責保険契約の⽛被保険者⽜(自賠法11条)について,傷害疾病 31) 自動運転車が自賠責無保険である場合は,被害者は政府保障事業により救済

されることが予定されている(自賠法71条以下)。

(17)

損害保険契約における⽛被保険者⽜と同様の議論があてはまるであろうか。

自賠責保険契約は自賠法⚑条の目的規定に示されている⽛被害者保護⽜のた めの保険契約であって,⽛被保険者⽜を保護するための保険契約ではないか ら,AI 搭載自動運転車を擬⽛人⽜的に捉える必要はない。次に,責任保険 契約一般においては,責任レベルで,AI 搭載 Things が法人格を有すると して被害者に対し損害賠償責任を負担し損害を賠償すること(原状回復機 能)は,こんにちではまだ社会的に受容されていないし,AI 搭載 Things に民事賠償責任を負わせることにより制裁を科すことは意味がないと思われ るので,現段階では,責任保険契約一般に⽛被保険者⽜に AI 搭載 Things があたると考える必要はない。

自動運転車事故の場合,保有者が AI のソフトウエアをアップデートする 等なすべき点検整備義務を履行している限り,保険会社はメーカー等に代わ ってメーカー等の製造物責任を履行している可能性があるので,保険会社は メーカー等に対する求償権を行使することが想定されている32)。保険会社は メーカー等の製造物責任を追及することになるが,自動運転車の引渡時の

⽛欠陥⽜(製造物責任法⚒条⚒項・⚓条)の立証は著しく困難である。また,

ハッカーがサイバー攻撃を仕掛け,車載 AI とクラウドとの間で,あるいは 車載 AI 又はその周辺の通信機器と Connected されたもの33)との間で,マル ウエアを送り込み,自動運転車を乗っ取ったり又は自動走行を制御不能にさ せたりするおそれもある。しかし,サイバー攻撃がなされたか否かは事故の 外見から直ちに判断できない。従来の自動車事故は,その原因がヒューマン エラーによることが特定できるが,自動運転車事故においては,事故原因を 究明することは著しく困難なのである。そこで,自動運転車事故原因を究明

32) 国土交通省⽛自動運転における損害賠償責任に関する研究会報告書⽜⚗頁~

⚘頁(2018年)。ハッカーがサイバー攻撃をして自動運転車を制御不能状態に 陥れ事故を惹き起こす可能性もある。国交省・同15頁。

33) (自動)運転車はレベルを問わず,IoT と同じように,自動車とあらゆるも のがつながっていく可能性がある(Vehicle to Things:V2X)。

(18)

するため,EDR(イベントデータレコーダー)やログデータを保存する Data Logger(データロガー)等の記憶媒体装置を車体に設置する義務を法 定することが考えられる34)

しかし,自動運転車事故に備えて,ログの記録も含めて,記憶媒体装置設 置義務を法定化するとしても,保険法に明文化すべきか,自賠法で明文化す べきか,それとも新しく特別法を制定すべきかが問題となる。

将来,AI が搭載されたロボットの社会受容性が高まりそのようなロボッ トが社会に普及することであろう。それにより,AI 搭載ロボットにより人 の生命,身体又は財産が侵害される事故も発生すると思われる。そうだとす れば,このような事故により損害を被った被害者は損害賠償請求権を取得し 原状回復を求めるであろう。自動運転車事故の場合は,自賠法が適用され

⽛運行供用者⽜に責任が集中する形式となっていても,メーカー等の製造物 責任及びサイバー攻撃を考慮すると,誰が最終的に責任を負うかが単純に判 断できない。まして自動運転車以外のロボットに搭載されている AI 又はそ れ自体単体で機能する AI から発生した事故の原因を特定することは一層困 難である。そこで,賠償レベルの問題として,民法に AI 搭載の自動運転車 又はロボットに記録装置設置義務を法定することが考えられるが,民法は一 般法であるから,どのようなものにも記録装置を設置させることに途を拓き 得る立法や法改正は避けるべきであろう。

次に,AI 搭載ロボットにより損害が発生した場合に当該損害について賠 償責任を負うと思われるロボット所有者等が責任保険契約を締結し⽛被保険 者⽜になっても,ロボット所有者に損害賠償責任を負うことによる損害が発 生しない限り(保険法17条⚒項かっこ書参照),責任保険契約は機能しない ことになる。そうだとすれば,AI に係る事故の原因究明が困難である点で は,自動運転車事故であるかロボット事故であるかにかかわらない。したが って,AI に係る事故の原因究明は責任保険契約一般に共通する事項といえ

34) 国土交通省・前掲注32)⚘頁参照。

(19)

るので,AI に係る事故原因究明のための記録装置設置義務についての規定 を責任保険契約に係る保険法に新設することが考えられる。すなわち,保険 法上,責任保険契約一般に記録装置設置義務を明記させ,この義務を履行し ていない場合は,保険会社は免責されるという規定を定めるのである。しか し,記憶装置設置をするか否かはメーカー等の商品構成の問題でもあり,賠 償義務者の義務として記録媒体をロボット35)等に設置することが常に可能で あるとは限らないし,記録媒体によって賠償義務者に有利な証拠を収集でき るとも限らないのに,保険法上賠償義務者に記録媒体設置を義務付け,この 義務の不履行の効果として保険会社を免責させることは行き過ぎである。ま た,保険法上,メーカー等に記録装置設置義務を課すことも違和感がある。

自賠法に記録装置設置義務を法定化することも考えられるが,自賠法は,

被害者保護の観点から,運行供用者責任を強化し,その責任の履行の確保の ため自動車の保有者と保険会社との間での自賠責保険契約の締結を義務化し たものであるところ,メーカー等に対する求償権行使を確保するための記憶 媒体装置設置義務は,被害者保護を柱とする自賠法においては夾雑物となる と考えられるので,明記すべきではないであろう。

思うに,仮に上記のような記憶媒体装置設置義務を法定化するのであれば,

AI 搭載のロボット及び自動運転車等について,一定の安全基準を充たした 場合,物損及び人損についてメーカー等は製造物責任を追及されないという 効果,すなわち,免責されるという効果を与え36),その半面において,AI 技術開発を目的とした特別法を制定しロボット及び自動運転車等に記憶媒体 装置設置義務の法定化を定める規定を新設すべきではないだろうか37)。しか 35) 生体内で働く分子ロボットの場合,事故原因究明のための記憶媒体装置を設 置することが可能か疑問なしとしない。なお,東北大学大学院工学研究科は,

2017年⚒月28日,分子機械を制御する⽛アメーバ型分子ロボット⽜を開発した と発表した。

36) 小林正啓発言⽛人と同じく自動運転車にも免許制度を,弁護士が提言⽜日本 経済新聞電子版2018年⚓月28日付。肥塚・前掲注8)84頁~87頁。

37) 製造物責任法の目的は,⽛製造物の欠陥により人の生命,身体又は財産に係

(20)

し,この考えについても,記録された情報は誰のものかという問題は残るし,

ロボット及び自動運転車以外にも記録媒体装置を設置すべきものがあるよう に思われる38)ので,設置義務がある対象物とそうではない対象物との線引き をどのようにすべきなのかという課題が残されたままである。

Ⅳ 結びにかえて

以上をもって,AI 搭載 Things が保険法上どのように位置づけられ保険 保護が与えられるべきか,また,責任保険契約の実効性を担保するための記 憶媒体装置設置義務の法定化についての考察を了える。

本稿では,AI に絞って考察したが,しかし,たとえば AI 搭載自動運転 車では,⽛認知􂆒􂆒判断􂆒􂆒操作⽜という一連の動きをする部分が AI の機能 によってなされるとすると,それ以外の車体部分は単なる⽛物⽜として扱う のか否か,しかし車体にセンサーやレーダが設置されていて,既に単純な

⽛物⽜と評価しえなくなってきているが,このような状況を踏まえ,AI 搭載 自動運転車を保険法上どのように評価すべきかが整合性をもって検討される 必要がある。

さらに,本稿では,傷害疾病損害保険契約を中心に考察したが,たとえば,

筋電義手は AI を使って装着者の脳波を読み取り装着者にとって最適化され た動きをする。このように身体と一体化された新技術は,一層⽛人⽜と る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定め⽜(⚑

条)ることにあるから,AI 技術開発目的とは次元が異なるため,製造物責任 法に記憶媒体装置設置義務の法定化は難しいと思われる。

38) たとえば,火災保険契約においては,住宅がスマートホームに発展すること が想定されており,IoT で家電がつながることから,自動運転車だけではなく,

Connected される世界が出現する。この場合においても,たとえば,火災の原 因を調査する必要がある場合が多発すると思われる。そうだとすれば,自動運 転車事故だけに原因究明のための記憶媒体装置設置が求められるわけではなく,

ICT が活用される住宅にいても,又は,店舗なら,Amazon Go のように一層 インテリジェンス化されるので,保険事故原因を究明するためのモニタリング と記憶媒体装置の設置が求められる。

(21)

⽛物⽜を融合化するものであり,傷害疾病定額保険契約の適用可能性が問題 となってくる。これについては,別稿に譲る。

そのほか,新技術と保険法との関係から生じる問題点がいくつかあるが,

それについては他日を期したい。

(筆者は香川大学法学部教授・小早川法律事務所客員弁護士)

【付記】本稿は,(公財)損害保険事業総合研究所による平成29年度(2017年 度)損害保険研究費⽛自動運転車走行の社会的受容性の促進とサイバーリス ク保険の法的研究⽜の研究成果の一部である。

参照

関連したドキュメント

の総体と言える。事例の客観的な情報とは、事例に関わる人の感性によって多様な色付けが行われ

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

自分は超能力を持っていて他人の行動を左右で きると信じている。そして、例えば、たまたま

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

の 立病院との連携が必要で、 立病院のケース ー ーに訪問看護の を らせ、利用者の をしてもらえるよう 報活動をする。 の ・看護 ・ケア

工事用車両が区道 679 号を走行す る際は、徐行運転等の指導徹底により

以上の基準を仮に想定し得るが︑おそらくこの基準によっても︑小売市場事件は合憲と考えることができよう︒

63―9 法第 63 条第 3 項に規定する確認は、保税運送の承認の際併せて行って