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国民年金未納についての計量分析

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(1)

■アブストラクト

本研究は,国民年金の未納率に影響する諸要因を計量的に計測することに より,未納率改善のための政策を再考することを目的とする。

まず,先行研究で主な未納要因とされた⽛所得(年収)⽜,⽛雇用形態(正職 員,非正規雇用者)⽜に加え,⽛保険料支払いの利便性(分割払)⽜や⽛遺産相 続を考慮した居住条件(両親との同居の有無)⽜,⽛年金の理解度(年金教育)⽜

の⚕要素についてコンジョイント分析によりその影響度を計量化する。

次に漠然と語られてきた⽛年金不信感⽜が支払い意欲に与える影響を計量 評価すると共に,上記の未納惹起要因について⽛学生⽜と⽛社会人⽜に分け その影響度の差異分析を行った。

その結果,①所得(年収)要素が未納率に対し最も影響が大きく,次に非正 規雇用などの雇用形態が大きい。また,年金不信感はこの雇用形態の変化

(非正規化)の⚘割程度の影響度で支払い意欲を大きく押し下げている。

②年金への理解を高める⽛年金教育⽜や⽛保険料支払いの利便性(分割払 い)⽜も有効な政策であり,学生と社会人の間の影響度格差を勘案しつつ政 策を組み立てることが重要である。

■キーワード

未納率,コンジョイント分析,年金不信感

*平成29年⚒月18日の日本保険学会関西部会報告による。

/ 平成30年⚓月28日原稿受領。

盛 林 亮 介 久 保 英 也

国民年金未納についての計量分析

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⚑. はじめに 国民年金未納の現状

国民年金の未納率1)は,⽛失われた20年⽜と言われる日本経済の長期停滞 や非正規雇用比率の上昇などの経済・社会構造の変化を受け,一貫して上昇 し,現在も高水準の状態が続いている。図⚑に過去55年間にわたる未納率の 推移を示したが,バブルの清算が加速した1990年代の後半以降に急上昇し,

2016年は約35%の水準となっている。学生特例納付,若年者特例猶予制度の 活用により,未納率はやや改善の動きも見られるものの,実質的な未納者で ある全額納付免除者の増加トレンドは変わっていない。すなわち,保険料の 未納についての議論は,若年層重視から今後は若年層とそれ以外との差を理 解しつつ,より広範な年齢層を対象に進める必要がある。

1) 未納率(%)=100−納付率(%)

納付率(%)=納付月数/納付対象月数×100で表される 図⚑ 未納率の推移と未納者の状況

(出所) 厚生労働省(2002-2017)厚生労働省年金局資料に基づき,筆者作成

(3)

未納率を惹起する主要因として,⽛所得(年収)⽜,⽛雇用形態(正職員,非 正規雇用者)⽜を多くの研究者が挙げてきた。まず,この⚒つの要因を長期 的に鳥瞰するため,①所得に対する国民保険料の割合(以下,保険料負担率 と呼ぶ)と②雇用者に占める非正規雇用者の割合の推移とをみたのが図⚒で ある。折れ線グラフで示した保険料負担率は一貫して上昇して3õ5%を超え,

非正規雇用の全雇用者に対する割合を示す棒グラフも同様に上昇し,2016年 度には37õ5%の水準に達している。

この増加する非正規雇用者の年齢構成を図⚓に見ると,2006年をピークに 34歳未満のグループの構成比は緩やかに低下し,35歳以上の中高齢層グルー プの割合が増加している。一般的に,年齢の上昇とともに条件の良い就職機 会は減少することから,一旦未納となると未納状況が長びく可能性がある。

2016年度の非正規雇用者における35歳以上の割合は既に⚗割にも達すること から,学生特例納付などの政策とは別の対策が求められている。

図⚒ 保険料負担の増大と非正規雇用の増加

(出所) 筆者作成

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悩ましいのは,この非正規雇用者比率の上昇が好景気の中で生じているこ とである。2012年12月に始まった今回の景気回復局面は高度成長期の⽛いざ なぎ景気⽜を超えて戦後⚒番目の長さとなり,2017年の有効求人倍率は1õ50 倍と1973年の1õ76倍に次ぐ史上⚒番目の高水準となっている。これを受け,

図⚓の各年右側の棒グラフで示した失業者数は減少しているものの,未納と の関係が強い非正規雇用者数は1ó200万人を超える高水準となっている。

未納者の状況を詳しくみるために,未納者の属性調査が行われた2008年,

2011年,2014年の⚓回の調査時期と景況を重ねたものが図⚔である。折れ線 で示した景気の強さを示す内閣府のコンポジットインデックス(CI と表示,

数字が大きいほど景気は力強く拡大していることを示す)はこの間急速に上 昇し,景気回復の姿が明確に見て取れる。しかし,棒グラフの斜線で示した 未納理由の中の経済的要因は常に⚗割前後を維持し,低下の兆しはない。ま た,景気動向と本来関係の小さい国民年金の不信感も未払い理由の約⚒割を 占め,景気動向を無視する形でこの⚒つの未納理由が全体の⚙割を占める状 況が変わっていない。

図⚓ 非正規雇用者と失業者の年齢別構成の推移

(出所) 筆者作成

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すなわち,景気拡大の恩恵が必ずしも国民年金保険料を未納とせざるをえ ない層には届いておらず,所得格差の固定化が生じている可能性が強い。経 済や雇用構造に働きかけるマクロ政策も重要ではあるが,国民年金未納率の 改善には異なる視点の政策が必要である。

⚒. 先行研究

年金保険料が未納となる要因として,鈴木・周(2001)は,①⽛流動性制 約要因⽜(絶対的に所得が低いため支払い余力が乏しい),②⽛予想死亡年齢 要因⽜(自身の健康状況に自信がない等により,自己の死亡年齢は高くはな いと予想し,年金の将来の期待受取額を低く見積もる),③⽛世代間不公平 要因⽜(支払い損)の⚓つを挙げている。また,旧郵政省・郵政研究所の

⽛家計における金融資産選択に関する調査⽜の個票データを用いて分析した ところ,国民年金への加入率は金融資産が多い層ほど高く,失業・無職など 経済的に厳しい状況下にある層ほど低いことを明らかにしている。一方,

⽛予想死亡年齢要因⽜と⽛世代間不公平要因⽜による未納は,⽛逆選択⽜(こ 図⚔ 景気変動と保険料の未払い理由

(出所) 筆者作成

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こでは,健康に自信のある健常者や受取年金額総額から支払保険料総額を差 し引いた実質年金受取額の多い高齢世代などが積極的に国民年金に加入する ことを言う)を生み,年金制度自体の存続危機を惹起するとした。そして,

⽛逆選択⽜要因の方が⽛流動性制約要因⽜よりも影響が大きいとしている。

これら以外の未納要因として,非正規雇用や年金教育の不足を挙げている。

この流動性制約(収入の制約)や保険料率の変化(家計支出の増加)につ いての研究は数多くあり,例えば,小掠・角田(2000)は社会保険料と保険 料負担率の関係を分析し,特に保険料の上昇が保険料の負担率を悪化させる とした。阿部(2001)は保険料率上昇が未納を促進するとし,中橋(2011)

も都道府県別のデータを用いたパネル分析により,生活保護率の高さと未納 率の相関性を示した。

一方,佐々木(2012)は,両親の収入水準や納付状況が学生本人の納付行 動に影響するとし,四方・村上・稲垣(2012)も追納付行動において,所得 水準が低い場合には追納する確率が低くなることを示している。

ただ,国民年金の未納に対して各要素がどれだけの影響度を有しているか は明確ではない。そこで,本稿では,盛林(2014)のアンケート調査の範囲 を更に広げると共に分析を深化させることにより,先行研究の中で挙げられ た主な諸要因についてその影響度を計量的に把握し,未納率改善に向けた方 策を考えてみたい。

⚓. 分析目的と方法

⑴ 分析目的

前述の通り,先行研究では年金未納の主要因として,⽛流動性制約要因⽜,

⽛予想死亡年齢要因⽜,⽛世代間不公平要因⽜に加え,⽛雇用形態(非正規雇 用)⽜,⽛年金知識の不足⽜などが挙げられている。政策立案過程においては,

これらの要因が未納率に対しどの程度の影響力を有しているかを知ることで,

有効かつ効率的な政策を組み立てることができる。

そこで,本稿では,アンケート調査に基づくコンジョイント分析を用いて,

(7)

これら諸要因が未納率に与える影響を計量的に把握することを目的とする。

また,国民年金保険料の支払い行動が異なるであろう,学生(若年層)と社 会人(中高齢層)に分けて分析を行うことにより,その行動格差を明確にす る。

⑵ 分析の対象となる基礎データ

アンケートの対象は,学生が滋賀大学の経済学学部と博士前期課程の学生 であり,社会人はエリアを限定せずに広く一般の社会人とした。学生を調査 の中心に据えたのは,彼らの多くが国民年金保険料の学生特例納付制度を実 際に利用しており,将来的に保険料の追納を考える可能性が高く,その支払 い行動を想像しやすいことから,アンケート調査であっても現実の行動に近 い選択をしてくれるのではないかと考えたからである。

アンケート回答者の属性や採用した未納に対する各種の要因,その水準,

回答者の評価尺度は,表⚑にまとめた。ちなみに,コンジョイント分析は,

複数の要素とその水準を設定し,直行配列表2)により選ばれた組み合わせに ついて評点を付与することにより,要因ごとの影響度を計測する手法である。

また,要因ごとの水準を組み合わせることにより,政策全体の効用や影響度 を推定できる。

標本数は,学生101,社会人30の計131であり,平均年齢は学生が19õ7歳,

社会人が38õ1歳と約20歳の差がある。性別は,学生,社会人とも男性を60%

弱とした。

2) 要因と水準をすべて組み合わせて評価した場合,組み合わせ数が膨大となる ため,より少ない組み合わせで分析することができるよう要素と水準を割り振 った表。

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分析に用いる未納要因は⚕つとした。第⚑が,①流動性制約要因の代理変 数である⽛年収水準⽜である。その水準は,ボランタリーなアルバイトやパ ート層を想定した100万円,非正規の常用雇用者を想定した250万円,正職員 層を想定した400万円である。

第⚒に,保険料支払いの利便性を引き上げる施策として②⽛保険料額の分 割納付⽜である。現行の国民年金保険料月額16ó340円(2018年度)の半額の 8ó000円×⚒回の分割支払を設定した(分割にしても支払う保険料総額は同 じ)。

第⚓が,非正規雇用者の影響を取り込むための③⽛雇用形態⽜を要因とし,

区分は正職員と非正規雇用者とした。第⚔が,世代間での遺産等の所得の移 転が保険料支払いに与える影響を調べるために④⽛居住形態⽜を設定した。

遺産はないとみなした⚑人暮らしと将来遺産となる家を有する親と同居とい 表⚑ アンケート回答者の属性と設定した未納要因・その水準,評価尺度

(出所) 筆者作成

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う⚒区分を設けた。

第⚕が国民年金制度についての教育が進めば,その趣旨を理解し年金保険 料の支払が増えると考え,⑤⽛年金制度の理解度⽜を挙げた。具体的には,

年金教育の増加と現状のまま,という⚒区分を設けた。アンケートには国民 年金制度についての理解が進むように,国民年金の意義や仕組みについての 簡単な説明文書を入れた。

回答者には,自分が置かれた現在の環境ではなく,上記の①~⑤の要素が 作り出す場面を⽛想像して⽜もらい,それぞれのケースについて,保険料を 支払いたくなるかどうかを,⚑~⚗の⚗段階(⚑:保険料を払いたくない,

⚔:どちらとも言えない,⚗:ぜひ支払いたい。⚑-⚔と⚔-⚗の各間を⚓分 割し,⚒ó⚓と⚕ó⚖を設定)で評価してもらった。したがって,評点が中点 である⚔を超えると支払い意欲が高まり,⚔を下回ると支払い意欲が低くな る。

実際は,48通りの組み合わせが発生するため,回答しやすいように,また 最低限の分析が可能となるように直行配列表に基づき表⚒に示した10の組み 合わせについて回答(⚑~⚗の評点付与)を求めた。

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⚔. 分析結果(学生+社会人の計)

回答を得た131の標本を対象に,コンジョイント分析を行った結果を表⚓

に示した。まず,当該モデルの当てはまりや適合度を表すピアソンのRは 0õ999,ケンドールのタウは0õ929と高く,モデルの当てはまり状況は良い。

個別の要因ごとにみると,①の年収要因の支払い意欲(部分効用)は,

−1õ372から+1õ411と最も大きく,国民年金保険料の未納を誘発する最大の 要因となっている。同表の最右欄は,環境が変わった場合の未納への影響度 を示し,例えば,年収水準が100万円から400万円に上昇すると支払い意欲は 2õ783ポイントも上昇する。

また,③の雇用形態の影響度も大きい。非正規雇用者の支払い意欲(部分 効用)の幅は−0õ313から+0õ313であり,雇用形態が変わることによる未納 への影響度は0õ626となり,年収水準の100万から400万円への上昇に非正規 職員から正職員への身分変更が伴えば,支払い意欲は2õ783に0õ626を加算

表⚒ アンケートにおける回答パターン(選択枝の組み合わせ)

(出所) 筆者作成

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した3õ409となる。この次に,保険料納付の利便性(分割払いの導入:

+0õ214),年金制度の理解度(年金教育:+0õ184)と続く。

また,定数項は,各要因のスタート点を示す役割があり,見方を変えれば,

国民年金制度全体への信頼度を表す指標とみなすことができる。解釈にはあ る程度の幅が必要であるが,定数項の値は3õ524と残念ながら⚔を下回り,

国民年金制度に対し,年金不信が存在することを示している。

この不信感の度合は支払い意欲中立を示す⽛⚔⽜を0õ476ポイント下回り,

その大きさは,前述した正職員と非正規の職員の身分変更が引き起こす影響 度(この場合は低下)である0õ626の⚘割近いインパクトを有する。公的年 金制度の信頼感を維持し,高めていくことがいかに重要かを示している。

これらの数値を用いて,代表的な⚕つのケースについて支払い意欲を算出 表⚓ コンジョイント分析の結果

(出所) 筆者作成

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してみよう。まず,正職員と非正規雇用者に分け,更に非正規雇用者につい ては年収水準による⚓つの格差(所得が高,中,低)を設けた。そして,政 策効果を測るため,この非正規雇用者かつ所得(中)のケースに支払いの利便 性の改善と年金理解度を高める政策対応を行った場合を試算した(ケース

⑤)。表⚔にその結果を示した。

まず,一般的な正職員の状況を想定したケース①では支払い意欲は5õ022 と積極的な支払い意思が見られる。また,非正規社員だが比較的年収水準が 高いケース②では支払い意欲評価点は4õ396となり,正職員の場合より低い ものの,⚔を超えており国民年金保険料の支払いには前向きである。

ケース③の年収水準:中の非正規雇用者は2õ946,④の年収:低は1õ613と 支払意欲は急速に低下していく。

政策効果を測定するケース⑤は,前述の通り,非正規職員で所得中(250 万円)について,分割払いを認めて保険料支払いの利便性を高めると共に年 金教育を実施して年金理解度を高める政策を追加したケースである。支払い 意欲は,中立を示す⚔を下回るものの,2õ946から3õ344まで上昇している。

これに正職員への身分変更が加われば,⚔の近傍に到達できることを示して いる。

(13)

⚕. 学生と社会人における年金保険料の支払意欲の差

前節では,学生と社会人を合わせた全体の分析を行ったが,標本数は学生 が社会人の約⚓倍あるため学生の支払意欲が強めに出ている可能性はある。

そこで,本節では,学生グループと社会人グループ別に,未払い要素ごとの 支払い意欲の差をみた。それぞれのコンジョイント分析の結果を表⚕にまと めた。

まず,モデルの当てはまりは,学生グループ,社会人グループ共に相関係 数とケンドールRとが高い数値を示し,モデルの適合性は良好である。

最も大きな未収要因である①の年収水準については,社会人グループは,

年収400万円層が1õ55と学生の1ó37を0õ18ポイント上回る一方,年収100万円 層では−1õ417と学生の−1õ358値より約0õ06低く,年収水準の影響を大きく 見ている。仮に年収が100万円から400万円に上昇した場合には2ó967の支払 い意欲の改善となり,その改善幅は学生グループを約0õ24ポイント上回る。

同様に,社会人グループは,⽛居住要因(遺産)⽜や⽛年金の理解度(年金 表⚔ 主なケースごとの支払い意欲

(出所) 筆者作成

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教育)⽜において学生グループより支払い意欲への影響が大きくなっている。

これは年金教育の対象をどうするかを考える際に重要である。

逆に,雇用形態における非正規雇用の要因については,社会人グループは 0õ237となっており,学生グループの0õ335より約0õ1ポイント低い。正職員 か非正規雇用の差については,学生グループの方が敏感であることを示して いる。これは,社会人グループにおけるアンケート対象者の多くが正規雇用 者であり,雇用形態の差について意識が低かったことによる可能性が残る。

年金不信感を代理する定数項は,社会人グループが3õ467と学生グループ より約0õ1低く,やや意外な感はあるが年金制度への信頼感は学生より低い。

これも,年金教育を社会人グループに拡大し,年金制度への理解を深めるこ とが重要であることを示している。第⚑節で分析したように保険料の未納者 は学生から年齢の高い社会人にむしろ拡大しており,年収水準要因や雇用形 態要因については政策でコントロールしにくいことから,支払いの利便性の 改善や年金教育機会の増加に着目した政策が,今後はより重要になる。

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前出表⚔で示した⑤の政策反映のケースを学生と社会人別にみたのが表⚖

である。社会人グループは,自分が①正社員,③非正規社員(中),④非正規 社員(低)を想定した場合において,学生より支払い意欲が低くなるという結 果になった。それは,社会人の定数項が前述した通り3õ467と学生の3ó542よ り低く,年金制度そのものに対する不信感が強いのに加え,雇用形態による 影響度(社会人0õ237に対し学生0õ356)が小さいことが原因である。

非正規で所得(中)に,年金教育の実施と分割による支払利便性の向上とい う政策を加えた場合(⑤のケース),学生グループの3õ383に対し,社会人グ ループは3õ209と学生グループの方が支払意欲は高い。ただ,同じ政策を講 じた場合の効果という視点で見れば,社会人グループが+0õ432の増加,学 生グループが+0õ386の増加と社会人グループの方が政策効果は高い。

表⚕ 学生,社会人の保険料支払い意欲の差

(出所) 筆者作成

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今回のコンジョイント分析では,アンケート調査の複雑化を避けるため未 納率に影響する要因としては選択しなかったが,鈴木・周(2001)が指摘す る重要な要素がもう⚑つある。それは逆選択を惹起する可能性のある⽛健康

(健康な人は長生きする可能性が高いと思い年金保険料の支払いにも積極的 なる)⽜である。そこで,コンジョイント分析とは切り離し,別途健康と保 険料の支払意欲について,アンケート調査を実施(サンプル数は同じく131,

うち,学生101,社会人31)した。その結果を表⚗に示した。

表⚖ 社会人,学生別 主なケースごとの保険料支払い意欲

表⚗ 健康が年金保険料の支払い意欲に与える影響

(出所) 筆者作成

(出所) 筆者作成

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標本全体でみると健康と支払い意欲の関係は,意欲が高まると高まらない が半数ずつで明確ではない。しかし,学生グループ,社会人グループ別にみ ると,平均年齢が学生より約20歳高い社会人は,相対的に健康への関心が高 いことから,⚔分の⚓が良好な健康状態は支払い意欲を強める要素であると している。平均年齢の19õ7歳の学生は,そもそも健康であり,健康へのこだ わりが相対的に小さいことから,健康が支払い意欲へ影響することはないと する回答が⚖割近くとなっている。前述のとおり,国民年金の未払いが,若 年層から高齢層へ広がる中では,国民の健康増進という政策も支払い意欲を 改善させる可能性がある。

⚖. 結 語

国民年金の高い未納率の原因は,⽛主に年金不信,所得,非正規雇用の増 大にある⽜など概念的に結論付けられることが多かった。ただ,未納率の圧 縮に向け効果的な政策を打ち出すには,未納率に影響を与える諸要素がどの 程度影響するのかを定量的に掴むことが重要である。

本稿では,サンプル数が未だ少ない中ではあるがコンジョイント分析を用 いることにより,国民年金の未納率に影響する諸要素の大きさを計量的に把 握することができた。

未納率に影響を与える要素は,予想通り年収(流動性制約要素)が大きく,

例えば,年収100万円が250万円に上がると支払い意欲は,約+1õ4ポイント 上昇する。ただ,年収を政策的に引き上げることは難しいことから,非正規 雇用者の正職員化や同一労働,同一賃金制度を機能させれば,支払い意欲は 約+0õ6ポイント高まる。これに,年金の理解度を高める年金教育機会の増 加や国民年金の保険料の分割払いなどの利便性を高める事で,更に支払い意 欲を+0õ4ポイント高めることができる。すなわち,未納に対し,年収の上 昇に相当する効果を持つ代替政策が存在することになる。

また,今まで漠然と語られてきた⽛年金不信⽜が支払い意欲に影響する度 合は支払い意欲の0õ4ポイント程度の引き下げ圧力となっている。社会人に

(18)

むけての効果的な年金教育がこの下押し圧力を弱めると考えられる。

一方,利便性の向上も重要な要素であるが,それには大きなインフラ投資 がいるため,困難と思い込まれている。ただ,携帯電話における決済や中国 でみられるような柔軟な仮想通貨決済などが進めば,今後劇的に進む可能性 がある。

年金未払率の改善は確かに難題ではあるものの,有効な対応策が無いわけ ではない。支払い意欲に影響する諸要素の影響度を計量的に測定し,政策に 優先順位を付け,効果的な政策群を組み上げることが重要である。

(盛林亮介:宮崎精鋼勤務)

(久保英也:滋賀大学経済学部教授)

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吉中季子(2014)⽛国民年金の制度的変遷における学生の取り扱い:その議論にみ る位置づけの変容⽜⽝紀要⽞第⚘号,pp. 53-64。

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○ウエブサイト

厚生労働省年金局(2007)⽛年金財政ホームページ 国民年金 免除者数,免除割 合,納付率,繰上げ率の推移⽜2018年⚓月23日現在

http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/report/zaisei/data/data01/kokumin/kk-15.

html

政府統計の総合窓口(e-Stat)(2018)⽛一般職業紹介状況(職業安定業務統計)有効 求人倍率(実数及び季節調整値)⽜,2018年⚓月23日現在

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&tstat=0000010 20327&cycle=1&tc lass1=000001035164&second2=1&stat_infid=000031677232 総務省統計局(2018-1)⽛労働力調査 長期時系列データ表⚓【年平均結果 全国】

(9) 年齢階級(10歳階級)別完全失業者数及び完全失業率(エクセルシート(1968 年~)⽜2018年⚓月23日現在

http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

総務省統計局(2018-2)⽛労働力調査 長期時系列データ表10【年平均結果 全国】

(1) 年齢階級(10歳階級)別就業者数及び年齢階級(10歳階級),雇用形態別雇用 者数(エクセル:210KB)(正規の職員・従業員,非正規の職員・従業員(パー ト・アルバイト,派遣社員など)) (2002年~)⽜2018年⚓月23日現在

http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html 日本年金機構(2018)⽛国民年金保険料の変遷⽜2018年⚓月23日現在

http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo-ensen/20150331.html

参照

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