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重大事由解除に基づく反社会的勢力排除 の法理

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重大事由解除に基づく反社会的勢力排除 の法理

藤 本 和 也

■アブストラクト

反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の可否を検討するに際しては,

重大事由解除の包括条項における「信頼関係破壊」要件の実質を明らかにす る必要がある。そして近時,「信頼関係破壊」要件の実質に関する幾つかの 見解が新たに示された。本稿では,「反社排除の社会的要請」,「社会規範の 変化」,「対立抗争」,「公序良俗違反」,「個別の反社属性」,「保険契約者等の 行為」,「反社属性に関する虚偽告知や表明確約違反」等と「信頼関係破壊」

要件の関係を検討することにより,「信頼関係破壊」要件は,保険制度の健 全性維持を可能とし同時に重大事由解除の濫用を防ぐべく,重大事由解除の 機能をモラル・リスク排除に限定する役割を有している点を明確化しようと 試みている。

保険契約における保険者の信頼は,「保険契約者等が将来において保険金 の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為(モラル・リスクを招来する 行為)を行わないこと」に向けられている。故に,モラル・リスクと直接の 関連性を有する事情は「信頼関係破壊」に影響を与えることになる。しかし,

モラル・リスクと直接の関連性を有しない事情は「信頼関係破壊」に影響を 与えない。

■キーワード

重大事由解除,反社会的勢力,暴力団排除条項

*平成27年10月24日の日本保険学会全国大会報告による。

/ 平成28年3月29日原稿受領。

(2)

1. 本稿の目的

生損保各社は保険契約から反社会的勢力(以下,「反社」という。)を排除 するため,反社属性のみに基づく解除を可能とする暴力団排除条項1)(以下,

「暴排条項」という。)を保険法の重大事由解除における包括条項(保険法30 条3号,57条3号,86条3号)の具体化であると整理したうえで保険約款に 導入した。もっとも,近時,反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の可 否に関し幾つかの見解が示されたことから2),改めて「信頼関係破壊」要件 および「契約継続の困難性」要件の意義を検討する必要が生じた。また,本

1) 厳密に言えば「反社会的勢力」は「暴力団」を包摂する広い概念であるが,

本稿では「暴力団排除条項」を「反社会的勢力排除を目的とした条項」の意味 で用いる。

2) 藤本和也「暴力団排除条項と保険契約」保険学雑誌621号(2013)脱稿後に発 表された文献として(紙幅の関係上,脱稿前の文献は同論考を参照いただきた い。),嶋寺基「新保険法の下における保険者の解除権 重大事由による解除の 適用場面を中心に」『石川正先生古希記念論文集 経済社会と法の役割』(株式 会社商事法務・2013)838頁,山下友信=永沢徹編『論点体系保険法1(総則,

損害保険)』288頁〔山下典孝〕(第一法規・2014),山下友信=永沢徹編『論点 体系保険法2(生命保険,傷害疾病定額保険,雑則)』215頁〔山下典孝〕(第 一法規・2014),落合誠一監修・編著『保険法コンメンタール(傷害保険・傷 害疾病保険)第2版』177頁〔榊素寛〕(公益財団法人損害保険事業総合研究 所・2014),天野康弘「重大事由解除と反社会的勢力の排除について」保険学 雑誌629号(2015)181頁,潘阿憲「生命保険契約と重大事由解除」生命保険論集 192号(2015)1頁が挙げられる。また,平成27年度日本保険学会全国大会にお ける報告「重大事由解除に基づく反社会的勢力排除の法理」(藤本和也)の後 に示された文献として,山本啓太「共済契約者が暴力団員であることを理由と する共済金支払拒否の可否」法律のひろば2016年1月号60頁,鈴木仁史「反社 会的勢力との保険契約の解除⑴」金融法務事情2032号64頁,鈴木仁史「反社会 的勢力との保険契約の解除⑵」金融法務事情2034号58頁,大野徹也「保険契約 における暴力団排除条項と重大事由解除の規律」金融法務事情2035号が挙げら れる。

これらのうち,反社属性のみに基づく重大事由解除権行使に疑問を呈するも のとして,潘・20頁以下,および,山本・68頁以下が挙げられる。

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稿は,反社に属する者はモラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有するこ とを根拠として反社属性のみで「信頼関係破壊」要件が充足され重大事由解 除権行使が可能であるとする立場3)を前提とするが,未だ検討が十分でない 論点が存在している。

これらに検討を加え,重大事由解除権行使の要件の実質や限界を明確にす るとともに,反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の正当化を試みるこ とが本稿の目的である。

2. 重大事由解除と「信頼関係破壊」

⑴ 重大事由解除の包括条項における「信頼関係破壊」要件の実質

保険者と反社該当者の信頼関係形成は不可能であることを前提に反社属性

3) 本稿は,藤本・前掲註2) で示した見解を前提としている。すなわち,「組織 的に統制された状態で違法・脱法的手段を用いて経済的利益を獲得する反社に 所属する者は,犯罪行為に手を染めることが約束された存在であり,将来,保 険金の不正請求に関与する蓋然性は通常人に比べて相当に高い」のであって,

「反社に属すること自体で保険金の不正請求を招来する高い蓋然性があること をもって信頼関係が破壊されたと考えることは,モラル・リスク排除を念頭に 置く重大事由解除の趣旨に反しない。保険者は,保険契約者等が将来において 保険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為を行わないことを信頼し て保険契約を締結するのであり,保険契約者等が将来において保険金の不正取 得等を行う蓋然性が高い集団に属すること自体,保険者との信頼関係を破壊す る事情であるというべき」ことから,反社属性のみで信頼関係が破壊されるこ とにより重大事由解除権の行使を可能とする見解である(藤本・前掲註2) 99 頁参照)。

この見解は,保険法における重大事由解除の包括条項を根拠に保険契約から 反社を排除する。暴排条項導入後の新約款契約では重大事由解除の具体化であ る暴排条項を直接の根拠として,暴排条項未導入の旧約款契約および暴排条項 未導入・重大事由解除条項未導入の旧々約款契約では(保険法附則3条1項に より重大事由解除は遡及適用されることから)保険法を直接の根拠として,保 険契約からの反社排除を可能とする(暴排条項が存在しない場合であっても,

理論上は反社属性のみに基づく重大事由解除権行使が可能である。また,暴排 条項は重大事由解除の包括条項の枠内にあれば適法であると考えることにな る。)。

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のみに基づく重大事由解除権行使を認める見解が示された。反社該当者は保 険者が信頼関係を形成する意図を一切有さず,保険契約を締結することもな い者であることを根拠とする見解4),保険者は反社該当者に対し信頼関係を そもそも構築できないのであって,両者の間には「信頼を損な」う以前に

「信頼関係は存在せず」,「契約の存続は困難」どころか「契約の締結からし てそもそも不可能」という帰結になることを根拠とする見解5)である。たし かに,保険契約からの反社排除が社会的に要請される状況下において,保険 者と反社該当者が「相互に信頼しあう」という一般的な意味での信頼関係を 構築することは不可能であろう。しかし,属性のみに基づく重大事由解除権 行使の可否を論ずる文脈において検討すべきは,このような一般的な意味で の信頼関係破壊が保険法の重大事由解除における「信頼関係破壊」要件を充 足するか否かという保険法の解釈論であり,上記両見解は次の理由から妥当 ではない。まず,反社該当者との信頼関係形成が不可能だとした場合,「信 頼関係は破壊されていないが,そもそも存在し得ないため破壊されたに等し い」と説明することが考えられる6)。ここで,保険金詐欺常習者が保険金詐 4) 落合誠一監修・編著・前掲註2) 177頁および178頁〔榊素寛〕は,「反社会的 勢力排除条項は,信頼関係の破壊で説明するか,あるいは片面的強行規定に抵 触しない重大事由と説明するかの立場は分かれようが,重大事由による解除を 基礎にその有効性を基礎づけられるものと思われる」として,属性のみに基づ く解除の有効性を基礎づけるための理由付けを示している。なお,榊教授は

「反社会的勢力該当を重大事由とすることは信頼関係形成が不可能である点で 基礎づけられる」とされる(榊素寬「共済契約者が反社会的勢力に該当する場 合における共済契約の公序良俗違反と錯誤」ジュリスト臨時増刊『平成26年度 重要判例解説』118頁参照。)。

5) 天野・前掲註2) 参照。

6) 落合誠一監修・編著・前掲註2) 178頁〔榊素寛〕参照。反社該当者は,契約 締結当初から該当していたにせよ契約締結後に該当するに至ったにせよ,信頼 関係破壊そのものではないけれども契約を存続させる前提である信頼関係の不 存在になる点が共通することを理由に,包括条項に該当するとの帰結を導く。

信頼関係は破壊されていないが,そもそも存在し得ないため破壊されたに等し いと説明するが,そもそも信頼関係が不存在であるため,後に破壊されること はないという理解に基づくのであろう。

(5)

欺を企図して保険に加入する場合を想定すると,この者はモラル・リスクを 招来する高度の蓋然性を有しており,保険者が信頼関係形成および保険契約 締結の意図を一切有しない者ということになるだろう(実際,保険契約の申 込者に保険金詐欺の疑いがあれば,保険者もしくは代理店は引受を謝絶す る。)。しかし,保険法は,モラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有する 者が保険契約者等になり得る可能性を前提として重大事由解除規定を設けた はずである。すなわち,保険法は,モラル・リスクを招来する高度の蓋然性 を有する者との間においても,その者が「将来において保険金の不正請求等 の保険制度の健全性を害する行為を行わない」という信頼を基礎とした保険 契約の成立を認めており,このようにして一旦形成された保険者の信頼が保 険契約成立後に破壊された時点(保険者の信頼を覆す事情が判明した時点)

をもって「信頼関係破壊」を認めるのである。反社該当者との信頼関係形成 が不可能とする見解は,保険法の想定とは異なると思われる。次に,保険法 は,重大事由解除権行使に際し,30条・57条・86条各1号ないし3号該当事 由の充足を要求している。ここで,自動車保険に保険金詐欺を企図する者が 加入したが保険金詐欺は未実行である場合,30条1号および2号該当事由の 存在は未だ保険者に明らかになっておらず1号および2号に基づく重大事由 解除権の行使はできないが,この理は3号についても同様であろう。3号に 基づく重大事由解除権行使に際しては,保険制度の健全性を害する事情の存 在が保険者に明らかとなることが必要であろう(そもそも,このような事情 が保険者に明らかではない段階においては重大事由解除権行使の契機が存在 しない。)。保険契約締結時点で契約者等が既に反社該当者である場合におい ても,保険契約締結後において反社属性が保険者に明らかになった時点で

「信頼関係破壊」要件が充足されるとするのが保険法の考え方だと思われ 7)

7) 保険者が保険契約締結時に反社該当者との保険契約締結を拒絶する法的根拠 は「契約自由の原則」であって,重大事由解除権ではない。反社該当者につい ては,モラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有すること,保険契約からの

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これらの見解の他,保険契約が「(継続的)契約」であることを重視し,

「(継続的)契約」自体を締結・維持させるために必要となる一般的な信頼関 係等の破壊をもって重大事由が認められるとする見解も示された8)。しかし,

保険契約が「(継続的)契約」であることを重視したとしても,継続的契約 自体を締結・維持させるために必要となる一般的な信頼関係等の不存在が重 大事由解除における「信頼関係破壊」要件を充足させるとの帰結を直ちに導 くことはできない。そもそも保険法は,保険契約が「(継続的)契約」であ ることを踏まえて制定されたはずであり,そのような保険契約の解除事由と して限定的に示されたのが重大事由解除である。この見解が明らかにすべき は,一般的な信頼関係破壊が「信頼関係破壊」要件の充足を導くことができ るか否かという保険法の解釈である。

保険法における重大事由解除は保険の健全性を害する不正利用事案に対処 するために設けられた規定である。「信頼関係破壊」要件は,解除対象とな る保険契約において後に不正請求が行われる可能性を前提としている9)。保 険契約における保険者の信頼は,「保険契約者等が将来において保険金の不 正請求等の保険制度の健全性を害する行為(モラル・リスクを招来する行 為)を行わないこと」に向けられているというべきである10)。この限りにお

反社排除に関する社会的要請,募集者や従業員等の危険性等の諸事情を総合的 に考慮し,反社該当者が保険契約を締結・維持する相手方として不適切である と判断されるが故に,契約自由の原則に基づき契約締結を拒絶するのである。

8) 大野・前掲註2) 40頁は,保険契約は「保険」である前に,「(継続的)契約」

なのであるから,「保険」関係を成立・存続させるに足りる信頼関係の存否を 問う以前の問題として,「(継続的)契約」自体を締結・維持させるために必要 な一般的な信頼関係等の存否を問うことが許されてよい」とする。そして,

「政府による許認可と監督のもと,反社との関係遮断への取組みが強く義務付 けられ,その遵守を条件に保険契約の締結行為が許容されている保険会社等を 保険者とする保険契約に関しては,保険者は,反社等と保険契約締結の前提と なるべき信頼関係を構築することできない」とする。

9) 藤本・前掲註2) 98頁参照。

10) 藤本・前掲註2) 97頁では,「保険金不正取得目的」は3号の適用要件として 不要であるとしたが,これは3号の適用に際して「保険金不正取得目的」とい

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いて保険者と保険契約者等との「信頼関係」は観念し得るのであり,敢えて 信頼関係の形成が不可能であると説明する必要はない。また,モラル・リス クに直接関連しない事情により一般的な信頼関係が破壊されたとしても,そ のことにより「信頼関係破壊」要件が充足されるわけではない11)。「信頼関 係破壊」要件の存否の判断においては,モラル・リスクに関連しない事情を 考慮することはできないというべきである12)

⑵ 反社排除の社会的要請と「信頼関係破壊」

反社排除の社会的要請が存在することを根拠として,「信頼関係破壊」要 件の充足は認められるであろうか。

保険法における重大事由解除は保険の健全性を害する不正利用事案に対処 するために設けられた規定であり,保険者の信頼は「保険契約者等が反社属 性を有しないこと」に向けられることになる13)。重大事由解除規定は反社排

う主観的要素を不要とする趣旨である。すなわち,反社属性を有するが保険金 不正取得目的を有しない者であっても,反社属性のみで重大事由解除権行使を 可能と考えることになる。

11) 大野前掲註2) 40頁は,「重大事由解除の法理が,そもそも一般私法の領域に おける信頼関係破壊法理に由来する点にかんがみれば,その信頼関係破壊等の 評価根拠事実を,保険特有の観念であるモラル・リスクに関連する事情に限定 しなければならない必然性はないように思われる」とする。

12) モラル・リスクに直接関連しない事情は,「契約継続の困難性」要件の判断 において考慮可能である。なお,大野前掲註2) 39頁は「保険契約者等の信頼 を損ない,契約存続を困難とする重大な事由」を一括して「信頼関係破壊等」

とするが,「信頼関係破壊」要件と「契約継続の困難性」要件は性質が異なる と思われることから,両者を区別して分析すべきである(藤本・前掲註2) 参 照)。

13) 藤本・前掲註2) 98頁以下参照。保険者の信頼は「保険契約者等が将来にお いて保険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為(モラル・リスクを 招来する行為)を行わないこと」に向けられており,重大事由解除権行使に際 しては,このような意味での「信頼関係破壊」が必要となる。そして,反社該 当者は「将来において保険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為を 行う高度の蓋然性を有する」者であることから,保険者の「信頼」は「保険契

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除の社会的要請に基づいて設けられたものではない。保険者は,「反社を保 険契約から排除することが社会的に要請されている」から「保険契約者等が 反社属性を有しないこと」に信頼を向けるわけではないのである。

仮に,保険者が,モラル・リスクとの関連性を問わず反社排除の社会的要 請が存在することを根拠に「保険契約者等が反社に該当しないこと」に信頼 を向けるのだとすれば,そのような信頼は保険法の重大事由解除が想定する 信頼とは異なるであろう。保険法は,暴力団や信念のためには殺人も否定し ないテロ集団やカルト宗教団体といった反社会的集団に保険契約者等が属す ることのみを根拠とする重大事由解除権行使を認めていない。モラル・リス クと関連性を有しない事情が「信頼関係破壊」要件の有無に影響を与えると するならば,重大事由解除の濫用に繋がる危険が高まるといえるのではなか ろうか。モラル・リスクと関連性を有しない事情は「信頼関係破壊」要件に おける考慮事情ではない14)。反社排除の社会的要請それ自体はモラル・リス クと関連性を有しない事情であり,それ故,「信頼関係破壊」要件を充足さ せる理由にはならないというべきである15)

なお,「政府の反社会的勢力排除の政策的要請に基づくものであるから,

仮に重大事由のバスケット条項を超える部分があると判断される場合でも,

重大事由による解除の片面的強行規定に反しない約定解除権として許容され る余地がある」として,暴排条項を保険法に規律する以外の約定解除権とす る見解もある16)。しかし,論者自身,保険約款における暴排条項は「極めて

約者等が反社属性を有しないこと」に向けられる。したがって,反社属性のみ に基づき「信頼関係破壊」要件が充足されることになる。

14) 大野・前掲註2) 41頁は,保険会社等による反社との関係遮断への取組みに 関する事情を「暴排条項の信頼関係破壊等への該当性」判断において考慮する ところ,これが「契約継続の困難性」要件における考慮であれば妥当であるが,

「信頼関係破壊」要件の判断における考慮とすれば妥当ではない。

15) もっとも,「契約存続の困難性」要件を基礎づける事情にはなり得る。

16) 嶋寺・前掲註2) 844頁参照。なお,「③信頼関係破壊を基礎とする包括条項 に直接には該当しない重大事由であるが,保険契約を締結することがあり得な かった者が保険契約者・被保険者・保険金受取人である以上,これらとの契約

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例外的なものであって,それ以外に合理的要請に基づく約定解除事由として 何が考えられるかといえば,ほとんど想定できないようにも思われ」ると指 摘するところである。この見解が示すべきは,何故政府による反社排除の政 策的要請が存在する場合には暴排条項が片面的強行規定の趣旨に反すること はないと言い得るのか,そして,何故政府による反社排除の政策的要請が存 在すれば「信頼関係破壊」要件が充足されることになるのかについての実質 論であろう17)

⑶ 社会規範の変化と「信頼関係破壊」

政府指針の公表後,社会における反社排除の動きは加速し,社会規範は反 社排除に強く傾いたといえる。このような社会規範の変化により,「信頼関 係破壊」要件の実質は変容するのであろうか。

この点,社会規範の変化が「信頼関係破壊」要件の実質を変容させる余地 を認める見解がある18)。これは,社会規範の変化によりモラル・リスク排除 を超え反社会的集団に属する者一般を排除する機能を重大事由解除の包括条 項が獲得することを許容する趣旨の見解だと思われる19)。しかし,重大事由 解除はあくまでもモラル・リスクを排除するための規定であり,この点が社 会規範の変化により変容することはない。仮に重大事由解除の包括条項がモ ラル・リスク排除を超え反社会的集団に属する者一般を排除する機能を有す るとした場合,とりわけ保険期間が長期となる保険契約の法的安定性を確保 できず,重大事由解除の濫用との批判を避けることは困難になると思われる。

関係を解消する約款条項が重大事由による解除の片面的強行規定には抵触しな い」と説明する余地もある(落合誠一監修・編著・前掲註2) 178頁〔榊素寛〕

参照。)。

17) 鈴木・前掲註2)「反社会的勢力との保険契約の解除⑴」67頁参照。

18) 天野・前掲註2) 183頁は,保険契約は高度な信義誠実と最大善意が求められ る結果,社会規範の変化には敏感にならざるを得ないとする。なお,鈴木・

「反社会的勢力との保険契約の解除⑵」61頁は,社会規範の変化が「信頼関係 破壊」要件の評価根拠(障害)事実に影響を与え得るとする。

19) 天野・前掲註2) 183頁註24) 参照。

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重大事由解除の包括条項につき社会規範の変化や価値観・規範の転換を考 慮して判断すべきは,「契約継続の困難性」要件である20)。保険契約から反 社を排除すべきとの政策的要請は「契約継続の困難性」要件の判断要素とな るが21),「契約継続の困難性」が認められたとしても,直ちに「信頼関係破 壊」要件が充足されるわけではない。保険法は,「契約継続の困難性」の判 断において政策的要請の考慮を可能とする一方,重大事由解除がモラル・リ スク排除という役割を超えて機能することがないよう歯止めとしてモラル・

リスク排除を趣旨とする「信頼関係破壊」要件を設けたと解される。「信頼 関係破壊」要件にモラル・リスク排除を超えた機能を与えることは,許され ないであろう。

⑷ 賠償責任保険に関する運用と重大事由解除権の行使22)

現在,賠償責任保険(以下,「賠責保険」という。)の新約款には暴排条項 が組み込まれている。同時に,賠責保険は加害者が被害者に対して支払うべ き損害賠償金を補償する保険であり,被害者保護という重要な役割を担って いる。そこで,反社該当者が加害者となる賠償事故が発生した際には,重大 事由解除を認める一方で免責を制限することにより反社排除と被害者保護の 調整を図っている。もっとも,現状,反社該当者に対して自動車運転免許証 が交付されている以上,反社該当者が加害者となる交通事故の発生は避けら れない。任意自動車保険から反社が排除されたならば対人・対物無保険車両 が公道を走行する可能性が増大することになるが,被害者保護の観点からは 20) 社会規範の変化や価値観・規範の転換という政策的要請は「契約継続の困難 性」要件において評価可能な事情であるが,「契約継続の困難性」要件の充足 のみで重大事由解除権を行使することはできない。「信頼関係破壊」要件の充 足も重大事由解除権行使の要件である。そして,保険者の信頼は「保険契約者 等が招来においてモラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有しないこと」に 置かれるのである。

21) 藤本・前掲註2) 100頁参照。

22) 藤本和也「賠償責任保険からの反社会的勢力排除における課題」金融法務事 情2009号39頁参照。

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望ましいことではないだろう。そこで今後は,反社該当者には免許証を交付 しない(自動車の運転を認めない)との対応も考えられるが,反社該当者の 自動車運転を肯定したうえで反社該当者が被害者保護にかかわる対人・対物 補償のみ自動車保険へ加入する余地を認める旨の約款改定を行うことも考え られる(車両保険,人身傷害補償保険等については排除を維持する。)。では,

後者において,反社該当者の対人・対物補償への加入の許容と「信頼関係破 壊」要件との関係は如何に考えるべきであろうか。

この点,反社該当者については,モラル・リスクを招来する高度の蓋然性 を有することから反社属性のみで「信頼関係破壊」要件の充足が認められる とともに,反社排除の社会的要請が存在することから「契約継続の困難性」

要件の充足も認められることになるはずである23)。しかし,反社該当者にも 自動車運転を認めつつ,被害者保護の観点から反社該当者の対人・対物補償 への加入を認める旨の社会的コンセンサスが確立されたといえる場合には24) この範囲で「契約継続の困難性」要件が充足されないと評価すべきであろう。

すなわち,「信頼関係破壊」要件は充足されるが「契約継続の困難性」要件 が充足されないため,保険者は重大事由解除権を行使することができないと の帰結になる25)

もっとも,反社該当者の対人・対物保険加入を許容するとしても,保険契 約者等が反社に該当する以上,それらの者がモラル・リスクを招来する高度 の蓋然性を有するとの前提に変わりはない。如何にしてモラル・リスクの招 来を防止するのかについて,工夫が求められることになる。

23) 藤本・前掲註2) 98頁以降参照。

24) このような社会的コンセンサスは,明確性確保の観点から,反社該当者であ っても対人・対物保険には加入できる旨の約款変更によって明示されるべきで ある。

25) 潘・前掲註2) 28頁註47) は,「例えば,暴排条項が導入されていない自動車 の対人賠償保険のような保険契約については,被害者保護のためのものである から,信頼関係破壊とならないと説明することになるかもしれないが,論理的 な整合性が問われる。」とするが,「契約継続の困難性」要件により説明すべき と思われる。

(12)

⑸ 対立抗争と「信頼関係破壊」

暴力団は対立抗争を発生せしめることから特別の善意と信義誠実を期待で きず,保険者と反社該当者には「信頼を損ない」以前に「信頼関係は存在せ ず」,「契約の締結からしてそもそも不可能」であることから,既存保険契約 も含め属性のみによる重大事由解除権行使を認めることが理論的帰結とする 見解が示された26)。この見解で注目すべきは,暴力団が資金獲得活動を行う 際に組織的な対立抗争を引き起こすことを根拠に特別の善意と信義誠実を期 待できないとしている点,および,反社該当者とは「契約の締結からしてそ もそも不可能」とする点27)にある。

26) 天野・前掲註2) 181頁参照。この見解は,「集団的に又は常習的に暴力的不 法行為等を行うことを助長するおそれがある団体の構成員が,団体の威力を利 用して,多様化・不透明化した活動実態のもとで多種多様な資金獲得活動を行 い利益の獲得を追求し,その際に,他の団体と緊張関係が生じれば,全人格的 包括的な服従統制下の団体の構成員同士が,不可避的に,組織的対応として暴 力行為を伴った対立抗争を発生せしめるというものである」ことから,「保険 契約の相手方に求められる特別の善意と信義誠実を期待することは到底できな いと評価せざるをえない」として,「保険者は,暴力団員など反社に属する者 に対し,信頼関係をそもそも構築できない。したがって,両者の間には『信頼 を損ない』以前に『信頼関係は存在せず』,『契約の存続は困難』どころか『契 約の締結からしてそもそも不可能』という帰結になる」とする。

27) 「契約の締結からしてそもそも不可能」とするのが,反社該当者との保険契 約は「契約継続の困難性」要件を充足することを示す趣旨であれば理解できる。

しかし,これが文字通り「保険契約締結自体がそもそも不可能であり,そのよ うな者との保険契約はそもそも成立し得ない」とする趣旨であれば妥当ではな い。保険法は,保険金詐欺を企図して保険に加入しようとする者であっても保 険契約の成立自体は否定しておらず,保険金詐欺の意図が保険契約締結後に判 明した場合であっても,保険契約を直ちに不成立もしくは無効としてはいない。

保険者による重大事由解除権行使は,保険契約から保険者を離脱させると共に 保険制度を悪用しようとする者に保険制度を通じた利益を与えないことを可能 とする。しかし,保険法は保険制度を悪用しようと企図する者との保険契約締 結自体は否定していないのである(新約款は反社該当者との保険契約締結自体 は否定しておらず,自賠責保険も反社該当者との契約締結を可能としている。)。

保険契約締結前に保険契約申込者が反社該当者であると判明した場合,保険 者がその者との契約締結を拒絶する法的根拠は「契約自由の原則」にある。特

(13)

しかし,保険契約において契約関係者に特別の善意と信義誠実が要請され るのは,保険契約が射倖性を有することから保険制度の健全性を害するモラ ル・リスクを招来する危険があり,これを防止する必要が存在するからであ る。対立抗争は暴力団にとっての「縄張や威力,威信の維持回復のための組 織的対応」として行われるのであり28),一般市民の安全や社会の平穏に重大 な脅威を与えるものであるから,暴力団にとって対立抗争が不可避であると の事情は「暴力団員等が一般市民の安全や社会の平穏に重大な脅威を与える 行為を行う高度の蓋然性を有すること」の基礎付けになるだろう。しかし,

対立抗争それ自体が保険金の不正請求に向けられたものであるとは言い難く,

モラル・リスクと直接の関連性を有する事情とはいえない29)

したがって,「暴力団が対立抗争を行う可能性を有すること」から特別の 善意と信義誠実を期待できないとして信頼関係の不存在を導くことは困難で ある。モラル・リスクと直接の関連性を有しない対立抗争という事情を,

「信頼関係破壊」要件の考慮要素とすることはできない。

⑹ 公序良俗違反と「信頼関係破壊」

保険契約者等が「公序良俗に反する集団の構成員であること」をもって

「信頼関係破壊」要件の充足を認めることができるであろうか。ここでは,

モラル・リスクとは直接の関連性を有しないはずの「保険契約者等が公序良 俗に反する集団に属する」との事情をもって「信頼関係破壊」要件の充足が 認められるか否かが問われることになる。しかし,既に述べてきたとおり,

保険法における重大事由解除はモラル・リスク排除を可能とするため設けら

別の善意と信義誠実を期待することが到底できない者については信頼関係を構 築できないことをもって,保険契約の成立は不可能であるとの帰結を導くこと は理論的に困難である。

28) 最判平成16年11月12日民集58巻8号2078頁参照。

29) ただし,対立抗争状態が生ずることにより渦中にある暴力団員の生命・身体 の危険は増大するため,死亡や傷害の結果発生に対する客観的危険は増加する。

この点は引受時のリスク評価の問題として論じられるべきと考えられる。

(14)

れたのであり30),モラル・リスクとの関連性を問わずして,保険契約者等が 公序良俗に反する集団の構成員ではないこと自体を重大事由解除における信 頼の対象とすべきではない。あくまでも,保険契約者等に対する信頼は,保 険契約者等が「モラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有しないこと」に 向けられるのであって,反社該当者が公序良俗に反する集団の構成員である 点を捉えて重大事由解除権を行使するわけではない。保険法における重大事 由解除規定は公序良俗に反する集団の構成員一般を保険契約から排除する機 能を有してはいないはずであり,保険契約者等が「公序良俗に反する集団に 属する」という事情だけで「信頼関係破壊」要件の充足は認められない。

なお,保険契約者等が公序良俗に反する集団の構成員である場合,重大事 由解除ではなく,端的に公序良俗違反(民法90条)を根拠に保険契約を無効 とする余地はあるのかもしれない31)。しかし,もともと公序良俗違反は個別

30) 藤本・前掲註2) 96頁および98頁参照。

31) 「公序良俗違反による保険契約の無効」については,山下友信『保険法』228 頁(有斐閣・2005)参照。もっとも,「公序良俗違反による保険契約の無効」

は,あくまでも「不正請求対策としての法律行為規定の適用」のひとつとして 論じられていることに注意を要する。

なお,潘・前掲註2) 24頁は,「保険約款でも,保険契約者の解約に関する規 定と並べて,暴排条項に基づく保険者の解約権を別途設ける余地もあったよう に思われる」とし,「独立の解除権として定められた場合には,保険者に対す る信頼破壊の有無を問題にすることなく解除権行使が可能となるので,解釈論 上疑義を生ずる余地もなくなる」とする。暴排条項は告知義務違反解除や危険 増加解除に位置付けた場合の難点を考慮のうえで重大事由解除に位置付けられ たが(藤本・前掲註2) 95頁参照),たしかに,このことにより暴排条項を「独 立した解除規定として定める」余地が否定されるわけではないであろう(潘・

前掲註2) 25頁註40) 参照。)。

もっとも,仮に,公序良俗違反を背景として暴排条項を設けるのであれば,

反社属性を有すること自体が公序良俗に反することを示す必要がある。保険者 と契約者との合意を背景として暴排条項を設けるのであれば(特に,新たに設 ける暴排条項の内容が保険契約関係からの離脱を認めるのみならず,免責を認 めるのであれば),そのような合意が保険法上どのように正当化されるのかを 明らかにする必要があるだろう。反社が保険契約から得る最大の利益は保険金 である。保険契約者等の属性判明時点において保険事故が発生していた場合,

(15)

の法律行為について問われてきたのであり,法律行為を行った者が一定の属 性を有するとの事実をもって公序良俗違反が認められたことはなかったと思 われる。また,現時点では,反社の代表たる暴力団を結成すること自体は法 で禁じられておらず,あくまでも違法な資金獲得活動や一般市民を巻き込む 可能性のある対立抗争等が問題視されているのである。暴力団の存在自体が 法により禁圧(違法化)されている事情があればともかく,そのような事情 が存在しない現状においては,暴力団員であること自体を公序良俗違反と評 価することや暴力団員が行う法律行為を一律に公序良俗違反であると評価す ることは更なる検討を要すると思われる。保険契約を「反社属性を有するこ とのみをもって公序良俗違反により無効とする」ためには理論的課題を克服 する必要がある。

3. その他の問題点

⑴ 個別の反社属性と「信頼関係破壊」

反社該当者は保険金の不正請求に関与する高度の蓋然性を有するとして反 社属性のみに基づく重大事由解除権行使が保険法上許容されるとする立場に おいては,属性とモラル・リスクとの関連性の存在が理論上の前提となる。

モラル・リスクと関連性を有しない要素に基づく重大事由解除権行使は許容 されない。しかしながら,個別の反社属性と「信頼関係破壊」要件との関係 については十分に検討されていない。

従来,反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の可否は,反社の代表で 免責を認めない限り保険料に比して高額な保険金が反社の手に渡ることになる

(これが銀行預金と異なる点である。)。このような帰結を是認するのであれば,

保険契約から反社を排除し反社の資金源に打撃を与えることは困難となる。一 方,保険料に比して高額な保険金を受け取ることが可能となる保険契約の特殊 性を考慮し,反社に保険金が渡ることを阻止し反社の資金源に打撃を与えるべ く免責という厳しい効果を認めるのであれば,暴排条項を重大事由解除とは異 なる独立解約・解除権として位置付けたとしても,片面的強行規定である重大 事由解除規定に抵触しないか否かを中心とした保険法上の許容性が問われるで あろう。

(16)

ある暴力団を念頭に置いて検討されてきた。もっとも,反社には,暴力団,

暴力団員,暴力団準構成員,暴力団関係企業(フロント企業),総会屋等,

社会運動等標榜ゴロ(政治活動標榜ゴロ・えせ右翼,えせ同和等),特殊知 能暴力集団等,その他これらに準ずる者など様々な類型が存在する32)。これ らのうち,暴力団,暴力団員,暴力団準構成員,暴力団関係企業は,従来か ら反社として検討対象となってきた類型であり,モラル・リスクを招来する 高度の蓋然性を有する存在であると位置付けることができる。また,準暴力 団は,暴力団と同程度の明確な組織性は有しないものの,暴力団に準ずる集 団であることから,同様に考えてよいであろう。

ただ,特殊知能暴力集団等33)については,これらの者が直ちにモラル・リ スクを招来する高度の蓋然性を有すると評価し得るのか否か,暴力団との距 離や一体性により異なる可能性がある。また,共生者34)は,その外延は広く 曖昧であり多様な者が含まれ得る。密接交際者35)についても同様である。こ れらについては,モラル・リスクとの関連性につきデータ集積および分析を 行っていく必要があるだろう。また,総会屋,会社ゴロ,新聞ゴロ,社会運 動標ぼうゴロ,政治活動標ぼうゴロは,該当者が直ちにモラル・リスクを招 来する高度の蓋然性を有する者であると評価することに疑問が残る。これら は確かに違法行為を行う高度の蓋然性を有する者ではあるが,モラル・リス クを招来する高度の蓋然性を有する者であると直ちに評価することは難しい ように思われる36)

32) 警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・組織犯罪対策企画課「平成27年の暴力 団情勢」参照。

33) 暴力団との関係を背景に,その威力を用い,又は暴力団と資金的なつながり を有し,構造的な不正の中核である集団又は個人。

34) 暴力団に利益を供与することにより,暴力団の威力,情報力,資金力等を利 用し自らの利益拡大を図る者。

35) 暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有する者。

36) 各社現行約款における暴排条項は「その他の反社会的勢力」に該当すれば重 大事由解除権行使を可能とするが,モラル・リスクと関連性を有する個別の反 社属性のみが「その他の反社会的勢力」に該当すると限定解釈することにより

(17)

個別の反社属性とモラル・リスクの関連性が切断された場合には,当該属 性のみに基づく重大事由解除権行使は許容されない。仮に,暴力団員とモラ ル・リスクの関連性が切断される事態が生じたならば,属性のみに基づく重 大事由解除権の行使は認められないことになるだろう。一方,例えば,保険 金詐欺を実行するグループに加入している者については,当該属性のみに基 づく重大事由解除権行使が許容される余地を認めることになると思われる37)

⑵ 保険契約者等の行為と「信頼関係破壊」

「信頼関係破壊」要件の判断において,保険契約者等の行為を考慮するこ とは可能であろうか。また,如何なる行為であれば考慮可能であろうか。行 為要件38)が充足されるとしても,直ちに「信頼関係破壊」要件が充足される とすべきか否かについては検討の余地がある。

保険者の「信頼関係」は,「保険契約者等が将来において保険金の不正請 求等の保険制度の健全性を害する行為を行わないこと」を前提とすることは 既に論じたとおりであるが,そうすると,モラル・リスクとの関連性を有す る行為であれば,保険者との「信頼関係破壊」を導くことが可能となる。一 方,モラル・リスクとの関連性が疑問となる行為については,「信頼関係破 壊」を導くのか否を慎重に検討する必要が生じる。仮に,モラル・リスクと 関連性を有しない行為を「信頼関係破壊」要件の存否を判断する基礎事情に

保険法上の適法性は依然として維持されると考えられる(ただし,モラル・リ スクと関連性のない個別の反社属性のみに基づく重大事由解除は無効となる。)。

今後は,約款に排除対象となる個別の反社属性を明示することが,暴排条項の 明確化の観点からは望ましい。

37) 山本・前掲註2) 68頁以下は,「特に暴力団員は保険金の不正請求に関与する 蓋然性が高いとみなすのは無理がある」とする。

38) 「暴力的な要求行為」,「法的な責任を超えた不当な要求行為」,「取引に関し て,脅迫的な言動を行い,又は,暴力を用いる行為」,「風説を流布し,偽計を 用いて信用を毀損し,又は業務を妨害する行為」,「その他,これらに準ずる行 為」が存在した場合,行為要件(「暴力的な要求行為または法的な責任を超え た不当要求行為を行う団体または個人」)を具備することになる。

(18)

含めた場合,保険者との「信頼関係」は,「保険契約者等が将来において保 険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為を行わないこと」を超え て,「保険契約者等がモラル・リスクとの関連性を有しない暴力的要求行為 や不当要求行為などを行わないこと」にまで拡大する危険がある。

したがって,「信頼関係破壊」要件の存否の判断においては,モラル・リ スクと関連性を有しない行為を考慮することはできないと考えるべきであ 39)(もっとも,モラル・リスクと関連性を有しない行為は「契約継続の困 難性」要件を基礎づける事実になり得る。)。

⑶ 反社属性に関する虚偽告知や表明確約違反は「信頼関係破壊」要件の充 足に必要か

「信頼関係破壊」要件を充足するためには,反社属性に加えて契約申込者 による反社属性に関する虚偽告知や表明確約違反等が必要となるであろうか。

反社該当性の不告知もしくは表明確約違反等の反社該当性に関する帰責性の 付加を要求することにより,重大事由解除権行使を正当化する必要はあるの 39) 旧約款契約および旧々約款契約の解除については反社属性に加えて行為要件 の存在が必須であるとの見解もあり得る。仮に,「既契約については,暴力団 等の属性要件だけでなく,行為要件も勘案し,重大事由解除の包括条項に該当 するか他のモラルリスク事由とともに総合的に判断することにならざるを得な い」とする見解(犬塚=加藤=尾崎『暴力団排除条例と実務対応』195頁〔渡 邉雅之〕(青林書院・2014))が,反社が関係する旧約款契約および旧々約款契 約につき重大事由解除権を行使するためには属性要件に加えて行為要件の具備 を必要とするものであれば妥当でない。

もっとも,上記見解は既契約に変更後の約款の効力が及ぶか否かに関するも のである。別途,「暴排条項の規定されていない旧約款契約についても,包括 条項により解除が可能である」としており,既契約につき重大事由解除権を行 使する際には,「旧約款契約について,理論的には属性要件に該当すれば解除 は可能であるが,契約時において暴排条項が存在しなかったことや,これまで 契約が継続し,保険料が支払われてきたことに鑑みて,属性要件のみでなく,

行為要件その他の事情を考慮し,慎重に検討する必要がある」としていること から(同219頁),上記見解は,属性要件で足りるが,行為要件その他の事情を も考慮し慎重に検討する必要があるとの趣旨で理解すべきであろう。

(19)

だろうか40)(なお,契約締結後に反社該当性が生じた場合については,契約 締結後に保険契約者等が自らの意思で反社該当者となり,契約締結時点にお ける反社非該当という信頼関係の前提を損なった点を帰責性として捉えるこ とが可能かもしれない41)。)。

ここで,反社属性に加えて一定の帰責性が無ければ「信頼関係破壊」要件 は充足されないとした場合,例えば,契約締結時点において保険者が告知書 等で反社該当性についての告知を受けない限り,反社属性が判明したとして も「信頼関係破壊」要件の充足は認められないことになる。しかし,これで は告知や表明確約が無い限り,モラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有 するはずの反社該当者を保険契約から排除することができず,保険制度の健 全性が害されることになる。また,仮に反社該当性を保険引受時の危険判定 に関わる事情として保険法上の告知事項になり得るとするのであれば,虚偽 告知や表明確約違反は重大事由解除ではなく端的に告知義務違反解除におい て評価すべきである。これに対して,反社該当性は危険判定に関わる事情と は限らず保険法上の告知義務の対象にすることは難しいと考えるのであれ 42),なぜ虚偽告知や表明確約違反という事実が「信頼関係破壊」を導くの か,すなわち保険者と保険契約者等との「信頼関係」の実質が何かを示す必 要があるのではなかろうか43)

40) 例えば,「契約締結段階での反社会的勢力該当の隠匿は他保険契約の告知義 務違反とパラレルな理由により包括事由に含められる一方,契約締結途中での 反社会的勢力に該当する場合は信頼関係の破壊に該当する」との説明が考えら れる(落合誠一監修・編著・前掲註2) 178頁〔榊素寛〕参照。)。

41) 契約締結時点においては保険契約者等が反社に該当しておらず,後に反社該 当者となった場合,その時点で反社に該当した旨を保険者に告知させることも 考えられるが,あまり現実的ではないように思われる。

42) 落合誠一監修・編著・前掲註2) 178頁〔榊素寛〕,潘・前掲註2) 28頁註46)

参照。

43) 潘・前掲註2) 28頁は,「反社会的勢力非該当との虚偽の回答をして契約を締 結した場合には,当該虚偽回答が発覚した時点で信頼関係が破壊されたとして,

重大事由解除を認めるのは,1つの考え方としてはあり得るように思われる」

とする。

(20)

反社該当者はモラル・リスクを招来する高度の蓋然性を有するとの前提に 立つのであれば,「信頼関係破壊」要件の基礎付けは反社属性のみで可能で ある。このことは反社該当者が契約締結時点において属性に関する虚偽告知 や表明確約違反を行ったか否かによって左右されない。契約締結時点におい て保険者に対して属性に関する虚偽告知や表明確約違反を行ったという不誠 実行為を「信頼関係破壊」要件の要素とする必要はない。反社属性がモラ ル・リスクと関連性を有する限り,重大事由解除権行使に際して反社属性に 関する告知や表明確約は不要である。

なお,契約締結時に保険契約者が反社に該当に該当しない旨の虚偽告知や 表明確約が存在する場合,これらは保険者の契約相手選定に関する意思表示 の動機や要素に該当し,錯誤や詐欺を基礎付ける事情になると考えられる。

反社該当者との保険契約につき錯誤無効や詐欺取消を主張する観点からは,

反社属性に関する告知や表明確約を求めることには十分な意味がある。

5. おわりに

保険法に設けられた重大事由解除規定はモラル・リスク排除という役割を 担っている。しかし,重大事由解除規定にモラル・リスク排除を超えた役割 まで担わせることが果して妥当なのであろうか。

反社属性のみに基づく重大事由解除権行使の可否および限界を考察するこ とは,重大事由解除権の役割そのものを問うことに他ならない。それは保険 法の役割を問うことにつながるであろう。重大事由解除に基づく反社会的勢 力排除の法理については,依然として未解決の課題が残されている。更なる 議論の進展と理論の深化が求められている。

(筆者は弁護士 共栄火災海上保険株式会社勤務)

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