香 川 大 学 経 済 論 叢 第72巻 第1号 1999年6月 215-240
日本人のサービス消費における
満足形成の特質
藤 村 和 宏
し は じ め に 消費者満足研究は,欧米を中心に,モノ(有体財)消費の文脈で盛んに行わ れており,これまでに膨大な研究成果が蓄積されている。しかし,そこで構築 された概念や理論を,文化や制度が異なる日本の消費者にも直接的に適用する ことが可能であろうか。また,サービス消費の文脈にも適用可能であろうか。 本稿では,このような問題意識から,日本人のサービス消費における満足形 成過程について若干の考察を行いたい。そのため,以下ではまず,従来の消費 者満足研究において明らかにされた,満足決定において重要な役割を果たす比 較基準について概観し,次に,サービスの消費者満足において重要な役割を果 たすと考えられるスクリプト概念について考察を行いたい。そして最後に,そ れらの概念が日本人のサービス消費に対する満足の説明や予測にも適用が可能 か,適用可能な場合に,内容や用いられ方などについて日本人と欧米人の聞に 差異が存在するのか,などについて,日本国内及び海外でサービス提供を行っ ている組織に対して実施したヒアリング調査の結果を基に検討したい。 II.消費者満足形成にかかわる代替的比較基準 消費者満足の理論化,概念化,測定化のための最初のワークショップとシン (1) II章は,藤村 (1992)のIV章に若干の加筆を行ったものである。2]6- 香川大学経済論叢 216 ポジウムは, 1976年と 1977年とにそれぞれ開催されている。これらを契機とし て消費者満足解明のための理論的・実証的研究が本格的に展開され,これまで に膨大な研究成果が蓄積されている。これらの研究の大部分は確認/不確認パ ラダイムに基づいており,そこでは消費者はモノやサービスの消費経験を評価 するための何らかの比較基準を持っており,満足はその基準と購入・消費経験 との比較の結果として決定される,と仮定されている。尚,このような仮定の 理論的支持は「人は刺激を適合水準との関係でのみ知覚する」とする Helson (1964)の適合水準理論(adaptationlevel theory)に求められている。 しかし,消費者が比較基準として採用するものに関しては,研究者によって 様々なものが提唱されている。消費者満足の予測概念として,これまで提唱さ れてきた比較基準の主なものとしては,期待,衡平性,ノルムがある。 (1) 期 待 大部分の消費者満足研究では,購買意思決定過程で個々のモノやサービスに 対して形成される「期待」が比較基準として採用されている。この期待を比較 基準とするものは期待不確認パラダイムと呼ばれており,社会心理学や組織行 動の流れを汲むものである。 このパラダイムでは,消費者が購買意思決定過程で形成する個々のモノや サービスに対する期待と同じものが,購買・消費したものの知覚成果を評価す るための比較基準値としての役割を果たし,知覚成果がこの比較基準と同等(確 認)か,あるいは上回っているか(正の不確認),下回っているか(負の不確認) によって満足/不満足が決定される,と仮定されている。基本的には,負の不 確認の場合は不満足につながり,正の不確認あるいは確認の場合には満足につ ながるとされている。従って,期待不確認は「期待の形成」と「期待の確認/ 不確認」という 2つのプロセスより構成される概念であり,さらに期待の確認/ 不確認は「方向」と「程度」から構成される概念である。 しかしながら,消費者の満足形成過程はこのような単純なものではなく,下 記の関数が示しているように,期待や知覚成果の水準自体も満足に影響を及ぽ
217 日本人のサービス消費におげる満足形成の特質 -217-す要因であることが明らかにされている (Olshavsky and Mill, 1972; Oliver, 1980; Churchill and Surprenant
,
1982; Wilton and Tse,
1983; Oliver and DeSarbo,
1988)。
満 足 度 =f (期待水準,知覚成果水準,期待の確認/不確認) さらに,期待と知覚成果の聞にギャップが生じた場合,期待は知覚成果や不 確認の程度にも影響を及ぽすことが発見されている。表1
はそのような期待の 及ぼす影響に関する研究の一例であるが,それは以下のような理論で説明され ている。 (a) 同化理論 同化効果とは,期待と実際の製品成果とが一致しなかった場合に,期待の 表1 製品成果の評価に関する研究例 研究者 従属変数 期待の効果 支持理論 コメント (製品) Cardozo 製品評価 対比理論 努力を調節物とする問題 (1965) (ボールペン)+
不協和理論 のある従属尺度 Cohen& 選 好+
不協和理論 期待の操作なし Goldberg (コーヒー) (1970) TacobHya,OlSOIl知覚品質+
期待を創り出すために, & Haddock ビール) 価格とブランド名を使用 (1971) Olshavsky& 製品評価+
同化理論 期待の尺度なし Mi1ler (テープ・ (調和) (1972) レコーダー) Anderson 製品評価 +/ー 同 化 一 対 比 理 論 対 比 効 果 内 に 対 比 畷 昧 性 (1973) (ボールペン) の混ざった発見 Oliver 全体的な影響 一般否定性理論関与,コミットメント, (1976) (自動車) 関心を調節物とする Oliver 全体的な影響+
同化理論 期待と不確認は加法的な (1977) (自動車) 影響力を持っている Olson& Dover製品評価+
同化理論 チ ェ ッ ク に コ ン ト ロ ー (1979) (コーヒー) (不協和理論) Jレ・グループを用いる Deighton 製品評価+
仮説検定理論 広告を仮説の源泉とする (1984) (自動車) Hoch & Ha 知覚品質+
仮説検定理論 畷除性を期待効果の調節 (1986) (衣服) 物とする 出所:Yi, Y (1990), p..83-218- 香川大学経済論叢 218 方向に製品評価を近づけようとするものである。元々, Hovland, Harvey,
and Sherif (1957)によって提唱されたもので,認知不協和理論といくつかの 点で類似している。
(b) 対比理論
対比効果とは,元々, Dawes, Singer, and Lemons (1972)によって提唱さ れたものであり,自分自身の態度と他人の態度との不一致を誇張する傾向で ある。消費者満足の文脈では,期待と実際の製品成果とが一致しない場合, 消費者はその講離を誇張し,期待との講離を大きくする方向に製品評価をシ フトさせるというものである。つまり,正の不確認の場合には,製品成果は 実際よりも高く評価され,負の不確認の場合には,実際よりも低く評価され るというものである。 ( c) 同化一対比理論 人間の知覚においては受容許容範囲と拒絶範囲が存在する(Sherif and Hovland, 1961),ということを前提に,期待と製品成果の不一致の程度が消 費者の受容許容範囲内に入るほど小さい場合には,消費者は製品評価を期待 に近づける方向に,不一致の程度が拒絶範囲内に入るほど大きい場合には, 不一致の程度を誇張する方向に知覚する傾向がある,という考え方である (Anderson
,
1973)。
尚,受容許容範囲と拒絶範囲の設定には自我関与が深くかかわっており (Sherif and Hovland, 1961),高関与の人は低関与の人よりも拒絶範囲が広く (受容許容範囲が狭く),同化効果と対比効果をより顕著に示す傾向があるこ とも明らかにされている(Yi,1990)。 (d) 不協和理論 Festinger (1957)の認知不協和理論によると,個人が相容れないこつのアイ デアを受け取った場合に,それは心理的緊張あるいは心理的に不快な状態(不219 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -219ー 協和状態)をつくりだすために,彼は両者が調和するようにするようにどち らか一方あるいは両方を変更あるいは曲解することで,心的不快感を削減し ようとする。これを製品評価に適用すると,期待と製品成果との聞の不均衡 は不協和状態をつくりだすために,消費者は製品に対する知覚を変更するこ とでその削減を試みることが考えられる。 (e) 一般否定性理論 期待不確認が生じた場合,それが正の不確認であろうと負の不確認であろ うとも,心理的に不快な状態であるため,製品評価は低減する。すなわち, 製品の感情的評価は不確認の方向ではなく,不確認の大きさの逆関数である, とする考え方である。
O
l
i
v
e
r
(19
7
6
)
は,正あるいは負の不確認は好ましくない製品評価につなが ることを示すことで,この理論を支持している。しかしながら,このような 結果は自我関与,コミットメント,関心などが高い場合にのみ観察されてお り,このような説明は特定の状況でのみ有効と考えられる。 (f)仮説検定理論D
e
i
g
h
t
o
n
(
1
9
8
4
)
によると,広告は期待を創りだし,その期待は消費者に とっての仮説となり,製品経験あるいは証拠のような製品情報に接するとき に仮説を確認する方向に製品評価を変更するという考え方}である。Hocha
n
d
Ha (
1
9
8
6
)
は,証拠の暖昧'性の程度が小さい場合には,製品評価は期待の影響 を受げないが,大きい場合には,証拠は同化のようなかたちで処理され製品 評価は期待に影響されることを明らかにしている。 このように,消費者満足は期待と知覚成果との比較だけでなく,期待や知覚 成果の水準にも影響され,さらに期待は製品成果の知覚に影響を及ぽすことか ら,消費者満足形成モデルとして,期待と知覚成果の比較だけを組込んだ基本 モデルに修正を加えるかたちで,様々なものが提案されている。-220ー 香川大学経済論叢 220
(
2
)
衡 平 性Stouffer, Suchman, De Vinney, Star, and Williams (1949)は第二次世界大 戦中の米軍兵士の様々な心理を研究することで,兵士たちの不満足感は周囲の 他者を基準として,その他者と比較することによって決定されていることを発 見し,これを相対的不満と呼んでいる。このように他者との比較も評価におい ては重要な役割を果たすことから, Homans (1958)は比較により感じる社会的 正義あるいは公正感の問題を社会的交換理論の立場から定式化し, Adams (1963, 1965)は こ れ を さ ら に 拡 大 ・ 発 展 さ せ る か た ち で 衡 平 理 論(equity theory)を構築している。 衡平理論は雇用者と従業員聞の交換から生じる不衡平な結果の説明に焦点を 当てていることから,購買という交換の結果として生じる消費者満足/不満足 の研究にも適用可能であるという考えから,衡平性も比較基準として採用され ている (Huppertz,Arenson, and Evans, 1978; Fisk, 1980; Fisk and Y oung, 1985; Mowen and Grove, 1983; Swan and Mercer, 1982; Swan and Oliver
,
1985)。
この理論によると,人は自分の産出物/投入物比を関係のある他者のそれと 比較することで,衡平性を判断するとされている。衡平を感じるのは,図1の ように,自分の産出物/投入物比と比較対象となる他者の産出物/投入物比が 均衡している場合である。逆に,不衡平を感じるのは,どちらかの比がもう一 方のよりも大きい場合である。そして,衡平であると知覚する場合には満足が 生じ,不衡平と知覚する場合には不満足が生じると考えられている。尚,人が (2) Wa!ster, Berscheid, and Wa!ster(1976)による理論の修正を経て,援助行動や対人魅 カを衡平理論の観点から説明しようとする試みもなされている。例えば, Hatfie!d, Traupmann, Sprecher, Unte, and Hay (1985)は,二人の間の関係が衡平であるほど, 互いの聞の満足度が高く相手に魅力を感じるようになり,親密な関係が持続する,と論じ ている。 (3) Adamsによると,不衡平は不快な緊張状態をもたらすので,それを解消しようとする 行動がひき起こされる。その行動は直接的行動と間接的行動に分類できるが,前者は自分 または他者の投入物と産出物を実際に変化させて均衡を回復する行動であり,後者は投 入物と産出物の比をゆがめて捉える,不衡平が存在する場を離れる,あるいは比較の相手 を衡平が得られるような他者に変える,などの行動である。221 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -221ー 自分の産出物/投入物比を比較する他者として選択する可能性があるものに, 生産者,流通業者,関係のある他の消費者,関係のない人々,などがある。消 費者満足の文脈ではしばしば,マーケターの純益と消費者の純益とが比較され ている。 + 品 平 る 衡 あ 中 ハ 山 一 y h ハ 凶 一 y h 二 < ハ 凶 一 y u 仏 一 y h 物 物 物 物 出 入 出 入 産 投 産 投
のののの
分 分 者 者 自 白 他 他 しO
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但 平 衡 不 キ ハ 凶 一 y h > ハ 凶 一 y h 図1 衡平/不衡平の生起Fisk and Y oung (1985)は,衡平期待が満たされないという状況(航空サービ スの待ち時間や価格が不衡平な状況)を実験的に作り出し,不衡平は消費者不 満足を導き,再購買意図を低下させることを明らかにしている。また Swan and Oliver(1985)は,新車購入者の販売員に対する満足研究で,満足は不衡平 と不確認の両方によって決定されることを発見している。両変数は独立であり, 満足に対して加法的な影響力を持っていたことから,衡平理論は不確認効果を 補足するものであるかもしれないことを指摘している。 また,衡平理論は,人は産出物/投入物比が自分の方が大きい場合(正の不 衡平)にも他者の方が大きい場合(負の不衡平)にも,不満足を感じると予想 しているが,彼らの結果では,不満足は負の不衡平性の程度が高い場合にのみ 生じている。衡平理論の予測とは異なり,正の不衡平の場合には不満足は生じ ておらず,消費者は正の不衡平については満足なものと知覚するようである (Oliver and Swan
,
1989)。
( 4 ) Pritchard(1969)によると,個人の不衡平に関する知覚はその個人と比較対象者の親密 度(社会的距離)に依存する。この命題に基づくと,交換に参加するこ者が親密であるほ ど,両者は不衡平を感じやすくなるということになる。また,消費者が比較対象としてモ ノやサービスの提供者を選択するよりも,友人・知人を選択する方が不衡平を知覚しやす いということになる。 Huppertz, Arenson and Evans(1978)は,特定の小売業者と消費者との社会的距離の 測度として購買頻度を採用し,購買頻度が高い(親密度が高い)消費者1ほど,その小売庖 に対して不衡平を知覚しやすいという結果を得ている。-222 香川大学経済論叢 222 尚,衡平理論についても多くの研究が行われており,報酬の配分に伴う人間 の行動は
Adams
が論じているほど単純でないことが明らかにされている。例 えば,投入量に関係なく平等に分配されるべきであるという平等(
e
q
u
a
l
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t
y
)
原 理や,各自が必要とする程度に応じて分配が行われるべきであるとする必要性(
n
e
e
d
)
原理も働いており,これらは分配が行われる状況に応じて複雑にからみ あっているようである。(
3
)
ノ ル ム 前述の期待不確認パラダイムにおける期待は,購買意思決定過程で個々のモ ノやサ}ビスについて形成され,購買態度形成の基礎となる期待である。すな わち,個々のモノやサービスが備えているであろうと予測される成果を意味し ている。しかし,購買あるいは使用後の成果の評価にこの間じ期待が比較基準 として用いられるとする理論的根拠はないとして,他の期待を比較基準として 採用している研究者もいる。例えば,M
i
l
l
e
r
(
1
9
7
7
)
は,期待のタイプとして理想 的期待,予想的期待,許容可能期待,正当的期待を提案している。また,規範 的期待(Summers and G
r
a
n
b
o
i
s
,1
9
7
7
)
,希望的期待(Swan
,Trawick
,and
C
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r
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,1
9
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2
)
,理想的成果(
T
s
eand W
i
l
t
o
n
,1
9
8
8
)
,などを提唱している研究 者もいるが,これらはM
i
l
l
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r
の理想的期待とほぽ同義であり,消費者のニーズ を満たすためにモノあるいはサービスが備えているべき,または達成すべき成 果水準を意味している。Woodruff
,C
a
d
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t
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,and J
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k
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s
(
1
9
8
3
)
もこのような期待を提案している が,期待不確認パラダイムにおける期待と区別するために,これを経験ベース・ ノルムと呼んでいる。また,期待不確認パラダイムにおける期待は,当該ブラ ンドに対する消費者の経験に基づいて形成されると考えられているが,経験 ベース・ノルムは当該ブランド以外の経験にも影響されるとしている。すなわ ち,比較基準としてのノルムの形成に影響を及ぽす経験の範囲を拡大し,当該 ブランド,他の類似のブランド,あるいは同一ニーズを満たすことで競合関係 にある製品クラス全体,なども影響を及ぽす可能性を指摘している。223 日本人のサービス消費におげる満足形成の特質 223-また,
C
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d
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t
t
e
,Woodruff
,and J
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n
k
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n
s
(19
8
7
)
は , レ ス ト ラ ン で の 食 事 (ファーストフード・レストラン,ファミリー・レストラン,高手投レストラン) という文脈で,製品タイプ・ノルム,ベスト・ブランド・ノルム,ブランド期 待,という三つの代替的比較基準の消費者満足に対する効果分析を行っている。 尚,製品タイプ・ノノレムは製品カテゴリー(レストラン)内の全ブランドが保 有している典型的あるいは平均的な成果水準を,ベスト・ブランド・ノルムは 特定の製品カテゴリー(例えばファーストフード・レストラン)に属する全ブ ランドの中で,消費者が最高のブランドと考えるものが保有する成果水準を意 味している。また,ブランド期待は,期待不確認パラダイムにおける期待とほ ぼ閉じであり,当該ブランドに対する期待を意味している。 彼らの分析結果では,ブランド期待を採用したモデルよりも,製品タイプ・ ノルムあるいはベスト・ブランド・ノルムを採用したモデルの方が消費者満足 の説明力においては優れていた。しかしながら,どのようなレストランを利用 するかという状況によって,製品タイプ・ノルムとベスト・ブランド・ノルム のどちらが消費者満足の説明力に優れているかは異なってい足。このような結 果から,比較基準の形式は当該ブランドばかりでなく,それに関連する他ブラ ンドの経験にも影響されることと,消費者がどのような比較基準を採用するか は状況依存的であることが推測される。後者については,C
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and
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(
1
9
8
2
)
の満足形成過程は製品によって異なっているという提言と 一致している。(
4
)
代替的比較基準の説明カ 消費者満足の予測概念として,期待,ノルム,衡平性などの代替的な比較基 準が提案されているが,前述のC
a
d
o
t
t
e
,Woodruff
,and J
e
n
k
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s
(
1
9
8
7
)
の結果 が示しているように,各比較基準の消費者満足に対する説明力は消費状況に ( 5 ) ファーストフード・レストランとファミリー・レストランの利用状況では,製品タイプ・ ノルムを用いたモデルの説明カが最も高かったが,高級レストランの利用状況では,ベス ト・ブランド・ノルムを用いたモデルの説明カが最も高かった。また,どのような状況に おいても,プランド期待の説明カは最も低かった。224ー 香川大学経済論叢 224 よって異なっていると考えられる。すなわち,モノあるいはサ}ビスの購買・ 消費状況によって,消費者は知覚成果を評価する基準を使い分けていると考え られる。
Tse and W
i
l
t
o
n
(
1
9
8
8
)
は,三タイプの比較基準(期待的成果,理想的成果, 衡平的成果)の消費者満足に対する影響を比較している。その結果では,衡平 的成果は消費者満足に対して影響を及ぽさないが,期待的成果と理想的成果は 満足に対して有意な影響を及ぼしていた。しかしながら,両者の効果は異なっ ており,期待的成果は満足に対して直接的に正の影響を及ぽし,理想的成果は 知覚成果を通じて満足に間接的に負の影響を及ぽしていた。彼らはこの結果か ら,理想的成果は経験評価に対して対比効果を引き起こすのに対し,期待的成 果は同化効果を引き起こす可能性があることを指摘している。但し,C
a
d
o
t
t
e
,Woodruff
,and J
e
n
k
i
n
s
の結果が示すように,調査状況を変えることでこのよ うな結果が違ったものになる可能性も存在している。 また,消費者満足の形成には複数の比較基準が用いられているかもしれない, という提案も行われている(
S
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g
y
,1
9
8
4
;
W
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and N
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,1
9
8
6
;
Tse
and W
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,1
9
8
8
)
。前述のTseand W
i
l
t
o
n
(
1
9
8
8
)
は,期待的成果と理想的成 果は消費者満足に対して同時に影響を及ぼしていたことから,複数の比較基準 が同時に用いられる可能性があることを支持している。彼らはまた,満足形成 に関係し影響を及ぼす比較基準は時間とともに変化する可能性があることも指 摘している。つまり,消費者満足は一つの比較基準による一度だけの比較によっ て決定されるのではなく,異なったいくつかの比較基準を含む継続的なプロセ スによって決定されるかもしれない。さらに,いくつかの比較基準が重みづけ して組み合わされ,一つの比較基準が作り出されている可能性があることも指 摘している。 消費者満足形成過程にかかわる確認/不確認パラダイムでは比較基準として (6 ) 期待成果は製品が最も備えていそうな成果水準であり,理想的成果は消費者が理想的 に期待する最適製品の成果水準を意味している。また,衡平的成果は,知覚された一連の コストを所与として,消費者が受けとるべき成果水準を意味している。225 日本人のサービス消費における満足形成の特質 225 期待が採用されることが多いが,以上のような結果に注目するならば,モノや サービスの消費状況と採用される比較基準の関係,用いられる比較基準の数, 複数の比較基準が用いられる場合のその用いられ方などに関してさらに研究が 進められる必要があると考えられる。さらに,このことは,同じような消費状 況においても,文化や制度によって用いられる比較基準が異なる可能性がある ことも暗示しているであろう。 III.サービス・デリパリーの特質とスクリプト (1) サービス晶質のニ元性と新たな比較基準の必要性 消費者は三つの代替的比較基準を状況によって使い分けながら,あるいは同 時に用いながら満足形成を行うことが明らかにされていることから,消費者満 足向上には,特定のモノあるいはサービスの購買・消費状況において用いられ る比較基準とその内容を明確にし,それを上回る成果を提供することが重要で あるとされている。しかし,従来の消費者満足研究はモノ消費を中心として展 開されているために,サービス自体及びそのデリパリー・プロセス(サービス の生産及び提供過程)の特質のために,このような施策だけではサービスの消 費者満足を効果的かつ効率的に向上させることはできないと考えられる。 サービス消費とは,消費者自身もサービス・デリパリー・プロセスに参加し, 望む便益を生み出すために保有する消費資源(金銭,時間,肉体的及び精神的 エネルギー,空間,知識・能力など)を用いながら彼に期待されている役割を 果たし,他の参加者(サービス組織の管理者及び従業員,サービス・デリパリ} 空間を共有する他の消費者)と協働し,同時にそれを享受することである。この (7) サービス自体及びそのデリパリー・プロセスの特質については,藤村 (1991)を参照のこ と。 (8 ) 消費者の参加のあり方とそれが消費者満足に及ぼす影響については,藤村 (1996a)を参 照のこと。 (9 ) 消費者を含む参加者の参加と協働が効果的Eつ効率的に展開されるためには,デリパ リーの目標やそのあり方についての共通認識が必要である。しかし現実には,参加問には 認識ギャップが存在しており,それがデリパリー・プロセスにおいてコンフリクトを生じ させている(藤村, 1998)。
-226 香川大学経済論叢 226 ようなサービス消費の特質のために,サービスの消費者満足はサービスの結果 だけでなく,そのデリパリー・プロセスのあり方によって決定される。このこ とから,サービスの品質は結果品質と過程品質によって構成されていると考え られるが,さらに重要なことは,両品質は消費者の参加と協働のあり方によっ て重大な影響を受けるということである。モノの場合には,製造企業から提供 されるものの品質は標準化・均一化されているが,サービスの品質は,たとえ サービス組織のハード及びソフト環境や従業員の働きが同じであったとして も,デリパリーのあり方やその結果は消費者自身のプロセスへの参加の仕方や そこでの他の参加者との協働のあり方によって大きく変化する。 このようなサービス品質の二元性とそれらに対する消費者の影響力のため に,従来の消費者満足研究で明らかにされた3つの比較基準を直接的にサービ ス消費に適用することはできない。なぜならば,従来の比較基準は結果品質に 対する満足形成に関連した概念であり,また,消費者自身の参加や協働のあり 方が彼自身の満足形成に及ぽす影響もほとんど考察されていないからである。 このようなことから,サービスの消費者満足研究においては,過程品質に対す る満足形成にかかわる比較基準を明らかにするとともに,消費者の参加と協働 を適切に導くものに関する考察が必要とされる。この両問題にかかわる重要な 概念として,スクリプトがある。 (2) スクリプトの機能
Smith and Houston (1983, p..60)によると,スクリプトはイベント・スキー マあるいは知識の心的表象であり,日々の反復的な出来事における相互作用を 容易にする一般的知識である。またSchankand Abelson (1977, p..41)による と,スクリプトは行動のあらかじめ決定された型にはまった順序であり,見慣 れた状況を明確にするものである。 Abboottand
B
l
ack (1980, p.. 5)はSchank and Abelsonの定義を拡張して,平凡な出来事のためのスクリプトは日常生活 で頻繁に行われるために,行動が型にはまっている出来事に関する知識であり, 出来事に関連する標準的行動,性質,対象から構成される,と定義している。-227-日常的なサービス消費においても,消 費者がデリパリー・プロセスに参加し協働するための台本として機能すると考 えられる。つまり,適切なスクリプトを学習することで,消費者はもはや参加 や協働の度にそれらのあり方について思考を働かせる必要がなくなり, それら
l
i
l
i
-日本人のサービス消費における満足形成の特質 スクリプトは, このような定義から, 227 これにより,消費者は結果品質及び を迅速E
つ適切に遂行できるようになる。 な影響を及ぽさないようになるために,消費者満足の決定はサービス組織側の また,適切なスクリプト学習は,消費者の精神的疲 労によるストレスの削減を可能にすることで彼の感情にポジティブな効果をも たらすだけでなく(Humphreyand A
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,1
9
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4
)
, ス・デリパリーを効率的E
つ効果的に遂行することを可能にする。 スクリプトによる思考を働かさない行為は,その行為が頻繁に繰り返され るという状況の下では間違いを増加させる可能性も存在している(
L
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あるいは最低限でもネガティブ 過程品質に対してポジティブな影響を及ぽす, サービス組織がサービ しかしなが 要因に基づくことになる。 ら, また,前述のSmithand Houston (
1
9
8
3
)
によると,スクリプトには因果的・ 時間的順序において関連している一連の行動が含まれることから,将来の出来 事に関する予測を容易にするという機能や,規範体系として経験評価のための この経験評価機能により,スクリプトはデ リパリーのあり方,すなわち過程品質を評価する比較基準のーっとしての役割1
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e
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,
1
9
7
9
:
Langer and N
ewman
,
1
9
7
9
)
。
基準を提供するという機能もある。
を果たすと考えられる。すなわち,スクリプトとサービス・デリパリー・プロ セスでの経験とが比較され,両者の一致度が高い場合には過程品質にかかわる 満足は向上し,逆に一致度が低い場合には不満足になると考えられる
(
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Gutman
,
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,1
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Solomon
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McCallum and H
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,
1
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1
)
。
それは,将来においてどのような こ と が 起 こ る か を 予 測 で き る と い う こ と は 知 覚 コ ン ト ロ ー ル(
p
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また,予測性の向上機能も重要であるが,c
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)
を高めることになるためである。知覚コントロールとはサービス・エン (デリパリー・プロセスにおける消費者と従業員と人的相互作用) カ ウ ン タ }OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
-228 香川大学経済論叢 228 中 に 消 費 者 及 び 従 業 員 が 知 覚 す る 状 況 に 対 す る コ ン ト ロ ー ル 水 準 で あ り
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, 1985, 1991),サービスの選択意思決定,満足,行動に影響を及ぽすこ とが明らかにされている。消費者満足に対する影響に限れば,これは人的相互 作用における満足にとって必要不可欠であり,この水準の向上は消費者満足を 高める方向に作用することが明らかにされている(
S
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,1966;Hui and
B
a
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,
1991)。
以上のことから,サービスの消費者満足においては,比較基準として期待, 衡平性,ノルムの他に,スクリプトも重要な役割を果たすしている考えられる。 しかしながら,これらの代替的な比較基準は欧米におげる消費者満足研究や サービス・マーケティング研究において構築された概念であるため,これらを 直接的に日本人のサービス消費における満足形成に適用できるかどうかは疑問 である。そこで,この問題を次節で検討したい。I
V
.
日本人のサービス消費における比較基準の特徴 (1 ) ヒアリング調査の結果と日本人のサービス消費行動の特徴 欧米人との比較で,日本人のサービス消費における満足形成の特徴を明らか にするために,日本国内及び海外でサービス提供を行っている組織(航空会社 とホテル)に所属し,国内外での勤務経験のある従業員に対してヒアリング調 査を行っ足。ヒアリング調査で得られた意見の中で,消費者の満足/不満足形 成にかかわる意見と苦情行動にかかわるものを列挙すると,以下のようになる。 【満足/不満足形成にかかわる内容】 ・日本人は待っていれば,同じようなサービスをしてくれると思って待って いるが,外国人は要求してくる。 (10) ヒアリング調査は1998年8月に,航空会社の従業員4名,ホテルの従業員3名に対し て行った。ここに,長時間のヒアリングにご協力下さった方々と,本調査の依頼及び時間 調援を行って下さった,東急総合研究所情報開発部の吉野有助主任研究員に感謝いたし ます。229 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -229-ー -外国人は要求するから多くのサービスを提供するが,日本人は要求しない からサービスを提供しない。その結果,周りと自分の受げるサービスが異 なると苦情を出してくる。 -日本でサービスが一律に提供されるのは(例えば,国内便の朝食サービス), 「何であの人だけに出して私にはないの ?Jという苦情が出るためである。 外国では,各個人に応じてサービスを提供している。 -日本人は均一のサービスを要求するが,外国人は多様なサービスを要求す る。 -米国人は í~ をやりたい」というように,何もなくてもしたいことを要求 してくるが,日本人は í~ をしてくれるのか J í~ができるのか」というよ うに,できるものから選択する。 -日本人は仲間がいれば様々なサービスを要求するが,一人だとしない。要 求しないから,スチュワーデスも声をかけないし,サービス提供も行わな しユ。 -外国人は,サ}ビスの受け手と提供者は対等だと思っているが(要求しな いとしてくれない),日本人は,受け手iが優位で提供者は劣位であると思っ ている(当然してくれるものだ)。 ・外国人の場合,言わないと分からないので,言うべきことは言う。日本人 の場合,ひとこと言ってくれれば解決できたのに,ということがよくある。 分かつてあたり前という意識があり,従業員は何も言わなくても分かつて くれると思っている。そして,分からないことで不満が発生している。 【苦情行動にかかわる内容】 ・外国人は一人でもクレームを出すが,日本人は仲間がいると強くなり,ク レームを出す0 ・日本人は日本人が対応する,あるいは日本語を話せる人がいると,強い態 度に出る。 -外国人はクレ}ムに対して論理的に説明すると納得するが,日本人は情緒
-230-ー 香川大学経済論叢 230 的である。例えば,外国人は天候による欠航に対しては苦情を言わないが, 日本人は言う。 ・日本人はエージェントに苦情を出し,エージェントからホテルに苦情が来 る。 -日本人は飛行機が遅れても,その場では苦情を出さないで,後で投書して くる。アメリカ人はその場で苦情を言う。 このヒアリング結果から,日本人のサービス消費行動の特徴として,次の三 つのことを読み取ることができるであろう。その第一の特徴として,日本人は 他の消費者の行動や彼らがサービスとして受けるものを強く意識するだけでな く,それによってデリパリー・プロセスへの参加の仕方や,サービス・デリパ リーのあり方,及びその結果に対する期待内容は規定される傾向がある。すな わち,サービス消費場面における日本人の期待やそこでの行動は状況依存的で あり,他の消費者との相互作用で形成される傾向がある。この結果として,満 足/不満足の決定において,サービス組織が提供するサービス品質そのものよ りも,消費状況における他の消費者の方がより大きな影響を及ぽすということ が起こりやすいと考えられる。換言すれば,前述の
S
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が提唱して いる相対的不満が,日本人においてより起こりやすいということである。 第二の特徴として,欧米人は自分のニーズや要求を情報として従業員に明確 に伝えるのに対して,日本人はそれらを明確に伝えなくとも,従業員が状況か らそれらを読み取ってくれることを期待している。つまり日本人は,従業員と のコミュニケーションも以心伝心で行うことが可能であると考えているようで ある。しかし,実際にはそれが困難であるために,従業員は消費者のニーズや 要求を把握できず期待を満たすサービスを提供できないばかりか,両者の保有 するスクリプトのズレを修正できず協働を効果的且つ効率的に展開できなく なっている。 第三の特徴として,苦情行動も状況依存的であり,またデリパリー空聞を共 有する他者の目を意識してか,事後的に手紙や電話で出す傾向がある。同様な231 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -231-結果は病院やビジネスホテノレで実施したアンケート調査でも見られるが,この ような苦情行動のためにサービス組織が苦情原因をデリパリー・プロセスで解 決し,それを消費者満足やロイヤリティの向上につなげる機会が少なくなって いる。また,エージ1ントが介入している場合には,そこを通じてサービス組 織に苦情を出す傾向が見られ,欧米人は自己責任においてサービスを選択する のに対して,日本人はエージェントに依存することで,サービス選択に伴う責 任あるいはリスクを回避する傾向もありそうである。
(
2
)
日本人の思考・行動特性に関する議論 サービス消費における日本人の満足形成や苦情行動のあり方は欧米人のそれ らとは異なっているようであるが,日本人の思考や行動が欧米人のそれとは異 なることは,様々な学問分野の研究者によって指摘されている。ここでは,日 本人のサービス消費における満足形成の特徴をより深く考察するための基礎と して,日本人の思考や行動に関する従来の研究成果について簡単に概説したい。 日本人の思考や行動の特殊性は様々な視点で捉えられているが,特殊性の捉 え方により大きく二つに分けることができる。その一つは,日本人の思考や行 (11) 木村(1997)は,日本人が五感の中で特に限を重視し,欧米人は特に嘆覚を重視すること から日本人を白人間,欧米人を鼻人間と呼んでいる。木村によると,日本人の眼重視の傾 向は,日本の少年少女向けマンガやアニメの主人公の限がつねに大きく,ノfッチリと見開 いている傾向があることや,見定めるJ'見守るJ'見据えるJ'目付Jr大目付」など, 限に関係した用語が多いことから読み取れるとしている。これらの傾向は,日本人が内心 で,常に限を大きく開けて自分を取りまく悶囲の様子をできるだけ正しく知りたいと 思っていることの現れであると同時に,常に他者に見られていると思いこみ,どのように 見られているかを気にかけていることの現れである。一方,欧米人の嘆覚重視は,例えば, フランス語で感覚を表すサンスの動詞形サンティールが「感じる」と同時に「匂いを嘆ぐ」 「匂いがするJr匂う」ということを意味することや,アメリカの白人が黒人を臭いと言っ たり,日本人を魚臭いと言ったりするように,嘆党で区別し表現しようとすることから読 み取れるとしている。 (12) 効果的な苦情処理は消費者の満足や信頼,コミットメントに影響を及ぽし,結果として 消費者との関係性維持や収益性に劇的な影響を及ぽすことが指摘されている(ForneJI and Wernerfelt, 1987; Tax, Brown, and Chandrashekaran, 1998; McCoJIogh and Bharadwa,i1992; KeJIy, Hoffman, and Davis, 1993; Reichheld, 1993)。医療サービ スに対する苦情においても,その不満原因の解決は患者満足につながることがことが明 らかにされている(藤村, 1996 b)。232- 香川大学経済論叢 232 動は欧米人のそれとは質的に異なったものとして捉える立場であり,もう一方 は,世界全体を貫く共通変数(次元)を分析概念として用いることで,日本人 と欧米人の相違を量的なものとして捉えようとする立場である。 前者はいわゆる日本人論であり,その代表的なものとして土居(1
9
6
9
)
の「甘 えj,南(19
8
3
)
の「日本的自我j,漬口(19
7
7
)
の「間人主義」がある。これらの 日本人論はその基本的立場においては異なっているが,日本人の自己のあり方 の特徴については共通の見解が見られる。それは,自分と他者との区分があい まいで独立した主体としての「個」の意識が弱く,自己認識の内容や構造が周 囲の他者によって強く規程される,という特徴においてである(高田,1
9
9
2
)
。 後者の立場は,同じ文化の中でも思考や行動のあり方には個人差があること を前提にして,ある文化内部に発生する「文化内分散」に比べて,異なる文化 聞に発生する「文化問分散」の方が大きいかどうかを問題とするものである。 このような量的な違いとして文化間の差異を捉えようとする研究では,H
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l
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(
1
9
7
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)
の文化区分である「高コンテクストj ,.低コンテクストj,R
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(
1
9
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)
の米国国民の区分である「内部志向型j ,.他者志向型j ,.伝統志向型」が多く用 いられている。 紙幅の制約上,ここではH
a
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の「高コンテクストj ,.低コンテクスト」のみ を取り上げるが,この区分は言語的にどの程度に明示的に意味を付加するかに 基づくものである。低コンテクスト文化とは,コミュニケーションあるいはメッ セージは明示的であり,情報の大部分は言葉によって伝達される文化である。 一方,高コンテクスト文化とは,口頭でのコミュニケーションにおいても書面 でのコミュニケーションにおいても,明示化・コード化された情報は少なく, ほとんどコンテクストの中に組込まれている文化である。そして,北米や西欧 は低コンテクストの典型であり,日本や中国は高コンテクストの代表として位 置づけられている。また,両文化を区別する文化的指標が多くの研究者によっ て提案されているが,例えば,Kaynak (
1
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)
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(
1
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1
)
は次の六つを挙げている。233 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -233-く米国〉 く日本〉
(
1
)
明確かつ直接的なコミュニケ一件暗黙的かっ間接的なコミュニ ション ケーション (2) 個人としての行動 特組織の一員としての行動 (3) 言葉(レトリック)による説明特非言語的側面(
4
)
契約に基づく利害調整 骨人間関係に基づく利害調整(
5
)
多数決型意思決定 特全員一致型意思決定(
6
)
競争とは良い結果をもたらす 特協調・妥協が重要また,
Markus and Kitayama (
1
9
9
1
)
は自己についての相互独立的な考え方 と自己についての相互協調的な考え方という区分を提唱し,これらの考え方は それぞれの文化に属する人々の認知,感情,動機づけに様々な影響を及ぽすこ とを主張している。相互独立的な考え方は欧米文化に見られるものであり,個 人はそれぞれ他者から分離しており,それゆえ自己は自律的で独立していると する考え方である。そのため,この考え方の強い文化では,その人らしさは特 定の状況や関係にかかわらず一定している。一方,相互協調的な考え方は日本 やアジアに見られるものであり,個人は相互に結び付いており個別的ではない とする考え方である。そこでは,自分と関係のある他者と協調し,義理を立て, さまざまな人間関係の一部になりきることが目指される。また,中心的な自己 認識の側面は自己と他者の接点にあるため,自己認識は特定の社会的関係に依 存することになる。 (3) 日本人の満足形成における比較基準の特徴 日本人の思考や行動の特徴に関する研究は様々な視点から行われているが, 日本人の思考や行動は周囲の他者や社会的関係に影響されやすい,という点で は共通しているようである。この特徴はサービス消費場面にも反映され,ヒア リング調査の結果から検討した第一の特徴に現れていると考えられる。すなわ ち,満足形成において重要な役割を果たす比較基準としての期待やスクリプト は,欧米人の場合には個々人で独立しており,非相互作用的であり,しかも特-234 香川大学経済論叢 234 定の状況や関係にかかわりなく一貫(安定)しているの対して,日本人の場合 には状況依存的であり,他者との相互作用で形成される傾向がある。また,ノ ルムにかかわる意見は今回のヒアリング調査では得られなかったが,期待やス クリプトと同様に,ノルムの内容も状況依存的に変化するのではないかと推測 される。 また周囲の他者を強く意識するために,サービス・デリパリー空間を共有す る他の消費者との衡平性を重視する,あるいは投入物にかかわりなく産出物の 平等性を重視する傾向が生じていると考えられる。この結果,別に自分では欲 しいと思っていなくても,他の消費者がもらったものは自分ももらいたくなる し,もらえなければ不満を感じる,という現象が起こっている。 このように周囲の他者や社会的関係に影響されやすいということは,他者の 思考や行動を強く意識するとともに,他者の自に映る自分の思考・行動のあり 方やそれらに対する評価も強く意識するということである。この結果として日 本人は「恥」を懸念する行動形態をとりやすく,苦情行動にもこの傾向が反映 されていると考えられる。 さらに第二の特徴である,日本人は明確に自分のニーズや要求を従業員に伝 達しないということは,高コンテクスト文化の影響を強く受げた行動形態と解 釈できる。暗黙的あるいは非言語的なコミュニケーションが多く行われる背景 の一つに,日本社会がほぽ単一民族から構成され,しかも高学歴であることか ら広範囲にわたってシンボルが共有されていることがあるであろう。このこ とはコミュニケーションを簡単
E
つ短時間に行うことを可能にする一方で, サービスの消費場面においては,従業員が消費者のニーズを充足することを困 難にしている。すなわち,消費者の従業員とのコミュニケーション活動への参 加は文化によって抑制されていることから,日本人のサービス消費においては, 文化的に不満構造が形成されていると考えることができるであろう。 以上のようなことから,欧米での消費者満足研究やサ、ービス・マーケティン グ研究において明らかにされた代替的比較基準は,日本人の満足形成過程の説 明及び予測においても重要な役割を果たすが,日本と欧米では,それらは状態235 日本人のサービス消費における満足形成の特質 -235-や形成過程,重要性などの点において異なっていると推測される。すなわち, 日本人のサービス消費においては,期待やノルム,スクリプトは状況依存的
E
つ相互作用的に変化するが,欧米人の場合には,それらは個人的且つ非相互作 用的,安定的である。また,日本人の方が,衡平性あるいは平等性を重視する 傾向があると推測される。 さらに,これらの比較基準をサービス組織の従業員へ伝達する仕方において も違いが見られ,日本人の場合には,言語的に明確な情報としてコミュニケー ションすることが少なくなっている。そして,これらの特徴が複雑に絡み合う ことで,日本人のサービス消費においては不満足あるいは相対的不満を導く構 造が文化的に形成されていると考えられる。V
.
お わ り に 本稿では,欧米における消費者満足研究及びサービス・マーケティング研究 において明らかにされた,サービスの消費者満足形成において重要な役割を果 たす代替的比較基準について考察するとともに,それらに関しての日本人と欧 米人の聞の相違点について若干の検討を行った。ヒアリング調査の結果,代替 的比較基準は日本人の満足形成においても重要な役割を果たすが,文化的な違 いのために,状態や形成過程,重要性などにおいて相違がありそうなことが推 測された。 しかし,ここでの推測は少数の従業員を対象にしたヒアリング調査に基づく ものであるため,今後の課題として,量的調査によりこれを検証する必要があ る。欧米人と日本人の用いる比較基準の相違を明らかにするために,両者を対 象に共通変数を用いた同じ調査票で調査を実施しなげればならない。また,サー ビス消費の文脈で推測された傾向が,モノの消費においても存在するのかを明 らかにする必要がある。このような課題遂行は,満足形成に関する日本人と欧 米人間における同質性と異質性をより明確にするとともに,日本における消費 者満足研究やそれに基づくマーケティング戦略研究の進展に貢献することにな るであろう。-236ー 香川大学経済論叢 236
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