博士(農学)横野 学位論文題名
電気融合手法の食用菌への適用 学位論文内容の要旨
健
キノコ (食用 担子苗) は日本人の食卓に欠かせない食物である。キノコ栽培は日本では既 に100年以上行われてきているが、栽培品種の改良はもっぱら選抜と交配の方法によっている。
細胞融 合によ る育種法 は近年植物の改良で注目をあっめており、微生物である酵母につい ては実 用段階 に違して いる。キノコは単一の細胞であるプロトプラストから、最終的に食物 となる 子実体 まで比較 的容易に誘導することが出来るという特質を持つ。このため、細胞融 合による育種に適した生物材料である。
電気融 合法倣 、細胞膜 に電荷をあたえることによって隣り合う細胞同志を融合させようと するも ので、 従来のボ リエチレングリコールを用いる方法に比べて細胞に対する融合剤の毒 性を考慮する必要がないという利点がある。
本研究 は、こ の電気融 合法をキノコ(食用菌)に適用することを目的として行ったもので ある。
研究内容は以下の項目に大別される。
1)電気 融合装置 の製作 ・検討
Dielectrophoresis法で細胞融合を行うために必要な装置を作製し、一部市販の装置を組 みあ わせて 融合シス テムと しての予 備的評 価を行っ た。
最初に パルス発 生装置 として、 タイマICと単安定マルチバイブレータICを組み合わせ、高 電 圧 用 の ス イ ッ チ ン グ ト ラ ン ジ ス タ を コ ン ト ロ ー ル す る も の を 作 製 レ た 。 市販ト ランシー バを高 周波発生 装置とし て用い、パルス発生装置を組み合わせたシステム ではプロトプラストを融合させることが出来た。しかしこのシステムは高周波もれが激しく、
実験中に手がしびれるなど人体に害があり、改良の必要があった。
次に、 高周波も れを少 なくする べく、高 周波発振器として2MHz、コルピッツ型のもの、高 周波増幅器としてA級1段階のものを作製した。
この高周波発振器、高周波 増幅器および先に作襲レたパルス発生装置を組み合わせたシス テムでもプロトプラストの融 合がみられた。しかし、このシステムにおいては高周波の電圧 が不足であった。単位長さ当 たりの電圧をあげるために融合チャンバーの電極間隔を極端に 狭くすることが必要であり、 このような融合チャンバーの製作は困難を伴った。また、この 電極間隔の狭いチャンバーは 容易に焼き付きを起こして使用不能になり、融合を再現性良く 行うことが困難であった。こ のため、高周波もれを押さえた上で、システムの高周波電圧そ のものを上げるための改良を 行う必要が生じた。また、このシステムではパルス用の市販高 圧直流電源装置の容量が不足 であり、長いパルスでは必要な電圧を維持することが出来ない ため、この点についても改良 の必要があった。
最終的に、高周波増幅器としてA級2段階のもの、大型の変圧器と倍電圧整流回路を用いた パルス用高圧直流電源装置、より 安定した動作を行えるようにスイッチングを2段階式に改 良したパルス発生装置を作製した 。
市販シグナルジェネレータを高 周波発振器として用い、これに2段階式高周波増幅器、高 圧直 流電 源 装置 、パ ルス 発生装置を組み合わせたシステムで、安定した融 合がみられた。
融合チヤンバー獄、電極材料と して、白金平板、ニクロム線、かみそりの刃、ステンレス 平板を用いて作製した。電極の形 態によって電場の形態が異ぬる為、機序および効率は異な るものの、全てにおいて融合がみ られた。
2)自作融合装置の評 価
安定した融合がみられたシステムで担子菌クモノ スコウヤクタケの不完全世代であるRhi‑
zoctoma solaniの 栄 養 要 求 性 変 異 株 プ ロ ト プ ラ ス ト を 融 合 さ せ た 。
270Vpp/cmを超える高周波はプロトプラストの生存率を下げることがわかった。また、3.0 kV/cmを超える′ヾルスはプロトプラストの破壊を促進することがわかった。これらの電気的 条件の範囲 内で5.2%の種内融合率が得られた。これは同一の菌株でボリエチレングリコー ルを用いた 場合の2倍の融合率であった 。
これによ り、担子菌に電気融合が適用可能であることと、自作の融合装置が有効に働くこ とが明らか になった。
3)食用菌の栄養要求変異株の作製
以上の結果を食用担子苗に応用するべく、突然変異誘発剤であるMNNG(N.メチル‐N ・ニト ロ‐N−ニトロソグアニジン)を用いて食用担子苗ナメコ、タモギタケ、ヒラタケの栄養要求 変異株を誘導・単離した。
誘導誼 、各々 ホモジナイザー処理した苗糸断片またはプロトプラストをMNNG溶液で処理す ること によっ て行った 。単離は、完全培地上で再生したコロニーを分離、最少培地および特 定の栄 養素を 含む最少 培地で 検定する ことによ って行 った。
全部で9株 の栄養要 求変異 株を得た 。栄養要 求変異株の最適誘導条件は、菌糸断片に関し て は40p gZml濃度MNNG.20分ま たは40分、 プロト プラスト に関して は、101197ml濃 度MNN G・80分、致 死率漣い ずれも90〜93%であ った。
4)食 用菌の栄 養要求 変異株の 融合
栄養要求 変異株 のうち、タモギタケ2株およびヒラタケ2株を用いて種間融合を行った。装 置につい てな、こ の時点 で最新の 市販融 合装置を 、1) および2)の 結果をもとに担子菌に 使用可能 になる様 にメー カーに改 造依頼 し、これ を使用 した。
融合 の結果、0.64%の種 間融合率 が得ら れた。
融合 株につい てのエス テラーゼアイソザイム分析の結果、片方の融合親のものだけを持つ ものの 他に、 両親のバ ンドを あわせ持 つ株が 認められ た。
また 、CHEFパルス フイールド電気泳動による融合株の染色体分析の結果、片方の融合親の 全部の バンド の他にも う一方の融合親のバンドを一本持つ株が認められた。この株は異種の 染色体 を核内 に持つ一 核苗糸であると考えられる。さらに、片方の融合親のバンドのみしか 持たな いにも 関らず栄 養要求性を示さない融合株もあり、これらについて倣種間での遺伝子 の組み 替えに よる相補 が起き ているも のと考 えられる 。
融合 株のなか には子実 体原基 を形成す る株も 存在した 。
以上の 結果、 食用菌の 細胞融合に必要な電気的諸条件を具備した融合装置作製のための基 礎が確 立され るととも に、食用菌の細胞融合に電気融合法を用いることが有効であることが 明らか となっ た。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
電気融合手法の食用菌への適用
本論 文は 、4章 から なり 、図20、 表17、写 真35、引 用文 献45を含む総頁数134の英文 論 文で ある 。員 |Jに 参考 論文4編が 添え られ てい る。
キ ノコ (食 用担 子菌 )は 日本 人の 食卓 に欠 かせ ない 食物 で ある 。キ ノコ 栽培 は日本 で は 既に100年以 上行 われ てき て いる が栽 培品 種の 改良は もっぱら選抜と交配の方法に よ っ てい る。
細 胞融 合に よる 育種 法な 近年 植物 の改 良で 注目 をあ っめ て おり 、微 生物 であ る酵母 に つ いて は実 用段 階に 達し てい る。 キノ コは 単一 の細 胞か ら 子実 体の 形成 まで 誘導出 来 る た め 、 細 胞 融 合 に よ る 品 種 改 良 や 育 種 に 適 し た 生 物 材 料 で あ る 。 電 気融 合法 は、 細胞 膜に 電荷 をあ たえ るこ とに よっ て隣 り 合う 細胞 同志 を融 合させ よ う とす るも ので 、従 来の ボリ エチ レン グリ コー ルを 用い る 方法 に比 べて 細胞 に対す る 融 合荊 の毒 性を 考慮 する 必要 がな いと いう 利点 があ る。
本 研究 は、 この 電気 融合 法をキノコに適用することを目 的として行ったものである。
研 究内 容は 以下 の項 目に 大別 され る。
1)電 気 融合 装置 の製 作・ 検討
.Dielectrophoresis法 で細 胞融 合を 行う ため に必 要な 装置 とし て 、高 周波 発振 器、高 周 波 増 幅 器 、 パ ル ス 発 生 装 置 、 高 電 圧 直 流 電 源 装 置 、 融 合 チ ヤ ン バ ー を 作 襲し た。
高 周波 発振 器は2MHz、コ ルピ ッツ 型 のも のを 作製 した 。高 周波 増幅 器は 、A級 増幅の 1段 階お よ び2段階 のも のを 作襲 した 。
パ ル ス 発 生 装 置 は タイ マICと 単安 定マ ルチ バイ ブレ ータICを 組み 合わ せて 、高 電圧 用 の ス イ ッ チ ン グ ト ラ ン ジ ス タ を コ ン ト ロ ー ル す る も の と し た 。 高 電圧 直流 電源 装置 には 、倍 電圧 整 流回 路を 用い た。
一 部 市 販 の 装 置 を 組 み 合 わ せ た シ ス テ ム を っ く り 、 装 置 の 評 価 を 行 っ た 。 市 販 ト ラ ン シ ー バ を 商周 波発 生 装置 とし て用 い、 パル ス発 生装 置を 組み 合わ せた シス テ ム で は プ ロ ト プ ラ スト を融 合 させ るこ とが 出来 た。 しか しこ のシ ステ ムは 高周 波も れ が 激 し く 、 実 験 中 に 手 が し び れ る な ど 人 体 に 害 が あ り 、 改 良 の 必 要 が あ っ た 。 自 作高 周波 発振 器と1段階 の高周波増幅器の組み合わせでも融合がみられ た。しかし、
實 志 三 清 宜 和 澤 谷 澤 浦 寺 笹 深 三 授 授 授 授 教 教 教 教 助 査
.
査
査
査
主 副
副 副
このシステムは高周波の電圧が不足であった。単位長さ当たりの電圧をあげるために 融合チヤンバーの電極間隔を極端に狭くすることが必要であった。このような融合チ ヤンバ丶一一の製作弦困難を伴ったため、システムの電圧そのものを上げるための改良を 行う必要が生じた。
最終的には、市販シグナルジェネレータと2段階の商周波増幅器、パルス発生装置の 組み合わせで、安定した融合がみられた。
融合チヤンバーの電極を白金平板、ニクロム線、かみそりの刃、ステンレス平板な どで作製したが、いずれの場合も有効であった。
2)自作融合装置の評価
安定した融合がみられたシステムで担子苗クモノスコウヤクタケの不完全世代であ るR一.hizocton里塾laniの栄養要求性変異株を融合させた。
5.2%の融合率が得られ、これ試同一の菌株でボリエチレングリコールを用いた場合 の2倍の融合率であった。これにより、担子苗に電気融合が適用可能であることと、自 作の融合装置が有効に働くことが明らかになった。。
3)食用担子菌の栄養要求変異株の作襲
以上の結果を食用担子菌に応用するべく、突然変異誘発剤MNNGを用いて食用担子菌 ナ メ コ 、 タ モ ギ タ ケ 、 ヒ ラ タ ケ の 栄 養 要 求 変 異 株 を 誘 導 ・ 単 離 レ た 。 各々の苗糸断片およびプロトプラストを用いて、全部で9株の栄養要求変異株を得た。
最適誘導条件は、菌糸断片に関しては40pg7ml濃度MNNG.20分または40分、プロトプ ラストに関しては、10pg/ml濃度MNNG.80分であった。
4)食用担子苗の栄養要求変異株の融合
栄養要求変異株のうち、タモギタケおよぴヒラタケの2株を用いて種間融合を行った。
装置 は、1)お よび2)の 結果をも とにメー カーに改 造を依頼し た装置を 用いた。
その結果、0.64%の種間融合串が得られた。
融合株についてエステラーゼアイソザイム分析およびCHEFパルスフイールド電気泳 動の結果、両親のバンドをあわせ持つ株が認められた。融合株のなかには子実体原基 を形成する株も存在した。
以上の結果、食用担子菌の細胞融合に必要な電気的諸条件を具備した融合装置作製 のための基礎が確立されるとともに、食用担子苗の細胞融合に電気的融合法を用いる ことが有効であることが明らかとなった。
よって、審査員一同は、最終試験の結果とあわせて、本論文の提出者機野健は博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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