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©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 302–303, 2020

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 1

Fusobacterium necrophorum による重症扁桃炎の一例

小松﨑敏光

1

,武田 悠輝

1

,丸山 祐樹

1

,日比 裕之

1

,宮澤 昌行

1

,油井 健史

1

,小林 一女

2 1昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科 2昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座

A case of Severe tonsillitis due to Fusobacterium necrophorum

Toshimitsu Komatsuzaki

1

, Yuki Takeda

1

, Yuki Maruyama

1

, Hiroyuki Hibi

1

,

Masayuki Miyazawa

1

, Takefumi Yui

1

, Hitome Kobayashi

2

1Showa University Nothern Yokohama Hospital Otorhinolaryngology 2Department of Otorhinolaryngology, Showa University School of Medicine

1.はじめに

Fusobacterium necrophorum は嫌気性グラム陰性桿菌 で,Lemierre 症候群の主な原因菌として知られており, 口腔内や大腸,女性生殖管に常在する。 病原性を持つとエンドトキシンを放出し,血球破壊, 血小板や細菌の凝集を起こし,敗血症性血栓を生じ重 篤化することがある。 Fusobacterium necrophorum による重症扁桃炎の症例 を経験したので報告する。

2.症例

症例:21 歳男性 主訴:咽頭痛 既往歴:特記事項なし 生活歴:大学生 水泳部所属 現病歴: X−3 日:咽頭痛を自覚 X日:症状が増悪し,嚥下困難となったため救急外 来を受診し,急性扁桃炎の診断で入院した。レボフロ キサシン(LVFX)の点滴を開始した。 X+1 日:当科紹介 受診時現症: 意識清明 体温 40.0°C 心拍数 105 回 / 分 血圧 113/56 mmHg 動脈血酸素飽和度:96 %(room air) 胸部レントゲン:異常影なし <咽頭,喉頭所見> 口蓋扁桃:両側腫大,発赤高度 開口障害(−),喉頭浮腫(−) <血液検査所見> WBC 20.43×103/µl CRP 6.81 mg/dl

3.経過

第一病日(転科初日) 40°C 台の発熱が持続し,咽頭所見は不変であった。 抗菌薬(LVFX)に加えステロイド,解熱剤の投与を開 始した。血液検査で WBC 25.92×103/µl,CRP 17.26 mg/ dL と急増悪を認めたため,血液培養検査を行った。 第二病日 40°C 台の発熱が継続し,咽頭所見に変化なし。CRP は上昇し,WBC は低下傾向であった。造影 CT では明 らかな膿瘍形成を認めなかった(図 1)。自覚症状は悪 化し,夜間徘徊などの異常行動があった。 第三病日 40°C 台の発熱が継続し,扁桃周囲の腫脹が増悪,開 口障害が出現した。意識レベルの悪化が見られ,DIC 傾向となった。血液培養陽性(菌種同定未)の報告あ り。嫌気性グラム陰性桿菌による感染症が疑われたた め,抗菌薬をスルバシリン(ABPC/SBT)6 g/日,クリン ダマイシン(CLDM)1200 mg/日に変更した。 第四病日 DIC スコアを満たしたためトロンボモデュリン ア ルファを開始した。 第五病日 再度造影 CT 検査を実施した。右扁桃に僅かな膿瘍

(2)

Fusobacterium necrophorum による重症扁桃炎の一例

小松﨑敏光

1

,武田 悠輝

1

,丸山 祐樹

1

,日比 裕之

1

,宮澤 昌行

1

,油井 健史

1

,小林 一女

2

1昭和大学横浜市北部病院 耳鼻咽喉科 2昭和大学 医学部 耳鼻咽喉科学講座

A case of Severe tonsillitis due to Fusobacterium necrophorum

Toshimitsu Komatsuzaki

1

, Yuki Takeda

1

, Yuki Maruyama

1

, Hiroyuki Hibi

1

,

Masayuki Miyazawa

1

, Takefumi Yui

1

, Hitome Kobayashi

2

1Showa University Nothern Yokohama Hospital Otorhinolaryngology 2Department of Otorhinolaryngology, Showa University School of Medicine

1.はじめに

Fusobacterium necrophorum は嫌気性グラム陰性桿菌 で,Lemierre 症候群の主な原因菌として知られており, 口腔内や大腸,女性生殖管に常在する。 病原性を持つとエンドトキシンを放出し,血球破壊, 血小板や細菌の凝集を起こし,敗血症性血栓を生じ重 篤化することがある。 Fusobacterium necrophorum による重症扁桃炎の症例 を経験したので報告する。

2.症例

症例:21 歳男性 主訴:咽頭痛 既往歴:特記事項なし 生活歴:大学生 水泳部所属 現病歴: X−3 日:咽頭痛を自覚 X日:症状が増悪し,嚥下困難となったため救急外 来を受診し,急性扁桃炎の診断で入院した。レボフロ キサシン(LVFX)の点滴を開始した。 X+1 日:当科紹介 受診時現症: 意識清明 体温 40.0°C 心拍数 105 回 / 分 血圧 113/56 mmHg 動脈血酸素飽和度:96 %(room air) 胸部レントゲン:異常影なし <咽頭,喉頭所見> 口蓋扁桃:両側腫大,発赤高度 開口障害(−),喉頭浮腫(−) <血液検査所見> WBC 20.43×103/µl CRP 6.81 mg/dl

3.経過

第一病日(転科初日) 40°C 台の発熱が持続し,咽頭所見は不変であった。 抗菌薬(LVFX)に加えステロイド,解熱剤の投与を開 始した。血液検査で WBC 25.92×103/µl,CRP 17.26 mg/ dL と急増悪を認めたため,血液培養検査を行った。 第二病日 40°C 台の発熱が継続し,咽頭所見に変化なし。CRP は上昇し,WBC は低下傾向であった。造影 CT では明 らかな膿瘍形成を認めなかった(図 1)。自覚症状は悪 化し,夜間徘徊などの異常行動があった。 第三病日 40°C 台の発熱が継続し,扁桃周囲の腫脹が増悪,開 口障害が出現した。意識レベルの悪化が見られ,DIC 傾向となった。血液培養陽性(菌種同定未)の報告あ り。嫌気性グラム陰性桿菌による感染症が疑われたた め,抗菌薬をスルバシリン(ABPC/SBT)6 g/日,クリン ダマイシン(CLDM)1200 mg/日に変更した。 第四病日 DIC スコアを満たしたためトロンボモデュリン ア ルファを開始した。 第五病日 再度造影 CT 検査を実施した。右扁桃に僅かな膿瘍 形成(図 2),右肺下葉に小結節影を認めた(図 3)。他 臓器には有意な所見を認めなかった。 第六病日 解熱し,全身状態も改善傾向となった。 菌種(Fusobacterium necrophorum)が同定された。 第七病日 DIC を離脱。 第十病日 経過良好で退院。アモキシシリン / クラブラン酸 (AMPC/CVA)の内服を継続した。

4.考察

Lemierre 症候群は,基礎疾患のない若年男性に多 く 1),近年増加傾向にあるものの 0.6 ∼ 2.3 人/100 万人 とまれな疾患である 2)。先行する上気道感染症に続発 し化膿性血栓性静脈炎を来たし,全身に膿瘍,塞栓等 の転移性病変を形成する 3)。特に肺,胸膜の病変は 9 割以 上の患者に見られる 4)。原因菌の 7 割以上は Fusobacterium necrophorum であり,ペニシリン系,CLDM の感受性 が良好とされている。菌の 2 割程度は β-ラクタマーゼ 産生株であることが報告されており,β-ラクタマーゼ 阻害薬を併用することが薦められる 4)。本症例では内 頸静脈血栓症は証明できなかったが血液培養にて Fusobacterium necrophorum を検出し,CT にて右肺下葉 に不整小斑状結節影を確認したことから,敗血症性肺 塞栓を伴った,Fusobacterium 菌血症(Lemierre 症候群) と判断した。LVFX 耐性であったことで感染が重篤化 したものと考えられた。 近年抗菌スペクトラムの広さからニューキノロン系 抗菌薬が汎用される傾向にあるが,若年健常者の重症 扁桃炎については本症も念頭におき,積極的に培養検 査で原因菌の検索を行い,血液培養で Fusobacterium necrophorum が検出された場合は,造影 CT や超音波検 査を行い,確定診断のもとペニシリン系を中心とした 抗菌薬治療を行うことが重要と考えられた。

参考文献

1) 林 光俊,山脇 功,中田潤子,他:Lemierre 症候群の 1 例.日 呼吸会誌 2003; 41: 651–654.

2) Syed ML, Baring D, Addidle M, et al.: Lemierre syndrome: two cases and areview. Laryngoscope 2007; 117: 1605–1610. 3) Sinave CP: The Lemierre syndrome. Supppurative

thrombo-phlebitis of the internal juglar vein secondary to oropharyngeal infection. Medicine 1989; 68: 85–94.

4) Riordan T.: Human infection with Fusobacterium necrophorum (Necrobacillosis), with a focus on Lemierre’s syndrome. Clin Microbiol Rev 2007; 20: 622-659.

図 1

図 2

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日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 304, 2020

©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 2

Fusobacterium 属が検出された扁桃周囲膿瘍の臨床的特徴

久徳 貴之,井内 寛之,川畠 雅樹,山下 勝

鹿児島大学医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室

【はじめに】近年,偏性嫌気性菌である Fusobacterium necrophorum(FN)が扁桃周囲膿瘍に関与して

いることを示唆する報告が散見される。当科は扁桃周囲膿瘍に対する膿瘍扁摘症例を多く経験してお

り,下極型扁桃周囲膿瘍などの切開排膿の困難な症例に対しても,閉鎖性濃汁を細菌検査に提出して

きた。そこで,当科において Fusobacterium 属が検出された扁桃周囲膿瘍症例を検討し臨床的特徴を

考察した。

【対象と方法】2007 年 4 月から 2017 年 3 月までの 10 年間に当科で入院加療を行った扁桃周囲膿瘍 237

例のうち,膿汁から細菌が検出された 184 例に対して,年齢,性別,膿瘍部位,検出菌について検討

を行った。さらに FN が検出された症例について,その他の扁桃周囲膿瘍症例との臨床的差異につい

て調査した。

【結 果】 細 菌 が 検 出 さ れ た 扁 桃 周 囲 膿 瘍 184 例のうち,男性は 122 例,女性は 62 例であった。

Fusobacterium 属が検出された症例は 16 例あり,男性は 10 例,女性は 6 例であった。全平均年齢は

42.7 歳で,Fusobacterium 属の平均年齢は 32.8 歳であり若い症例が多かった。膿瘍腔の部位は上極 141

例,下極 43 例で,Fusobacterium 属は上極 16 例,下極 0 例であり全例上極型であった。また,検出さ

れた FN は全てペニシリン感受性を認めた。

【まとめ】Fusobacterium 属の検出された症例は比較的若年層に多かった。また,Fusobacterium 属が検

出された症例は全例上極型であった。扁桃周囲膿瘍の局在部位と抗菌薬感受性及び,Fusobacterium

属の特性について検討を加えた。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 3

重症扁桃周囲膿瘍に対する膿瘍扁摘の有効性について(追加報告)

北川 雄基

1

,丸山 裕美子

2

,吉崎 智一

1 1金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2黒部市民病院 耳鼻いんこう科

【はじめに】扁桃周囲膿瘍は耳鼻咽喉科医にとって日常診療で接する機会の多い病態であるが,特に

下極型の扁桃周囲膿瘍や多発型,副咽頭間隙に至った症例において上記加療で十分な効果を得られず

苦慮する場合がある。当院では 2018 年 6 月より即時膿瘍扁桃摘出術(膿瘍扁摘)を導入した。導入

前後における症例の症状と経過について比較し膿瘍扁摘の有用性について検討したので報告する。

【症例と検討】重症扁桃周囲膿瘍症例につき導入前後の 1 年半の 2 群を比較検討した。扁摘無し群は

18 例(男性 9 例,女性 9 例)平均年齢 53.0 歳,扁摘有り群は 17 例(男性 9 例,女性 8 例)平均年齢

53.2 歳であった。扁摘有り群は統計学的に喉頭浮腫の悪化,CRP の増悪,追加切開,胃管挿入,免疫

グロブリン投与,CT 再検の有無および局所処置日数において優位に良好な経過を示すことが確認さ

れた。扁摘群において術後出血をきたした症例は認められなかった。

【考察】扁桃周囲膿瘍は下極型,多発膿瘍,副咽頭間隙膿瘍併発例は病態が急速に進行し喉頭浮腫を

併発しやすいことから,適切な診断と迅速な対応を必要とする。膿瘍扁摘術による確実なドレナージ

病態治癒遅延や気道狭窄の進行,膿瘍の深頸部から縦隔への進展を防ぎ,医療経済学的にも有用な治

療と考えられた。以後も必要症例への治療選択肢の一つとしていきたい。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

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©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 306–307, 2020

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 4

両側扁桃周囲膿瘍を認めた 1 例

坂本 めい,菅原 一真,山下 裕司

山口大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学

Pediatric bilateral peritonsillar abscess: A case report

Sakamoto Mei, Sugahara Kazuma, Yamashita Hiroshi

Department of Otolaryngology, Yamaguchi University Graduate School of Medicine

1.はじめに

扁桃周囲膿瘍は頭頸部領域で頻繁に見かける急性感 染症の一つであり,喉頭浮腫や縦隔膿瘍など重篤な合 併症をきたす事もある。 通常片側性に膿瘍の形成を認め,両側に膿瘍を形成 することは少ない。 今回われわれは,両側扁桃周囲膿瘍を認めた小児の 1 例を経験したため,これを報告する。

2.症例

症例は 11 歳女児で,主訴は咽頭痛であった。咽頭痛 を発症後,徐々に増悪を認め,Day 7 に経口摂取困難 となったため,近医耳鼻咽喉科を受診した。同院で口 蓋垂の右側偏位を認め,左扁桃周囲膿瘍の疑いと診断 された。精査加療目的に同日当科紹介受診した。 既往歴や薬歴は特になく,弟が溶連菌感染による急 性咽頭炎に罹患中であった。 初診時,37.5°C の発熱を認めた。SpO2の低下や呼吸 苦はなかった。開口制限を認め,両側の口蓋扁桃の腫 大を認めた。軟口蓋が発赤し左優位に腫脹していたた め,口蓋垂は右側に偏位していた。その他,両側頸部 リンパ節の腫大を認めた。 造影 CT を施行し,両側口蓋扁桃の外側に,周囲に 淡く造影効果を伴う低吸収域を認めた。ShadeQuest/ VieweR DG®(富士フイルム医療ソリューションズ株式 会社)を用いて,軸位断での膿瘍の断面積を計測した ところ,右が 2.03 cm2,左が 3.57 cm2であった。 両側口蓋扁桃周囲膿瘍の診断で同日 Day 7 に入院と し,アンピシリン・スルバクタム 3 g/ day で点滴投与 を開始した。また,両側のキアリ点より試験穿刺を行 い,左より 8 ml,右より 3 ml の排膿を認めた。細菌培 養検査の結果では,Streptococcus pyogenes(エリスロマ イ シ ン, ク ラ リ ス ロ マ イ シ ン 耐 性),Fusobacrerium nucleatum を認めた。 咽頭所見,採血での炎症所見の改善傾向を認めたた め,Day 10 に抗菌薬をアモキシシリン 750 mg/ day 内服 に切り替えて自宅退院とした。 Day 21 の外来再診時には咽頭所見の軽快を認めたた め,終診とした。 図 1  初診時の咽喉頭所見。軟口蓋が発赤し左優位に腫脹し ていたため,口蓋垂は右側に偏位していた。喉頭浮腫 は認めなかった。 図 2  造影 CT 所見。両側口蓋扁桃の外側に,周囲に淡く造影 効果を伴う低吸収域を認めた。軸位断での膿瘍の断面 積は,右が 2.03 cm2,左が 3.57 cm2であった。

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両側扁桃周囲膿瘍を認めた 1 例

坂本 めい,菅原 一真,山下 裕司

山口大学大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科学

Pediatric bilateral peritonsillar abscess: A case report

Sakamoto Mei, Sugahara Kazuma, Yamashita Hiroshi

Department of Otolaryngology, Yamaguchi University Graduate School of Medicine

1.はじめに

扁桃周囲膿瘍は頭頸部領域で頻繁に見かける急性感 染症の一つであり,喉頭浮腫や縦隔膿瘍など重篤な合 併症をきたす事もある。 通常片側性に膿瘍の形成を認め,両側に膿瘍を形成 することは少ない。 今回われわれは,両側扁桃周囲膿瘍を認めた小児の 1 例を経験したため,これを報告する。

2.症例

症例は 11 歳女児で,主訴は咽頭痛であった。咽頭痛 を発症後,徐々に増悪を認め,Day 7 に経口摂取困難 となったため,近医耳鼻咽喉科を受診した。同院で口 蓋垂の右側偏位を認め,左扁桃周囲膿瘍の疑いと診断 された。精査加療目的に同日当科紹介受診した。 既往歴や薬歴は特になく,弟が溶連菌感染による急 性咽頭炎に罹患中であった。 初診時,37.5°C の発熱を認めた。SpO2の低下や呼吸 苦はなかった。開口制限を認め,両側の口蓋扁桃の腫 大を認めた。軟口蓋が発赤し左優位に腫脹していたた め,口蓋垂は右側に偏位していた。その他,両側頸部 リンパ節の腫大を認めた。 造影 CT を施行し,両側口蓋扁桃の外側に,周囲に 淡く造影効果を伴う低吸収域を認めた。ShadeQuest/ VieweR DG®(富士フイルム医療ソリューションズ株式 会社)を用いて,軸位断での膿瘍の断面積を計測した ところ,右が 2.03 cm2,左が 3.57 cm2であった。 両側口蓋扁桃周囲膿瘍の診断で同日 Day 7 に入院と し,アンピシリン・スルバクタム 3 g/ day で点滴投与 を開始した。また,両側のキアリ点より試験穿刺を行 い,左より 8 ml,右より 3 ml の排膿を認めた。細菌培 養検査の結果では,Streptococcus pyogenes(エリスロマ イ シ ン, ク ラ リ ス ロ マ イ シ ン 耐 性),Fusobacrerium nucleatum を認めた。 咽頭所見,採血での炎症所見の改善傾向を認めたた め,Day 10 に抗菌薬をアモキシシリン 750 mg/ day 内服 に切り替えて自宅退院とした。 Day 21 の外来再診時には咽頭所見の軽快を認めたた め,終診とした。 図 1  初診時の咽喉頭所見。軟口蓋が発赤し左優位に腫脹し ていたため,口蓋垂は右側に偏位していた。喉頭浮腫 は認めなかった。 図 2  造影 CT 所見。両側口蓋扁桃の外側に,周囲に淡く造影 効果を伴う低吸収域を認めた。軸位断での膿瘍の断面 積は,右が 2.03 cm2,左が 3.57 cm2であった。

3.考察

扁桃周囲膿瘍は頻繁に見かける疾患であるが,両側 性に発症することは稀であり,数%程度とされている 1) また,扁桃周囲膿瘍の好発年齢は 20∼30代ではるが, 10 代の発症例もしばしば報告されており,9 歳以下の 症例の報告も散見される。 15 歳以下での両側扁桃周囲膿瘍の報告については, われわれが渉猟しえた限り,本邦では 1 報告,2 症例の 報告のみであった 2) 小児で扁桃周囲膿瘍が少ない理由として,扁桃被膜 が成人より厚く周囲に炎症が波及しにくいため,扁桃 細菌叢の年齢的変化のため,小児の扁桃感染症では細 菌感染よりウイルス感染の割合が多いため,などと考 察する文献を認めたが,実際に組織学的または統計学 的に検討が行われている文献は渉猟しえなかった 3) 本症例は,家族からの溶連菌感染により急性扁桃炎 を発症し,嫌気性との混合感染と,治療開始までの日 数経過により周囲に炎症が波及したことより,扁桃周 囲膿瘍を来したと考えた。 扁桃周囲膿瘍の古典的な口腔内所見として,口蓋垂 の偏位を伴う軟口蓋の腫脹がある。 本症例では軟口蓋が左優位に腫脹しており,口蓋垂 の右側偏位を認めたため,扁桃周囲膿瘍の鑑別が早期 に可能であった。 しかし,両側扁桃周囲膿瘍の症例では口蓋垂を正中 に認める報告も散見され 4),口蓋垂偏位のない症例で あっても,重度の咽頭痛を認める場合や,開口障害を 伴う場合は,扁桃周囲膿瘍の可能性も積極的に疑う必 要があると考えた。 小児の深頸部膿瘍について,CT の断面積が 2 cm2 下の症例では,抗菌薬での保存的治療で改善が見込ま れるとする報告もある 5) 膿瘍の治療として切開排膿が第一に挙げられるが, 小児では処置への協力が得づらいことが多く,外科的 治療のタイミングに苦慮することがある。 造影 CT で膿瘍のサイズを計測することで,外科的 治療を積極的に検討する判断材料となりえる 6) 膿瘍を発症して時間が経過していない症例では,周 囲の造影効果がはっきりしないことも多く,特に小児 例では川崎病との鑑別が重要となる症例もある。 片側の副咽頭間隙に低吸収域を認め,細菌感染と川 崎病の鑑別となった症例においては,細菌感染,川崎 病どちらの結果についてもそれぞれ報告を認める 7–9) 今回の症例では,両側の口蓋扁桃外側にそれぞれ低 吸収域を認めたこと,発熱以外で積極的に川崎病を示 唆する所見を認めなかったこと,11 歳と好発年齢より 高齢であったことより,扁桃周囲膿瘍を疑った。まず 侵襲の少ない試験穿刺を行い,扁桃周囲膿瘍の診断に いたった。

4.まとめ

両側扁桃周囲膿瘍を認めた小児という,まれな 1 例 を経験した。 切開や穿刺などの外科的治療,または保存的治療の 選択を行う場面において,造影 CT が判断材料の一つ となった。 小児の深頸部膿瘍では川崎病との鑑別が重要であり, 診断を行う際に,切開より侵襲の少ない試験穿刺も有 効な手段であると考えた。

参考文献

1) 海邊昭子,穴澤卯太郎,結束 寿,他:扁桃周囲膿瘍 115 症 例 の 臨 床 的 検 討.日 本 耳 鼻 咽 喉 科 学 会 会 報 2015; 118: 1220–1225. 2) 須藤 敏,梅木 寛,崎浜教之,他:当院の小児扁桃周囲膿 瘍症例の臨床的検討.日本耳鼻咽喉科感染症研究会会誌 2012; 30: 89–92. 3) 佃 朋子,工藤典代:小児扁桃周囲膿瘍の臨床的検討.小 児耳鼻咽喉科 1998; 19: 23–27.

4) AlAwadh I, Aldrees T, AlQaryan S, et al.: Bilateral peritonsillar abscess: A case report and pertinent literature review. Int J Surg Case Rep 2017; 36: 34–37.

5) Page NC, Bauer EM, Lieu JE.: Clinical features and treatment of retropharyngeal abscess in children. Otolaryngol Head Neck Surg 2008; 138: 300–306. 6) 森川太洋,成田憲彦,徳永貴広,他:当科における小児深頸 部膿瘍の検討.口腔・咽頭科 2012; 25: 217–222. 7) 北村貴裕:咽後膿瘍類似の画像所見を呈した川崎病症例. 小児耳鼻咽喉科 2010; 31: 29–31. 8) 大塚雄一郎:溶連菌感染後に副咽頭間隙の感染をきたし た 2 例.小児耳鼻咽喉科 2011; 32: 17–22. 9) 高橋秀行,御任一光,近松一朗,他:発熱・咽頭痛・頸部腫 脹で発症した咽後膿瘍例と川崎病例.口腔・咽頭科 2016; 29: 219–224.

(7)

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 308, 2020

©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 5

当科で経験した溶連菌感染後反応性関節炎の 1 症例

志村 智隆,野垣 岳稔,池谷 洋一,滝口 修平,粟倉 秀幸,井上 由樹子,

今泉 直美,小宅 功一郎,安藤 いづみ,甘利 泰伸,泉本 彩,埼川 慶,

郡司 寛之,大氣 采女,大谷 友里恵,小林 斉

昭和大学藤が丘病院 耳鼻咽喉科

今回,溶連菌感染後反応性関節炎(PSReA)の 1 症例を経験したのでここに報告する。症例は 39

歳女性。X 年 Y 月 Z 日,3 日前からの発熱・咽頭痛を主訴に当院救急外来を受診。両側口蓋扁桃に膿

栓付着を認めたため細菌性扁桃炎の診断にて ABPC 750 mg/day を内服処方し帰宅指示となった。同年

Y 月 Z + 17 日,発熱咽頭痛の持続および全身的な関節痛が出現したため当科受診。再診時は,すで

に口蓋扁桃の膿栓付着は消退しており,一般採血所見は WBC 10980/μL,CRP 0.45 mg/dL とわずかな

炎症所見のみであった。自覚的な咽頭痛や関節痛の症状が強く,リウマチ熱を視野に補体価を含めた

採血を提出し鎮痛薬の継続処方としていたが,さらに 5 日後,耐え難い咽頭痛・頸部痛の出現あり外

来を再診。38 ℃台の発熱は続くものの採血ではやはり WBC の軽度上昇を認めるのみであり赤沈亢進

は認めなかった。同日全身的な精査目的に当院腎臓内科に診療依頼とし,同診療科での精査の結果,

溶連菌感染後反応性関節炎の診断となった。溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive

arthritis: PSReA)はリウマチ熱に類似した検査所見や症状を示すとされるが,血液検査における炎症

反応の上昇や赤沈値の亢進は目立たない場合が多く,関節痛症状は大関節以外に小関節や頸椎にも出

現するとされる。リウマチ熱とは異なった疾患として分類され心合併症は起こらないものとされる

が,細菌性扁桃炎を日常診療で頻回に扱う我々耳鼻咽喉科医としては留意しておくべき病態と考えら

れる。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

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©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 6

伝染性単核球症 46 例の臨床的検討

矢野 真衣

1

,関野 恵里子

1

,奥澤 奈緒

1

,上村 佐和

1

,洲崎 勲夫

1

,浜崎 泰佑

1

平野 康次郎

1

,江川 峻哉

1,2,3

,櫛橋 幸民

1,2,3

,池田 賢一郎

1,2,3

,嶋根 俊和

1,2,3

,小林 一女

1 1昭和大学医学部 耳鼻咽喉科学講座 2昭和大学 頭頸部腫瘍センター 3昭和大学歯学部 口腔外科学講座 口腔腫瘍外科学部門

【はじめに】伝染性単核球症(Infectious Mononucleosis: IM)は,Epstein-Barr virus の初感染によって

発症し,発熱・咽頭痛・頸部リンパ節腫脹を 3 主徴とする疾患である。一般に予後は良好であるが,

宿主の免疫能低下に伴い多彩な合併症をきたす可能性があるため注意が必要である。

【対象と方法】今回我々は,2017 年 1 月から 2020 年 3 月までに当科で入院加療を行った IM 46 症例を

レトロスペクティブに検討した。検討項目は,年齢,性別,入院期間,治療方法,末梢血液像,肝機

能障害,皮疹などとした。

【結果】年齢は 14 ∼ 34 歳で平均 21.9 歳,性差は男性 22 例,女性 24 例,入院期間は 4 ∼ 28 日(平均 6.96

日 中央値 6 日),抗菌薬投与群は 9 例・非投与群は 37 例,ステロイド投与群は 31 例・非投与群 15 例,

入院中に何らかの発疹が出現した症例は 17 例であった。また,これらの症例に対して,入院期間と

末梢血液像および肝逸脱酵素の関係や,抗菌薬投与群・非投与群およびステロイド投与群・非投与群

での入院期間の相違などについて統計学的に検討したので報告する。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

(9)

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 310, 2020

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 7

無莢膜型肺炎球菌の仔マウス鼻腔への保菌,伝播能の検討

酒谷 英樹

1,2

,村上 大地

1

,金子 富美恵

1,3

,河野 正充

1

,保富 宗城

1 1和歌山県立医科大学付属病院 耳鼻咽喉科 頭頸部外科 2和歌山県 紀南病院 耳鼻咽喉科頭頸部外科 3東京女子医科大学東医療センター 耳鼻咽喉科

【はじめに】肺炎球菌蛋白結合型莢膜多糖体ワクチンが導入され,ワクチン型株が減少する一方で,

非ワクチン株による感染症の増加が警鐘されている。中でも無莢膜型株(NESp: nonencapsulated

Streptococcus pneumoniae)は,その病原性が十分に解明されておらず,NESp に特異的な病原因子の

特定が急務である。我々は仔マウスを用い NESp の鼻腔への保菌,伝播能力について検討した。

【方法】BALBcA 仔マウスを使用した。日齢 4,8,12 の異なる 3 つのタイミングで肺炎球菌野生型(血

清型 6A)または NESp 株を経鼻接種し,8 日後における鼻腔洗浄液を採取し,保菌量,排菌量を調査

した。次に同胞兄弟マウスの半分を無作為に選択し,日齢 4 に肺炎球菌を経鼻接種し,日齢 12 にお

ける肺炎球菌非接種兄弟マウス鼻腔への肺炎球菌伝播を調査した。

【結果】4 日齢感染群では NESp は莢膜型と有意差のない鼻腔保菌量を認めた。また伝播実験において

非接種兄弟マウスの鼻腔から NESp を検出した。また NESp の PspK 欠損株では保菌,排菌,伝播能

がいずれも低下することが確認された。

【考察】生後早期の免疫学的未成熟な時期には NESp が鼻腔内に保菌され,伝播することが確認され

た。また PspK は仔マウスにおける NESp の定着・感染に重要な因子の一つである可能性が考えられ

る。NESp は莢膜型株に比較して病原性が低いことが考えられる反面,免疫学的に未成熟な低年齢に

おける感染・伝播が懸念される。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

(10)

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 8

マウス鼻腔での肺炎球菌定着における neuraminidase A の影響

金子 富美恵

1,2

,河野 正充

1

,須納瀬 弘

2

,保富 宗城

1 1和歌山県立医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2東京女子医科大学東医療センター 耳鼻咽喉科

【緒言】肺炎球菌感染症のワクチン戦略では莢膜多糖体ワクチンが実効を挙げているが,莢膜血清型

依存性の弱点を補う新規ワクチンの開発は今後も重要である。我々は肺炎球菌に共通して存在する酵

素でシアル酸切断にて粘膜への菌定着に関与する neuraminidase A(NanA)に着目,逆利用にて粘膜

定着・感染抑制に繋がるワクチン開発への転換を目指している。今回は肺炎球菌鼻腔感染を模したマ

ウスモデルにおいて NanA の有無による肺炎球菌の感染動態につき報告する。

【方法】CBA/N マウス雌 6 週齢に対し覚醒下で 5×10

5

CFU/ 個体の肺炎球菌液を経鼻接種。接種後 1,3,

5 日目で血液・鼻腔洗浄液,鼻粘膜組織(嗅上皮を含む)・嗅球・大脳組織を採取し,組織懸濁液を

作成したのちに Trypticase soy 寒天培地上で培養し肺炎球菌数を計数した。肺炎球菌は血清型 4 型

(TIGR4)野生株と NanA を in frame recombination にてノックアウトした遺伝子欠損株(NanAKO 株)

を用いた。

【結果】TIGR4 型の鼻腔組織における肺炎球菌の検出数は,感染後 3,5 日目の時点で野生株に比して

NanAKO 株では有意に減少した。鼻腔洗浄液では 5 日目で NanAKO 株の検出数が有意に減少した。

TIGR4 型の嗅球での肺炎球菌検出数は NanAKO 株においては野生株に比して有意に減少した。

【考察】肺炎球菌の鼻腔粘膜への定着・保菌からさらに嗅上皮を介した嗅球への感染(非血行性中枢

神経侵入)には,NanA が関与すると考えられた。

【結論】肺炎球菌の粘膜定着予防及び非血行性中枢神経感染予防を目的とするワクチン開発に,NanA

の利用が有用であると示唆された。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

(11)

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 312–313, 2020

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 9

アジュバント付加型インフルエンザウイルスワクチンにおける

濾胞性 T 細胞の役割

川野 利明,平野  隆,松永 崇志,吉永 和弘,平岡 晃太,鈴木 正志

大分大学医学部,耳鼻咽喉科・頭頸部外科

Role of follicular T cells in adjuvanted infl uenza virus cvacccine

Toshiaki Kawano, Takashi Hirano, Takayuki Matsunaga, Kazuhiro Yoshinaga, Kouta Hiraoka, Masashi Suzuki

Department of Otolaryngology & Head and Neck Surgery, Faculty of Medicine Oita University

1.はじめに

以前はアレルギーを制御する Th2 細胞が感染症にお ける抗体産生においても重要な役割を果たすと考えら れていたが,近年では二次リンパ組織内の胚中心で B 細胞と会合する濾胞性 T 細胞(Tfh)が抗体産生の中心 的な役割を果たすことが明らかになってきた。本検討 ではアジュバントの有無によって,インフルエンザウ イルスワクチン投与後の抗体産生や B 細胞の誘導に濾 胞性 T 細胞がどのように関与しているかを検討した。

2.対象と方法

使用ウイルスは A/Puerto Rico/8 を用い,ワクチンは PR8 のリコンビナント HA を使用しました。アジュバン トに関しては Th2 系の Alum と Th1 系の CpG を使用し た。まずアジュバント単独群は 105 PFU/ml の非致死的 なウイルス投与後に,21 日をあけて rHA のワクチン, Alum,CpG のアジュバント単独群,Alum と CpG の複数 アジュバントの投与を行った。その 21 日後に 107 PFU/ml の致死的ウイルスを投与し,体重測定と健康状態の確 認を行い,14 日後に安楽死させ,組織採取を行った。 同様にアジュバントワクチン群では,21 日の間隔をあけ, rHA のみ,rHA と Alum,CpG 単独ワクチン群,Alum と CpG の複数アジュバント不可ワクチンを用い同様の 検討を行った。

3.結果

アジュバント単独群では,最初のウイルス感染を起 こしているためか,ほとんど体重減少は起こらなかっ た。アジュバントワクチン群ではワクチン単独群で最 も体重減少が強く,Alum,CpG の複数アジュバントワ クチン群が感染後 1 週間経過後に体重の回復が早い傾 向を認めた。抗体産生に関してですが,IgG は各群に 有意差はなかったが,アジュバント単独群よりもア ジュバントワクチン群に関しての方が抗体産生能が高 いことがわかった。IgA に関しては IgG と比較すると 抗体の産生誘導が低く,インフルエンザウイルスに対 する感染防御の役割は IgG が中心になっていると考え られた。B 細胞の誘導と濾胞性 T 細胞の関連について ですが,Pro/Pre B 細胞から未熟性 B 細胞,成熟 B 細胞 を経て,肺中心で濾胞性 T 細胞による刺激を受け,メ モリー B 細胞は形質芽 B 細胞へ分化する。そこでまず B 細胞の誘導についてフローサイトメトリーを用いて 検討を行った。リンパ節内の形質芽 B 細胞だが,アジュ バントワクチンではほとんど誘導されないのに対し, アジュバント単独群,特に Alum と CpG の複数アジュ バントを投与することで有意に強い誘導を認めた。そ 図 1  リンパ節内の形質芽 B 細胞だが,アジュバントワクチ ンではほとんど誘導されないのに対し,アジュバント 単独群,特に Alum と CpG の複数アジュバントを投与 することで有意に強い誘導を認めた。それに対しアジュ バントワクチン群では肺において Pro/Pre B の誘導が Alum と CpG の複数アジュバント群で高い誘導を起こす ことが示された。

(12)

アジュバント付加型インフルエンザウイルスワクチンにおける

濾胞性 T 細胞の役割

川野 利明,平野  隆,松永 崇志,吉永 和弘,平岡 晃太,鈴木 正志

大分大学医学部,耳鼻咽喉科・頭頸部外科

Role of follicular T cells in adjuvanted infl uenza virus cvacccine

Toshiaki Kawano, Takashi Hirano, Takayuki Matsunaga, Kazuhiro Yoshinaga, Kouta Hiraoka, Masashi Suzuki

Department of Otolaryngology & Head and Neck Surgery, Faculty of Medicine Oita University

1.はじめに

以前はアレルギーを制御する Th2 細胞が感染症にお ける抗体産生においても重要な役割を果たすと考えら れていたが,近年では二次リンパ組織内の胚中心で B 細胞と会合する濾胞性 T 細胞(Tfh)が抗体産生の中心 的な役割を果たすことが明らかになってきた。本検討 ではアジュバントの有無によって,インフルエンザウ イルスワクチン投与後の抗体産生や B 細胞の誘導に濾 胞性 T 細胞がどのように関与しているかを検討した。

2.対象と方法

使用ウイルスは A/Puerto Rico/8 を用い,ワクチンは PR8 のリコンビナント HA を使用しました。アジュバン トに関しては Th2 系の Alum と Th1 系の CpG を使用し た。まずアジュバント単独群は 105 PFU/ml の非致死的 なウイルス投与後に,21 日をあけて rHA のワクチン, Alum,CpG のアジュバント単独群,Alum と CpG の複数 アジュバントの投与を行った。その 21 日後に 107 PFU/ml の致死的ウイルスを投与し,体重測定と健康状態の確 認を行い,14 日後に安楽死させ,組織採取を行った。 同様にアジュバントワクチン群では,21 日の間隔をあけ, rHA のみ,rHA と Alum,CpG 単独ワクチン群,Alum と CpG の複数アジュバント不可ワクチンを用い同様の 検討を行った。

3.結果

アジュバント単独群では,最初のウイルス感染を起 こしているためか,ほとんど体重減少は起こらなかっ た。アジュバントワクチン群ではワクチン単独群で最 も体重減少が強く,Alum,CpG の複数アジュバントワ クチン群が感染後 1 週間経過後に体重の回復が早い傾 向を認めた。抗体産生に関してですが,IgG は各群に 有意差はなかったが,アジュバント単独群よりもア ジュバントワクチン群に関しての方が抗体産生能が高 いことがわかった。IgA に関しては IgG と比較すると 抗体の産生誘導が低く,インフルエンザウイルスに対 する感染防御の役割は IgG が中心になっていると考え られた。B 細胞の誘導と濾胞性 T 細胞の関連について ですが,Pro/Pre B 細胞から未熟性 B 細胞,成熟 B 細胞 を経て,肺中心で濾胞性 T 細胞による刺激を受け,メ モリー B 細胞は形質芽 B 細胞へ分化する。そこでまず B 細胞の誘導についてフローサイトメトリーを用いて 検討を行った。リンパ節内の形質芽 B 細胞だが,アジュ バントワクチンではほとんど誘導されないのに対し, アジュバント単独群,特に Alum と CpG の複数アジュ バントを投与することで有意に強い誘導を認めた。そ 図 1  リンパ節内の形質芽 B 細胞だが,アジュバントワクチ ンではほとんど誘導されないのに対し,アジュバント 単独群,特に Alum と CpG の複数アジュバントを投与 することで有意に強い誘導を認めた。それに対しアジュ バントワクチン群では肺において Pro/Pre B の誘導が Alum と CpG の複数アジュバント群で高い誘導を起こす ことが示された。 れに対しアジュバントワクチン群では肺において Pro/ Pre B の誘導が Alum と CpG の複数アジュバント群で高 い誘導を起こすことが示された。濾胞性 T 細胞の結果 だが,複数アジュバント単独で投与することにより肺 内で Th1 型の濾胞性 T 細胞が誘導されることがわかり ました。 アジュバントワクチン群ではほとんどその反応は起 こりませんでしたが,リンパ節内での Th17 型の濾胞性 T 細胞はアジュバントワクチン群で強く誘導されました。

4.考察

濾胞性 T 細胞に関しては PD-1 によって誘導され活性 化することがわかっている。今回アジュバント単独群 では CXCR3 陽性の Th1 型濾胞性 T 細胞が誘導され, ヘルパーキャパシティーのないタイプの濾胞性 T 細胞 が感染防御に有用である可能性が示唆された。通常ナ イーブ T 細胞は IFN-r の刺激を受け Th1 細胞へ誘導さ れるが,ウイルス感染後の複数アジュバント単独投与 では濾胞性 T 細胞への誘導が起こる可能性がある。 アジュバントは単独で用いる場合とワクチンに混合 することで異なる臓器で免疫誘導を起こしていた。 Alum と CpG ODN によるアジュバントワクチンでは Th17 系の濾胞性 T 細胞を誘導し,抗体産生を行なって いた。ウイルス感染後であればアジュバントのみの投 与であっても,IgG メインの抗体産生や Th1 系の濾胞 性 T 細胞が誘導されることが示された。ウイルス感染 後であれば Alum と CpG の 2 種類のアジュバントを単 独で用いることで濾胞性 T 細胞の誘導が増強され,B 細胞を介した抗体産生を誘導する可能性がある。

参考文献

1) Schmitt N, et al.: Cell press 2013. 2) Nakayamada, et al.: Immunity 2011.

図 2  濾胞性 T 細胞の結果。複数アジュバント単独で投与す ることにより肺内で Th1 型の濾胞性 T 細胞が誘導され ることがわかった。アジュバントワクチン群ではほと んどその反応は起こりませんでしたが,リンパ節内で の Th17 型の濾胞性 T 細胞はアジュバントワクチン群で 強く誘導された。

(13)

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 314–315, 2020

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 10

在宅緩和ケアに用いる精油における h-CLAT を用いた皮膚感作性の検討

吉山 友二

1

,大木 幹文

2 1北里大学薬学部 臨床薬学研究・教育センター 保険薬局学 2北里大学メディカルセンター 耳鼻咽喉科

Eff ect of Essential Oils contained Linalool on skin sensitization

using human Cell Line Activation Test

Yuji Yoshiyama

1

, Motofumi Ohki

2

1Kitasato University School of Pharmacy

2Department of Otorhinolaryngology, Kitasato University Medical Center

1.はじめに

緩和ケアは,全人的な苦痛のケアが必要であるが, 薬物療法のみの対応には限界がある。緩和ケア病棟な どの医療現場においても,症状緩和やリラクゼー ション等を目的として精油を利用する事例が増加して いる。精油を用いたケアは,強い心理的苦痛を伴う患 者に最もよく反応し,睡眠スコアを改善するという報 告や,精油を用いたケアの施行から 2 週間は,がん患 者の不安軽減になるという報告もある。これらのケア に使用する精油には,リナロールを含むものが多く存 在する。このリナロールは,抗炎症作用,鎮痛・鎮静 作用,神経障害性疼痛における抗侵害受容作用,抗痙 攣作用など,様々な作用を有する。 これらのことから,リナロール含有精油を使用する ことで,リラクゼーション効果のみならず,がん性疼 痛や神経障害性疼痛の緩和につながる可能性がある。 本研究では,がん患者の疼痛等の症状緩和を目的に, 精油を繰り返し皮膚に塗布することを想定した。 臨床応用に際し,リナロール含有精油の有効性と安 全性の検証が必要である。精油の皮膚刺激性について は,比較的多くの文献で示されていることから,皮膚 感作性に着目した。

2.対象と方法

精油を繰り返し皮膚に塗布する際,皮膚感作性が問 題となるが,その対象物質や頻度などについては不明 な点が多い。本研究では緩和ケアによく用いられるリ ナロール含有精油の皮膚感作性について検討した。皮 膚感作試験は,樹状細胞の活性化に関わる CD86 と CD54

を指標とする human Cell Line Activation Test(h-CLAT) を用いた。ヒト単球性白血病細胞株(THP-1)に 3 種 の被験物質ベルガモット精油:BEO,ホーリーフ精 油:HEO,タイム・リナロール精油:TLEO)を添加 し,24 時間培養後,フローサイトメトリーを用いて CD86 および CD54 の相対蛍光強度(RFI)を測定した。 CD86 の RFI≧150%または CD54 の RFI≧200%で陽性 と判断した。

3.結果

タイム・リナロール精油以外は CV75 が検出されな かったため,ベルガモット精油とホーリーフ精油は, 本試験で実施可能な最高濃度を基準に被験物質の濃度 設定を行った。感作性の程度に差はあるが,リナロー ルを含む 3 種類すべての精油において,CD54 RFI が 200%以上となり,皮膚感作性が陽性であった。BEO と HEO は,TLEO に比較して皮膚感作性の程度が弱かった。

4.考察

本研究は,緩和ケアの代替療法として,疼痛部位な どに繰り返し精油を塗布することを想定し,3 種のリ ナロール含有精油について,h-CLAT を用いた皮膚感作 性の検討を行った。3 種の精油は全て CD54 の RFI が陽 性判定基準の 200%を超え,皮膚感作性が陽性と判定 された。これにより,リナロール含有精油を用いたケ アを実施する際には,皮膚刺激性だけでなく,皮膚感 作性も念頭に置いた継続的な経過観察が必要であるこ とが示唆された。本研究では,リナロール含有精油を 疼痛緩和補助療法として人体に適用することを想定し,

(14)

在宅緩和ケアに用いる精油における h-CLAT を用いた皮膚感作性の検討

吉山 友二

1

,大木 幹文

2

1北里大学薬学部 臨床薬学研究・教育センター 保険薬局学 2北里大学メディカルセンター 耳鼻咽喉科

Eff ect of Essential Oils contained Linalool on skin sensitization

using human Cell Line Activation Test

Yuji Yoshiyama

1

, Motofumi Ohki

2

1Kitasato University School of Pharmacy

2Department of Otorhinolaryngology, Kitasato University Medical Center

1.はじめに

緩和ケアは,全人的な苦痛のケアが必要であるが, 薬物療法のみの対応には限界がある。緩和ケア病棟な どの医療現場においても,症状緩和やリラクゼー ション等を目的として精油を利用する事例が増加して いる。精油を用いたケアは,強い心理的苦痛を伴う患 者に最もよく反応し,睡眠スコアを改善するという報 告や,精油を用いたケアの施行から 2 週間は,がん患 者の不安軽減になるという報告もある。これらのケア に使用する精油には,リナロールを含むものが多く存 在する。このリナロールは,抗炎症作用,鎮痛・鎮静 作用,神経障害性疼痛における抗侵害受容作用,抗痙 攣作用など,様々な作用を有する。 これらのことから,リナロール含有精油を使用する ことで,リラクゼーション効果のみならず,がん性疼 痛や神経障害性疼痛の緩和につながる可能性がある。 本研究では,がん患者の疼痛等の症状緩和を目的に, 精油を繰り返し皮膚に塗布することを想定した。 臨床応用に際し,リナロール含有精油の有効性と安 全性の検証が必要である。精油の皮膚刺激性について は,比較的多くの文献で示されていることから,皮膚 感作性に着目した。

2.対象と方法

精油を繰り返し皮膚に塗布する際,皮膚感作性が問 題となるが,その対象物質や頻度などについては不明 な点が多い。本研究では緩和ケアによく用いられるリ ナロール含有精油の皮膚感作性について検討した。皮 膚感作試験は,樹状細胞の活性化に関わる CD86 と CD54

を指標とする human Cell Line Activation Test(h-CLAT) を用いた。ヒト単球性白血病細胞株(THP-1)に 3 種 の被験物質ベルガモット精油:BEO,ホーリーフ精 油:HEO,タイム・リナロール精油:TLEO)を添加 し,24 時間培養後,フローサイトメトリーを用いて CD86 および CD54 の相対蛍光強度(RFI)を測定した。 CD86 の RFI≧150%または CD54 の RFI≧200%で陽性 と判断した。

3.結果

タイム・リナロール精油以外は CV75 が検出されな かったため,ベルガモット精油とホーリーフ精油は, 本試験で実施可能な最高濃度を基準に被験物質の濃度 設定を行った。感作性の程度に差はあるが,リナロー ルを含む 3 種類すべての精油において,CD54 RFI が 200%以上となり,皮膚感作性が陽性であった。BEO と HEO は,TLEO に比較して皮膚感作性の程度が弱かった。

4.考察

本研究は,緩和ケアの代替療法として,疼痛部位な どに繰り返し精油を塗布することを想定し,3 種のリ ナロール含有精油について,h-CLAT を用いた皮膚感作 性の検討を行った。3 種の精油は全て CD54 の RFI が陽 性判定基準の 200%を超え,皮膚感作性が陽性と判定 された。これにより,リナロール含有精油を用いたケ アを実施する際には,皮膚刺激性だけでなく,皮膚感 作性も念頭に置いた継続的な経過観察が必要であるこ とが示唆された。本研究では,リナロール含有精油を 疼痛緩和補助療法として人体に適用することを想定し, 皮膚感作性について検討した。被験物質の試験適用濃 度に限界があり,人体への塗布を想定した濃度での試 験は実施できなかったが,3 種全ての精油において陽 性判定であった。このことから,精油によるケアを実 施する際は,皮膚刺激性だけでなく,皮膚感作性につ いても考慮する必要がある。

参考文献

1) Posadzki P, Alotaibi A, Ernst E : Adverse eff ects of aromatherapy: a systematic review of case reports and case series. Int. J. Risk. Saf. Med.Jan 2012; 24: 147–161.

2) OECD Publishing Test No.442E: In Vitro Skin Sensitization: human Cell Line Activation Tset (h-CLAT), 2017.

(15)

日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 316, 2020

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 11

スギ花粉抗原鼻誘発および高張食塩水

点鼻前後の鼻粘膜上皮の糖鎖反応性

三輪 正人

1,2

,高橋 天使

3

,大坪 菜央

3

,下垣 里河

3

,飯島 史郎

3 1はりまざかクリニック 耳鼻咽喉科・アレルギー科 2順天堂大学大学院アトピー疾患研究センター 3文京学院大学 保健医療技術学部 臨床検査学科

【目的】我々は以前より,抗原特異的刺激としてスギ花粉鼻誘発,非特異的刺激として高張食塩水点

鼻をおこない,鼻粘膜上皮機能の病態について研究をおこなっている。今回は,炎症反応に密接に関

連する糖鎖反応性の検討をおこなった。

【対象および方法】大学生 9 名(スギ花粉症 4 名,非スギ花粉症 5 名)を対象とした。スギ花粉非飛

散期に,スギ花粉抗原鼻誘発および 5%高張食塩水点鼻前後に採取した鼻甲介粘膜擦過細胞を用い,

その表面糖鎖 21 種類をレクチンドットプロット法により解析した。

【結果および考察】刺激を加えない状態でスギ花粉症群の鼻甲介粘膜擦過細胞は非花粉症群よりも細

胞表面の SSA レクチンとの反応するシアル酸が増加していた。高張食塩水点鼻後,非スギ花粉症群

では SSA との反応に変化がみられなかったのに対し,スギ花粉症群では反応が低下していた。一方,

スギ花粉抗原刺激ではどちらの群も SSA との反応に変化は認められなかった。これらの結果より,

高張食塩水点鼻によってシアリダーゼ活性が上昇した結果,細胞表面よりシアル酸が減少し SSA と

の反応が低下したと考えられる。今回の結果は鼻粘膜上皮の炎症病態の解明の一助となると思われ考

察をおこなった。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

(16)

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第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 12

香料入り蒸気マスク装着による鼻腔生理学的意義の検討

大木 幹文

1

,山本 賢吾

1,2

,鈴木 立俊

2 1北里大学メディカルセンター耳鼻咽喉科 2北里大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学

The investigation of nasal physiological eff ect with heated humidifi cation mask

including fragrance

Motofumi Ohki

1

, Kengo Yamamoto

1,2

, Tatsutoshi Suzuki

2

1Department of Otorhinolaryngology, Kitasato University Medical Center

2Department of Otorhinolaryngology Head & Neck Surgery, Faculty of Medicine, Kitasato University

1.はじめに

鼻呼吸の生理学的意味は多彩であるが,加温加湿機 能として冷気負荷は直後に鼻腔開存性は開大するがし ばらくすると狭小化する。一方温熱負荷では,マイル ドに鼻腔の開大を認める 1)。注目すべき点として,鼻 呼吸は鼻粘膜血管の温度調節により脳温度を調節する 生命維持に欠かせない存在であり,鼻呼吸の加温加湿 機能を十分理解しておく必要がある 2)。最近,蒸気温 熱マスクが市販された。これは鉄粉および活性炭含有 の乾燥パルプを水分と反応させ約 40 度の蒸気を装着後 約 15 分発生させる 3)(図 1)。呼吸時のマスクの抵抗は 市販の不織布マスクと同等であった。 一方,蒸気温熱に香料を加えると,情動の改善効果 を伴いさらに安定した自然呼吸を認め,また脳血流に 対しても安定化を図ることが期待される。そこで今回 香料入りの蒸気マスクを用いて鼻呼吸への効果および 嗅覚への影響について検討を加えた。

2.対象と方法

検討 1:正常成人 21 名,成人鼻アレルギー患者 24 名 を対象に花王製の 2種類の香料入り蒸気温熱マスク(① ラベンダー;花香 ②レモン;果実香)および無香料 マスクを 30 分装着し鼻症状のアンケートおよび音響鼻 腔計測法を用いてその変化を観察した。3 種類のマス クは各々別の日に施行した(表)。 検討 2:嗅覚障害を訴えて来院した患者 10 名に花の 香りの蒸気マスクと果実の香りマスクを各々 1 日おき に装着して嗅覚障害治療ガイドラインによる嗅覚自覚 アンケート 4)と日常の自覚症状への影響の有無を 2 週 間後にアンケート調査した。本研究は北里大学メディ 図 1 温熱蒸気発生の原理とマスク 表 今回使用した経過評価アンケート表

(17)

318 日耳鼻感染症エアロゾル会誌 2020: 8(4) カルセンター倫理委員会の承認(承認番号 2020001) のもとに行った。

3.結果

検討 1:鼻づまりの感覚は香料入りマスク使用によ り,特に鼻アレルギー患者で 5 分後より有意に軽快す る傾向を認めた(図 2)。さらに蒸気発生持続の 15 分後 には通気性の改善の自覚を認めている。すなわち 5 分 後は香料刺激によるもので,15 分以降のスコアの変化 は蒸気温熱によるものと考えられた。正常成人も同様 な傾向を認めたが,効果は微量であった。一方,香り の自覚の強さの推移は正常者・鼻アレルギー患者も同 様な傾向を認めた。香りの持続時間は正常成人でラ ベンダー吸入時 36.7±25.6 min,レモン吸入時 37.5± 23.5 min 鼻アレルギー患者でそれぞれ 42.0±35.2,44.3 ±36.3 min であった。 客観的評価として,音響鼻腔計測法により鼻腔断面 積を測定すると鼻アレルギー患者においては香料の有 無にかかわらず有意に開存性の開大を認め,正常成人 の開大度に較べて,鼻腔粘膜へダイナミックな変化を 及ぼすと考えられた(図 3)。 検討 2:20 種類のにおいがわかるあるいはわからな いについてのアンケートをとると 10 例中 9 名が嗅覚の 改善を認めた(図 4)。また,くしゃみ,鼻水,鼻づまり, 嗅覚障害,日常生活の支障について 4 段階にスコア化 して解析すると,全項目に自覚症状の改善を認めた。 すなわち,蒸気温熱の相乗効果により生活支障度の改 善効果が認められた。

4.考察

今回の検討から,蒸気温熱吸入は鼻腔の加温・加湿 機能を強化する意味があると考えられた。その効果は 鼻アレルギー患者でより明確となった。また,香料付 加による鼻づまりの効果は無香料と有意な違いは認め なかったが,蒸気発生開始前から鼻腔に変化を与える 優位性が認められ,呼吸の安定化に優れていると考え られた。 一方,近年嗅覚リハビリテーションあるいはトレー ニングが注目されている 5,6)。この点についてマスクに 香料を噴霧して呼吸させると持続時間が 10–15 分なの に対し,蒸気を用いると 30分以上持続できたことから, 嗅覚刺激を延長する可能性がある。アロマテラピーに よるリラックス効果と嗅覚刺激療法を加えた治療法は 有益と考えられる。今後他の嗅素を含んだエッセン シャルオイルをアレンジした試みが求められる。

5.まとめ

香料入りおよび無香料蒸気マスクを用いて正常成 人・鼻アレルギー患者の鼻づまりの自覚症状・鼻腔開 存性の変化を検討した。鼻アレルギー患者は鼻閉の改 善に有益と思われた。香料入り蒸気マスク使用の応用 編として嗅覚障害患者に花の香・果実の香の 2 種を交 互に装着して嗅覚改善の可能性を検討した。2 週間の 装用で嗅覚は改善の傾向を認めた。

参考文献

1) 大木幹文:鼻呼吸の生理.JOHNS 2019; 35: 1542–1546. 2) 水流弘通 : 鼻粘膜血管の薬理学的にみた性質と頭部温度 変化に対する防御反射.日鼻誌 2000; 39: 24–25.

3) Fujita Y, Yamauchi M, Uyama H, et al.: The effects ofheated humidifi cation to nasopharynx on nasalresistance and breathing pattern. PLoS ONE 2019; e0210957.

4) 日本鼻科学会編:嗅覚障害診療ガイドライン.日鼻誌 2017; 56: 487–556.

5) Henning, H: Der Geruch. Verlag von J.A.Barth, 1916

6) Hummel T, Rissom K, Reden J, et al.: Eff ects of olfactorytraining in patients with olfactory loss. Laryngoscope 2009; 119: 496–499. 本研究に開示すべき COI はない。 図 3 マスク着用前後の鼻腔断面積の変化(両側 2nd-notch) 図 4 嗅覚障害患者の香料マスク装着の効果 (N=正常成人 AR=鼻アレルギー患者) 図 2 マスク装着による鼻づまりの自覚と香り持続 文献 3) より許可掲載

(18)

©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題

カルセンター倫理委員会の承認(承認番号 2020001) のもとに行った。

3.結果

検討 1:鼻づまりの感覚は香料入りマスク使用によ り,特に鼻アレルギー患者で 5 分後より有意に軽快す る傾向を認めた(図 2)。さらに蒸気発生持続の 15 分後 には通気性の改善の自覚を認めている。すなわち 5 分 後は香料刺激によるもので,15 分以降のスコアの変化 は蒸気温熱によるものと考えられた。正常成人も同様 な傾向を認めたが,効果は微量であった。一方,香り の自覚の強さの推移は正常者・鼻アレルギー患者も同 様な傾向を認めた。香りの持続時間は正常成人でラ ベンダー吸入時 36.7±25.6 min,レモン吸入時 37.5± 23.5 min 鼻アレルギー患者でそれぞれ 42.0±35.2,44.3 ±36.3 min であった。 客観的評価として,音響鼻腔計測法により鼻腔断面 積を測定すると鼻アレルギー患者においては香料の有 無にかかわらず有意に開存性の開大を認め,正常成人 の開大度に較べて,鼻腔粘膜へダイナミックな変化を 及ぼすと考えられた(図 3)。 検討 2:20 種類のにおいがわかるあるいはわからな いについてのアンケートをとると 10 例中 9 名が嗅覚の 改善を認めた(図 4)。また,くしゃみ,鼻水,鼻づまり, 嗅覚障害,日常生活の支障について 4 段階にスコア化 して解析すると,全項目に自覚症状の改善を認めた。 すなわち,蒸気温熱の相乗効果により生活支障度の改 善効果が認められた。

4.考察

今回の検討から,蒸気温熱吸入は鼻腔の加温・加湿 機能を強化する意味があると考えられた。その効果は 鼻アレルギー患者でより明確となった。また,香料付 加による鼻づまりの効果は無香料と有意な違いは認め なかったが,蒸気発生開始前から鼻腔に変化を与える 優位性が認められ,呼吸の安定化に優れていると考え られた。 一方,近年嗅覚リハビリテーションあるいはトレー ニングが注目されている 5,6)。この点についてマスクに 香料を噴霧して呼吸させると持続時間が 10–15 分なの に対し,蒸気を用いると 30分以上持続できたことから, 嗅覚刺激を延長する可能性がある。アロマテラピーに よるリラックス効果と嗅覚刺激療法を加えた治療法は 有益と考えられる。今後他の嗅素を含んだエッセン シャルオイルをアレンジした試みが求められる。

5.まとめ

香料入りおよび無香料蒸気マスクを用いて正常成 人・鼻アレルギー患者の鼻づまりの自覚症状・鼻腔開 存性の変化を検討した。鼻アレルギー患者は鼻閉の改 善に有益と思われた。香料入り蒸気マスク使用の応用 編として嗅覚障害患者に花の香・果実の香の 2 種を交 互に装着して嗅覚改善の可能性を検討した。2 週間の 装用で嗅覚は改善の傾向を認めた。

参考文献

1) 大木幹文:鼻呼吸の生理.JOHNS 2019; 35: 1542–1546. 2) 水流弘通 : 鼻粘膜血管の薬理学的にみた性質と頭部温度 変化に対する防御反射.日鼻誌 2000; 39: 24–25.

3) Fujita Y, Yamauchi M, Uyama H, et al.: The effects ofheated humidifi cation to nasopharynx on nasalresistance and breathing pattern. PLoS ONE 2019; e0210957.

4) 日本鼻科学会編:嗅覚障害診療ガイドライン.日鼻誌 2017; 56: 487–556.

5) Henning, H: Der Geruch. Verlag von J.A.Barth, 1916

6) Hummel T, Rissom K, Reden J, et al.: Eff ects of olfactorytraining in patients with olfactory loss. Laryngoscope 2009; 119: 496–499. 本研究に開示すべき COI はない。 図 3 マスク着用前後の鼻腔断面積の変化(両側 2nd-notch) 図 4 嗅覚障害患者の香料マスク装着の効果 (N=正常成人 AR=鼻アレルギー患者) 図 2 マスク装着による鼻づまりの自覚と香り持続 文献 3) より許可掲載

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 13

仔マウスにおける肺炎球菌の伝播に受動喫煙が及ぼす影響

村上 大地,河野 正充,保富 宗城

和歌山県立医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

【はじめに】肺炎球菌は乳幼児の鼻腔に定着し保菌状態となり,組織侵入により感染症を,濃厚接触

により伝播を引き起こす。受動喫煙は肺炎球菌の鼻腔保菌を促進し,侵襲性感染症発症の危険因子と

なることが指摘されているが,伝播に及ぼす影響や機序は未解明である。仔マウスにおける肺炎球菌

の伝播に受動喫煙が及ぼす影響を検討した。

【方法】前処置:仔マウスに対し,日齢 4–7 まで受動喫煙群にはタバコ煙抽出液(Cigarette Smoke

Extract; CSE)を,PBS 群には PBS を点鼻した。実験 1:日齢 8 に肺炎球菌(∼ 8,000 CFU)を経鼻接

種し,日齢 9–12 の鼻汁中排菌量,日齢 12 の鼻腔保菌量を測定した。また,日齢 10 において鼻腔内

炎症細胞数やサイトカイン/ケモカイン,鼻腔病理組織の検討を行った。実験 2:日齢 8 に半数の仔

マウス(index 群)にのみ肺炎球菌(∼ 8,000 CFU)を経鼻接種し,残り半数の仔マウス(contact 群)

と哺育した。日齢 12 での contact 群への伝播率の検討を行った。実験 3:日齢 8 に肺炎球菌(∼ 600

CFU)を経鼻接種し,接種後 7 時間での鼻腔保菌量を測定した。

【結果】実験 1:受動喫煙群において,鼻汁中排菌量,鼻腔保菌量,鼻腔炎症細胞数の有意な増加を

認めた。組織学的検討において,鼻粘膜配列の破綻,出血などの組織障害所見を認めた。実験 2:受

動喫煙群において,有意な伝播率の上昇を認めた。実験 3:受動喫煙群において,感染後早期におい

ても有意な鼻腔保菌量の増加を認めた。

【考察】受動喫煙により鼻腔での局所炎症が有意に促進され,その結果,鼻腔粘膜障害が引き起こさ

れていた。受動喫煙は肺炎球菌の保菌,排菌の両要素を促進するが,特に鼻腔粘膜バリアの破綻を引

き起こすことにより肺炎球菌定着への感受性を高めることで伝播を促進すると考えられた。受動喫煙

を回避することで,肺炎球菌の水平伝播を予防できる可能性が示唆された。

第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用

図 2   濾胞性 T 細胞の結果。複数アジュバント単独で投与す ることにより肺内で Th1 型の濾胞性 T 細胞が誘導され ることがわかった。アジュバントワクチン群ではほと んどその反応は起こりませんでしたが,リンパ節内で の Th17 型の濾胞性 T 細胞はアジュバントワクチン群で 強く誘導された。
表 1 h-CLAT 陽性反応と細胞生存率 75%濃度
表 2   小児急性上顎洞炎の臨床症状,他覚所見とウイルス,細
図 3 手術:椎前筋膜を切開の上,椎前間隙膿瘍を確認した。

参照

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