第8回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用
©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題
日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 344–345, 2020
第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 31
鼻内視鏡手術にて判明した頭蓋底骨髄炎の 2 例
上野 貴雄,近藤 悟,吉崎 智一
金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
Two cases of skull base osteomyelitis undergoing nasal endoscopic surgery
Takayoshi Ueno, Satoru Kondo, Tomokazu Yoshizaki
Division of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Graduate School of Medical Science, Kanazawa University
1
.はじめに頭蓋底骨髄炎は,高齢糖尿病患者における悪性外耳 道炎からの炎症波及に伴う発症が典型的とされる。外 耳道炎から頭蓋底への炎症波及に伴う発症が典型的で 悪性外耳道炎と呼ばれる。外耳道以外にも,中耳,副 鼻腔や,遠隔臓器からの血行性の波及によっても生じ ることに注意が必要である。今回,我々は異なる病態 で発症し,内視鏡手術にて判明した頭蓋底骨髄炎2症例 を治療経過とともに報告する。
2
.症例1
74歳女性,糖尿病にて内服加療中であった。頭痛,
耳痛を主訴にX年11月に近医耳鼻科を受診,左急性中 耳炎にて鼓膜切開,培養にて緑膿菌を認め,翌年1月 に鼓膜チューブ挿入実施で耳漏は改善も,耳痛が持続 するため,2月に前医へ紹介となった。CTにて上咽頭 左側に台部から側頭骨に骨破壊を伴う腫瘤を認め,上 咽頭から生検を行うも診断がつかず,4月終わりに当 院へ紹介となった。当初,上咽頭癌などの悪性腫瘍が 第一に疑われ,全身麻酔下での診断目的の手術を予定 したが,手術拒否があり,手術は7月に実施となった。
前医では上昇していた,WBC,CRP,HbA1cは当院 受 診 時 に は 改 善 し て い た。 各 種 腫 瘍 マ ー カ ー や,
ANCA関連は陰性で,βDグルカンも陰性であった。
前医受診時に少量認めた耳漏では培養陰性で,当院 受診時は,すでに耳内は乾燥していた。造影CTで,
斜台部の骨皮質の連続性の消失,骨破壊を認め,左内 頸動脈周囲におよぶ造影効果の増強を認めた。T1強調 画像では,骨破壊部の脂肪髄T1低信号,ガドリニウム 造影画像では広範な造影効果の増強を認めた。内視鏡 下に左上咽頭切除を行ったところ,壊死性の組織と少 量の膿汁を認めた。培養からは緑膿菌を認め,病理学
的には炎症組織であった。中耳炎から炎症が波及した 頭蓋底骨髄炎と考えられた。術翌日より,第4世代セ フェムを5週間点滴加療ののち,その後も採血データ はCRPや血沈の微小な変動を認めたため,シプロフロ キサシンとして1年間内服加療,CT,MRI,シンチで 改善を確認し終了とした。現在のところ再発はない。
3
.症例2
92歳男性,糖尿病にて内服加療中であった。X年2 月に頭痛が出現,4月に前医で全身CT施行され,鼻中 隔から上咽頭にかけての腫瘍の可能性が指摘された。
前医にて5月に全身麻酔下での手術予定であったが,
入院後に手術拒否があり,経過観察となっていた。6 月に右の視力低下があり,一連の視神経症と考えられ た。8月当科を受診した。症例1と同様に前医では上昇 していた,WBC,CRP,A1cは当院受診時には改善し ていた。当院受診時は,血沈は70と亢進を認め,IgG4 は169と上昇しており,生検組織でIgG4陽性細胞の集 簇あり,IgG4関連疾患の可能性も考えられた。また,
βDグルカン陰性であった。CTでは,斜台部の皮質骨 の消失,斜台部の骨破壊を認め,MRIでは骨破壊部の 脂肪髄のT1低信号を認め,左蝶形洞はT2lowで真菌が 考えられた。失明は右側で,左蝶形洞の骨破壊は認め なかったことやβDグルカン陰性から,当初,左蝶形 洞は寄生型真菌の合併と考えた。
PETを施行したところ,鼻中隔から上咽頭にかけて 広範にFDG集積認めた。悪性腫瘍を疑い,生検を行っ たが診断がつかず,全身麻酔下に及び鼻中隔から上咽 頭にかけて広く切除を行った。左蝶形骨洞を開放する と真菌塊を認め,上咽頭のかなり深部に膿汁を認めた。
左蝶形洞には糸状菌の菌塊を認めたが,病理学的な明 らかな粘膜浸潤は認めなかった。培養では,上咽頭に
鼻内視鏡手術にて判明した頭蓋底骨髄炎の 2 例
上野 貴雄,近藤 悟,吉崎 智一
金沢大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
Two cases of skull base osteomyelitis undergoing nasal endoscopic surgery
Takayoshi Ueno, Satoru Kondo, Tomokazu Yoshizaki
Division of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Graduate School of Medical Science, Kanazawa University
1
.はじめに頭蓋底骨髄炎は,高齢糖尿病患者における悪性外耳 道炎からの炎症波及に伴う発症が典型的とされる。外 耳道炎から頭蓋底への炎症波及に伴う発症が典型的で 悪性外耳道炎と呼ばれる。外耳道以外にも,中耳,副 鼻腔や,遠隔臓器からの血行性の波及によっても生じ ることに注意が必要である。今回,我々は異なる病態 で発症し,内視鏡手術にて判明した頭蓋底骨髄炎2症例 を治療経過とともに報告する。
2
.症例1
74歳女性,糖尿病にて内服加療中であった。頭痛,
耳痛を主訴にX年11月に近医耳鼻科を受診,左急性中 耳炎にて鼓膜切開,培養にて緑膿菌を認め,翌年1月 に鼓膜チューブ挿入実施で耳漏は改善も,耳痛が持続 するため,2月に前医へ紹介となった。CTにて上咽頭 左側に台部から側頭骨に骨破壊を伴う腫瘤を認め,上 咽頭から生検を行うも診断がつかず,4月終わりに当 院へ紹介となった。当初,上咽頭癌などの悪性腫瘍が 第一に疑われ,全身麻酔下での診断目的の手術を予定 したが,手術拒否があり,手術は7月に実施となった。
前医では上昇していた,WBC,CRP,HbA1cは当院 受 診 時 に は 改 善 し て い た。 各 種 腫 瘍 マ ー カ ー や,
ANCA関連は陰性で,βDグルカンも陰性であった。
前医受診時に少量認めた耳漏では培養陰性で,当院 受診時は,すでに耳内は乾燥していた。造影CTで,
斜台部の骨皮質の連続性の消失,骨破壊を認め,左内 頸動脈周囲におよぶ造影効果の増強を認めた。T1強調 画像では,骨破壊部の脂肪髄T1低信号,ガドリニウム 造影画像では広範な造影効果の増強を認めた。内視鏡 下に左上咽頭切除を行ったところ,壊死性の組織と少 量の膿汁を認めた。培養からは緑膿菌を認め,病理学
的には炎症組織であった。中耳炎から炎症が波及した 頭蓋底骨髄炎と考えられた。術翌日より,第4世代セ フェムを5週間点滴加療ののち,その後も採血データ はCRPや血沈の微小な変動を認めたため,シプロフロ キサシンとして1年間内服加療,CT,MRI,シンチで 改善を確認し終了とした。現在のところ再発はない。
3
.症例2
92歳男性,糖尿病にて内服加療中であった。X年2 月に頭痛が出現,4月に前医で全身CT施行され,鼻中 隔から上咽頭にかけての腫瘍の可能性が指摘された。
前医にて5月に全身麻酔下での手術予定であったが,
入院後に手術拒否があり,経過観察となっていた。6 月に右の視力低下があり,一連の視神経症と考えられ た。8月当科を受診した。症例1と同様に前医では上昇 していた,WBC,CRP,A1cは当院受診時には改善し ていた。当院受診時は,血沈は70と亢進を認め,IgG4 は169と上昇しており,生検組織でIgG4陽性細胞の集 簇あり,IgG4関連疾患の可能性も考えられた。また,
βDグルカン陰性であった。CTでは,斜台部の皮質骨 の消失,斜台部の骨破壊を認め,MRIでは骨破壊部の 脂肪髄のT1低信号を認め,左蝶形洞はT2lowで真菌が 考えられた。失明は右側で,左蝶形洞の骨破壊は認め なかったことやβDグルカン陰性から,当初,左蝶形 洞は寄生型真菌の合併と考えた。
PETを施行したところ,鼻中隔から上咽頭にかけて 広範にFDG集積認めた。悪性腫瘍を疑い,生検を行っ たが診断がつかず,全身麻酔下に及び鼻中隔から上咽 頭にかけて広く切除を行った。左蝶形骨洞を開放する と真菌塊を認め,上咽頭のかなり深部に膿汁を認めた。
左蝶形洞には糸状菌の菌塊を認めたが,病理学的な明 らかな粘膜浸潤は認めなかった。培養では,上咽頭に
Klebsiella3+,糸状菌を認め菌腫は同定できなかった。
副鼻腔真菌症(慢性浸潤型)を伴う頭蓋底骨髄炎の 診断で,第4世代セフェム+ボリコナゾールで治療を 開始,CD腸炎あり,抗生剤の変更あり,ボリコナゾー ルは視覚障害などがあり,4週で継続不可となった。
術後,頭痛は改善し,CRPなど採血も問題なかった が,術後5週目に脳梗塞を発症し,7週目に死亡した。
4
.考察外耳道,側頭骨に病変がなく,斜台周辺の頭蓋底中 心にのみに病変が見られる場合には,Central skull base osteomyelitis(CSBO)と呼ばれる。CSBOは副鼻腔あ るいは血行性を起源とすることが多いとされるが,
数ヶ月前の外耳炎既往や中耳手術歴からのCSBOの報 告もされている。本症例1のように前治療によって,
感染が抑えられ,外耳や中耳などの当初の感染源の臨 床所見を認めない場合があることに注意が必要である。
本症例2は副鼻腔真菌症によって生じたCSBOと考え られ,斜台部の骨破壊を認めた場合には,本病態を積 極的に疑う必要がある。
2例とも,初診から診断まで半年近く要しており,
診断の遅れが問題となる。要因の一つは,生検では診 断が付かないことであり,2症例ともに排膿するには 斜台部近くまで開放が必要であったことが印象的だっ た。もう一つの要因は,受診時に炎症(血液所見)が 軽快している場合があることと思われる。2症例とも に糖尿病のコントロールの改善もあってか炎症の軽快 を認めていた。いずれにせよ,斜台部中心の骨破壊を 認めた場合は常にCSBOを念頭におくことがもっとも 重要であると考えられた。
CRPが高い場合などは,抗生剤加療,抗真菌薬で陰 影の縮小が得られるか反応をみる方法も考えられるが,
菌腫の同定が難しくなり,悪性腫瘍だった場合,治療 が遅れるリスクを伴う。手術のメリットは,診断の確 定,とくに悪性腫瘍の除外と,培養検査,感受性の判 明,壊死部分の除去,開放酸素化がある。真菌を伴う CSBOは積極的な手術を推奨する報告がある。一方で,
手術は抗菌薬の使用期間を短縮しない,あるいは悪性 外耳道炎にて手術が炎症を周囲へ波及する可能性の指 摘もある。