毛利 博久
1,近藤 健二
21新宿耳鼻科
2東京大学医学部 耳鼻咽喉科
COVID19 の感染例は初期に嗅覚障害がある症例が報告により 30 〜 70%弱とされている。COVID19
症例において嗅覚障害の報告は多いが,発症初期に副鼻腔 CT が行われた症例を我々は現時点におい て英文・日本文で蒐集出来なかった。今回我々は発熱で発症し,翌日より嗅覚障害が出現。発症 3 日 目に当院受診となり副鼻腔 CT を行って嗅裂近傍の両側篩骨洞に陰影を認めた症例を経験したので,
考察を踏まえて報告する。
【症例】32 歳男性 職業歴:飲食店勤務
【主訴】発熱・嗅覚障害
【既往歴】アレルギー性鼻炎・食物アレルギー(ブリ科)
【現病歴】2 日前から発熱(BT 37.5 ℃)自覚。昨日 BT38 ℃上昇認め市販カロナール内服。また嗅 覚障害と軽い咳嗽と呼吸苦を自覚。当院受診。特に味覚障害はなし。新型コロナ患者との接触の可能 性あり。
【所見】BT 37.2 ℃ SPO
297%前鼻鏡検査にて鼻閉鼻汁ほぼなく総鼻道は開いていた。咽頭後壁発 赤あるも後鼻漏は認めず。コーンビーム CT(朝日レントゲン製 AUGE SOLIO ENT)使用。
【CT 画像所見】体軸断面にて両側上部篩骨洞嗅裂付近に軽度 STD を認め,上顎洞は軽度粘膜肥厚 認めるもほぼ液貯留は認めず。冠状断にて総鼻道中下部は開いているも上部から嗅裂方向は粘膜浮腫 によると思われる閉塞を認めた。
【経過】嗅覚障害あるも鼻汁後鼻漏ほぼ認めない細菌性急性副鼻腔炎としては非特異的な臨床所見。
CT 画像にて嗅裂付近を中心とした粘膜肥厚と篩骨洞の軽度陰影。発熱(高熱)と咽頭発赤。飲食店 勤務で新型コロナ感染者との接触が否定できないことから区の新型コロナ検査スポット紹介し PCR 検査となった。2 日後 COVID19 PCR 陽性と判明した。
第8回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用
日耳鼻感染症エアロゾル会誌 8(4): 336, 2020
©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 25
当院における COVID-19 感染拡大期及び蔓延期に対する 耳鼻咽喉科手術対応についての考察
松延 毅
1,藤田 和恵
2,3,坂本 耕二
1,村上 亮介
1, 鈴木 宏隆
1,藤田 昌久
3,大久保 公裕
11日本医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
2日本医科大学 呼吸器内科
3日本医科大学付属病院 医療安全管理部感染制御室
2019 年下旬から 2020 年春にかけて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)が拡 大し第一波と呼ばれる流行が鎮静化しつつある。リンクの追えない COVID-19 孤発例が増加する中で,
我々は感染蔓延期の真っただ中に差し掛かかり既存薬剤の有効性を検討する試みやワクチン開発が進 行中あるが現時点で確立した治療法は見つかっていない。本症の中には急激に重症化が進む症例も散 見される。感染蔓延期を迎え,病院全体での受け入れ・診療体制を確保すること,緊急性の高くない 外来・入院・検査の延期の対応,医療従事者のマスク,ガウン,ゴーグル及びフェイスシールドなど の個人防護具(PPE)の不足への対応,PCR 法等による遺伝子検出法(鼻咽頭ぬぐい液)が現時点の 標準であるが,手術・処置を行う場合挿管をともなう手術,エアロゾルを発生しやすい処置を受ける 患者の術前スクリーニング等の無症候性 SARS-Cov-2 陽性患者や医療従事者への感染リスクの対する 対策などを病院全体で講じる必要があった。一方,SARS-CoV-2 は主として飛沫・接触によって伝播 し,鼻腔・咽頭(上気道)は感染者の体内でウィルス量が多い部位で最も危険な感染源である。有効 な抗ウイルス薬がなく,医療資源の供給が不安定な現状では医療行為で感染しない,感染させないこ とが最優先されるが耳鼻咽喉科手術は,上気道を術野とすることから,エアロゾル発生手技による感 染や,飛沫・接触感染を惹起しやすく,最も感染リスクの高い診療行為であるという特徴がある。こ の状況を鑑み,手術に関わる耳鼻咽喉科医及びすべての医療スタッフを感染から守り,ひいては院内 感染を防止するために,COVID-19 流行期における耳鼻咽喉科手術診療への日耳鼻の特徴のあるガイ ドと当院の感染対策との経過,すり合わせ,融合等の経験につき報告したい。
第8回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 プログラム・抄録集より転用
©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 26
鼻が臭い片側性副鼻腔炎(歯性上顎洞炎) 45 例の臨床細菌学的検討
杉田 麟也
1,杉田 玄
2,朝倉 清
3,長谷部智之
4, 中川 雅文
5,大川 洋
1,柳沢 英二
61杉田耳鼻咽喉科
2和歌山医科大学耳鼻咽喉科頭頚部外科
3高尾厚生病院
4岩手医科大学歯学部保存学講座
5国際医療福祉大学耳鼻咽喉科
6マイクロスカイラボ
Clinical and bacteriological studies of Hemilateral Maxillary sinusitis of Dental origin olfaction 45cases
Rinya Sugita
1, Gen Sugita
2, Kiyosi Asakura
3, Tomoyuki Hasebe
4, Masabumi Nakagawa
5, Hiroshi Ookawa
1, Eiji Yanagisawa
61Sugita Otolaryngologic Clinic
2Wakayama Medical University, Department of Otolaryngology Head and Neck Surgery
3Takaokouseii Hospital Dentistry, DDS
4Iwate Medical Universitu, Devision of Operative Dentisty and Endodontacs
5International University of Health and Welfare, Otolaryngology
6MicroSKY Lab, Inc.
1
.はじめに膿性鼻汁,痰が出て鼻が臭いと訴える患者が時々い る。大部分が片側性副鼻腔炎患者である。片側性副鼻 腔病変は上顎洞真菌症,歯性上顎洞炎,上顎洞癌急性 上顎洞炎などとの鑑別が必要である。臭い鼻汁が出て いる時は嫌気性菌感染症を疑うとされている。著者ら は片側性副鼻腔炎の嫌気性菌の検出状況と歯疾患との 関係を検討し,従来の報告と異なる結果を得たので報 告する。
2
.対象と方法腐ったような臭いがする鼻汁を主訴にして,内視鏡 で片側の中鼻道から膿性鼻汁を確認した45名(2017–
2020年)である。中鼻道から膿性鼻汁を石神式吸引装 置で採取,直ちに嫌気ポーター(シードチューブ,栄 研)に摂取,当日検査センターに提出まで4度C以下 で保存した。検査センターでは好気性,嫌気性培養を 日常検査の範囲内で実施した。副鼻腔炎や歯病変の観 察目的に当院で3D Accuitomo CTを行い詳細な読影は 先進歯科画像研究会で研修した歯科医が行った。その
後の診断,外科治療は東京歯科大千葉医療センター,
同大学市川総合病院口腔外科,東京医科歯科大学口腔 外科,順天堂浦安病院に依頼した。
3
.結果45例から67株を分離同定した。しかし,3例は嫌気 性培養を依頼し忘れ好気性菌3株を検出した。微好気 性連鎖球菌は10株で単独菌4株,6例は偏性嫌気性菌 と混合で検出された。偏性嫌気性菌はグラム陰性桿菌 が62%でFusobacterium nucleatum(F. nucle.)37.3%,
Prevotella 25.4% で, グ ラ ム 陽 性 球 菌 はParvimonas 16.4%であった。複数菌検出例は18例,偏性嫌気性菌 は45例中39例,86.7%であった。
CT読影及び歯科大での診察結果は45例が歯性上顎 洞炎,と診断された。原因歯疾患は根尖性歯周囲炎21 例,根尖のう胞15例,抜歯窩治癒不全7例,インプラン ト周囲炎3例,歯槽骨炎1例であった。
4
.考察歯性上顎洞炎の検出菌について口腔外科医の室木,
338 日耳鼻感染症エアロゾル会誌 2020: 8(4)
玉井(1986)は100例中14%は嫌気性菌単独で68%は 好気性菌と嫌気性菌の混合感染としている。嫌気性菌 は グ ラ ム 陰 性 球 菌 のVeillonella, グ ラ ム 陽 性 球 菌 Peptostreptococcus,Peptococcusが主体で著者らのごと くグラム陰性桿菌は検出されていない。F. nucle.が検出 さ れ に く い 理 由 と し て 酸 素 感 受 性 で あ り(L de M Farians, 1999)嫌気状態が十分でないと発育してこな い,また,集落形成に長時間の培養を必要とすること から,これらの配慮を欠いた培養検査は分離率が低率 になることが予想される(川村ら,2020)
まとめ
鼻が臭い片側性副鼻腔炎は歯性上顎洞炎であり,匂 いは偏性嫌気性菌が産生するガスが主な原因と考えた。
F.nukle.の分離が大切である。嫌気状態の持続,長時間 観察が必要である。臭い膿性鼻汁を停止,消失させる
にはCVA/AMPC+AMPC 1500 mg,分2,7日間投与が 有効である。
患者をCT写真,内視鏡鼻内所見,検出細菌名を添 えてかかりつけ開業歯科医に診療依頼をしても異常が ない,症状がないのでこのままでよいなどの返事をも らった。症例を歯科大に再度依頼すると全く異なった 返事で洗浄処置,抜歯になった。
参考文献
1) 室木俊美,玉井健三:歯性上顎洞炎の臨床細菌学的研究.
日本口腔学会誌1986; 35: 826–839.
2) Carvalho, L de Merdo Frians, MA Rouqe de Carvalho, H How, et al.: Oxygeon Sensitivity of Fusobacterium Strains. Anaerobes 1999; 5: 157–159.
3) 川村千鶴子,中村俊彦,渡邊邦友,他:5年間で経験した
Fusobacteriumが関与する108例の臨床細菌学的解析.感
染症学雑誌2003; 76: 23–30.
©2020 Japan Society for Infection and Aerosol in Otorhinolaryngology
第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 第 8 回日本耳鼻咽喉科感染症・エアロゾル学会 総会・学術講演会 一般演題 27
小児急性鼻副鼻腔炎の上顎洞内貯留液から Real-time PCR を用いて 検出した呼吸器系ウイルスと細菌の検討
松原 茂規
1,澤田 正一
21松原耳鼻いんこう科医院
2さわだ耳鼻咽喉科・眼科
The study of respiratory virus and bacteria from maxillary sinus aspirates in pediatric acute nasosinusitis using real-time PCR
Shigenori Matsubara
1, Shoichi Sawada
21Matsubara ENT Clinic
2Sawada Eye and Ear Clinic
1
.はじめに我々の研究は小児急性上顎洞炎の洞内貯留液から PCRを用いて微生物学的検討を行った最初の報告であ る。小児急性鼻副鼻腔炎の上顎洞内貯留液を穿刺洗浄 にて採取し,PCRを使用して原因微生物を網羅的に調 査した。
2
.対象と方法対象は2017年6月〜2019年12月に,松原耳鼻いん こう科医院を受診し,急性鼻副鼻腔炎と診断された31 人の患者(男17人と女14人,年齢は5〜14歳,平均9.1 歳)である。急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 1)の中 等症例及び重症例に相当した。この研究は神奈川県医 師会によって承認された(承認番号:16005)。
方法は以下のように行った。小児急性鼻副鼻腔炎患 者に上顎洞穿刺洗浄を施行し貯留液を採取した。患者 からの検体採取,治療は松原耳鼻いんこう科医院にて 行った。上顎洞貯留液を,ウイルス検出用にユニトラン ズRTトランスポート(Puritan Medical product, USA),
細菌検出用にオプティスワブトランスポート(同上)
の液体培地に保存し,さわだ耳鼻咽喉科・眼科(高知 市)に−20°Cで輸送した。すべてのウイルス及び細菌 PCRはさわだ耳鼻咽喉科・眼科で行った。鼻汁及び上 顎洞貯留液からの呼吸器系ウイルス及び細菌の抽出は QIAamp MinElute Virus spin kit(QIAGEN,ドイツ)を 用いて,Real-time PCRをFTD respiratory pathogens 33
(Fast track diagnosis,マルタ)及びCycleave PCR呼吸器 系感染症起炎菌検出キットVer. 2(TAKARA,滋賀,日本)
にて18種の呼吸器系ウイルス(Infl uenza A/B/C, Rhino virus, Corona virus NL63/229E/OC43/HKU1, Parainfl uenza 1/2/3/4, hMPV, Boca virus, RS virus A/B, Adeno virus, Enterovirus, Parechovirus) と13種 の 細 菌(Mycoplasma pneumoniae, Chlamydophila pneumoniae, Streptococcus pneumoniae, Hib, Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis, Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniae, Legionella spp., Salmonella spp., Pneumocystis jirovecci, Bordetella pertussis, Streptococcus pyogenes)を検出した。
PCRはCFX96サーマルサイクラー(Bio-Rad, 米国)を 使用して行った。一方,採取した上顎洞貯留液は(株)
ミクロメディカルラボラトリー(長野県佐久市)に送 付し好気培養と嫌気培養を行った。
3
.結果31人の患者の発症から上顎洞穿刺洗浄までの期間は 5〜20日(平均11.6日)であった(表1)。鼻部単純 Xp撮影で31人の患者のうち18人(58%)が両側の上 顎洞罹患であり,13人(42%)が片側の上顎洞罹患で あった。12人(39%)は発熱が持続し,5人(16%)
は頬部痛や頭痛を訴えた。18人(58%)は湿性咳嗽を 有した。嗅覚味覚障害を3人(10%),中耳炎合併を3 人(10%)に認めた。また10人(32%)は抗菌薬(主 にアモキシシリン)投与で改善を示さなかったために 上顎洞穿刺洗浄を行った。31人の患者のうち17人
(55%)は肺炎球菌ワクチン(PCV)を受けていたが 10人(32%)はPCVが接種できる以前の時代のため受 けていなかった。