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好酸球性副鼻腔炎:診断ガイドライン(JESREC Study)

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1) 福井大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 2) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 耳鼻咽喉・頭頸部外科学 3) 東邦大学医学部耳鼻咽喉科学 4) 東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学 5) 獨協医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科 6) 横浜市立大学附属市民総合医療センター耳鼻咽喉科 7) 広島大学大学院医歯薬保健学研究院 耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学 8) 札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科学 9) 自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科 10) 三重大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学 11) 東京大学医学部耳鼻咽喉科学 12)金沢医科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 13) 大阪医科大学耳鼻咽喉科学 14) 島根大学耳鼻咽喉科学 15) 順天堂大学耳鼻咽喉科学 16) 日本赤十字社和歌山医療センター耳鼻咽喉科 17) 筑波大学医学医療系遺伝医学 18) 独立行政法人理化学研究所統合生命医科学研究センター 19) 東京慈恵会医科大学分子疫学 藤枝 重治1) 坂下 雅文1) 徳永 貴広1) 岡野 光博2) 春名 威範2) 吉川 衛3) 鴻 信義4) 浅香 大也4) 春名 眞一5) 中山 次久5) 石戸谷淳一6) 佐久間康徳6) 平川 勝洋7) 竹野 幸夫7) 氷見 徹夫8) 伸彦8) 飯野ゆき子9) 吉田 尚弘9) 小林 正佳10) 坂井田 寛10) 近藤 健二11) 山岨 達也11) 三輪 高喜12) 山田 奏子12) 河田 了13) 寺田 哲也13) 川内 秀之14) 森倉 一朗14) 池田 勝久15) 村田 潤子15) 池田 浩己16) 野口恵美子17) 玉利真由美18) 広田 朝光18) 意元 義政1) 高林 哲司1) 富田かおり1) 二之宮貴裕1) 森川 太洋1) 浦島 充佳19) 日耳鼻 118: 728―735,2015

「第115回日本耳鼻咽喉科学会総会臨床セミナー」

好酸球性副鼻腔炎 :

診断ガイドライン(JESREC Study)

これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で,内視鏡鼻副鼻腔手 術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた.しかし2000 年頃からそれらの治療に抵抗性を示し,易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してき た.この副鼻腔炎は,成人発症で,嗅覚障害を伴い,両側に鼻茸があり,篩骨洞 優位の陰影があった.末梢好酸球も多く,気管支喘息やアスピリン不耐症の合併 もあった.このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたた め,好酸球性副鼻腔炎と命名された.好酸球性副鼻腔炎は,徐々に増加傾向を示 してきたが,好酸球性副鼻腔炎の概念,診断基準はあまり明確に普及していかな かった.そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同 大 規 模 疫 学 研 究(Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study : JESREC Study)を行った.その結果,両側病変, 鼻茸あり,CT 所見,血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準 を作成した.さらに臨床スコア,アスピリン不耐症,NSAIDs アレルギー,気管 支喘息の合併症,CT 所見,血中好酸球比率による重症度分類も決定した.4つ に分類した重症度分類は,術後の鼻茸再発と有意に相関し,最も易再発性かつ難 治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した.治療法 については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず,早急なる対応が 急務と考えている. キーワード : 好酸球性副鼻腔炎,JESREC Study,難治性副鼻腔炎, 重症度分類

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急性副鼻腔炎・慢性副鼻腔炎とは 急性副鼻腔炎は,鼻閉,鼻漏,後鼻漏,頭痛,顔面痛, 咳などが急性に発症し,罹病期間が4週以内のものと定 義されている.発症はライノウイルス,インフルエンザ ウイルス,パラインフルエンザウイルス,アデノウイル スなどによるウイルス感染であり,洞内の粘膜に炎症が 起こり,粘膜の浮腫,それに伴う自然口の閉塞,粘膜線 毛輸送機能低下による分泌物の排出低下,排出低下によ る貯留,pH の低下と低酸素状態,酸化ストレスが加わ って,細菌感染ないしはその増殖が起こりやすくなる1) . 最終的にはインフルエンザ菌,肺炎球菌,モラクセラ・ カタラーリスなどの代表的細菌により,さらなる炎症の 増悪を引き起こし,症状を増悪させる.そして医師の診 断を受けることとなる. 慢性副鼻腔炎は,鼻腔・副鼻腔(上顎洞,篩骨洞,前 頭洞,蝶形洞)において少なくとも8週ないしは12週以 上継続する慢性炎症疾患と定義されている2) .病理診断 では,粘膜の炎症が明確に存在するが,その病因は単一 なものではなく,多くの因子が複雑に絡み合っている. そのため世界レベルでは,慢性副鼻腔炎の定義,評価, 治療方針など,まだまだ多く議論があり,各国間で大き な違いが存在する. 慢性副鼻腔炎は鼻茸を伴わないものと鼻茸を伴うもの が存在する.慢性副鼻腔炎の鼻茸を伴わないものは,罹 病期間が8∼12週以上ということを除いて,ほぼ急性副 鼻腔炎と同じであり,急性副鼻腔炎が治癒せず病態が継 続している,いわゆる移行型のように考えられている. 同様に鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎でも,細菌感染などによ り症状の増悪を認め,そこで鼻茸の増大を指摘されるこ とが多いので,急性副鼻腔炎を放置した場合,もしくは 治癒できなかった場合に鼻茸ができるように以前は考え られていた.しかし最近では,鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎 は,症状こそ急性副鼻腔炎と類似しているが,急性副鼻 腔炎とは異なった機序で発症し,全身的な疾患と考えら れている3) .その代表的産物である鼻茸形成に関しては, いろいろな研究がなされているが,まだ明確な発症機序 は分かっていない. 副鼻腔炎の診断 問診は診断に重要である.症状,罹病期間,発症のき っかけを中心に十分行う.症状としては,粘性や膿性鼻 汁,鼻閉,頬部痛,歯痛,頭重感,嗅覚障害,後鼻漏に 注意する.診断で最も大切なのは,鼻副鼻腔内視鏡検査 による鼻腔内の観察である1) .鼻腔における鼻茸(ポリ ープ)の有無,鼻汁の存在と性状,鼻汁流出経路を把握 する.画像診断は,鼻内所見の評価を優先した上で行 う.まずは副鼻腔エックス線単純撮影にて,上顎洞,篩 骨洞,前頭洞の状態をスクリーニング的に調べる.さら なる精査が必要な時には,副鼻腔単純コンピューター断 層撮影(CT)もしくは磁気共鳴画像(MRI)を行う. これらにより各洞内の貯留液や粘膜の肥厚の状態,貯留 液の性状,腫瘍との鑑別,上顎骨を含む上顎洞の様子, 篩骨洞,前頭洞,蝶形洞の状態,洞内石灰化の存在など が把握できる. 副鼻腔炎の診断は,症状の存在と客観的な内視鏡検査 による病状把握(症状につながる現象確認)にて確定す る.罹病期間が4週以内の場合を急性副鼻腔炎,8週∼ 12週以上を慢性副鼻腔炎とする. 日本における慢性副鼻腔炎の歴史 慢性副鼻腔炎は,20世紀のわが国において,罹患率の 高い疾患であった.その高い罹患率は,第二次世界大戦 後の高度経済成長時代まで継続した.1960年代に入りア レルギー性鼻炎罹患が多くなるのに相関して,慢性副鼻 腔炎罹患率は減少してきた.その原因として,栄養の改 善,食生活の欧米化,衛生状態の改善などが推測されて いるが,いずれも推測の域を脱してはいない.しかしな がら現在でも年間約100万人から200万人の患者が存在す ると推定される4) .欧州の調査では,全人口の3∼4% が罹患していると報告されている2) . 治療は姑息的治療と手術による根治治療であった. 1893年 Caldwell が,1897年 Luc が提唱した Caldwell―Luc 法は,犬歯窩を切開し上顎洞を開窓後,病的粘膜を完全 に除去,そして下鼻道に排泄口とする対孔を作る上顎 洞根本術で,長い間盛んに行われた5)6) .1980年頃から 内視鏡の導入が試みられ,1985年 Kennedy が,1986年 Stammbererが機能的内視鏡的副鼻腔手術(Functional endoscopic sinus surgery)を提唱し,副鼻腔の炎症病 変は,副鼻腔の換気と排出を改善することを主眼に,治

療は副鼻腔粘膜温存と単洞化形成に移行した7)8)

.現在, この手術は内視鏡鼻副鼻腔手術(endoscopic sinus sur-gery : ESS)として世界的に普及し,標準的術式になっ ている.これまで43∼84%であった Caldwell―Luc 法の 有効率に比較して,ESS では78∼88%の有効率を示し, 有意に慢性副鼻腔炎の治療成績が改善した9) .それと同 じ頃わが国においては,びまん性細気管支炎にマクロラ イド療法が著効を示すことを見出した.さらに副鼻腔気 管支症候群としてびまん性細気管支炎に合併していた慢 性副鼻腔炎にも効果があることを証明し,慢性副鼻腔炎 に対する少量マクロライド長期投与が確立された10)11) . この ESS と少量マクロライド長期投与によって,わが 国の慢性副鼻腔炎治癒率はさらに向上した.

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好酸球性副鼻腔炎の出現 2000年頃から,ESS を施行しても早期に鼻茸の再発を 来し,根治できない慢性副鼻腔炎が増加してきた.この 症例の特徴として,成人発症,両側副鼻腔病変,CT 所 見で上顎洞よりも篩骨洞の陰影が優位,主訴の中に嗅覚 障害があり,内視鏡所見で鼻茸を認め,末梢血において 好酸球が増加していた(図1).手術で摘出した鼻茸を 組織学的に調べると著しく好酸球が浸潤していたので, 春名・森山らは,このような副鼻腔炎を「好酸球性副鼻 腔炎」と命名した12) .表1には当初提唱された診断基準 を示す.そしてそれから10年後石戸谷らによって,①血 中好酸球6%以上,② CT 所見(嗅 裂 陰 影 ス コ ア1以 上,後部篩骨洞陰影スコア1以上),③気管支喘息合併 らからなる診断基準も報告された13) . 好酸球性副鼻腔炎が増加してきたのは,どうしてであ ろうか.明確な答えはないが,気管支喘息の治療が変化 してきたことによると,筆者は考えている.以前の中等 症,重症気管支喘息の治療は,経口ステロイドが用いら れることが多かった.1993年に日本アレルギー学会から 喘息予防・管理ガイドラインが発刊され,学会を挙げて その普及を行った.その効果として,経口ステロイドの 使用と喘息死が有意に減少し,代わって吸入ステロイド の使用が有意に増加した14) .それとともに好酸球性副鼻 腔炎患者が増加した.好酸球性副鼻腔炎患者は,アスピ 表 1 2001年に発表された春名らによる好酸球性副鼻腔炎の診断基準12) 絶対条件 1)成人発症 2)両側性副鼻腔病変 3)CT 所見で上顎洞よりも篩骨洞の陰影が優位 4)主訴の中に嗅覚障害がある 5)内視鏡所見で鼻ポリープを認める 6)血中好酸球6%(300個/mL)以上もしくは副鼻腔組織中好酸球100個以上で好酸球優位 付帯条件 1)ステロイド薬,特に経口ステロイド薬が臨床所見の改善に有効 2)気管支喘息,アスピリン喘息を合併する 3)内視鏡下鼻内副鼻腔手術後に経過不良を呈する 4)マクロライド療法の効果は不明 5)粘稠性分泌物が認められる 図 1 好酸球性副鼻腔炎の鼻内所見と CT 像 鼻内には,多発性鼻茸が認められる.CT において上顎洞は粘膜肥厚が認められるが,篩骨洞は 完全に軟部陰影で充満し,嗅裂も完全に閉塞している.

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リン喘息を含め気管支喘息合併例が多いこと,経口ステ ロイドのみが唯一有効な治療手段であることを考える と,納得できるのではないか. それ以外には,好酸球性副鼻腔炎は,副鼻腔局所の疾 患ではなく,全身性もしくは上気道・下気道含めた呼吸 器疾患の可能性が高い.生活環境,食生活,使用薬剤の 変化,頻回な鎮痛薬使用などが複雑に絡み合って発症に 関与している可能性もある. 好酸球副鼻腔炎に対する多施設共同大規模疫学試験 好酸球性副鼻腔炎の概念が報告されて以来,徐々に, 易再発性であり難治性の副鼻腔炎を好酸球性副鼻腔炎と 考えるようになってきた.しかし実地臨床では,手術で 摘出された鼻茸などの病理組織報告書に「著しい好酸球 浸潤を認める」との項目があり,表1の診断基準に一部 該当すれば好酸球性副鼻腔炎と診断される傾向にあっ た.これまで好酸球性副鼻腔炎に関する全国規模の疫学 調査は一度も行われておらず,使いやすい明確な診断基 準も決まっていなかった.そこでガイドライン作成を考 慮に入れ,平成22年度厚生労働省難治疾患克服事業にお いて「好酸球性副鼻腔炎の疫学,診断基準作成等に関す る研究」を立ち上げた.15大学およびその関連病院参加 のもと,多施設共同大規模疫学研究 : Japanese Epidemi-ological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhi-nosinusitis Study(JESREC Study)である4)15)16)17)

. 調査は,各施設において平成19年1月1日から平成21 年12月31日の3年間に行った病理組織がある慢性副鼻腔 炎手術症例(ESS 症例)を抽出し,各種臨床データを検 討した.計3,251例の解析データシートが集まった.平 均年齢52歳,5歳から93歳まで幅広い分布であった.主 治医が好酸球性副鼻腔炎の診断をした症例は28%であっ た.臨床データシートは,年齢,病変,術前の内服状 況,コルチコステロイドの使用(経口・点鼻),鼻茸の 有無,粘稠な鼻汁,後鼻漏,嗅覚障害,耳症状,骨導閾 値上昇,嗅裂閉塞,喫煙状況,末梢血検査データ,抗原 特異的 IgE,CT 所見,合併症からなる.さらに全症例 の病理標本において400倍顕微鏡下1視野あたり浸潤し ている好酸球を福井大学にて計測した. 再発,難治に関する因子の同定 3,251症例においてコルチコステロイドの内服や点鼻 は,好酸球浸潤を減少させるので,術前にステロイド使 用があったり,不明だったりした症例は除外した.また 再発調査が不可能だったり,観察期間が28日未満だった りした症例も除外した.最終的に1,716例が解析対象症 例となった.この症例数が解析に十分であることは,統 計学的に確認した.好酸球性副鼻腔炎は,易再発性で難 治性であると定めたので12)16) ,ESS 後再発をした症例を 再発性あり,最終診察日に治癒していなかった症例(症 状が存在していた症例)を難治性ありと定義し,検討し た.上記の症例において,最低3年,最長6年の予後を 調 査 し た.そ の 結 果,Kaplan―Meier 法 に よ る 検 討 で は,72カ月で50%が再発することが判明した(図2)16) . 最初の1年で20%が再発し,次の1年で10%,その後各 年に5%ずつの再発率であった.再発に関連する因子を 単変量 Cox 比例ハザードモデルで解析すると,両側性, 鼻茸,粘稠な鼻汁,嗅覚障害,嗅裂閉鎖,末梢血好酸球 比率,篩骨洞優位の陰影,ダニ・スギアレルギー,アス ピリン喘息,アレルギー性鼻炎,気管支喘息,蕁麻疹, NSAIDsアレルギー,アスピリン不耐症と多数の因子が 有意であった.さらに多変量 Cox 比例ハザードモデル で解析すると,因子は減少し,表2に示す5因子のみが 再発に有意な因子となった4)15)16)17) .これら5因子は,検 査データと合併症であり,症状や所見内容はすべて有意 ではなくなった. 次に難治性に関する因子の検討を同様に行った.最初 の単変量 Cox 比例ハザードモデルでは,男性,鼻茸, 嗅覚障害,嗅裂閉鎖,末梢血好酸球比率,篩骨洞優位の 陰影が有意な因子であった.さらに多変量 Cox 比例ハ ザードモデルで解析すると,表3に示す末梢血好酸球比 率,篩骨洞優位の陰影の2因子のみが有意であった. 組織中好酸球数による再発率の違いも検討した.まず 1,716例の症例を均等に5等分すると,各群342から345 症例となり,組織中好酸球数は,①0∼3.3個,②3.3∼ 19個,③19∼66個,④66∼211個,⑤211個以上の群がで きた.これを Kaplan―Meier 法で無 再 発 率 を 計 算 す る と,①②③群と④⑤群の間で有意な差を認めた.さらに 組織中好酸球66個付近で再度2群に分け有意差検定する 図 2 解析症例の鼻茸無再発率 1,716例の鼻茸無再発率を Kaplan―Meier 法で計 算した.

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と,70個が最も理想的なカットオフ値であった(p< 0.01,図3). 診断基準の作成 本研究の目標は,ESS 施行前に生検などを行わずし て,好酸球性副鼻腔炎の診断を容易にすることである. さらに耳鼻咽喉科医以外の家庭医などでも容易に使用で きる診断基準を作成することであった.そのためには, 臨床スコアによる診断基準が理想であると考えた.各施 設でつけられた好酸球性副鼻腔炎の診断は使用できない ので,好酸球性副鼻腔炎の確定診断は,組織中好酸球数 70個以上と決め,1,716症例を好酸球性副鼻腔炎の群と 非好酸球性副鼻腔炎の群に分けた.組織中好酸球数70個 は,鼻茸再発に最も理想的なカットオフ値であること, 好酸球浸潤が著しいので好酸球性副鼻腔炎と命名された 事実から絶対的な基準項目として用いた.そして好酸球 性副鼻腔炎群と非好酸球性副鼻腔炎群の2群間で単ロジ スティック解析し,好酸球性副鼻腔炎であるリスクを算 出した.さらに多変量解析し,step wise 法により変数 を絞り込むとともに Receiver operating characteristic カ

ーブを書き(AUC=0.8),臨床上使いやすいように重 み付けを整数化した.その結果,表4のようになった. この4項目からなる診断基準によって,各症例の臨床ス コアを計算した.その結果,11点以上の臨床スコアを有 表 3 難治性に関する多変量 Cox 比例ハザードモデル4)15)16)17) 項目 ハザード比 95%信頼区間 p値 末梢血好酸球 ≦2% 1.00 2< ≦5% 1.72 0.95―3.10 0.072 5< ≦10% 1.86 1.49―3.32 0.036 10%< 2.21 2.66―4.06 0.024 篩骨洞陰影/上顎洞陰影 ≧1 2.15 1.22―3.79 0.008 表 4 好酸球性副鼻腔炎診断基準項目 (JESREC Study)4)15)16)17) 項目 スコア 病側 : 両側 3点 鼻茸あり 2点 篩骨洞陰影/上顎洞陰影 ≧1 2点 血中好酸球(%) 2< ≦5% 4点 5< ≦10% 8点 10%< 10点 スコアの合計 : 11点以上を好酸球性副鼻腔炎とする. 確定診断は,組織中好酸球数 : 70個以上 表 2 再発性に関する多変量 Cox 比例ハザードモデル4)15)16)17) 項目 ハザード比 95%信頼区間 p値 アスピリン不耐症 3.25 1.60―6.55 0.001 NSAIDsアレルギー 2.20 1.04―4.62 0.039 気管支喘息 1.43 1.12―1.82 0.004 末梢血好酸球>10% 1.52 1.04―2.25 0.032 篩骨洞陰影/上顎洞陰影 ≧1 2.06 1.50―2.84 <0.001 図 3 組織中好酸球数による無再発率の検討 Kaplan―Meier 法による計算を行った.顕微鏡400 倍視野において,1視野あたり組織中好酸球数70 個以上の群は,70個未満の群に比べて有意に再発 を認めていた.

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する症例を好酸球性副鼻腔炎と決定した.このカットオ フ値で,感度83%,特異度66%,陽性的中率62%,陰性 的中率85%であった.当初から,好酸球性副鼻腔炎のス クリーニングの意味を込めて,本診断基準で高い陰性的 中率を得たいと考えていたので,11点以上が適格である と判断した. 好酸球性副鼻腔炎の重症度分類 好酸球性副鼻腔炎に関する手術治療成績が通常の慢性 副鼻腔炎よりも劣ることは,当然のことであったが,好 図 4 慢性副鼻腔炎の診断・分類アルゴリズム 臨床スコア11点未満もしくは以上で,非好酸球性副鼻腔炎か好酸球性副鼻腔炎かに分類し, 因子Aと因子Bにおける項目の陽性数で,軽症,中等症,重症に分ける. 図 5 重症度分類による無再発率 Kaplan―Meier 法にて計算した.4群間すべてに有意差を認める(p<0.01).

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酸球性副鼻腔炎といえどもある程度治癒できる症例もあ ることも分かっていた.すなわち好酸球性副鼻腔炎にも 重症度分類が可能であった.これまで好酸球性副鼻腔炎 は,①気管支喘息を合併していない群,②通常の気管支 喘息合併群,③アスピリン喘息合併群の3つに分類し, 術後の成績が検討されていた18)19)20) .一方で,①好酸球 が鼻副鼻腔に限局している型,②気管支喘息あるいは好 酸球性中耳炎の合併を認めるか血中好酸球分画が10%以 上の型,③アスピリン喘息もしくは Churg―Strauss 症候 群の合併型に分類している場合もあった21) . われわれは,重症度を反映する因子として,表2の因 子を用いた.すなわち末梢好酸球5%以上と CT にて篩 骨洞優位を因子Aとして,両方を認めれば1点とした. 1項目のみは0点とした.因子Bとして気管支喘息の合 併・既往,アスピリン不耐症の合併,NSAIDs アレルギ ーの合併のいずれかがあれば1点とした.臨床スコア11 点以上で,因子Aと因子Bの合計が,0点を軽症,1点 を中等症,2点を重症とした.その結果,非好酸球性副 鼻腔炎,好酸球性副鼻腔炎軽症,好酸球性副鼻腔炎中等 症,好酸球性副鼻腔炎重症の4つのグループに分けられ た(図4).それぞれの再発率は,非好酸球性副鼻腔炎 : 12.7%,軽症 : 23.4%,中等症 : 31.1%,重症 : 51.8% と4群間で有意な差を認めた(p<0.01,図5).さら に難治率を計算すると,非好酸球性副鼻腔炎 : 3.3%, 軽症 : 11.7%,中等症 : 16.6%,重症 : 29.4%とこれも 4群間とも有意な差を認めた(p<0.01)4)17) . 好酸球性副鼻腔炎患者数の推定 正確な好酸球性副鼻腔炎の患者数は,不明である.慢 性副鼻腔炎患者は,およそ200万人,全国の年間 ESS 件 数は16,000件,図4の重症度分類に1,716例を当てはめ ると重症好酸球性副鼻腔炎は12.7%なので,約16,000× 0.127=2,000,年間重症好酸球性副鼻腔炎患者2,000人 が手術を受けていることになる.6年間で50%が再発を 来し再手術も含まれること,手術を受けない人もいるこ とを考慮すると2,000人の約10倍となる2万人が重症好 酸球性副鼻腔炎であろうと推測される.そうすると好酸 球性副鼻腔炎患者は,重症度分類から約20万人と計算さ れる.今回の重症度分類は手術症例から計算しているの で,もちろん非好酸球性副鼻腔炎の実際の割合は,高く なる.そうすると200万人から20万人を引いた180万人が 非好酸球性副鼻腔炎となり,おおよそ感覚と一致する. これまでわが国においては,慢性副鼻腔炎,好酸球性副 鼻腔炎と分類,それぞれ鼻茸ありとなしに分類してい た.JESREC Study が提唱する慢性副鼻腔炎の分類は, 表5の内容であり,慢性副鼻腔炎を鼻茸なしとありに分 け,鼻茸ありを非好酸球性副鼻腔炎と好酸球性副鼻腔炎 に鼻茸組織中好酸球数70個で分け,好酸球性副鼻腔炎を 軽症,中等症,重症とする. 慢性副鼻腔炎の治療 非好酸球性副鼻腔炎,軽症好酸球性副鼻腔炎は,これ まで通り ESS とマクロライド少量長期療法で良いと思 われる.中等度以上の好酸球性副鼻腔炎には,経口ステ ロイドしか有効な治療法がないのが現状である.早急に 新しい治療戦略を立てる必要がある.最近は,疾患形成 の分子機序を同定し,それに基づく分子標的治療薬の効 果から分類するエンドタイプ(endotype)が多くの疾患 で検討されている.鼻茸を有する慢性副鼻腔炎でも組織 中に好酸球浸潤が優位なタイプでは,① Th2 炎症型, ②抗 IL―5 抗体反応型,③抗 IgE 抗体反応型,④アスピ リン過敏症型,⑤ allergic fungal sinusitis 型,⑥ IL―32 高値型の エ ン ド タ イ プ が 提 唱 さ れ て い る3) .JESREC Studyが提唱する慢性副鼻腔炎の分類は,予後には反映 されているが,それぞれがどのエンドタイプに該当する のかは不明である.現在われわれは好酸球性副鼻腔炎の 分 子 標 的 因 子 と し て,IL―5,IL―13,IgE,L―plastin, IL―17,IL―22,IL―31,IL―33,組織プラスミノーゲン, 血液凝固第13因子,アラキドン酸代謝産物などを考えて いる.これらを詳細に調べることで,エンドタイプが決 定され,オーダーメイド治療に近づいていけるものと信 じている.

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2)Fokkens WJ, Lund VJ, Mullol J, et al : European Posi-tion Paper on Rhinosinusitis and Nasal Polyps 2012. Rhi-nol Suppl 2012 ; 23 : 3 p preceding table of contents, 1― 298.

3)Akdis CA, Bachert C, Cingi C, et al : Endotypes and phe-notypes of chronic rhinosinusitis : a PRACTALL docu-ment of the European Academy of Allergy and Clinical

表 5 慢性副鼻腔炎の新分類 慢性副鼻腔炎……鼻茸なし 鼻茸あり……非好酸球性副鼻腔炎 好酸球性副鼻腔炎 軽症 中等症 重症

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Immunology and the American Academy of Allergy, Asthma & Immunology. J Allergy Clin Immunol 2013 ; 131 : 1479―1490.

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7)Kennedy DW, Zinreich SJ, Rosenbaum AE, et al : Func-tional endoscopic sinus surgery : Theory and diagnostic evaluation. Arch Otolaryngol 1985 ; 111 : 576―582. 8)Stammberger H : Endoscopic endonasal surgery ;

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連絡先 〒910―1193 吉田郡永平寺町松岡下合月23―3 福井大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 藤枝重治

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