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(1)

修 士 学 位 論 文

題 名

交 流 電 場 に よ り 誘 起 さ れ る 流 体 力 学 的 作 用 を 用 い た 血 管 内 遊 泳 マ イ ク ロ 医 療 デ バ イ ス に 関 す る 研 究

指 導 教 員 小 原 弘 道 准 教 授

2 0 1 9 年 1 月 1 0 日 提 出

首都大学東京大学院

理 工 学 研 究 科 機 械 工 学 専 攻

学修番号 17883304

氏 名 伊 庭 洋 貴

(2)

1 章 序論

1.1 低侵襲医療技術 ... 2

1.2 体内医療を目指したデバイス ... 5

1.3 マイクロスケールについて ... 9

1.4 体内で活用が望まれる医療技術 ... 11

1.5 体内遊泳マイクロ医療デバイス ... 13

1.6 体内遊泳マイクロ医療デバイス実現までの課題 ... 15

1.7 目的 ... 18

2 章 理論 2.1 交流電場誘起流 2.1.1 AC electro-osmotic flow ... 21

2.1.2 電気二重層 ... 23

2.1.3 Electrothermal flow ... 26

2.1.4 Buoyant flow ... 28

2.2 微小流路内で粒子に作用する力 2.2.1 Magnus lift force ... 30

2.2.2 Saffman lift force, Shear gradient lift force ... 32

2.2.3 Wall effect ... 34

2.3 無線電力伝送 2.3.1 磁界共鳴方式 ... 36

2.3.2 磁界共鳴方式の等価回路及び理論式 ... 38

2.4 使用記号 ... 40

(3)

3 章 解析手法ならびに実験方法

3.1 境界条件変化による流体力を用いたマイクロデバイス制御の数値解析検討

3.1.1 表面近傍の誘起流による境界条件変化 ... 47

3.1.2 回転による境界条件変化 ... 52

3.2 交流電場誘起流の流動特性評価実験 ... 53

3.2.1 流動誘起部 ... 54

3.2.2 画像計測系統 ... 58

3.2.3 試料(粒子懸濁液) ... 61

3.2.4 実験方法ならびに実験条件 ... 62

3.3 ミリスケール実験 ... 64

3.3.1 ミリスケール実験系 ... 66

3.3.2 磁界共鳴を用いた無線電力伝送 ... 67

3.3.3 無線電力伝送特性 ... 70

4 章 結果 4. 血管内遊泳マイクロ医療デバイスの流体力による制御の検討 ... 73

4.1 表面近傍の誘起流による境界条件変化を用いたマイクロデバイス制御 ... 74

4.1.1 一様流速度分布 ... 75

4.1.2 放物線速度分布 ... 83

4.1.3 表面流れによる境界条件変化を用いたマイクロデバイス制御のまとめ .... 89

4.2 回転による境界条件変化を用いたマイクロデバイス制御の数値解析 ... 90

4.3 交流電場誘起流の流動特性評価実験 ... 95

4.3.1 交流電場誘起流の定性的評価 ... 96

4.3.2 交流電場誘起流の定量的評価 ... 104

4.3.3 交流電場誘起流の三次元流動構造 ... 106

4.3.4 交流電場誘起流の印加電場強度,周波数変化 ... 115

(4)

4.3.5 グリセリン水溶液による交流電場誘起流の流動特性 ... 117

4.3.6 交流電場誘起流の流動特性評価まとめ ... 122

4.4 ミリスケール実験 ... 123

4.4.1 無線電力伝送による交流電場誘起流 ... 124

4.4.2 ミリスケールの交流電場誘起流による制御の数値解析検討 ... 128

4.4.3 ミリスケール実験まとめ ... 131

4.5 血管内遊泳マイクロ医療デバイスの実現に向けて ... 132

5 章 結論 ... 139

謝辞 ... 142

参考文献 ... 143

(5)

1

1 章 緒言

(6)

2

1. 緒言

1.1 低侵襲医療技術

怪我や疾患などの “ 生体を傷つけること ” を医学用語で侵襲という.侵襲は手術の 際の切開や薬物投与による副作用などの,治療に伴う身体への負担も侵襲に当 てはまる.現在,世界では治療に伴う患者への負担を可能な限り軽減し,より効 率的・効果的な治療を行う低侵襲医療を目指す時代になってきている.低侵襲医 療には,遺伝子治療や分子標的療法,再生医療,内視鏡的治療など様々な分野が 含まれる

(1)

.その中でも,体内で直接的に幹部の治療や診断を行う技術の例とし て,Table1.1 に示すものが挙げられる.

カテーテル治療

手首や太ももなどに存在する大静脈などの太い血管に,外径数百マイクロ~数 ミリメートルのカテーテルと呼ばれるチューブを挿入して行う治療であり,心 筋梗塞や脳梗塞の要因となる冠動脈,脳動脈の閉塞・狭窄部において,直接的な 薬剤投与による血栓溶解やバルーン・ステントによる血管拡張などが存在する

(2)

.最小限の切開で治療が可能なため,全身麻酔が不要,術後早期の社会復帰が 可能などの低侵襲性を有する.

内視鏡手術

腹部や胸部などにあけた 5~10mm ほどの小さな穴に,内視鏡や手術器具を挿入

して行う手術であり,治療部位に応じて,腹腔鏡手術,胸腔鏡手術,膀胱鏡手術

などが存在する.一般的な開腹・開胸手術では,10~20cm ほどの切開が必要な

のに対し,切開範囲が小さいため,術後の疼痛の低減や早期回復,傷跡が目立た

ないなどの有利性を有する

(3)

(7)

3

カプセル内視鏡

小腸・大腸等の消化管の撮影を目的とした長さ 20mm,直径 10mm ほどのカプセ ル形状の内視鏡.内服薬のように口から飲み込むことで患者体内に投入され,蠕 動運動(臓器の収縮運動)により消化管内を移動しながら一定時間毎に搭載され たカメラを用いて腸内壁等を撮影し,体外のセンサー・記憶装置に画像データを 送信,これをもとに診断を行う.飲み込むだけで検査が可能なため,従来の方法 と比較して,吐き気等の身体的負担を低減し,生理的な状態の消化管内壁,特に 観察が困難であった小腸を観察可能な診断装置である

(4)

Drug Delivery System (DDS)

ほとんどの薬剤は,代謝機能により分解され長時間有効な血中薬物濃度を維持 が困難,患部以外の正常な臓器や組織に吸収され副作用の要因になるなどのデ メリットを少なからず有している.これらを抑制し,より効果的・効率的な薬物 治療を行うため,体内薬剤分布を量的・空間的・時間的に制御することで,必要 な 時 間 に , 必 要 最 低 限 量 , 必 要 な 場 所 に 送 り 届 け る 技 術 が Drug Delivery

System(DDS)である

(5)

. DDS は用いる薬剤や目指すべき機能に応じて,薬剤の持

続性を高めるための徐放性,体内代謝の速い薬剤の長寿命化,吸収性の促進,薬 剤を標的とする部位のみに伝達するターゲティング性能等に分類することがで きる

(6)

.薬物ターゲティングに関して,薬物を標的部位に運搬するために 100nm

~1µm のナノ粒子(キャリアー)が利用されており,リン脂質二重膜から構成され,

生体適合性に優れるリポソームや血中に最も多く存在するタンパク質であるア

ルブミンを用いたアルブミンナノ粒子などが存在し,ガン治療分野等で使用さ

れている.また,これら以外にも,金ナノ粒子や PLGA ( ポリ乳酸・グリコール

酸共重合体)粒子など,他の生体適合性が高い材料を用いた方法なども非常に活

(8)

4

発に研究されている

(8)(9)(10)

ここに紹介した技術以外にも,正常な組織を傷つけずに癌のみを攻撃する粒子 線

(11)

など,様々な方法で低侵襲性を実現又は目指して開発が活発に行われてい る.

低侵襲医療技術 治療方法 サイズ

カテーテル治療 大静脈などの太い血管に挿入,血管狭 窄部などにステントやバルーンを用い て治療

0.3~2mm

内視鏡手術 内視鏡や手術器具を体にあけた小さな 穴に挿入して行う手術.

5~10mm

カプセル内視鏡 カプセル型の内視鏡を飲み込むことで 消化管内を診断.

直径 10mm ,長さ 20mm

DDS 薬剤を体内で制御することで副作用の 低減や効率の向上

100nm~ 1μm

ガン粒子線治療 X 線よりも深い領域で線量のピークを

有するため,病巣部のみの治療が可能

Table1.1 Minimally invasive medical technology

(9)

5

1.2 体内医療を目指したデバイス

現在,体内での活用を目指している医療技術として以下のようなものが存在 する.

摂取可能な折り紙ロボット

(12)

米国では,ボタン型電池を誤って飲み込む事故が毎年 3500 件ほど報告されて いる.その多くは排泄物と共に外部に排出されるが,まれに胃酸と反応して炎症 を引き起こし,食道または気道の火傷およびその後の合併症のリスクが存在す る.過去 40 年間で 46 人の死亡と 183 件の重症化が報告されており,そのほと んどは子供である

(13)

このようにボタン型電池などを誤飲してしまった場合に,安全に取り除く為

の生分解性ロボットをマサチューセッツ工科大学(MIT)と,シェフィールド大

学,東京工業大学の共同研究チームが開発を進めている(Fig. 1.1) .このロボッ

トは,乾燥して,折りたたまれた状態でカプセル(長さ 27mm,直径 9.97mm)によ

って胃に運ばれ,到達すると水分を吸収して長さ 34.3mm,幅 16.7mm まで展開

する(Fig. 1.2) .その後,外部からの磁場によって操作され,炎症部のボタン型

電池の除去や,薬剤の放出による治療を行う.ロボットの移動に関して,搭載さ

れたネオジウム磁石に外部磁場が作用することでロボットは振動し,その際に

壁面との接触面に生じる,微視的な摩擦面の付着と滑りを繰り返すことで移動

を行う(Stick-Slip 現象)

14

.また,ロボットは複数の生体適合性材料と生分解性

材料で構成されており,最終的には分解・排出される.実施の生体内を模擬した

人工食道と人工胃を用いた実験では,約 3 分でカプセルから展開して移動を開

始し,炎症部のボタン型電池の除去,薬剤の放出に成功した.実用化には様々な

課題が存在するが,体外制御や生分解性材料を用いたロボットの可能性を示し

(10)

6

ている.

Fig. 1.1 The developed system

(13)

Fig. 1.2 Ice capsule and developer

(13)

(11)

7

自走式カプセル内視鏡

(15)

1.1 低侵襲な医療技術 でも紹介したカプセル内視鏡について,従来のカプ セル内視鏡は自走することができず,消化器官においては食物と同じ器官の蠕 動運動によって移動するため,任意の位置や方向からの観察や制御が困難であ り,その結果として診断結果の信頼性に問題が生ずる場合がある.さらに,消化 器官の運動が低下している場合に,バッテリーの問題で小腸全体の診断ができ ない,あるいは狭窄部位などにカプセルが滞留したりする場合があり,疾患の診 断や治療に対する信頼性は十分とは言えない.

これらの問題を解決するため,愛知工業大学の水野光国らは,カプセルにリニ ア推進機構を採用し,自走可能なカプセル内視鏡(Fig. 1.4, 1.5)を検討している.

これは,機体内部に固定磁石と可動磁石を入れ,機体外周に取り付けたコイルに 通電,発生した磁界によって可動磁石を動かし,その反作用によって推進すると いうものである.機体の大きさは直径 9mm,長さ 22mm を想定している.これ を腸管内壁の環境を模擬したテストコースを用いて(Fig. 1.4),2 種類の電流のパ ルス幅で試験走行を行ったところ,可動磁石の往復 1 ストローク当たり,平均

4.0mm/s と 8.3mm/s の移動速度が得られた.

Fig. 1-4 Overview of self- propelled capsule endoscope

(14)

Fig. 1-5 Intestinal inner wall model

(14)

(12)

8

眼球内治療用ナノプロペラロボット

(16)

眼球内の疾患への薬物治療に関して,角膜や毛様体及び水晶体を含む眼球前 部の疾患に対しては局所的な薬剤投与が行われるが

(17)

,局所投与,全身投与,お よび硝子体内注射による眼球後部への薬剤伝達は,涙液や血管などの存在から 困難である

(18)(19)

.これに対し,ナノ粒子を用いた受動拡散が試されてきたが

(20)

(22)

,拡散時間の長さによる生化学的作用の低下や全身投与による副作用のリス クが高くなる

(23)

このような問題の解決として, Zhiguang Wu らは眼球内治療用ナノプロペラロ ボットを検討している(Fig. 1.6,1.7).これは,長さ 2µm,直径 500nm ほどの螺旋 形状のプロペラを有した形状をしており,外部回転磁場による回転を推進力と している.このプロペラに関して,傾斜角蒸着(GLAD)による物理的蒸着法

(24)(25)

によりニッケルで作成した後,眼球内組織との相互作用を最小にするためカー ボン材料による表面コーティング

(26)

が施されている.また,物理蒸着により形 成されるため,一度に数億個の作成が可能である.実験では,ヒト眼球のモデル としてのブタ眼球内にナノプロペラデバイスを投入し,外部から磁界周波数

70Hz,磁界強度 8mT の回転磁場を印加することで約 8µm/s 以上の推進速度での

制御を得ている.

Fig. 1.6 Nano propeller robot image

(15)

Fig. 1.7 Nano propeller robot

(15)

(13)

9

1.3 マイクロスケールについて

以上の低侵襲医療技術,体内治療を目指したデバイスの大きさを比較すると,ナ ノスケールでは DDS,眼球内治療用ナノプロペラロボットが,ミリスケールで はカテーテル治療やカプセル内視鏡などが存在する.しかし,ナノとミリの間を 補完するマイクロスケールの医療技術が存在していない (Fig. 1.8).現在,マイ クロスケールの医療技術は他のスケールの技術と比較して,研究・開発が遅れて いる現状がある.

一方で,体内に目を向けてみると,構造・機能の基本単位である細胞の大きさ

は約 10~30µm,臓器内の血管直径がおよそ数~数百 µm,全身の血管の 95%を

占める毛細血管の太さは 8~10µm ほどである

(27)

.マイクロスケール治療技術が 確立されれば,これらの直接治療が可能となり,また,これらを経由することで,

従来の技術では困難,不可能であった部位の治療が可能になると考えられる.そ のため,より低侵襲な医療技術を達成するためにはマイクロスケールの治療技 術の確立は重要であると考えられる.

こうした中,生体内において,マイクロスケールで活動しているものとして,細

菌やウイルスを殺す白血球などの免疫細胞や,バクテリアの一種の大腸菌など

が存在する.これらの有する生体・生物由来の移動方法を模倣・参考にすること

で,マイクロスケールの治療技術の確立に役立つのではないかと考えられる.

(14)

10

Fig. 1.8 Comparison of Medical technology and body composition

[m]

DDS 50~150nm

0 10

-9

10

-6

10

-3

1

Capsule endoscope 26mm Endoscopic surgery

510mm

マイクロスケールでの治療技術確立が重要

Surgery

Body composition

Medical technology

Protein

White cell 5~20μm Virus

Cell 10~30μm

Origami robot Capillary

blood vessel 8~10μm

Nano propeller robot for intraocular treatment

2µm

大動脈 肝臓

(15)

11

1.4 体内で活用が望まれる医療技術

現在,体内で活用を目指した医療技術として以下のようなものが存在する.

細胞治療

近年,医学分野では,薬の代替として細胞を用いて疾患を治療する細胞治療の実 現に向けた研究が精力的に行われている.細胞治療とは,ヒトの細胞を投与する ことで疾患を治療する方法の総称であり,細胞や組織を体外に取り出し,培養・

加工し,場合によっては医療材料と組み合わせ,患者に適用する

(28)

.細胞治療に 関しては,様々な分類が考えられる.細胞治療の分類表を Table1.2 に示す.これ ら細胞治療は,従来よりも副作用が少ない・拒絶反応が少ない可能性があるなど の様々なメリットを持つが,一度患者の体内から特定の細胞や組織を取り出し,

治療・加工を行い,また体内に戻さなければならず,コストや手間,時間が必要 である.細胞治療を体内で直接行う技術が確立されれば,コストや時間,患者の 身体的負担をより軽減することが可能である.これらより,将来,細胞治療がよ り発展,一般的になるにつれ,体内で細胞治療を行うようになると考えられる.

細胞治療名 治療方法 具体例 免疫療法 生化学物質により免疫系の活動

を刺激し,免疫力を高める治療

NK 細胞療法 サイトカイン療法 遺伝子療法 疾病の治療を目的として遺伝子

を導入した細胞をヒトの体内に 投与する治療

CAR-T 療法

細胞移植治療 機能不全に陥った臓器や組織を 再生・回復させる治療

iPS 細胞移植

肝細胞移植

造血細幹胞移植

Table1.2 Cell therapy classified

(16)

12

ガン温熱療法

ガンの治療方法の一つに,ハイパーサーミア(ガン熱療法)というものが存在 する.これは,がん細胞と正常細胞の温熱感受性の差を利用した治療方法であり,

42~45℃の温度域において,ガン細胞の生存率が急激に低下する性質を利用す ることで,ガン細胞のみを選択的に死滅させる.一般的に化学治療や放射線療法 などと併用して用いられる

(29)

.様々な方式の中でも,近年,RFA(ラジオ波灼熱 療法)が注目を集めている.これは,ガン腫瘍内に直径 1.5mm ほどの針状電極を 挿入し,周波数が数十 MHz 帯の電流を流すことで加熱する方法であり,主に肝 臓や肺,腎臓内の腫瘍に対して行われる

(30)(31)

.しかし,臓器に針などを挿入す るため,癌腫瘍以外の健康な組織を傷つける可能性がある.そこで,RFA の技 術をマイクロデバイスに内蔵できれば,不必要に体を傷つけることなくガン腫 瘍のみを治療できる可能性が出てくる.

以上のように,マイクロスケールの技術,特に体内で患部や臓器などへ向けて

積極的な移動技術が確立されれば,これら体内で治療を目指して開発されてい

る,あるいは,された医療技術のデメリットや患者への負担を軽減し,より低侵

襲な治療が可能になると考えられる.

(17)

13

1.5 体内遊泳マイクロ医療デバイス

このような背景から,本研究では,血管内を遊泳することで目的の臓器,組織 に到達し,搭載した薬剤や生化学物質,1.4 体内で活用が望まれる医療技術で紹 介した治療技術などを用いて患部の直接的な治療を行う血管内遊泳マイクロ医 療デバイス(以下遊泳デバイス)を最終目標として考えている(Fig. 1.9).具体的に は,体内にはカテーテルなどを用いて血管内に投入され,通常時は血流に乗って 遊泳することで体内を移動し,血管の分岐箇所や目的の患部や組織周囲におい ては,遊泳デバイス表面の境界条件を変化させ,周囲流れ場の速度分布や圧力分 布などの流体力学的状態を制御することで,揚力等の流体力を利用した選択的・

任意的な移動を行う.

遊泳デバイスのサイズについて,血流を介して体内を移動するため, 20~30µm ほどを想定している.これは生体内で細菌・ウイルスやがん細胞などの病原を殺 滅する免疫系,特に血流にのって移動する好中球などの白血球と同等のスケー ルである

(27)

このような血管内遊泳マイクロ医療デバイスのメリットとして,

・患部の直接治療や局所的体内細胞治療

・血管内を遊泳により移動することで,体中の目的の臓器,患部への到達 ・流体力を用いた推進による,駆動に必要なエネルギーの低減

などが考えられる.

(18)

14

・ 患部の直接治療

・薬剤だけではなく遺伝子治療用、

免疫制御因子の導入(

E

x:

CAR)

②分岐部・患部周囲における 流体力を利用した位置制御

①カテーテルな どを用いて血管 内に放出

・副作用の低減

・効率的な治療

・遺伝子治療への応用

③患部を直接,集中的に治療

全長

20µm

カテーテルの最小直径約

300µm

腫瘍細胞 薬剤

/

生化学物質

Fig. 1.9 Image of swimming micro medical device in vessel

(19)

15

1.6 体内遊泳マイクロ医療デバイス実現までの課題

このような遊泳デバイスの実現までには, Table1.3 に示すように様々な課題が 存在する.本報告では,これらの中でも,

・境界条件変化による流体力を利用したデバイス制御方法 について注目した.

境界条件変化による流体力を利用した遊泳デバイス制御方法について,濡れ 性などの表面特性の制御などが考えられるが,今回はその中でも,遊泳デバイス 表面近傍の誘起流と回転を利用した方法について検討を行った.それぞれを簡 単に説明すると,表面近傍の誘起流とは遊泳デバイス表面の極近傍領域におい て,剥離せず表面に沿った流動であり,これにより周囲の速度分布を変化させる.

回転を利用した方法では,遊泳デバイスの回転に,周囲流体が粘性によって引き ずられることで速度・圧力分布を変化させる.また,エネルギー供給に方法につ いては,スマートフォンや EV などの給電方法として利用されている磁界誘導や 磁界共鳴現象などの電磁気的な方法を用いた非接触給電方法の利用を検討して いる.

それ以外の課題について,赤血球,白血球との干渉では,管径 300µm 以下の

微小管で顕在化する血管内速度による赤血球の偏在の利用が,回収・分解方法で

は,生体吸収性マグネシウム合金等

(32)

の生体吸収性材料の利用による解決が考

えられる.これらについては,今後,検討を行っていく.

(20)

16

課題 解決策

境界条件変化による流体力を 利用したマイクロデバイス制 御方法

・表面近傍の誘起流

・遊泳デバイスの回転

・表面特性の制御 エネルギーの供給方法 ・非接触電力伝送

赤血球・白血球との干渉 ・血管内速度分布による赤血球の管中心部での 偏在の利用

回収・分解方法 ・生体吸収性マグネシウム合金などの生体吸収 性材料の使用

体内での方向・位置把握 拍動流下での制御

Table1.3 Considerations for realization of intravascular swimming micro device

(21)

17

1.7 目的

1.3 章で述べたように,現在,マイクロスケールでの体内治療技術の開発は進 んでいない.しかしながら,体内に目を向けてみると,構造・機能の基本単位で ある細胞や全身の血管の 95%を占める毛細血管などが同スケールで存在し,こ れらを体内で直接治療可能な技術が確立されれば,より効率的で低侵襲な治療 方法の実現が考えられる.そのため,マイクロスケールでの治療技術の確立は重 要と考えられる.また,現在注目を浴びている細胞治療やガン温熱療法などと組 み合わせることで新たな治療法の確立も考えられる.このような背景から本研 究では,血管内を遊泳することで目的の臓器,組織に到達し,搭載した薬剤や生 化学物質,細胞治療技術などを用いて患部の直接的な治療を行う血管内遊泳マ イクロ医療デバイス(以下:遊泳デバイス)を最終目標として考えている.このよ うな遊泳デバイス実現には,体内での方向・位置把握,血液拍動流下での制御,

赤血球の存在,回収方法などの多くの検討事項が存在する.一方,流体力の積極 的な利用により,駆動・制御において,必要なエネルギーの削減,駆動部不要に よる小型化,生体親和性の高い材料での設計などのメリットが考えられる.本研 究では検討事項の中でも,流体力を利用した遊泳デバイス制御に注目し,境界条 件変化による流体力の誘起方法について検討した.

本報告では,境界条件変化による流体力を利用した遊泳デバイス制御確立に 向け,制御に必要な流体力と流体力を誘起するため境界条件の解明,境界条件変 化による流体力を用いた遊泳デバイス制御の検証を行うため,以下の事柄につ いて検討を行った.

●境界条件変化による流体力を用いた血管内遊泳マイクロ医療デバイス制御の マイクロスケール数値解析による検討

●ミリスケール実験を用いた血管内遊泳マイクロ医療デバイス制御の検証実験

(22)

18

に向けた交流電場誘起流の流動特性評価

●ミリスケール実験のためのミリスケール数値解析を用いた検討

(23)

19

2 .理論

(24)

20

2.1 交流電場誘起流

一対の電極に交流電場を印加した際,電極周囲にはマイクロスケールにおい て AC electro-osmotic flow, Electrothermal flow, Buoyant flow の 3 種類の流動が形 成され,印加電場強度 E や周波数 f,液導電率 σ などの条件によって支配的な流 れが決定される

(33)

.Fig. 2.1 に示すような平行平板電極において交流電場を印加 した際の流動について示す.

Fig. 2.1 Parallel plate electrode

(25)

21

2.1.1 AC electro-osmotic flow

(34)

交流電気浸透流とは, µm 間隔の薄膜電極間に交流電圧が印加された際,電気浸 透流の原理に基づいて電極上に生じる溶液の流れである.この流れは主に低周 波(<100kHz),低導電率(<0.1S/m)の条件で顕在化する.

交流電気浸透流の原理を Fig. 2.2 に示す.

Fig. 2.2

Diagram illustrating a cross-section of the microelectrode used to measure particle velocities

電極は基板上の同一平面上に µm 間隔で配置され,その上にバルク溶液が存在す る.ここで電極間に交流電圧を印加すると,電極はそれぞれ正と負に帯電する.

この電位差により電場が形成され,溶液中の反対符号のイオン(対イオン)を引

き寄せることで,表面近傍に電気二重層が誘起される.電極表面において,電極

と平行な電場成分 Et が存在しており,電極上の電気二重層と作用することによ

り電気浸透流が生じる.電気二重層で誘起されている電荷の符号と電場の向き

を考慮すると,流れは電極間ギャップから外側に向かう方向に生じる.また,印

加電圧の極性が反転しても,電荷の符号,電場の向きがともに反転するため,生

じる流れの向きは変化しない.また,電極間ギャップからに近いほど,電場強度

が強くなるため大きな流れが誘起される.

(26)

22

平行平板電極の周波数と交流電気浸透流の速度の関係は Fig. 2.3 のようになって いる.中間の周波数で交流電気浸透流の速度が速くなっており高周波数および 低周波数で遅くなっていることが知られている.交流電場では電気二重層の分 極は周波数に依存している 𝐸

𝑡

や ∆𝜎

𝑞

の強度の効果によるものである.高周波数で の電位は溶媒中で電圧降下する.一方周波数 1Hz などの低周波数では電極が完 全に分極される.これらの結果からある条件より低い周波数や高い周波数では 交流電気浸透流は誘起されないことが知られている.

電気二重層のキャパシタンスは一定値∆C = ε𝑘𝑑∆𝑧で表される.また抵抗値は

R(z)=πz/σd∆𝑙

𝐺𝑎𝑝

で表される.これより時定数 τ はキャパシタンスと抵抗の半分の

積で与えられる.そのため二重層を横切る誘導電位 V

d

は次の式で示される.

𝑉

𝑑

=

1+𝑗ω𝑉0/2

𝐸𝜏/2

=

2+𝑗ω𝑉0

𝐸𝜋𝑙𝐺𝑎𝑝𝜎𝜀𝑘

(2.1.1) 𝑉

0

は交流電場の強度である.また

∆𝜎

𝑞

(𝑧) = 𝜀𝑘𝑉

𝑑

, 𝐸

𝑡

= −

𝜕𝑉𝜕𝑧𝑑

(2.1.2) となるため,平面平板のときの交流電気浸透流の速度は

𝑈

𝐴𝐶𝐸𝑂

= 1

2 𝑅𝑒 { 𝐸

𝑡

∆𝜎

𝑞

𝑘𝜂 } = 1

8

𝜀𝑉

02

𝛺

2

𝜂𝑟(1 + 𝛺

2

)

2

𝛺 = ω

𝐸

𝑟

𝜎𝜀𝑚

𝑚 𝜋

2

𝐵 (2.1.3) と示すことができる.

Fig. 2.3 Relationship velocity and frequency

(27)

23

2.1.2 電気二重層

(34)

電気二重層とは,電解液に導体を浸した際に界面に形成される電解液の溶媒 1 分子が並んだ極めて薄い層(内層)と,その外側の拡散層(外層)の 2 層のこと を言う.この内層は Stern 層とも呼ばれる.電位 φ の分布が生じる.Stern 層と 拡散層の境界での電位はゼータ電位 ζ と呼ばれ,電気二重層の厚さは Debye 長 λ

D

として表される.

Fig. 2.3 Electric double layer

まず電気二重層の厚さを導くため拡散電気移住層内の電位分布を導く.

平らな荷電界面の一方に濃度 C[mol/l]の電解質の水溶液があるとき,正負イオン の数密度が n[m

-3

]であると仮定すると

n = 10

3

× 𝐶𝑁

𝐴

(2.1.4) ただし 𝑁

𝐴

はアボガドロ数である.

Gouy‐Chapman モデルより拡散層内 φ にポアソン方程式を仮定する.

𝑑2𝜑

𝑑𝑦2

= −

𝜌(𝑦)𝜀

𝑟𝜀0

(2.1.5)

(28)

24

拡散内の電荷密度 ρ(y)は次の式で表される.

ρ(y) = 𝑣𝑒𝑛

+

(𝑦) − 𝑣𝑒𝑛

(𝑦) (2.1.6) ここで温度 T のとき,イオンのボルツマン分布を仮定すると

𝑛

+

(𝑦) = 𝑛 𝑒𝑥𝑝 (−

𝑣𝑒𝜑(𝑦)𝑘

𝐵𝑇

) (2.1.7) 𝑛

(𝑦) = 𝑛 𝑒𝑥𝑝 (

𝑣𝑒𝜑(𝑦)𝑘

𝐵𝑇

) (2.1.8) ただし𝑘

𝐵

はボルツマン定数である.

以上のことから拡散電気二重層の電位分布の式は 𝑑

2

𝜑

𝑑𝑦

2

= − 𝑣𝑒𝑛

𝜀

𝑟

𝜀

0

[𝑒𝑥𝑝 (− 𝑣𝑒𝜑(𝑦)

𝑘

𝐵

𝑇 ) − 𝑒𝑥𝑝 ( 𝑣𝑒𝜑(𝑦) 𝑘

𝐵

𝑇 )]

となり界面電荷密度は小さく φ も小さいため 𝑣𝑒|𝜑(𝑦)|

𝑘

𝐵

𝑇 ≪ 1 よって

𝑑

2

𝜑

𝑑𝑦

2

= 𝑘

2

φ となり

𝐵 = √

𝜀2𝑛𝑣2𝑒2

𝑟𝜀0𝑘𝐵𝑇

(2.1.9) となる.これは電気二重層厚さの逆数である.

また境界条件

( 𝑑𝜑 𝑑𝑦 )

𝑦=+0

= − 𝜎

0

𝜀

𝑟

𝜀

0

を代入すると拡散電気二重層内の電位分布は

φ(y) = 𝜑

0

𝑒𝑥𝑝(−𝑘𝑦) で表すことができる.

直流を印加したときに流体に作用する現象としてよく知られているのが電気浸

透流である.この流体の速度は以下の式で示すことができる.

(29)

25

𝑣 =

𝜀𝐸𝜇𝑡𝜁

(2.1.10)

ε は溶媒の誘電率 は粘度, 𝜁 はゼータ電位を表している.ゼータ電位は界面電 荷密度量 𝜎

𝑞

に比例しているため,次の式で表すことが可能である.

𝑣 =

𝐸𝑘𝜂𝑡𝜎𝑞

(2.1.11)

(30)

26

2.1.3 Electrothermal flow

(33)

流体内に置かれた対電極に交流電圧を印加した際,電極間の交流電場により 発生するジュール熱が,マイクロ流体内に温度勾配を誘起し,この温度勾配によ り導電率と誘電率の勾配が発生する.これに伴った電磁力が流れを誘起する.こ の流れをエレクトロサーマル流れという.Elevtrothermal flow は主に,周波数が

100kHz 以上,10mS/cm 以上の高導電率の条件下で顕在化する.

電極周囲の流体の内部エネルギー方程式は,以下のように示される

(34)

, 𝜌

𝑚

𝑐

𝑝

( 𝜕𝑇

𝜕𝑡 + (𝑣・𝛻)𝑇) = 𝑘∇

2

𝑇 + 𝜎𝐸

2

(2.1.12) ここで 𝑐

𝑝

は定圧比熱,k は流体の熱導電率である.

電場の印加後,温度場は時間非依存成分と振動成分の両方を有する定常状態に 急速に発達する.振動成分が流体に及ぼす影響は,1kHz より高い周波数領域に おいて無視することができる(22).定常状態には t=ρm𝑐

𝑝

l2/k で到達し,通常 0.1s よりも小さくなる.

対流と拡散の比を示す無次元数であるペクレ数 Pe について, v<100µm/s, l<100µm の条件下では,

Pe = 𝜌

𝑚

𝑐

𝑝

𝑣𝑙

𝑘 < 7 × 10

−2

(2.1.13)

となり,熱拡散と比較して熱対流が小さくなる.したがって,電極周囲の温度方 程式はジュール熱をエネルギー源とするポアソン方程式となる.

k∇

2

𝑇 = −𝜎〈𝐸

2

〉 (2.1.14) ジュール加熱による温度上昇分 ΔT は式(2.1.14)を用いて,

∆𝑇~ 𝜎𝑉

2

2𝑘 (2.1.15)

と表現され, ΔT は系の大きさに依存しないことがわかる.ここで V は電極間に

印加される交流電圧の振幅である. Fig.2.1 の単純化された理想的な系において,

(31)

27

電極温度が一定であると仮定すると,解析解は次のようになる.

∆𝑇 = 𝜎𝑉

2

2𝑘 ( 𝜃

𝜋 − 𝜃

2

𝜋

2

) (2.1.16)

この式で与えられる温度場は,導電率 σ および誘電率 ε の勾配を生成し,電気 的な物体力が発生する.一対の平行平板電極の電場の解析式 E=(V/πr)u

θ

を用い ると,体積力 f

E

は以下のようになる(u

θ

は θ 方向単位ベクトル).

𝒇

𝑬

= −𝑀 𝜀𝜎𝑉

4

8𝑘(𝜋𝑟)

3

𝑇 (1 − 2𝜃

𝜋 ) 𝒖

𝜃

(2.1.17) M = (𝑇/𝜎)(𝜕𝜎/𝜕𝑇) − (𝑇/𝜀)(𝜕𝜀/𝜕𝑇)

1 + (𝜔𝜀/𝜎)

2

+ 1 2

𝑇 𝜀

𝜕𝜀

𝜕𝑇 (2.1.18)

M は無次元数である.この式より,周波数による力の変化が予測される(T=300K,

ωε/σ≪1 の場合,M=+6.6, ωε/σ≫1 の場合, M=-0.6).式(2.1.17)によって与えら

れる力を低 Re 数のため粘性項を無視した Navier–Stokes 方程式

∇・𝒗 = 0 (2.1.19)

0 = −∇𝑝 + 𝜇∇

2

𝒗 + 〈𝑓

𝐸

〉 + ∆𝜌

𝑚

𝒈 (2.1.20) に代入することで得られる流速の解析解は

𝑣

𝑚𝑎𝑥

= 5.28 × 10

−4

|𝑀|

𝑇 𝜀𝜎𝑉

4

𝑘𝜇𝑟 (2.1.21)

となる.この最大流速は ωε/σ ≪ 1, ωε/σ ≫ 1 の条件で場合分けされる.

𝑣

𝑚𝑎𝑥

~ 5 × 10

−4

𝜀𝜎𝑉

4

𝑘𝜇𝑟 | 1

𝜎

𝜕𝜎

𝜕𝑇 | 𝜀𝜔/𝜎 ≪ 1 (2.1.22) 𝑣

𝑚𝑎𝑥

~ 2.5 × 10

−4

𝜀𝜎𝑉

4

𝑘𝜇𝑟 | 1 𝜀

𝜕𝜀

𝜕𝑇 | 𝜀𝜔/𝜎 ≫ 1 (2.1.23)

(32)

28

2.1.4 Buoyant flow

(33)

流体内に置かれた対電極に交流電圧を印加した際,電極間の交流電場により 発生するジュール熱が誘起する流体の密度変化により生ずる流動.

式(2.1.16)で与えられる温度場によって誘起される重力由来の物体力は以下の ようになる.

𝑓

𝑔

= ( 𝜕𝜌

𝑚

𝜕𝑇 ) 𝜎𝑉

2

2𝑘 ( 𝜃

𝜋 − 𝜃

2

𝜋

2

) 𝑔 (2.1.24) ωε≪1 での電気由来の物体力と重力由来の物体力の比は,

𝑓

𝑔

𝑓

𝐸

~ (𝜕𝜌

𝑚

/𝜕𝑇)(𝜋𝑟)

3

𝑔

(1/𝜎)(𝜕𝜎/𝜕𝑇)𝜀𝑉

2

(2.1.25)

電極間中心からの距離 r が 25µm の電極極近傍において,印加電圧強度 V が

10V,流体が水の場合,f

g

/f

E

~7×10-4 となり,電気力と比較して重力が無視で

きることがわかる.一方,r が大きくなる,すなわち電極からの離れる場合,

重力に対して電気力が大きくなり,V=10V では,r≒300µm で浮力流と電気対 流の遷移が発生する.浮力流の最大流速は以下のように見積もられる.

𝑣

𝑚𝑎𝑥

~2 × 10

−2

( 𝜕𝜌

𝑚

𝜕𝑇 ) 𝜎𝑉

2

𝑔𝑟

2

𝑘𝜇 (2.1.26)

(33)

29

2.2 微小流路内で粒子に作用する力

円管や矩形断面を有する流路内で流れに中立浮遊する粒子について,レイノ

ルズ数 Re が約 1<Re<100 の範囲では,粒子は流れに対し垂直方向に移動し,

下流において流路断面内の特定の位置に集中することが知られている.円管内 流れを対象として行われた Serge & Silberberg

(35)

の実験により,円管内ポアズ イユ流れでは管半径の約 0.6 倍の位置に集中することが報告され,“Serge & Silberberg effect” として知られている.

これは,壁面方向に作用する力と管中心方向に作用する力のつり合いによる ものであり,主に Magnus lift force, Saffman lift force, Shear gradient lift force, Wall

effect の 4 種類の力が粒子には作用している.本研究で想定する血管内のレイ

ノルズ数は 0.6~1 程度であり,血管内を遊泳するマイクロデバイスにもこれら

の力が作用すると考えられる.

(34)

30

2.2.1 Magnus lift force

流体中で回転する円柱や球に作用する力.

Fig. 2.4 のような流速 U の一様流中において,一定の角速度 Ω で回転してい

る円柱が静止している場合を考える.円柱表面で滑り速度がないと仮定する と,円柱上部と比較して,円柱底部の流速は小さくなる.このときベルヌーイ の定理より,圧力は円柱上部よりも底部で大きくなる.その結果,円柱には上 向きの揚力 F

Lift

が作用する.円柱に作用する揚力の単位長さ当たりの大きさは 式 (2.2.1) のようになる

(36)

𝐹

𝐿𝑖𝑓𝑡

⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗ = 𝜋𝜌

𝑚

𝑑𝑈⃗⃗ × 𝛺⃗ (2.2.1)

流体中で回転する剛体球も同様に,圧力差による揚力が発生する.この揚力は Magnus lift force と呼ばれる

(37)

𝐹

𝐿𝑖𝑓𝑡

⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗ = 1

8 𝜋𝜌

𝑚

𝑑

3

𝑈⃗⃗ × 𝛺⃗ (2.2.2)

球が静止ではなく,流体中を 𝑣 ⃗⃗⃗⃗

𝑝

で平行移動する場合, 𝑈⃗⃗ は相対速度 (𝑣 ⃗⃗⃗⃗ − 𝑣

𝑓

⃗⃗⃗⃗ )

𝑝

で 置き換えることができる.

𝐹

𝐿𝑖𝑓𝑡

⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗ = 1

8 𝜋𝜌

𝑚

𝑑

3

(𝑣 ⃗⃗⃗⃗ − 𝑣

𝑓

⃗⃗⃗⃗ ) × 𝛺⃗

𝑝

(2.2.3)

Magnus lift force が作用する方向は,相対速度と回転軸のベクトルによって定義

される平面に垂直である.球体が 𝛺 ⃗⃗⃗⃗

𝑠

で回転する場合,角速度ベクトル 𝛺⃗ は,流 体と球の間の相対回転速度で置き換えられる.

𝛺⃗ = 𝛺 ⃗⃗⃗⃗ − 0.5∇ × 𝑣

𝑠

⃗⃗⃗⃗

𝑓

(2.2.4) その結果,Magnus lift force は以下のようになる.

𝐹

𝑀𝑎𝑔

⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗ = 1

8 𝜋𝜌

𝑚

𝑑

3

(𝑣 ⃗⃗⃗⃗ − 𝑣

𝑓

⃗⃗⃗⃗ ) × (𝛺

𝑝

⃗⃗⃗⃗ − 0.5∇ × 𝑣

𝑠

⃗⃗⃗⃗ )

𝑓

(2.2.5)

(35)

31

Fig. 2.4 Magnus lift force

(36)

32

2.2.2 Saffman lift force, Shear gradient lift force

流路内に速度勾配が存在し,流体中を移動する球との間に速度差がある場 合,球には流れとは垂直な方向に揚力が作用する.この揚力はせん断速度によ って分類され,Fig. 2.5 のような単純せん断速度場においては Saffman lift force が,Fig. 2.6 のような放物線速度分布においては Shear gradient lift force が作用す る.

Saffman lift force

(38)

単純せん断速度場において球形粒子に作用する流体力で,レイノルズ数が小 さく対流項が無視できるストークス流れでは式(2.2.6)の揚力が作用する.

𝐹

𝑆𝑎𝑓𝑓

⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗⃗ = 1.61√𝜇𝜌

𝑓

𝑑

2

(𝑣 ⃗⃗⃗⃗ × 𝑣

𝑓

⃗⃗⃗⃗ ) × 𝜔

𝑝

⃗⃗⃗⃗

𝑟

√|𝜔 ⃗⃗⃗⃗ |

𝑟

(2.2.6)

Fig. 2.5 Saffman lift force

(37)

33

Shear gradient lift force

放物線速度の場合,流体と球の間の相対速度には非対称性が発生し,壁面側 の流速が大きくなり,圧力が低下する.これによる壁面方向へ向かう揚力が発 生する.この揚力は,壁から離れる方向に作用する Wall effect と釣り合うま で,球を壁面方向に移動させる

(39)(40)

Fig. 2.6 Shear gradient lift force

(38)

34

2.2.3 Wall effect

(41)

一般に,流体中の物体に対する壁の影響は,流れに対して平行と垂直の両方 向の物体の動きの減衰と,ならびに垂直方向の移動運動が存在する.ここで は,物体を壁面から遠ざける移動運動について記述する.

粒子径が流路径よりはるかに小さい場合,粒子は主に単一の壁の影響を受ける (Fig. 2.7).球体が壁面に向かって移動すると,速度が低下する.これは,抗力 係数の増加に相当する.壁面へ向かう,クリープ流中の球体の抗力係数に対す る一次補正は以下のようになる

(42)

𝐹

𝑊𝑎𝑙𝑙

= 3𝜋𝜇

𝑓

𝑑

𝑝

𝑣

𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙

𝑓 (2.2.6) 𝑓 = sinh𝜃

𝑤

𝑛(𝑛+1)

(2𝑛−1)(2𝑛+3)

× [

2𝑠𝑖𝑛ℎ[(2𝑛+1)𝜃𝑤+(2𝑛+1)sinh (2𝜃𝑤)]

4𝑠𝑖𝑛ℎ2[(𝑛+0.5)𝜃𝑤]−(2𝑛−1)2𝑠𝑖𝑛ℎ2(𝜃𝑤)

− 1]

∞𝑛=1

(2.2.7)

ここで, 𝜃

𝑤

は,球体中心から壁面までの距離 𝑙

𝑤

と粒子径 𝑑

𝑝

の比の関数である.

式 より,球体が壁面に近づくと作用する抗力が著しく増加することを示して いる.

また,球体が壁面に平行に速度 v

p

で静止流体中を移動している場合,壁から の揚力によって球体は式 の速度で壁から離れる(無次元距離 d

≪1,d

= ρ

𝑓

l

𝑤

v

𝑝

/μ)

(43)(44)

𝑣

𝑝,𝑤𝑎𝑙𝑙

= 3

64 𝑅𝑒

𝑠

𝑣

𝑝,𝑝𝑎𝑟𝑎

{1 − 11

32 𝑑

∗2

+ ⋯ } (2.2.8)

ここで,Res は粒子速度と粒子径によって定義されるレイノルズ数で,Res=

ρ

𝑓

𝑑v

𝑝

/𝜇である.これをさらに単純化したものが式(2.2.9)であり,これより球体 の速度は,壁面近傍において一定であることを示している.そして,これは Cherukat と McLaughlin の実験により検証された (Res = 3.0 まで )

(45)

𝑣

𝑝,𝑤𝑎𝑙𝑙

= 3

64 𝑅𝑒

𝑠

𝑣

𝑝,𝑝𝑎𝑟𝑎

(2.2.9)

(39)

35

Fig. 2.7 Wall effect

(40)

36

2.3 無線電力伝送

無線電力伝送技術とは,金属製のコネクタや電線を介さずに電力を送る技術 であり,携帯電話端末をはじめとする家電製品や産業用機器などにおいて実用 化が進んでいる.無線電力伝送には電磁誘導方式,磁界共鳴方式,マイクロ波 方式などが研究されている.現在実用化されているものの多くは送電側と給電 側が近接することで高い電力伝送効率が得られる電磁誘導方式である.一方,

無線電力伝送技術の適用分野拡大のため,電磁誘導方式よりも伝送距離が大き い磁界共鳴方式が注目されている

(46)

.本研究では,この磁界共鳴方式によるマ イクロデバイスへの電力供給を検討している.

2.3.1 磁界共鳴方式

磁界共鳴方式の説明の前段階として,電磁誘導方式について説明する.

磁界誘導方式の原理は Fig. 2.7 のように,一次コイル側に電流を流した際に 発生する磁束が二次側コイルを貫き,この磁束の変化を妨げる向きに電流が発 生するという,電磁誘導によるものである.一次側コイルで発生した磁束が二 次側コイルに伝送する率は結合係数 K で表され,電磁誘導における伝送効率は この結合係数に依存する.このため電磁誘導では一次側コイルと二次側コイル との離隔を小さくし結合係数を 1 に近づけることが求められる

(46)

一方磁界共鳴方式では,電磁誘導方式と同様に磁界を利用するが,一時側,

二次側の双方に共振回路を構成し結合係数が小さな値となっても特定の周波数

(共振周波数)において高い伝送効率を得るものである.原理として,音叉が 同じ共振周波数を有する音叉同士で発生する共振現象の性質を利用したもので あるとされている

(47)

磁界共鳴による伝送効率 η は,結合係数 K と一,二次側回路の Q 値,Q

1

Q

2

を使って以下のように表すことができる (34) .

(41)

37

𝜂 = 𝐾

2

𝑄

1

𝑄

2

(1 + √1 + 𝐾

2

𝑄

1

𝑄

2

) (2.3.1)

なお,Q 値とは共振回路における周波数特性を表すものであり,共振周波数 ω0 と半値幅(振動エネルギーP が最大値の P

0

の 50%以上になる周波数幅)Δω の比 で表現される.

Fig. 2.7 Electromagnetic induction system

一次コイル 二次コイル

I 1 I 2

(42)

38

2.3.2 磁界共鳴方式の等価回路及び理論式

(46)

磁界共鳴方式の回路図を Fig. 2.8 に示す.回路には送電側,受電側回路が直列

― 直列回路方式と直列 ― 並列回路方式が存在する.L

1

,L

2

は一,二次側コイル の自己インダクタンス,L

m

はコイル間の相互インダクタンス,C

1

,C

2

は共振 回路内のコンデンサのキャパシタンス,R

dir,1

,R

dir,2

は回路内に含まれる抵抗成 分である.また,この回路の結合係数は式(2.3.2),一次側,二次側の Q 値は直 列共振回路の場合は式(2.3.3),式(2.3.4)で,並列共振回路の場合は式(2.3.5),式 (2.3.6)で求められる.

C

1

Fig. 2.8 Magnetic field resonance circuit 直列-直列回路方式

直列-並列回路方式

C

2

L

1

L

2

C

1

C

2

𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

L

1

L

2

𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

L

m

𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

(43)

39

K = 𝐿

𝑚

√𝐿

1

𝐿

2

(2.3.2) 直列共振回路の場合

𝑄

1

= 𝜔

0

𝐿

1

𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

= 1

𝜔

0

𝐶

1

𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

= 1 𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

√ 𝐿

1

𝐶

1

(2.3.3)

𝑄

2

= 𝜔

0

𝐿

2

𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

= 1

𝜔

0

𝐶

2

𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

= 1 𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

√ 𝐿

2

𝐶

2

(2.3.4)

並列共振回路の場合

𝑄

1

= 𝜔

0

𝐿

1

𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

= 𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

𝜔

0

𝐶

1

= 𝑅

𝑑𝑖𝑟,1

√ 𝐿

1

𝐶

1

(2.3.5)

𝑄

2

= 𝜔

0

𝐿

2

𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

= 𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

𝜔

0

𝐶

2

= 𝑅

𝑑𝑖𝑟,2

√ 𝐿

2

𝐶

2

(2.3.6)

また,共振周波数は相互インダクタンス Lm の影響で 2 つ存在するが,磁界共 振方式では一次側と二次側の離隔を広くとることが多く,相互インダクタンス Lm が自己インダクタンス L1,L2 に比べ非常に小さな値となることから,式 (2.3.7)で近似値を求めることができる.

𝑓

0

= 1

2𝜋√𝐿

1

𝐶

1

= 1

2𝜋√𝐿

2

𝐶

2

(2.3.7)

(44)

40

2.4 使用記号

𝑉

0

: 交流電位の振幅[𝑉]

𝑙

𝐺𝑎𝑝

∶ 電極間距離 [𝑚]

ε ∶ 誘電率[𝐹 𝑚 ⁄ ] 𝜀

𝑟

∶ 比誘電率[−]

𝜀

0

∶ 真空の誘電率[𝐹 𝑚 ⁄ ] σ ∶ 導電率 [𝑆 𝑚 ⁄ ]

ω

𝐸

∶ 電場の周波数[Hz]

𝑉 ∶ 印加電場の電圧 [V]

𝜎

𝑞

∶ 界面電荷密度量

𝐵 : 電気二重層厚さの逆数 𝑘

𝐵

: ボルツマン定数[J/K]

𝜇: 粘度[Pa・s]

𝑚 ∶ 溶媒(添え字) 𝑐

𝑝

: 定圧比熱[J/(g・K]

𝑘 ∶ 熱導電率[W/mK]

𝑣

𝑓

: 流体速度[m/s]

𝑣

𝑝

: 粒子速度[m/s]

𝑣

𝑟

: 相対速度[m/s]

𝑙

𝑤

: 粒子(マイクロデバイス) − 壁面距離[m]

𝑑

𝑝

: 粒子 ( マイクロデバイス ) 直径 [𝑚]

𝜔: 角速度[rad/s]

𝜔

𝑟

: 相対角速度[rad/s]

L: リアクタンス[Ω]

(45)

41

C: キャパシタンス[Ω]

𝑅

𝑑𝑖𝑟

: 直流抵抗[rad/s]

(46)

42

3 章 解析手法ならびに実験方法

(47)

43

3.解析手法ならびに実験方法

本研究では,最終目標である流体力を用いた血管内遊泳マイクロ医療デバイ ス制御に向けて,境界条件や形状などを変化させたマイクロスケールでの数値 解析より,制御に必要な流体力学的条件を算出し,スケールを拡大した流体力学 的条件が相似なミリスケールにおける実験や数値解析により検証を行う.最終 目標の遊泳デバイス,マイクロスケール数値解析,ミリスケール数値解析・実験 における,流体力学的条件やサイズ,密度などの相関表を Table 3.1 に示す.一 連の数値解析・実験において,遊泳デバイスの利用を想定している直径 200μm,

平均流速 3mm/s での血管内レイノルズ数 0.5 と一致させることで,流体力学的

に相似な流れとしている.ミリスケール実験・数値解析では粘度 μ や導電率 σ,

密度𝜌

𝑓

を調整し,血管内と一致させることで検証を行う.

流体力を用いた遊泳デバイス制御に関して, 2 章で紹介した遊泳デバイスに作 用する流体力は,血管壁面方向の Saffman lift force,Shear gradient lift force,血管 中心方向の Wall effect,回転方向に依存する Magnus lift force と作用方向で分類 が可能である(Fig. 3.1).遊泳デバイスは患部や特定の組織などが存在する血管壁 面に到達するために,Saffman lift force,Shear gradient lift force などの流体力を利 用する.しかし,血管壁面近傍において Wall effect が支配的であり,遊泳デバイ スの血管壁面到達は困難である.そこで,遊泳デバイス表面の境界条件を変化さ せ,Saffman lift force,Shear gradient lift force を支配的にすることで血管壁面への 制御を検討している.

今回は,遊泳デバイス表面近傍の誘起流と回転による境界条件変化について

検討した.具体的には,これら境界条件変化を用いた遊泳デバイス制御のマイク

ロスケール数値解析による検討,検討結果を検証するためのミリスケール実験

に向けた交流電場誘起流の流動特性評価実験,無線電力伝送による交流電場誘

(48)

44

起流の誘起実験,実験結果を元にしたミリスケール数値解析による検討を行っ た.境界条件変化による流体力を用いた制御とは,表面近傍の誘起流や回転によ り周囲流れ場の速度分布や圧力分布を変化 により遊泳デバイスに作用する

Magnus lift force などの流体力を用いた制御方法である.

3.1 において,マイクロスケール数値解析の解析条件,各パラメーターの定義

を示す.3.2 では交流電場誘起流の流動特性評価実験で用いた実験・観察系,試

料,実験条件・方法の説明を行う.3.3 では,ミリスケール実験の実験系・条件

の説明,無線電力伝送の実験系・実験方法及び無線電力伝送の電力伝送能力の測

定結果を示す.

(49)

45

Table 3.1 Numerical analysis / experiment correlation table

Blood vessel center direction

Blood vessel wall direction

Saffman lift force Shear gradient lift force

Wall effect

Affected area

Fig. 3.1 Control using the fluid force of a swimming device

遊泳デバイス ミリスケール実験

流体 Re

マイクロデバイス直径:dp 20μm 5~50μm 5~20mm 10mm 流体粘度:μf [mPa・s] 1.3~1.7 1

流体導電率:σ[mS/cm]

平均流速:vf [mm/s]

マイクロデバイス密度:ρp [kg/m3]

流体密度:ρf [kg/m3] 1030

1000~1200 1000~1200 数値解析

血漿 塩化ナトリウム水溶液、グリセリン水溶液 0.5

1~200 ミリスケール マイクロスケール

5~20 0.1~13

3 0.1~0.2

1030

(50)

46

3.1 境界条件変化による流体力を用いた遊泳デバイス制御の数値解析検討 マイクロスケール数値解析の解析条件について説明する.Fig. 3.1.1 のように 血管内に遊泳デバイスが存在する場合を仮定した.流れは定常流で非圧縮性流 体であり,遊泳デバイスは回転せず,常に流れに中立浮遊する.流れ場の条件と して,血管半径 R=100µm,血管内平均流速を𝑣 ̅̅̅=3mm/s

𝑓

であり,この時の血管 レイノルズ数は Re= 𝜌

𝑓

𝑣 ̅̅̅(2𝑅)/𝜇

𝑓 𝑓

=1030×0.003×0.0002/0.0013≒0.5 である.マイ クロデバイス直径,遊泳デバイス-血管壁面距離はそれぞれ, 𝑑

𝑝

及び𝑙

𝑤

である.

遊泳デバイス密度 𝜌

𝑑

,流体密度 𝜌

𝑓

に関して, 𝜌

𝑑

= 𝜌

𝑓

とし, 𝜌

𝑓

には血漿成分の密

度 1030kg/m

3

を用いた.座標系に関しては,血管壁面上に原点をとり,流れ方向

に X 軸,血管と垂直方向に Y 軸を設置した.数値解析方法や条件について各境 界条件変化で説明する.

2R

𝑙

𝑤

𝑑

𝑝

ρ

𝑓

𝑣 ̅̅̅

𝑓

ρ

p

Fig. 3.1.1 Numerical analysis condition X

Y

(51)

47

3.1.1 表面近傍の誘起流による境界条件変化による遊泳デバイス制御

表面近傍の誘起流について,遊泳デバイスの表面極近傍領域において,表面に

沿った流動と定義する.これにより遊泳デバイス表面の境界条件は滑り速度が

存在する壁面と仮定でき,周囲の速度分布を変化させることで作用する流体力

を用いて制御を行う.表面近傍の誘起流として電磁気学的方法で流動を誘起す

る方法などが考えられる.本研究では,血管内流動が一様流速度分布,放物線速

度分布の 2 条件において数値解析・検討を行った.表面近傍の誘起流速度を𝑣

𝑆𝑓

と設定した.

(52)

48

一様流速度分布

流れ場を一様流と仮定し,流体中に存在する遊泳デバイス表面において,表面 近傍の誘起流𝑣

𝑆𝑓

が存在する場合を考える(Fig. 3.1.2).血管内レイノルズ数は 0.5 と小さいため,粘性の影響が支配的となりマイクロデバイス周囲の流れの剥離 や,渦が発生しない仮定できる.そのため,簡易的に流れ場をポテンシャル流れ と仮定した.ここでは 𝑣

𝑓

= 𝑣 ̅̅̅

𝑓

である.その場合, 2 次元円柱の角度 θ の点に作用 する圧力は

𝑃

𝜃

= 𝜌

𝑓

𝑣

𝑓2

(1 − 4𝑠𝑖𝑛𝜃

2

) (3.1.1)

となる.これが Fig. 3.1.2 のマイクロデバイスを想定した円柱に作用していると 仮定し,奥行 w(=𝑑

𝑝

)として,それぞれ片側だけ積分すると

𝐹

𝑦

= 5

3 𝑑

𝑝

𝑤𝜌

𝑓

𝑣

𝑓2

(3.1.2) 𝐹

𝑦′′

= − 5

3 𝑑

𝑝

𝑤𝜌

𝑓

(𝑣

𝑓

+ 𝑣

𝑆𝑓

)

2

(3.1.3)

となる.マイクロデバイス作用する表面流れによる流体力𝐹

𝑆𝑓

は, 𝐹

𝑆𝑓

= 𝐹

𝑦

+ 𝐹

𝑦′′

= − 5

3 𝑑

𝑝

𝑤𝜌

𝑓

(2𝑣

𝑓

𝑣

𝑆𝑓

+ 𝑣

𝑆𝑓2

) (3.1.4)

この式を用いて数値解析を行った.

(53)

49

Fig. 3.1.2 Uniform flow velocity distribution 𝑣

𝑆𝑓

𝐹

𝑦′′

𝐹

𝑦

θ

p

𝜃

Fig. 1.8 Comparison of Medical technology and body composition
Fig. 1.9 Image of swimming micro medical device in vessel
Fig. 2.2  Diagram illustrating a cross-section of the microelectrode used to    measure particle velocities
Fig. 2.6 Shear gradient lift force
+7

参照

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