4.1 表面近傍の誘起流による境界条件変化を用いたマイクロデバイス制御
4.1.1 一様流速度分布
本節では,血管内流動を一様流速度分布と仮定することで,簡易的に流体力を 用いた遊泳デバイス制御を検討した.一様流の場合,せん断速度場由来の Saffman lift forceとShear gradient lift force は作用せず,3.1で紹介した式(3.1.4)を 用いて計算された血管壁面方向の流体力𝐹𝑆𝑓と,血管中心方向へ向かう𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙のみ が作用する.流体力を用いた遊泳デバイスの血管壁面方向制御には𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の 条件が必要になる.
まず,遊泳デバイス直径𝑑𝑝(=w)と表面近傍の誘起流速𝑣𝑆𝑓の変化による𝐹𝑆𝑓操作 について数値解析を行った.これらの評価を行う上で,𝑑𝑝を血管半径 R で除し た無次元直径𝑑𝑝/Rと,𝑣𝑆𝑓を血管内平均流速𝑣̅̅̅で除した無次元誘起流速𝑣𝑓 𝑆𝑓∗ を無次 元パラメーターとして定義する.これにより,スケールに依存しない議論を行う.
𝑑𝑝/Rを変化させた場合の𝐹𝑆𝑓変化について,Fig. 4.1.1に数値解析結果を示す.式
(3.1.4)より,𝐹𝑆𝑓は𝑑𝑝と2乗の相関があることから𝑑𝑝/Rを変化させることで𝐹𝑆𝑓の
操作が可能なことが示された.次に,𝑑𝑝/R=0.1,0.2,0.4で,無次元誘起流速𝑣𝑆𝑓∗ を 変化させた場合の𝐹𝑆𝑓変化についてFig. 4.1.2に示す.𝑑𝑝と同様に, 𝐹𝑆𝑓は𝑣𝑆𝑓の2 乗の相関があり,𝑣𝑆𝑓を変化させることで𝐹𝑆𝑓=10-18~10-10N と幅広いオーダー で𝐹𝑆𝑓の誘起が可能なことが示された.これら𝑑𝑝/Rと𝑣𝑆𝑓∗ の変化による𝐹𝑆𝑓操作に ついて,𝑑𝑝/R変化では,遊泳デバイス直径は血管直径よりも小さくなるため,
𝑑𝑝/R≦2 の制限が存在する.そのため,表面近傍の誘起流𝑣𝑆𝑓の変化が有効であ ると考えられる.
次に,𝐹𝑆𝑓とは逆向きに,遊泳デバイスを血管壁面から遠ざける管中心方向に
作用するWall effect 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙について考える.ここでは,遊泳デバイス直径𝑑𝑝(=w),
遊泳デバイス-血管壁面の最短距離(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)と遊泳デバイスの血管壁面方向
速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙の変化による𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙操作について数値解析を行った.これらの評価を
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行う上で,(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)を血管半径Rで除した遊泳デバイス-血管壁面の無次元距 離(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R と,𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙を血管内平均流速𝑣̅̅̅𝑓で除した壁面方向無次元速度 𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ を無次元パラメーターとして定義する.まず,𝑑𝑝/R=0.2における, 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗
=0.001,0.01,0.1,1 での無次元距離(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R と𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の関係について Fig.
4.1.3 に示す.(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R が減少し血管壁面である 0 に接近するほど𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙は増
加し,特に,血管壁面極近傍である(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R≦0.1で顕著であることが見積も られる.これより,遊泳デバイスの血管壁面到達の制御のためには,(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R
≦0.1 での𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙よりも大きな血管壁面方向の流体力を誘起の必要性が示唆され た.また,壁面方向無次元速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ について,式(2.2.6)より,𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙と線形の関 係にあり,𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ 変化による𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙操作が考えられる.次に,𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙が顕著となる
(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R=0.01の血管壁面極近傍に遊泳デバイスが存在する場合において,
血管直径𝑑𝑝を変化させた場合について Fig. 4.1.4 に示す.グラフより𝑑𝑝/Rの 0.1 の増加で𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙は約 102のオーダーで増加しており,𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙に対して線形を示す壁 面方向無次元速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ 変化と比較して,𝑑𝑝/R変化が支配的なことが示唆され た.つまり,𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙操作の影響力として,遊泳デバイスの直径𝑑𝑝の変化>遊泳デ バイスの血管壁面方向速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙変化の関係となることが示された.以上の数値 解析結果より,遊泳デバイスの血管壁面方向制御には,遊泳デバイス表面近傍の 誘起流𝑣𝑆𝑓の変化による𝐹𝑆𝑓操作と,遊泳デバイス直径𝑑𝑝と壁面方向速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙の 変化による𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙が有効なことが数値解析より明らかとなった.
次に,遊泳デバイスの血管壁面制御の条件である𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙が成り立つ各種条 件を得るため,𝐹𝑆𝑓と𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の比較を行った.Fig. 4.1.5に𝑑𝑝/Rを変化させた場合の 𝐹𝑆𝑓と𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の比較を示す.破線は𝑣𝑆𝑓∗ =1,10,100での𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓を実線は𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001,
0.01,0.1での𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を示しており,オレンジ色の領域は𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙となる領域であ
る.𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙操作の観点から,𝑑𝑝/Rと𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ の減少により𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙が減少し,𝐹𝑆𝑓が支配
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的となる領域の増加が示唆され,𝐹𝑆𝑓操作の観点からは𝑣𝑆𝑓∗ の増加により,𝐹𝑆𝑓が支 配的となる領域の増加が示唆されており,これまでの考察と一致が確認された.
𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙となる条件として,𝑑𝑝/R<0.3,𝑣𝑆𝑓∗ ≦100が見積もられ,この条件を満 たすことで𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≦0.1 での遊泳デバイスの血管壁面の制御が可能となる.より 具体的な条件を得るため,各遊泳デバイス直径,壁面方向無次元速度における 𝐹𝑆𝑓=𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙となる𝑣𝑆𝑓∗ の数値解析結果を Fig. 4.1.6 に示す.𝑑𝑝/R≧0.3 について,
𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001でも𝑣𝑆𝑓∗ が1000以上となり,遊泳デバイスの制御には大きな𝑣𝑆𝑓が 必要となる.𝑑𝑝/R<0.3 においては,𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001 で𝑣𝑆𝑓∗ が 1000 以下となり,
𝑑𝑝/R=0.2 では𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒25~250,𝑑𝑝/R =0.1 では𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒5~54 で𝐹𝑆𝑓が支配的 となる条件を得ることが出来ることが示唆された.以上の数値解析結果より,遊 泳デバイスの血管壁面方向制御の条件𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を得るためには,遊泳デバイス 直径,表面近傍の誘起の条件として𝑑𝑝/R<0.3,𝑣𝑆𝑓∗ ≦100が示唆され,𝑑𝑝/R=0.2 では𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒25~250,𝑑𝑝/R =0.1では𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒5~54で𝐹𝑆𝑓が支配的となること が示された.
次に,流体力の条件として𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙が満たされ,遊泳デバイスが血管壁面方 向に移動する場合の制御能力について検討を行う.計算の簡略化のため,遊泳デ バイスは等速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙で血管壁面に移動すると仮定し,流体力による制御開始か ら血管壁面到達までの時間をt,血管壁面到達までに移動した主流方向距離をΔ Xとする.まず,遊泳デバイスが𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001,0.01,0.1の等速で血管壁面方向 に移動した場合のtと遊泳デバイス-血管壁面間の無次元距離(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/Rの関
係をFig. 4.1.7に示す.ここでは遊泳デバイス直径𝑑𝑝に依存しない議論となる.
遊泳デバイスの制御開始位置について,本研究ではカテーテルなどを用いるこ とで可能な限り血管壁面に近い領域で遊泳デバイスを放出する.そのため無次 元距離は,(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R≦0.5 を想定した.数値解析結果より,t は 0.02~30s と
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なり,制御開始位置(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R と血管壁面方向速度𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ よって大きく異なる ことが示唆される.ΔXも考慮に入れた検討を行うため,制御開始から血管壁面 到達までの主流方向移動距離ΔXについて数値解析した結果をFig. 4.1.8に示す.
このΔXが小さいほど特定の患部や組織を目指した制御の可能性が考えられる.
数値解析結果より (𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)≦0.1の領域では𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01ではΔX≦1mm,𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗
=0.001でもΔX≦10mmとなり,患部や組織などの上流側,あるいは疾患領域で のマイクロデバイス制御を開始して,ターゲットへ向けた制御の可能性が示唆 される.この時のt は 4s 未満であり,到達時間の観点からも制御の可能性が考 えられる.以上の数値解析結果より,遊泳デバイスが血管壁面方向に等速度で移 動する場合の制御能力について,(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)≦0.1 の血管壁面極近傍領域に遊泳 デバイスが存在する場合,制御開始から 4s,主流方向の移動距離が 10mm 未満 の制御の可能性が示唆された.
これまでの議論より,血管内流動を一様流速度分布と仮定した場合,壁面方向 へのマイクロデバイス制御のためには,表面近傍の誘起流速度𝑣𝑆𝑓操作による血 管壁面方向の流体力𝐹𝑆𝑓の増加と,壁面方向速度𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙と遊泳デバイス直径𝑑𝑝の操 作による𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の減少が重要であり,遊泳デバイスの血管壁面方向制御の条件𝐹𝑆𝑓
>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を得るためには,遊泳デバイス直径,表面近傍の誘起の条件として𝑑𝑝/R
<0.3,𝑣𝑆𝑓∗ ≦100が示唆され,𝑑𝑝/R=0.2では𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒25~250,𝑑𝑝/R =0.1では
𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙∗ ≒5~54 で𝐹𝑆𝑓が支配的となり,遊泳デバイスが血管壁面方向に等速度で
移動する場合の制御能力について,(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)≦0.1 の血管壁面極近傍領域に遊 泳デバイスが存在する場合,制御開始から 4s,主流方向の移動距離が 10mm 未 満の制御の可能性が示された.
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1.0E-18 1.0E-16 1.0E-14 1.0E-12 1.0E-10 1.0E-08
0.001 0.01 0.1 1 10
FSf[N]
vSf*[-]
dp=10μm dp=20μm dp=40μm
Fig. 4.1.2 Relationship between 𝐹𝑆𝑓 and 𝑣𝑆𝑓∗ ここに数式を入力します。
Fig. 4.1.1 Relationship between 𝐹𝑆𝑓 and 𝑑𝑝/R 1.0E-15
1.0E-14 1.0E-13 1.0E-12 1.0E-11 1.0E-10 1.0E-09 1.0E-08 1.0E-07
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
FSf[N]
dp/R [-]
vSf*=1 vSf*=0.1 vSf*=10
80
1.E-12 1.E-10 1.E-08 1.E-06 1.E-04 1.E-02 1.E+00
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
FWall[N]
dp/R[-]
vWall/u=1 vWall/u=0.1 vWall/u=0.01 vWall=0.001
1.E-13 1.E-12 1.E-11 1.E-10 1.E-09 1.E-08 1.E-07 1.E-06 1.E-05
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
FWall[N]
(lw-dp/2)/R [μm]
vWall/u=1 vWall/u=0.1 vWall/u=0.01 vWall=0.001
Fig. 4.1.4 Relationship between 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙 and 𝑑𝑝/R Fig. 4.1.3 Relationship between 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙 and (𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.1 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =1
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.1 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =1
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1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
vSf* [-]
dp/R [-]
vWall/u=0.1 vWall/u=0.01 vWall=0.001
Fig. 4.1.6 Relationship between vSf* and 𝑑𝑝/R
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.1 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001 1.E-13
1.E-11 1.E-09 1.E-07 1.E-05 1.E-03 1.E-01
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
FSaff,FWall[N]
dp/R[-]
vSf*=1 vSf*=10 vSf*=100
Fig. 4.1.5 Relationship between𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓, 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙 and 𝑑𝑝/R
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Fig. 4.1.8 Relationship between ΔX and (𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R
Fig. 4.1.7 Relationship between t and (𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R
1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
t[s]
(lw-dp/2)/R[-]
vWall/u=0.1 vWall/u=0.01 vWall=0.001
1.E-02 1.E-01 1.E+00 1.E+01 1.E+02
0 0.1 0.2 0.3
ΔX[mm]
(lw-dp/2)/R[-]
vWall/u=0.1 vWall/u=0.01 vWall=0.001
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.1 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001
𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.1 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.01 𝑣𝑊𝑎𝑙𝑙∗ =0.001
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