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血管内遊泳マイクロ医療デバイスの実現に向けて

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 136-152)

最終目標である,血管内を遊泳することで目的の臓器,組織に到達し,搭載し た薬剤や生化学物質,細胞治療技術などを用いて患部の直接的な治療を行う血 管内遊泳マイクロ医療デバイスの開発に向けて,流体力を用いた血管内制御に 注目し,遊泳デバイス表面の境界条件変化により誘起される流体力を利用した 制御方法について検討を行った.検討方法として,マイクロスケールで作用する 流体力の数値解析より,制御に必要となる遊泳デバイス直径や境界条件を明ら かとし,実スケールでの検証実験を行う必要がある.しかし,マイクロスケール での検証実験は遊泳デバイスモデルの作成の観点から容易ではない.そこで本 研究ではミリ・センチまでスケールアップした,レイノルズ数などの流体力学的 条件や遊泳デバイスと血管直径とのアスペクト比などを一致させた流路を用い た検証を検討している.本報告では,境界条件変化による流体力を利用した遊泳 デバイス制御確立に向け,制御に必要な流体力と流体力を誘起するため境界条 件の解明,境界条件変化による流体力を用いた遊泳デバイス制御の検証を行う ため,以下の事柄について検討を行った.

●境界条件変化による流体力を用いた血管内遊泳マイクロ医療デバイス制御の マイクロスケール数値解析による検討

●ミリスケール実験を用いた血管内遊泳マイクロ医療デバイス制御の検証実験 に向けた交流電場誘起流の流動特性評価

●ミリスケール実験のためのミリスケール数値解析を用いた検討

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以上の目的に対し,これまでの議論から以下の事柄が明らかとなった.

●マイクロスケールでの数値解析より,表面近傍の誘起流と回転による境界条 件変化が誘起する流体力による遊泳デバイス制御のための条件として,表面近 傍の誘起流を用いた場合,流れ場が一様流速度分布,放物線分速度分布のどちら でも,𝑑𝑝/R<0.3,𝑣𝑆𝑓 ≦100が示唆された.

●また,この時の遊泳デバイス制御開始から,血管壁面到達までの時間及び主流 方向移動距離として, (𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R≦0.1の血管壁面極近傍領域に遊泳デバイス が存在する場合,制御開始から 4s,主流方向の移動距離が 10mm 未満の制御の 可能性が示唆された.

●この数値解析結果の検証として考えているミリスケール実験に向け,交流電 場誘起流の流動特性評価実験を行い,血液の導電率域であるσ≒10mS/cm では,

誘起流は電極間領域で鉛直上向きの流動が誘起され,印加電場強度・周波数を変 化させた実験結果と理論値との比較から,ジュール熱による密度変化に起因す

るBuoyant flowが支配的であることが示された.

●この交流電場誘起流がミリスケール実験での遊泳デバイスモデル表面で誘起 された場合,およそ4~7nN の流体力が作用し,流路壁面までの到達時間t=10

~[s]の制御が示唆された.

今後は,この予測をもとにミリスケール実験を行っていく必要がある.その 上で,マイクロスケール数値解析による遊泳デバイス制御の予測とミリスケー ル実験で得られる結果の比較・検討をするために,スケールに依存しない検討 を行った.

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・無次元的議論

マイクロ,ミリ間でのスケール変化による影響として,スケールに依存する体 積力への影響が考えられる.今回の場合,遊泳デバイスに作用する流体力や重力,

抗力,浮力などが挙げられる.これらは遊泳デバイス及びミリスケールモデルの 直径 dpなどに依存しており,レイノルズ数などの流体力学的な条件を一致させ たとしても,スケール変化による相関を得ることは出来ない.そのため,無次元 的な議論が必要である.

まず,これら体積力の中でも重力,浮力,抗力に関して検討を行った.数値計 算を行う仮定として,マイクロスケールでは,遊泳デバイスは常に流れに追従し,

その密度 ρdは血管内流体である血漿の密度 1030kg/m3を想定している.そのた めマイクロスケールではこれらの力の影響は考慮する必要がない.また,ミリス ケール実験については,縦型流路内で 3 力を釣り合わせることで遊泳デバイス モデルを中立浮遊させるため,無視することが可能となる.そのため,今回は重 力,浮力,抗力のスケール変化での影響は議論しない.

次に一様流,放物線速度分布での壁面方向流体力である𝐹𝑆𝑓と𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓,及び,管 中心方向流体力𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙について議論を行う.まず,流体力の無次元化にあたり,

流体力を流体の密度ρf,血管内・流路内平均流速𝑣̅̅̅,遊泳デバイスの壁面への正𝑓 面投影面積Sを含む𝜌𝑓𝑣̅̅̅𝑓2𝑆で除した.これにより,流体の種類,流速,遊泳デバ イスの大きさに依存しない議論が可能となる.流体粘度μfに関しては,数値解 析,ミリスケール実験において,血管内レイノルズ数0.5で統一しており,粘性 の影響は同一と考えられる.流体力𝐹𝑆𝑓, 𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓, 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を無次元化した無次元力 𝐹𝑆𝑓, 𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓, 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙は以下のようになる.

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𝐹𝑆𝑓𝐹𝑆𝑓

𝜌𝑓𝑣̅̅̅̅𝑓2𝑆5

3(𝑣𝑆𝑓∗ 2+ 2𝑣𝑆𝑓 ) ミリスケール実験 (4.1a) 𝐹𝑆𝑓𝐹𝑆𝑓

𝜌𝑓𝑣̅̅̅̅𝑓2𝑆5

3𝑣𝑆𝑓∗ 2 マイクロスケール数値解析 (4.1b) 𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓

𝜌𝑓𝑣̅̅̅̅𝑓2𝑆=2.1 ((𝑑𝑅𝑝)2 − 𝑣𝑆𝑓 ) √4 (1 −𝑙𝑅𝑤) + (𝑑𝑅𝑝)−1𝑣𝑆𝑓 (4.2) 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙

𝜌𝑓𝑣̅̅̅̅𝑓2𝑆=19𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙 (𝑑𝑅𝑝)−1𝑓 (4.3) ここで,fは以下のように定義される.

𝑓 = sinh𝜃𝑤𝑛(𝑛+1)

(2𝑛−1)(2𝑛+3)× [ 2𝑠𝑖𝑛ℎ[(2𝑛+1)𝜃𝑤+(2𝑛+1)sinh (2𝜃𝑤)]

4𝑠𝑖𝑛ℎ2[(𝑛+0.5)𝜃𝑤]−(2𝑛−1)2𝑠𝑖𝑛ℎ2(𝜃𝑤)− 1]

𝑛=1 (4.3.1)

𝜃𝑤 = 𝑐𝑜𝑠ℎ−1(2𝑙𝑑𝑤

𝑝) (4.3.2)

まず,𝐹𝑆𝑓について式(4.1a) (4.1b)のようになり,両式ともに無次元誘起流速𝑣𝑆𝑓 の二次関数となることが明らかとなった.そのため,ミリスケール実験では,流 路内平均流速𝑣̅̅̅の調整や,遊泳デバイスモデルでの表面近傍の誘起流である交𝑓 流電場誘起流の調整により,マイクロスケール数値解析で得られた制御条件に 必要な流体力の検証が可能となる.また,ミリスケール実験とマイクロスケール 数値解析で式が異なる理由として,ミリスケール実験では,遊泳デバイスモデル は流路内で静止しており,周囲流体との間に相対速度が生じるため,流路壁面方 向と流路中心方向の両方向から力が作用する.一方,マイクロスケール数値解析 では,遊泳デバイスは流れに追従し,周囲流体との相対速度が発生しないため,

流路壁面方向の力のみが作用する(2𝑣𝑆𝑓 =0).式(4.1a) (4.1b)について,Fig. 4.5.1に 𝑣𝑆𝑓 を変化させた場合の𝐹𝑆𝑓を示す.両式の比較から𝑣𝑆𝑓 =10~100 では両式は近 い値を示すが,𝑣𝑆𝑓 =1~10 では差が生じることがわかる.そのため,マイクロ とミリスケールの比較を行う場合,何らかの補正や式(4.1a)の2𝑣𝑆𝑓 を無視した見 積もりをする必要性が考えられる.

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次に𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓について,式(4.2)のように表現され,無次元直径dp/R,無次元誘起 流速𝑣𝑆𝑓 ,遊泳デバイス中心から壁面までの距離lwをRで除した無次元距離lw/R の三変数の関数となることが明らかとなった.つまり,ミリスケール実験では,

𝑣𝑆𝑓 の調整だけではなく,遊泳デバイスモデルと流路径の関係,壁面からの距離 の調整が必要となる.

𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙については,式(4.3)のように表現され,無次元直径𝑑𝑝/Rと壁面方向無次

元速度𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙 の関数となる.ミリスケール実験で壁面方向速度の操作は難しいと

考えられるが,遊泳デバイスモデルの運動の観察・解析から𝑑𝑝/Rとその時の

𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙 を観察・解析することで,作用するWall effectを見積もることで議論が可

能と考えられる.

これらの無次元力を用いて,遊泳デバイスの壁面方向制御に必要な条件を算 出した.まずFig. 4.5.2に𝑑𝑝/Rを変化させた場合の𝐹𝑆𝑓と𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を示す.このとき 遊泳デバイスの位置は(𝑙𝑤-𝑑𝑝/2)/R=0.05の血管壁面近傍で固定した.破線は𝑣𝑆𝑓

=1,10,100での𝐹𝑆𝑓を実線は𝑣𝑝,𝑊𝑎𝑙𝑙 =0.001,0.01,0.1での𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙を示しており,

オレンジ色の領域は𝐹𝑆𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙となる領域である.マイクロスケールでの議論 同様,𝑑𝑝/R<0.3,𝑣𝑆𝑓 ≦100で遊泳デバイスの壁面方向の条件が満たされ,制御 が可能となる.ミリスケール実験での結果をこのグラフに当てはめることで,ス ケールに依存しない検討が可能となる.また,𝑣𝑆𝑓 =51は,交流電場誘起流の流 動特性評価実験の結果をもとに,ミリスケール実験での遊泳デバイス制御の予 測をした際に用いた値である.𝑑𝑝/R≦2.5の条件で制御の可能性が予測され,今 後のミリスケール実験で検証の必要性がある.

同様に,𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓と𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の関係を Fig. 4.5.3 に示す.こちらの場合も,𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓> 𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙となる条件として,𝑑𝑝/R<0.3,𝑣𝑆𝑓 ≦100が見積もられる.

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・ミリスケール実験での遊泳デバイスモデル制御方法

以上の議論からミリスケール実験において𝐹𝑆𝑎𝑓𝑓>𝐹𝑊𝑎𝑙𝑙の条件を満たすため には,𝑑𝑝/R及び𝑣𝑆𝑓 の制御の必要性が示唆される.これらについて,遊泳デバイ スモデルと流路径のアスペクト比や流路内平均流速の調整,表面近傍の誘起流 として利用する交流電場誘起流の制御などが制御方法として考えられる.

アスペクト比に関しては,電力伝送用のコイルやコンデンサを搭載する必要 から,小型化には限界があり,流路径の増加が検討される.また,流路内平均流 速の調整としては,粘度が低く,密度の大きな液体の使用が検討される.

交流電場誘起流の制御に関しては,σ=5~15mS/cm で支配的である Buoyant flowは,実験より液導電率,粘度,印加電場強度の変化で制御が可能であり,理 論式から液の熱導電率の変化による制御の可能性も示唆される.印加電場強度 の増加には,遊泳デバイスモデル内の受電コイルと送電コイルの距離を可能な 限り接近させることで,伝送効率の増加や電力伝送系の改良による伝送電力量 の増加が考えられる.それ以外にも,遊泳デバイスモデルに取り付けた平行平板 電極の電極間距離を接近させる方法なども検討される.

・その他の検討事項

本報告では,表面近傍の誘起流と回転が誘起する境界条件変化による流体力 での制御について検討を行ったが,それ以外にも,表面濡れ性の制御などの異な る方法を用いた境界条件制御が考えられ,これらについても検討を行う必要が ある.さらには,今回は,血管内で血球や拍動の存在を考えずに検討を行ったが,

これらの検討課題も遊泳デバイス確立のためには重要であり,相互干渉の数値 解析モデルや拍動流下での遊泳デバイスの挙動の検討も行っていく必要もある.

ドキュメント内 修 士 学 位 論 文 (ページ 136-152)

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