論文内容要旨
Identification of compound heterozygous
TSHR
mutations (R109Q and R450H) in a patient with nonclassic TSH resistance and functional characterization of the mutant receptors(非古典型 TSH 不応患者における複合へテロ接合性
TSHR
変異(R109Q と R450H)の同定と変異機能解析)Clinical Pediatric Endocrinology Vol. 27 No. 3 P.123-130 2018 年
内科系 内科学(糖尿病・代謝・内分泌内科分野)専攻(藤が丘病院)
杉澤 千穂
【背景】先天性甲状腺機能低下症のうち、TSH 受容体(
TSHR
)に変異を生じ、TSH の細胞内情報伝達機構が障害されたものが、TSH 不応である。甲状腺 におけるヨードの取り込みは TSHR からのシグナルにより制御されている ことから、TSH 不応の多くの症例では123I 摂取率(RAIU)は低下する(古 典型 TSH 不応)。一方で、TSH 不応であるにも関わらず RAIU の亢進を認め た症例が 4 症例報告されており、非古典型 TSH 不応と呼ばれる。今回我々 は、世界で 5 例目の非古典型 TSH 不応の症例を経験し、その病態を解析し た。
【症例】最終観察時 12 歳の男児。新生児マススクリーニングで TSH 高値 を指摘され、先天性甲状腺機能低下症の診断でホルモン補充療法を開始し た。11 歳時の再評価では、原発性甲状腺機能低下症で、軽度の甲状腺低形 成と RAIU の亢進を認めた。
【方法】遺伝子解析は、既報の先天性甲状腺機能低下症の責任遺伝子 11 種 を次世代シーケンサーで解析した。機能解析は、HEK293 細胞を用い、一過 性強制発現系で、ルシフェラーゼアッセイを行った。既報の
TSHR
異常症 のうち、RAIU を評価している 16 症例の病態解析を行った。【結果】遺伝子解析では、
TSHR
に 2 種の既報変異(Arg109Gln と Arg450His)を複合ヘテロ接合性に認めた。機能解析では、Arg109Gln は Gs シグナルと Gq シグナル両者の活性低下を認めた。一方 Arg450His は Gq シグナル優位 の活性低下を認めた。TSH 不応の中で、RAIU の亢進を認める症例は、Gq シ グナル優位の活性化能低下を有する変異(Arg450His または Leu653Val)
を少なくとも 1 アリル有していた。
【考察】TSH が TSHR に結合すると、細胞内情報伝達機構として、Gs シグ
ナルと Gq シグナルが活性化される。Gs シグナルはヨードの取り込み促進、
細胞増殖、サイログロブリンのヨード化に関与する。一方 Gq シグナルは ヨードの取り込みには関与しない。非古典型 TSH 不応は、Gq シグナル優 位の活性化能低下を有する変異(Arg450His または Leu653Val)を有する ことから、Gs シグナルは部分的に活性が残存している。原発性甲状腺機能 低下症による TSH 高値により、非古典型 TSH 不応では Gs シグナルが活性 化され、Gs シグナルのみに依存しているヨードの取り込みが亢進し、RAIU の上昇をきたす。Arg450His または Leu653Val を有する TSH 不応の中で、
非古典型 TSH 不応を呈するものは、TSH が比較的高値である症例群だった。
以上より、非古典型 TSH 不応の特徴は、①Gq 優位の活性化能低下を有す る変異を有する、②TSH 比較的高値の 2 条件であることが明らかとなった。