博士(医学)飽津泰史 学位論文題名
小児期発症 IgA 腎症 における尿中 IL ― 6 値と メサンギウム病変との相関に関する検討
学位論文内容の要旨
I
はじめに
IgA
腎症は、小児慢性糸球体腎炎の代表的病型のーつで、最も高頻度にみられる。
初期 の報告では 予後は良好 であるとさ れてきたが、決して予後良好ではないことが 明ら かになって きた。治療 を行うに際 しては腎病変の重症度の評価が重要であるが 非侵襲的な方法が理想的である。近年、Interleukin (IL ―6 )とメサンギウム増殖性腎 炎の 関係が明ら かとなり、 メサンギウ ム細胞の増殖の程度と尿中11‑6 活性が相関を 示す との報告が なされるよ うになって きた。しかしながら、これまでの報告は、い ずれ もbioassay 法によるも のでその測 定は煩雑であった。今回、尿中IL‑6 値をELIS
A法により測定し、小児のIgA 腎症における糸球体病変の重症度と尿中IL ―
6値との相 関にっいて検討を行った。
n
対象と方法
1)対象
゛対象は
IgA腎症患児28 例(男児15 例、女児
13例)である。特発性微小変化型ネフロー セ゛症候群患児10 例(男児7 例、女児3 例)、正常対照の小児11 例(男児6 例、女児
5例)
についても同様の測定を行った。
2
)方法
IgA
腎 症患児おぃ て臨床的分 析および各 種腎機能検 査を行い、 生検腎組織 にっい
て
WHOの組 織 分類 を 参 考に して
I群(微小 糸球体変化 群)、II 群( 巣状分節性 病変
群)お よびロ
I群(瀰漫性 糸球体腎炎 群)の
3群に分類し た。尿中IL −
6は新 鮮尿を
1000rpm、10 分 間遠心分離 した後、上 澄を‑20 .
Cで保存し、ELISA 法で測定し(最小
感 度、
4pg/ml)、尿中 クレアチニ ン比で表現した。いくっかの症例においては、ペ ア ではないが 尿検体採取 時に近い時 点の血清にっいて、同様に
ELISA法により
IL−6 の測定を行った。尿中
IL−
6値はュ常用対数
l0910(X+l )で変換し、対数正規分布に従 う ことを確認 したのち、
T検定も しくは
Welch検定により検討を行った。また、その 平均値は幾何平均を用いた。
m
結果
尿中IL −6 値の幾何平均(mean 土
S.E .)は、それぞれIgA 腎症1 .619 土0 .075 、特発性 微 小変化型ネフローゼ症候群
0.
681土0 .174 、対照群
0.506 土0 .181 であり、IgA 腎 症 において他 の二群に比 ベ有意に高 値であった
(T検定によりp<0 .001) 。また
IgA腎 症患者のメサンギウム細胞増殖度別による結果では、幾何平均(nean 土S .E .)はそれ ぞれI 群(18 例)1 .432 土0 .078 、II 群(
5例)1 .920 土0 .181 、m 群(
5例)1 .987 土0 .055 で あ っ た。
II群 お よ び
m群 では
I群に 比 べて 増 加傾 向 があ り、
I群との問に 各々統計 学 的 に有 意 差を 認 めた
(I群と
II群 間 はWelch の 検定 によ り
P<O.
1で、
I群と
m群間 は
T検定に より
P<O.
001で有意 であった)。また
II群と
m群の間では有意な差を認め な か っ た 。 血 清
IL−
6値 は 、 い ず れ も
4.
Opg/ml以 下 と 正 常 値 で あ っ た 。
臨床 症状、各種 腎機能およ び血尿の程 度は、メサンギウム細胞増殖程度および尿 中
IL―
6値と 相関はなか った。蛋白 尿の程度は メサンギウ ム細胞増殖 程度と尿中
IL‑6
値 と 相 関 傾 向 に あ っ た が 、 統 計 学 的 に は 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
IV
考案
今回の検 討では小児 の
IgA腎症 においてメ サンギウム 病変(特に メサンギウム細 胞増殖) の進行程度と尿中IL ―
6のレベルとの間には相関があることが示唆された。
今回の検 討におぃて は、組織像 は
II群に属していたが、メサンギウム細胞の著明な 分裂像が 認められた症例で、尿中IL −
6値が最も高値であった。これはメサンギウム 細胞増殖 におけるIL ー6 の役割を強く示唆する所見とも考えられた。しかしながら、
一方では 明かなメサンギウム細胞の増殖程度と尿中IL ―6 の関係が認められない症例 もあり、 メサンギウム増殖性腎炎には
IL―1 、
PDGFや
TNFなど
IL―6 以外の因子が関与 している 可能性も否 定できなか った。
小児期の
IgA腎症は メサンギウ ム細胞増殖 や増生、硬 化性病変が 軽度のものが多
いが、こ のような症 例ではメサ ンギウム増殖の開始段階にあるとも考えられ、その
意 味でもぃず れメサンギ ウム細胞におけるIL‑6 産生亢進が予想される。硬化性病変 の 比較的少な い小児期IgA 腎症の 尿中IL‑6 値は病変 の活動性を よく反映し、その測 定 は有意義で あることが 考えられる 。
ELISA
法は、
bioassay法に 比ベ感度は 低くなるが 、簡便で大 量の検体を比較的短 時 間で測定す ることがで きるという 利点を有す る。IL ・6 がメサンギウム細胞より の
autocrine factorで あるという 点からもメサンギウム細胞の増殖を主病変とする
IgA腎 症 の 疾 患 活 動 性 を 評 価 す る 方 法 と し て 、
ELISA法 に よ る 本 症患 者 の尿 中
IL・
6測定 は有用な方 法と考えら れた。
V
まとめ
小児期発症IgA 腎症患児の尿中
IL―6 値をELISA 法により測定し、以下の結論を得た。
1
)
IgA腎 症患児の尿 中
IL‑6値は微小 変化群ネフローゼ症候群患児や正常コン卜ロ
ール群に比ベ、有意に高値であった。
2
)
IgA腎 症患児をメ サンギウム 病変により分類し、尿中IL‑6 値を検討したところ
その 増殖程度と 相関を示し た。一部
II群 症例におぃ て
m群症 例より高値を示し
た原 因はIL −6 の産生がメサンギウム細胞の増殖開始時や増殖過程に活発であり
病変 が進行した
m群で は組織破壊 像や硬化像 を伴うよう になったためであり、
必ずしも病変の
stageを反映しなかったと考えられた。
3
)
ELISA法は簡便かつ非侵襲的にIL‑6 を測定することができ、IgA 腎症患児の疾患
活動性の評価に役立っものと思われた。
学 位 論 文 審査 の 要旨
学 位 論 文 題 名
小 児 期 発 症 IgA 腎 症 に お け る 尿 中 IL ― 6 値 と メ サ ン ギ ウ ム 病 変 と の 相 関 に関 する 検討
IgA腎 症 に お け るIL−6の メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 に 対 す るautocrine growth factorと し て の 役 割 を 明 ら か に す る た め に 、 小 児 期 発 症IgA腎 症 患 者28名 、 特 発 性 微 小 変 化 群 ネ フ ロ ー ゼ 症 候 群 患 者10名 及 び 正 常 コ ン ト ロ ー ル10名 を 対 象 に 、 最 近 開 発 さ れ たELISA法 を 用 い て 尿 中ILー6を 測 定 し た 。 測 定 に は 随 時 尿 を4℃ 、1000rpmで10分 間 遠 心 分 離 し 、 そ の 上 澄 を 用 い た 。IgA腎 症 患 者 をWHOに よ る 糸 球 体 疾 患 分 類 に 従 っ て 以 下 の3群 に 分 け た 。 即 ち 、 微 小 糸 球 体 変 化 群をI群 (18名 )、 巣 状 分節 性 病 変群 をII群(5名)お よび瀰 漫・陸糸 球体 腎 炎 群 をIII群 (5名 ) と し た 。 尿 中ILー6の 幾 何 平 均 値(mean土S.E.) は 、 そ れ そ れ 、IgA腎 症 患 者1.619土 0.075(I群1. 432土0.078、II群1.920土 0 .181、III群1.987土0.055) 、 ネ フロ ー ゼ 症候 群 患 者0.681土0.174、 正常 コ ン ト 口 ー ル0.506土0.181で あ っ た 。 尿 中IL―6値 は ネ フ ロ ー ゼ 症 候 群 患 者 や 正 常 コ ン ト ロ ー ル に 比 ベIgA腎 症 患 者 に お い て 有 意 に 増 加 し て お り 、 メ サ ン ギ ウ ム 病 変 の 強 か っ たII群 やHI群 で 特 に 増 加 の 傾 向 を 示 し た 。II群 の 一 部 症 例 に お い て 尿 中IL−6値 が 高 値 を 示 し た こ と は メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 増 殖 が よ り 盛 ん で あ り 、 一 方 、HI群 の 一 部 症例 で 低 値で あ っ たこ と は 、硬 化 性 病変 が 進 行 し て い る 症 例 で はIL−6産 生 能 が 低 下 し て い る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、IL―6がIgA腎 症 に お い て メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 増 殖 の た め の 成 長 因 子 と し て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と 、 又ELISAに よ る 尿 中 IL―6測 定 はIgA腎 症 患 者 に お け る メ サ ン ギ ウ ム 細 胞 増 殖 度 と 疾 患 活 動 性 を 簡 便 か つ 非 侵 襲 的 に 評 価 す る 有 用 な 方 法 で あ る こ と を 示 し て お り 、 学 位 論 文 と し て 評 価 し 得 る も の と 考 え ら れ た 。 発 表 後 、 副 査 の 吉 木 、 小 林 両 教 授 か ら そ れ ぞ れ の 専 門 領 域 か ら 各 数 問 の 質 疑 が 行 わ れ 、 更 に 後 日 個 別 的 に 審 査 が 行 わ れ た が 、 い ず れ に 関 し て も 妥 当 と す る 評 価 が 得 ら れ 合 格 と 判 定 さ れ た 。