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     博 士 ( 理 学 ) 藤 繩 学 位 論 文 題 名

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     博 士 ( 理 学 ) 藤 繩 学 位 論 文 題 名

ジアミノピレンーハロゲン置換ベンゾキノン系

電荷移動錯体の異常な導電挙動の起源に関する研究 学位論文内容の要旨

  近年、低分子量の分子集合体、あるいは単一分子を用いた分子工レクトロニクスの研究 が盛んである。このようなデパイスの提案は分子結晶を用いた、電気的、磁気的物性と結 晶構造、電子構造との関係についてのこれまでの多くの精力的な研究により蓄積されたデ ータに基づいており、本研究ではそのような分子結晶の中の電荷移動(CT)錯体という物質 群に注目した。

  CT錯体 は 構成 分子 であ る電 子供 与分子(ドナー分 子;D)から電子受容分子(アクセ プ夕分子;A)への電荷の移動によって安定化を受けた分子化合物で、電荷の移動の程度(y) はDの 電子 の与 え易 さとAの電 子の 受け取り易さの兼 ね合いで決まる。YはDの酸化電位 とAの 還元電位の差がある組み合わせの時、中性とイオン性の境界領域となり、中途半端 な値(O<yく1)を取り易いことが経験的に知られている。また、平面兀共役系分子を用いたCT 錯 体 に は同 一カ ラム 内でDとAが交 互に 積み 重 なる 交互 積層 型構 造と 、DとAが それ ぞ れ別々に積み重なる分離積層型構 造とがある。CT錯体に見られる興味深い物性である導 電性は「分離積層十中途半端なYをとる錯体」、中性ーイオン性転移(N―I転移)は「交互積層 十 中 性 と イ オ ン 性 の 境 界 領 域 に あ る 中 性 錯 体 」 を 満 た す と き に 起 こ り 易 い 。   本研究ではDとしてジアミノピレン(DAP)を、Aとしてハ口ゲン置換ベンゾキノン(CHL、 BRLお よびDBDCQ)を用いた。この組み合わせは上記のN‑I境界に位置している。DAP‑CHL は有機半導体研究の初期から研究対象として取り上げられていた。この錯体の基底状態は 中性であり、単結晶よりも粉末を加圧成型した試料の方が抵抗が低く、またその値も様々 に変わり得るという奇妙な電気物性を示したが、中性錯体が導電性を示すという不思議な 挙動が明らかにされないまま30年 前の報告を最後に研究されなくなった。そこで再びこ の 錯 体 に注 目し 、単 結晶 を用 いた 様々 な測 定 を行 い、 この 導電 性の 起源 を探 った 。   本論文は5章から構成されている。

  第2章で はDAP‑CHL錯体 の単 結晶 を用いた構造、物 性研究について述べた。両者共に 1:1の組成の二種の多形(a‑、t3‑form)が存在し、それぞれの結晶構造を決定し、中性の基底 状態であることを明らかにした。そのうちのf3‑formは異常な電気物性を示さないが、a‑form が結晶を粉砕したり、単結晶を加熱することで異常な低抵抗になることを示した。また、

同じ結晶構造のa・ fo rmでありながら、比抵抗の温度依存性においてさらに四種のタイプに 分けられることを示し、それらが示す導電性や見積もられたイオン種量などのかなりの違 い か ら 、結 晶の 均一 陸や 構造 、電 子状 態の 変 化に 試料 依存 性が ある こと を示 した 。   第3章 で はA分 子 にBRL、DBDCQを 用 い た 錯 体 に つ い て 述 べ た 。DAP‑BRL錯 体 に ニ

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種(Y‐、6‑form)、DAP‑DBDCQ錯体に五種(a‑、p‐、1‑丶か、8‑form)の多形が存在し、それぞ れの構造解析を行しゝ、全て1:1の交互積層型の構造をもつことを明らかにした。また、IR、 ESRスベ クトルからどの多形も基本的に中性の基底状態であるこ とを示した。DAP‑DBDCQ 錯体 の多 形の う ち四 種は それ ぞれ 、DAP‑CHLあるいはDAP‑BRL錯体と同形であることが 分かった。全ての多形について、比抵抗の温度依存性を測定したところ、y‑DAP‑BRL、Y‐ DAP‑DBDCQ錯体は初期状態において異常な低抵抗を示した。ESRスベクトルの測定から、

異常 な低 抵抗 を 示す結晶(a‑DAP‑CHL、y‑DAP‑BRL、y‑DAP‑DBDCQ)について、結晶全体に 対してごくわずかなイオン種による熱活性型のスピンが生じ、これが導電に関係すること が示唆された。一方、異常な低抵抗とはならない結晶でも加熱によルイオン性の欠陥が生 じ、導電性が若干向上することが分かったが、この場合は磁化率がCurie‑Weiss型の変化を 示し、イオン種は完全に局在している。このように、同形のもの同士で物性が類似してい たが、それぞれの多形ごとに考えるのではなく、異常な低抵抗を示す多形とそうでない多 形のグループに分けて考えられることが分かった。

  第4章で はDAP系錯 体の 異常 な低 抵抗 につ いて、その導電機構についての可能なモデ ルを立て、結晶作製条件や測定条件を変えて、その検証を試みた結果について述べた。DAP とCHLの組 み合 わせ がN―I境 界近 傍に 位置 し てい るこ とか ら、NーI転移を示すCT錯体 の中性相で見られる、熱励起されたイオン性ドヌイン壁の運動による伝導に注目して実験 を行ったが、この機構を支持する結果は得られなかった。逆に、低抵抗の単結晶試料全体 が均一であるとするモデルよりも局所的な低抵抗化と考える方が妥当であることが示唆さ れ、これを裏付けるように、a‑DAP‑CHL錯体について極性溶媒蒸気にさらすことで低抵抗 化することを見出した。種々の条件による測定から、この変化は結晶表面付近の不均質な 変質によることが分かった。この変質がイオン化を伴っていると考えると、結晶全体に対 する表面付近の割合はかなり小さいため、生じたイオン種が磁化率測定によってわずかに しか観測されないことも説明できた。さらに、電子顕微鏡による表面観察から、低抵抗状 態試料の表面が結晶性でない、繊維状の物質で覆われていることが分かった。高抵抗結晶 にはそのような表面の変質が見られないことから、この繊維状物質が低抵抗化の伝導を担 っていることが示唆された。っまり、この低抵抗化は結晶全体ではなく、「大部分の高抵 抗のa‑DAP‑CHL結晶」と「表面のみの微量の導電性非晶質物質」の総体として解釈するこ とが可能であった。

  また、l'‑formの異常な低抵抗は、一部のカラム構造の秩序がかなり乱れているというこ の結晶の特徴がa‑formの表面に出来る繊維状物質が非晶質であることに対応しており、恐 ら く こ の 乱 れ た 一 次 元 カ ラ ム が 導 電 性 を 担 っ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。   一方、a‐、'{‑form以外の結晶に対しても同様に極性溶媒蒸気にさらして抵抗変化を調べ てみたが、他のformでは低抵抗化は 観察されなかった。これはQーformが結晶成長の初期 にのみ発生する準安定構造であることに関係していると考えられる。実際、a‑form中での D(HOMO)とA(LUMO)の間 の重 なり 積分 は他 のformに 比べ 一 桁小 さく 、CT相互 作用 以外 の水素結合、C1…CI接触といった因子が優勢に作用した構造で、そのため結晶表面分子は 容易に再組織化を起こすことが可能であると考えられる。

  第5章で は総 括お よび 結論 とし て本 研究 のまとめと、DAP系錯体の低抵抗化の起源に ついて述べた。

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学位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 教授

副 査   助 教 授

稲 辺   魚 崎浩 平 中 村貴 義

( 大学 院地球 環境研究科(電子科学研究所))

内 藤俊 雄

学 位 論 文 題 名

   ジ ア ミ ノ ピ レ ン ― ハ ロ ゲ ン 置 換 ベ ン ゾキ ノン 系 電荷 移動 錯体の異常な導電挙動の起源に関する研究

  兀 共 役 系 の 電 子 供 与 体 と 電 子 受 容 体 で 構 成 さ れ る 電 荷 移 動 錯 体 結 晶 の う ち 導 電 性 を 示 す も の は 、 構 成 分 子 間 で 電 荷 移 動 が 起 こ り 、 開 殻 構 造 で あ る ラ ジ カ ル 成 分 が か な り の 割 合 で 存 在 す る 場 合 に 限 ら れ て い る 。表 題の1,6−diaminopyrene (DAP)を 電 子 供 与 体 と し 、p−chloranil (CHL)を 電 子 受容 体と する1:1の電 荷移 動 錯 体 は 例 外 と し て 知 ら れ て お り 、 構 成 分 子 が 中 性 状 態 に あ る に も 関 わ ら ず 、 高 伝 導 性 を 示 す こ と が1960年 代 に 報 告 さ れ た 。 し か し 、 こ の 特 異 な 性 質 が ど の よ う な 機 構 で 生 じ て い る の か 、 と い う 点 に つ い て は 全 く 解 明 さ れ な い ま ま で あ っ た 。 申 請 者 は 関 連 す る 一 連 の 電 荷 移 動 錯 体 の 単 結 晶 を 作 成 し 、 構 造 、 電 子 状 態 、 物 性 を 詳 細 に 調 ベ 、 異 常 な 導 電 挙 動 の 起 源 を 探 る 研 究 を 行 っ た 。   申請者はまず、DAPとCHL,pーbromanil '(BRL),2,5―dibromoー3,6ーdichrolo‑p― benzoquinone (DBDCQ)の 錯体 結晶 成長 を 行い 、多 種の 多形 の存 在を 明ら かに した 。 全 て 組 成 は1:1で 、DAP―CHLで2種(a,p) 、 DAP―BRLで2種 (Y,6) 、 DAP‑DBDCQで5種 (Q,p,Y,6, £ ) の 多 形 に つ い てX線 構 造 解 析 を 行 い 、 全 て 交 互 積 層 型 の 構 造 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 ま た 、 ど の 多 形 も 構 成 分 子 が 中 性 状 態 に あ る こ と を 、 分 子 の 結 合 長 の デ ー 夕 、IRお よ びESRデ ー タ か ら 明 ら か に し て い る 。 こ の う ち 、 異 常 な 導 電 挙 動 を 示 す の はQ―formで あ り 、 次 い で こ のformについて詳細な 物性測定を行っている。

  Q ‑form単 結 晶 の 初 期 状 態 の 比 抵 抗 は 約l08Q CIIIと 非 常 に 高 く 、 中 性 ・ 交 互 積 層 型 構 造 の 電 荷 移 動 錯 体 と し て 矛 盾 の な い 値 で あ る 。 こ の 値 は1960年 代 の 報 告

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と異なっているが、当時の測定が粉末の加圧成型ペレットのものであり、同様 に結晶を粉砕しぺレットにすることで低抵抗化が起こることを確認している。

申請者は新たに、この結晶を加熱すると突然100Q cm 程度まで抵抗が落下する

現象を見いだしている。また、単結晶試料をアセトン、アセトニトリルのよう

な極性有機溶媒蒸気雰囲気下に置くことでも低抵抗化が同様に起こることを見

いだしている。両者ともに伝導度の変化は不可逆で、単結晶状態で低抵抗化し

た試料についてX 線構造解析を行うと、初期状態と全く変わっていないことが

明らかになり、中性・交互積層型の電荷移動錯体結晶が高い導電性を示す、と

いう現象を単結晶で再現することに成功した。申請者はそこで、単結晶での抵

抗変化の前後でIR を調ベ、幅広い電子吸収が新たに現れるが、振動ピークの位

置の変化は認められず構成分子が中性のままであることを確認した。次いでESR

を測定し、低抵抗化に伴い常磁性成分が若干増加することを見いだした。しか

し、この割合は数%であり、結晶全体に対して僅かな寄与しかないため、低抵

抗化が結晶全体で起こっているのではなく、一部が伝導経路を形成するように

変 化 し て い る た め と 考 え 、 特 に 結 晶 表 面 に 注 目 し て 実 験 を 行 っ た 。

   単結晶試料は試料全体に対して表面の割合が小さいため、表面の割合が大き

な試料として微結晶フィルムを作成し、X 線回折、IR を調ベ、初期状態に比べ

試料全体の 90 %程度が構造、電子状態ともに低抵抗化に伴って大きく変化し

ていることを明らかにした。また、単結晶試料表面の部分的な低抵抗化の観測

や、表面を削ることで高抵抗に戻ることから、結晶の表面のみが低抵抗化に関

わっていることを明らかにした。次いで走査電子顕微鏡で表面観察を行い、低

抵抗化試料表面が初期状態とは明らかに異なり、細い繊維状物質に覆われてい

ることを見いだした。Q ・form は他のform と比べ電荷移動相互作用に不利な準安

定構造となっており、加熱、極性溶媒蒸気、粉砕といった外部刺激によって簡

単に表面構造が変わりうる。また、DAP ―CHL は基底状態が中性とイオン性の境

界領域にある錯体を与える組合せであることから、表面構造変化に伴い容易に

イオン化した成分が生じ低抵抗化が起きると考えられる。伝導経路を形成して

いる実体についてはまだ不明であるが、a ーDAP ーCHL が特異的に示す異常な導電

挙 動 の 起 源 が 結 晶 表 面 に 存 在 す る 事 が こ の 研 究 で 明 ら か に な っ た 。

   以上申請者は、永年の謎であったDAP‑CHL 錯体の異常な導電挙動の起源につ

いて、単結晶試料を用いた研究で明らかにしている。また、本論文の内容の一

部は既に国際的に権威ある学術雑誌に掲載され、高い評価を受けている。よっ

て審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるに十分な資格を有するも

のと認める。

参照

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