博士(理学)佐藤克明 学位論文題名
マウ ス実 験モ デル にお ける 合成 リ ピド A 誘導体による 癌 転移 および敗血症の抑制とその作用機 序に関する研究
学位論文内容の要旨
グラム陰性桿菌細胞壁由来のりポ多糖(LPS;Lipopolysaccharide)は内毒素 (endotoxin)として知られ、その生物活性中心がりピドAであることが報告されて いる。リピドAは、内毒素活性の他に、感染抵抗性の増強や抗腫瘍効果などの免 疫賦活作用を有することから、癌や細菌およびウイルス感染症への臨床応用を目 的として、免疫賦活作用を有しかつ低内毒素性のりピドA誘導体の開発が進めら れている。一方、細菌感染症による死因に敗血症が関係し、敗血症はLPSに起因 することが知られている。近年、敗血症治療薬の開発を目的として、リピドA関 連化合物のなかから内毒素活性が低く、LPSのアンタゴニストとして有効な化合 物の探索が行われている。本研究では、マウス実験モデルにおいて低内毒素性合 成リピドA誘導体DT‑5461の腫瘍に対する抗転移効果と敗血症に対する防御効果 を 明 ら か に す る と と も に 、 そ れ ら の 作 用 機 構 に つ い て 検 討 し た 。
1.マウス悪性Tリンパ腫であるL5178Y―ML25細胞を用いた肝転移実験モデルお よびマウス悪性黒色腫であるB16‑BL6細胞の肺転移実験モデルにおいて、
DT‑5461は転移抑制効果を有することが明らかとなった。また、悪性Tリン パ腫および悪性黒色腫の担癌マウスに対してDT‑5461の投与は未処理群と比 較して著明な延命効果を示した。以上の結果から、癌転移抑制剤としての DT−5461の有効性が示唆された。
2.マウス腹腔マクロファージおよびヒト末梢血単球においてDT‑5461はLPSあ るいは合成リピドAと比較してIL−1とTNF‑a誘導能および腫瘍細胞傷害活性 能が著しく減弱していたが、脾細胞のNK活性能についてはDT‑5461はLPSと ほぼ同等の増強効果を有することが明らかとなった。また、正常マウスにお いて、DT―5461の単独投与は血清中におけるIL―1あるいはTNF‑aの誘導能が 低いことが示された。一方、担癌マウスにおけるDT―5461の頻回投与は血清 中 では 顕著なTNF‑aの産生を誘導しなかったが、腫瘍組織中では著しい TNF‑ocの産生を誘導した。以上の結果から、DT―5461の腫瘍に対する抗転移 効果の作用機序は宿主の免疫機構の活性化に基づくことが示唆された。
マウスにおいて、DT‑5461は腫瘍誘導性血管新生と腫瘍細胞の増殖に対し阻 害効果を示し、その作用機序として腫瘍組織内で誘導されたTNF‑aによる血 管内皮細胞への増殖抑制効果に基づくことが示唆された。これらの結果から、
DT‑5461の癌転移抑制効果の作用機序のーっとして癌転移形成過程における 腫瘍誘導性血管新生の阻害が示唆された。
マウスTリンパ腫肝転移実験モデルにおいて、LPSの連日頻回投与はLPSの有 する転移抑制効果に対してりピドAに特異的な寛容状態(LPSトレランス)を誘 導することが示された。LPSトレランスが誘導されたマウスでは正常マウス と比較 して、LPS誘導性のTNF‑ocの産生およびマクロファージとNK細胞の 腫瘍細胞傷害活性の低下が認められたが、TGF‑pの産生の増強が観察された。
LPSトレ ラ ンス 誘導マウスに おけるNK細胞の腫 瘍細胞傷害活 性の低下は TGF‑pの有するNK活 性抑制効果に基づくことが示唆された。また、マクロ ファー ジのLPSに対する反応性の低下はLPS受容体のLPS結合能と発現の低 下では なく、LPSによるMAPKカスケードの活性化などの細胞内シグナル伝 達の阻害が示唆された。以上の結果より、LPSはその癌転移抑制効果に対し てトレランスを誘導し、トレランス誘導機構におuゝてマクロファージおよび NK細 胞 の 機 能 低 下 が 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 DT−5461はマウス腹腔マクロファージおよぴヒト末梢血単球において、リピ ドA特異的にLPS誘導性のIL―1およびTNF‑aの産生を抑制した。また、マウ ス 実 験 的 敗 血 症モ デル に おい て 、DT−5461はLPS誘 導 性のIL‑1およ び TNFーaの産生を抑制し、さらに、これらのマウスに対し延命効果を示した。
これらの結果から、マウスにおいて、DT―5461は単球/マクロフアージの LPS誘導性のサイトカインの産生に対するLPSアンタゴニストとして作用し、
敗血症治療薬としての可能性が示唆された。
ヒト末梢血単球のIL‑1およびTNF‑ot,の産生におけるDTー5461のLPSアンタゴ ニズムはmRNAの発現の阻害に基づくことが明らかとなった。DT−5461によ る.LPSアンタゴニズムの機序として、LPSのLPS受容体への結合に対する競 合結合 阻害とLPSによるMAPKカスケードの活性化などの細胞内シグナル伝 達の阻害が示唆された。
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学 位論文審査の要旨 主 査 教 授 東 市 郎 副 査 教 授 谷 口 和 彌 副 査 教 授 菊池九二三 副 査 講 師 劉 永 春
学 位 論 文 題 名
マ ウ ス 実 験 モ デ ル に お け る 合 成 リ ピ ド A 誘 導 体 に よ る 癌 転移およ び敗血症 の抑制 とその作 用機序に関する研究
グラム陰性桿菌細胞壁由 来のりポ多糖(LPS; Lipopolysaccharide)は内毒素(endotoxin)として 知 られ 、そ の生 物活 性中 心が りピ ドAで ある こと が報告されている。リピドAは、内毒素活性の 他 に、 感染 抵抗 性の 増強 や抗 脯瘍 効果 など の免 疫賦活作用を有す ることから、癌や細菌およぴ ウイJレス感染症への臨床応用を日的として、免疫賦活 作用を有しかつ低内毒素性のりピドA誘導 体 の合 成が なさ れて きた。ー‐方、細 菌感染症による死因に敗血症が関係し、敗血症はLPSに起 因 する こと が知 られ ている。近年、敗 血症治療薬の開発を目的として、リピドA関連化合物のな か から 内毒 素活 性が 低く、LPSのアンタゴニストとして有効な化合 物の探索が行なわれている。
本 論文 では 、マ ウス 実験 モデ ルに おい て低 内毒 素性合成リピドA誘導体DT‑5461の腫瘍に対する 抗 転移 効果 と敗 血症 に対 する 防御 効果 なら ぴに その作用機構につ いて検討し、以下の結果を示 した。
1) マ ウ ス 悪性Tリン バ腫L517 8Y‑ML25細胞 の肝 転移 実験 モデ ル およ ぴマ ウス 悪性 黒色 腫B16‑
BL6細 胞の 肺転 移実 験モ デルにおいて、DT‑546‖よ転移抑制効果を 有することが明らかとなり、
悪 性Tリン バ腫 およ び悪 性 黒色 腫の 担痛 マウ スに 対してDT‑5461の 投与は未処理群と比較して著 明な延命効果を示した。ま た、その作用機序としてはマクロファージおよぴnatural killer (NK) 一 .
細胞の腫瘍細胞傷害活性に 対する増強効果、腫瘍組織中でのtumor necroslsfacto卜伐(TNF‐伍)
の 誘導 効果 、腫 瘍組 織内で誘導されたTNF‐伐による血管内皮細胞 への増殖抑制に基づく腫瘍誘 導性血管新生の阻害による ことが示唆された。 .
2)マ ウスTリン パ臓 肝転 移実 験モ デル にお いて 、LPSの連口頻同投与はLPSの有する転移抑制効 果 に対 して りピ ドA特異 的に寛容状態(LPSトレランス)を誘導することが示された。LPSトレラ ン スが 誘導 され たマ ウス では 正常 マウ スと 比較 して 、LPS誘導 性のTNF‐aの 産生能およびマク 口 ファ ージ とNK細胞 の癌 細胞 傷害 活性 の低 下が 認め ら れた が、transrorminggrowthfactor‐p
(TGF・p)の産{ト能の増 強が観察された。LPSトレラ ンス誘導マウスにおけるNK細胞の癌細胞傷 害活性の低下はTGF‐pの有 するNK活ゼト抑制効果に幕づくことが示唆された。また 、マクロファ
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ージのLPSに対する反応rf:の低下はLPS受容体のLPS轟`合能と発現の低.F.ではなく、LPS誘導性 の 細胞 質内 蛋rl質チ ロシ ン リン 酸化 など の細 胞内 シグ ナル 伝達 機構の抑制に艤づくことが示唆 さ れた 。以 ,f:の 結果より、LPSはその癌転移 抑制効果に対してトレランスを誘導し、トレラン ス 誘導 機構 にお ぃて マク 口 ファ ージ およびNK細胞の機能低.Fがm嬰な役割 をj!っていることが 示唆された。
3) DT‑5461はマウス腹腔マク口ファージ およびヒト末梢JflLj矼球に おいて、リピドA特異.的に
,LPS誘導性のinterleukin‑l (IL‑1)およびTNF‑aの産ゴにを抑制した。また、マウス実験的敗血症 モ デル にお いてDT‑5461はLPS誘 導性 の11‑1・ およ びTNF‑aの 産生 を抑 制し 、さ らに 、こ れらの マ ウス に対 し延 命効 果を 示 した 。IL‑1お よびTNF‑aの 産 生に おけ るDT‑5461のLPSア ンタ ゴニ`
ズ ム は そ のmRNAの 発 現 の 憫t害 に 然 づ き 、 そ の 機 序 と して 、LPSのLPS受 容体 へ の結 合に 対す る 競 合 結 合 阻 害 と LPS誘 導 性 の 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 の 阻 害 が 示 唆 さ れ た 。 この よう に申 請者 は、 合 成リ ピドA誘 導体DT‑5461の 腫瘍 転移 抑制効果および敗血症抑制効果 と その 作用 機構 を免 疫学 的 に明 らか にし 、臓 瘍お よぴ 敗血 症へ の治療法を確立するうえでの基 礎的研究に対 し貢献するところ大なるものがある。
よ っ て 、 申 請 者 は 、 北 海 道大 学博 士( 理学 )の 学他 を授 与さ れる 資格 ある も のと 認め た。
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