博士(理学)須藤修二 学位論文題名
Magnetic Properties and Metal‑Insulator Transition in NiS2 ̲ xSe r System
(NiS2 ーイSe エ系の磁性と金属・絶縁体転移)
学 位論 文内容の要旨
1. 序論
バ ン ド理 論的 には 金 属に なる こと が期 待 され る化 合物 の中 に は絶縁体にな っている もの が あり 、そ れら はMott絶縁 体と 呼ば れている 。tdott絶縁体は強い電子相 関(原子 内ク ー ロン エネ ルギー )のために、バンド内にギ ャップが生じたものであり、 パンド幅 が広 が ると 、金 属― 絶 縁体 転移 (MI転移 ) を起 こす 。こ れま で 、理論的にも 実験的に も 盛 ん に 研 究 さ れ た が 、 す っ き り した 解釈 が 得ら れて いな い 。こ れは 、MI転移 を 起 こす 物 質が (一 種を 除 いて )MI転移 の際 に 結晶 構造 の変 化を 伴 うため、理論 的解釈が 困 難 な た め で あ る 。N1S2一xSex系 は全 組成 で バイ ライ ト構 造 であ り、MI転 移の 際 に 結晶 構 造が 変化 しな い 唯一 の物 質で ある 。 この ため 、実 験結 果 と理諭とを比 較しやす くな っ てい る。3d電 子 は二 重縮 退のe・ パンドに 電子が二個はいったhalf―filledの系 で あ る 。NISzはklott絶 縁 体で 、絶 対零 度で はSをSeで 置換 する とx=0.5でMI転移 が 起 こ る 。SをSeで 置換 する こ とはe.バ ンド 幅の 増 加に 対応 する と 考え れて いる 。NISzは 30K以 下 で は 弱 強 磁 性 (WF) 、fcc反 強 磁 性I型 (AFI) 、fcc反 強 磁 性u型 (AFH) の 三 っ の 磁 気 秩 序 が 共 存 し た ス ピ ン構 造に な って いる(Ni原子 がfcc格 子を 組ん で い る ) 。 こ の ス ピ ン 構 造 は 他 の 系 で は 報 告 さ れ て い な い 。WF、AFI、AFnの 三 つ の磁 気 秩序 の共 存は ハ イゼ ンベ ルク 型交 換 相互 作用 だけ では 説 明できない。 三っの磁 気 秩 序 の 共 存 に 対 し て は 、4ス ピ ン交 換相 互作 用を 取 り入 れた 理論 が有 望 であ る。4 ス ピ ン 交 換 相 互 作 用 理 論 で は 、WF発 生 の た め に はAFIとAFnの 共 存 が 必 要 条 件 とな る ので 、こ の条 件 が満 たさ れて いる か どう かを 確か める こ とは重要であ る。実験 的 に は 、WF相 の 範 囲 が 確 立 し て お ら ず 、AFIIに っ い て はNiSz以 外 の 組 成 で は 研 究 さ れ て い な い 。 ま た 、x=0.5付 近 の組 成で は 温度 変化 によ り 反強 磁性 相内 でMI転 移
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が 起 こ る 可 能 性 が あ る が 、 同 一 試 料 に っ い て確 かめ られ てい な い。 反強 磁性 相内 の MI転 移 は 他 の 系 で は 報 告 さ れ て お ら ず 、MI転 移 の 磁 性 へ の 影 響 が 注 目 さ れ る 。 以 上 の こ と か ら 、 本 研 究 の 目 的 は @4ス ピ ン 交 換 作 用 理 論 の 検 証 の た めWFと AF IIの 相 図 を 確 立 す る 、 @ 反 強 磁 性 相 に お け るMI転 移 を 確 立 す る 、 ◎MI転 移 の 帯 磁 率 と 磁 気 モ ー メ ン ト ヘ の 影 響 を 調 べ る 、@MI転 移温 度前 後 の比 熱の 振る 舞い を 調 べる、とした。
2.試料作製と実験方法
1) 試 料 作 製 : 焼 結 法 で 作 製 し た 多 結 晶 を測 定に 用い た 。試 料は 真空 封 入し た後700
℃ で 一 週 間 焼 結 し た 。 均 一 性 を 良 く す る た め、 焼結 は2回行 った 。全 て の試 料のX線 回 折 で パ イ ラ イ ト 構 造 の 反 射 だ け が 観 測 さ れ た 。 組 成xは 格 子 定 数 か ら 求 め た 。 2) 磁 気 測 定 : 磁 化 と 帯 磁 率 の 測 定 に は 磁気 天秤 を用 い た( 最大 磁場16k0)。WFの 磁 区 を そろ える ため 、T。以 上から16kOeで磁場中冷却し、その後に 磁化測定を行なった。
3)電 気抵 抗 :直 流四 端子 法で 測 定し た。4. )比 熱測 定: ヒ ート パル ス法 を用いた。
5) 中 性 子 回 折 実 験: 日本 原 子カ 研究 所の 原 子炉 に設 置さ れた 東 大物 性研 の装 置を 用 い た 。AFIの 磁気 反射 (002) 、AFIIの 磁 気反 射(111)と 核反 射(222)を 観察した。
こ こ で 指 数 はmagnetic cellで表 した 。磁 気 モー メン トの 算出 に 当た って は、NISzと 同 じスピン構造を仮定した。
3.実験結果と考察
【 弱強磁性(WF)と反強磁性u型(AFn)】
4.2Kで のWFの 自 発 磁 化 はSe置 換 に よ り 減 少 し 、x=0.3で 消 失 し た 。WFは 絶 縁 体 相 の組成x−―0.3で消えており、MI転移の組成O.5に届いていな い事が明らかである。
x O.1でAF IIの磁 気反 射(111)の ピ― ク 高さ の温 度変 化か らAFnの ネ ール 温度TN2 を 求 め 、TNZがWFの キ ュ リ ― 温 度 に 一 致 す る こ と が 分 か っ た 。xの 増 加 と 共 に 、 AF IIの 磁 気 モ ー メ ン 卜 は 減 少 し 、x=0.3で 消 失 し た 。 こ れ はWFの 臨 界 組 成 と 一 致 す る 。AFIの 磁 気 反 射 (002) は 低 温 で 全 て の 試 料 で 観 察 さ れ た 。 即 ち 、WF相 に お い て はAFIとHが 共 存 し て お り 、4ス ピ ン 交 換 相 互 作 用 理 論 の 必 要 条 件 が 満 た さ れ て い る 。 ま た 、WF、AFIとAFnの 磁 気 モ ー メ ン ト の 組 成 依 存 性 を 比 較 し た 結 果 、 4スピン交換相互作用理論の関係式(M。(x) oc皿1(x)Xロ2(X) )をほぼ満足した。以上 の 結 果 は 、 こ の 系 に お け るWFが4ス ピ ン 交 換 相 互 作 用 に よ っ て 生 じ てい るこ とを 支
持する。
【金属・絶縁体(MI)転移】、
x二ニ0.52の、電気抵抗は38. 1KからO,1K上がるだけで二桁以上増大し、シャ―プな MI転移 を示した 。帯磁 率XもMI転移温度 で、不 連続に変 化する 。このような帯磁 率の不連続な変化はこの系ではまだ報告されていない。このような電気抵抗及び帯磁 率の変化は、この試料のMI転移が一次転移である事を示唆している。x 0.55の、電 気 抵抗 の 温 度 変化 から得ら れたMI転 移温度Tlは67Kで あった。 ー方、AFIの磁 気 反射(002)のピ―ク高さI。ozの温度変化から求めたネ―ル温度TNIは85Kであり、TLは TN,より明らかに低い。即ち、MI転移は反強磁性相の中で起こっている。I。。2は温 度上 昇に伴い 単調に減少しており、MI転移温度で異常はない。I。。2はAFIの磁気 モー メントの 大きさに 対応し 、AFIの 磁気モ ―メント の大き さがMI転移温度で異 常を 示さない ことを意味している。xが増加すると、AFIの磁気モーメント皿Iは単 調に 減少し、Ml転移組成x=0.5で異常を示さない。この組成依存性は環境効果とし て理解される。電気抵抗とモル帯磁率の組成依存性は低温では組成x O.5で不連続な 変化を、高温ではkinkを示した。組成変化のMI転移点においても帯磁率に異常があ る事が分かった。帯磁率はスピンの揺らぎを反映する事から、eヨ電子が局在化すると 即ち電気抵抗が大きくなると、スピンの揺らぎが大きくなるものと思われる。一方、
磁気モーメントがMI転移点で変化しないのは、スピンの平衡量でスピンの揺らぎと は関係ないためと考えられる。x=0. 52の低温の(反強磁性金属相の)比熱の実験値は 丁T+ロT°十6T InTで近似できる。反強磁性金属相での比熱の温度依存性に、T°InTの 項が見出されたことは初めてであり、注目される。電子比熱係数37mj/K゜moleはNISe2 での値の約4倍と大きくなっており、強い電子相関によってenhanceされていると考 えら れる。以 上のよう に、こ の系では 反強磁性相内でMI転移が起きており、MI転 移に おいてXには不 連続な 変化があ るのに 対して、ロ1には異常がないこと、MI転 移 よ り 低 温 の 比 熱 にT3l riTの 項 が 現 わ れ る こ と 等 が 明 ら か に な っ た 。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 宮 台 朝 副 査 教授 三 本 木 副査 助教授 大川房 副査 助教授 田附雄
学 位 論 文 題 名
Magnetic Properties and Metal‑Insulator Transition 1n NiS2−xSex SyStem.
(NiS2―xSex系 の 磁 性 と金 属・ 絶縁 体転 移)
Ni0などのように、パンド理諭的には金属になるこ とが期待される化合物群の 中には、絶縁体になるものが多数あり、それらはMott―Hubbard型絶縁体とよばれて いる。さらに、Mott−Hubbard型絶縁体の中には、温度を変えるとき、あるいは組成を 変えるときに金属―絶縁体転移を起こすものがある。これらの物性は、原子内クーロン エネルギ一(U)と電子の聽び移り積分(t)との比(t/U)に依存す るものと考 えられている。
NiS2―xSex系はこのような物質群のーっであり、全組成領域で同 じ(パイラ イト)構造をもち、 xを増すと、tが増すので、t/Uの 変化に伴う物性の変化を調 べ るた めに 好都 合な 系で ある 。x=0では 絶縁 体相 で、 弱強磁性(WF) ・反強磁性 1型 (AF1) .2型 (AF2) の3種 の 磁 気 構 造 の 共 存 す る 複 雑 な磁 性を 示す が、
この磁性はt/Uの高次の効 果である4―スピン相互作用を考えて説明されている。x を増して行くと(低温では)x−ー0.5で金属相に転移する。また、 x〜O.5付近で は、温度上昇に伴い低温の 金属相から高温の絶縁体相へある転移温度Ttで1次的な 金属‐絶縁体転移を起こすが、Ttにおいて構造変化を伴わないことがが知られている ので、金属‐絶縁体転移の研究に都合がよい。
申 請者 の研 究は 、こ のNiS2‑xSex系をニっの面から実験的に調ペ 、その結果 について電子相関の立場か ら考察を行ったもので、論文は2部に分かれている。第1 部では、磁性の変化が4スピン相互作用理論で理解できるかどうかを確かめるために 磁気測定と中性子回折測定を行い、 この理論が支持されること及びSe置換によるラ ンダムネスが大きい効果を 示すことを指摘した。第2部ではx〜O.5付近における金
直 孝 義 一
折、比熱、などの測定を行い、いくっかの特徴的な振舞いを見出した。得られた結果 の主なものは下記のように要約できる。
第1部: WFのTeと自発磁化(U。)は、 xの 増加とともに急減して xcwF= O.3で消失する。このX cu′は金属相との境界xcH【:O.5より小さいことを明らか にし た。WFの 出現 組成 領域 とAFI型、H型の 反強 磁性 秩序 の共 存する領域が完全 に一致すること、 さらに、WFの自発磁化(Ho)とAFI型、 II型の磁気モーメント
(u1、 u2)の間に、 4―スピン相互作用理論から予想される関係がほぼ成立すること を確かめ、 この理諭が支持されることを示した。また、NiS2に圧カを加えた場合に はTcは 上 昇 す る こ と を 考 慮 す る と 、NiS2―xSe 系 に お け るWFのTcのx依 存 性はU/七の変化 のみでは説明できないことを明らかにした。申請者は、Se置換に よ る randomnessの 導 入 が t/Uと 逆 の 効 果 を も っ と 推 論 し て い る 。 第2部:同一試料についての電気抵抗・帯磁率・中性子回折の測定から、温度を 変化させたときの金属―絶縁体転移は反強磁性相内で起こることを明らかにした。金属
―絶縁体転移において、AFI型のモーメン卜H1は期待に反して異常を示さず連続的 に変化すること、ー方、帯磁率は不連続的変化をしめすことを見出だした。xを変化 させた場合の金属一絶縁体転移においても同様な振舞いを見出した。申請者は、帯磁率 はスピンのゆらぎに、u1はスピンの熱平均値に対応するためであろうと推論している。
また、u1は、 xがOから増すにともない単調に減少しているが、環境効果として理 解できることを示した。
また、比熱の測定から、金属―絶縁体転移におけるェントロピー変化は約l J /K mol であること、転移温度Tt以下の比熱には、電子比熱と格子比熱の他にT3lriTの項が 現れることを見出したが、後者は反強磁性金属においての初めての知見である。これ ら の 結 果 に つ い て の 解 釈 は 、 今 後 の 理 論 に ま た な け れ ば な ら な ぃ 。 その他に, NiをCo, Cu, Co十Cu で置換した効果も調べたが、 それらの結 果は、一様な系における電子数の変化の効果のみでは理解できないことを示唆するも のであった。
以上のように、申請者の研究は、NiS2´Sex系の磁性と金属‐絶縁体転移の振 舞いを実験的に謂べ、絶縁体相の磁性については現存の理論によって半定量的に理解 できることを示し,金属―絶縁体転移については将来の理論のための指針となり得るデ ータを提供したもので、強い電子f9関をもつ系の研究に大きな貢献をなすものと言え る。
参考諭文5編は何れも本研究に関連するものである。学力試験は一般物理学と英 語について行われ何れも合格と半lJ定された。
よって、審査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受ける資格があるものと認 めた。
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