博 士 ( 薬 学 ) 木 下 淳
学 位 論 文 題 名
ル テ ニウ ム 触 媒 を用 い た エ ニン メ タ セ シス の 有 機 合 成 へ の 利 用
― ( − )‑Stemoamideの 合 成 及 び 新 規 ジ エ ン 合 成 法 の 開 発 ―
学 位 論 文 内 容の 要 旨
はじめに
有 機 合 成 化 学 に お い て 炭 素 ― 炭 素 結 合 を 形 成 さ せ る 反 応 の 開 発 は も っ と も 重 要 な 課 題 で あ る 。 近 年 有 機 金 属 錯 体 を 利 用 す る こ と に よ っ て、 これ まで 考え ら れ な い 新 し い 炭 素 一 炭 素 結 合 の 形 成 反 応 が 開 発 さ れ て き て いる 。な かで もメ タ セ シ ス は 見 か け 上 、 多 重 結 合 間 で 炭 素 一 炭 素 結 合 が 開 裂 し 同時 に新 たな 炭素 一 炭 素 結 合 が 生 成 す る と い う こ れ ま で 全 く 考 え ら れ な い 反 応 であ る。 オレ フイ ン メ タ セ シ ス は こ の 数 年 急 速 に 進 歩 し 既 に 有 機 合 成 化 学 の 一 手 段 と し て 位 置 づ け ら れ て い る 。 こ の オ レ フ イ ン メ タ セ シ ス は 平 衡 反 応 で あ るた め当 初は 反応 の 制 御 が 難 し く 、 分 子 内 に2っ の 二 重 結 合 を も っ ジ ェ ン に 対 す る 反 応 、 す な わ ち 分 子 内 オ レ フ イ ン メ タ セ シ ス と す る こ と に よ っ て 初 め て 有 機 合 成 反 応 と し て 利 用 可 能 と な っ た 。 現 在 で は 、 特 に 大 員 環 の 良 い 合 成 法 と して しぱ しぱ 用い ら れ て い る 。 し か レ オ レ フ イ ン メ タ セ シ ス で は 、 二 重 結 合 の 切断 され た側 はエ チ レ ン と し て 放 出 さ れ 利 用 さ れ な い こ と に な る 。 と こ ろ が 、 分子 内メ タセ シス が 二 重 結 合 と 三 重 結 合 の 間 で 起 き た 場 合 、 す な わ ち エ ニ ン メ タセ シス は生 成物 と し て ビ ニ ル シ ク 口 ア ル ケ ン を 与 え る 。 こ の 反 応 は 開 環 反 応 を起 こし つつ 、二 重 結 合 の ア ル キ リ デ ン 部 分 が も う 一 方 の 三 重 結 合 上 に 移 動 す る と い う 反 応 で あ り 、 炭 素 一 炭 素 結 合 の 形 成 の 中 で 最 も ユ ニ ー ク な 反 応 の ー つで ある 。著 者は ル テ ニ ウ ム 触 媒 に よ る エ ニ ン メ タ セ シ ス の 開 発 に 成 功 し 、 本 反 応 を 利 用 し ( す stemoamideの 合 成 に 成 功 し た 。 更 に 本 反 応 を 分 子 間 反 応 へ と 発 展 さ せ る こ と に よ ル ア ル キ ン か ら ジ ェ ン を 合 成 す る 新 た な 方 法 を 開 発 す る こ と が で き た の で本論文にて報告する。
1) ル テ ニ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体 を 用 い た ェ ニ ン メ タ セ シ ス 反 応 に よ る 環 化 反 応 の 開発
N‑allyl‑N‑propargyl‑p‑toluenesulfonylamideに対し、Grubbsらの開発したルテニ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体Cl:(PCyユ ) ユRu:CHCH:CPhユを 触媒 とし て1mol% 用い べン ゼ ン 溶 媒 中 加 熱 し た と こ ろ 、36%と 収 率 は 低 い も の の エ ニ ン メ タ セ シ ス の 進 行 し た開環体N‑p‑toluenesulfonyl‑3‑ethenyl‑2,5‑dihydropyrroleを得ることができた。
生 成 物 の 収 率 が 低 い 原 因 に つ い て 著 者 は 生 成 物 の ジ ェ ン 部 が 再 ぴ カ ル ベ ン 錯
体 と 反 応 す る た め で は な い か と 考 え た 。 著 者 はexo‑メ チ レ ン 型 の 二 重 結 合 は ル テ ニ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体 と は 殆 ど 反 応 し な い と い う 知 見 を も と に 基 質 の 三 重 結 合 上 に 置 換 基 が 存 在 す れ ぱ 生 成 物 はexo‑メ チ レ ン 型 の 二 重 結 合 を 持 つ こ と と な り 、 生 成 物 は も は や カ ル ベ ン 錯 体 と は 反 応 し な い と 考 え た 。 早 速 、 三 重 結 合 上 に メ チ ル 基 を 導 入 し た 基 質 を 用 い て 検 討 を お こ な っ た と こ ろ 、 予 想 ど お り 91% と い う 高 収 率 で 目 的 物 が 得 ら れ た 。6員 環 、7員 環 の 形 成 に つ い て も 良 好 ら れ た 。 以 上 の よ う に 、 著 者 は ル テ ニ ウ ム 触 媒 に よ る エ ニ ン メ タ セ シ ス は 三 重 結 合 上 に 置 換 基 を 持 つ 場 合 対 応 す る ピ ニ ル シ ク 口 ア ル ケ ン を 収 率 良 く 与 え る こ とを見いだした。
2)三環性アルカロイド(.)ーstemoamideの合成
(‑)‑stemoamideは 鎮 咳 薬 あ る い は 殺 虫 薬 と し て 用 い ら れ る 和 漢 薬 の 原 料 植 物 で あ るStemona (Stemonaceae)よ り 単 離 さ れ た 一群 のア ルカ ロイ ドの ひと つで ある 。 三 環 性 を 有 す る こ の 化 合 物 は4つ の 不 斉 点 を 有 し 、 合 成 化 学 的 に も 興 味 あ る 化 合 物 で あ る 。 著 者 は こ れ ま で に 述 べ た エ ニ ンメ タセ シ スを 用い るな らぱ 、( ‐)I stemoamideが 比 較 的 容 易 に 合 成 で き る の で は な い か と 考 え た 。 検 討 の 結果 、著 者 はL・ ビ ロ グ ル タ ミ ン 酸 を 出 発 原 料 と し 、 ル テ ニ ウ ム 錯 体 を 用 い た エ ニ ン メ タ セ シ ス を 鍵 反 応 と し て14工 程 、 総 収 率9010で (‑)‑stemoamideの 全合 成を 達成 した 。 3) 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シ ス ー ア ル キ ン と ェ チ レ ン か ら の 共 役 ジ ェ ン 合 成 ― 上 述 の と お ル メ タ セ シ ス は 反 応 の 制 御 が 難 し い と い う 問 題 を 分 子 内 反 応 と す る こ と で 解 決 し 、 有 機 合 成 に 利 用 さ れ る ま で に 発 展 し た 。 し か し 、 分 子 間 オ レ フ イ ン メ タ セ シ ス に 関 し て は 数 例 の 報 告 が あ る の み で 依 然 と し て 反 応 の 制 御 は 非 常 に 困 難 で あ る 。 一 方 、 分 子 間 の エ ニ ン メ タ セ シ ス を 考 え た 場 合 、 そ の 反 応 経 路 は 更 に 複 雑 で あ る 。 す な わ ち 、 望 み と す る エ ニ ン メ タ セ シ ス の 他 に ア ル ケ ン 同 士 で 反 応 す る ジ エ ン ヌ タ セ シ ス 、 ア ル キ ン 同 士 で 反 応 し た 場 合 に は ジ イ ン メ タ セ シ ス に よ る 重 合 反 応 が 起 き る 可 能 性 が あ り 、 こ れ ま で 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シスが有機合成に利用された例は皆無であった。
そ こ で 著 者 は エ チ レ ン を 用 い て 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シ ス を 検 討 す る こ と を 計 画 した 。先 ず 、対 称二 置換 アル キン1,4‑diacetoxyー2‑butyneを基質として反応を行な っ た 。3 mol% の ル テ ニ ウ ム 錯 体 と 共 に 、 塩 化 メ チ レ ン 溶 媒 中 に て1気 圧 の エ チ レ ン ガ ス 雰 囲 気 下 室 温 で45h攪 拌 し た 。 そ の 結 果 、 目 的 と す る 共 役 ジ エ ン1,4‐ diacetoxy‑2,3‑dimethylenebutaneを66010の収率で与えたくconversion yield 89u/o)。本結 果 は 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シ ス の 初 め て の 例 で あ る 。 種 々 の 非 対 称 な ア ル キ ン に 対 し て も 検 討 を 行 な っ た 。 本 結 果 は ル テ ニ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体 を 用 い て ア ル キ ン と エ チ レ ン か ら 共 役 ジ エ ン を 合 成 す る 新 し い 方 法 を 開 発 し た こ と に な る。 また 、 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シ ス に よ り 得 ら れ た ジ エ ン の 分 子 内Diels‑Alder反 応 に よ っ てテ ルベ ン 類の 合成 中間 体と して 有用 であ るピ シク ロ[4.3.1] ウン デセン骨格の 構築の構築も行なった。
ま と め ) 以 上 著 者 は 、 ル テ ニ ウ ム カ ル ベ ン 錯 体 を 用 い た エ ニ ン メ タ セ シ ス を 開 発 し こ の 反 応 を 利 用 し 、 (‑)‑stemoamideの 全合 成に 成功 した 。さ らに 、ア ルケ ン と し て エ チ レ ン ガ ス を 用 い る こ と に よ り 、 は じ め て 分 子 間 エ ニ ン メ タ セ シ ス に 成 功 し た 。 ま た 著 者 は 生 成 し た ジ エ ン の 分 子 内Diels ‑Alder反 応 に よ ルピ シク 口
[4.3.1]ウ ンデ セン骨格の合成に成功し た。本反応は非常に緩和な条件下アルキン
の両端にェチレンのメチレン部分をそれそれ導入し共役ジエンを構築する反応
であり、今回開発した反応はジェンの新しい合成法としてその有用性が期待さ
れる。
学 位 論 文審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査
教授 教授 助教授 講師
森 美和子 橋 本 俊 一 浜 田 辰 夫 中 島 誠
学 位 論 文 題 名
ル テ ニ ウ ム 触 媒 を 用 い た エ ニ ン メ タ セ シ ス の 有 機 合 成 へ の 利 用
ー ( ― ) ―Stemoamideの 合 成 及 び 新 規ジ エ ン 合成 法 の 開発 ー
木 下 淳 は 表 記 の 題 目 で 学 位 論 文 を 提 出 し た 。 そ の 内 容は 最 近 急速 に 利 用さ れ て ぃ る ル テ ニ ウ ム 触 媒 に よ る メ タ セ シ ス 反 応 を ェ ニン メ タ セシ ス に 展開 し た も の で あ り そ の 概 略 を 以 下 に 示 す 。
有 機 合 成 化 学 に お ぃ て 炭 素 一 炭 素 結 合 を 形 成 さ せ る反 応 の 開 発は も っ とも 重 要 な 課 題 で あ る 。 メ タ セ シ ス は 見 か け 上 、 多 重 結合 間 で 炭 素― 炭 素 結合 が 開 裂 し 同 時 に 新 た な 炭 素 ― 炭 素 結 合 が 生 成 す る とぃ う こ れ まで 全 く 考え ら れ な ぃ 反 応 で あ る 。 オ レ フ ア ン メ タ セ シ ス は こ の数 年 急 速 に進 歩 し 既に 有 機 合 成 化 学 の ― 手 段 と し て 位 置 づ け ら れ て ぃ る 。こ の オ レ フィ ン メ タセ シ ス は 平 衡 反 応 で あ る た め 当 初 は 反 応 の 制 御 が 難 し く 、 分 子 内 に2つ の 二 重 結 合 を も っ ジ エ ン に 対 す る 反 応 、 す な わ ち 分 子 内オ レ フ ア ンメ タ セ シス と す る こ と に よ っ て 初 め て 有 機 合 成 反 応 と し て 利 用可 能 と な った 。 現 在で は 、 特 に 大 員 環 の 良 い 合 成 法 と し て し ば し ば 用 い られ て ぃ る 。工 ニ ン メタ セ シ ス は 閉 環 反 応 を 起 こ し つ つ 、 二 重 結 合 の ア ル キリ デ ン 部 分が も う 一方 の 三 重 結 合 上 に 移 動 す る と ぃ う 反 応 で あ り 、 炭 素 一炭 素 結 合 の形 成 の 中で 最 も ユ ニ ― ク な 反 応 の ー つ で あ る 。 木 下 君 は ル テ ニウ ム 触 媒 によ る エ ニン メ タ セ シ ス の 開 発 に 成 功 し 、 本 反 応 を 利 用 し (‑)‑stemoamideの 合 成 に 成 功 し た 。 更 に 本 反 応 を 分 子 間 反 応 へ と 発 展 さ せ る こと に よ ル アル キ ン から ジ エ ン を 合 成 す る 新 た な 方 法 を 開 発 す る こ と が で き た 。
1) ル テ ニ ウ ムカ ル / ヾン 錯 体 を用 い た エニ ン メ タセ シ ス 反 応に よ る 環化 反 応 の 開 発