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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) AnthonyR.Chittenden     学位 論文題名

Diversity in predator‑prey interactions of plant‑inhabiting mites     (Acari: Tetranychidae,Phytoseiidae and Stigmaeidae)

(植物に生息する植食性と捕食性ダニ類の 相 互 作 用 系 の 多 様 性 に 関 す る 研 究 )

学位論文内容の要旨

  ハ ダ二類(1、etranyChidae)およ びその天 敵ダ二類 (PhytOSeiidae、Stigmaeidae) は 、農林業 上重要な 種を含む ために、 一部の種 については 応用的な側面からこれまでに 多 く の 研究 が 蓄 積さ れ てき た 。一方 、わが国 には、現在 ハダ二類 が78種記載 されてい る が、それ らのほと んどは、 寄主植物 の範囲す ら未調査の ままであった。またハダ二類 の 主 な 天敵 で あ るカ ブ リダ 二 類が77種 記載され ているが、 それらが 野外にお いてどの よ うにハダ ニ類の天 敵として 働きうる のかに関 しても情報 は不十分であった。難防除害 虫 であるハダ二類あるしゝはフシダ二類の生物的防除技術の発展には、まず植食者と捕食 者との相互作用系の詳しい生態の把握が必要である。

  本研究では、まず、日本全域において、ハダ二類と天敵類の広範な採集調査を実施し、

約70地点 に お いて415種の 植 物 から ハ ダニ お よ び天 敵 ダ 二類 を採集し 、それら の種の 同 定を行っ た。その 結果、採 取植物の 科・属の 採集頻度に 偏りがあるものの、ブナ科お よ び イ ネ科 植 物 に、 多 様な ハ ダ二相 および天 敵相が存在 すること が明らか になった 。   天 敵‐植食 者相互作 用系の多 様性が特 に高かっ たイネ科のササを対象に、そこで展開 す るハダ二 類と天敵 ダニ類の 詳しい相 互作用系 を野外調査 で明らかにした。まず、北海 道 で優占 するクマ イザサを 中心に、132地点にお いて葉毛密 度とハダ 二種数関 係を解析 し 、葉毛の 密度が高 くなると 、ハダニ の種類数 が有意に増 加することを明らかにした。

ま た、ハダ 二類を捕 食するカ プリダ二 類および ナガヒシダ 二類の種類数も、葉毛密度が 高 くなると 明らかに 増加する ことを発 見した。 ハダこ種数 と天敵種数を合計して、それ を 捕食者一 植食者相 互作用系 の多様性 指標とす れば、その 指標も葉毛密度とともに増加 す ることが 明らかと なった。 一般に、 寄主植物 の葉毛密度 は、植食性昆虫等の捕食を阻 害 する適 応の1種で あると考 えられて きたが、 本研究で明 らかにし たことは 、その反 対 の 事 実 であ る 。一 方 、 植物 の 葉 を動 物 の棲 む ハ ピタ ッ トと し て みれ ば 、そ の 多 様性

(habitatheterogeneiり)が群集構造を複雑にするという、従来の生態学理論と整合してい る。

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、次に、葉毛密度が、具体的にはどのような天敵―ハダ二関係を生み出し、どのような メカニズムが多様性を維持しているのかを、個々のハダ二種と同所的天敵類との相互作 用実験によって解析した。その結果、ハダ二類の生活型として知られている、網を用い たさまざまな構造物や特有の形態・産卵習性等が、確かに対天敵防御機構として機能し ていることを4種のササ寄生ハダニについて明らかにした。すなわち、イトマキハダ二 (Aponychuscorpuzae)の扁平な体型は、非視覚探索型のカブリダニやナガヒシダ二類 による捕食を回避する新しい形のクリプシス(隠ぺい)戦略として機能していた。また、

ヒメササハダ二(Schizotetranychusrecki)が葉毛を利用して作る個室型の網は、大半 の天 敵種に対し て有効な防 護物として 機能してい た。ケウス ハダ二(Yezonychus sapporensis)が示す、葉毛先端への産卵行動は、天敵から卵を隠蔽する機能をもってい ることを実証した。さらに、夕ケスゴモリハダ二(Schizotetranychus′celarius)の巣網 とその営巣行動が、捕食性のイブリナガヒシダ二(Agistemusiburiensis)を「幻惑」

し、その捕食圧を著しく軽減する効果をもつことを実証した。これらは、ササに寄生し ているハダ二種それぞれが示す独特な生活型が、天敵に対する防衛・防護戦略として進 化してきたものであることを強く示唆している。また、それらのハダニの生活型の多く がササの葉毛を利用するものであることが、結果として葉毛の密度とともにハダ二類の 種多様性を増加させているのだということを併せて明らかにした。さらに、天敵類の一 部が独特の生活型をもつハダ二種に特化していることが、ハダニの種数の増加とともに、

天敵の種数を増加させ、ひいては捕食―被食者相互作用系の多様化をもたらした理由で あると考えられた。

  一方、このハダ二類の示す巣網等による対捕食者戦略は、特定の天敵に対しては、無 効あるいは、むしろの餌の目印として使われていることも明らかとなった。例えば、ヒ メササハダニの網は、.明らかにエゾナガヒシダこ(Agistemus summersi)にとっては、

餌の探索の手がかりになっていた。これは、ある防衛戦略が複数の敵との軍拡競争とし て進化していく過程では、一部の敵には有効になっても、他の特殊化した敵には無効あ るいはむしろマイナスになるという、共進化特有の現象を示しているものと考えられた。

また、天敵の側から見れぱ、それぞれが特定の餌種(ハダ二)に適応する(専門家、

specialist)か、あるいは多くのハダニを「そこそこ」に捕食できるようになる(万能 家、generalist)かという選択が、進化の過程で作用してきたことを示唆している。

  次に、このような天敵カブリダニ類の「専門化」や「万能化」という適応が、それら の生活史に反映している可能性をササに発生するカブリダニを中心に追求し、特定のハ ダ二種への専門化と、捕食習性や産卵習性との間に特別の関係があることを明らかにし た。なかでも、長い問謎とされていたカプリダこ類の幼虫の非摂食習性は、集中寄生性 ハダニヘの専門化が産卵の集中化をまねき、そこで作用する血縁選択によって、共食い 回 避 ( 〓 幼 虫 非 摂 食 ) の 適 応 と し て 生 じ た も の だ と い う 可 能 性 を 示 し た 。   これら一連の結果は、カブリダ二類やナガヒシダ二類が、植食性ハダ二類と様々な組 み合わせで、それぞれが独特の相互作用系を形成していること、それらは長い進化の過

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程で、特殊化や一般化が働いて、現在の形に至ったものであることを示唆している。し たがって、天敵と害虫の個別の相互関係の正確な把握こそが、天敵を害虫の生物的防除 に利用するうえで、欠かせないステップであると考える。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    斎藤    裕 副査    教授    諏訪正 明 副査    助教授   綿貫   豊

    学位論文題 名

Diversity in predator‑prey interactions of plant‑inhabiting mites     (Acari:Tetranychidae,Phytoseiidae and Stigmaeidae)

(植物に生息する植食性と捕食性ダニ類の 相 互 作 用 系 の 多 様 性 に 関 す る 研 究 )

  本 論文は、図35、表22および本 文121ベ ージからな る英文論文 で、引用文献133 を含んでいる。他に、参考論文4編が添えられている。

  ハダこ類およびその天敵ダ二類は、農林業上重要な種を含んでいる。わが国には、現 在ハダニ類が78種記載されているが、応用上重要な種を除くと、寄主植物の範囲すら ほとんど未調査のままであった。またハダこ類の主な天敵であるカプリダ二類が77種 記載されているが、それらが野外においてどのようなハダ二類の天敵として働きうるの かに関しても情報は不十分であった。

  本研究では、日本全域において、ハダ二類と天敵類の広範な採集調査を実施し、約 70地点において415種の植物からハダこおよび天敵ダ二類を採集した。その結果、調 査植物の科・属の頻度に偏りがあるものの、プナ科およびイネ科植物に多様なハダ二相 および天敵相が存在することを明らかにした。

  天敵・植食者相互作用系の多様性が特に高かったイネ科のササを対象に、そこで展開 するハダニ類と天敵ダ二類の相互作用系を野外調査で明らかにした。まず、北海道で優 占するクマイザサを中心に、132地点において葉毛密度とハダニ種数関係を解析し、葉 毛の密度が高くなると、ハダニの種類数が有意に増加することを明らかにした。また、

ハダこ類を捕食するカプリダニ類およびナガヒシダ二類の種類数も、葉毛密度とともに 有意に増加することを発見した。

  次に、葉毛密度がどのような天敵ーハダこ関係を生み出し、どんなメカニズムが多様 性を維持しているのかを、4種のササ寄生性ハダニについて、同所的天敵類との相互作 用実験的によって解析した。まず、ハダこが網を用いたさまざまな構造物や特有の形態・

産卵習性等が、確かに対天敵防御機構として機能していることを明らかにした。すなわ

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ち、イトマキハダこの扁平な体型は、非視覚探索型のカプリダこやナガヒシダニ類によ る捕食を回避する新しい形のクリプシス(隠ぺい)戦略として機能していた。また、ヒ ヌササハダこが葉毛を利用して作る個室型の網は、大半の天敵種に対して有効な防護物 として機能していた。ケウスハダニが示す、葉毛先端への産卵行動は、天敵から卵を隠 蔽する機能をもっていることを実証した。さらに、夕ケスゴモリハダニの巣網とその営 巣行動が、捕食性のイプリナガヒシダニを「幻惑」し、その捕食圧を著しく軽減する効 果をもつことを示した。これらは、ササに寄生しているハダ二種それぞれが示す独特な 生活型が、天敵に対する防衛・防護機構として進化してきたものであることを強く示唆 している。また、それらのハダニの生活型の多くがササの葉毛を利用するものであるこ とが、結果として葉毛の密度とともにハダこ類の種多様性を増加させているのだという ことを併せて明らかにした。さらに、天敵類の一部が独特の生活型をもつハダニ種に特 化していることが、ハダニの種数の増加とともに、天敵の種数を増加させ、ひいては捕 食 ‐ 被 食 者 相 互 作 用 系 の 多 様 化 を も た ら し た 理 由 で あ る と 考 え ら れ た 。   一方、ハダこ類の示す巣網等の対捕食者戦略は、特定の天敵に対して無効あるいは、

むしろの餌の目印として使われていることも明らかとなった。例えば、ヒメササハダニ の網は、エゾナガヒシダニにとっては、明らかに餌の探索の手がかりになっていた。こ れは、ある防衛戦略が複数の敵との軍拡競争として進化していく過程では、大半の敵に は有効になっても、一部の特殊化した敵には無効あるいはむしろマイナスになるという、

共進化特有の現象を示しているものと考えられた。また、天敵の側から見れぱ、それぞ れが特定のハダこ種に適応する(専門家)か、あるいは多くのハダニを「そこそこ」に 捕食できるようになる(万能家)かという選択が、進化の過程において起きてきたこと を示唆していた。

  最後に、このような天敵カプリダニ類の「専門化」や「万能化」という特性と、それ らの生活史との関係をササに発生するカプリダ二類を中心に追求し、特定のハダニ種へ の専門化と 捕食習性や 産卵習性と の間に密接 な関係があ ることを明 らかにした。

  以上の研究によって、1つの寄主植物上に半独立的な「天敵と植食者との相互作用系」

が複数成立しており、同時にこれらの系の間にも間接的相互作用が存在することが示さ れた。これらのことは、生物群集の成立に捕食―被食関係が重要な要因であることを示 すとともに、天敵と害虫の相互関係の正確な把握こそが、天敵を生物的防除に利用する うえで欠かせないステップであることを示した点で、生態学的にも応用面からも高く評 価できる。

  よって、審査員一同は,AnthonyR.Chittendenが博士(農学)の学位を受けるの に十分な資格を有するものと認めた。

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