博 士 ( 医 学 ) 長 谷 川 秀 樹
学 位 論 文 題 名
DOCK180, a Major CRK‑Binding Protein, alters Cell Morphology upon Translocation to the Cell Membrane (CRKの主要結合夕ンパクDOCK180の細胞膜への移行による細胞形態変化の誘導)
学位論文内容の要旨
[目的]
v‑CrkはCT10レ ト ロ ウ イ ル スの 癌 遺 伝 子 産 物 と し て 同 定 さ れ 、 そ の 大 部 分 の 構 造 がSrc hom010gy2(SH2)領 域お よびSrchomology3(SH3)領 域か らな るア ダプ ター タン パクであ る 。 細 胞 内 のv‐Crkの 同 族 体 は ニ ワ ト リ 、 ヒ ト 、 マウ スで 単離 され てお り、 ヒト のCRK 遺 伝 子 か ら は ス プ ラ イ シ ン グ に よ り28kDaのCRK‐Iと42kDaのCRK‐Hの2つ の タ ン パ ク が 翻 訳 さ れ る 。CRKをPC12細 胞 に マ イ ク ロ イ ン ジ ェ クシ ョンす ると 神経 分化 が誘 導さ れ る。 また 、v‐Crkの過 剰発 現に よりEGF刺 激下 でのPC12細胞 の神 経分 化を 加速 させる。
こ れ ら のCRK依 存 性 の 分 化 に はRaSの 活 性 化 が 必 要 で 、 そ れ はCRKの 過 剰 発 現 に よ り 増強される。CI水,(}rb2/Ash,Nckなどを含むアダプター分子はそれ自身酵素活性を持たず、
SH2を 介 し て り ン 酸 化 チ ロ シン を 含 む 分 子 よ り 情 報 を 受 け 取 り 、SH3を 介 し て プ ロ リン に 富 ん だSH3結 合 領 域 を 持 つSH3結 合 タ ン パ ク ヘ と 情 報 を伝 え て い く 。 ま た ア ダ プ ター 分 子の 機能 とし て、SH3領域に 結合 した 細胞 質内 の酵 素を 細胞 膜ヘ 運ぶ 役割 をは たしてい る 。CRKのSH3を 用 い た フ ァ ー ウ エ ス タ ン 法 に よ り こ のSH3が135〜145,160,180kDa の タ ン パ ク と 結 合 す る こ と が 明 ら か に さ れ て い た 。 本 研究 で は 、 こ れ らCRKSH3結 合タ ン パ ク の う ち180kDaの タ ン パ ク を コ ー ド す る 遺 伝 子 を180kDaのCRKの 下 流 因 子 (180 kDapmtemdowns眦amofCRK) よ りDOCK180と 名 付 け 、 そ の 分 子 ク 口 ー ニ ン グ を 試 み 、 かつ得られた分子の機能解析を行なった。
[材料と方法]
1. 遺 伝 子 の ス ク リ ー ニ ン グ の た め に ヒ ト 脾 臓cDNAラ イ ブ ラ リ ー を 用 い た 。 2. 結合 タン パク を検 索す るた めにHeLa細胞 ライセ ート を抗DOCK180抗体 で免疫 沈降し、
GST‑CRK SH3.GST‑Grb2/Ashを プ ロー ブ と し た フ ァ ー ウ エ ス タ ン 法 を 実 施 し た 。 3.ノーザンプロット解析、ファルネシル化、細胞への遺伝子トランスフェクションなどは 常法に従った。
4.DOCK180の 細 胞 内 分 布 とDOCK180導 入 後 の 形 態 変 化 を 免 疫 組 織 染色 お よ び 共 焦 点 レ ーザー顕微鏡にて観察した。
[結 果]
1. ヒト 脾臓のcDNAの発 現ラ イブ ラリーよ プ ロ ー ブ と し てcDNAラ イ ブラ リー をス を 単離し た。 このcDNAは、5,598 bpの の アミノ 酸か らな る計 算上215 kDaのタ のC末 端 に プ ロ リ ン に 富 ん だCRK SH3
り 陽 性 ク ロ ー ンST2が 得 ら れた 。 こ のST2.を ク リー ニン グし 、全 長6,519 bpの未知のcDNA オ ープンリーデイングフレームを持ち1.866個 ン パクをコードしていた。アミノ酸配列からそ に 結合 しえ る部 分が2つ存 在す ること、および
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そのN末端に
SH3
領域が存在することが判明した。2
.ファーウエスタン法では、免疫沈降後の上清中にはCRKSH3
およびGrb2/Ashに結合する
180kDa
のタンパクはみられず、沈降物中に検出された。逆に、細胞のライセートを抗CRK抗体 で 免疫 沈 降し た とこ ろ、
DOCK180
は 抗CRK
抗体 の沈降物の 中に含まれ いた。
3
.DOCK180
の7
.4kb
のmRNAの発現を ノーザンブ ロットにて 調べると、 末梢自血球 以外の全身諸臓器で発現が認められた。発現量の多い臓器は胎盤、肺、腎臓、膵臓、卵巣
で、少ない臓器は胸腺、精巣、大腸であった。血球系細胞である
Molt4Tcells
,RajiBceus
,THP‐1monocytesではDOCK180の発現はみられなかった。4
. 野生 型 のDOCK180
をNm3T3
細胞 に ト ラン ス フェ ク ショ ン する と、DOCK180は細胞質内にびまん性に分布し、細胞形態に変化は認められなかった。一方、
Ki
−Rasのフんルネシ ル 化 信号 で ある
CAAXbox
をDOCK180
のC
末 端に 融 合さ せ て作出 したDOCK
‐F
をト ランスフェ クションす ると、
DOCK180
は 細胞膜に局 在し、紡錘 形のMH3T3
細 胞を平坦な、多角形細胞へと変化させた。
5
.Nm3T3
細 胞はヒトEGF
レセプタ ーを発現さ せた紡錘形 の細胞であ り、EGFで刺激する と特徴的な トランスフ オーム(こ の場合は細 胞の球形化 )を起こす 。野生型の
DOCK180
あるいはフんルネシル化GST(GST
‐F)のみをトランスフェクションした場合に は
EGF
の刺 激により細胞の球形化がみられた。一方、DOCK
‐Fをトランスフェクシヨンした細胞においてはEく弭刺激により細胞質が樹枝状に進展する樹状様細胞となっ
た 。さらに、 自己リン酸化部位を欠いたEGFレセプターの変異体を持っために
EGF
刺激に対して形態的なトランスフオームを示さない株化細胞を用いてEGF刺激の効果を
調べたところ、DOCK‐Fをトランスフェクションしても細胞は樹枝状に変化しなかった。
[考察]
新たに 同定された
CRK
結合 タンパクDOCK180を膜ヘ移行 させることによりに細胞形態 が変化することが明らかとなった。DOCK
ーFの発現によって引き起こされる細胞形態の 変 化がDOCK180
やGST‑Fの発現によ って起こら ないことか ら、この変 化はDOCK180
を 膜へ移行させたことに起因するものと考えられる。本実験でDOCK‑F
がNIH3T3細胞にお いてEGF
によるトランスフオーメーションに拮抗していることが示されたが、もう―ーつ のCRK SH3
結合分子で あるC3G
もファルネシル化によりRas
によルトランスフオームし たNIH3T3
細胞 を正常に戻 すことが知 られている 。従って、2
つの主要なCRK‑SH3
結合 タンパクは癌化抑制作用があることが推測される。また、DOCK180は血球系細胞におい て発現がみられないことから細胞接着に関連した情報伝達に関与していることが推察され る。CRK
,Grb2/Ashはもともと細胞質内のアダプター分子として同定されたが、現在では 細胞の接着に関与する情報をも伝えることが知られている。CRK
のSH2
領域はインテグ リン刺激によルチロシン残基がりン酸化されるパキシリンやp130CAs
とぃった分子とも結 合する。このように細胞内のCRK夕ンパクの中には細胞接着に関与する情報伝達に関わ っ てい る ものもあ り、CRK
のSH3
に結合 し、細胞形 態を制御す るDOCK180
の同 定は、CRK
タ ン パ ク の 細 胞 の 接 着 に お け る 新 た な 役 割 を 示 す も の と 推 測 さ れ た 。[結語]
新しい
CRK
主要結合夕ンパクとしてDOCK180
を同定し、その機能解析を行い次の結果 が得られた。1
. DOCK180は全長6,519 bpであり、5,598 bpの翻訳領域を持ち、1,866
個のアミノ酸からなる計算上
215 kDa
のタンパクをコードしており、そのタンパクはプロ1Jンに富むSH3
結合領域を持っていた。2
. DOCK180はほぼ全ての臓器で発現がみられたが、血球系細胞ではみられず接着細胞での情報伝達に関与していることが示唆された。
3
. DOCK180を細胞膜へ移行させると紡錘形のNIH3T3
細胞の形態を平坦な、多角形細胞へ と変化させ た。またフんルネシル化されたDOCK180からの情報はEGF刺激による
トランスフオーメーションの情報と拮抗していた。
以上の結果より、DOCK180は細胞接着機構を介して形態形成や癌化抑制に関与してい る可能性が示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
DOCK180, a Major CRK‑Binding Protein, alters Cell Morphology upon Translocation to the Cell Membrane
(CRKの 主 要 結 合 夕 ン パ クDOCK180の 細 胞 膜へ の移 行に よる 細 胞形 態変 化の 誘導 )
細 胞 内 の 情 報 伝 達 に 関 わ る ア ダ プ タ 一 分 子 の ー つCR:Kは 、CT10レ ト ロ ウ イ ル ス の 癌 遺 伝 子 産 物 と し て 同 定 さ れ 、 そ の ほ と ん ど の 部 分 がSrc homology2(SH2)領 域 お よ び Src homology3(SH3)領 域 か ら な り 、 そ れ 自 体 は 酵 素 活 性 を 持 た た ぃ 。CRKは 、 そ の SH2を 介 し り ン 酸 化 チ ロ シ ン を 合 む 分 子 に 特 異 的 に 結 合 す る こ と に よ り 情 報 を 受 け 取 り 、 そ のSH3を 介 し て プ ロ リ ン に 富 むSH3結 合 領 域 を 持 つSH3結 合 タ ン パ ク ヘ と 情 報 を 伝 え る 。 本 研 究 に お い て は 細 胞 内 情 報 伝 達 に お け るCRKの 生 理 的 意 義 と 癌 化 に お け る 意 義 を 探 る た め 、 CRKの SH3に 結 合 す る 未 知 の 分 子 を 同 定 ・ 単 離 し 機 能 解 析 を 行 っ た 。 ヒ ト 脾 臓 のcDNAの 発 現 ラ イ ブ ラ リ ー を フ ァ ー ウ エ ス タ ン 法 に よ ル ス ク リ ー ニ ン グ す る 事 に よ り 陽 性 ク ロ ー ンST2が 得 ら れ た 。 更 に ス ク リ ー ニ ン グ を 進 め る こ と に よ り1,866個 の ア ミ ノ 酸 を コ ー ド す る 新 し い 遺 伝 子 が 得 ら れ た 。180 kDa protein Downstream Of CRKの 頭 文 字 を と りDOCK180と 名 付 け た 。 ア ミ ノ 酸 配 列 か ら そ の カ ル ボ キ シ ル 末 端 にCRK の プ ロ リ ン に 富 ん だSH3領 域 に 結 合 し う る 部 分 が2つ 存 在 す る こ と 、 ま た そ の ア ミ ノ 末 端 にSH3領 域 が 存 在 す る こ と が 判 明 し た 。 そ れ 以 外 に 他 の 既 知 の 分 子 と の 相 同 性 は 見 ら れ な か っ た 。DOCK180の7.4kbのrriRNAの 発 現 を ノ ー ザ ン ブ ロ ッ ト 解 析 で 調 べ る と 、 末 梢 自 血 球 以 外 の 全 臓 器 で 発 現 が 認 め ら れ た 。 発 現 量 の 多 い 臓 器 は 胎 盤 、 肺 、 腎 臓 、 膵 臓 お よ び 卵 巣 で 、 少 な ぃ 臓 器 は 胸 腺 、 精 巣 、 大 腸 で あ っ た 。DOCK180の 機 能 を 調 べ る た め にKi ‑ Rasの フ ァ ル ネ シ ル 化 信 号 CAAX boxをDOCK180の カ ル ボ キ シ ル 末 端 に 融 合 さ せ 、 そ れ を NエH3T3細 胞 内 で 発 現 さ せ た 。 野 生 型 のDOCKl80で は 細 胞 質 内 に び ま ん 性 に 分 布 し 、 細 胞 形 態 に 変 化 を 与 え な い の に 対 し 、 フ ァ ル ネ シ ル 化 さ れ たDOCK180 (DOCK ‑F) は 細 胞 膜 に 局 在 し 、 紡 錘 形 のNエH3T3細 胞 を 平 坦 な 、 多 角 形 細 胞 へ と 変 化 さ せ た 。 膜 移 行 型 の