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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 学 ) 千 葉 洋 明

学 位 論 文 題 名

河川 遡上期 にお けるニ ホンウ ナギの 性分化 機構 に関す る研究

学位論文内容の要旨

  ニホンウナギAnguilla japonicaは日本をはじめアジア各地で広く養殖が行なわ れて いる 重要 な産業 魚種であるが、養殖用種苗はすぺて天然のシラスウナギに依 存し てい る。 また、 種苗の安定確保を目的とした種苗生産研究も天然の下ルウナ ギを 使用 して きたた め、計画的な研究を実施する上での制約が生じ、その技術の 確立 は未 だに なされ ていない。このような背景から、近年、養殖ウナギを種苗生 産用 親魚 とし て使用 する試みがなされている。しかし、養殖環境下で成長したウ ナギ の大 多数 の個体 は雄に分化することから、養殖魚を親魚とする場合、雌を大 量に 確保 する ことは 困難である。このような本種の種苗生産用親魚の安定供給を 図る 上で も養 殖ウナ ギの生殖腺の分化と発達およびそれらの制御に関する基礎的 知見が必要である。

  脊 椎動 物に おい て魚 類は 極め て多 様な 性の表 現型 をし めす こと が知 られ てい る。 魚類 の性 は基本 的に遺伝的支配を受けているが、性分化の過程においてなん らか の外 部要 因によ り性の表現型が変化する事実が多数報告されている。これま で、 人為 的環 境下で 成長したウナギの性比は、極端に雄へ偏ることが示されてい る。 一方 、天 然ウ ナギ の個 体群 では 、雌 雄比に 大き な偏 りが ない 。あ るい は近 年、 雌ウ ナギ の出現 率が雄のそれより高いことが報告されている。しかし、性比 が極 端に 一方 の性ヘ 偏る原因は不明であり、未だに性決定環境因子の実証ならび に性分化機構の解明はなされていない。

  本 研究 では 、ニホ ンウナギの性分化機構を解明することを目的として、養殖環 境下 で飼 育さ れたウ ナギの生殖腺の性分化過程を形態学的手法を用いて明らかに する とと もに 行動生 態学的および内分泌学的観点からウナギの性分化に及ぼす外 部環境因子の影響の実験的解析を行なった。

  は じめ に、 ニホン ウナギの性決定期に一致する河川遡上期の基本的な行動なら     −164

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びに生態を観察し、これらの生態特性が性決定に関与する可能性について検討し た。河川遡上期の体長7cmのシラス期から体長20cmの黄ウナギ期の成長段階にお ける種々の行動観察より、集団で河口域に蝟集したシラスウナギは黄ウナギヘの 変態が完 了する段階で単独行動型に変化し、夜間河川を遡上しながら体長12 cmから16cmに達する成長段階までに、生活の根拠となる隠れ穴を確保して独居 生活をはじめるものと思われる。この時期は性分化が生じる段階と重なることか ら、ウナギは独居生活を営む河川定着時に生息環境の何らかの影響を受けて性が 決定する機構を備えていることが推察される。

  飼育環境下のニホンウナギの生殖腺の形態的性分化は体長15‑23cmの個体で 起こり、その80%以上の個体の生殖腺は精巣に分化し、他の個体は雌雄同体(6

〜 21%)と少数の卵巣(5%以下)に分化した。精巣分化は体長18・23 cmの個体 でみられ、生殖細胞の緩やかな増加と結合組織の発達に伴う基質体細胞の顕著な 増殖発達を特徴とした。一方、卵巣分化は生殖細胞の早期の減数分裂像を特徴と し体長15cm以上の個体でみられた。しかしながら、飼育群によっては体長15〜2 2 crriの未分化個体の約30%が生殖細胞の早期減数分裂像を示しながら、分化した 個体群には完全な卵巣を有する雌はみられず、少数の雌雄同体と多数の雄の出現 が認められた。従って、ニホンウナギの一部は幼時雌雄同体を経た後、雌雄に分 化する未分化型雌雄異体種であることが示唆される。

  上記の生殖腺の分化過程の観察結果を基にエスト口ゲンを経口投与し、効果的 性統御技法の検討を行なうとともに、雌化誘導可能なホルモン感受期の特定によ り精巣分化の開始時期を形態学的、生理学的に解析した。ニホンウナギの性転換 には天然のエストロゲンであるエストラジオール‑1713 (E2)が有効であり、25〜 75 mg/kg餌料の比較的広い濃度範囲で95‑100%の雌化が誘起された。しかしな がら、5 0mg/kg以上の高濃度処理群は筋肉中の脂肪含量の増加と肝臓の肥大を招 くため、処理濃度の影響を考慮する必要性がある。完全かつ機能的な性転換を導 くためには、生殖腺の形態的性分化開始(体長15cm)よりも前の時期から性分 化完了時(体長20cm)、すなわち、生殖腺の生理的性分化期と形態的性分化期 の双方を通じて処理を施す必要性を示している。さらに、生殖腺の形態学的観察 とホJレモン処理の結果から、ニホンウナギの性分化開始の臨界期は体長11 cm

(ホルモン処理開始時期)から体長15 cm(精巣分化の開始)の間に存在するこ とが示唆される。

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  生殖膿の性分化に内因性ステロイドホルモンが性決定誘導物質として働いてい るかを明らかにするため、ウナギの精巣分化過程における血中の性ステロイドホ ルモン量を測定し、ステロイドホルモン産生細胞(ライデイッヒ細胞)が精巣分 化過程の何れの時期より分化し、しかもステロイドホルモン産生能を有するのか を微細構造学的に調べた。精巣分化に伴ってエストラジオール‑17pおよび11‑ケ トテストステロンの血中量は変化を示さなかったものの、その分化期前後で比較 的高値であった。これらの事実はウナギの性分化過程の生殖腺でみられた間性的 性質である両性因子間の拮抗的関係を反映している可能性がある。精巣の微細構 造学的観察からライデイッヒ細胞と同定される細胞は、精巣分化後の体長23 cmの精巣の腸間膜に面する側の結合組織中に始めて認められ、その後、体長32 cmの精巣では、この結合組織中で数を増し集塊をなした。続いて、ライデイツ ヒ細胞は精原細胞の包嚢を持つ精小嚢の問質域に集塊をなして分布するようにな ることが明らかとなった。しかしながら、精巣内の体細胞は不活発な形態的特徴 を有しており、またステロイド代謝酵素のコレステロール側鎖切断酵素(P‑450 scc)の免疫組織化学の結果からも性分化期前後で陽性反応は認められなかった。

これらのことから、生殖腺で作られる性ステロイドが本種の性分化に関与してい る可能性は低いと考えられ、前述の血中ステロイドは生殖腺以外の器官で産生、

分泌されていることが推察されたが、これらホルモンの産生器官の同定およびそ の生理的意義は今後の課題として残された。HCG投与は体長32 cm以上の個体 群の精子形成を誘起し、血中11‑KT量の上昇を引き起こした。微細構造学的特 徴からもライディッヒ細胞の活性化が認められた。また、P‑450sccの特異抗体を 用いた免疫組織化学からも、体長32 cm以上のHCG投与群のライディッヒ細胞 で免疫陽性反応が認められた。体長29cmから32cmの精巣では、ライディッヒ細 胞を含む発達した結合組織が腸間膜側から体腔壁側の生殖細胞間の問質域に進入 していく過程が観察された。以上のことは、ライデイッヒ細胞の問質域への移動 がステロイドホルモン産生能を獲得するために、組織構造上必要な変化であるこ とを示唆している。

  本種の性決定に関与すると思われる環境諸要因のうち、水温、pHおよび個体 群密度に焦点を当て、それらの生殖腺の分化、発達に及ぼす影響を比較検討し た。その結果、pHについては生殖腺の性比やその分化過程に組織学的差異は認め られず、ウナギの性決定環境因子である可能性は低いものと推察された。また、

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水温については性比に変化はみられなかったが、高水温は性分化期の生殖細胞の 増殖と分化を抑制し、精巣組織への分化を間接的に促している可能性が示され た。密度については、集団飼育群と比較し単独飼育個群において、雌は出現しな かったが、雄の個体数よりも雌雄同体の個体数が増加した。これらの結果は個体 群密度がウナギの生殖腺の性分化に関与する可能性が高いことを示しており、今 後、環境因子の影響と個体間の社会的相互作用を含めた環境生態学的解析を進め る必要性を示唆している。

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学 位 論 文 審 査 の 要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授    山 内 晧 平 教 授    山 崎 文 雄 教 授    原    彰 彦 助 教 授    上田    宏 助 教 授    足立 伸次

学 位 論 文 題 名

河川遡上期におけるニホンウナギの性分化機構に関する研究

  魚類 の性 は基 本的 には 遺伝 的支 配を受 けて いる が、性分化の過程においてなん ら かの 外部 要因 によ り性 の表 現型 が変化 する 事実 が多数報告されている。これま で 、人 為的 環境 下で 成長 した ウナ ギの性 比は 、極 端に雄ヘ偏ることが示されてい る 。一 方、 天然 ウナ ギの 個体 群で は、近 年、 雌ウ ナギの出現率が雄のそれより高 い こと が報 告さ れて いる 。し かし 、性比 が極 端に 一方の性へ偏る原因は不明であ り 、未 だに 性決 定環 境因 子の 実証 ならぴ に性 分化 機構の解明はなされていない。

こ のよ うな 本種 の種 苗生 産用 親魚 の安定 供給 を図 る上でも養殖ウナギの生殖腺の 分 化と 発達 およ びそ れら の制 御に 関する 基礎 的知 見が必要である。そこで、本研 究 では 、ニ ホン ウナ ギの 性分 化機 構を解 明す るこ とを目的として、養殖環境下で 飼 育さ れた ウナ ギの 生殖 腺の 性分 化過程 を形 態学 的手法を用いて明らかにすると と もに 行動 生態 学的 およ び内 分泌 学的観 点か らウ ナギの性分化に及ぼす外部環境 因 子の 影響 の実 験的 解析 を行 なっ た。

  河川 遡上 期の 体長7cmの シラ ス期 から 体長20cmの黄 ウナ ギ期 の成長 段階 にお け る 種々 の行 動観 察よ り、 集団 で河 口域に 蝟集 した シラスウナギは黄ウナギへの変 態 が完 了す る段 階で 単独 行動 型に 変化し 、夜 間河 川を遡上しながら体長12cmから 16cmに 達す る成 長段 階ま でに 、生 活の根 拠と なる 隠れ穴を確保して独居生活をは じ める もの と思 われ た。 この 時期 は性分 化が 生じ る段階と重なることから、ウナ ギ は独 居生 活を 営む 河川 定着 時に 生息環 境の 何ら かの影響を受けて性が決定する 機 構を 備え てい るこ とが 推察 され た。

  飼育 環境 下の ニホ ンウ ナギ の生 殖腺の 形態 的性 分化 は体 長15‑23cmの個 体で 起 こ り、 その80% 以上 の個 体の 生殖 腺は精 巣に 分化 し、 他の 個体 は雌 雄同 体(6 21%) と少 数の 卵巣 (5% 以下 )に 分化 した 。精 巣分 化は 体長18‑23 cmの 個体 で み られ 、生 殖細 胞の 緩や かな 増加 と結合 組織 の発 達に伴う基質体細胞の顕著な増 殖 発達 を特 徴と した 。一 方、 卵巣 分化は 生殖 細胞 の早期の減数分裂像を特徴とし 体 長15cm以 上 の 個 体 で み ら れ た。 しかし 、飼 育群 によ って は体 長15〜22cmの 未 分 化個 体の 約30%が 生殖 細胞 の早 期減数 分裂 像を 示しながら、分化した個体群に

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は完全な卵巣を有する雌はみられず、少数の雌雄同体と多数の雄の出現が認めら れた。従って、ニホンウナギの一部は幼時雌雄同体を経た後、雌雄に分化する未 分化型雌雄異体種であることが示唆された。

  ニホンウナギの性転換には天然のエストロゲンであるエストラジオール‑17p( E2)が有効で あり、25〜75 mg/kg餌料の比較的広い濃度範囲で95‑100%の雌化 が誘起された。完全かつ機能的な性転換を導くためには、生殖腺の形態的性分化 開 始 (体 長15cm)よ り も前 の 時期 か ら性 分 化 完了 時 (体長20cm)、すなわち 生殖腺の生理的性分化期と形態的性分化期の双方を通じて処理を施す必要性を示 した。さらに、生殖腺の形態学的観察とホルモン処理の結果から、ニホンウナギ の 性分化開始 の臨界期は 体長11 cm( ホルモン処 理開始時期 )から体長15 cm

(精巣分化の開始)の間に存在することが示唆された。

  精巣分化に伴ってステロイドホルモンの血中量は変化を示さなかったものの、

その分化期前後で比較的高値であった。精巣の微細構造学的観察からライデイツ ヒ細胞と同定される細胞は、精巣分化後の体長23cmの精巣の腸間膜に面する側の 結合組織中に始めて認められ、その後、体長32cmの精巣では、この結合組織中で 数を増し集塊をなした。続いて、ライデイッヒ細胞は精原細胞の包嚢を持つ精小 嚢の問質域に集塊をなして分布するようになることが明らかとなった。しかし、

精巣内の体細胞は不活発な形態的特徴を有しており、またステロイド代謝酵素の コ レステロー少側鎖切断酵素(P‑450scc)の免疫組織化学の結果からも性分化期 前後で陽性反応は認められなかった。これらのことから、生殖腺で作られる性ス テロイドが本種の性分化に関与している可能性は低いと考えられ、前述の血中ス テロイドは生殖腺以外の器官で産生、分泌されていることが推察された。ライデ イッヒ細胞の活性化は微細構造学的特徴およぴP‑450sccの特異抗体を用いた免疫 組 織 化学 か ら、HCGを 投 与し た 体長32 cm以上 の 個体 群で認め られた。体 長 29cmから32cmの精巣では、ライデイッヒ細胞を含む発達した結合組織が腸間膜 側から体腔壁側の生殖細胞間の問質域に進入していく過程が観察され、ライディ ッヒ細胞の問質域への移動がステロイドホルモン産生能を獲得するために、組織 構造上必要な変化であることが示唆された。

  本 種の性決定に関与すると思われる環境諸要因の実験的解析から、水温、pH については生殖腺の性比に差異は認められず、ウナギの性決定環境因子である可 能性は低いものと推察された。しかし、密度については、集団飼育群と比較し単 独飼育個群において、雌は出現しなかったが、雄の個体数よりも雌雄同体の個体 数が増加した。これらの結果は個体群密度がウナギの生殖腺の性分化に関与する 可能性が高いことを示しており、今後、環境因子の影響と個体間の社会的相互作 用 を 含 め た 環 境 生 態 学 的 解 析 を 進 め る 必 要 性 を 示 唆 し た 。   上述のように、本研究では、養殖環境下で飼育されたニホンウナギの生殖腺の 性分化過程を形態学的手法を用いて明らかにするとともに行動生態学的および内 分泌学的観点からウナギの性分化における外部環境因子の関与を示唆した。これ らの結果は、今後、複雑な魚類の性分化機構を解明し、新たな人為的性統御技術

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を開発するうえで極めて重要な知見を提供したものとして高く評価され、本論文 が 博 士 ( 水 産学 )の 学位 請求論 文と して 相当 の業績 であ ると 認定し た。

参照

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