博 士( 地 球環 境科 学 )倉 光英樹
学 位論 文 題 名
Electroanalytical Study on the Interaction between Proteins and Their Ligands
( 夕 ンパ ク ーリ ガ ン ド間 相 互作用 の電気分 析化学的 研究)
学位論文内容の要旨
生体内における種々の反応や情報の伝達機構は様々な分子認識能を有するタンバクとその りガンドとの結合によって誘起・調整される。この様なタンパクーリガンド問相互作用を簡 便・迅速に検出・評価するため、様々なバインディングアッセイ法が適用されている。放射性 同位体でラベル化したりガンドを用いた手法は高感度であるためこれまで汎用されてきたが、
取り扱いや廃棄に問題が生じる。従って、酵素や螢光分子などをプローブとした分光学的手 法が近年多く提案されている。これらのアッセイ法は十分な感度を有するものの、その多く は測定の前にタンバクと結合したりガンドと遊離のりガンドとの分離操作(ろ過、遠心分離、
活性炭吸着など)を必要とする。この事は分析操作を煩雑にするだけでなく、分離操作過程 で平衡の変化をもたらす恐れがあり、特に外因性内分泌撹乱化学物質の様なタンパクとの結 合カが比較的低い物質のアッセイにおいては致命的な欠点と成り得る。一方、電気化学的手 法をバインディングアッセイヘ導入する事は、簡便・迅速といった電気化学的手法の持つ利点 をバインディングアッセイにもたらす。しかしながら、電気化学的バインディングアッセイ の開発は米国のHeinemannらを始めとするいくっかの研究グループによって取り組まれてい るものの、その数は少なく体系づけられてはいない。
本研究では、アピジン―ピオチン、レクチン一糖をタンパクーリガンドのモデルとし、煩 雑な分離操作を必要としない電気化学的バインディングアッセイ法の開発を試みた。また、
本法 の 外因 性 内 分泌 撹 乱化 学 物 質の ス ク リー ニ ング 試 験へ の応用に ついて検討 した。
本論文は 、8章から構 成されている。第1章では、これまでに報告されている電気化学的 手法を利用したバインディングアッセイについて解説し、本研究の目的とその概要について 記述した 。第2章〜第5章では、電極活性物質でラベル化したりガンドを用いたアビジンー ピオチン、及びレクチン一糖の電気化学的ホモジニアスパインディングアッセイを試みた。
第6章、第7章では、ラ ベル化リガンドを必要としない簡便なバインディングアッセイを達 成するため、リガンドを修飾した電極をデザインし、酸化・還元活性マーカーの電極応答から タンバクをセンシングする手法を検討した。第8章では、女性ホルモンであるエストラジオ ールを電極活性物質でラベル化したりガンドを用い、外因性内分泌撹乱化学物質のレセプタ ー へ の 結 合 能 を 評 価 し た 。 以 下 、 第2章 か ら 8章 ま で の 概 要 を 述 べ る 。 第2章では、ドーバミンでラベル化したビオチンを用いたアピジンービオチンアッセイを 記述した。一般に、酵素をラベル化剤として使用する手法は、酵素反応によって生じる電極 活性な基質の応答からタンバク―リガンド間相互作用を評価するため、電極活性物質をラベ ル化剤として用いる手法と比較して高感度である。従って、従来の電気化学的バインディン グアッセイにおいては酵素ラベル化法が一般的であり、電極活性物質をラベル化剤として用 いた例は極めて少ない。しかしながら、巨大分子である酵素をラベル化剤として用いた場合、
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その大きな分子サイズによルリガンドとタンパクとの結合の選択性が損なわれる恐れがある ことが指摘されている。一方、ドーバミンはNADHの酸化を触媒する事が知られている。バ ル ク中 にNADHを共 存さ せる こと によ り、 ドー バミ ンで ラベ ル化 した ピオチ ンがNADHの 酸化を触媒するならば、酵素をラベル化剤として使わなくとも増幅された電極応答の変化か らアピジンーピオチンアッセイが可能となる。ドーパミンでラベル化したビオチンとNADH から得られる電気化学的触媒応答は、ラベル化ビオチンがアピジンと特異的に結合すること により減少した。この電極応答の変化からアピジンが間接的に検出された。また、アピジン に対してラベル化ビオチンとピオチンを競争反応させる事によルピオチンの検出も可能であ ることが示唆された。
第3章では、チオ尿素でラベル化したピオチンを用いたアッセイ法について検討した。チ オ尿素は銅のアノーディックストリッピング波を増幅させる事が知られている。ここでは、
この増感効果をバインディングアッセイに応用する事を目的とした。チオ尿素でラベル化し たピオチンがアピジンと複合体を形成することにより、銅のストリッピング波に対する増感 効 果 が 消 失 す る 事 を 利 用 し て ア ピ ジ ン ― ピ オ チ ン ア ッ セ イ を 行 っ た 。 第4章では、最も一般的な電極活性物質の1つであるフェ口センでラベル化したピオチン を調整し、カチオン交換能を有するナフィオンを修飾したカーボン電極上での濃縮挙動を未 修飾のカーポン電極と比較して調査した。その結果、電気化学的酸化によりカチオン種(フ エ口セニウムイオン)のとしたラベル化ピオチンはナフィオン修飾電極に濃縮され、高感度 な 電 気 化 学 的 ア ビ ジ ン ー ビ オ チ ン バイ ン デ ィ ン グ ア ッ セイ を達 成す る事 ができ た。
第5章では、電極活性ラベル化剤としてダウノマイシンを適用し、レクチン一糖の電気化 学的バインディングアッセイを試みた。ダウノマイシンでラベル化したガラクトサミンは電 位制御濃縮ポルタンメトリーにより高感度に検出され、ガラクトサミンに対する結合サイト を有するレクチンの電気化学的検出を可能とした。
第6章では、金電極上に構築したビオチン自己集積単分子膜電極を用い、酸化・還元活性マ ーカーの電極応答変化から、電極上に修飾したピオチンとアビジンとの相互作用を評価した。
電極表面上にアピジン膜が構築されることにより、マーカーイオンの電極応答はアピジンと の静電的な相互作用により変化する。このマーカーイオンの応答変化をモ二夕リングするこ とにより、ラベル化分子を必要としなレゝ電気化学的バインディングアッセイを可能とした。
第7章では、前章に記述したアッセイシステムのレクチン一糖系への適用を検討した。ガ ラクトサミン自己集積単分子膜を金電極表面上に構築し、ガラクトサミンと特異的に結合す るレクチンと、いくっかの結合サイトを持たないレクチンの電極挙動をマーカーイオンの電 極応答変化から検討した。
第8章では、本法の外因性内分泌撹乱化学物質のスクリーニング試験への応用を、ダウノ マイシンでラベル化した17p‑エストラジオールを用いて検討した。その結果、エスト口ゲン レセプターとラベル化エストラジオール間の相互作用の電気化学的モ二夕リングが可能であ る事が明らかとなり、ピスフウノールAやノニルフェノールといった内分泌撹乱化学物質と レセプターとの相互作用がラベル化工ストラジオールの電気化学的応答変化から間接的に評 価された。
以上の研究から、夕ンバクーリガンド間相互作用という化学的情報が電極活性物質でラベ ル化したりガンドの電流値変化や、電極表面上に固定化されたりガンド一夕ンバク複合体膜 への酸化還元活性マーカーイオンの膜透過性変化に伴う電極応答の変化という形に変換可能 である事が明らかとなった。これらの手法はタンバクに結合したりガンドと遊離のりガンド との煩雑な分離操作を必要とせず、夕ンパクーリガンド複合体形成のモ二夕リングを可能と するものである。
L03
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教授 教授 教授 教授 助教授
田中 長谷部 中村 大澤 嶋津
俊逸
清
博 雅俊 克明
学 位 論 文 題 名
Electroanalytical Study on the Interaction between Proteins and Their Ligands
( 夕 ン パ ク ― リ ガ ン ド 間 相 互 作 用 の 電 気 分 析 化 学 的 研 究 )
生体 内 に おけ る 種 々 の反 応 や 情報 の 伝 達機 構 は 様々 な 分子 認識能 を有する タンバ クとその り ガ ンド と の 結合 に よ っ て誘 起 ・ 調整 さ れ る。 こ の 様な タ ンパク ーリガン ド間相互 作用を 簡 便 ・ 迅速に 検出・評 価するた め、様 々なバイ ンディ ングアッ セイ法 が適用さ れている 。放射 性 同 位 体でラ ベル化し たりガン ドを用 いた手法 は高感 度である ためこ れまで汎 用されて きたが 、 取 り 扱い や 廃 棄に 問 題 が 生じ る 。 従っ て 、 酵素 や 蛍 光分 子 などを プ口ーブ とした分 光学的 手 法 が 近年 多 く 提案 さ れ て いる 。 こ れら の ア ッセ イ 法 は十 分 な感度 を有する ものの、 その多 く は 測 定の前 にタンバ クと結合 したり ガンドと 遊離の りガンド との分 離操作( ろ過、遠 心分離 、 活 性 炭吸 着 な ど) を 必 要 とす る 。 この 事 は 分析 操 作 を煩 雑 にする だけでな く、分離 操作過 程 で 平 衡の 変 化 をも た ら す 恐れ が あ り、 特 に 外因 性 内 分泌 撹 乱化学 物質の様 なタンバ クとの 結 合 カ が比 較 的 低い 物 質 の アッ セ イ にお い て は致 命 的 な欠 点 と成り 得る。一 方、電気 化学的 手 法 を バイン ディング アッセイ ヘ導入 する事は 、簡便 ・迅速と いった 電気化学 的手法の 持つ利 点 を バ イン デ ィ ング ア ッ セ イに も た らす 。 し かし な が ら、 電 気化学 的パイン ディング アッセ イ の 開 発は 米 国 のHeinemannら を 始 めと す る いく っ か の研 究 グ ルー プ に よ って 取 り 組ま れて い る も のの 、 そ の数 は 少 な く体 系 づ けら れ て はい な い 。
本研 究 で は、 ア ピ ジ ン― ピ オ チン 、 レ クチ ン 一 糖を タ ンパ ク―リ ガンドの モデル とし、い く っ かの 新 た な電 極 活 性 物質 で ラ ベル 化 し たル ガ ン ドを 調 整し、 煩雑な分 離操作を 必要と し な い 電気 化 学 的バ イ ン デ ィン グ ア ッセ イ 法 の開 発 を 試み て いる。 特に感度 を向上さ せるた め に 、 メデ ィ エ ータ ー 分 子 によ る ラ ベル 化 と 触媒 電 流 の利 用 、フ工 口センに よるラベ ル化と そ の 酸 化に よ っ て生 じ る フ ェ口 セ ニ ウム イ オ ンの ナ フ ィオ ン 膜への 濃縮など を用いる 、いく つ か の 新し い 方 法に つ い て 検討 し て いる 。 ま た、 マ ー カー イ オンの 膜透過性 をタンバ ク―リ ガ ン ド 問相 互 作 用で 制 御 し うる 電 極 系に つ い ても 提 案 して い る。さ らに、本 法の外因 性内分 泌 撹 乱 化 学 物 質 の ス ク リ ー ニ ン グ 試 験 へ の 応 用 に つ い て 検 討 し た も の で あ る 。
本 論 文 は 、
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章 か ら 構 成 され て い る。 第1
章で は 、 これ ま で に 報告 さ れ てい る 電 気化 学 的 手 法 を利 用 し たバ イ ン デ ィン グ ア ッセ イ に つい て 解 説し 、 本研究 の目的と その概要 につい て 記 述 して い る 。第2
章 で は、 ド ー バミ ン で ラベ ル 化 した ピ オ チン を 用 いた ア ピ ジ ン― ピオ チ ン ア ッセ イ を 記述 し て い る。 一 般 に、 酵 素 をラ ベ ル 化剤 と して使 用する手 法は、酵 素反応 に―104
よって生じる電極活性な基質の応答からタンバク―リガンド間相互作用を評価するため、電 極活性物質をラベル化剤として用いる手法と比較して高感度である。従って、従来の電気化 学的バインディングアッセイにおいては酵素ラベル化法が一般的であり、電極活性物質をラ ベル化剤として用いた例は極めて少ない。しかしながら、巨大分子である酵素をラベル化剤 として用いた場合、その大きな分子サイズによルリガンドとタンバクとの結合の選択性が損 なわれる 恐れがある ことが指 摘されている。一方、ドーバミンはNADHの酸化を触媒する事 が知られ ており、パ ルク中にNADHを共存させることにより、ドーパミンでラベル化したピ オチンがNADHの酸化を触 媒するな らば、酵素をラベル化剤として使わなくとも増幅された 電極応答の変化からアピジン―ピオチンアッセイが可能となると予測できる。ドーパミンで ラベル化 したピオチ ンとNADHから 得られる電気化学的触媒応答は、ラベル化ピオチンがア ピジンと特異的に結合することにより減少し、この電極応答の変化からアピジンが間接的に 検出されることを示している。また、アピジンに対してラベル化ピオチンとピオチンを競争 反応させる事によルピオチンの検出も可能であることを示唆している。第3章では、チオ尿 素でラベル化したピオチンを用いたアッセイ法について検討している。チオ尿素は銅のアノ ーディックストリッピング波を増幅させる事が知られているが、ここでは、この増感効果を バインディングアッセイに応用する事を目的とし、チオ尿素でラベル化したピオチンがアピ ジンと複合体を形成することにより、銅のストリッピング波に対する増感効果が消失する事 を利用してアピジンーピオチンアッセイを行うことに成功している。第4章では、フェ口セ ンでラベル化したピオチンを調整し、カチオン交換能を有するナフィオンを修飾したカーボ ン電極上での濃縮挙動を未修飾のカーボン電極と比較して調査している。その結果、電気化 学的酸化によりカチオン種(フェ口セニウムイオン)となるラベル化ピオチンはナフィオン 修飾電極に濃縮され、高感度な電気化学的アピジンーピオチンパインディングアッセイを達 成しうることを明らかにしている。第5章では、電極活性ラベル化剤としてダウノマイシン を適用し、レクチン―糖の電気化学的バインディングアッセイを試みている。ダウノマイシ ンでラベル化したガラクトサミンは電位制御濃縮ボルタンメトリーにより高感度に検出され、
ガラクトサミンに対する結合サイトを有するレクチンの電気化学的検出を可能としている。
第6章では、金電極上に構築したピオチン自己集積単分子膜電極を用い、酸化・還元活性マー カーの電極応答変化から、電極上に修飾したピオチンとアピジンとの相互作用を評価してい る。電極表面上にアピジン膜が構築されることにより、マーカーイオンの電極応答はアピジ ンとの静電的な相互作用により変化する。この時の応答変化をモ二夕リングすることにより、
ラベル化分子を必要としない電気化学的バインディングアッセイを可能としている。第7章 では、前章に記述したアッセイシステムのレクチン一糖系への適用を検討している。ガラク トサミン自己集積単分子膜を金電極表面上に構築し、ガラクトサミンと特異的に結合するレ クチンと、いくっかの結合サイトを持たないレクチンの電極挙動をマーカーイオンの電極応 答変化から検討している。第8章では、本法の外因性内分泌撹乱化学物質のスクリーニング 試験への応用を、ダウノマイシンでラベル化した17{3‐エストラジオールを用いて検討した。
その結果、工ストロゲンレセプターとラベル化工ストラジオール間の相互作用の電気化学的 モニタリングが可能である事を明らかとしており、ピスフェノールAやノニルフェノールと いった内分泌撹乱化学物質とレセプターとの相互作用がラベル化工ストラジオールの電気化 学的応答変化から間接的に評価されることを示している。
以上の研究から、夕ンバクーリガンド間相互作用という化学的情報が電極活性物質でラベ ル化したりガンドの電流値変化や、電極表面上に固定化されたりガンド一夕ンパク複合体膜 への酸化還元活性マーカーイオンの膜透過性変化に伴う電極応答の変化としゝう形に変換可能 である事を明らかとし、これらの手法はタンバクに結合したりガンドと遊離のりガンドとの 煩雑な分離操作を必要とすることなく、夕ンパクーリガンド複合体形成のモ二夕リングを可 能とするものとして期待できる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、大学 院課程における研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を受けるの に充分な資格を有するものと判定した。
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