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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 菊 田 尚 吾

    

 itL

論 3t 題名

Quantitative genetic basis of host utilization by phytophagous ladybird beetles (Coleoptera: Coccinellidae: Epilachninae) and        its implications for host range evolution

(食植性テントウムシの寄主利用に関わる 遺伝的基盤と予測される寄主範囲の進化)

学位論文内容の要旨

  多くの食植性昆虫は限られた分類群の植物を寄主として利用しているが、この特定の寄主 植物への適応こそが現在我々の目にしている多様な食植性昆虫を生み出した主要な要因と考 えられてきた。っまり、寄主を変更することによって古い寄主と新しい寄主を利用する同種 の食植性昆虫集団が遺伝的に分化し、新食草を利用する集団が新しい種へと進化すると考え られるのである。近年急速に発展した分子系統学的手法による解析の結果も、食植性昆虫の 多様化と彼らが利用する植物群の多様化が密接に関連していることを示している。食植性昆 虫がある植物を寄主植物として利用するためには、当該昆虫がその植物を利用する生理的な 能カを保持しているだけではなく、その植物が十分な資源量を持ち、生育環境や季節消長が 昆虫のそれと同調しているなどの様々な条件を満たしていなければならない。そのため、食 植性昆虫にとって寄主植物がどのように決まっているのか、そして、新規の寄主植物への変 更と適 応がどの ように 生じるか について は、様 カな側面から検証することが必要である。

  本研究では、食植性昆虫が利用する植物群の進化的変化に強く影響を与えると考えられる 要因を、2種の近縁な食植性テントウムシ、ヤマトアザミテントウHenosepilachna niponica (Lewis)(以下、ヤマト)とエゾアザミテントウH. pustulosa (Kono)(以下、エゾ)を用いて 検討した。本研究では大きく2つの観点から研究を行った。

  前半の2つの 章(第1章と 第2章 )では 、新規の 寄主植物 への適 応を通じ た分布の拡大の 可能性を扱った。食植性昆虫にとって寄主植物は非常に重要な環境要因であり、その地理的 分布も寄主の分布によって制限を受けている。従来の寄主植物とは異なった分布域を持つ新 しい寄主植物への適応は、食植性昆虫の分布域の変化や、従来の寄主植物を使用する集団と の分化を生み出す可能性がある。北海道南西部、渡島半島に分布するヤマトは主にミネァザ ミCirsぬ田a釦セロぬNakaiを寄主植物として利用しており、その分布もミネアザミの分布と 一致し ている。 しかし 、厚沢部町にねいてマルバヒレアザミaぎ瑠閉田卿(Maxim.)Nakai のみを利用する集団が報告されている。マルバヒレアザミは渡島半島中部・南部に広く分布す る最も資源量が豊富なアザミなので、今後、厚沢部町で見られたようなヤマトのマルバヒレ アザミ利用がこのアザミの広い分布域に拡大する可能性や、マルバヒレアザミ依存集団とミ ネァザミ依存集団が分化する可能性が考えられた。そこで本研究では、マルバヒレアザミの 利用を導く要因を、ヤマトの利用能カとマルバヒレアザミの寄主植物としての質というニつ の観点から調査した。その結果、マルバ.ヒレアザミの質に集団間で大きな違いがあることが 強く示唆され、厚沢部において観察されたヤマトのマルバヒレアザミ利用には、ヤマトの地 域集団間のアザミ利用能カの差ではなく、この地域に成育するマルバヒレアザミがヤマトの 寄主として例外的に好適であることが主要な要因であることが明らかになった(第1章)。さ

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ら に、本研 究で行わ れた野外調査によってマルバヒレアザミを利用する集団が5箇所で確認 されたため、それぞれの地域のマルバヒレアザミの質を摂食実験により評価した結果、それ らの地域に生育するマルバヒレアザミの質も厚沢部で確認された様にヤマトの寄主として好 適である可能性が示唆された(第2章)。また、異なる寄主植物(ミネアザミとマルバヒレア ザミ)を利用するヤマト集団間で幼虫の生育能カや成虫の食性を比較した結果、自身が利用 しているマルバヒレアザミ集団への適応が進行している可能性が示唆された(第1章)。これ らの結果は、マルバヒレアザミの全分布域へのヤマトの分布拡大の可能性が低いこと、およ び、寄主変換が植物側の要因によって導かれたとしても、利用開始後に作用する自然選択の 違 い に よ っ て ヤ マ ト 集 団 間 の 分 化 が 導 か れ る 可 能 性 を 示 唆 し て い る 。   後 半の章( 第3章 と第4章)で は、複 数の植物 を利用する能カの間に存在する正の遺伝相 関が新しい寄主植物への前適応を産みだし保持する可能性について、量的遺伝学的手法を用 いて検討した。寄主の変換が生じるためには、従来の植物を利用している食植性昆虫集団の 内部に、新しい寄主を利用するある程度の能力(前適応)が保持されている必要がある。し かし、こうした前適応を生み出し、維持するメカニズムについてはほとんど分かっていない。

  3章で は、ヤマ ト及びエゾのマルバヒレアザミヘの適応を制限する要因を検討するため に、幼虫の飼育結果を解析し、それぞれの植物を利用する能カの遺伝分散の量、及び、現在 の寄主植物とマルバヒレアザミを利用する能カの間の遺伝相関の有無を見積もった。その結 果、いずれのテントウにもマルバヒレアザミを利用する能カに遺伝分散が検出され、適応が 生じる可能性が示された。しかし、エゾはマルバヒレアザミを利用する能力自体が非常に低 いため、野外でマルバヒレアザミに依存して世代を繰り返す事は事実上不可能であり、この ことが本種のマルバヒレアザミヘの適応を制限している主要な要因と考えられる。一方、ヤ マトでは現在の寄主植物(ミネアザミ)とマルバヒレアザミを利用する能カの間に正の遺伝 相関が検出され、これがマルバヒレアザミヘの適応を制限する要因となる可能性が考えられ る。正の遺伝相関が検出されたことは、ミネアザミの利用能カとマルバヒレアザミの利用能 カが共通の遺伝子群の効果によってもたらされていることを示唆して韜り、ヤマトの持っ比 較的高いマルバヒレアザミ利用の能カは、ヤマトがミネアザミヘの適応することで生じた利 用能カの副産物(前適応)として生じていると思われる。したがって、ヤマトがミネァザミ を主要な寄主植物として利用し続ける限り、マルバヒレアザミヘの適応は現状のレベルの留 まると予想される。

  4章で はエゾを 用いて、寄主植物を含めた複数の植物を利用する能カの間にどの程度遺 伝 相関が存 在してい るのかを、合計9種の植物を用いて検討した。その結果、植物を利用す る能力間の正の遺伝相関は近縁な植物の組み合わせで検出されやすい傾向があり、遠縁な組 み合わせでは正負いずれの相関も検出されないケースが大半を占めた。この結果は、系統的 に近い植物を利用する能カはある程度共通の遺伝子群の効果によってもたらされており、遠 縁な植物を利用する能カは別々の遺伝子群の影響を強く受けている事を示唆している。特定 の寄主植物への適応は、それに関連する遺伝子群の効果によって寄主以外の近縁な植物への 前 適 応 を間 接 的 に産 み だ し、 こ の 前適 応 は 寄主 変 更 をし な ぃ 限 り維 持される だろう 。   食植性昆虫における寄主植物の変更は近縁な植物間で生じやすいことが先行研究から明ら かになっている。本研究において推定された正の遺伝相関をもたらす遺伝子群の作用が導く 前適応は、この広く見られる近縁な植物間の寄主変更に大きな役割を果たしているにちがい なぃ。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   片 倉 晴 雄 副 査   教 授   堀 口 健 雄

副 査   教 授   木 村 正 人 ( 環 境 科 学 院 )

副査

  

准教授

  

藤山直之(北海道教育大学大学院

    

教 育学研究科)

Quantitative genetic basis of host utilization by phytophagous ladybird beetles (Coleoptera: Coccinellidae: Epilachninae) and       its implications for host range evolution

(食植性テントウムシの寄主利用に関わる 遺伝的基盤と予測される寄主範囲の進化)

  食 植 性 昆 虫 は現 在 地 球上に 生息 する全 生物種 の約4分の1を 占める と言わ れてお り、 その種 多様性 の創出 機構 の解明 は進化 学の主 要なテ ーマ のーっ である 。食植 性昆 虫にお いては 、食物 であり、住み場所でもある 寄主 植物( 食草) を変え る事が 直ち に元の 食草に 依存す る集 団との 間に強 い生殖 隔離を引き起こすことが知 られ ている が、こ のよう な種分 化に 結びっ く食草 の転換 がど の様な 要因に よって 引き起こされ、どのように 進行 するか はほと んど解 明され てい ない。 本研究 では、 食植 性昆虫 が利用 する植 物群の進化的変化に対して 強く 影響を 与える と考え られる 要因 を、2種の 近縁な 食植性 テントウムシとその食草の系を用いて検討した。

  前半 の2つの章 では、 ミネア ザミ を主要 な食草 と渡島 半島南 部に 局在す るヤマ トアザ ミテ ントウ が渡島 半 島の 大半の 地域で 優占す るマル バヒ レアザ ミを極 めて限 定的 にしか 利用し ない原 因を検討し、テントウ集団 間の 食草利 用能カ の差異 ではな く、 マルバ ヒレア ザミの 集団 問に存 在する 食草と しての質の変異がテントウ の限 定的利 用の主 要因で あるこ とを 見いだ した。 この結 果と フイー ルド調 査によ って明らかにしたアザミ類 の地 理的分 布状況 に基づ き、特 定の 種もし くは品 種のア ザミ の有無 がこの テント ウの渡島半島域における分 布を 決定づ けてい ること を解明 した 。

  後半 の2章では 、申請 者はヤ マト アザミ テント ウおよ びエゾ アザミテントウの幼虫を複数の植物で飼育し、

量的 遺伝学 的手法 を駆使 してそ れぞ れの植 物を利 用する 能カ の遺伝 率を明 らかに し、その上で異なった植物 を利 用する 能カに 遺伝相 関があ るか どうか を検討 した。 結果 として 、植物 を利用 する能力間の正の遺伝相関 が近 縁な植 物の組 み合わ せで検 出さ れやす い傾向 があり 、系 統的に 近い植 物をあ る程度利用する能カが共通 の遺 伝子群 の効果 によっ てもた らさ れてい るらしいことを示した。このことは、特定の寄主植物への適応が、

それ に関連 する遺 伝子群 の効果 によ って未 だに遭 遇して いな ぃ近縁 の他の 植物へ の前適応を間接的に産みだ すこ と、お よび、 こうし た前適 応は 、現在 の食草 への依 存が 続く限 り不完 全な状 態であっても維持されるだ ろう という 事を意 味する 。

  食植 性昆虫 の寄主 変換 は多く の研究 者の興 味を引 いて おり、 新たな 食草の 利用 が生じれぱ、それが種分化 や多 様化を 引き起 こすこ とは理 論的 にも実 証的な 研究か らも 支持さ れてい る。し かし、食植性昆虫が新規食 草を 食べ始 めるに は、そ の植物 を摂 食する ある程度の生理的な能カを備えていなけれぱならない。ところが、

その ような 前適応 が旧来 の食草 に依 存する 祖先集 団の中 にど の様に して生 じ、維 持されているかはほとんど の場 合不明 である 。理論 的研究 もこ の問題 を扱わ ないま ま、 食草変 換に関 わる議 論の中でこの問題は大きな 謎と して残 されて いる。 本研究 はこ うした 食植性 昆虫の 食性 進化に 関わる 基本的 問題を、多大な労カを要す る実 証的な アプロ ーチに よって 解明 しよう と試み たもの であ り、注 目すぺ き成果 を上げた。中でも、前述の

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新規食草への前適応が現在利用している食草への適応の副産物として食植性昆虫集団の中に生まれ、維持さ れていることを強く示唆する結果を得たことは、寄主変換を伴う食植性昆虫の種分化に関する議論を一歩進 める大きな成果として高く評価できる。

  よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。

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