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博 士 ( 農 学 ) 中 西 憲 之

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 中 西 憲 之

学 位 論 文 題 名

グラ厶陽性球菌における新キノロン剤の耐性機構に関する研究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  キノロン系抗菌剤が感染症に有用な抗菌剤として認められる端緒となったのは1962年に合成さ れたナリジキシ酸の発見である。これを契機として1978年にキノリン骨格の6位にフッソ原子,

7位にピペラジニル基を導入したノルフ口キサシンが開発されて以来,新キノ口ン剤が次々と開 発され,多くの化合物が実際に臨床に使用されるようになった。新キノ口ン剤は,ナリジキシ酸 等のいわゆるオ―ルドキノロン剤と較べ,グラム陽性菌まで拡大された抗菌スペクトルと強い抗 菌カを有している。新キノロン剤では,染色体外遺伝子による耐性の水平伝達は報告されておら ず,臨床における耐性の蔓延は起こらないとされてきた。しかし,近年の新キノロン剤の使用量 の増大に伴い,グラ厶陰性菌ではP.seHdomonosoeru餌nosn,グラム陽性菌では&〔やんッfo− coccusoMreusを代表 とする菌種で耐性菌が急速に増加し,臨床上大きな問題となっている。

新キノロン剤耐性機 構は,これまで主としてEscんeHcんぬc0肛およびPOPru餌凡0s0で解析が なされており,本系 統薬剤の標的酵素であるDNAジャイレースの耐性変異および菌対外膜タ ンパク質の変化に起因すると考えられる薬剤透過性の低下によることが明らかにされている。

  本研究では,この様な背景の中で,

  その臨床上の重要性にも拘らずE.scんerfcんぬc0臣等のグラム陰性菌と比較して新キノロン剤 耐性機構の研究が殆 ど行われていなかったグラム陽性球菌のEmerococcHsんec0ぬsおよびS. 0ureUsに対する新キノ口ン剤の作用および耐性機構の解明を目的として,臨床から分離した両 菌種のキノ口ン剤耐 性株のDNAジャイレ^スの性質を調べると共に,薬剤の取り込みの関与 にっいて検討した。

  本研究によって, 実際に臨床から分離したE. んec0臣sおよびSaUreMsの新キノ口ン剤高 度耐 性が , 主と してDNAのスーパーコイリ ング活性を担うDNAジャイレ ―スのサブュニッ トAの変異に原因することを明らかにすると共に,その酎性レベルに薬剤の汲み出し機構(active efflux)の変化が大きく寄与する可能性を明らかにした。

  本研究の結果を要約すると,

(2)

l.腸球菌であるE. faecalisおよびE. faeciumの臨床分離床にっいて年度別に各種抗菌剤   へ の 感 受 性 を 調 べ , 両 菌 種 の 新 キ ノ ロ ン 剤 へ の 耐 性 化 を 明 ら か に し た 。 2. E. faecalisの新 キノロン感受性株ATCC19433から分離したDNAジャイレー スのスー   パーコイリング活性はオールドキノロン剤であるナリジキシ酸やピペミド酸では阻害されな   いが,新キノロン剤で強く阻害され,各薬剤め50%阻害濃度(IC50)は最小発育阻止濃度   (MIC)と比較して10〜30倍高かったが,両者の間に良好な相関が認められた。この結果   から,E.faecalisにおいても新キノロン斉Kり標的酵素はDNAジャイレ―スであると考え   られ,ナリジキシ 酸やピペミド酸に較ベ本系統薬剤が優れた抗菌活性を示す原因はDNA   ジャイレースに対する強い阻害作用による考えられた。

3. E. faecalisの新キノロン剤高度耐性株MS16968および中等度耐性株16996から分離した

.DNAジャイレースの サブュニットとATCC19433株 のサブュニッ卜から再構成した酵素に   対する新キノ口ン 剤の阻害実験から,耐性株のDNAジャイレースのサブュニッ卜Aの耐   性変異が明らかと なった。しかし,DNAジャイ レースの阻害実験からはMS16968株に対   す る新 キ ノロ ン剤 のMICがMS16996株より2〜4倍高い両耐性株間の耐性レベ ルの差は   説明出来なかった。、

4.上記の耐性株間の耐性レベルの差の原因を明らかにするため,各菌株における新キノ口ン   剤の取り込みにっいて検討した。その結果,MS16968株ではMS16996株より取り込み量が   K〜1/5と明らかに少なく,薬剤の取り込み量の差が耐性レベルに関与していることが示唆さ   れた。さらに,工 ネルギー阻害剤であるcarbonyl cyanide m‑chlorophenylhydrazone   (CCCP)を用いた実 験から,E.faecalisの新キ ノロン剤の取り込みに能動的汲み出し   (active efflux)と考えられる菌体内の薬剤濃度を減少させる機構が存在することを認め,

  その機構の変化によると思われる薬剤汲み出しの効率の差異が両酎性株間の耐性レベルの差   となって表れることが示唆された。

5.臨床分離s. aureLts212株の新キノロン剤への感受性を調べ,本菌種の耐性化を確認した。

6.次いで,E. faecalisでの知見をもとにs.aureusの新キノ口ン耐性機構を解明する目的   で,臨床分離耐性 株におけるDNAジャイレースの性質および薬剤の菌体内取り込みの両   面から検討を加えた。新キノ口ン剤感受性の標準株であるSA113株から分離したDNAジャ   イレースのスーパーコイリング活性はナリジキシ酸では阻害されないが,新キノロン剤で強   く阻害され,各薬剤のICヨ。はMICと良好な相関を示した。従って,s.aureusにおいて   も 新 キ ノ 口 ン 剤 の 主 た る 標 的 はDNAジ ャ イ レ ー ス で あ る 考 え ら れ た 。

(3)

  6.新キノ口 ン剤に高度耐性を示した臨床 分離株MS16405のDNAジャイ レースは新キノ口     ン剤に対して耐性を示し,またそのサブュニットとSA113株のサブュニットとの再構成実   験の結果から ,本株においてもE. faecalisの新キノ口ン剤耐性株の場合と同様に,DNA     ジャイレースのサブュニットAの変異が新キノ口ン剤耐性化の要因であることが明らかと     なった。

  7.さらに,SA113とMS16405両株における新キノ口ン剤取り込みにっいて検討した所,MS     16405の各薬剤の取り込みがSA113株と比較して著しく低いことを認めた。この両菌株間の     取り込みの差は,他の新キノ口ン剤と比較してシプロフ口キサシンやノルフ口キサシン等の     親水性キノ ロン剤で顕著であった。さらに,CCCPの新キノ口ン剤取り込みに対する効果     から,本系統薬剤の取り込み過程にactive effluxと考えられる親水性キノ口ン剤の菌体内     濃度を減少させる機構が関与している事,およびその機構の変化がs. aureusにおける新     キノ口ン剤への耐性レベルに大きな影響を与えている可能性を明らかにした。以上の実験結     果から,MS16405株の新キノロン剤耐性は,DNAジャイレースのサブュニットAと薬剤取     り込み過程の二重の変異によるものと結論した。

  以上の結果, グラ厶陽性球菌であるE.faecalisおよびS.aureusからDNAジャイレ―ス をそれぞれ部分精製し,それらの酵素がE. coliやBacillus subtiZisなどの酵素と類似した生 化学的性質を持っことを明らかにした。また,新キノ口ン剤のこれらグラム陽性球菌に対する優 れた抗菌力tま ,グラム陰性菌に対すると同様に標的酵素であるDNAジャイレースに対する強 い阻害作用によ ること,臨床分離株の新キノ口ン剤耐性はDNAジャイレースのサブュニット Aの耐性変異が主な原因であることを明らかにした。さらに,薬剤取り込み過程を詳細に検討し,

薬剤取り込みにはactive efflux機構が関与しており,その変異による変化がグラム陽性球菌の 新 キ ノ 口 ン 剤 へ の 耐 性 レ ベ ル を 増 大 さ せ て い る 可 能 性 を 明 ら か に し た 。

(4)

学位論文審査の要旨

  本 論文は 和文82頁,図20,表15,引用 文献138 研究史 ,2章,和 文およ び英文総括からなり,

ほ かに参 考論文12編が 付され ている 。

  ノ ルフロ キサ シンを 始めと する新 キノロ ン剤 は,グ ラム陽 性菌ま で拡 大した抗菌スペクトルと 強 い抗菌 活性を 有する 合成 抗菌剤 として 臨床で 広く 用いら れてい る。新 キノ口 ン剤では染色体外 遺 伝子に よる耐 性伝播 は報 告され ておらず,臨床における耐性の蔓延は起こらないとされてきた。

し かし, 新キノ 口ン剤 の使 用量の 増加に 伴い, 臨床 上重要 な菌種 で耐性 菌が急 速に増加し,憂慮 す べ き 問 題と な っ て い るの が現 状で ある。 新キノ 口ン剤 耐性株 機構 は,こ れまて 主とし てEs・ cherichia coliで 解 析 が な され て お り ,DNAジ ャ イレー スの 耐性変 異およ び菌対 外膜 蛋白質 の 変 化によ る薬剤 透過性 の低 下に起 因する ことが 証明 されて いる。 一方, グラム 陽性菌の耐性機構 は ,臨床 におけ る耐性 菌の 明らか な増加 にも拘 らず これま で殆ど 明らか にされ ておらず,耐性菌 に 有 効 な 薬 剤 の 探 索 お よ び 治 療 法 の 改 善 の た め に , そ の 詳 細 な 研 究 が 望 ま れ て い た 。   本 研 究で は , 臨 床 上重 要 な グ ラ ム陽 性 球 菌 で あるEnterococcus faecalisおよ びStaphylo‑

coccus aureusに 対 す る 新 キ ノ 口 ン剤 の 耐 性 機 構 の解 明 を 目 的 とし て , 耐 性 株のDNAジ ャイ レ ースの 酵素的 性質を 調べ ると共 に,薬 剤の菌 体内 取り込 みにっ いて検 討し, 両菌種における新 キ ノ口ン 剤耐性 機構を 明ら かにし たもの である 。

  第 二編, 研究 史では ,新キ ノ口ン 剤の作 用機 作,菌 体内透 過機構 およ び耐性機構に関する研究 史 にっい て述べ られて いる 。

  第 三編実 験の部 ,第 一章は ,E. faecalisの 新キノ 口ン剤 耐性機 構にっ いて 述べら れ,下 記の 内 容が含 まれて いる。

  1.腸 球 菌 で あ るE. faecaZisとE.faeciumの 臨 床 分 離 株に っ い て , 分離年 度別に 各種 抗菌     剤 へ の 感 受 性 を 調 べ , 両 菌 種 の 新 キ ノ 口 ン 剤 に 対 す る 耐 性 化 を 明 ら か に し た 。   2. E.  faecalisの 新 キノ 口 ン 剤 感 受性 株ATCC19433か ら 分 離 し たDNAジ ャイレ ースの スー     パ ーコ イリン グ活性 は新キ ノ口 ン剤で 強く阻 害され ,各薬 剤の50%阻害 濃度(ICわ。)と最     小 阻 止 濃 度 (MIC)間 に良 好 な 相 関 を認 め , 本 菌 種に お い て も 新キ ノ 口ン剤 の標的 酵素 は

男 哉

房 誠

田 葉

冨 千

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

    DNAジャイレースであることを明らかにした。

  3. E. faecalisの新キノ口ン高度耐性株MS16968および中等度耐性株MS16996からそれぞ     れ分離したDNAジャイレースのサブュニッ トとATCC19433サブュニット間の再構成実験     を行い,DNAジャイレースのサブュニットAの耐性変異が両耐性株の新キノ口ン剤耐性の     原因であることを明らかにした。

  4.耐性株間の耐性レベルの差の原因を明らかにするため,両耐性株における新キノロン剤の     取り込みを測 定した。また,工ネルギー阻害剤のcarbonyl cyanide m‑chlorophenylhy‑

    drazone(CCCP)を用いた薬剤取り込み実験から,E.faecalisの新キノロン剤の取り込     みに能動的汲み出し(active efflux)が存在し,その変化による薬剤取り込み量の差が耐性     レベルの差に関与していることを示唆した。

  第二章では,s. aureusの新キノロン剤耐性機構にっいて述べられ,下記の内容が含まれて いる。

  1.臨床から分離されたS. aureus212株の新キノロン剤に対する感受性を測定し,本菌種の     耐性化を確認した。

  2.新キノ ロン剤感受性株SA113からDNAジャイレースを分離し,そ のスーパーコイリン     グ活性に対する新キノ口ン剤のIC。。がMICと良好な相関を示すことを見いだし,S.au‑

    reusに お け る 本 系統 薬剤 の標 的もDNAジャ イ レ― スで ある こと を 明ら かに した 。   3.新キノ ロン剤に高度耐性を示した 臨床分離株MS16405から分離 したDNAジャイレース     のサブュニッ トとSA113のサブュニットと の再構成実験から,本株においてもDNAジャ     イレースのサブュニットAの変異が新キノ口ン剤耐性の主因であることを明らかにした。

  4.  SA113およ びMS16405両株の新キノ口ン剤取り込みを測定し,MS16405株の薬剤取り込     みがSA113株と較ベ著しく低いこと,また,この取り込みの差は親水性キノ口ン剤に顕著     であることを認めた。さらに,CCCPの取り込みに及ぼす効果から,active effluxと考え     られる親水性キノ口ン剤の菌体内濃度を減少させる機構が関与しており,その変化がs.     aureusにおけ る新キノ口ン剤への耐性レ ベルに寄与している可能性を明らかにした。

  以上のように,E. faecalisおよびs.aureusの新キノロン剤の作用および耐性機構をDNA ジャイレースおよび薬剤取り込みの両面から解析を行い,グラム陽性球菌における新キノ口ン剤 耐性機構の解明に関して基礎的な貢献を果たした。

  よって,審査員一同は別に行った学力確認試験の結果と併せて,本論文の提出者中西憲之は博 士(農学)の学位を受けるのに充分な資格があるものと認定した。

参照

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