博 士 ( 農 学 ) 西 村 勝 美
学 位 論 文 題 名
製材の生産方式とスギ並物製材の生産システムに関する研究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論 文は 戦後植 林され たスギ 中小 並丸太を対象と、して生産規模,生産品目・品質,生産能率・
コス トを踏 まえ た効率 的な製 材シス テムの 確立 を目的 にして ,その 基本 となる 生産プ口セスの設 計方 法にっ いて 論述し たもの である 。
序論 では ,製材 原木の 供給動 向と それに 伴った 製材業 の生産 ・経 営構造 の変化を概括的にふれ たの ち,こ れら の今日 的な特 質と問 題点を摘出したうえで,本論文の目的と課題を設定している。
国 内 の 木材 市 場 は , 現在 ま で1/4世 紀にわ たって 外材主 導型で 形成 され, 製材業 の原料 もそ の 7剖は輸 入丸太 に依存している。しかし産地国の伐採制限・工業化政策ナょと.の強化から,わが国 の丸 太輸入 の基 盤が大 きく崩 れっっ ある。 この 中で製 材業は ,輸入 製品 との市 場競争にさらされ 生産 ・経営 構造 の転換 が求め られて いる。 また 一方で は,戦 後造林 木の 成熟化 に伴って,中小径 木を 主体に した 供給が 全国的 に漸次 増大し ,し かも近 未来的 にも大 幅な 増加が 期待されている。
国内 林業・ 国産 材は長 期にわ たり外 材支配 の木 材市場 構造に 組み込 まれ てきた が,本研究ではそ の失 地回復 のひ とっに ,この 中小径 木に対 し適 正な製 材シス テムを 確立 するこ とにあるという理 解に たち, その ために も基本 となる 生産プ ロセ スは経 済合理 性をも っも のでな ければならないと して ,その 科学 的な究 明を課 題に設 定した もの である 。
第1編 の「 わが国 製材業 の展開 過程 と生産 技術に 関する 研究」 では ,製材 業の展 開過程 を主 と して 経営構 造の 変貌態 様と生 産技術 の発展 動向 に焦点 をあて て具体 的に 分析し ,あわせてこれら を規 定して きた 木材市 場と社 会経済 的背景 にっ いて解 明している。国内の製材業tま,大正中期か ら昭 和初期 にか けて開 発され た国産 材用の 製材 機械に よって ,集約 的な 生産技 術を可能にさせ,
地場 需要に 結び っいた 零細工 場を増 加させ てき た。し かし, 本格的 な製 材業の 成長・発展は,戦 後の 高度経 済成 長過程 とその 後も続 く外材 輸入 の増大 傾向の 中であ った 。その 過程では,集約的 な生 産技術 を基 底にお く主と して国 産材利 用の 零細・ 小規模 層の没 落の 一方で ,機械化や自動化 によ る量産 化技 術を基 底にお く,主 として 外材 利用の 中規模 層以上 の成 長・発 展という,階層分 化で あり, 上層 工場へ の生産 の集中 化は現 在も なお続 いてい る。そ れは また従 来までの国産並物
工場の 外材 への樹 手重転 換を促 進させ,なかでもスギ並物工場は設備に大幅な変更を伴わない北洋 材や米 材の 小丸太 の利用 へと向 わせた。また一方,国産材製材は外材との競合を回避する意味で,
集約的 な生 産技術 による 高品位 製材に 特化 させ, 使用丸 太を形 質的 に特定 して小角主体・並角主 体・羽 柄材 主体な どの専 門工場 を形成させ,外材との価格競争に向うものを現出させた。しかし,
後者に おけ る使用 丸太は 戦後の 植林に かか わる並 材を主 体とす るも ので, 現在までのところ,そ の安定 的な 確保を 可能と する地 域・地 帯は 限定さ れてい る。さ らに ,並物 製材の基本的な生産方 式は, 量産 による 低コス ト化に あるが ,現 実の専 門工場 も市場 競合 材との 価格・品質との関連で い え ば , そ の 経 済 的 生 産 規 模 , 設 備・ 工 程 , 生 産技 術 面 で 問 題 も多 い の が 実 態で も あ る 。 第2編の「 国産 材製材 の生産 方式と スギ製 材の 経営技 術的研 究」で は, 製材業 の経営 技術を 主 として 使用 原木の 内容と 生産品 目で規 定さ れる生 産方式 との関 連で とらえ ,国際競争カの保持に むけた 工場 経営の あり方 に論及 したの ち, 国産材 製材の 方向性 をと くにス ギ製材に焦点をあて,
原木の 形質 と製材 木取り ,市場 競争カ と製 材コス ト,経 済的生 産規 模など の側面から,効率的な 製材シ ステ ムにっ いて検 討を加 えてい る。 わが国 の製材 マーケ ット におけ る輸入製品は,すでに 30%強 のシェ アを占 めてい るが ,産地 国の対 日輸出 策など から みてさ らに上 昇することも考えら れる。 製材 業の国 際競争 カの保 持に対 する 基本課 題は, 低コス ト化 と品質 向上,さらには既製品 の改良 ,高 次加工 にむけ た技術 革新に ある 。その 内容は 国産材 ・外 材製材 とも,それぞれの生産 方式に 基づ いて経 営戦略 ・使用 原木・ 適用 技術・ 生産形 態・主 カ製 品・販 売市場などから検討し ていく 必要 がある が,本 編では それら に対 する一 定の方 向性を 提示 してい る。とくに国産材製材 の場合 ,価 値重視 の生産 方式で は,適 材と する良 質原木 の供給 減少 ,熟練 工の不足,当該製品の 需要滅 少な どから 高付加 価値化 の技術 導入 が不可 欠にな ってい る。 また並 物製材における能率重 視の生 産方 式では ,戦後 造林木 の本格 的な 供給に むけて ,市場 競合 材と価 格・品質的にも優位な 経営・ 生産 技術の 確立が 必要に なって いる 。戦後 造林木 の供給 は, 一部の 地域・地帯を除けば,
当面, 中小 径木の 並丸太 が主流 になっ てく ること も予想 される 。ス ギ並物 製材は,並柱や羽柄材 が主体 的な 生産品 目であ って, もともと製品価格が相対的に低いうえに,すでにべイ`ソガを主体 とした 外材 針葉樹 製材と 代替関 係にあ る。 したが ってス ギ並物 製材 の生産 方式は,少なくともベ イッガ 製材 のコス ト5,000〜6,000円/ボを目標に検討する必要がある。この目標コストと設備投 資額, 労働 生産性 の関連 分析か ら検証された経済的な日産規模は,40〜 50而(目標コスト5,500
〜6,000円/而 ),80〜90ボ(同約5,500円/ボ),120〜130ボ(同約5,000円/ボ)と3段階ある ことが 認め られた 。しか し,全 国的な スギ 造林地 の成熟 度や供 給基 盤とし ての口ットの大きさ,
設備投 資力 ,労働 力,さ らに製 品販路の確保などを考慮すると,当面,目標コストを5,500〜6,0
00円 /而に おき つつ, 日産40‑‑‑50冊(年間約10,000ボ前後)に設定すべきである。しかし,これ は 国産材 製材の 生産 規模と しては かなり 大きい もの である 。この ため使 用原木としては,並材で あ っも多 少上位 級の 品質を 含めて ,実効 性のあ る経 済的生 産規模 を設定 すべきである。このこと は また, 工場経 営の 採算面 からも ,平均 的な製 品単 価の上 昇によ り生産 額の増大を図る意味から も ,重要 な課題 にな る。
第3編 の「ス ギ並物 製材 の生産 システ ムの設 計に 関する 研究」 では, スギ並 物製 材の効 率的な 生 産方式 の確立 を目 標にし て,そ の基本 となる 生産 プ口セ スの設 計方法 を,小径木専門工場・中 目 工場・ 全径級 込み 工場と3っ の具体 例に基 づき, .経営技術的な分析手法により検討し,あわせ て 工場運 営の実 効性 にっい て製材 コスト および 採算 面から 検証を 加えて いる。ここで設定した生 産 規模は ,今後 に大 幅な供 給増が 期待さ れると して も,当 面は供 給基盤 の整備に一定期間を要す る ことと 工場経 営の 採算性 を考慮 して, 使用原 木に は若干 上位級 の品質 を含めて日産規模を,小 径 木専門 工場で40ボ(年間約10,000ボ),中目工場で30ボ(同約8,000而),全径級込み工場で20 耐 (同約5,000 ITl3)とした 。ここで重要なことは,品質的に上位級の原木にはそれに則した高能 率 ・低コ スト化 の生 産技術 が与え られな ければ なら ないこ とであ る。そ こでは製材歩止り・品目
・ 品質・ 作業性 など から検 討を加え,18型のスギ並材に対する「最適化木取り」を提示している。
次 いでこ の木取 型を 基礎に し,試 験挽き デ一夕 によ って工 程間の 機械的 ・人的作業分担と作業量 を 求め, 機械設 備と その容 量なら びに所 要人数 を決 定した 。また 機械設 備にっいては現実の工場 調 査でえ た作業 分析 結果を 基礎に し,適 正な稼 動率 になる よう設 備ライ ンを決定している。さら に 以上の 分析を 経て 決定し た設備 ライン にっい て, 投資の 経済性 を製材 コストや工場運営の採算 面 から考 察を加 え, 目標コ ストの 達成と 収益性 の確 保が可 能なこ とを証 明した。以上における一 連 の分析 結果は ,3タイプ の工 場で設 定した 一定モ デル下 のも のであ るが, 設定条 件に 具体的 な デ ータを とり入 れる ことに よって 多様な ケース に対 処でき ,スギ 並材に 含まれる原木形質の違い を 考 慮 し た 製 材 の 生 産 プ ロ セ ス 設 計 に 有 効 な 分 析 手 段 で あ る と 考 え ら れ る 。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 霜 鳥 茂 副 査 教 授 深 沢 和 三 副 査 教 授 和 孝 雄 副査 助教授 上田恒司
本論 文はス ギの中 小径木 の並丸 太を 対象と して, 生産規 模・ 品目・ 品質と 生産能率・コストを ふまえ た効率 的な 製材シ ステム の確立 を目 的とし て,そ の基本 となる 生産 プ口セスの設計方法に っ いて 論 述 し た ,表43, 図8を 含 む3編9章 か ら な る総 頁 数153頁 の 和 文 論文 である 。ほ かに参 考 論文60編か 添え られて いる。 現在, 木材需 要の7割が 外材 で占め られ, 国産材 はこ れとの 競合 の中に あり, また 戦後の 造林木 が成熟 期を 迎え中 小径木 が多く 出回り 始め ている中で,この研究 の意義 は大き い。
第1編の 「わが 国製材 業の 展開過 程と生 産技術 に関す る研 究」で は,わ が国製 材業 の展開 過程 を主と して経 営構 造の変 貌態様 と生産 技術 の発展 動向に 焦点を あてて 分析 し,あわせてそれらを 規定し てきた 木材市場と社会経済的背景にっいて解明している。その結果,(1)戦後における製材 工場の 設備拡 大は 総工場 数の漸 減傾向 のも とで外 材を梃 子とし て進展 した が,それはまず,零細
・小規 模層の 没落 を伴っ た総工 場数の 減少 と,中 規模層 以上で の外材 利用 工場の増加という,階 層分化 の中で の工 場再編 である こと。(2)外 材の 多量輸 入の中で,これと競合し易い並材製材工場 では, 原料を 特に 生産設 備に大 幅な変 更を 伴わな い北洋 材や米 材の小 丸太 などに求め,一方では 外材製 材との 競合 を回避 する意 味で, 使用 丸太を 形質的 に特定 しつつ ,小 角主体・並角主体・羽 柄材主 体・造 作材 主体な ど,生 産品目 を特 化させ る方法 で専門 工場を 形成 したこと,などを指摘 し,(3) スギ並 物製材では高品位製材の収率増大よりも市場競合材との関連から高能率・低コスト 化の生 産方式 を設 定すべ きであ ると結 論づ けてぃ る。
第2編の 「国産 材製材 の生 産方式 とスギ 製材の 経営技 術的 研究」 では, 製材工 場の 経営技 術を 主とし て使用 原木 の内容 と生産 品目に より 規定さ れる生 産方式 との関 連で とらえ,国産材・外材 製材工 場別に 工場 経営の あり方 を論考 した のち, スギ製 材を対 象とし て, 原木の形質と製材木取 り,市 場競争 カと 生産コ スト, 経済的 生産 規模の 側面か ら,効 率的な 製材 システムを提示してい る。ま ず,(1) 国際競争下における再展開への基本課題は,高能率化と低コスト化に向けた生産方 式の設 定であ ると して, 経営戦 略・使 用原 木・適 用技術 ・製材 生産形 態・ 主カ製材品などを提示
してい る。また,(2)木材市場の 場合,基本的には地 域市場であることを反映して,地域・地帯別 に 特有 な 原木 仕分 け 方法 があ り ,それが生産 方式を規定している としながらも,小 丸太(末口径 5〜 13cm) で は径 級に 応 じて 心持ち のダンネージ・た る木・間柱・根太 ・押角・母屋角を1丁と し た主 製 品を 生産 し ,中 丸太 ( 末口 径14〜28cm)にお いては主体 は柱適寸丸太を対 象にした柱角 サ イズ の 製品を, また大丸太(末口径30c:m以 上)の製材は,一般 には心去り柱を主 製品として役 物 造作 材 を混 合し た 木取 り方 法 を採用すべき であると述べている 。さらにこのよう な考え方を基 本とし たスギ製材の分析結 果として,(1)スギ製材で は,目標コスト,設備投資額,労働生産性の 側面か ら日産40〜50而(目 標コスト5,500円 〜6,000円,年間260日の操業),日産80〜 90耐(目標 コ スト5,500円) ,日産120〜130而( 目標コスト5,000円)と3段 階で経済的規模が 適正であると 認 めら れ ること。 しかし,(2)全国的なスギ造 林地の成熟度合いや 供給基盤としての 口ットの大き さ1設備 投資 力 ,労 働力 , さら に製 品 販路 の確 保 など 考慮すると ,当面は,目標コ ストをべイツ ガ 並の5,500〜6,000円 /而 に おきつつ,日 産40〜50m(年間1万m3前後)が妥当で あることを指 摘して いる。
第3編 の「 ス ギ並 物製 材 の生 産シ ス テム の設 計 に関 する研究」 では,スギ製材の 効率的な生産 方 式の 確 立を 目標 に して ,そ の 基本となる生 産プ口セスの設計方 法を,小径木専門 工場・中目工 場 ・全 径 級込 み工 場 の3っ の具 体例 に 基づ き経 営 技術 的な分析方 法により検討し, あわせて工場 運営の 実効性にっいて製材 コスト及び採算面 から検証を加えて いる。その結果,(1)第2編の分析 で その 経 済性 が認 め られ た3段 階の 規 模の もの も ,今 後大幅な原 木供給増かあると しても,当面 の 生 産 規 模は 年間 , 小径 木専 門 工場 で1万m,中 径木 専 門工 場で8千J竹 ,全 径 級込 み工 場 では5 千 而に お き, 目標 コ スト を原 木1而 当 たり6,000円に 設定した現 実的な製材システ ムを確立すべ きであ るとしている。また ,(2) 高能率・低コストを 指向する生産技術は,並材においては品質的 に 多様 な もの が含 ま れる とし て も上位級の原 木において高品位な 製品が期待しうる という内容で 設定さ れなければならない とする。さらに, (3)原木 形質別に18種の木取り型を示し,並物製材の 生 産工 程 での 上位 級 の原 木に 即 した木取り技 術を「最適化木取り 」として,これに 基づく工程間 の 作業 分 担を 決め , 同時 にこ れ に基づく作業 量から機械設備とそ の容量ならびに所 要人員を決定 し ,機 械 別・人的 作業別に効率性を検 討のうえ設備の稼 働率を求めている 。さらに,(4にのよう な 分析 結 果を 経て 決 定し た設 備 ラインにっい て,その投資の経済 性を製材コストや 工場運営の採 算面か ら考察を加え,有効 性を検証している 。
本論 文 は製 材技 術 をべ ース に した経営工学 的手法により,製材 システムの確立を 目的とした生 産 プ口 セ スの 新設 計 法を 提示 し たもので,木 材工業経営学と木材 加工学の両分野に またがる新し
い研究分野である。従ってその成果は学術上高く評価されるばかりでなく,実践的な指導を合め て製材業経営に貢献するところが極めて大きい。
よって審査員一同は,別に行った学力確認試験の結果とあわせて,本論文の提出者西村勝美は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。