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博 士 ( 医 学 ) 谷 野 美 智 枝

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 谷 野 美 智 枝

     学 位 論 文 題 名

    Increased Levels of Interleukin‑8 in BAL Fluid from Smokers Susceptible to Pulmonary Emphysema      ( 肺 気 腫 を 発 症 し や す い 喫 煙 者 に お け る      気 管 支 肺 胞 洗 浄 液 中 イ ン タ ー ロ イ キ ン 8 の 上 昇 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

【研究目的】

  肺 気 腫 は 長 年 の 喫 煙 に よ り 肺 胞 壁 エ ラ ス チ ン が 不 可 逆 的 に 破 壊 さ れ て 起 こ る 疾 患 で 、 そ の 病 因 は 肺 内 の プ ロ テ ア ー ゼ ・ ア ン チ プ ロ テ ア ー ゼ 不 均 衡 で 説 明 さ れ る 。 エ ラ ス チ ン 分 解 能 を 有 す る プ ロ テ ア ー ゼ は マ ク ロ フ ァ ー ジ や 好 中 球 な ど の 炎 症 細 胞 由 来 で あ り 喫 煙 に よ っ て 誘 導 され る。

こ の 仮 説 を 証 明 す る 成 績 は 数 多 く 存 在 す る が 、 な ぜ 一 部 の 喫 煙 者 だ け が 肺 気 腫 に な る か を 説 明 す る も の は な い 。 我 々 は こ れ ま で に 自 覚 症 状 の な い 多 数 の 中 高 年 者 を 対 象 に 高 分 解 能CT検 査 で 肺 気 腫 病 変 の 有 無 を 診 断 し 、 さ ら に 気 管 支 肺 胞 洗 浄(BAL)検 査 を 行 っ て 、 早 期 肺 気 腫 患 者 と 同 程 度 に 喫 煙 歴 が 有 り な が ら 病 変 が な い 健 常 者 と の 比 較 を す る 一 連 の 研 究 を 行 っ て き た 。 そ の結 果、

両 群 でBAL液 中 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ 数 や 好 中 球 数 は 同 程 度 に 上 昇 し て い る に も か か わ ら ず 、 患 者 群 で はBAL液 中 好 中 球 エ ラ ス タ ー ゼ .alア ン チ ト リ プ シ ン(NE‑alPI)複 合 体 量 が 多 い こ と 、 こ の 複 合 体 量 が エ ラス チ ン分 解産 物 であ るelastin‑derived peptide量と 有 意に 相関 す るこ と、

好 中 球 特 異 的 蛋 白 で あ るhuman neutrophil lipocalin  (HNL)濃 度 が有 意に 高 いこ とな ど を報 告し て き た 。 こ れ ら の 成 績 は い ず れ も 好 中 球 活 性 化 が 肺 気 腫 病 変 形 成 に 関 与 し て い る 可 能 性 を 示 唆 す る 。 そ こ で 、 本 研 究 で は こ の 背 景 に あ る 機 序 を 知 る た め に 、3種 類 の 好 中 球 遊 走 活 性 化 因 子 、 interleukin‑8 (IL‑8),epithelial neutrophil activating protein‑78 (ENA‑78),leukotriene B4 (LTB4) 2種 類 の 単 球 系 遊 走 因 子 、monocyte chemoattractant protein‑l (MCP‑1) ,macrophage inflammatory protein1a(MIP‑1d) のBAL液 中 濃 度 を 同 様 の 対 象 群 で 測 定 し た 。 さ ら にBAL IL‑8の 細 胞 起 源 の ー っ と し て 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ に 着 目 し 、 培 養 上 清 中 濃 度 とIL‑8 mRNA を定量評価した 。

【 対 象 、 方 法 】

  対 象 は 明 ら か な 呼 吸 器 症 状 は な い が 肺 疾 患 の 検 診 を 目 的 と し て 北 大 第 一 内 科 を 受 診 し た61 の 中 高 年 者 で あ る ( 男 性55名 、 女 性6名 ; 平 均 年 齢5511SD歳 ) 。 問 診 、 血 液 検 査 、 呼 吸 機 能 検 査 、 肺 高 分 解 能CT検 査 を 行 い 、 肺 気 腫 病 変 の な い 過 去 喫 煙 者7名 ( 非 喫 煙 者2名 を 含 む ) 、 肺 気 腫 病 変 の あ る 過 去 喫 煙 者9名 、 肺 気 腫 病 変 の な い 現 在 喫 煙 者20名 、 気 腫 病 変 の あ る 現 在 喫 煙 者25名 の4群 に 分 類 し た 。BALは 気 管 支 鏡 を 右 肺 中 葉 亜 区 域 支 に 喫 入 し 、 生 理 的 食 塩 水 を50mlず っ4回 に 分 け て 注 入 と 吸 引 を 繰 り 返 し た 。 肺 胞 領 域 を よ り 反 映 す る と さ れ る 後 半 3回 分 の 回 収 液 を 今 回 の 研 究 に 用 い た 。 ガ ‐ ゼ で 濾 過 し て 粘 液 を 除 去 し た 後 遠 心 分 離 し 細 胞 成 分 と 上 清 に 分 け た 。 細 胞 成 分 に つ い て は 総 細 胞 数 、 細 胞 分 画 を 算 定 し 、 上 清 は 回 収 量 を 測 っ た ‑70℃ で 保 存 し た 。NE‑ alPI複 合 体 ,ENA‑78LTB4濃 度 はBAL原 液 で 、IL‑8MCP‑1MIP‑‑1 a濃 度 は 、BAL液 を 遠 心 式 簡 易 濃 縮 器 で10倍 か ら15倍 に 濃 縮 し た う え で い ず れ もELISA に よ り 測 定 し た 。 得 ら れ た 肺 胞 マ ク ロ フ ァ ー ジ は24時 間 無 刺 激 下 で 培 養 し 、 そ の 上 清 中 のIL‑

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8濃度を測定した。そのうち16名の喫煙者については、肺胞マクロファ―ジの総RNAを抽出 して、fluorogenIcrealtimeRT.PCR法により細胞数あたりのIL18mRNA量を比較検討した。統 計は、年齢、呼吸機能検査値、BAL液中の炎症細胞数については4群問でANOVAを行った後、

各2群間の検定にはFisher法を用いた。遊走活性化因子の濃度については正規分布をしていな かったため、4群問の検定にKruskaトWa‖lstestを行った後、2群間の差異をMann.WhitneyUtest で検討した。いずれの場合もpくO.05を有意とした。

【結果】

  喫煙指数は、肺気腫病変の有無にかかわらず現在喫煙者2群問では同様であった。呼吸機能 検査では対標準一秒量、一秒率、肺拡散能のいずれも肺気腫病変のある喫煙者で病変のない喫 煙者に比べて軽度ではあるが有意に低く、呼吸生理学的にも軽度の肺気腫の存在が確認された。

BAL液中総細胞数、肺胞マクロファ―ジ比率は現在喫煙者2群では過去喫煙者2群と比較して 有意に増加しており慢性喫煙の影響を認めた。しかし、現在喫煙者2群問では肺胞マクロファ

―ジ数、好中球数に有意差はなかった。BAL液中IL‑8濃度は肺気腫病変のある現在喫煙者では 病変のない現在喫煙者に比べて有意に高く、しかも全体としてIL‑8濃度はNE‑alPI複合体量 と有意に相関した。一方、LTB4濃度は肺気腫病変のある過去喫煙者では病変のない2群と比較 して有意に高かったが、現在喫煙者2群間では有意差がなかった。ENA‑78濃度は4群問で有 意差がなかった。また、MCP‑1,MIP‑1ゼ濃度に関しても、4群問で有意差がなかった。肺胞マ クロファージ培養上清中のIL‑8濃度は現在喫煙者2群間で差異がなく、しかも、現在喫煙者2 群では過去喫煙者2群に比ぺて有意に低かった。また、肺胞マクロファージのIL‑8 mRNA量も 現在喫煙者2群間で有意差がなかった。

【考察】

  この研究の特徴は、その対象として臨床的に明らかな肺気腫患者ではなく、高分解能CT検査 によって早期肺気腫病変を有する被検者を選んでいることである。喫煙歴がほぽ同様な肺気腫 病変なし群と比較検討することにより、喫煙者の中で肺気腫を発症する者としない者との差を 明らかにすることが可能と考えた。この喫煙者の2群ではBAL液中総細胞数や肺胞マクロファ ージ数は過去喫煙者の2群と比べて同程度に増えており、好中球数にも全く差がない。しかし、

BAL液中の3種類の好中球遊走活性化因子と2種類の単球系遊走活性化因子を検討したところ、

唯‑IL‑8濃度がこの2群を分け、しかもNE‑ゼ1PI複合体量と相関することが示された。ENA‑78.

LTB4もIL‑8と同様に強カな好中球遊走活性化因子であり、明らかな気道炎症を有する進行し た肺気腫患者の喀痰ではいずれもIL‑8と同様に増加していると報告されている。今回の研究で は、自覚症状がない早期肺気腫患者では進行した肺気腫患者とは違って、BAL液中の3種類の 好中球遊走活性化因子の動きは異なっており、早期の肺気腫病変形成過程ではIL‑8が重要な役 割を果たしている可能性を初めて示した。これまで、MCP‑1とMIPldは肺胞マク口ファージ遊 走活性化を介して肺気腫病変形成に関与していると推測されていた。しかし、いずれの因子も 現在喫煙や肺気腫病変の有無で差異を認めなかった。次に我々はBAL液中のIL‑8の細胞起源と して肺胞マクロファージに着目した。しかし、培養上清中への放出量でみてもIL‑8 mRNA量で 評価しても、肺気腫病変との関連はみいだせなかった。肺胞及び気道上皮細胞もIL‑8を産生・

放出することから、早期肺気腫患者でみられるBAL液中IL‑8濃度の上昇はこれらの上皮細胞の 喫煙に対する個体感受性で説明されるかもしれない。

【結語】

    I

  早期肺気腫病変形成過程における肺内の好中球活性化にはIL‑8の関与が示唆される。これが 喫 煙に 対 す る 肺気 腫 病 変の 起 こ りや す さ の個 体 差を 説明す る因子の ひとつ である。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   長 嶋 和 郎 副 査   教 授   加 藤 紘 之 副 査   教 授   西 村 正 治

     学位論文題名

     工ncreased Levels of Interleukin‑8 in BAL Fluid from Smokers Susceptible to Pulmonary Emphysema      ( 肺 気 腫 を 発 症 し や す い 喫 煙 者 に お け る      気管支肺胞洗浄液中インターロイキン8 の上昇)

  慢 性閉 塞性 肺 疾患(COPD)Iま在 宅酸 素を 必 要とす る原因疾患の約半数を占め世 界的に見ると 2020年 に は 死 因 の 第3位 に な る こ と が 予 想 さ れ て い る 。 肺気 腫 はCOPDの ーつ であ り 肺胞 壁 エラ スチ ンの 不 可逆 的破 壊を特徴とする疾患である 。喫煙は肺気腫発症の重要な 危険因子であ るが 、す べて の 喫煙 者が 肺気腫を発症するわけでは なく、なぜ一部の喫煙者だけ が肺気腫にな るの かは 明ら か では ない 。我々はこれまでに自覚症 状のない中高年者を対象に、 高分解能CT検 査で肺気腫の有無を診断 し、さらに気管支肺胞洗浄(BAL)検査を行い、早期肺気腫 患者と同程度 に喫 煙歴 が有 り なが ら病 変のない健常者との比較を する一連の研究を行ってきた 。その結果、

肺気 腫病 変形 成 にお いて 好中球活性化の関与が示唆 された。そこで、本研究では この背景機序 を検討する目的で、3種類 の好中球遊走活性化因子interleukin―8(IL‑8)、epithelial neutrophil activating protein‑78 (ENA‑78)、leukotriene B4 (LTB4)と2種類の単球系遊走 因子monocyte chemoattractant protein‑l (MCP‑1)、macrophage inflammatory protein‐1a(MIP‑1a)のBAL液 中濃 度を 同様 の 対象 群で 測定 した 。 さら にBAL液中IL‑8の細胞起源のーっとして 肺胞マク口フ アー ジに 着目 し 、培 養上 清中 濃度 とIL‑8 mRNA量 を定 量評 価し た 。BAL液中総細 胞数、肺胞マ ク口 ファ ―ジ 数 は現 在喫 煙者2群 では 過去 喫 煙者2群 と比 較し て有 意に 増加して おり、慢性喫 煙の影響を認めたが、現 在喫煙者2群間では肺胞マク ロファ―ジ数、好中球数に差 はなかった。

BAL液 中IL‑8濃度 は肺 気 腫病 変の ある 現在 喫 煙者で は病変のない現在喫煙者に比 べて有意に高 く、IL‑8濃度 は 好中 球エ ラス夕一ゼ.alアンチトリ プシン複合体量と有意に相関 した。一方、

ENA‑78、LTB4、MCP‑1、MIP‑1a濃 度 は現 在喫 煙者2群 間で 差が な かっ た。 また 、肺 胞 マク 口 ファ ージ 培養 上 清中 のIL‑8濃 度は 同2群間 で 差がな く、しかも現在喫煙者群では 過去喫煙者群 に比 べて 有意 に 低か った 。肺 胞マ ク ロフ ァー ジのIL‑8 mRNA量 も 現在 喫煙者2群 間で差がなか った 。以 上よ り 、早 期肺 気腫 病変 形 成に は3種類の 好中球遊走活性化因子の中でIL‑8を介した 好中球活性化が関与して おり、同じ喫煙刺激に対するIL−8産生の個体差が、肺気 腫発症の個体 差を 反映 する 可 能性 があ ると考えられた。さらにそ の個体差は、肺胞マク口ファ ージのIL‑8産 生能では説明されないこ とが示された。

  発 表後 、副 査 加藤 教授 より、肺気腫における他の 炎症性サイトカインの関与に ついての質疑 があ った 。本 研 究で 示し たように病初期にはIL‑8の 関与が示唆されるが、進行し た肺気腫患者 の 喀 痰中 にはENA−78やLTB4が増 加し てい る との 報告 があ り病 期 によ って 関与 する サ イト カ

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インが異なっている可能性があると答えた。また、喫煙・肺気腫の有無によるマクロファージ の機能への影響についての質疑があった。非喫煙者と喫煙者のマク口ファージ機能について LTB4、IL―1pなどの放出能を検討した報告があるが、今回の結果と同様に、喫煙者で放出量が低 下していると報告されており、喫煙によってマク口ファージ機能は低下している可能性がある と答えた。また、非喫煙者における肺気腫発症のりスクについての質疑があった。非喫煙者で も大気汚染、受動喫煙、職業上の塵埃などの環境因子が肺気腫発症に影響する可能性があると 答えた。続いて、副査西村教授より、BAL液中の好中球数が肺胞破壊病変部での好中球数を反 映するのかという質疑があった。BALでは肺胞に存在する一部の好中球しか回収していない可 能性があり、必ずしもエラスチンの破壊現場に集積している好中球数を反映してぃゝない可能性 があり、BAL手技の限界について答えた。また、肺気腫病変のある過去喫煙者でのLTB4濃度 上昇の意義についての質疑があった。喫煙をやめても肺気腫が進行する一部の患者が存在して おりそれらの患者の肺内での炎症にLTB4が関与している可能性があると答えた。次に肺気腫 発症の個体差を規定する因子、今後の研究の方向などについての質問があった。遺伝的背景及 び生後に獲得された免疫学的体質などが肺気腫発症の個体差を規定レている可能性があること、

今回の結果からは喫煙刺激に対する気管支・肺胞上皮細胞からのIL‑8産生の個体差が喫煙感受 性、肺気腫発症の個体差を規定している可能性が示唆されることを答えた。主査長嶋教授から は、肺気腫発症における人種差の影響についての質疑があった。人種間によって喫煙量と肺気 腫発症頻度の関係が必ずしも関係はないこと、肺気腫に関与する遺伝子多型が人種間で異なる ことから、人種差が大きい可能性を答えた。また、喫煙で肺のマクロファージが増加する理由、

末梢血液細胞が喫煙によって受ける影響などについての質疑があった。喫煙刺激によって骨髄 からの単球、未成熟な好中球の動員が末梢血中の好中球数の増加、機能の変化をもたらすこと、

肺内で肺胞マクロファージが分裂、増殖しやすい性質を獲得するという報告があることを答え た。

  審査員一同は、IL‑8を介した好中球活性化の多寡が早期肺気腫病変形成の個体差を説明する ことを示した初めての研究として高く評価し、博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を 有すると判定した。

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参照

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