ISSN1346-9479
Shinkin Central Bank Monthly Review
第8巻 第8号(通巻440号)
2009. 8
金融取引から強欲を排除することは可能か 地方公共団体の財政分析とその課題 −総務省方式改訂モデルに基づく財政分析− 中小企業の景気・財務動向 −売上高の急減で雇用・設備・債務の「3 つの過剰」が再び重荷に− 農業者向け融資を巡る最近の動向 −重要性を増す“地域貢献”の視点− 改善が進む台湾と中国の関係について −政権交代前後の両岸情勢− 農業・農政の現状と課題 −農林水産業の活性化に向けて①− 第 136 回全国中小企業景気動向調査 4∼6 月期業況はわずかな改善にとどまる 特別調査−世界同時不況下における中小企業の雇用戦略 地域密着型金融セミナーの開催 統計○対象分野は、当研究所の研究分野でもある「地域」「中小企業」「協同組織」に関連する金融・ 経済分野とし、これら分野の研究の奨励を通じて、研究者の育成を図り、もって我が国におけ る当該分野の学術研究振興に寄与することを目的としています。 ○かかる目的を効果的に実現するため、本論文募集は、①懸賞論文と異なり、募集期限を設けな い随時募集として息の長い取り組みを目指していること、②要改善点を指摘し、加筆修正後の 再応募を認める場合があること、を特徴としています。 ○信金中金月報への応募論文の掲載可否は、編集委員会が委嘱する審査員の審査結果に基づき、 編集委員会が決定するという、いわゆるレフェリー制を採用しており、本月報に掲載された論 文は当研究所ホームページにも掲載することで、広く一般に公表する機会を設けております。 詳しくは、当研究所ホームページ(http://www.scbri.jp/)に掲載されている募集要項等をご 参照ください。 編集委員会(敬称略、順不同) 委 員 長 清水啓典 一橋大学大学院 商学研究科教授 副委員長 藤野次雄 横浜市立大学 国際総合科学部教授 委 員 川波洋一 九州大学大学院 経済学研究院教授 委 員 鹿野嘉昭 同志社大学 経済学部教授 委 員 首藤 惠 早稲田大学大学院 ファイナンス研究科教授 問い合わせ先 信金中央金庫総合研究所「信金中金月報掲載論文」募集事務局(担当:寺尾、照沼) Tel : 03(5202)7671/Fax : 03(3278)7048
「信金中金月報掲載論文」募集のお知らせ
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金融取引から強欲を排除することは可能か
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信金中金月報掲載論文編集委員 鹿野嘉昭 (同志社大学経済学部教授) 特別寄稿論文地方公共団体の財政分析とその課題
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−総務省方式改訂モデルに基づく財政分析− 関東学院大学 経済学部長 望月正光 調 査中小企業の景気・財務動向
峯岸直輝20
−売上高の急減で雇用・設備・債務の「3つの過剰」が再び重荷に−農業者向け融資を巡る最近の動向
鉢嶺 実40
−重要性を増す“地域貢献”の視点−改善が進む台湾と中国の関係について
高橋宏彰55
−政権交代前後の両岸情勢−農業・農政の現状と課題
髙田 眞68
−農林水産業の活性化に向けて①− 第136回全国中小企業景気動向調査4∼6月期業況はわずかな改善にとどまる
総合研究所83
特別調査−世界同時不況下における中小企業の雇用戦略 信金中金だより地域密着型金融セミナーの開催
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信金中央金庫総合研究所活動状況(6月)
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統 計信用金庫統計、金融機関業態別統計
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月号
目次
金融取引から強欲を排除することは可能か
信金中金月報掲載論文 編集委員
鹿野 嘉昭
(同志社大学経済学部教授) 私事で恐縮ながら、私はNHKの「マネー資本主義」という特集番組を興味深く見ている。去 る6月14日に放映された第3回目は「年金マネーの“熱狂”はなぜ起きたのか」であり、内外の 年金基金が2000年のITバブル崩壊後、運用利回りの向上を狙いとしてヘッジファンドでの運用 に傾斜していく様子が鮮やかに描き出されていた。そのなかでもとくに興味を引いたのは、 ヘッジファンドの運用者が口にしていた「強欲(greed)」という言葉である。 強欲は、GM、クライスラーという大手自動車メーカーの経営者やシティグループ、リーマン ブラザーズなど金融機関の経営者が数百万ドルという巨額の報酬を得ていたことを糾弾する際 にも利用されていた。この言葉はまさに「欲の皮が突っ張った」ことを意味しており、ヘッジ ファンドが強欲ということに関し異論はない。しかし、その一方で、巨大企業の経営者が高額 の報酬を得ること自体、高度な仕事に対する報酬でもあり、単純に強欲とはいえない。 それでは、年金関係者は強欲といえるのだろうか。利益の拡大が彼らの報酬増加には直接結 びつかないという意味で、強欲とはいえない。しかし、ヘッジファンドの運用者は「彼らは強 欲」と言い切っていたのである。ヘッジファンドが提供する資産運用サービスの買い手である 年金が高利の運用を求めるから、彼らも提供せざるを得ないということなのだろう。一面の真 理を語っているのかもしれないが、所詮は「鶏か先か、卵が先か」の水掛け論である。 問題の根源はむしろ、金融取引の場合、誤解を恐れずに言うと、個人の投資家を含め、誰も が強欲になれるところにある。自動車、テレビ、洋服といった耐久消費財や日用品の場合、利 益は市場での製品に対する需要の大きさと原材料コストにより規定されるため、それが急増す ることは原則ありえない。加えて、期待したほどの売上げが得られなければ、値下げを余儀な くされたり、大量の在庫を抱えたりして損失を被るおそれもある。要すれば、メーカー等の場 合、売上げを拡大しさえすれば利益は自ずと増えるという状況にはないのである。 これに対し、金融の場合、資金調達に問題がなければ、錬金術師のごとく収益を拡大させる ことも可能となっている。その秘密の鍵は大別すると3つに分けられる。 第1は、人よりもいち早く情報を入手することである。イギリスの有力マーチャントバンクで あるロスチャイルドはナポレオンがワーテルローの戦争で敗退したことをいち早く知り、それ で株を売買して大儲けしたことが挙げられる。情報化の急速な進展により近年、そういった利 益機会は消滅したといっても過言ではない。このほか、機密情報を得た人による取引はインサイダー取引として厳しく規制されており、情報の面で優位な立場にある投資家が巨額の利益を 獲得することは現在、「夢のまた夢」と化している。 第2は、新しい投資手法を開発するとともに当該手法を秘匿し、創業者利益を独占することで ある。たとえばブラック=ショールズ・モデルのオプション価格形成への適用、市場の歪みを 利用した裁定取引の実行などが挙げられる。しかし、そうした投資手法に関する知識が普及す ると優位性が崩れ、収益機会もやがてなくなる。1998年9月におけるLTCMの破綻はまさにそ ういった投資手法の終焉を物語るものとも考えられる。 第3は、ハイリスク運用に傾斜することである。これは最も古典的な収益拡大の鍵であり、当 たれば大儲けできるが、外れると大損害を被って破綻することもありうる。そういった事態の 発生を未然に防止するため、他人のおカネを預かって運用する金融機関に対しては、健全経営 を促すべく自己資本比率規制、大口融資規制などのプルーデンス規制が課されている。 収益の追及を否定すると、資本主義は成り立ちえない。とくに金融の場合、「世に強欲の種子 はつくまじ」と揶揄されるように、強欲を抜きにしては成り立たない。それゆえ、各国当局と も金融機関による過度のリスクテイクあるいは強欲の行き過ぎに歯止めを掛けるべくプルーデ ンス政策を実施している。先月、この欄で指摘したとおり、米国ではSECが投資銀行に課して いた自己資本規制を撤廃したことが彼らによる強欲の発現を制度的に支えたのである。 もっとも、これだけですべてが語れるわけではない。時代遅れとなった業績評価体系が欲の 皮を突っ張らせようとする投資銀行の経営者やトレーダーたちの行動を後押ししたのである。 投資銀行の場合、証券業務やM&Aの仲介といったフローのビジネスに従事しているという経緯 もあり、収益を基準として成功報酬的に賃金が決められている。投資銀行の主たる業務がフ ロー商売であったときには、そういった報酬体系も是認されよう。 しかし、証券化ビジネスへの傾斜と期を一にして、彼らの仕事がフローからストック商売へ と移行するにつれ、齟齬が目立つようになった。長期のハイリスク商品であっても、当座の間、 延滞がなければ報酬は全額支払われる。したがって、当初の間だけ安全な商品を組成販売すれ ば、トレーダーおよび投資銀行は大儲けできた。このような仕組みが強欲の発現を促し、サブ プライム層向け住宅ローンの証券化というハイリスク商品の隆盛を招来したのである。 それゆえ、金融システム安定化のためには、強欲の発現を阻止するべく、証券業務に対する 規制体系を抜本的に見直すことが求められる。具体的には、自己資本を基準とする総資産規制 の徹底、ハイリスク商品に関する報酬への延払制の導入などといった措置の実施が考えられ る。オバマ大統領が本年6月に公表した金融監督規制体系の再編案に関連して、日本では監督 制度の一元化が強調されることが多い。しかし、強欲の発現を促すような誘因の除去策の実施 も重要であるとして、新たな施策の導入や規制の強化があわせて提案されている。金融取引の 行き過ぎを未然に防止するためにも、オバマ大統領には、そういった提案の早期実施を期待し たい。
(キーワード) 公会計、総務省方式改訂モデル、社会資本形成将来世代間負担比率、純資
産比率、債務償還能力
(要 旨) 公会計に基づく財務諸表の整備が地方公共団体で進んでいる。最も本質的で深刻な背景は、 わが国の低成長経済への移行と少子高齢化による地域経済の縮小への不安である。低成長経 済の下では、次年度収入が増加することは見込めず、新しい行政需要に応えられない。そこ で、過去に蓄積された資産の活用と現行の予算の見直しによる効率化が、根本から問われて いる。その手段として、地方公共団体の財政運営において、行政の効率化、いわゆる内部効 率化が必要不可欠となり、公会計の整備が切望されることとなったのである。したがって、 好むと好まざるとをえず、地方公共団体の財政活動の効率化の手段として、今後公会計の整 備は避けることはできない。 現在、(1)総務省基準モデル、(2)総務省方式改訂モデル、(3)東京都会計基準が提示さ れているが、本稿では、最も多くの地方公共団体が作成予定である総務省方式改訂モデルの 内容を説明し、公会計による財政分析の意義を明らかにする。特 別 寄 稿 論 文
地方公共団体の財政分析とその課題
−総務省方式改訂モデルに基づく財政分析−
関東学院大学 経済学部長望月 正光
【プロフィール】 1951年、山梨県生まれ。1984年東京都立大学大学院社会科学研究 科博士課程満期退学、2003年大阪市立大学博士(経済学)。現在、 関東学院大学経済学部長・教授。主要著書に、(共著)『財政学総 論』中央経済社(1996)、(単著)『公債と政府部門のストック分 析−新SNAからみた累積公債−』白桃書房(1997)、(共著)『財政 学』創成社(2000)、(共著)『日本のいまを知る経済学・経営学』 東洋経済新報社(2003)、(共著)『二元的所得税の論点と課題』日 本証券経済研究所(2004)、(共著)『財政学(改訂版)』創成社 (2004)、(共著)『第三セクター』東洋経済新報社(2007年)、(共 編著)『財政学(第3版)』創成社(2009)など。はじめに
公会計に基づく財務諸表の整備が地方公共 団体で進んでいる。総務省「地方公共団体の 平成18年度版財務書類の作成状況について」 (調査日:平成20年3月31日) によると、都 道府県及び指定都市(政令指定都市)は、全 団体が18年度決算分の財務書類を作成済み である。また、指定都市を除く市区町村は 58.2%が作成済みであり、これに作成中を加 えると71.1%が「着手済」である。 本稿の目的は、進展しつつある公会計に基 づく財務諸表によって、何が明らかになり、 どのような財政分析が可能となるのを明らか にすることである。現在、公会計に基づく財 務諸表を作成するにあたって三つのモデルが 提示されている(注)1。上述の総務省の調査に よると作成済団体の90%以上が総務省方式で 作成しているが、作成団体の10.5%が基準モ デ ル、76.0% が 総 務 省 方 式 改 訂 モ デ ル に よ り、19年度決算分以降の財務書類の作成を 予定している。そこで、本稿では、最も多く の地方公共団体が作成予定である総務省方式 改訂モデルを中心にして公会計に基づく財務 諸表の意味を明らかにする。 まず第1節において、公会計の整備が図ら れ て き た 背 景 に つ い て 検 討 す る。 第2節 で は、地方公共団体の財務諸表4表の関係につ いて説明する。財務諸表4表の有機的関連性 を把握しないと、公会計の意味する財政分析 の意義を理解することが難しくなる。第3節 は、公会計に基づく財務諸表のうち、最も重 視される貸借対照表(BS)について説明す る。とりわけ、地方公共団体の貸借対照表の 特徴について明らかにする。第4節では、地 方公共団体の資金の流れを示す資金収支計算 書(CF)について検討する。第5節は、公会 計に基づく財務諸表によって可能となった財 政分析を行う。先進的な試みを行っている浜 松市の財政分析を取り上げる。最後に、第6 節で公会計に基づく財務諸表における主要な 問題点を指摘し、今後の検討の課題を提起す ることにする。1.公会計導入の背景
地方公共団体における公会計導入とは、企 業の財務会計で用いられている貸借対照表 (BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー 計算書(CF)等の決算書を、地方公共団体 にも適用することを意味している。その結 果、これまでの予算制度に対応した決算とは 異なって、企業会計における財務諸表を地方 公共団体も作成することが要請される。 (1)発生主義の決算書 地方公共団体が企業会計に準じて財務諸表 を作成することは、これまでの現金主義に基 づく決算書と異なり、発生主義による決算書 を作成することになる。発生主義に基づいて 作成された貸借対照表や行政コスト計算書等 の決算書と現金主義の決算書とが大きく異な る点は、減価償却の取扱いである。この取扱 (注)1 .三つのモデルとは、総務省基準モデル、総務省方式改訂モデル、東京都会計基準である。いが大きな議論となってきた。 一般に、企業の生産物は商品として販売さ れ、代金が企業に入ってくる。その生産物を 生産するため、企業は機械設備や原材料を購 入し、費用として支払いをしなければならな い。こうした費用と生産物の売上げの差額 が、利潤となる。しかし、この利潤を確定す るためには、原材料などの費用を合計しただ けでは求めることはできない。生産する際に 使用した機械設備等の資本財の減耗部分を計 上して、費用に加える必要がある。これが減 価償却に他ならない。この減価償却分を貨幣 換算して減価償却費として費用計上すること によって利潤が求められるのである。このよ うに、企業の財務会計で発生主義を採用して 減価償却費を計上するのは、利潤を正確に確 定するためである。 (2)公債発行と企業的活動の拡大 しかし、政府は国であれ地方公共団体であ れ、利潤を確定する必要はない。政府は利潤 を追求する主体でなく、公共利益を実現する 主体である。すなわち、「儲ける」活動をす る経済主体ではないのである。したがって、 地方公共団体という経済主体で、発生主義に 基づいて利潤を確定することは意味をもたな い。それにもかかわらず、現金主義に基づく 決算では地方公共団体の財政状況が正確に把 握されず、発生主義に基づく公会計を導入す べきであると主張される背景には、政府機能 の拡大に伴い租税収入という市場を通さない 収入のみではなく、市場を通した収入が増加 していることがある。一つは公債発行という 金融市場からの収入の拡大である。もう一つ は政府の企業活動が拡大し、市場を通じた料 金などの企業的収入が拡大したことにあると 指摘されている(注)2。 本来、地方公共団体は地方税又は地方交付 税等の収入から、支出を賄うのが原則であ る。地方財政法でも、歳出は公債以外の歳入 を財源とすることを原則とし、但し書でのみ 資本支出について地方債の起債を認めている にすぎない。しかし、実際は地方債が大量に 発行され、さらに赤字債である臨時特例債な ども大量に発行されている。このように、大 量の地方債が発行され、地方債残高が累積す るならば、資産と債務に関するストック情報 が重要となる。 その一方で、本来は市場を通じて提供され ることのない公共サービスが、市場を通じて 供給されるようになってきた。これは、公共 サービスが受益者負担の原則の下に、使用料 や手数料としてそのサービスの受給者に費用 負担が課せられることである。この公共サー ビスの提供は、自己費用弁済を原則とするの である。現在多数の地方公共団体で費用が収 入を生み、その収入によって経費を賄う公営 企業的活動が拡大しているのである。 (3)低成長経済と少子高齢化 しかし、最も本質的で深刻な背景は、わが 国の低成長経済への移行と少子高齢化による (注)2 .神野直彦「公会計改革の視点」、公会計改革研究会編[2008]pp.16-18
将来起こると予想される地域経済の縮小への 不安である。従来のようにある程度の経済成長 が望める社会であるならば、伝統的な単年度 主義に基づく予算制度で地方公共団体の運営 が行われても大きな問題は発生しなかった。な ぜなら、次年度の成長を見込んで増加する租税 収入から、新たな公共サービスを提供すること は容易だからである。しかし、低成長経済の 下では、次年度収入が増加することは見込め ず、新しい行政需要に応えることができない。 そこで、過去に蓄積された資産の活用と現行 の予算の見直しによる効率化が、根本から問 われることとなった。その手段として、地方 公共団体の財政運営において、行政の効率 化、いわゆる内部効率化が必要不可欠となり、 公会計の整備が切望されることとなったのであ る。したがって、好むと好まざるとをえず、地 方公共団体の財政活動の効率化の手段として、 今後公会計の整備は避けることはできない。
2.地方公共団体の財務諸表4表の関係
総務省方式改定モデルの財務諸表は4つの 表から構成されている。これらの関係を簡単 に示すと図表1のようになる。(1)貸借対照 表(BS)は、左側が財産を、右側が財源と なっており、必ず左側の合計額と右側の合計 額とが一致する。したがって、資産から負債 を引くとその差額が純資産になる。貸借対照 表の純資産は、国・都道府県からの補助金や 自らの財源として税金などですでに負担した 部分を示している。(2)この純資産の変動 を表したものが純資産変動計算書(NWM) である。純資産変動計算書における純資産変 動要因は、純経常行政コスト(これは純資産 のマイナス要因)か、一般財源、補助金受入 等(純資産のプラス要因)であるから、一般 財源、補助金受入等が純経常行政コストを上 回れば純資産が増加し、逆に下回れば純資産 が減少することになる。すなわち、純資産変 貸借対照表 行政コスト計算書 資金収支計算書 資産 収入 ― 支出 = 歳計現金増減額 + 期首歳計現金残高 = 期末歳計現金残高 経常行政コスト ― 経常収益 = 純経常行政コスト 純資産変動計算書 期首純資産残高 ― 純経常行政コスト + 一般財源、補助金受入等 ± 資産評価替え等 = 期末純資産残高 … … 歳計現金 … 負債 純資産 (出所)森田[2008]P.228 図表1 財務諸表4表の関係動計算書において、公共サービスを提供する ための純経常行政コストが一般財源、補助金 受入等を上回る場合、将来世代への蓄積とな る資産を取り崩すか、あるいは将来世代の負 担となる負債を増加させる。反対に、一般財 源、補助金受入等が純経常行政コストを上回 る場合、将来世代に引き継がれる資産をさら に増大させるか、あるいは将来世代の負担と なる負債を減少させることになる。(3)行政 コスト計算書(PL)は、1年間の政府活動の 行政コストを表し、経常行政コストから受益 者負担である経常収益を控除した純経常行政 コストを算定する。この純経常行政コストは 原則として一般財源、補助金受入等で負担さ れることになる。(4)資金収支計算書(CF) は、1年間の歳計現金の動きを表し、最終的に 期末歳計現金残高が算定される。したがって、 資金収支計算書の期末歳計現金残高は、貸借 対照表の歳計現金に一致することになる。こ のように、財務諸表の4つの表は相互に関連 を持ち、有機的に結びついているのである。 それゆえ、地方公共団体の財政分析を行う際 にはそれぞれの関係を正確に理解することが 必要不可欠なのである。そこで、財務諸表の 4つの表のうち、ストック面とフロー面で主 要な情報を提供する貸借対照表と資金収支計 算書について詳しく検討し、その意味すると ころを明確化する。なお、以下の説明は、森 田[2008]に多くを負っている(注)3。
3.貸借対照表(BS)
貸借対照表は、地方公共団体が公共サービス を提供するために保有している資産と、その資 産をどのような財源(負債、純資産)から調達 したかを対照させた表である。貸借対照表であ るため、資産合計額と負債・純資産合計額は 必ず一致し、左右がバランスすることからバラ ンスシートともいわれる。これを示すのが、図 表2である。資産の部において資産は、①地方 公共団体が公共サービスを提供するために使用 すると見込まれるもの(インフラ資産等)と、 ②地方公共団体に将来の資金流入をもたらす もの(売却可能資産等)がある。図に従うと、 ①については事業用資産やインフラ資産が該 当し、②についは売却可能資産や未収金等が 該当する。これらの資産を、公会計では1公共 (注)3 .森田[2008]pp.203-229参照資 産
負 債
純資産
使う資産 (例:インフラ資産、施設) 将来世代の負担 (例:地方債、将来 支払うべき退職金) 国・県の負担、過去又 は現世代の負担 (例:補助金、これまで に収納した税金) 売れる資産、回収する資産 (例:売却予定土地、貸付金、 未納税金) 図表2 貸借対照表の図解 (出所)森田[2008]P.203資産、2投資等、3流動資産に分類している。 (1)資産の部 そこで、貸借対照表を詳しく検討しよう。 図表3は、総務省改訂モデルに従って作成され た浜松市の貸借対照表である。図表3による と、1公共資産は、(1)有形固定資産と(2) 売却可能資産から構成されており、資産の大 部分を占めている。(1)有形固定資産とは、 長期間にわたって公共サービスを提供するた め使用されるもので、土地、建物、機械装置 などが該当する。これを、行政目的別に区分 して、どのような分野で使用されているかを 把握するように資産計上されている。した がって、どの分野で資産が保有されているか が理解可能となっている。一方、(2)売却 可能資産は、公共資産のうち、遊休資産や未 利用資産などの現在行政目的に使用されてい ない資産を表している。それゆえ、売却可能 資産は、早期の処分あるいは活用を必要とす る資産額を示すことになる。 2投資等には、公社や第三セクター等への (1)投資及び出資金や(2)貸付金、各種目的 への(3)基金等、回収期限が過ぎているにも 拘らず1年以上経過した(4)長期延滞債権や (5)回収不能見込額が計上される。①投資及 び出資金のうち、主要なものは公営企業や公 社、第三セクター等に対する出資金・出捐金 である。これらは、公営企業や三公社、第三 セクター等を通じた行政サービスの提供に活 用される資金を示している。一方、②投資損 失引当金は、連結対象となる会計・団体・法 人の財政状況が悪化した場合、その損失に備 えて計上される引当金であり、マイナス勘定 として計上される。この投資損失引当金に金 額が計上されているならば、財政状況が悪化 した公営企業や地方公社、第三セクター等が あることを示すことになる。(3)基金等には、 特定目的のために資金を積み立てる特定目的 基金と、特定目的のために定額の資金を運用 する定額運用基金がある。貸借対照表では、 特定目的基金に①退職手当目的基金と②その 他特定目的基金が該当し、③土地開発基金と ④その他定額運用基金が定額運用基金に該当 する。これらの基金は、将来の支出に備えて 財源の積み立てを示し、地方公共団体の安定 的な運営を担保することになる。また、基金 等には、④退職手当組合積立金も含まれてい る。退職手当組合積立金とは、退職手当組合 に加入している公共団体の場合、退職手当組 合が保有する資産のうち、その団体の持分に ついて将来の退職手当の支給原資として資産 計上している部分である。なお、団体によっ ては過去に負担金の納入不足が発生(退職手 当組合への負担金支払額<退職手当組合から の退職手当受取額)している場合、退職手当 組合積立金はゼロとなり、納入不足額が負債 として退職手当引当金に加算される。その場 合、退職手当組合に加入しているにもかかわ らず退職手当組合積立金がゼロとなって、退 職手当組合に対する負担金の納入不足が生じ ていることから、将来の負担金の納入が必要 であることを示すことになる。それゆえ、こ れからの職員の大量退職期を迎える地方公共
図表3 浜松市の貸借対照表 (平成20年3月31日現在) (単位:千円) 借 方 方方 貸 方 方方 [資産の部]資産の部]] [負債の部]負債の部]] 1 公共資産 1 固定負債 (1)有形固定資産1)有形固定資産)有形固定資産有形固定資産 (1)地方債1)地方債)地方債地方債 267,238,185 ①①生活インフラ・国土保全 900,704,243 (2)長期未払金2)長期未払金)長期未払金長期未払金 ②教育②教育 278,883,946 ①物件の購入①物件の購入 4,482,293 ③福祉③福祉 20,038,154 ②債務保証又は損失補償②債務保証又は損失補償 37,920 ④環境衛生④環境衛生 75,340,363 ③その他③その他 0 ⑤産業振興⑤産業振興 86,063,845 長期未払金計長期未払金計 4,520,213 ⑥消防⑥消防 15,878,981 (3)退職手当引当金3)退職手当引当金)退職手当引当金退職手当引当金 48,647,948 ⑦総務⑦総務 48,068,131 (4)その他4)その他)その他その他 578,916 有形固定資産合計有形固定資産合計 1,424,977,663 固定負債合計 320,985,262 (2)売却可能資産2)売却可能資産)売却可能資産売却可能資産 24,803,543 公共資産合計 1,449,781,206 2 流動負債 (1)翌年度償還予定地方債1)翌年度償還予定地方債)翌年度償還予定地方債翌年度償還予定地方債 30,668,008 2 投資等 (2)2))短期借入金(翌年度繰上充用金)(翌年度繰上充用金)翌年度繰上充用金)) 0 (1)投資及び出資金1)投資及び出資金)投資及び出資金投資及び出資金 (3)未払金3)未払金)未払金未払金 3,967,034 ①投資及び出資金①投資及び出資金 23,164,747 (4)4))翌年度支払予定退職手当 4,669,042 ②投資損失引当金②投資損失引当金 △ 41,000 (5)賞与引当金5)賞与引当金)賞与引当金賞与引当金 2,895,993 投資及び出資金計投資及び出資金計 23,123,747 流動負債合計 42,200,077 (2)貸付金2)貸付金)貸付金貸付金 5,305,258 (3)基金等3)基金等)基金等基金等 負 債 合 計 債 合 計債 合 計 合 計合 計 計計 363,185,339 ①退職手当目的基金①退職手当目的基金 1,075,033 ②その他特定目的基金②その他特定目的基金 8,387,036 ③土地開発基金③土地開発基金 989,573 ④その他定額運用基金④その他定額運用基金 70,000 ⑤退職手当組合積立金⑤退職手当組合積立金 0 [純資産の部]純資産の部]] 基金等計基金等計 10,521,642 1 公共資産等整備国県補助金等 216,496,342 (4)長期延滞債権4)長期延滞債権)長期延滞債権長期延滞債権 5,630,161 (5)その他5)その他)その他その他 578,916 2 公共資産等整備一般財源等 1,061,858,645 (6)回収不能見込額6)回収不能見込額)回収不能見込額回収不能見込額 △ 669,671 投資等合計 44,490,053 3 その他一般財源等 △ 131,765,603 3 流動資産 4 資産評価差額 12,003,140 (1)現金・預金1)現金・預金)現金・預金現金・預金 ①財政調整基金①財政調整基金 14,694,238 純 資 産 合 計 資 産 合 計資 産 合 計 産 合 計産 合 計 合 計合 計 計計 1,158,592,524 ②減債基金②減債基金 719,198 ③歳計現金③歳計現金 9,729,250 現金・預金計現金・預金計 25,142,686 (2)未収金2)未収金)未収金未収金 ①地方税①地方税 2,570,027 ②その他②その他 104,448 ③回収不能見込額③回収不能見込額 △ 310,557 未収金計未収金計 2,363,918 流動資産合計 27,506,604 資 産 合 計 産 合 計産 合 計 合 計合 計 計計 1,521,777,863 負 債 ・ 純 資 産 合 計 1,521,777,863 ※1 他団体及び民間への支出金により形成された資産 ①生活インフラ・国土保全 76,035,845 千円 ②教育 2,893,148 千円 ③福祉 21,625,166 千円 ④環境衛生 11,465,801 千円 ⑤産業振興 50,173,876 千円 ⑥消防 149,747 千円 ⑦総務 2,495,210 千円 計 164,838,793 千円 上の支出金に充当された財源 ①国県補助金等 30,884,684 千円 ②地方債 20,218,042 千円 ③一般財源等 113,736,067 千円 計 164,838,793 千円 ※2 債務負担行為に関する情報 ①物件の購入等 11,909,077 千円 ②債務保証及び損失補填 31,778,515 千円 (うち共同発行地方債に任せるもの) 0 千円 ③その他 67,413,336 千円 ※3 地方債残高(翌年度償還予定額を含む)のうち155,612,316千円については、償還時に地方交付税の算定の基礎に含まれることが見込まれているものです。 ※4 普通会計の将来負担に関する情報 普通会計の将来負担 527,036,879 千円 (貸借対照表に計上したものを含む) 基金等将来負担軽減資産 331,339,812 千円 (差引)普通会計が将来負担すべき実質的な負債 195,697,067 千円 ※5 有形固定資産のうち、土地は481,825,433千円です。また、有形固定資産の減価償却累計額は669,909,809千円です。 (出所)浜松市[2008]P.41
団体にとって、退職金手当支給にどのように 対処しているのかを判断する基準となるので ある。 3流動資産は、歳計現金、すぐ使える基金、 さ ら に 税 金 等 の 未 収 金 等 か ら 構 成 さ れ る。 (1)現金預金には、①財政調整基金、②減 債基金、③歳計現金がある。①財政調整基金 は将来の収入源や不測の支出に備えた積み立 て基金である。②減債基金は、地方債の償還 に備えた基金として計上される。これらの積 み立て基金が潤沢であることは、地方公共団 体の財政運営に比較的余裕があることを示す ことになる。また、歳計現金は、その年度の 収入から支出を差し引いた残高を表す。この 残高として表される歳計現金は、後述するよ うに資金収支計算書の期末歳計現金残高に一 致する。したがって、当該年度首歳計現金 に、当該年度の資金収支の結果が加えられ て、当該年度末の歳計現金残高がこの項目に 計 上 さ れ て い る の で あ る。(2) 未 収 金 は、 その年度において歳入として予定されていな がらまだ収入がないものを、①地方税、②そ の他、③回収不能見込額と区分して計上され ている。ただし、納付または回収期限から1 年以上経過した場合は、長期延滞債権に計上 されるので、未収金には、期限1年未満の債 権が計上されていることになる。 (2)負債の部 負債の部において負債は、1固定負債と2流 動負債に分類される。1固定負債は、1年以降 に支払や返済が予定されている負債で、(1) 地方債、(2)長期未払金、(3)退職手当引当 金から構成される。(1)地方債には、地方公 共団体の公債のうち、翌々年度以降に償還を 予定するものが計上される。したがって、貸 借対照表上で地方公共団体の公債残高の総額 は、固定負債に計上する地方債と、2流動負 債に計上される翌年度償還予定地方債に分割 し て 示 さ れ る こ と に 注 意 す る 必 要 が あ る。 (2)長期未払金は、既に商品の引渡しやサー ビスの提供が行われたものについていまだ未 払いである額、あるいは債務保証や損失補償 の履行が決定済みである額等を指す。(3)退 職手当引当金は、当該年度末時点で全ての職 員が退職したと仮定して必要となる退職手当 額である(なお、将来職員が退職した時点で 実際に払う金額はさらに大きい金額となる。)。 それゆえ、一般に資産側では、退職手当引当 金に見合う退職手当目的基金や退職手当組合 積立金が同額積み立てられることになる。も し、退職手当引当金に見合う資産が積み立て られていない場合、その差額分は将来の税収 などから賄われることになることを示す。 2流動負債は、1年以内に支払や返済をしな ければならない負債である。流動負債とし て、(1)翌年度償還予定地方債、(2)短期借 入金(翌年度繰上充当金)、(3)未払金、(4) 翌年度支払予定退職手当、(5)賞与引当金が 計上される。(1)翌年度償還予定地方債は、 前述したとおり1年以内に償還予定である。 (2)短期借入金(翌年度繰上充当金)は、収 支不足が発生して翌年度予算から前借する場 合、これを負債として計上する。(3)未払金
は、長期未払金と区別して、翌年度支出予定 の未払額を示す。(4)翌年度支払予定退職手 当も固定負債に計上される退職手当引当金と 区別して計上される。なお、退職手当組合に 加入している地方公共団体は、自ら退職手当 を支払うことはないので、翌年度支払予定退 職手当は計上しない。この点は注意が必要で ある。(5)賞与引当金は、翌年度に支給され る賞与のうち当該年度に発生した部分が計上 される。 (3)純資産の部 純資産の部の純資産は、資産と負債の差額 として計上される。純資産では、1公共資産 等整備国県補助金等、2公共資産等整備一般 財源等、3その他一般財源等、4資産評価額 に区分される。この区分は、純資産が何の財 源になっているかを基準としている。1公共 資産等整備国県補助金等は、公共サービスを 提供するための資産を国・県からの補助金に よって取得したことを示す部分である。2公 共資産等整備一般財源等は、公共サービスを 提供する資産を一般財源等(地方税、地方交 付税等)によって得た部分を示す。3その他 一般財源等は、公共資産等以外の資産から公 共資産等整備財源以外の負債を引いた額であ る。4資産評価差額とは、売却可能資産の帳 簿価額と売却可能価額との差額や寄附等によ り無償で資産を受贈した場合の当該資産に係 わる評価額等の合計額を示す。このように、 純資産は何の財源となっているかによって区 分されている。公共資産及び投資等の財源と なっているのが、1公共資産等整備国県補助 金等、2公共資産等整備一般財源等、4資産 評価差額である。流動資産の財源となってい るのが、3その他一般財源等であり、まだ投 下されていない自由な財源である。したがっ て、単に純資産が大きいことが、将来の債務 返済等に使用可能な財源が大きいことを意味 するものではない。また、翌年以降に自由に 使用できる3その他一般財源等は、多くの地 方公共団体でマイナスとなっている。この項 目がマイナスであることは、翌年度以降の負 担額のうち、使途が既に拘束されていること を表す。したがって、その他一般財源等のマ イナス額が大きいことは、地方公共団体に とって好ましいことではないのである。 (4)注記情報の記載 さらに、貸借対照表には、本表以外に注記 情報が記載されている。この注記情報は、意 外に重要な情報を示している。※1は、他団体 及び民間への支出金により形成された資産を 示す。地域住民の利用する資産整備は、自団 体で行う資産整備以外に、他団体及び民間へ の支出金により整備される。したがって、貸 借対照表に計上された資産に、この注記部分 の金額を加えることによって、地域全体でど れだけの資産整備が行われてきたかを示すこ とになる。※2は、債務負担行為に関する情報 である。この情報は、将来負担となる可能性 のあるものが計上され、貸借対照表上の長期 未払金、未払金以外の将来負担を示す。①物 件の購入等、②債務保証又は損失補償、③そ
の他のうち、最も注目されるのが②債務保証 又は損失補償である。債務保証契約又は損失 補償契約に基づき、当該地方公共団体が債務 の履行を求められ、その金額が確定したもの 以外の金額を計上する。したがって、潜在的 な債務保証又は損失補償を知ることができる。 ※3は、交付税措置地方債の金額である。地方 債残高については、その償還時に地方交付税 の算定の基礎に含まれるものが存在する。こ の額を計上するのが、この注記である。※4 は、普通会計の将来負担に関する情報である。 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」 に基づく、いわゆる「将来負担比率」の算定 にあたって使用する普通会計の将来負担及び 基金等将来負担軽減資産の金額を内訳ととも に計上する。※5では、有形固定資産のうち、 土地の金額と減価償却累計額が記される。こ れにより、有形固定資産の土地以外の償却資 産の金額もわかることから、有形資産全体の 資産老朽化比率を算定することができる。
4.資金収支計算書(CF)
資金収支計算書は、歳計現金(資金)の出 入りの情報を性質の異なる3つの区分に分け て表示する。3つの区分とは、地方公共団体の 活動に応じた1経常的収支の部、2公共資産整 備収支の部、3投資・財務的収支の部である。 (1)経常的収支の部 1経常的収支の部では、人件費や物件費等 の支出と地方税や手数料等の収入が計上され ており、一般的な行政活動による資金の収支 状況が表される。2公共資産整備収支の部は、 公共資産の整備等に係わる支出とその財源調 達である国県補助金や地方債発行額による収 入が示される。3投資・財務的収支の部では、 投資及び出資金、貸付金、基金への積立金、 及び地方債償還金等による支出と、その財源 となる国県補助金、貸付金の回収、公共資産 等の売却収入等の収入が計上され、地方公共 団体の財務活動の状況が明らかになる。 さて、資金収支計算書の3つの区分から、 一般的には経常的収支の部で生じた収支余剰 (黒字)で公共資産整備収支の部と投資・財 務的収支の部の収支不足(赤字)を埋める形 になる。この関係を示すのが、図表4である。 (出所)森田[2008]P.223 図表4 資金収支計算書の3区分 公共資産整備収支の部 公共資産 整備支出 公共資産 整備収入 収支不足 経常的収支の部 経常的収入 経常的支出 収支余剰 経常的収支 穴埋めする 公共資産整備収支 投資・財務的収支の部 投資・ 財務的支出 投資・ 財務的収入 収支不足 投資・財務的収支経常収支の部の収支余剰が、公共資産整備 収支の部の収支不足を埋め、さらに収支余剰 がある場合、投資・財務的収支の部の収支不 足を賄うことになる。そこで、経常収支の部 の収支余剰が、公共資産整備収支の部と投 資・財務的収支の部の収支不足を上回るので あれば、当年度の歳計現金が増加することに なる。反対に、経常収支の部の収支余剰が、 公共資産整備収支と投資・財務的収支の収支 不足を下回るのであれば、歳計現金は減少す る。この当該年度の歳計現金の増減の結果 は、期末歳計現金残高を増やすか減らすこと になり、最終的には、貸借対照表の資産の部 における3流動資産の項の③歳計現金の値と して表示されることになる。 そこで、これを浜松市の資金収支計算書 (図表5)から詳しく検討する。 1経常収支の部において、支出には人件費、 物件費等の日常的な公共サービスを提供する ために必要な支出項目が計上されている。ま た、歳入歳出決算では公債費として一括して 表示される地方債の支払利息や他の会計等に 対する繰出金のうち事務費等に充当する財源 も経常収支の部に示されることになる。 収入では、地方税、地方交付税、国県補助 金等の一般的な行政を行うための支出を賄う 収入が計上されている。また、地方債発行額 が計上されているが、経常収支の部での地方 債発行は、経常的な公共サービスの財源調達 として臨時財政対策債等のいわゆる赤字地方 債を発行したことを表すのである。 (2)公共資産整備収支の部 2公共資産整備収支の部では、支出として 自らの団体の生活インフラ・国土保全等の整 備を行う公共資産整備支出、公共資産を整備 するために他団体に支出される公共資産整備 補助金等支出、他の会計への繰出金等の建設 費充当財源支出が計上される。収入には、公 共資産整備のための財源となった国県補助金 等、地方債発行額、基金取崩額及びその他の 収入が記せられる。 (3)投資・財務的収支の部 3投資・財務的収支の部は、財務的活動に よる資金の出と入りが記録される。支出で は、他の団体に対する投資及び出資金、貸付 金、基金への積立金、また他会計の公債費に 充当する財源支出、地方債の償還額が計上さ れる。一方、収入は、支出の財源となった国 県補助金等、貸付金の回収額、公共資産等の 売却収入等が記される。 さて、経常収支の部の収支余剰が、公共資 産整備収支と投資・財務的収支の収支不足を 上回る(下回る)のであれば、歳計現金は増 加(減少)する。そこで、当年度の歳計現金 の増減の結果は、期末歳計現金残高を増減さ せることになる。この期末歳計現金残高は、 最終的には貸借対照表の資産の部における3 流動資産の項の③歳計現金の値として再掲さ れることになるのである。 (4)注記情報の記載 資金収支計算書にも、本表以外に注記情報
図表5 浜松市の資金収支計算書 自 平成19年4月 1 日 至 平成20年3月31日 (単位:千円) 1 経 常 的 収 支 の 部 (1) 人件費 52,702,538 (2) 物件費 33,253,242 (3) 社会保障給付 33,769,563 (4) 補助金等 12,228,880 (5) 支払利息 6,238,153 (6) 他会計等への事務費等充当財源繰出支出 23,371,277 (7) その他支出 5,026,011 支 出 合 計 166,589,664 (1) 地方税 137,428,493 (2) 地方交付税 17,809,565 (3) 国県補助金等 27,091,661 (4) 使用料・手数料 5,940,538 (5) 分担金・負担金・寄附金 2,257,331 (6) 諸収入 5,140,406 (7) 地方債発行額 4,864,300 (8) 基金取崩額 208,771 (9) 他会計繰入金等 201,138 (10) その他収入 25,543,968 収 入 合 計 226,486,171 経 常 的 収 支 額 59,896,507 2 公 共 資 産 整 備 収 支 の 部 (1) 公共資産整備支出 43,941,050 (2) 公共資産整備補助金等支出 11,982,845 (3) 他会計等への建設費充当財源繰出支出 500,741 支 出 合 計 56,424,636 (1) 国県補助金等 14,720,780 (2) 地方債発行額 16,096,400 (3) 基金取崩額 373,377 (4) その他収入 332,164 収 入 合 計 31,522,721 公 共 資 産 整 備 収 支 額 △ 24,901,915 3 投 資 ・ 財 務 的 収 支 の 部 (1) 投資及び出資金 108,850 (2) 貸付金 2,641,241 (3) 基金積立額 3,300,851 (4) 定額運用基金への繰出支出 2,893 (5) 他会計等への公債費充当財源繰出支出 1,725,534 (6) 地方債償還額 31,224,272 支 出 合 計 39,003,641 (1) 国県補助金等 48,300 (2) 貸付金回収額 2,667,981 (3) 基金取崩額 0 (4) 地方債発行額 0 (5) 収益事業純収入 3,034 (6) 公共資産等売却収入 329,884 (7) その他収入 502,726 収 入 合 計 3,551,925 投 資 ・ 財 務 的 収 支 額 △ 35,451,716 当年度短期借入金(翌年度繰上充用金)増減額 0 当年度歳計現金増減額 △ 457,124 期首歳計現金残高 10,186,374 期末歳計現金残高 9,729,250 ※1 一時借入金に関する情報 ①資金収支計算書には一時借入金の増減は含まれていません。 ②平成19年度における一時借入金の借入限度額は25,100,000千円です。 ③支払利息のうち、一時借入金利子は0千円です。 ※2 基礎的財政収支(プライマリーバランス)に関する情報 収入総額 261,560,817 千円 地方債発行額 △ 20,960,700 財政調整基金等取崩額 △ 0 支出総額 △ 262,017,941 地方債元利償還額 37,462,425 財政調整基金等積立額 412,624 基礎的財政収支 16,457,225 千円 ※3 上記の他、保証金等の受け入れに伴う歳計外現金の収入額90,927千円 (保証金等の返還に伴う支出額69,340千円)があります。 (出所)浜松市[2008]pp.50-51
が記載されている。※1は、一時借入金に関す る情報である。北海道の夕張市でも問題と なったように、一時借入金は資金繰り情報と して重要な情報である。なぜなら、一時借入 金は年度内返済を条件としているため、決算 上歳入として扱われないのであるから、資金収 支計算書にも計上されない。そこで、これを注 記として、一時借入金の借入限度額、一時借入 金の利子額が開示される。※2では、基礎的財 政収支(プライマリーバランス)に関する情報 が注記として示される。収入総額から支出総 額を差し引き、地方債の発行・償還や財政調 整基金の取崩・積立などの調整を行った基礎 的財政収支が算定されている。※3は、歳計 外現金に関する情報である。一時借入金以外 にも、保証金や敷金、県税の預かり等、歳入 歳出決算外で行われる資金取引がある。これ らについて重要なものが注記されているので ある。
5.将来負担に関する財政分析
以上の普通会計の各財務諸表を相互に関連 させることによって、様々な分析方法が考え られる。ここでは、地方公共団体の財務諸表4 表を活用して、将来負担に関わる財政分析を 中心にみることとする。浜松市で将来負担に ついて分析されているのは、(1)社会資本形 成将来世代間負担比率、(2)純資産比率、(3) 純負債額・債務償還能力の3つである(注)4。 (1)社会資本形成将来世代間負担比率 社会資本形成の結果を表す公共資産のう ち、純資産による形成割合を見ることによ り、これまでの世代(過去及び現在世代)に よって負担された割合を示すことができる。 また、地方債残高に注目すれば、将来返済し なければならない、将来世代による負担割合 を知ることができる(平成19年度、25.1%)。 なお、図表6は、浜松市と主要都市との比較 を示す。 (2)純資産比率 負債・純資産額合計額(=資産額)に対する 純資産の割合である。企業会計での自己資本比 率に相当し、この比率が高いほど財政状況が 健全であるといえる(図表7)。財政状況の健 全度を測る指標である(平成19年度、76.1%)。 (3)純負債額・債務償還能力 地方公共団体の純負債額を経常的に確保で きる資金で返済した場合に何年で返済可能で あるかを示す指標である。地方公共団体の債 (注)4 .これ以外に、浜松市の財政分析では、歳入対資産比率、公共資産の目的別割合等が分析されている。 社会資本形成将来世代間負担比率(%)= 地方債残高 公共資産合計 ×100 (1) 純資産比率(%)= 純資産額 (負債額+純資産額)×100 (2)務返済能力を判定する基準である。地方公共 団体は、純債務額を返済するには何らかの形 で財源を確保しなければならない。また、そ の原資は、安定的に返済を行っていかなけれ ばならのであるから、経常的に得られる資金 (返済資金)によってまかなわれことが必要と なる。したがって、この指標(図表8)が小さ いほど、地方公共団体に対する負担は軽く、 償還可能能力があることになる(平成19年 度、5.1年)。
6.今後の理論的課題
地方公共団体に導入が進んでいる公会計に 基づく財務諸表の整備であるが、今後検討さ れなければならない課題も多いのが現状であ る。その中で、公会計で取り扱われるべき理 論上の問題点についてのみ指摘しておきたい。 第一に検討されなければならないのは、公 ただし、純負債額=(地方債残高+債務負担行為額+退職給与引当金) −(投資及び出資金+貸付金+基金+現金・預金+売却可能資産) 充当可能額=経常一般財源−(経常経費充当一般財源−公債充当一般財源) 債務償還能力(年)= 純負債額 充当可能額 (3) 図表7 主要都市との純資産比率の比較 順位 市 名 比 率 順位 市 名 比 率 順位 市 名 比 率 1 ★浜松市 76.1% 11 ★札幌市 64.5% 21 ★新潟市 56.3% 2 姫路市 76.0% 12 ★静岡市 63.7% 22 ★広島市 55.1% 3 宇都宮市 75.5% 13 ★北九州市 63.0% 23 岡山市 54.5% 4 船橋市 73.0% 14 ★横浜市 60.1% 24 ★名古屋市 53.4% 5 ★さいたま市 70.2% 15 熊本市 59.8% 25 ★京都市 51.3% 6 相模原市 70.1% 16 東大阪市 59.6% 26 ★千葉市 43.3% 7 鹿児島市 67.8% 17 ★大阪市 59.5% 8 ★堺市 66.6% 18 ★仙台市 57.0% 9 松山市 66.5% 19 ★福岡市 56.9% 10 ★神戸市 65.8% 20 ★川崎市 56.5% 平均 62.4% ★印:政令指定都市 (出所)浜松市[2008]P.58 図表6 主要都市との社会資本形成将来世代間負担比率の比較 順位 市 名 比 率 順位 市 名 比 率 順位 市 名 比 率 1 ★浜松市 25.1% 11 ★神戸市 39.4% 21 岡山市 50.3% 2 姫路市 25.9% 12 ★札幌市 39.7% 22 ★広島市 50.8% 3 宇都宮市 27.2% 13 ★北九州市 41.6% 23 ★名古屋市 57.8% 4 船橋市 29.6% 14 熊本市 42.7% 24 ★千葉市 59.1% 5 相模原市 31.7% 15 東大阪市 43.6% 25 ★京都市 59.9% 6 ★さいたま市 31.9% 16 ★横浜市 46.1% 26 ★福岡市 61.6% 7 鹿児島市 35.4% 17 ★大阪市 47.6% 8 ★堺市 37.0% 18 ★新潟市 47.7% 9 松山市 38.0% 19 ★川崎市 48.6% 10 ★静岡市 39.4% 20 ★仙台市 50.3% 平均 42.6% ★印:政令指定都市 (出所)浜松市[2008]P.56会計に基づく財務諸表に三つのモデルが並存 することである。総務省方式においても、基 準モデルと総務省方式改訂モデルが提示され ている。総務省方式改訂モデルは、固定資産 の評価が進行していくならば最終的に基準モ デルに統合されるものとされているが、それ がいつ統合されるのか明確になっていない。 もし、現状のように多くの地方公共団体が改 訂モデルを用いるのであれば、果たして基準 モデルに統合が進むのか懐疑的にならざるを 得ない。早期に三つのモデルの統一が図られ るべきと思われる。 第二に問題となるのが、租税収入の扱いで ある。総務省の基準モデルは、租税を所有者 からの拠出とみなして純資産の増加とする 「持分説」を採用している。そのため、行政コ スト計算書では手数料などの収益のみを扱 い、租税は純資産変動計算書において財源の 調達として扱っている。これに対して、東京 都会計基準では、租税を行政サービスを提供 するに要した費用に対する財源として、収益 として扱う「収益説」を採用している(注)5。 そのため、租税は行政コスト計算書において 収入項目として計上される。租税を「持分 説」に従って扱うのか、「収益説」によって扱 うのか、その帰趨は明確になっていない(注)6。 第三の問題は、公会計に基づく財務諸表の 整備が、公営企業会計や地方独立行政法人、 さらには地方三公社、第三セクター等を含め た連結財務諸表の作成へと進んでいることで ある。本来、政府は利潤を追求する主体でな く、公共利益を実現する主体である。すなわ ち、「儲 け る 」 活 動 を す る 経 済 主 体 で は な い。したがって、地方公共団体という経済主 体で、発生主義に基づいて利潤を確定するこ とは意味をもたないのである。それにもかか わらず、現金主義に基づく決算では地方公共 団体の財政状況が正確に把握されず、発生主 義に基づく公会計を導入すべきであると主張 される背景の一つには、本来は市場を通じて 提供されることのない公共サービスが、市場 を通じて供給されるようになってきたことが (注)5 .三枝[2008]pp.58-59 6.亀井[2008]pp.191-192 図表8 浜松市の純負債額・債務償還能力の推移 (出所)浜松市[2008]P.59 14 15 16 純負債額 債務償還能力 17 18 19(年度) 3,300 3,100 2,900 2,700 2,500 2,300 2,100 1,900 1,700 1,500 (億円) 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 (年)
原因である。これは、公共サービスが受益者 負担の原則の下に、使用料や手数料としてそ のサービスの受給者に費用負担が課せられる ことである。このことは、本来の政府の役割 を大きく変えることになる。その結果、地方 公共団体の一般的な活動と公営企業などの活 動との違いがますます不透明なものとなりか ねないのである。企業的経営が求められる公 営企業会計などは元々から企業会計に準じる 扱いが前提とされていた事実を考慮しなけれ ばならない。それゆえ、地方公共団体の普通 会計と、公営企業会計等の企業的会計との連 結は、両者の活動の違いを明確にした慎重な 取扱いが必要と思われる。 〈参考文献〉 稲沢克祐『公会計(新訂版)』同文舘(2009) 亀井孝文『公会計制度の改革』中央経済社(2008) 公会計改革研究会編『公会計改革』日本経済新聞社(2008) 三枝修一監修、東京都新公会計制度研究会編著『新地方公会計の実務−東京都における財務諸表の作成と活用』都政新 報社(2008) 森田祐司監修、監査法人トーマツパブリックセクターグループ編著『新地方公会計制度の徹底解説∼「総務省方式改訂 モデル」作成・活用のポイント』ぎょうせい(2008) 〈報告書・資料〉 総務省「新地方公会計制度研究会報告書」(2006) 総務省「新地方公会計制度実務研究会報告書」(2007) 総務省「地方公共団体の平成18年度版財務書類の作成状況について」(2008) 浜松市「浜松市の財政のすがた(平成19年度)」(2008) 熊本県宇城市「包括年次財務報告書(平成18年度)」(2007)