博 士 ( 農 学 ) 李 立 源
学 位 論 文題 名
Analysis of the Mechanism of Enhanced Glucose Metabolism in anH + 一 ATPase ― Defective Mutant of Corynebacterium gluta7n ぬ 2t77l ATCC14067 by Comparative Proteomic Approach
(Corynebacterium glutamicZt7jn ATCC14067 のH+ ―ATPase 欠損変異株に お け る グ ル コー ス 代 謝 促 進 機 構の 比 較 プ ロ テ オ ーム 解 析 )
学位論文内容の要旨
微生物発酵に よる有用物質生産においては,生産菌の物質生産活性を高めることが重要と なる.発酵原料 として糖質が多用されるため,目的産物の効率的生産を達成するためには解 糖 系やTCAサ イク ルなどの 中枢代謝の活性を上昇させることが有効となる.H+‑ATPaseの欠 損変異により酸 化的リン酸化を遮断し細胞をエネルギー欠乏に陥らせることは,中枢代謝の 活性を上昇させ るために有効であることが知られている.これは変異導入により解糖系によ る基質レベルの りン酸化が唯一のATP獲得経 路となるため合理的な応答である.グルタミン 酸生産菌Cotynebacterium glutamicum野生株ATCC14067から誘導されたH゛‑ATPase欠損変異 株F172‑8株では ,グルコース代謝と呼吸の活性化,またグルタミン酸生産活性の向上が認め られている,本 研究では比較プロテオーム解析を適用してこれらの活性上昇機構の解明を試 みた.
1)C. glutamicum野 生 株ATCC14067の プ ロ テ オ ― ム レ フ ァ レ ン ス マ ッ プ の 構 築 比較プロテオ ーム解析には解像度の高いレファレンスマップが必要になる,そこで一次元 目を等電点電気 泳動,二次元目をSDS‑PAGEとして,C.glutamicum ATCC14067株の細胞質タ ンパク質をでき るだけ広範囲に解析できる二次元電気泳動条件を設定した.分離した各スポ ットはMALDI‑TOF−MSによるペプチドマスフ インガープリンティング法により,ゲノムが解 読されているc.glutamicum基準株ATCC13032のゲノム情報に基づぃて同定した.その結果,
等電点4.5‑6の範囲で延べ1730個のタンパク 質が検出でき,166個,139種類のタンパク質ス ポットを同定し た.これらには解糖系,TCAサイクル,H゛‑ATPaseなどエネルギー代謝に関 わる酵素,アミ ノ酸やヌクレオチドの生合成に関わる酵素,DNAの複製/転写・翻訳に関わ る酵素やタンパ ク質,輸送系,シャペロンなどが含まれていた.本株のレファレンスマップ を公的データベ ースPRIDEに登録した(accession no. 2029).
2)C. glutamicum ATCC14067から誘導されたH゛一ATPase欠損変異株F172‑8における糖代 謝活性化機構の比較プロテオーム解析
H゛‑ATPase欠損変異株F172−8株は栄養要求物質ビオチンを十分に含むグルタミン酸非生産
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条件でのジャーファーメンター培養対数増殖期において,菌体当りの糖代謝活性が2.4倍,呼 吸活性が1.5倍に上昇していた,これらの上昇は定常初期においては見られなくなった.レフ ァ レンスマ ップを 用いて,親株と変異株のタンパク質発現を対数増殖期と定常初期のニ点で 比較した.その結果,解糖系ではpyruvate kinase (Pyk),phosphofructokinase (Pfk),fructose‑
bisphosphate aldolase (Fda),phosphoglycerate mutaseについて変異株で対数増殖期に発現上昇が 認 められた .これ らの変化はPykを除き定常初期では見られなくなった.C.glutamicumにお いてPykはエネルギー欠乏に応答してア・ロステリックに活性化される解糖系の唯一のレギュ レ ーターで あるた め,本酵素の発現増大は糖代謝活性の上昇に特に寄与していると考えられ た. TCAサイクルではレファレンスマップ上で検出されるfumarase (Fum),malate dehydrogenase (Mdh),malate:quinone oxidoreductase (Mqo),succinate dehydrogenase (SdhB)全てが対数増殖期 に 発現上昇 してい た.これらの変化はMdhを除き定常初期まで継続した.C.glutamicumでは り ンゴ酸と オキサ ロ酢酸の 変換反 応にはMqoとMdhが関与 しており ,これ らのカップリング 反 応により 呼吸鎖 と連動し たユニ ークなNADHの 再酸化 系が機能 してい ることがmvitroの実 験 で示され ている .今回見出された両酵素の発現上昇は糖代謝活性増大に伴う呼吸の増大が ど のようにNADHを再酸 化してい るかを 説明する と同時 に,本カ ップリ ング反応がinvivoで 機能していることを示した初めてのデータである,また,変異株ではcatalase (KatA)の発現上 昇 が認めら れたが ,これは活発な呼吸に伴って生成する活性酸素の除去に必要であると思わ れ た.変異 株ではH゛‑ATPaseのいくっかのサブユニットの発現が上昇していた,これはエネ ル ギ←欠乏 を酸化 的リン酸化の促進により解消しようとする応答と考えられ興味深い.以上 の 生 理 的 変 化 は 本 株 の エ ネ ル ギ ー 欠 乏 へ の 適 応 応 答 の 理 解 に 貢 献 する も の であ る .
3) ビオチン を十分に含むグルタミン酸非生産条件でジャ―ファーメンタ一培養されたH゛‐
ATPase欠 損 変 異 株C.glutamicum F172‑8に お け る 中 枢 代 謝 関 連 酵 素 活 性 の 測 定 前項で プロテオ ーム解析により明らかにされた中枢代謝酵素発現の変動を確認するため,
またプ ロテオー ム解析では検出されないが重要と考えられる関連諸酵素の発現変動を明らか にする ため,酵 素活性の測定を行った,その結果,プロテオーム解析で検出されたタンパク 質発現 の変動と ほば一致する酵素活性の変動を検出すぢことができた.さらにプロテオーム 解析で検出されなかった酵素としてcitrate synthaseの活性上昇を検出した.このことは変異株 におけ るTCAサ イクル フラッ クスの 上昇を示 唆してい る.ま たNAD゛‑dependent lactate dehydrogenase (LdhA)の活性上昇が検出され,乳酸生成によるNADHの再酸化反応の関与が示 された.さらに呼吸関連酵素では膜結合型のL―lactate dehydrogenase (LldD)の活性が上昇して いた, これは生 成され た乳酸を 呼吸鎖 とりンクして酸化するLdhA/LldDのカップリング反応 の作動 を示すも のと考 えられた .一方 で,NADHの酸 化に機 能するNADH dehydrogenase活性 は 両株 で変 化を認め なかっ た,従っ てF172‑8株はMqoやLldDなどの膜 結合性 有機酸酸 化酵 素 を 高発 現 さ せる こ と によ りNADHの 再酸 化 活 性を 上 昇 さ せて い る もの と 考 えら れ た ,
4)H゛‑ATPase欠損変 異株C.glutamicum F172‑8におけるグルタミン酸生産能向上機構の比 較プロテ オ―ム解 析
F172‑8株では 親株に比べてグルタミン酸生産能が向上している.そこで比較プロテオーム
解析によ りその機 構を検討した.その結果,既に第二項で明らかにされたタンパク質発現の 変動に加 えて,F172‑8株におい てグル タミン酸生産期(定常期)にFum発現の著しい低下が 検出され た.これ らを総 合すると ,F172‑8株ではPyk等の解糖系諸酵素の発現上昇に加え,
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Mqoの 上昇 ,MdhとFumの 低 下に よル オキ サロ酢酸の供給が増しており,このことがグルタ ミ ン酸 生産 を向 上さ せる 要因 とな って いる もの と考 え られ た.
以上,本研究では主とし てプロテオーム解析を適用することにより,c.glutamicumのH十l ATPase欠損変異株における 糖代謝促進機構,グルタミン酸生産向上機構に関する新たな知見 を得ることができた.以上 の成果は,グルタミン酸生産菌の理解ならびに有用物質生産菌の 育種研究に大きく寄与する ものである.
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学位論文審査の要旨 主査 教授 横田 篤 副査 教授 松井博和 副査 准教授 和田 大 副査 准教授 伊藤浩之
学 位 論 文 題 名
Analysis of the Mechanism of Enhanced Glucose h/Ietabolism in anH + − ATPase − Defective Mutant of Corynebacterium gluta7nicuTn ATCC14067 by Comparative Proteomic Approach
(Corynebacterium glutamicurn ATCC14067 のH+ 一ATPase 欠 損変異株に お け る グ ル コ ー ス 代 謝 促 進 機 構 の 比 較 プ ロ テ オ ー ム 解 析 )
本論文は 英文168 頁,図 17 ,表7 ,7 章からなり,参考論文2 編が付されてい る.
微生物発酵による有用物質生産においては,解糖系やTCA サイクルなどの中枢 代謝の活性を上昇させることにより生産菌の物質生産活性を高めることが重要と なる,このためにはH ゛‑ATPase の欠損変異により酸化的リン酸化を遮断し細胞を エネルギー欠乏に陥らせることが有効である.これは変異導入により解糖系によ る基質レベルのりン酸化が唯一のATP 獲得経路となるため合理的な応答である.
グルタミン酸生産菌Corynebacterium glutamicum 野生株AI ℃C14067 から誘導され たH ゛‑ATPase 欠損変異株F172‑8 では,グルコース代謝と呼吸の活性化,またグル タミン酸生産能の向上が認められている.本研究は比較プロテオーム解析を適用 し て こ れ ら の 活 性 上 昇機 構 の解 明 を試 み た結 果 をま と め たも の であ る , 1 ) c . glutamicum 野生株ATCC14067 のプロテオームレファレンスマップの構築 比較プロテオーム解析に必要な解像度の高いレファレンスマップを作るため,
一 次元 目 を等 電 点電 気 泳動 , 二 次元 目 をSDS‑PAGE と して , c . glutamicum ATCC14067 株の細胞質タンパク質をできるだけ広範囲に解析できる二次元電気泳 動条件 を設定した .分離スポ ットは MALDI‑TOF‑MS によるベプチドマスフィン ガープリンティング法により,C ・ glutamicum 基準株AI ℃C13032 のゲノム情報に 基づぃて同定した.その結果,166 個,139 種類のタンパク質スポットからなる,
中枢代謝の解析に適した実用性の高いレファレンスマップを構築できた.このレ
ファレンスマップを公的データベースPRIDE に登録した(accession no. 2029) .
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2) グ ル タ ミ ン 酸 非 生 産 条 件 下 で のH゛‑ATPase欠 損 変 異 株F172‑8に お け る 糖 代 謝 活性 促進 機構 の比 較プ ロテ オー ム解 析
H+‑ATPase欠 損 変 異 株F172‑8は , 栄 養 要 求 物 質 ビ オ チ ン を 十 分 に 含 む グ ル タ ミ ン 酸 非 生 産 条 件 で の ジ ャ ー フ ァ ー メ ン タ ー 培 養 に お い て , 菌 体 当 り の 糖 代 謝 活性 , 呼 吸 活 性 が 親 株ATCC14067の 約2倍 に 上 昇 し た . 両 株 の タ ン パ ク 質 発 現 を 比 較 プ ロ テ オ ー ム 解 析 し た 結 果 , 変 異 株 でpyruvate kinase (Pyk)を 始め と する 解糖 系諸 酵 素 の 発 現 増 大 が 認 め ら れ た . 本 菌 に お い てPykは エ ネ ル ギ ー 欠 乏 に 応 答 し て ア ロ ス テ リ ッ ク に 活 性 化 さ れ る 解 糖 系 唯 一 の レ ギ ュ レ ー タ ー で あ る た め , そ の 発 現 増 大 は 糖 代 謝 活 性 の 上 昇 に 特 に 寄 与 し て い る と 考 え ら れ た .TCAサ イ ク ル で は 特 に malate:quinone oxidoreductase (Mqo)の発 現増 大が 重要であった,C.glutamicumでは り ン ゴ 酸 と オ キ サ ロ 酢 酸 の 変 換 反 応 に は 呼 吸 鎖 と り ン ク し たMqoと 通 常 のmalate dehydrogenase (Mdh)が 関 与 し て お り , こ れ ら の カ ッ プ リ ン グ 反 応 に よ る ユ ニ ー ク なNADHの 再 酸 化 系 が 存 在 し て い る , 今 回 見 出 さ れ たMqoの 発 現 増 大 は 糖 代 謝 活 性 上 昇 に 伴 う 本 カ ッ プ リ ン グ 反 応 の 重 要 性 を 示 し て い る . 以 上 の 生 理 的 変 化 の 解 明は ,本 変異 株の 適応 応答 の理 解に 貢献 する も ので ある .
3)c・ glutami'cum ATCC14067お よ びF172‑8の 中 枢 代 謝 関 連 酵 素 活 性 の 測 定 前 項 の プ ロ テ オ ー ム 解 析 の 裏 付 を と る た め , 関 連 酵 素 の 活 性 測 定 を 行 い , プ ロ テ オ ー ム 解 析 の 結 果 と ほ ば 一 致 す る 酵 素 活 性 の 変 動 を 検 出 し た . ま たNAD゛ ‐ dependent lactate dehydrogenase (LdhA)と膜結合型のL‑lactate dehydrogenase (LldD)の 活 性 が 上 昇 し て い た . こ れ はLdhAに よ る 乳 酸 生 成 を 伴 うNADHの 再 酸 化 反 応 と , 生 成 さ れ た 乳 酸 を 呼 吸 鎖 と り ン ク し て 酸 化 す るLldDの カ ッ プ リ ン グ 反 応 の 作 動 を 示 す も の と 考 え ら れ た . 従 っ てF172‑8株 はMqoやLldDな ど の 膜 結 合 性 有 機 酸 酸 化 酵 素 を 高 発 現 さ せ る こ と に よ りNADHの 再 酸 化 活 性 を 上 昇 さ せ て い る も の と 考 えられた.
4)c. glutamicum F172‑8に お け る グ ル タ ミ ン 酸 生 産 能 向 上 機 構 の 比 較 プ ロ テ オ ー ム 解 析
F172‑8株 の グ ル タ ミ ン 酸 生 産 能 向 上 機 構 に っ い て 解 析 を 行 っ た 結 果 , 第 二 項 と 類 似 の 変 動 が 見 出 さ れ た . ま た ,F172―8株 に お い て グ ル タ ミ ン 酸 生 産 期 に 乳 酸 副 成 の 著 し い 低 下 が 観 察 さ れ た . こ れ ら を 総 合 す る と ,F172‑8株 で はMqo/Mdhに よ るNADHの 再 酸 化 の 比 率 が 上 昇 し , こ の こ と が ピ ル ビ ン 酸 の 供 給 を 増 大 さ せ , グ ル タ ミ ン 酸 生 産 を 向 上 さ せ る 要 因 と な っ て い る も の と 考 え ら れ た ,
以 上 , 本 研 究 で は 主 と し て プ ロ テ オ ー ム 解 析 を 適 用 す る こ と に よ り ,C・ glutamicumのH゛‑ATPase欠 損 変 異 株 に 韜 け る 糖 代 謝 活 性 促 進 機 構 , グ ル タ ミ ン 酸 生 産 能 向 上 機 構 に 関 す る 新 た な 知 見 を 得 る こ と が で き た . 以 上 の 成 果 は , グ ル タ ミ ン 酸 生 産 菌 の 理 解 な ら び に 有 用 物 質 生 産 菌 の 育 種 研 究 に 大 き く 寄 与 す る も の で あ る .
よ っ て 審 査 員 一 同 は , 李 立 源 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た ,
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