博 士 ( 農 学 ) 中 村 学 位 論 文 題 名
中核育種方式におけるファジィ集合を 応用した近交抑制方策に関する研究
学位論文内容の要旨
浮
ウシの育種において、選抜の基準となる遺伝 的能力(育種価)は、後代やそれ自身の記録 とき ょう だぃ や親 等の 血縁 個体 の記 録 を利 用し て、アニマルモデルに基づくBLUP法で評価 され、特に種雄牛については高い精度の能力評 価が得られている。近年過排卵処理と胚移植 技 術(MOET)を利 用す る こと によ り、 世代 間隔 の短 縮を 目的 とし た中 核育 種方 式 が試 みら れている。血縁個体の記録の利用による能力評 価は血縁の近い個体がより多く選抜される傾 向が 高ま り、 また 、MOETを 利用 した 中 核育 種方 式は、育種牛群の規模が制約され、近親交 配の傾向がさらに高まる傾向にある。近親交配 による近交係数の上昇は、近交退化や相加的 遺伝分散の減少に伴う改良量の低下を招く。遺 伝資源の保存は次世代への遺産として重要な 課題であり、長期の育種を考えるとき、従来の 改良速度を維持しながら近交係数の上昇を抑 制する方策の開発が強く求められている。これ までに、種々の選抜方法や交配決定方法等が 提示されているが、近交係数の上昇の抑制に有 効な方法は同時に改良量が損なわれる傾向に あり、実用上の問題点をも含んでいて、有効な 方策が見出せなぃ状況にある。本論文では、
選抜並びに交配決定にファジィ集合を世界で初 めて導入し、改良量を損なわずに近交係数の 上 昇 を 抑 制 す る た め の モ デ ル を 提 示 し 、 そ の 有 効 性 を 模 擬 実 験 に よ っ て 検 証 し た 。 1.研究の背景とそ の目的・意義と育種情報の暖味さ(第1,2章)
第1章 緒 言で は、 本論文の研究の背景と関 連分野の研究を総説し、実用技術として具備す べき条件として、目的達成の有効性に加えて、 選抜・交配決定基準の演算が容易で単純であ ること、ならびに種々の状況に柔軟に対応でき ることを論じている。`さらに、第2章におい て、育種に利用される育種価の推定値(推定育 種価)ならびに近交係数は共に常に変動誤差 を伴い、曖味さを含みファジィ化の対象になる ことを結諭した。
2. 短 期 な ら び に 長 期 の 選 抜 反 応 と 近 交 係 数 の 上 昇 並 び に フ ァ ジ ィ 化の 効果 (第3章)
Villanuevaらが 提示 した 推定 育種 価 を近 交係 数で割り引く選抜基準に近交係数をロジス テッ ク関 数で 変換 した 値を 適用 する こ とを 試み ると共に、従来のBLUP法による推定育種価 なら びに 表型 値に 基づ く選抜について、短期(5世代)、長期(10世代)の選抜反応と近交 係数の上昇を比較検討した。短期の改良量につ いては、推定育種価に基づく選抜が最も有効 であるが、長期にわたる選抜では必ずしも有利 ではなく、相加的遺伝分散の減少が大きく影 響することを確認した。ファジィ化した近交係 数で推定育種価を割引いた選抜基準での選抜 は,近交係数の上昇抑制に有効であり、特別な弊害は認められなかった。しかし、この方法は 次代の近交係数を直接制御することはできず、 共祖係数に基づく期待近交係数の利用がより 有効であることが示唆された。
3.ファジィ集合の交配決定基準 への応用と統合方法(第4,5章)
BLUP法 で推 定し た育 種価に基 づき選抜した後、交配組み合わせ個体の平均推定育種価 と 期待 近交係数をロジステック関数で変換し、両者を種々の演 算子で統合し、平均育種価が高 く近 交係数が低い組み合わせを序列化し、交配決定すること を試みた。10世代までの改良量 と近 交係数の上昇を予測した結果、幾何平均が最も有効であ った。2変量への重み付け係 数 の組 み合わせは近交係数上昇の抑制と改良量に大きな影響を 及ぼすが、言語ヘッジの選択の 効果 は小さかった。
次 いで、従来提示されている代表的な交配決定法である最 小血縁交配法並びに補償交配法 と比 較し、ファジィ交配決定方法の有効性を検討した。ファ ジィ交配決定法は近交係数の上 昇 につ い ては 、最 小血 縁交配法 より抑制効果が小さかったが、改良量の損失は通常のBLUP 法に 基づく選抜に比較して小さく、相加的遺伝分散の低下も また小さかった。遺伝率を真の 値 より 過 大に 偏向 した 値を設定 したBLUP法で推定した育種価で選抜することにより、近 交 係数 の抑制効果が認められている。そこで、その効果との相 加性を確認するために、偏向遺 伝率 で推定した育種価で選抜後、ファジィ交配決定法の適用 を試みた。本法の適用によりさ らに 近交係数の上昇が押さえられ、その効果は相加的に独立 に作用することが確認された。
4.ファジィ集合の交配選抜基準 への応用(第6章)
遺 伝的能カが高く、近交係数を高めない雄牛についてはよ り多くの雌と交配し、また、雌 に つい て も複 数回 のMOETを 実施 する こと で交 配の 際に 選抜 が加 わ り改 良量 が高まるこ と が期 待される(交配選抜)。雄が交配する最大許容交配頭数 を2から8頭に高めるに伴い、選 抜雄 頭数が減少し、雄の選抜差は大きくなるが、近交係数の上昇も同時に高まった。しかし、
年 当た り の改 良量 は3〜4頭のと き最大となった。改良量は無作為交配と変わらず、近交 係 数の 上昇は大きく抑制され、特に、より小さい集団ではその 効果が顕著であった。しかし、
雌の 交配回数を最大2回までとし たとき、雌の選抜差が大きくなり、年当たりの改良量を 高 める が近交係数の抑制効果は雄程大きくをかった。雄側から の交配選抜は近交係数の上昇の 抑制 に有効で、改良量の高まりが期待される。雌側からの交 配選抜をも組み合わせることに より 、更に効果が高まった。即ち、本法を交配選抜に応用す ることにより、改良量を損なわ ずに 、むしろ高めることも可能であった。これらの効果は集 団が大きくなるにっれてより大 きく なる傾向が認められた。
5.ファジィ交配選抜による任意 の近交係数上昇の制御(第7章)
整 数計画法等の方法を用いることによって、近交係数を任 意の上昇幅に制御することが可 能で ある。本研究において、推定育種価と期待近交係数を統 合する時の両者の相対的重付け 係 数(w)によ って 、制 御効果に 差異があることが認められている。そこで、二分検索法 に よ り制 御 する に最 適なwを 決定することにより上昇率を制御 することを試み、Meuwissenの 方法 並びに無作為交配との比較をした。近交係数の上昇率を0.02〜0.04に設定したとき、何 れの 設定値に対しても制御が可能であり、特に、0.03〜0.04の範囲では遺伝的改良量を殆ど 損 なう こ とが 無く 、無 作為交配 の上昇率0.045より低く抑えられた。しかし、上昇率0.02 で は、 改 良量 の低 下が 認められ た。Meuwissenの方法と比較 したとき、0.02に上昇率を 設 定し たときに、改良量の低下がより大きかったが、0.025〜0.04の範囲では殆ど差が無か っ た。 さらに、近交係数上昇率の変動がより小さく、より確実 に近交係数の制御が可能である こと を認めた。
遺 伝的改良を大きく損なわずに、近交係数上昇の抑制策と して、選抜・交配決定基準にフ ァジ ィ集合の応用を試み、モデルを提示してその有効性を実 証した。この方法は単純な演算 方法 で交配組み合わせを序列化し、種畜の斃死等に伴う補充 が容易であり、また任意の上昇 幅に 設定することにも応用される等、種々な状況に柔軟に対 応でき多くの実用上の利点を備 えて いる。
学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
清水 大久保 上田
学 位 論 文 題 名
弘 正彦 純治
中核育種方式におけるファジィ集合を 応用した近交抑制方 策に関する研究
本 論 文 は8章 で 構成 さ れ 、表17、 図31、引用 文献67編 を含む177頁の 和文論文 であり , 別 に 、3編 の 参 考論 文 が 添え ら れ てい る 。
ウシの 育種に おいて、選抜の基準となる遺伝的能力(育種価)は、後代やそれ自身の記録 に加え 血縁個体 の記録が利用され、精度の高い評価値が得られている。近年過排卵処理と胚 移 植技 術(MOET)を 利 用 した 中 核 育種 方式 が試みら れてい る。この ような能 力評価 値によ る選抜と中核育種方式は、近親交配の傾向をさらに高め、近親交配による近交係数の上昇は、
長期の 改良量の 減少を招く。本研究は、選抜並びに交配決定にファジィ集合を導入し、改良 量を損 なわずに 近交係数の上昇を抑制するための方策を提示し、その有効性を模擬実験によ って検証した。得られた成果は次のように要約される。
1.育 種情報 の暖味さ とファジ ィ化の 可能性
本研究の 背景と 関連分野の研究を総説すると共に、実用的育種技術として具備すべき条件 として、 目的達 成の有効性に加えて、選抜・交配決定基準の演算が単純で容易であること、
ならびに 種々の 状況に柔 軟に対 応できる ことを論じた(第1章)。次いで、育種技術に利用 される育 種価の 推定値(推定育種価)ならびに近交係数は常に変動誤差を伴い、曖味さを含 みファジ ィ化の 対象にな ると結 論した。
2. 短 期 な ら び に 長 期 の 選 抜 反 応 と 近 交 係 数 の 上 昇 並 び に フ ァ ジ ィ 化 の 効 果 推 定育種 価を近交 係数で割り引く選抜基準に、ロジステック関数で変換した近交係数を適 用 するこ とを試み ると共に 、推定 育種価な らぴに表型値に基づく短期(5世代)、長期(10 世 代)の 選抜を比 較した。短期の改良量は、推定育種価に基づく選抜が最も有効であるが、
長 期の選 抜では必 ずしも有利ではなぃことを確認した。近交係数をファジィ化した基準での 選 抜は、 近交係数 の上昇抑制に有効であり、特別な弊害は認められなかった。しかし、この 方 法は次 代の近交 係数を直接制御することはできず、共祖係数に基づく期待近交係数の利用 が より有 効である ことを示 唆した 。
3.ファジィ集合の交配決定基準への応用と統合方法
推定育種 価に基 づき選抜した後、交配組み合わせ個体の平均推定育種価と期待近交係数を ロジステ ック関 数で変換し、両者を種々の演算子で統合し、平均育種価が高く近交係数が低 い組み合 わせを 序列化し 、交配 決定する ことを試 み、幾何平均が最も有効であった。2変量 の重み付 け係数 の組み合わせは近交係数上昇の抑制と改良量に大きな影響を及ぼすが、言語 /丶丶ッジの選択の効果は小さかった。次いで、代表的な交配決定法である最小血縁交配法並び に補償交 配法と 、ファジィ交配決定法を比較した。近交係数の上昇は、最小血縁交配法より 抑制効果 が小さ かったが、改良量の損失はより小さかった。近交係数の抑制効果が認められ ている偏 向遺伝 率で推定した育種価で選抜後、ファジィ交配決定法の適用により、さらに近 交 係 数 の 上 昇 が 押 さ え ら れ 、 そ の 効 果 は 相 加 的 に 独 立 に 作 用 す る こと を 確 認し た 。
4.ファジ ィ集合 の交配選 抜基準 への応用
ファ ジイ集 合の交配選抜への応用(ファジィ交配選抜)を試み、雄が交配する最大許容交 配頭 数を2から8頭に高 めるに伴 い、雄 の選抜差 は大き くなるが 近交係 数の上昇も同時に高 まっ た。しか し、年 当たりの 改良量 は3〜4頭の とき最 大となっ た。改 良量は無作為交配と 変わ らず、近 交係数 の上昇は 大きく 抑制され た。また、雌の交配回数を最大2回までとした とき 、近交係 数の抑制効果は雄程大きくなかった。雄側からの交配選抜は改良量の高まりが 期待 され、近 交係数上昇の抑制にも有効であった。雌側からの交配選抜をも組み合わせるこ とに より、更 に効果が高まった。即ち、本法を交配選抜に応用することにより、改良量を損 なわ ずに、む しろ高めることも可能であった。これらの効果は集団が大きくなるにっれてよ り大 きくなる 傾向が 認められ た。
5.フ ァジィ交 配選抜 による任 意の近 交係数上 昇の制 御
第4章 で推定 育種価と 期待近交 係数の 重付け係 数(w)によ って、制 御効果に差異がある ことが認 められ ている。 そこで、 二分検 索法を用い制御するに最適なwを決定することによ り上昇率 を制御 することを試みた。近交係数の上昇率を0.02以上の範囲内で制御が可能であ り、特に 、0.03以上の範囲では遺伝的改良量を殆ど損なうことが無く、無作為交配の上昇率 0.045より 低く抑 えられた 。しか し、上昇 率0.02では、改良量の低下が認められた。最近報 告されたMeuwissenの 方法と比 較した とき、0.025以上 の範囲で は殆ど差が無く、近交係数 上 昇 率 の 変 動 が よ り 小 さ く 、 よ り 確 実 に 近 交 係 数 の 制 御 が 可 能 で あ っ た 。
以上 のよう に、遺伝的改良量を大きく損をわずに、近交係数上昇の抑制策として、選抜・
交配 決定基準 にファジィ集合の応用を世界で初めて試み、その有効性を実証した。これらの 研究 成果は改 良品種の育種に加えて、消滅の危機にある在来家畜の保存・改良など遺伝資源 の保 存方策へ の適用も期待され、学術的に、実用面でも高く評価される。よって審査員一同 は 、 中 村 淳 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を う け る に 十 分 な 資 格 あ る も の と 認 め た 。