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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 学 ) 中 林 成 人

学 位 論 文 題 名

春季プランク卜ンブルーム時における溶存二価鉄の存在 および鉄の光還元機構に関する研究

学位論文内容の要旨

    近年 ,分析 機器の 発達 ,分析 法の改 良なら びに 採水技 術の進 歩によって,過去の海水中におけ   る微 量金属 の報告 値が次 々と 刷新さ れ,そ れらの 正確な 定量 値が報告されると共に微量金属と生

、物と の関 係も報 告され 始めた 。生物 は, その生 体の構 成に炭 素, 窒素,リン等を必要とするが,

  これ らは量 的にか なり多 量で ある。 それに 比ベ, 少量で はあ るが生命維持には鉄,マンガン,銅   等が 必要で あるこ とは古 くか ら知ら れてお り,こ れらは 必須 微量金属と呼ばれている。特に,鉄   やマ ンガン は,古 くから プラ ンクト ンの増 殖に重 要な役 割を 果たすと考えられ,鉄がプランクト   ン に 必 要 な 必 須 微 量 元 素 の ー つ で あ る こ と は か な り 以 前 か ら 報 告 さ れ て い る 。     海洋 におい て,必 須微 量金属 元素の 大部分 は溶 存態で 存在し ているが,鉄の酸化速度は塩分濃   度 ,pH,イ オ ン 強 度 等の 条 件 に 影 響さ れるが ,河川 では 溶存態 で存在 してい たFe(H) は海洋   に 流 入 す る と河 口 付 近 で 粒状 のFe cni)に 酸化 さ れ , 凝 集に より粒 状Fe(m)と し沈降 除去 さ   れ る 。 従 っ て, 酸 化 環 境 下の 海 水 中 で は熱 力 学 的 に は溶 存 のFeくn)は存在 しえな いこ とにな   り , 必 須 微 量 金 属 の 中 で は 特 異 な 挙 動 を 示 す 元 素 と 見 な さ れ て い る 。     しか しなが ら,植 物プ ランク トンが 鉄を利 用す る場合 ,鉄を 錯化できるサイデ口フオアを有す   る赤 潮種で ある数 種の植 物プ ランク トンを 除けば ,粒状 の鉄 を利用できず,植物プランクトンに   摂取 される 鉄は, 溶存の 鉄と 考えた 方がよ り普遍 的であ る。 栄養塩の枯渇しない外洋域の表層で   は, 鉄によ って植 物プラ ンク トンの 成長が 制限さ れてお り, 鉄を人為的に供給することで植物プ   ラン クトン を増殖 させ, 二酸 化炭素 を固定 させ, 地球温 暖化 を抑制させるという考えが最近活発   に 議 論 さ れ は じ め て お り , 地 球 環 境 を 考 え る 上 で も 海 洋 にお け る 鉄 が 注目 さ れ て い る。

    植物 プラン クトン が短 期間に 急激に 増殖す る現 象にス プリン グブル―ムがある。物理的には水   が安 定する こと, 太陽照 度が 強まる 等の条 件が必 要であ るが ,化学的観点からはその発生機構は   解明 されて いない 。植物 プラ ンクト ンが急 激に増 殖する ブル ーム時には,植物プランクトンの成   長が ,より 鉄に制 限され ると 考えら れる。

(2)

  粒 状 鉄が 溶 存 鉄 に 変わ る 機 構 と して は 有 機 物 と錯体 を形成 する こと,Fe cn) に還 元され 溶 存 す る こ と の ニ っ が 考 え ら れ る が , 酸 化 環 境 下 の 海 水 中 に お い て は 解 明 さ れ て いな い 。   以 上のこ とか ら,海 洋にお ける鉄 の挙 動,存 在状態 ,ある いは酸 化還 元機構を明らかにするこ と は,単 に地球 化学 的な興 味のみ ならず ,鉄が 水棲 生物に 果たす 役割を 知る 上においても,また 地 球環境 を考え る上 でも重 要であ ると思 われる 。本 研究は ,噴火 湾にお ける スプリングブルーム 時 の 溶 存Fe(JI)の 挙 動 な ら び に鉄 還 元 物 質 の存 在 お よ び 粒状Fe (III)から 溶存Fe(II)へ の 還元機 構を解 明し ,スプ リング ブルームに及ぼす鉄の影響を化学的に解明することを目的とし,

以 下の知 見を得 た。

1)酸 化 環 境下 の 海 洋 で は 熱力 学 的 に 存 在し え な い 溶 存のFe(II)を ブ ル ーム 時 の 海 洋 表 層で   検 出 し, 海 洋 に お けるFe (II)の 存 在を 明 ら か に した 。Fe(H) は ブ ルーム が起こ る数 日前   か ら 検出 さ れ , ブ ルー ム ピーク 時に表 層で 最大60nM検 出さ れ,そ の後減 少し, ブル ームの 終   焉 と 共に 検 出 さ れ なく な っ た 。Fe(H) は 溶存 種で あり, 植物 プラン クトン が摂取 可能な 形   態 で ある こ と か ら ,化 学 的にはFe(矼 )がブ ルーム の発生 機構 に関与 してい ること が示唆 さ   れ た。

2) Fe(H) の 起源 は 冬 季 鉛 直混 合 で 表 層 に もた ら さ れ た 海底 土 起 源 の粒 状Fe( 皿)で あり,

  海 洋表層 にお いて還 元され たもの であ った。

3)Fe(皿 ) 還 元 物 質は 海 底 土 起 源の 物 質 で は なく ,植物 プラン クトン 起源 の溶存 有機物 であ   り , この 物 質 は 種 々の ヒ ド 口 キ シカ ル ボ ン 酸 であり ,Fe(m) の還元 には紫 外線の 照射が 必   要 である こと を明ら かにし た。

4) ヒ ド ロキ シ カ ル ボ ン酸 で は , 酒 石 酸, グ ル コン 酸, グルカ ル酸, グルカ ル酸 ―1,4― ラク   トン がFe(1II) の還元 率が 高く, グルカ ル酸で は83% の高還 元率を 示した が, ヒドロ キシカ   ル ボ ン酸 の 構 造 の 違い に よ りFe(m) の 還 元率 に差 があり ,こ の原因 は,ヒ ド口キ シカル ボ   ン 酸の鉄 との 錯化能 の違い であっ た。

5)Fe(m) の 還 元 反応 は 温 度 に 依存 せ ず 光 強 度に の み 依 存 する 光 還 元 反応で あるこ とを立 証   し た。

6) 螢 光 ラ ベ ル 試 薬 と し てADAMを 用 い , オ ク タ デ シ ル シ ラ ン 逆 相 系 カ ラ ム を 用 い ,HPLC   で 分離後 螢光 光度法 により 検出す るこ とによ り感度 を高め ,鉄還 元物 資のーっであるグルコン   酸 を 定 量 可 能 に し , 本 研 究 で 初 め て 海 水 中 の 鉄 還 元 物 質 の 存 在 を 明 ら か に し た 。 7) グル コン酸 は海洋 表層 で高濃 度であ り,深 度と共 に減 少した 。また ,その 季節 変化は ク口口   フ ア ル ―aの そ れ と 一 致 し , ブ ル ー ム ピ ー ク 時 の 海 洋 表 層 で700nMの 最 大 値 を 示し た 。

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(3)

  8)ブル―ム時の粒状Fe(m)濃度とグルコン酸濃 度より算出したFe (II)濃度から,ブルー     ム時に検出したFe(且)の43〜 56%が,グルコン酸により光還元されたFe(皿)であると推     定された。

    以上要約すると,海洋における鉄の還元機構は粒状Fe(m)の表面でヒドロキシカルボン酸   が錯体を形成し,この錯体が太陽光の照射によりFe(II)に光還元される。Fe (1I)はFe(m)   に酸化されるが,粒状態になる前に,溶存Fe cnc)は海水中のヒドロキシカルボン酸と錯体を   形成する。海水中の溶存Fe(m)錯体は,再びFe(皿)に光還元される。また,海水中に過剰   のヒド口キシカルボン酸が存在すると絶えず粒状Fe (JJI)と錯体を形成し,上述の反応が繰り   返されFe(矼)の光還元が起こる。また,光還元は温度に依存しなぃが酸化反応,加水分解反   応は低温ほど反応速度が遅くなり,その結果低温ほど光還元で生じるFe(n)が多くなり,ま

.たFe(II)ならびに溶 存Fe(II[)錯体が存在し易 くなる。溶存FeくIn)錯体は,太陽光の照   射により容易にFe(II)に還元される。ブルーム時は水温が低く,また海水中の鉄還元物質が   多いため,海洋表層でFe(u)が存在できる条件が整っており,このFe(n)がブルームを維   持しているものと推定された。

    本研究により,スプリングブルーム時におけるFe (1I)の存在,鉄還元物質の存在および鉄   の光還元機構を明らかにした。

学位論文審査の要旨

  生物は,その生体の構成に炭素,窒素,リン等を必要とするが,これらは量的にかなり多量で ある。それに比べ,少量ではあるが生命維持には鉄,マンガン,銅等が必要であることが古くか ら知られており,これらは必須微量金属と呼ばれている。特に,鉄やマンガンは,古くからプラ ンクトンの増殖に重要な役割を果たすと考えられ,鉄がプランクトンに必要な必須微量元素の一

彦 弘

昭 男

勝 昌

清 義

永 原

谷 田

松 梶

大 米

授 授

授 授

教 教

教 教

査 査

査 査

主 副

副 副

(4)

っ であ ること はかナ ょり以 前か ら報告 されて いる。

  海洋に おいて ,必須 微量 金属元 素の大 部分は ,溶 存態で 存在し ている が,鉄の酸化速度は塩分 濃 度 ,pH,イ オ ン 強 度 等の 条 件 に 影 響 され , 河川で は溶存 態で存 在し ていたFe(H)は, 海洋 に 流 入 す る と 河口 付 近 で 粒 状のFe cni)に 酸化 され, 凝集に より 粒状Fe( 皿)と して 沈降除 去 さ れ る 。 従 っ て, 酸 化 環 境 下の 海 水 中 で は熱 力学 的には 溶存のFe (lI)は存在 しえな いこと に な り , 必 須 微 量 金 属 の 中 で は 特 異 な 挙 動 を 示 す 元 素 と み な さ れ て い る 。   しかし ながら ,植物 プラ ンクト ンが鉄 を利用 する 場合, 鉄を錯 化でき るサイデ口フオアを有す る 赤潮 種であ る数種 の植物 プラ ンクト ンを除 けば, 粒状の 鉄を 利用で きず,植物プランクトンに 摂 取さ れる鉄 は,溶 存の鉄 と考 えた方 がより 普遍的 である 。

  植物プ ランク トンが 短期 間に急 激に増 殖する 現象 にスプ リング プルー ムがある。物理的には水 が 安定 するこ と,太 陽照度 が強 まる等 の条件 が必要 である が, 化学的 観点からはその発生機構は 解 明さ れてい ない。 植物プ ラン クトン が急激 に増殖 するブ ルー ム時に は,植物プランクトンの成 長 が, より鉄 に制限 される と考 えられ る。

  粒 状 鉄 が溶 存 鉄 に 変 わる 機 構 と し て は有 機 物と錯 体を形 成する こと ,ある いはFe (II)に 還 元 され 溶存す ること のニっ が考えられるが,,酸化環境下の海水中においては解明されていない。

  以上の ことか ら,海 洋に おける 鉄の挙 動,存 在状 態,あ るいは 酸化還 元機構を明らかにするこ と は, 単に地 球化学 的な興 味の みなら ず,鉄 が水棲 生物に 果た す役割 を知る上においても,また 地 球環 境を考 える上 でも重 要で あると 思われ る。

  本 研 究 は, 噴 火 湾 に おけ る ス プ リ ン グブ ル ーム時 の溶存Fe (IL)の挙動 ならび に鉄 還元物 質 の 存 在 お よ び 粒状Fe(m)から 溶存Fe (II). への 還元機 構を解 明し, スプリ ング ブルー ムに及 ぼ す鉄 の影響 を化学 的に解 明す ること を目的 とした もので ある 。

1) 酸 化 環 境下 の 海 洋 で は 熱力 学 的 に 存 在し え な い 溶 存のFe (II)をブル ーム時 の海 洋表層 で   検 出 し ,海 洋 表 層 に おけ るFe(H) の 存 在 を 明ら か に し た 。Fe (II)はブ ルーム が起こ る数   日 前 か ら検 出 さ れ , ブル ー ム ピ ー ク 時に 表 層で最 大60 nM検出 され, その後 減少し ,ブル ―   ム の 終 焉と 共 に 検 出さ れなく ナょっ た。Fe(n)は溶 存種で あり ,植物 プラン クトン が摂取 可   能ナょ 形態で あるこ とか ら,化 学的に はFe( 矼)が ブル― ムの発 生機 構に関与していることが   示唆さ れた。

2) Fe(ni)還 元物 質 は , 植 物プ ラ ン ク ト ン起 源 の 溶 存 有 機物 で あ り,こ の物質 は種 々のヒ ド   ロ キ シ カル ボ ン 酸 であ った。 また,Fe (III)の 還元に は紫外 線の照 射が必 要で あるこ とを明   らかに した。

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3)ヒド ロキシカルボン酸のうち,酒 石酸,グルコン酸,グルカル酸,グルカル酸‑1,4―ラ   クトンがFe(皿)の還元率が高く,グルカル酸では83%の高還元率を示したが,ヒドロキシ   カルボン酸の構造の違いによりFe(m)の還元率に差があり,この原因は,ヒド口キシカル   ボン酸の鉄との錯化能の違いであった。

4)グルコン酸は海洋表層で高濃度であり,深度と共に減少した。また,その季節変化はク口口   フィ ル ―aの それ と 一致し,ブルームピ ーク時の海洋表層で700nMの 最大値を示した。

5)ブル ーム時の粒状Fe(m)濃度と グルコン酸濃度より算出したFeくn)濃度から,ブル―

  ム時 に検出したFe(H)の4〜56% が,グルコン酸により光還元されたFe (II)であると推   定された。

  以上要約すると,海洋における鉄の還元機構は,粒状Fe(m)の表面でヒド口キシカルボン 酸が錯 体を形成し,この錯体が太陽 光の照射によりFe(H)に光 還元される。Fe(n)はFe

(1II)に酸化されるが,粒状態になる前に,溶存Fe(m)は海水中にヒド口キシカルボン酸と 錯体を 形成する。海水中の溶存Fe(m)錯体は,再びFe(H)に光還元される。また,海水中 に過剰のヒド口キシカルボン酸が存在すると絶えず粒状Fe(皿)と錯体を形成し,上述の反応 が繰り返され,Feくn)への光還元が起こるものと推測した。

  本研究により,スプリングブルーム時におけるFe (1I)の存在,鉄還元物質の存在および鉄 の光還元機構を明らかにした。

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