博 士 ( 工 学 ) 石 塚 朋 弘
学位論文題名
Elucidation of MechanlSmSOfS02RemOVal andACtivityEnhanCementfbrDryFGD
AbSOrbentPreparedfromCOalFlyASh
(石炭灰利用乾式脱硫剤の脱硫反応機構および活性向上機構の解明)
学位論文内容の要旨
酸性雨の原因物質のーつである硫黄酸化物は石炭などの燃焼により発生する。
発生した硫黄酸化物の排出量を低減するために排煙脱硫装置の設置が効果的で あり、国内では1990年頃までに装置の設置が普及した。現在は、多くの脱硫 装置は湿式の石灰石一石膏法で脱硫をしているが、この方式では多量の水の供給 と処理が必要である。一方、従来の乾式脱硫法は、多量の水の供給と処理は必 要ないが、反応効率が低いことが問題点であった。近年、水酸化カルシウム、
硫酸カルシウムおよび石炭灰を原料とする水和硬化物が高い脱硫性能を示すこ とが見いだされ、これを脱硫剤として用いた乾式脱硫装置が北海道電力(株)
苫 束 厚 真 発 電 所 に 設 置 さ れ 、 平 成3年 以 来 順 調 に 稼 働 し て い る 。 本研究は、上記水和硬化物の脱硫活性を向上させるために、脱硫活性物質の 生成機構と硫酸カルシウムの脱硫活性物質生成における役割を解明するととも に、硫黄酸化物の固定化反応機構を明らかにした。本論文は5章から成り、各 章は以下のように要約される。
第1章では、本研究の背景を述べるとともに、研究の目的を明らかにし、論 文の構成を記した。
第2章では、水酸化カルシウム、硫酸カルシウムおよび石炭灰を原料とする 場合に比ベ、水酸化カルシウムの代わりに酸化カルシウムを用いると、吸収剤 製造に要する時間が著しく短縮されるだけでなく、より高い活性を有する吸収 剤が生成されることを見いだした。酸化カルシウムを用いる場合には、酸化カ ルシウムの消化過程とそれに引き続く水熱処理過程のニつの過程に分かれるが、
消化過程において発生する熱により温度が上昇し、カルシウム成分と石炭灰中 のケイ素成分の反応でカルシウムシリケートを生成する反応が促進されること を明らかにした。
また、硫酸カルシウムを消化過程時に添加すると無添加の時と比較して生成 する吸収剤の活性が低下し、水熱処理過程時に添加すると活性の向上が見られ
ることを見いだした。これにより、活性の高い吸収剤を調製するためには、酸 化カルシウムと石炭灰の混合物に水を加えて消化し、消化生成物に硫酸カルシ ウ ム を 添 加 し て 水 熱 処 理 を す る 方 法 が よ い と 提 案 で き た 。 第3章では、消化過程と水熱処理過程において果たす硫酸カルシウムの役割 について検討し、活性の高い吸収剤を調製方法の科学的根拠を解明した。すな わち、消化過程に硫酸カルシウムを添加して得た水酸化カルシウムは、無添加 で消化した水酸化カルシウムに比ベ、含水ケイ酸と反応しカルシウムシリケー トを生成しやすいことをX線吸収スペクトルにより明らかにした。硫酸カルシ ウムを消化過程時に添加すると、消化により生成する水酸化カルシウム粒子の 表面が硫酸カルシウムに覆われて、石炭灰中のケイ素成分との反応性が低下し、
活性成分であるカルシウムシリケートの生成が抑制されることをX線光電子分 光法により明らかにした。一方、水熱処理過程に硫酸カルシウムを添加すると、
水酸化カルシウムは、水熱処理時に進行する結晶子の成長が抑制されることを X線回折法により明らかにした。活性の増加は、結晶子の成長が抑制されるこ とによって、石炭灰中のケイ素成分との反応性が維持され、カルシウムシリケ ートの生成量が増加することに因ると結論した。
第4章では、吸収剤が硫黄酸化物を吸収する際に、一酸化窒素が共存すると 吸収速度が増加する理由の解明を行った。吸収剤のモデル物質として酸化カル シウムを用い、その表面上における二酸化硫黄と一酸化窒素の相互作用を赤外 線吸収スベクトル法と昇温脱離法を用いて検討した。二酸化硫黄は酸化カルシ ウムの表面に亜硫酸イオンの形で吸着する。一方、一酸化窒素は、二トリト錯 体、フリーなニト口、二ト口錯体、キレートニト口錯体等種々の表面吸着種を 生成する。二酸化窒素はニトラト錯体の形で吸着する。これらの窒素酸化物の 吸着種の中で、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化するのは、一酸化窒素の吸着 種のみで、二酸化窒素の吸着種は亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化しないこと を明らかにした。また、吸着酸素は、直接亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し ないが、一酸化窒素による亜硫酸イオンの酸化を促進する効果があることをも 明らかにした。
第5章では、総括として本研究の成果をまとめた。
以上、本論文では、石炭灰、酸化カルシウム、硫酸カルシウムを原料として 生成する脱硫剤の活性発現に伴う化学現象を明らかにするとともに、二酸化硫 黄の硫酸カルシウムヘの変換機構を解明し、乾式の排煙脱硫装置に用いる活性 の高い脱硫剤の製造方策を提案することができた。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
服部 千葉 奥原 下川部
英 忠俊
敏夫 (地球環境科学研究科)
雅英
学位論文題名
Elucidation of Mechanisms of S02 Removal and Activity Enhancement for Dry FGD Absorbent Prepared from Coal Fly Ash
( 石 炭 灰 利 用 乾 式 脱 硫 剤 の 脱 硫 反 応 機 構 お よ び 活 性 向 上 機 構 の 解 明 )
石 炭 な どの 燃 焼 によ り 発 生す る 硫 黄 酸化 物 は 酸性 雨の原 因物質 のーつで あり、そ の 排出 量 を 低減 す る ため に は 排煙 脱 硫 装 置の 設 置 が効果 的である 。現在 設置され て い る多 く の 脱硫 装 置 は湿 式 の 石灰 石 ‐ 石 膏法 で あ るが、 この方式 では多 量の水の 供 給 と処 理 が 必要 で あ る。 一 方 、従 来 の 乾 式脱 硫 法 は、多 量の水の 供給と 処理は必 要 な いが 、 反 応効 率 が 低い こ と が問 題 点 で あっ た 。 近年、 水酸化カ ルシウ ム、硫酸 カ ル シウ ム お よび 石 炭 灰を 原 料 とす る 水 和 硬化 物 が 高い脱 硫性能を 示すこ とが見い だ さ れ 、 こ れ を 脱 硫 剤 と し て 用 い た乾 式 脱 硫装 置 が 北海 道 に おい て 稼 働し て い る。
本 研 究 は、 上 記 水和 硬 化 物の 脱 硫 活 性を 向 上 させ るため に、脱 硫活性物 質の生成 機 構と 硫 酸 カル シ ウ ムの 脱 硫 活性 物 質 生 成に お け る役割 を解明す るとと もに、硫 黄 酸 化物 の 固 定化 反 応 機構 を 明 らか に し た 。本 論 文 で得ら れた成果 は以下 の通りで あ る 。
1水 酸 化 カ ル シ ウ ム 、 硫 酸 カ ル シ ウ ム お よ び 石 炭 灰 を 原料 と す る場 合 に 比ベ 、 水 酸化 カ ル シウ ム の 代わ り に 酸化 カ ル シ ウム を 用 いると 、吸収剤 製造に 要する時 間 が 著し く 短 縮さ れ る だけ で な く、 よ り 高 い活 性 を 有する 吸収剤が 生成さ れること を 見 いだ し た 。酸 化 カ ルシ ウ ム を用 い る 場 合に は 、 酸化カ ルシウム の消化 過程とそ れ に 引き 続 く 水熱 処 理 過程 の ニ つの 過 程 に 分か れ る が、消 化過程に おいて 発生する 熱 に より 温 度 が上 昇 し 、カ ル シ ウム 成 分 と 石炭 灰 中 のケイ 素成分の 反応で カルシウ ム シ リ ケ ー ト を 生 成 す る 反 応 が 促 進 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。 2硫 酸 カ ル シ ウ ム を 消 化 過 程 時 に 添 加 す る と 無 添 加 の 時と 比 較 して 生 成 する 吸 収 剤の 活 性 が低 下 し 、水 熱 処 理過 程 時 に 添加 す る と活性 の向上が 見られ ることを 見
いだした。これにより、活性の高い吸収剤を調製するためには、酸化カルシウムと 石炭灰の混合物に水を加えて消化し、消化生成物に硫酸カルシウムを添加して水熱 処理をする方法がよいと提案できた。
3消化過 程と水熱 処理過程 において 果たす硫 酸カルシ ウムの役割 について検討 し、活性の高い吸収剤を調製方法の科学的根拠を解明した。すなわち、消化過程に 硫酸カルシウムを添加して得た水酸化カルシウムは、無添加で消化した水酸化カル シウム に比べ、含水ケイ酸と反応しカルシウムシリケートを生成しやすいことをX 線吸収スベクトルにより明らかにした。硫酸カルシウムを消化過程時に添加すると、
消化により生成する水酸化カルシウム粒子の表面が硫酸カルシウムに覆われて、石 炭灰中のケイ素成分との反応性が低下し、活性成分であるカルシウムシリケートの 生成が 抑制され ることをX線光電子 分光法に より明ら かにした。 一方、水熱処理 過程に硫酸カルシウムを添加すると、水酸化カルシウムは、水熱処理時に進行する 結晶子 の成長が抑制されることをX線回折法により明らかにした。活性の増加は、
結晶子の成長が抑制されることによって、石炭灰中のケイ素成分との反応性が維持 され、カルシウムシリケートの生成量が増加することに因ることを明らかにした。
4吸収剤 が硫黄酸 化物を吸 収する際 に、一酸 化窒素が 共存すると 吸収速度が増 加する理由の解明を行った。吸収剤のモデル物質として酸化カルシウムを用い、そ の表面上における二酸化硫黄と一酸化窒素の相互作用を赤外線吸収スベクトル法と 昇温脱離法を用いて検討した。二酸化硫黄は酸化カルシウムの表面に亜硫酸イオン の形で吸着する。一方、一酸化窒素は、二トリト錯体、フリーなニトロ、二トロ錯 体、キレート型ニト口錯体等種々の表面吸着種を生成する。二酸化窒素はこトラト 錯体の形で吸着する。これらの窒素酸化物の吸着種の中で、亜硫酸イオンを硫酸イ オンに酸化するのは、一酸化窒素の吸着種のみで、二酸化窒素の吸着種は亜硫酸イ オンを硫酸イオンに酸化しないことを明らかにした。また、吸着酸素は、直接亜硫 酸イオンを硫酸イオンに酸化しないが、一酸化窒素による亜硫酸イオンの酸化を促 進する効果があることをも明らかにした。
これを要するに、著者は、脱硫剤の活性発現と二酸化硫黄の硫酸カルシウムヘの 変換機構に関して新知見を得たものであり、触媒化学の発展と地球環境科学に対し て貢献するところ大なるものがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学 位を授与される資格あるものと認める。