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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 甲 斐 元 士

    学 位 論文 題 名

Study of structure and expresslonofphOSphate     tranSportergenelnplant

( 植 物 リン 酸 トラ ンスポー ター遺伝 子の構造 と発現に関 する研究 )

学位論文内容の要旨

  大部分の土壌において、土壌溶液中のりン酸濃度は非常に低い(一般的には2 ,uM以下)ため、

リン酸は根圏で最も欠乏しやすい栄養素である。そのため、植物はりン酸欠乏状態に適応するた めに様々な戦略を発達させている。植物によるりン酸の土壌からの吸収や体内での移動において は、細胞膜に存在するりン酸トランスボーターが重要な因子のーつである。リン酸トランスボ一 夕ーに関しては、生理学的な研究が多くなされているものの、分子レベルでの性質や遺伝子の発 現制御機構については不明のままであることから、本研究では、リン酸トランスボーター遺伝子 の構造を明らかにし、リン酸に対する遺伝子発現の応答性を解析し、遺伝子の発現制御機構につ いて考察した。

1.C,atharanthus roseusからのりン 酸トラン スボータ ー遺伝子のクローニングと解析     Catharanthus roseusのり ン酸トランスボーターをコードしているcDNAを獲得しPIT1   と名付けた。PIT1は542個のアミノ酸から成るオープンリーディングフレームを持ち、12 回の膜貫通領域を持っと推定される疎水性の強いタンバクをコードしていた。この様な構造は 真核生物のプロトン/リン酸トランスボーターで保存されている。PIT1の塩基配列から推定   したアミノ酸配列は、酵母や糸状菌で既に明らかとなっている細胞膜の高親和型プロトン/リ   ン酸トランスボーターと約30%の相同性を示した。一方、植物の葉緑体に存在するりン酸ト   ラ ン ス ロ ケ ー タ ー の 既 知 の ア ミ ノ 酸 配 列 と は 、13〜15% の 相 同 性 で あ っ た 。     .9accharomyces cerewsiaeの高親和型リン酸トランスボーターをコードしているPH084 遺 伝子 が破壊 されたDpU株 は、低リ ン酸の培 地(LP培地、55,uMリン酸)で は生育で きな   い。このDpU株でPIT1を発現させたところ、低リン酸の培地で生育可能となった。以上の   結果から、PIT1はeroseusのプロトン/リン酸トランスボーターをコードしていると推定   された。

    ノーザンハイプリダイゼーションの結果から、PIT1遺伝子はerD5eusの根、茎、および   幼植物体全体で発現していることが明らかとなった。このことから、PIT1夕ンバクが土壌か   らのりン酸吸収と植物体内でのりン酸転流の両方において機能していることが示された。これ   らの結果は、植物のりン酸トランスボーター遺伝子を世界で初めて獲得し、解析したものであ

(2)

る。

2.  Nicotiana tabacumの り ン 酸 ト ラ ン ス ボ ー タ ー 遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ     PIT1を 初め とし 、既 に獲 得さ れている植物のりン酸トランスボータ 一遺伝子の間で保存さ   れ て い る 塩 基 配 列 を 利 用 し てNicotiana tabacumか ら4種 類 のcDNA (NtPTl、NtPT2、 NtPT3、 お よ びNtPT4)を 獲 得 し た 。NtPTl、2、3、4の 塩 基 配 列 か ら 推 定 し た ア ミ ノ 酸 配 列 は、 既に 明ら かに なっ てい る植 物のりン酸トランスボーターの配列と 高い相同性を示した。

  また 、NtPTl、2、3、4は他 の真 核生 物の プロ トン / リン 酸ト ラン スボ ータ ーと 同様 に、12 回 の膜 貫通 領域 を持 っと 推定 され る疎水性の強いタンバクをコードして いた。さらに、これら 4つの 遺伝 子は 、植 物や 酵 母や 糸状 菌の プロ トン /リ ン酸 トランスポー ターで保存されている   ア ミ ノ 酸 配 列 を 含 ん で い た 。 こ れ ら の 結 果 は 、NtPTl、NtPT2、NtPT3、 お よ びNtPT4が Nicotiaぬafa61ac伽 コの プロ トン /リン酸トランスボ一夕ーをコードし ている遺伝子であるこ と を示 した 。

3. Nicotiana tabacumのりン酸トランスボーター遺伝子の発現 解析

    NtPTl、NtPT2、NtPT3、 お よ びNtPT4の 発 現 バ タ ー ンを ノー ザン ハイ プリ ダイ ゼー ショ   ン によ り解 析 した 。そ の結 果、NtPTlと2の転 写産 物は 植物 体全 体で 検 出さ れ、 また りン 酸   欠 乏状 態で 植物体のいずれの器官においても遺伝子の 転写が強く促進された。一方、NtPT3、   4の 遺伝 子の転写はりン酸 欠乏状態においてのみ老化葉と根で検出され、他の器官 では検出さ   れ な か っ た 。 こ れ ら の 結 果 は 、NtPTl、2とNtPT3、4は生 理的 な機 能が 異な って いる こと   を示した。さらに、リン酸飢餓状 態の植物では、リン酸の吸収に加え、リン酸の転流と再転流   の 過 程 も り ン 酸 ト ラ ン ス ボ ー タ ー 遺 伝 子 の 転 写 に よ って 制御 され てい るこ とを 示し た。

4.  Nicotiana tabacumの り ン 酸 ト ラ ン ス ボ ー タ ー 遺伝 子の 発 現に およ ばす りン 酸の 影響     リン 酸が 十分 にあ る状 態か ら欠 乏 した状態に植物が移された場合、植物体内のりン酸濃度   は 全 て の 器 官 に お い て すみ やか に 同じ よう な割 合で 減少 した が、NtPTl、NtPT2、NtPT3、   お よびNtPT4の遺 伝子 の転 写は いず れも 、体 内の りン 酸濃 度が 低下し始めてから数日後に植   物体全体で促進された。このことは、植物が りン酸飢餓状態になっていく過程では、リン酸ト   ランスボーター遺伝子の発現は、体外のりン 酸濃度よりも体内のりン酸濃度に対し植物体全体   で反応していることを示している。一方、リン酸飢餓状態の植物にりン酸を再び与えた場合は、

  4つの 遺 伝子の転写はいずれも体内の りン酸濃度が上昇する前に植物体全体で抑制された。こ   の場合、リン酸トランスボーター遺伝子の転 写は外部のりン酸の状態に反応していると考えら   れる。以上の結果から、リン酸トランスボー ター遺伝子は、体内のりン酸状態に反応する要素   と 体外 のり ン酸 状態 に反 応す る要 素 のニっによって転写レベルで制御を受けていると考えら   れる。従って、リン酸トランスボーター遺伝 子は、体内のセンサーと体外のセンサーの両方が   活性化されている場合、すなわち外部からの りン酸の供給が不十分でかつ、体内のりン酸濃度   も低下している状態にのみ発現するものと推 定された。

‑ 1159

(3)

  以上の結果より、リン酸トランスボーター遺伝子は植物体全体で発現し、リン酸の吸収や転流 において重要な役割を果たしていることが明らかとなった。また、その遺伝子の発現制御は体内 と体外、両方のりン酸状態によって制御されていることが明らかとなった。現時点では、その詳 細な機構については明らかではないが、今後、リン酸欠乏に対する植物の適応機構を解明してい くうえで、興味深い課題であると考えられた。

(4)

学 位論文審査の要旨

     学位論文題名

Study of structure and expression of phosphate     transporter geneinplant

(植 物リン酸 トランス ポーター 遺伝子の 構造と発 現に関する 研究)

  本 論 文 は 、 図24、 表3、 引 用 文 献89を 含 む 総 頁 数81の 英 文論 文 であ り 、 別に 参 考 論 文2編 が 添 え ら れ て い る 。

  植 物に よ る りン 酸 の土 壌 か らの 吸 収や 体 内 での 移 動にお いて重要な 因子のー つであ る 、 細 胞膜 に 存 在す る りン 酸 ト ラン ス ポー タ ー に関 して は、生理学 的な研究 が多くな さ れている ものの、 分子レベ ルでの性 質や遺伝 子の発現制 往IJ機構に ついては 不明のま ま で あ る。 本 研 究で は 、リ ン 酸 トラ ン スポ ー タ ー遺 伝子 の構造を明 らかにし 、リン酸 に 対する同 遺伝子の 発現能を 解析し、 遺r云子の 発現制御機構について考察したもので、

得 られた結 果の概要 は以下の 通りであ る。

1. ムtharan thus roseusから のり ン酸トラ ンスポー ター遺伝 子のクロ ーニング と解析     C.aCカaranCカusr〇seusからクロー・ニングされたcDNA(PITl)は542個のアミノ酸 か ら 成 る オ ー プ ン リ ー デ イ ン グ フ レ ーム を 持ち 、 推 定さ れ るア ミ ノ 酸配 列 や高 次 構 造 は 、 既 知 の 真 核 生 物 細 胞 膜 の 高 親 和型 プ ロト ン / リン 酸 トラ ン ス ポー タ ーと 類 似 性が 認められた 。また、 高親和型 リン酸ト ランスポ ーター遺 伝子PI・1084を破 壊し、低   リン酸の培地で生育ができないSaccカclj→〇ツcescej.eyfsfaeの変異株DpU株を作出し、

  同 株にPITlを 導 入し 発 現さ せ た とこ ろ 、 低リ ン 酸の 培 地 で生育 が可能とな った。以   上 の結 果 か ら、PITlはC.r〇seusのプ ロ ト ン/ リ ン酸 ト ラン スポータ ーをコード し   ていると推定された。

    PITlの ノ ー ザン ハ イ ブリ ダ イゼ ー シ ョン の 結果 か ら 、PITlタンバク は土壌から の   り ン 酸 吸 収 と 体 内 で の り ン 酸 転 流 の 両 方 で 機 能 し て い る こ と が 示 さ れ た 。

‑ 1161 ‑

六 男

和 満

喜 房

林 田

井 崎

小 冨

松 大

授 授

授 授

   

   

教 教

教 助

査 査

査 査

主 副

副 副

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2. Nicotiana tabacumの り ン 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー 遺 伝 子 の ク ロ ー ニ ン グ     既 知 の 植 物 リ ン 酸 ト ラ ン ス ポー タ ー 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 利 用 し てNicot|af】a fa6acLJ川カゝら4種類のcDNA(NtPTl、NtPT2、NtPT3、およびNヒPT4)を獲得した。NtPTl、 2、3、4の 推 定 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 と 高 次 構 造を 既知 の植 物プ 口ト ン/ リン 酸トラ ン   スポーターと比較した結果は、NtPT1、2、3、4カjル´c〇fla´】aCa凸accJ〃Jのプ口トン/

  リ ン 酉 夐 ト ラ ン ス ポ ー タ ー を コ ー ド し て し ゝ る 遺 伝 子 で あ る こ と を 示 し た 。

3. Nicotiana tabclcu川 の り ン 酸 ト ラ ン ス ポ ー ク ー 遺 伝 予 の う を 現 門 ¥ 忻     NLPTl、2、3、4の ノ ー ザ ン ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン の 結 果 、NLPTlと2の 転写 産 物 は 植 物 体 全 体 で検 出 さ れ 、 ま た り ン 酸 欠 乏 状 態 で は 埴 物 体 全 体で 転写 が強 く促 進   さ れた 。一 方、NtPT3、4の遺 伝子 の転 写は りン 酸欠 乏状態 にお いて のみ 老化 葉と 根   で検出され、他の器官では検出されなかった。これらの結果は、NLI Tユ、2とNtPT3、 4は 生 理 的 な 機 能 が 異 な っ て い る こ と、 そし てり ン酸 飢餓状 態の 値物 では 、リ ン酸 の   吸 収、 そし て体 内で の転 流や 再転 流も りン 酸ト ラン スポー ター 遺伝 子の 転写 によ っ   て制御されていることを示した。

4. NicotIana tabacumの りン酸 トラ ンス ポー ター遺伝子の発現におよぼすt」ン酸の影 響

    リ ン 酸 が 十 分 に供 給さ れた 状態 から欠 乏し た状 態に 植物 を移 した 場合 、体 内の り   ン 酸 濃 度 は 全 て の器 官で すみ やか に減少 し始 めた が、NtPTl、2、3、4の 遺伝 子の 転   写 は そ れ よ り 遅 れて 植物 体全 体で 促進さ れた 。こ のこ とは 、植 物がlJン 酸飢 餓状 態   に なる 過程 では 、リ ン酸 .ト ラン スポ ータ ー遺伝子の転写が体内のりン酸濃度の低下   に 対し 植物 体全 体で 反応 する こ, とを 示し ている。一方、1Jン酸飢賊状態の植物にり   ン 酸を 与え た場 合は 、4つの遺 伝子 の転 写は いず れも 体内 のり ン酸 濃度 が上昇する前   に 植物 体全 体で 抑制 され た。 この 場合 、リ ン酸 トラ ンスポ ータ ー遺f云 子の転写は外   部 の り ン 酸 の 状 態に 反応 して いる と考え られ る。 以上 の結 果か ら、 リン 酸ト ラン ス   ポ ー タ ー 遺 伝 子 は、 体内 と体 外の 各々の りン 酸状 態に 反応 する ニつ の要 素に よっ て   転 写レ ペル で制 御を 受け てい ると 考え られ た。っまり、リン酸トランフ、ポーター遺   伝 子 は 、 体 内 の セン サー と体 外の センサ ーの 両方 が活 性化 さjLてい る場 合に のみ 発   現 する もの と推 定さ れる 。

  以 上の よう に、本 研究 は、 植物 のり ン酸 トラ ンス ポタ ー遺 伝子のt炸造と、様々なり ン 酸 栄 養状態 に対 する 同遺 伝子 の発 現の 機構 を明 らか にし た。 これら の知 見は 学術 的 に 高 く 評価さ れる と同 時に 、植 物の 低リ ン耐 性機 構の 解明 およ び獲得 に貢 献す るも の であ る。 よっ て審査 員一 同は 、甲 斐元 士が 博士 (農 学) の学f立を受けるのに十分な資 格を 有す るも のと認 めた 。

参照

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