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博士(農学)真勢 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)真勢 学位論文題名

アジア農業水利の進展と農村社会に関する研究 学位論文内容の要旨

  1.はじ めに

  農業 水利は 従来 ,工学 的側面 から論 じら れるこ とが多 かった のに対 して,本研究は,アジア農 業水 利全体 にっい て, 時系列 的かつ地域横断的な視点から,それぞれの農業水利形態の生起要因,

発展 段階, 現状に おけ る課題 ,およ び社会 経済的 な影 響評価 などに 関する水利構造論的視角から の取 り組み を提唱 し, 今後の アジア 農業水 利の展 開を 方向付 ける法 則性を見い出そうとするもの であ る。

  2.アジ ア農 業水利 成立の 自然条 件

  現在 ,世界 の灌 漑農地 の60%が アジ ア地域 に集中 し,か つ農地 灌漑 率においてはアジアが30.4

%で あるの に対し て,他 地域 のそれ は8.8% にす ぎない 。ヨー ロッパ 等に比して降水量が多く,

した がって 天水農 業が十 分に 可能で あると 思われ がち なアジ ア地域 で,な ぜ他地域を大きく上回 る農 業水利 の普及 が見ら れる のか?

  この ことは ,一 般的に は,モ ンスー ンアジ アに おける 降水パ ターン の季節的および経年的バラ ツキ と,そ こに優 越する 水稲 作,そ して水 稲作に 不可 欠な水 分供給 手段と しての農業水利,これ ら3者の 相互関 係から 論じら れるこ とが 多い。

  農業 水利と いう 人工的 営為は ,自然状態で十分な作物水分供給が可能な状態(例えば,ヨー口ツ パで の畑作 やガン ジス河 デル タでの 浮稲栽 培), ある いは逆 に,人 工的営 為を受けっけないまで に水 量が不 足した 状態( 例え ば,大 半の砂 漠地域 )で は成立 しない 。

  換言 すれば ,改 善が可 能な範 囲での 水の逼 迫が ,農業 水利と いう人 為を促すといえる。すなわ ち, モンス ーンア ジアに おけ る雨期 降水量 の豊富 さと ,その 一方で の降水 期間の短期集中性およ び不 安定性 こそが ,農業 水利 という人為的改善を前提とした水稲作の普及をもたらしたのである。

3. ア ジ ア 農 業 水 利 に お け る 人聞 営 為 の 諸 対応

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  アジア農業水利には,東アジアにおける小規模な伝統的溜池灌漑をはじめ,西アジアおよび大 河デル夕等での揚水瀧漑,古代メソポタミアや植民地支配時代および第2次世界大戦後の大規模 な国家主導的水利事業など,多様な諸形態が認められる。

  これらの諸形態は,それぞれが偶発的に生起したものではなく,上記の自然条件を与件としな がらも,それぞれの地域と時代背景の下に,人間あるいは人間集団としての地域社会のニーズに 応じて,生起し,存続してきたものである。

  このことは,アジアの各地域あるいは各時代tこおける農業水利の諸形態の相違が,単に風土論 的自然条件の違いのみから生ずるのではなく,それぞれの地域と時代背景において,可変的な人 間営為を促す,動機の違いによるものであることを意味する。

  例えば,伝統的溜池濯漑組織に見られるような,水利施設の共有と運用を核とした村落共同体 社会は,構成員間に共通の価値観と生活様式を維持するという地域ニーズを具現化する上で,き わめて有効なものであった。しかるに,植民地支配下においては,農業水利はアジア世界が内包 する農業生産の可能性を最大限に引き出すための手段と位置づけられるため,従来の水利共同体 的 社 会 秩 序 は , む し ろ 非 効 率 な 生 産 阻 害 因 子 と し て 排 除 さ れ る 結 果 と な る 。

  4.農業水利の社会経済的影響評価

  農業水利が,作物および土壌に対する水分調節によって,農業生産の安定と拡大を図ろうとす る人為的手段であることはいうまでもない。しかし,農業水利はその事業規模と内容,および管 理運用の適否によって,当該地域の社会経済的展開方向にも多大の影響をあたえるものである。

  換言すれば,農業水利という人為的手段は,地域社会における自然的・社会的要因との整合に おいて,その成果を得るものであり,逆のケース,すなわち地域の諸条件と不整合な場合には,

生産拡大という狭義の目的を達成できないばかりか,地域社会の発展を阻害する負の効果をあた えるものともなる。

  例えば,東北タイや中国西北部における不完全灌漑が,既存農地を含む広範な地域での塩害の 原因となり,農業水 利投資が農業生産の低下と地域社会の荒廃をもたらした例などである。

  一方,農業水利はその投資の巨費性と成果の永統性の点で,直接的な農業生産拡大以上の正・

負両面の影響を地域社会にあたえる。正の影響例は,農業水利の建設過程および完成後の施設運 用における雇用機会の創出,ならびに水利安定がもたらす営農全般の近代化と就労機会の増など である。また,負の影響例は,例えば富農による揚水施設装備などの農業水利投資が,地域全体 の地下水位低下をもらたし,在来井戸に依存する小農の営農環境を悪化させる結果,貧富差の拡

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大を助長する例などである。

  これらのことから,農業水利の成果は画一的な工学的基準によって評価しうるものではなく,

その全過程を通しての技術,事業内容と規模,管理運営体制などの,総合的な的確性の観点から 評価されるべきものである。

  5.農業水利諸形態における法則性の検証

  以上のことから,アジア農業水利の諸形態を同一の座標軸において捉え,その評価と今後の方 向性を予測するための法則性を検証する事が必要である。それは,下記のごとく要約される。

  アジア農業水利の諸形態は,各地域が固有する「静的なものとしての自然条件」と,人間ある いは人間集団たる地域社会が各時代背景の下に抱いた「動的なものとしての行動動機」の組合せ の結果として存在し,同時に,それらの組合せの相違によって,地域社会の形成と展開方向に多 大の影響カを行使することとなる。

  いま,農業水利に関する地域固有の自然条件を,水の逼迫度Aロの定数Yiとし,社会経済的背 景に応じて変化する地域社会の行動動機を,その最小ユニットとしての佃の自由度変数Xとする と , 農 業 水 利 の 成 果Zは , 地 域 定 数 Yiと 個 の 自 由 度 変 数 Xの 関 数 と し て ,     Z二二Yi ‑f(X)

と表すことができる。

  ここに,最適な人為の態様(最終的には地域の自然条件に適合した個の最適自由度X。pt)に よって得られるZの最大値Z″ エは,それぞれの地域と社会背景によって,異なる値と内容を示 すものであり,農業水利と各地域の社会的ニーズが,最大の合一度を示す座標点を意味するもの である。

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学位論文審査の要旨

    主査  教授  梅田安 治     副査  教授  七戸長 生     副査  教授  .前田  隆     副査  教授  堀口郁 夫

  本 論 文 は 図 80, 表 104を 含 む 総 ぺ ー ジ293か ら な る 和 文 の 論 文 で あ る 。   アジ ア農業 の一大 特徴を なす ものは ,水稲 作に代 表され る水 利と一 体化した営農形態である。

そして ,水 利と一 体化す ること によっ て生 じる集 団的営 農のゆ えに ,アジ ア農村社会は他地域と は異な った 諸相を 示すの である 。農業 水利 が農村 社会の 形成と その 展開に 及ぼす影響は,アジア 諸 国で の 農 業 水 利事 業 が 著 し い進 展 を 遂 げ た 第2次 世 界 大 戦後 に お い て ,特 に 顕 著 で ある 。   アジ ア農業 水利に っいて は従 来,工 学的側 面から 論じら れる ことが 多く,その社会的側面につ い ては 特 定 の 国 ・地 域 , も し くは 特 定 の 発 展 段階 に っ い て のみ 論 じ られる ことが 多か った。

  本研 究にお いては ,その 自然 条件と 社会背 景の多 様さの ゆえ に一見 なんの脈絡もなく進展して きたか に見 えるア ジア農 業水利 全体に っい て,時 系列的 かっ地 域横 断的に その生起要因,発展段 階,現 状に おける 課題, および その社 会経 済的な 影響評 価等に 関す る水利 構造論的な視角からの ア プロ ― チ を 提 示し , 今後 のア ジア農 業水利 の展開 を方 向づけ る法則 性を見 い出そ うと した。

  世界 の灌漑 農地の60%が アジア 地域に あり, 農地 灌漑率 はアジ アが30.4%であるに対して,他 地域は8.8% にすぎ ない。 ヨー ロッパ 等に比 して降 水量が 多く ,天水 農業が十分に可能であると みられ がち ナょア ジア地 域で, 農業水利の普及が見られる。これに関しては,モンスーンアジアに おける 降水 パター ンの季 節的・ 経年的 偏在 性と, そこに 優越す る水 稲作, そして水稲作に必要な 水 供 給 手 段 と し て 農 業 水 利 , こ れ ら3者 の 相 互 関 係 か ら 論 じ ら れ る こ と が 多 い 。   本研 究に おいて は,こ れら3者の 関係を 数多く の事 例によ り定性 化し, アジ アにお ける水 稲作 を 前提 と し た 場 合の 「 水 の 逼 迫度 」 の 観 点 か ら, 農 業 水 利 成立 と そ の諸類 型を結 論づ けた。

  アジ ア農業 水利に は,東 アジ アにお ける小 規模な 溜池灌 漑, 西アジ アおよび大河デル夕等での 揚水 灌漑, 古代メ ソポ タミア や植民 地支配 時代 および 第2次世界 大戦後 の大規 模な国 家主 導的水 利事業 など の,多 様な諸 類型が 認めら れる 。これ らは, 自然条 件を 与件と しながらも,それぞれ の地域 と歴 史的背 景の下 に,人 間ある いは 人間集 団とし ての地 域社 会の要 請に応じて形成され存 続して きた もので ある。

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  いま ,ア ジア農 業水利 の諸類 型を人 文地 理的観 点から 整理し ,諸 類型間 の差異 が単に風土論的 自然 条件の みから 生じ るので はなく ,それ ぞれ の地域 と時代 背景に おいて ,可 変的な人間営為を 促す ,動機 の違い によ るもの である と結論 づけ た。

  農業 水利 はその 事業規 模と方 法,お よび 管理運 営の過 程を通 して ,当該 地域の 社会経済的展開 方向 にも多 大の影 響を 与える もので ある。 すな わち, 農業水 利とい う人為 的手 段は,地域社会に おけ る自然 的・社 会的 要因と の整合 におい てそ の成果 を得る もので あり, それ が不整合な場合に は, 生産拡 大とい う狭 義の目 的を達 成でき ない ばかり か,地 域社会 の発展 を阻 害する負の効果を 生ず るもの ともな る。 すなわ ち,農 業水利 は画一的な工学的基準によって評価しうるものではナょ く, その全 過程を 通し ての技 術,事 業投資 規模,および管理運営組織などの総合的ナょ的確性の観 点か ら評価 すべき であ ること を指摘 し,こ の観 点から 農業水 利の社 会経済 的影 響評価を行った。

  アジ ア農 業水利 の諸類 型にお ける自 然と 人間と の関わ り,お よび その結 果とし ての農業水利の 社会 的成果 を包括 的に 評価す る上で ,以下 の手 法を提 唱した 。

  アジ ア農 業水利 の諸類 型は, 各地域 が固 有する 「静的 なもの とし ての自 然条件 」と,人間ある いは 人間集 団たる 地域 社会が 各時代 背景の 下に 抱いた 「動的 なもの として の行 動動機」の組合せ の結 果とし て存在 し, 同時に ,それ らの組 合せ の相違 によっ て,地 域社会 の形 成と展開方向に多 大の 影響カ を行使 する 結果と なる。

  いま , 農 業 水 利に 関 す る 地 域固 有の 自然 条件と しての 水の逼 迫度合 の定 数をYiと し,社 会経 済的 背景に 応じて 変化 する地 域社会 の行動 動機 として ,その 最小ユ ニット とし ての個の自由度変 数をXと すると ,農業 水利の 成果Zは, 次式 のごと くなる 。

    Z二ニYi.f(X)

  ここ に, 適正な 人為の 態様( 最終的 には 地域の 自然条 件に適 合した個の最適自由度X。pf)゜に よっ て得ら れるZの最 大値Z″ロ ;は, それ ぞれの 地域と 社会背 景に よって ,異な った値と内容を 示 す もの で あ り , 農 業水 利 と 各 地域 の社会 的二ー ズが 最大の 合一度 を示す 座標 点を意 味する 。   いま ,ア ジア諸 国がそ れぞれ に異な った 社会発 展段階 にある 中で ,農業 水利の 評価と方向性は 一様 なもの ではな い。 しかし ,水稲 作を中 心と してき たアジ アモン ス―ン 地域 においては(水稲 作を 導入し えなか った 地域に おける 背景を 含め て), 農業水 利それ 自体の 成立 と展開に,一定の 法則 性を見 いだす こと が可能 である かもし れず ,その ような 仮定に たって ,農 業水利諸類型の今 後の 方向性 を予測 する ことの 可能性 を示し た。

  よっ て , 審 査 員一 同 は , 別 に行 った 学力 確認試 験の結 果と合 わせて ,本 論文の 提出者 真勢徹 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。

参照

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