博士(農学)蒋 士龍 学位論文題名
通電加熱法による凍結肉の解凍に関する研究 学位論文内容の要旨
解凍は、食肉加 工産業において重要な工程であり、その良否は食肉およ び食肉製品の 品 質に影響を及ば す。現在、凍結肉の解凍に最もよく利用されている方法 は、凍結肉を 流 水に浸漬する流 水解凍法と凍結肉を3〜5℃の冷蔵庫に保管する自然解凍 法である。し か し、流水解凍法 では食肉中の水溶性成分が水に流出して肉質が低下しや すく、水の消 費 量も多い。一方 、自然解凍法では、解凍された食肉の品質が高いと言わ れているが、
解 凍に長時間を要 し、その聞の冷蔵保管のコストが高いという問題点が存 在する。この た め、低コスト且 つ短時間で凍結肉を解凍できる方法の開発が求められて いる。食品に 通 電する際に発生 するジュール熱を利用して食品を迅速に加熱する方法、 すなわち通電 加 熱法は他の食品 工業では広く応用されている。しかし、凍結肉を通電加 熱を利用して 解 凍する際には、食肉と電極との接触が難しく、食肉が部分的に過剰加熱されやすい(解 凍 ムラ)という問 題がある。そこで本論文では、通電加熱法によって解凍 ムラのない凍 結 肉の解凍法を確 立することを目的とし、凍結肉の電気伝導特性を調べる と共に、様々 な 方法によって電 流を制御して通電解凍した食肉の解凍特性を検討した。 さらに、通電 加 熱法を凍結肉の 解凍へ応用する適否を明らかにするため、液体媒体を介 した通電法と 直 接 通電 法で 解凍 した 食肉 の解 凍時 間お よび 肉質 をそ れぞれ流水解凍法 と自然解凍法 で 解凍した食肉と比較検討し、以下の知見を得た。
1. ‑20〜0℃において100 Hz〜20 kHzの電気信号に対する豚の赤身肉、結合組織、脂肪お よ び 牛赤 身肉 の電 気伝 導率 を測 定し た。 その 結果 、凍結肉の電気伝導率は温度の上 鼻に伴い指数関数的に増加し 、周波数の上昇に伴い緩やかに増加したが、1宀一20 kHz で は 電気 伝導 率の 増加 は有 意な もの では なか った 。また、豚肉の電気伝導率は赤身 肉 が 最も 高く 、次 に結 合組 織、 脂肪 の順 であ り、 豚赤身肉の電気伝導率は牛赤身肉 よ り 高く 、食 肉の 電気 伝導 率が 食肉 内の 電解 質や 水分、脂肪などの成分含量に依存 す る こと が示 唆さ れた 。さ らに 、赤 身肉 の電 気伝 導率は電場に対する筋線維の方向 に 依 存 し 、 筋 線 維 が 電場 と垂 直と なる より も平 行と な る場 合で 有意 に高 かっ た。
2. 凍結肉試料を5℃に保持した 溶液(0.25%食塩水)を介し て通電解凍し、解凍時間およ び解凍後の食肉の品質(物理 化学的特性および微細構造)を流水(16℃)解凍した食肉 と比較した。その結果、液 体媒体を介した通電解凍は、解凍時間および解凍後の肉 質 が 通常 の流 水解 凍と 比べ て差 が見 られ なか った 。しかし、液体媒体を介した通電 ―1256−
解凍 では 流水 解凍 と同 じよ うに 水 が消 費さ れる と共 に、 凍結 肉の 加熱 以外に電気伝 導率 が高 くて 温度 が上 昇し やす い 液体 媒体 の冷 却に 、電 カが 無駄 に消 費されるとい う欠点が明らかになった。
3.凍 結 肉試 料を 電極 で挟んで直接通電し、以下の実験を行った。(1)周波数の異なる交 流電 流を 用い て通 電し 、通 電中 の 食肉 温度 の上昇速度を調べた。(2)電圧を一定にす る定 電圧 で通 電し 、通 電中 の食 肉 の温 度変 化を調べた。(3)電流を一定にする定電流 で通 電し 、通 電中 の食 肉の 温度 変 化を 調べ 、解 凍中 にお ける 食肉 の最 高履歴温度お よび解凍時間に及ばす電流値(電流密度: 2.5〜22rriVcm2)の影響を検討した。(4)各2 枚の 通電 制御 可能 な小電極から構成する 分割電極を用いて大型凍結肉試料を通電し、
大型凍結肉の通 電解凍における適切な電流制御方法を検討した。(5)凍結豚肉および 凍結 牛肉 を均 一に 解凍 でき る定 電 流(7〜mA/cm2)通電法で解凍し、解凍時間および 解凍後の肉質( 物理化学的特性およぴ微細構造)を5℃自然解凍法で解凍した食肉と・
比較した。その 結果、(1)各周波数の電流 を用いた通電では食肉温度の上昇速度に有 意 な 差 が ′ な か っ た が 、100HZと 比 べ て1kH2お よ び10kHzの通 電で は温 度上 昇 速度 が速い傾向が見られた。(2)定電圧通電では食肉試料が部分的に過剰加熱された。(3) 定電 流通 電で は電 流値 の増 加に 伴 い、 食肉 の最 高履 歴温 度は 指数 関数 的に上昇し、
解凍時間は反比 例して減少した。(4)分割 電極を用いた通電では、各小電極に接続し た ス イ ッ チ をON、OFFす るこ とに より 、試 料の 表面 と中 心の 温度 差が10℃ を 超え ないように制 御した。その結果、凍結豚肉(1kg)を2時間で解凍できた。(5)凍結豚 肉(500g)と凍 結牛肉(600g)の解凍時間は、自然解凍ではそれぞれ15.5時間および19 時 間 で あ っ た の に対 し、 直接 通電 解凍 では1.7時 間お よび2時 間で あっ た。 ま た、
直 接 通 電 解 凍 法 で解 凍し た豚 肉と 牛肉 の品 質は 、 品質 の高 い5℃自 然解 凍法 で 解凍 した食肉と比べても、差が見られなかった。
本研究では、凍結肉の電気伝導特性を初めて解 明し、凍結ブロック肉の通電解凍では 1 kHz程 度の 交 流電 流を 筋線 維方 向に 直接 通電 する こと が最 も有 効で あ るこ とを提案 した。また、近年液体媒体を介した通電による凍 結肉の解凍法が注目されていたが、本 研究結果から、この方法は凍結肉の解凍に適して いないごとが判明した。以上の結果に 基づき、直接通電による凍結ブロック肉の解凍を 試みた。その結果、食肉試料に流れる 電流密度を7〜9 rriA/c1112に制御した定電流通電法で凍結豚肉(500g)および凍結牛肉(600 g)を2時間で解凍できることと、分割電極を用い て凍結豚肉(1kg)を2時間で解凍でき ることを示し、通電解凍においては食肉の品質に 通電が影響を及ぼさないことを明らか にした。本研究の結果は、直接通電法によって高 効率かつ迅速に凍結肉を均一に解凍で きることを示唆する。
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 服部昭 仁 副査 教 授 島崎敬 一 副査 教授 中村富美男 副査 助教授 西邑隆徳 副査 助教授 川村周三
学 位 論 文 題 名
通電加熱法による凍結肉の解凍に関する研究、
本論文は図25、表8、引用文献59を含み、7章からなる総頁数85の和文論文である。
解凍は、食肉加工産業において重要な工程であり、その良否は食肉および食肉製品の 品質に影響を及ばす。現在、凍結肉の解凍に最もよく利用されている方法は、凍結肉を 流水に浸漬する流水解凍法と凍結肉を3〜5℃の冷蔵庫に保管する自然解凍法である。し かし、解凍肉の品質やコストの点で問題がある。このため、低コスト且つ短時間で凍結 肉を解凍できる方法の開発が求められている。食品に通電する際に発生するジュール熱 を利用して食品を迅速に加熱する方法、すなわち通電加熱法は他の食品工業では広く応 用されている。しかし、通電加熱によって凍結肉を解凍すると解凍ムラをはじめとする いくっかの問題点があり、実用化されていなぃ。本研究では、通電加熱法によって迅速 で肉質を劣化させない凍結肉の解凍法を確立することを目的とし、凍結肉の電気伝導特 性を調べると共に、通電解凍した食肉の解凍特性を検討した。さらに、通電加熱法で解 凍した食肉の解凍時間および肉質を流水解凍法と自然解凍法で解凍した食肉と比較検 討し、通電加熱法を凍結肉の解凍へ利用することが可能か否かを検討したものである。
得られた結果は以下のようにまとめられる。
1.一20〜0℃の温度域で100 Hz20 kHzの周波数における豚の赤身肉、結合組織、脂肪お よび牛赤身肉の電気伝導率を測定した結果、凍結肉の電気伝導率は温度の上昇に伴 い指数関数的に増加し、周波数の上昇に伴い緩やかに増加した。また、豚肉の電気 伝導率は赤身肉が最も高く、次に結合組織、脂肪の順であり、食肉の電気伝導率が 食肉内の電解質や水分、脂肪などの成分含量に依存することが示唆された。さらに、
赤身肉の電気伝導率は電場に対する筋線維の方向に依存し、筋線維が電場と垂直と なるよりも平行となる場合で有意に高かった。
2.凍結肉試料を5℃に保持した液体媒体(0.25%食塩水)を介して通電解凍し、解凍時間
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お よび 解凍 後の 食肉 の品 質を 流水(16℃ )解凍した食肉と比較した結果、液体媒体を 介 した 通電 解凍 は、 通常 の流 水解 凍と 比べ て解 凍 時間 および解凍後の肉質に差はな か った が、 液体 媒体 を介 した 通電 解凍 では 凍結 肉 より も温度が上昇しやすい液体媒 体の加熱と冷却に電カが消費されるという欠点が示 された。
3. 凍結肉試料 を電極で挟んで直接通電し、(1)周波数の異なる交流電流を用いて通電 し、 通電 中の 食肉 温度 の上 昇速度、(2)電圧を一定にする定電圧で通電し、通電中 の食肉の温度変化、(3)電流を一定にする定電流で通電し、通電中の食肉の温度変化、
(4)各2枚の 通電 制御 可能 な小 電極 から 構成 され る 分割 電極を用いて大型凍結肉試料 に 通電 し、 大型 凍結 肉の 通電 解凍における適切な電流制御方法、(5)凍結豚肉および 凍 結牛肉を均一に解凍できる定電流通電 法で解凍し、解凍時間および解凍後の肉質、
の5点につい て調べた結果、以下の点が明らかになった。(1)各周波数の電流を用い た 通 電 で は 食 肉 温 度 の 上 昇速 度に 有意 な差 がな かっ たが 、100 Hzと比 べて1kHzお よ び10 kHzの通 電で は温 度上 昇速 度が 速い 傾向 が 見ら れた 。(2)定 電圧 通電 で は解 凍 後期 に高 電流 が流 れる こと により食肉試料が部分的に過剰加熱さ れた。(3)定電流 通 電で は電 流密 度の 増加 に伴 い、 食肉 の最 高履 歴 温度 は指数関数的に上昇し、解凍 時間は反比例して減少し、7.5〜12.5 TriA/crr12の電流密度で均一かつ短時間に解凍で き た。(4)分割 電極 を 用い た通電では、 各小電極を介した通電制御により、試料の表 面 と中 心の 温度 差が10℃ を超 えな いよ うに 制御 可 能で あった。その結果、凍結豚肉 (l kg)を2時間で解凍できた。(5)凍結豚肉(500g)と凍結牛肉(600g)の解凍時間は、直 接 通電 解凍 では1.7時 間お よび2時 間で 自然 解凍 の 場合 の約10分 の1に短 縮で き た。
ま た、 直接 通電 解凍 法で 解凍 した豚肉と牛肉の品質は、5℃自然解凍法で解凍した食 肉 と 比 べ て 解 凍 歩 留 ま り が 高 く 、 肉 質 の 低 下 が 見 ら れ な か っ た 。
以上のように、本研究は凍結肉の電 気伝導特性を解明し、凍結ブロック肉の通電解凍 で は1 kHz程 度の 交流 電流 を筋 線維 方向 に直 接 通電 する こと が最 も有 効で ある こと、
液 体媒 体を 介し た 通電 によ る凍 結肉 の解 凍法 は凍 結肉 の解凍に適していないことを明 ら かにした。さらに、これらの結果に 基づき、直接通電による凍結ブロック肉の解凍を 試 み、分割電極を用いた定電流通電法 で凍結豚肉(1 kg)を2時間で解凍できること、通 電 解凍した食肉の品質には通電の影響 がないことを明らかにし、直接通電法によって凍 結 肉を迅速かつ均一に解凍できること を示唆した。本研究によって得られたこれらの成 果 は学 術的 な評 価 に加 え、 実用 面か らも 高く 評価 され る。
よっ て審 査員 一 同は 、蒋 士龍 が博 士( 農学 )の 学位 を受けるのに充分な資格を有す る もの と認 めた 。
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