奈良教育大学学術リポジトリNEAR
マッカーシー知能発達検査における記憶尺度の分析
著者 豊田 弘司
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 27
ページ 139‑149
発行年 1991‑03‑01
その他のタイトル Analyses of memory scale in McCarthy scales of children's abilties.
URL http://hdl.handle.net/10105/6765
マッカーシー知能発達検査における記憶尺度の分析*
豊 田 弘 司キヰ
(心理学教室)
要旨:マッカーシー知能発達検査(MSCA)の下位検査で、記憶尺度に対応す る下位検査について4歳から6歳6ケ月の幼児を対象に発達的な分析を行った。
分析の結果、 絵の記憶〝及び 連続タッビング〟においては幼児期全般にゆ るやかに発達する傾向が示された。また、 ことばの記憶〝については、まず 単語や文の記憶が発達し、それに続いて物語の記憶が発達すること、さらに、
数の順唱よりも逆唱の発達の方が著しいことが示された。検査間の関係につい ては年齢によって多少の違いはあるが、 絵の記憶′′ と ことばの記憶〝及び
連続タッビング〟 と 数の記憶〝の相関関係が示された。
キーワード:マッカーシー知能発達検査、発達、記憶尺度
マッカーシー知能発達検査は、Dorothea McCarthy 女史によって1972年に出版された McCarthy Scales of Children s Abilities(MSCA)の日本版(小田・茂木・池川・杉村,1977)
である。この検査は、年少児でも楽しみながら飽きることなく、テストが受けられるように工夫 されており、幼児の知能測定には適した検査である。この検査は18の下位テストから成り、以下 に示した5つの能力を査定することができる尺度に割り当てられている。(1)言語尺度:言語的刺 激を理解し、処理する能力と自分の考えを言語で表現する能力を査定する。(2)知覚一遂行尺度:
具体的なものの操作を通して、視覚一運動の整合と非言語的な推理能力を査定する。(3)数量尺度:
数を扱う能力と数概念の理解力を査定する。(4)記憶尺度:多種の視聴覚刺激についての短期記憶 を査定する。(5)運動尺度:粗大運動と細かな運動の整合を査定する。これらの尺度のうち、言語、
知覚一遂行及び数量の3つの尺度を合成したものが一般知能尺度であり、これによって全体的な 知能機能が測定され、一般的知能として表される。
さて、上述した5つの尺度の内、記憶尺度は、 絵の記憶〝、 連続タッビング〝、 ことばの記 憶〝及び 数の記憶〝 という4つの下位検査からなっており、いずれも短期記憶を査定するもの である。 絵の記憶〝と 連続タッビング〝では聴覚刺激と視覚刺激を同時に提示し、 ことばの 記憶〝 と 数の記憶〝では聴覚刺激のみを呈示する。このように、絵、音楽、ことば及び数など の様々な刺激を二つの様式で呈示し、幼児に言語的反応と非言語的反応を求めることによって記 憶能力を広範囲に評価することができる(日本版手引P6)。
I Analyses of memory scalein McCarthy scales of children s abilties.
HiroshiTOYOTA(Department ofPsychology,Nara Universiもy ofEducation,Nara)
先の研究(豊田・澤田、1989)では、この記憶尺度に含まれている ことばの記憶〟の第Ⅱ部
(物語記憶)に注目し、物語記憶の発達的変化を検討した。幼児の物語記憶に関する研究(高木、
1975、1978、;高木・小林・田代・沢田、1975;玉瀬、1987、1988;内田、1982)では、総じて 物語の記憶に影響する要因を検討しており、細かく年齢段階を区切った詳細な発達的分析はして いなかったのであるが、この研究はその詳細な発達的分析を行ったのである。その結果、幼児期 の前半においても、物語の主人公及び主人公の中心的な行為に関する記憶の正答者率は高く、幼 児でも主題を中心とした枠組みに基づいて物語の記憶のなされていくことが明らかになった。
しかし、物語の記憶については、単語や絵などの記憶よりも複雑な理解過程が反映しており、
幼児期において、顛著な発達的変化が現れにくいと考えられる。そこで、本研究では、先の研究 においては検討されなかった、絵、音楽、単語、数の記憶の発達的変化について検討する。これ らの記憶は、マッカーシー知能発達検査において、記憶尺度を構成する4つの下位検査に対応し ている。そこで、これらの下位検査における年齢ごとの得点の発達的変化を明らかにすることを 本研究の第1の目的にした。また、これらの下位検査に対応する記憶能力は、お互いに関連しあっ て発達していくものと考えられるが、その関連性について発達的に検討した研究は見あたらない。
そこで、上述した4つの下位検査の得点問の相関係数を算出し、その関係性を検討することを本 研究の第2の目的とした。
このように、MSCAの特定の下位検査における発達に注目した研究は、 子ども画′′を扱った、
井上(1984)、杉村・豊田(1985)及び豊田(1986a)、、、図形の模写′′ に注目した、井上(1984)
及び豊田(1986b、1987)などがある。幼児の個別式知能検査は実施が難しく、実際に実施した 結果を発達診断に役立てるところまではいかないのが保育現場の実情である。しかし、特定の下 位検査について各年齢段階の平均得点がわかっていれば、その検査だけしか実施できなかったと しても、そこふらおおよその発達診断は可能であろう。本研究で示される資料は、上述したよう な発達診断に役立っものであると考えられる(豊田・澤田、1989)。
方 法
調査対象 調査対象は、1979年から1986年までの過去8年間にMSCAを受検したN保育学院 付属幼稚園の幼児であり、延べ人数は469名であった。その内訳は表1に示されている。
実施法 検査は日本版手引に従い、以下に示すような手順で個別的に実施された。
(1)絵の記憶(日本版手引P56〜57) 6つの絵(ボタン、フォーク、クリップ、馬、かぎ、
鉛筆)の描いてあるカードを見せ、1つの絵につき、約1秒の割合で名前を言い、全部言い終わっ てから2、3秒の問、幼児に絵を見せる。幼児がこれらの絵を見ている時間は、合計10秒である。
その後でカードを取り去り、どんなものがあったかを想起させ、口頭で答えさせる。想起時間は 90秒を与える。
(2)連続タッビング(日本版手引P70〜71) 4つの鍵をもつ鉄琴(図1)を幼児から見て長 い鍵が左側にくるように置く。そして、一番長い鍵を1の鍵とし、項目1の音連続、すなわち、
1−2−3−4を検査者が1秒に1打の速さでたたく。そして、幼児にばちを手渡し、検査者と同じ
表1 調査対象の年齢別、性別の人数
平 均 4;0 4:6 5:0 5:6 6:0 6;6
3−9−16 4−3−16 4−9−16 5−3−16 5−9−16 6−3−16 範 囲 1 1 1 1 ↓ 1
4−3−15 4−9−15 5−3−15 5−9−15 6−3−15 6−9−15
男 児 39 41 45 47 44 39 女 児 20 29 42 42 43 37 合 計 59 70 88 89 87 76
(注)3−9−16、4−3−15などは、3歳gか別6日、4歳3か月15日を示す。
ように音連続を再生させる。項目1で3試行とも正しく再生できなければそれでテストを中止す る。項目1で3試行中1回正しくたたけば、以下に示す項目2〜8へと進む。すなわち、項目2
(ト3−4)、3(2−4−1)、4(4−1−2−3)、5(2−3−1−4)、6(1−4−3−㌢3)、7(4−
2−3−1−2)及び8(1−2−4−3−2−1)である。これらの項目については、項目1と違って、
1試行しかテストしない。
(3)ことばの記憶(日本版手引P72〜76) この検査は第I部と第Ⅱ部で構成されている。第 I部は、検査者が読みあげる単語の系列や文を幼児に反復させるものである。第I部の6項目中、
最初の2項目(①おもちゃ−椅子一光、②人形一暗い−コート)は幼児が理解している語彙の中 にありそうな単語の系列で、次の2項目(③あとで一色−おもしろい−きょう、④まわりに−だ から−下に−決してしない)は先の2項目より抽象的な単語の系列である。最後の2項目は完全 な文で、その内の一つは男児が(⑤その男の子は、毎朝学校へ行く前に自分の犬にさようならと 言います)、もう一つは女児が(⑥その女の子は、外に出かける前にお人形にかわいいピンクの
リボンを結んでやった)興味をもちそうな文である。なお、第Ⅱ部は、先の研究(豊田、1989)
で分析したもので、物語の記憶である。検査者が短い物語を読み、その後でその物語の内容を幼 児に口頭で再現させるものである。
子とも
検査者
図1連続タッビングの鉄琴(日本版手引P70)
(4)数の記憶(日本版手引P124〜125) この検査は第王部と第Ⅱ部から構成されている。第 I部は、検査者が1秒に1数字ずつ読んだ数系列を幼児に順喝させるものである。ここでは、ま ず項目1すなわち2桁の数系列(5−8)からはじまり、もしそれが順唱できない場合には、同 じ2桁の数系列(4−9)についてテストされる。項目2以降も同様に、各項目は2試行から成っ ており、どちらかの数系列を正しく順唱できれば、1つだけ桁数の増す次の項目でテストされる。
項目2は6−9−2と5−8−3、項目3は3−8−1−4と6−1−8−5、項目4は4−1−6−9−2と9−4−
1−8−3、項目5は5−2−9−6−1−4と8−5−2−9−4−6、項目6は8−6−3−5−2−9−1と5−3−
8−2−1−9−6の各数系列から成っている。
第Ⅱ部は、幼児に数系列を逆に再現させる、いわゆる逆唱をさせるものである。ここでも、各 項目は2試行から成っており、どちらかの数系列を正しく逆唱できれば、1つだけ桁数の増す次 の項目でテストされる。なお、項目1は9−6と4−1、項目2は1−8−3と2−5−8、項目3は5−
2−4−9と6−主8−3、項目4は1−6−3−8−5と6−9−5−2−8、項目5は、4−9−6−2−ト5と 3−8−1−6−2−9の各数系列から成っている。
採点法 日本版手引の採点法に従って採点した。
(1)絵の記憶(日本版手引P56〜57) 正しく思い出されたものに1点ずつを与えた。6つの 絵の再生を求めるので最高得点は6点である。
(2)連続タッビング(日本版手引P70〜71) 項目1については、3試行中、1回でも音連続 を正しく再生できた場合には、2点を与える。ばちで鍵を1つずったたくが、音連続を正しく再 生できない時には、1点を与える。めちゃくちゃに打ち鳴らした時には、0点になる。項目2〜
8は、各音連続を正しくたたいた時に、各・1点を与える。8項目の最高点は、9点である。
(3)ことばの記憶(日本版手引P72〜76) 第I部の項目1〜4は、反復したことばにつき1 点を与え、順序が入れ替わっていたら1点を減点する。項目5〜6では、反復されたキーワード につき1点を与える。ただし、これらの項目では順序が入れ替わっても減点しない。6項目の最 高点は、30点である。第Ⅱ部では、再生された物語に対して構成単位ごとに0点もしくは1点を 与える。日本版手引には、構成単位ごとに正答(1点)及び誤答(0点)に該当する応答の例が 詳細に示されているので、誰でも正確な採点ができるようになっている。構成単位は11単位ある ので、最高点は11点になる。
(4)数の記憶(日本版手引P124〜125) 第I部では、各項目において第1試行で正しく数系 列を反復した場合には2点を与え、第2試行で正しく反復した場合は1点を与える。第I部の最 高点は、12点である。第Ⅱ部では、各項目において第1試行で正しく逆喝された場合には2点を 与え、第2試行で正しく逆喝した場合には、1点を与える。第Ⅱ部の最高点は、10点である。
結果と考察 発達的変化
横断的分析 本研究の第1の目的は、4つの下位検査ごとの特典の発達的変化を明らかにする ことであった。以下に、各検査の発達的変化の結果と考察を示す。
(1)絵の記憶 表2には、年齢別、男女別に合計の平均と榎準偏差が示されている。男女差はほ とんど見られない。年齢差を見ると、どの年齢間でも特典の大きな違いはなく、聴覚刺激を伴う 視覚刺激としての絵に対する直接記憶は幼児期全般を通して一定の速度の発達傾向を示している といえる。
(2)連続タッビング この検査も鉄琴という視覚刺激と音階という聴覚刺激で呈示された用具に 対する直接記憶を測定するものであるが、 絵の記憶〟と異なり、反応が非言語的なものであり、
非言語的な直接記憶を査定することになる。さらに、併せて、注意力や知覚一運動の整合も観察 できるものとされる。表3には、年齢別、男女別に合計の平均と標準偏差が示されている。 絵 の記憶′′ と同様に男女差はなく、隣り合う年齢間の差にも大きな違いはない。したがって、非言 語的な直接記憶も幼児期全般を通してゆるやかに発達する傾向をもつといえよう。
(3にとばの記憶 表4には、第I部(ことばと文)の年齢別、男女別に合計の平均と擦準偏差 が示されている。どの年齢においても統計的な男女間の有意差は認められない。男女を込みにし た全体の平均でみると、4:0〜4:6で得点の増加が大きくなっている。▼しかし、表5に示さ れている第Ⅱ部(物語)の結果を見ればわかるように、先の研究(豊田・澤田、1989)は、第Ⅱ
J
表2 絵の記憶ノ′における発達的変化
年齢 4:0 4:6 5:0 5:6 6:0 6:6 男児 平 均 2遁1 2.56 3.07 3.17 3.75 4.15 標準偏差 1.41 1.46 1.19 1.48 1.33 1.17 女児 平 均 2.甜 3.00 3.00 3.76 4.09 4.14.、
標準偏差 1.椚 1.23 1.43 1.52 1.43 1.40 全体 平 均 2.41 2.83 3.04 3.47 3.92 4.15
(注〉全体平均は、重みをかけない平均である。
表3 連続タッビング〝における発達的変化 年齢 4:0 4:6 5:0 5:6 6:0 6;6 男児 平 均 2.64 3.45 4.15 4.77 4.95 5.82 標準偏差 1.51 1.18 1.33 1.45 1.26 1.2色 女児 平 均 3.20 3.90 4.24 4.67 5.07 5.11 標準偏差 0.81 1.24 1.29 1.32 1.30 1.43 全体 平 均 2.92 3.68 4.20 4.71 5.01 5.47
(注)全体平均は、重みをかけない平均である。
表4 ことばの記憶〝の第I部における発達的変化 年齢 4:0 4:6 5;0 5:6 6:0 6:6 男児 平 均 10.13 12.20 14.65 14.91 16.18 18.69 標準偏差 5.96 5.73 5.49 5.75 6.22 5.31 女児 平 均10.75 13.34 13.48 15.出 17・95 17・糾 標準偏差 4.26 5.73 5.22 5.39 5.69 4.朗 全体 平 均 10.44 12.77 14.07 15.40 17.07 18.27
(注)全体平均は、重みをかけない平均である。
表5 ことばの記憶〝の第Ⅱ部における発達的変化 年齢 4:0 4:6 5;0 5:6 6:0 6;6
男児 平 均 2.67 3.24 5.50 4.87 5.66 6.28
._.、.標準偏差 2.72 2.鎚 2.98 2.94 3.69 3.40 女児 平 均 2.70 3.79 3.83 4.52 5.65 7.05 標準偏差 2.33 3.39 3.44 3.29 3.03 2.65 全体 平 均 2.69 3.52 4.67 4.70 5.66 6.67
(注)全体平均は、重みをかけない平均である。
部(物語)については、4:6〜5:0での得点の伸びが他の年齢間のそれよりも大きくなるこ とを示している。第王部と第Ⅱ部の結果を合わせて考えると、まず、単語や短い文の記憶能力に ついての発達があり、続いて、より長い物語の記憶が発達するといえよう。そして、単語、短文 及び物語を含めたことば全般に関する記憶は、幼児期の前半すなわち4:0〜5:0において発 達するといえるであろう。これは、この時期が言語発達上の多弁期に当り、言語の基礎的能力の 一応の成熟、思考力や想像力の発達及び語彙の増大に関連していると考えられる。
(4)数の記憶 表6は、第I部(数の順唱)についての年齢別、男女別に合計の平均と標準偏差 を示したものである。どの年齢においても男女差は見られない。しかし、男児では4:6〜5:
0において得点の伸びがほとんど見られず、女児では4:0〜4:6においてその停滞現象が見 られている。全体の平均でみると、男女ともに、5:0〜5:6において得点の停滞がある。こ の停滞の原因については明らかではない。しかし、その他の年齢間においてはゆるやかではある が順調な発達傾向がうかがえる。一方、第Ⅱ部(数の逆唱)については、表7に、年齢別、男女 別に合計の平均と標準偏差が示されている。この表からわかるように、逆唱においては順唱と異 なり、全く停滞なく順調に発達している。全体的にみて、順唱よりも逆唱の方が得点の伸びが大
表6 数の記憶〟の第I部における発達的変化 年齢 4:0 4:6 5:0 5:6 6:0 6:6 男児 平 均 4.23 5.34
標準偏差 1.30 1.44
5.39 5.17 6.18 7.08 1.52 2.50 1.91 1.51
女児 平 均 4.80 4.86 標準偏差 1.21 1.33
5.69 5.90 .椚 6.54
1.24 1.51 1.53 1.93
全体 平 均 4.52 5.10 5.54 5.54 6.33 6.81
(注)全体平均は、重みをかけない平均である。
表7 数の記憶〝の第正郎における発達的変化 年齢 4:0 4:6 5:0 5;6 6:0 6:6 男児 平 均 0.38 1.27 1.50 3.00 3.05 3.97 標準偏差 0.87 1.43 1.53 1.58 1.41 1.44 女児 平 均 0.50 1.14 1.93 2.02 3.26 3.68
標準偏差 1.12 1.46 1.58 1.60 1.31 1.04 全体 平 均 0.現 1.21 1.72 2.51 3.16 3.83
(注)全体平均は、重みをかけない平均である。
きく、その結果、年齢が上昇するにつれて順唱と逆唱の得点差が小さくなっている。これは、記 憶(符号化)したものを変換する能力が徐々に発達していくことを反映しているものと考えられ よう。
縦断的分析(再テスト分析) これまでに報告してきた資料は、各年齢で異なる幼児について のものであり、いわゆる横断的な比較資料であった。これに対して、同じ幼児の物語記憶がどの ように変化していくかを明らかにすることも発達理解の上で重要なことである。このような資料 は縦断的な比較資料と呼ばれているが、ここでは3年間に渡り本検査を受検した幼児47名(男児 31名、女児16名)の結果について報告する。
表8は、3年間に渡る合計点の平均と標準偏差を示したものである。1年目(4:3)から2 年目(5:3)への得点の伸びと2年目(5:3)から3年目(6:3)への得点の伸びを比較 してみると、4つの下位検査それぞれの特徴がわかる。2年目から3年目にかけての得点の伸び が大きいのは 絵の記憶′′だけであり、その差も小さい。その他の検査においては1年目から2 年目にかけての得点の伸びの方が大きい。特に、 連続タッビング〝、 ことばの記憶〝の第I部 と第Ⅱ部及び 数の記憶〝の第Ⅱ部についてはその傾向が顕著である。 数の記憶〝の第王部は、
表8 下位検査ごとの3年間の発達的変化 平均年齢
(年齢範囲)
下位検査名
4:3 5;3 6:3
(3:10〜4:9)(4:10〜5:9)(5:10〜6:9)
絵の記憶 平 均 2.47 3.19 4.21 標準偏差 1.37 1.16 1.27 連続タッビング 平 均 3.25 4.81 5.49 標準偏差 1.30 1.41 1.51 ことばの記憶(I) 平 均 10.91 15.89 17.74 標準偏差 5.18 4.79 5.57 ことばの記憶(王王) 平 均 2.57 5.11 5.70 標準偏差 3.00 2.97 3.39 数の記憶日日 平 均 5.11 5.94 6.40 標準偏差 1.37 1.46 1.朗 数の吾鵡(工I) 平 均 0.51 2.23 3.45 標準偏差 0.96 1.64 1.43
1年目から2年目への伸びがやや大きい程度である。
ことばの記憶〝の発達が1年目から2年目にかけて著しいのは、上述したように言語発達の 要因が関係しているように思われる。また、 連続タッビング〝については、知覚一運動の整合 性がこの時期に高まることも関係していると考えられる。
下位検査間の関係
本研究の第2の目的は、4つの下位検査( ことばの記憶〝及び 数の記憶〝 は第王部とⅡ部 に分かれているので、実際には6検査)間の相関係数を算出し、対応する記憶能力間の関係性を 検討することであった。表9には、各年齢ごとに下位検査の得点間の相関係数が示されている。
また表10には、下位検査間の関係をとらえやすいように、表9の相関係数に基づく富子分析(主 因子法)によるバリマックス回転後の因子負荷量が示されている。 ことばの記憶〝の第I部と 第Ⅱ部聞及び 数の記憶′′の第I部と第Ⅱ部問に相関の高いことは、同じ下位検査に含まれるの で当然の結果であるが、この結果以外に、これら表からわかることは、以下のようにまとめるこ
とができる。
表9 年齢別の下位検査間の相関係数 平均年齢
下位検査対
4:0 4:6 5:0 5:6 6:0 6:6
絵一連続夕 絵−ことばI 絵−ことばII 桧一致I 絵一数王王 連続ターことばI
連続クーことば【王 達続タ一致I
5
5
3
0
ク 1
7
e O q
′
−
3
2
2
3
0
1
− 1
︼
連続ター数II .37 ことばI−ことばH .63 ことばI一散I −.08 ことばI一数H .11 ことば王ト数H −.00 数I一致王I .33
12 2517 13 11 19 23 28 17 55 13 10 01 37 0 4
2
1
0
0
1
7
摘
3
1
1
7
3
7
祖
5
2
2
1
1
5
0
4
2
5
19 .16 .05 14 .21 .05 04 .22 .07 17 .15 −.06 24 .18 .21 34 .37 .31 05 .17 .17 37 .39 .27 37 .03 .0g 50 .67 .41 19 .15 .11 35 −.01 .27 33 .01 .05 32 .20 .27
(注)絵は 絵の記憶 、連続タは 連続タッビング 、ことば王は ことばの記憶 の第I部、ことばHは こと古糊己鰭 の第II部、教Iは 数の記憶 の第I部、数IIは 数の記憶 の第II部を示す。
表10 各年齢における因子構造(主因子法によるバリマックス回転後の因子負荷量)
平均年齢 下位検査
4:0 4:6 5;0 5:6 6:0 6:6
工 H I H I 王I 王 I H I II
絵 .57−.40 .32−.11 連続夕 .18.72 .15.44 ことば工 .86,25 .66.22 ことば王I .糾−.05 .67.10 数エ ー.25.59 −.06.5g
数H .01.78 .01.46
h O 9 1 0 5 0
0
2
凸
0
9
0
0
− 1
− 1
︼ 7
6
0
0
0
9
5 3
6
3
0
7
6
0 5 銘 ノ ー 0 3 5 エ
ー A l 一 八 ノ
︼ 2 8 6 2
4
4
4
7
9
8
2
椚
2
1 6
9
6
0
5
9
2
一
4
一
1
0
5
2
4 9 A
︶
− 4
. 八
〇 3 2
2
7
7
0
0 9
3
3
9
6
2 2
. 3 6
4 4 6
①どの年齢においても、 連続タッビング〝と 数唱〝の第主部の問の相関は高い。これは、
被検者の幼児が、連続タッビングの4つの鍵に対する番号を割当てその番号の系列を記憶してい る可能性が反映されたものであろう。4:0において、いくらか相関の値が低くなっているのは、
鍵を数字に置き換えるという記憶方略にこの年齢の幼児が気づいていない可能性をうかがわせる ものである。
②6:6を除いて、、、絵の記憶〝 と ことばの記憶〝の第I部の中程度の相関が認められる。
これは、、、絵の記憶′′ といっても、そのことばの意味を保持することになるので、単語の系列を 再生させる、、ことばの記憶′′の第I部とは、検査内容が類似していると考えられる。したがって、
マッカーシー知能発達検査における 絵の記憶〟 に関しては、単語を記憶する力にかなり依存し ているといえよう。なお、6:6において相関が無くなるのは、 絵の記憶′′が6点満点であり、
この年齢の幼児がほとんど満点に近い値をとるという天井効果によるものと考えられる。
③年齢ごとにみてみると、4:0及び4:6においては、 絵の記憶〟 と ことばの記憶〟 の 第I部と第Ⅱ部の3者問の関係性が見られ、一方、 連続タッビング′′ と 数の記憶′′ の第I部 と第Ⅲ部の3者間にもまとまりがうかがえる。因子分析の結果から、前3者は単語の記憶という 因子、後3者は数系列の記憶という因子に対応するように思われる。
④5:0においては、、、絵の記憶′′だけが孤立したように、 ことばの記憶〝の第I部以外の他 の検査との相関が弱くなっている。しかし、それ以外は③で述べたような因子に対応する関係性 がうかがえる。
⑤5:6においては、 絵の記憶〟 と、、ことばの記憶′′ の第Ⅱ部及び、、連続タッビング〝 と
、、ことばの記憶′ の第Ⅱ部以外は、どの検査間においても、ある程度の相関関係が認められる。
因子分析においても1因子しか抽出されず、一般的な記憶因子の.1因子構造になっていると考え られる。
⑥6:0においては、、、連続タッビング〝 と 数の記憶〝の第I部の関係が強いことが目立っ ている。さらに、 絵の記憶′′及び 連続タッビング〟のそれぞれが他のどの検査ともある程度 の相関関係が認められている。因子分析においても2因子構造がわかるが、上述の2検査につい ては、どちらの因子に対する因子負荷量も多く、両方の因子に含まれるものになることがうかが える。
⑦6:6においては、 絵の記憶〟がほとんどの検査との相関が無くなっている。これは、上 述したようなアーティファクトの要因が大きいであろう。6:6と同様に、、、連続タッビング′′
は他のほとんどの検査とも相関関係が認められている。したがって、因子分析の結果において2 因子構造がうかがえるが、この 連続タッビング〟だけは、どちらの田子負荷量も多く、両方の 因子にも含まれるものといえよう。
ほとんどの年齢において、 連続タッビング〝、、、数の記憶′′の第I部及び第Ⅱ部のまとまりと 絵の記憶′′ ことばの記憶〝の第I部及び第Ⅲ部のまとまりが認められた。これは、先にも述 べたように、前者のまとまりが数の記憶因子に対応し、後者のまとまりが言語の記憶因子に対応 することによると考えられる。このように、同じ記憶であっても幼児期において早くも2つの記 憶に関する能力に弁別できることが示されたことは、記憶の発達研究にとって示唆を与えるもの であろう。というのは、記憶実験において使用される検査において、どちらの記憶能力に関わる 検査であるのかという視点が提供されるからである。これまでの研究は、絵、単語、物語などの 記憶させる材料に注目し、それらの材料の記憶に反映される能力の区別にはあまり関心がなかっ た。これからは、材料の違いというような視点ではなく、反映される能力の違いという視点での
研究が望まれる。また、本研究からは明らかではないが、2つの記憶能力間の関係が年齢によっ てどのように異なるのかについても今後さらに検討することが必要であろう。
付記 本研究はMSCAの日本語版著者である杉村健教授(心理学教室)の主催する「マッカー シー知能発達検査の基礎的研究」と連携したものであり、同教授に心から感謝の意を表します。
また資料の収集には心理学教室の学生と奈良保育学院附属幼稚園(奥村背園長)の協力を得まし た。厚く御礼申し上げます。
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