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改訂版 自己診断記憶尺度の作成

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

改訂版 自己診断記憶尺度の作成

著者 豊田 弘司, 渡邉 巌

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

29

ページ 167‑172

発行年 1993‑03‑01

その他のタイトル The development of revised version of the self‑report scales for memory.

URL http://hdl.handle.net/10105/6818

(2)

改訂版 自己診断記憶尺度の作成オ

豊田弘司・渡邊 巌n

     (心理学教室)

要旨:記憶方略を中心とした記憶活動に関する質問を55項目用意し、229名の 大学生を対象とする調査を行い、実際の言己憶テスト成績との関係を検討した。

質問項目について因子分析を行った結果、検索失敗、記憶に対する自信、内的 記憶方略の使用及び外的記憶方略の使用という4つの内的一貫性のある因子が 抽出され、改訂版自己診断記憶尺度として24項目が選ばれた。また、因子に対 応する質問の得点を各尺度得点として、単語自由再生テスト、数唱(順唱)テ スト及び文章記憶テストの得点との関係を検討した。その結果、検索失敗因子 と単語自由再生テスト、記憶に対する自信因子、内的記憶方略の使用因子及び 外的記憶方略の使用因子と数唱テスト、内的記憶方略の使用因子と文章記憶テ ストの関係がそれぞれ示され・いくつかの質問項目に記憶成績の上位群と下位 群で反応の違いが認められた。

キーワード1目己診断記憶尺度・記憶方略、因子分析

 楠見(1988)は、大学生に対して記憶についての自己診断と実際の記憶成績との関係を検討し たが、両者の間に明確な対応関係は見いだせなかった。彼の研究において用いられた自己診断の ための質問項目は、自分の記憶能力について尋ねる項目が大部分を占めており、記憶方略につい てはほとんど扱われていなかっれ

 豊田・渡邊(1992)は、記憶方略を中心とする記憶活動に関する質問を48項目作成し、そこで の自己診断と、実際に測定された記憶テスト成績との関係について検討した。質問項目について 因子分析を行った結果、検索失敗、言己憶効率及び情報保持の工夫因子という3つの内的一貫性の ある因子が抽出され、自己診断記憶尺度として21項目を採用した。そして、因子に対応する質問 の得点を各尺度得点として記憶テストの得点との関係を検討したところ、記憶効率因子と順唱テ スト及び検索失敗因子と文章記憶テストにおいてそれぞれ有意な相関が認められた。また、いく つかの質問項目に、記憶テスト成績の上位群と下位群で反応の違いが認められた。

 ただし、上記の研究では、自己診断記憶尺度内の言己憶方略と記憶成績との対応があまり明確で はなく、記憶方略についてさらに分析が必要であると考えた。そこで、本研究では豊田・渡邊

The deve1opment of revised version of the se1f−report sca1es for memory.

川Hirosh三TOYOTA and Iwao WATANABE

 (Department of Psychoユ。gy,Nara University of Education,Nara)

(3)

(1992)の結果を基にして質問項目の改訂を行った。改訂のポイントは以下の通りである。①記 憶方略を内的方略、外的方略及び貯蔵方略に分類すること、②豊田・渡邊(1992)の記憶テスト において被験者が内省報告した方略に対応する質問項目を付加すること、及び③機械的暗記に関 する質問項目を付加することである。

 このように質問項目の改訂を行い、豊田・渡邊(1992)と同様の手続きを用いて、被験者の自 己診断と記憶テスト成績との関係を検討することを目的とした。

      方   法  調査対家

 大学生229名(男子44名、女子185名)を本研究の被調査者及び被験者とした。これらの学生の 平均年齢は、19歳5か月(範囲18歳3か月〜22歳3か月)であった。

 材  料

 記憶活動に関する質問眠 まず、「記憶」の分類に対応した項目つくりの必要性から、そして、

各質問項目の概念的妥当性を検討するために、著者らが自ら分類した項目(因子)それぞれに定 義を示し、その定義に各項目が該当するか否かの判断を求める予備調査を行った。検索失敗は

「思い出すべきことが思い出せないこと」・記憶効率は「記憶に対する自信の有無」、機械的暗記 は「物事を丸暗記すること」と定義しれ情報保持の工夫は、内的記憶方略・外的記憶方略・貯 蔵方略とさらに細かく分けて、それぞれ、「頭の中で、物事を忘れないように工夫すること」、

「頭の中以外〈例えば用具などを用いて〉で、物事を忘れないように工夫すること」、r物事を一 定時間忘れないために工夫すること」と定義した。

 上記の予備調査(大学生33名)の結果、項目中、上記の各定義を尋ねる質問として『適切でな い』とする評定が多かった2つの項目を削除し、表1に示したような55項目を質問項目として用 いた。その55項目中20項目は逆転項目にされた。

 単語白由再生テスト 藤田(1975)による4カテゴリー(動物、乗り物、野菜、文房具)x8 項目(計32項目)の構造の記銘リストが用いられた。このリストに含まれる各語は、1語ずっあ

らかじめ同じカテゴリーに含まれる語が続けて呈示されないように調査者によってランダムに配

列された。

 順唱テスト 4桁、5桁、6桁、7桁、8桁及び9桁の数系列を各2数系列すっ使用。

 文章記慣テスト 京大NX知能検査15一の日常記憶の文章を参考に、一部改題して使用。

 手続きクラス単位の集団調査及び集団実験を実施した。

a)記憶活動に関する質問紙調査 調査者が質問項目を1項目ずつ読み上げ、各質間に はい   いいえ のどちらかに丸印を言己入させる形式で回答させた。

b)単語自由再生テスト 上記の言己銘リストに含まれる記銘語を調査者が1項目すっ口頭によっ  て呈示し、記銘を求めた。32項目を呈示した後、標準的な自由再生教示を与え、再生を求めた。

 再生時間は5分であった。

c)順唱テスト 調査者が1秒に1数字すっ読み上げ、回答用紙にその数系列を書記再生させた。

(4)

d)文章記憶テスト 上記の文章を調査者が読み上げ、その後、10間の質問に答えさせた。

       結   果

記憶活動に関する質問項目(自己診断記憶尺度)に対する反応

因手構造 主因子法による因子分析(バリマックス回転)の結果、予備調査で設定したものと ほぼ対応する弁別性の高い4つの因子が抽出された。予想に反して機械的暗記の因子は抽出でき なかった。それ故、この4つの因子に含まれる24項目を自己診断記憶尺度(Ver.2)として採用 し、これらの項目に対して改めて因子分析(バリマックス回転)を行った結果が表1に示されて

いる。

表1 回転による因子負荷量

項目番号/  質  間  項  日

第1因子 検索失敗(忘却) α別=.70  7項目

(49)係や委員会の仕事を忘れてしまうことがありますか。

(10)頼まれたことをうっかり忘れて失敗したな、と思うことがありますか。

(9) ど忘れが多いですか。

(15)大切な用事を忘れることがありますか。

(1)決められた当番(日直、掃除等)をうっかり忘れて、やらなかったことがありますか。

54 やらなければいけないことがある時、その事は忘れませんか。

(30)提出物の期限を忘れて遅れて出すことがありますか。

第2因子 記憶に対する自信  α皿=.65  7項目

(7)人の名前をおぼえるのが苦手ですか。

39 友達の名前を覚えるのは早いですか。

(41)友達の名前が思い出せず困ったことがありますか。

6 物事を覚えることが縛意ですか。

44 詩や文章を暗記するのは得意ですか。

50 教科書を読むだけで覚えられますか。

(34)暗記を必要とする遊ぴ(たとえばトランプの神経衰弱など)は苦手ですか。

第3因子内的記憶方略の使用  α囲=.57 6項目   互いに関係のある事柄は、まとめて覚えようとしますか。

  覚えることを思い浮かべた方がよく覚えられますか。

  太字で書かれた言葉は、普通に書かれている言葉よりも注意して覚えようとしますか。

  覚える事柄が書かれている位置やべ一ジと関連づけて覚えますか。

  隣り合う事柄同士を覚える場合、共通したところに注目して覚えますか。

  歴史の年号を覚える時に、ゴロ合わせをして覚えますか。

第4因子外的記憶方略の使用  α加=.55 4項目 16 大切な約束事があるときは、メモをとりますか。

2 用事がある日は忘れないように、カレンダーに書き込んでおきますか。

42 買い物に行くとき、忘れないために買うものを紙に書いて持って行きますか。

43 次の日、学校に持っていけなければならない物は、前の日のうちに目のつきやす   い所に置いておくなど、工夫をしますか。

寄与率(%)

F1  F2  F3  F4  h,

.71

.63

.62

.59

.58

一.51

.47

.04

一、07

.04

.O1

一.10

.O1

.13

.08

一.01 一.08 一.04 一.11

.06

.03

.09

,24

.04

.o1 一.O1 一.02

.80

一.79

.51 一.51 一.46 一.43

.37

.00

一.09 一.04

.06

一.03 一.11 一.26

.05

一.13

.19

.09

.26

,04

一.12

.02  .60

.03  ,58 一.13  .55 一.08  .51

.03  .40 一.02  .36

.02  .50

.04  .41 一.04  .45 一.16  .38

.19  .37

.10  .28 一.04  .29

.02  .65

.15  .67

.16  .32

.06  .27 一.09  .30 一.06  .19 一.06  .17

.01  .37

.01  .34

.10  .34

.14  .28

.15  .19 一.22  .18

.00  _.O1   .09   .80   .65

_.07   .O1   .23   .71   .56

.18   .05  _.11   .57   .37

_.21   .O1   ,10   .40   .21

10,85  9,99  7,80   7.76  36.40

(5)

 下位尺度得点と記憶テストとの関係 単語自由再生テストでの満点は32点であり、正再生数の 平均は15.71(SD=3.82)であった。同様にj順唱テストでの満点は12点、平均は7.35(SD=2.55)、

文章記憶テストの満点は10点で、平均は5.48(SD=2,33)であった。そこで、各因子に対応する 質問の得点を各下位尺度得点とし、上述の3つのテストにおける各得点を目的変数、各下位尺度 得点を予測変数とした重回帰分析を行った。その結果が表2に示されている。

妻2 各記憶テストにおける標準化偏回帰係数

単語再生テスト

       標準化

因 子 名

       偏回帰係数

検索失敗(忘却)    .14 記憶に対する自信    .09 内的記憶方略      、06 外的記憶方略      .01 寄与率(決定係数)   .04 重相関係数       .20

F 比         2.29

順唱テスト

    標準化

t値  偏回帰係数  t値

2.15‡

1,27

0,95

0,21

文記憶テスト 標準化

偏回帰係数   t値

.13       −1.92       .06

,14        2.22‡      .12

,19         2.86 ‡      .19

.16       −2.52       .02

.08      .06

.29      ,25

5.04・・      3.82・■

0,92 1,82 2.94 0.36

*P〈こ.05   **P<.01

 記憶活動に関する質問項目ごとの分析 自己診断記憶尺度(Ver2)として採用された24項目 について各記憶テスト成績の上位群と下位群の間に反応の違いがみられるか否かのG−P分析を 行った。単語自由再生テストでは得点の高かった者(上位群)56名、低かった者(下位群)50名

を分析の対象とした。同様に、順唱テストでは上位群47名、下位群64名を、文章記憶テストでは 上位群49名・下位群49名を対象とした。その結果が表3である。

       考   察

 本研究の主な目的は、自己診断記憶尺度の作成と、自己診断記憶尺度の得点と実際の記憶テス ト成績の関係を検討することであった。表1に示されているように、自己診断記憶尺度として24 項目を採用し、その後重回帰分析を行った。その結果、説明率は高いとは言えないものの、表2 に示されているように、検索失敗尺度は単語自由再生テストの成績、記憶に対する自信・内的記 憶方略・外的記憶方略の各尺度は順唱テストの成績、内的記憶方略尺度は文章記憶テストの成績 をそれぞれ説明した。

 各尺度得点と各記憶テストの相関関係を見ていくと、いくつかの特色が明らかになった。なか でも外的記憶方略尺度と順唱テストが負の相関、内的記憶方略尺度と順唱テスト及び文章記憶テ ストに正の相関が認められたことは注目に値する。すなわち、外的な方略を用いた者は1順唱テス

トにおける成績が悪く、内的な方略を使った者は順唱テスト及び文章記憶テストの成績が良いと

(6)

表3 記憶テスト成績の上位群・下位群で差が出た項目

質  問  項  日 第1因子 検索失敗(忘却)

(49)係や委員会の仕事を忘れてしまうことがありますか。

(15)大切な用事を忘れることがありますか。

(1)決められた当番(日直、掃除等)をうっかり忘れて、や

   らなかったことがありますか。

(30)提出物の期限を忘れて遅れて出すことがありますか。

単語再生   順 唱   文記憶

**

* *

‡*      #**

第2因子 記憶に対する自信

 6 物事を覚えることが得意ですか。

44 詩や文章を暗記するのは得意ですか。

(34)暗記を必要とする遊び(たとえばトランプの神経衰弱な   *

   ど)は苦手ですか。

* *        * *

     * *

      *

第3因子 内的記憶方略の使用

48 互いに関係のある事柄はまとめて覚えようとしますか。

35 歴史の年号を覚える時にゴロ合わせをして覚えますか。

第4因子 外的記憶方略の使用

16 大切な約束事があるときは・メモをとりますか。

42 買い物に行くとき・忘れないために買うものを紙に書い   て持って行きますか。

(注)項目16及び42は下位群の方が「はい」と答えた人数が多く・その他の項目は上位群の方が「はい」

  と答えた人数が多い

  項目6及び44はFISHERの直接確率法による有意性検定  *pく.05 **p<.01 ***p<.001

いう関係が見いだされた。従って、内的方略の使用は記憶テストの成績を予測する上で重要な要 因と考えられる。一方、(厳密には順唱テストのみであるが)記憶力を必要とするテストにおい て外的な方略を用いることは、あまり記憶テスト成績を上昇させない、ということが考えられる。

逆に、記憶容量の乏しさを被験者自身がわかっている場合、その乏しい分を外的な記憶方略を用 いることでカバーしようとするメタ認知が働いているという可能性も考えられる。ただ、外的記 憶方略尺度と内的記憶方略尺度が正の相関であったということは、外的方略を使う人は内的方略 も使用する傾向がある(逆も言える)ということである。従って、内的記憶方略と外的記憶方略 は、質的に異なっている方略として明確に区分できるが、共に記憶方略としての共通性はこの部 分から示唆されるといえよう。

 また表3を見ると、各因子に含まれる項目ごとに記憶テストとの関係の強さの違いがわかる。

上記の重回帰分析の結果(t検定で有意性が認められた因子)と合わせて考えると、単語再生で は項目15及び30,1順唱では6及び42、文記憶では48及び35が記憶成績を説明する上での各因子を 代表する項目と考えられよう。

 豊田・渡邊(1992)にも述べられているように、各因子に含まれる項目に対する反応をみてい

(7)

くことで、各個人ごとに記憶課題での成績についての、ある程度の予測ができれば、これらの資 料は教育的観点からも有益なものとなりうるであろう。

       引用文献

藤田 正 1975幼児のカテゴリー群化に及ぼすカテゴリーラベリングの影響 奈良教育大学紀     要24,159−168、

楠見 孝 1988 日常生活におけるメタ記憶一記憶能力の自己評価と記憶方略の利用一日本教育     心理学会第30回総会発表論文集 644−645.

豊田弘司・渡邊 巌 1992 自己診断記憶尺度と記憶能力の関係 奈良教育大学教育研究所紀要

     28,109_119、

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