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音韻知覚と音韻記憶表象

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Academic year: 2021

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(1)近畿大学工学部研究報告 N a 3 9, 2 0 0 5年 , pp万 8 3 , R e s e a r c hR e p o r t so ft h eS c h o o lo fE n g i n e e r i n g K i n k iU n i v e r s i t yN a 3 9, 2 0 0 5, p p . 7 5 8 3. 音韻知覚と音韻記憶表象 高山智行. A phonemicp e r c e p t i o na sam a t c h i n gt ophonemicr e p r e s e n t a t i o n i nl o n g t e r mmemory TomoyukiTAKAYA 恥1A. P r e v i o u ss t u d i e s (Takayama ,2002,2003) i n d i c a t e dt h a t ,i nt h ei d e n t i f i c a t i o nl e a m i n gofs i n e w a v ea n a l o g so fs t o pCVs o rvowels ,performanceunderspeechi n s t r u c t i o n su s i n gphonemicl a b e l smatchedt oa n a l o g swass u p e r i o rt op e r f o r m a n c e u n d e rnonspeechi n s t r u c t i o n su s i n ga r b i t r a r yl a b e l s,whichwasb e t t e rt h a np e r f o r m a n c eu n d e rs p e e c hi n s t r u c t i o n su s i n g mismatched phonemic l a b e l s .P r e s e n ts t u d y aimedt or e p l i c a t et h e s ef i n d i n g su s i n ga n a l o g s ofo t h e rs p e e c hs o u n d s, J a p a n e s e "わ" and " ら. i nt h ef i r s te x p e r i m e n ta n dAmericanE n g l i s h/ la Ja nd/ r a Ji nt h es e c o n de x p e r i m e n . tI twas. p r e d i c t e dt h a tt h es u p e r i o r i t y ofmatched s p e e c hi n s t r u c t i o n so v e ro t h e ri n s t r u c t i o n s( a n dnonspeech i n s t r u c t i o n so v e r. ,butt h a t ,i nl e a m i n gon mismatched s p e e c hi n s t r u c t i o n s )s h o u l dbe f o u n di nl e a m i n g ona n a l o g s ofn a t i v es y l l a b l e s a n a l o g s ofn o n n a t i v es y l l a b l e s,no d i f f e r e n c es h o u l db e among i n s t r u c t i o n sg r o u p s . These p r e d i c t i o n s were mos t 1y c o n f i r m e d . The h y p o t h e s i st h a t aphonemic p e r c e p t i o ni s ap r o c e s si n which p e r c e p t u a lr e p r e s e n t a t i o no fs i g n a l si s matchedt ophonemicr e p r e s e n t a t i o ni nl o n g t e r mmemorywasd i s c u s s e d . Keywords:sinewaves p e e c h,i d e n t i f i c a t i o nl e a m i n g,phonemicp e r c e p t i o n,phonemicr e p r e s e n t a t i o n. 1.はじめに. そのため,この種の音は言語音知覚メカニズムを探る有 )刈 ,1 0 ), 1 1 ), 1 2 ), 1 3 )。し 力な刺激音として用いられてきた 8. これまで多くの研究が,長期記憶要因が言語音知覚に 影響を及ぼすことを指摘している]), 2 ), 3 )。それらの中に. かし,何故,同じ非言語音刺激の知覚内容が構えによっ て変わるのか,ということについては十分に説明されて いるとは言えなかった。 高山 1 4 ), 1 5 ) は,アナログ音の音韻知覚が,刺激音の. は,内的標準あるいはプロトタイプが,言語音信号と知 覚された音韻カテゴリーとの聞に介在していると主張す 5 ), 6 ),その主張は,さらに,音韻記憶表 るものもあり 4),. 音響的音韻関連特性あるいはその内的表象(知覚表象) と長期記憶内の音韻表象との照合により成立すると仮定. 象を参照できるか否かが,言語音と非言語音の知覚を規 定する要因であることを示唆する。. して,識別ラベルを操作したアナログ音の識別学習実験 を行った。実験では,破裂子音-母音音節(破裂音 CV 音節と略す) 1 4 ) あるいは母音 1 5 ) を模したアナログ音. 音韻知覚における音韻記憶表象の寄与を示唆する現象 の一つは,正弦波アナログ音に対する言語音知覚の成立 である。正弦波アナログ音は,言語音のフォルマント構. を用い,アナログ音の識別ラベルとしてもとの音韻名を. 造を周波数変調音で模した非言語複合音であり,聴者の )。 構えに応じて言語音様にも非言語音様にも知覚される 7. 与える被験者群(言語音教示一致群),アナログ音に本. 近畿大学工学部情報システム工学科. DepartmentofI n f o r m a t i o nandSystemsE n g i n e e r i n g,. 来の対応を変えた音韻ラベルを与える被験者群(言語音. S c h o o lofE n g i n e e r i n g ,KinkiU n i v e r s i t y. 7 5.

(2) 近畿大学工学部研究報告. 7 6. N o 3 9. 教示不一致群),非言語音として任意のラベルを与える 被験者群(非言語音教示群)の 3群の間でアナログ音. 2 . 2 . 2手続き 実験参加者は,高山. 1 4 ), 1 5 ). 同様,識別ラベルとして. の識別学習過程が比較された。その結果,言語音教示一. アナログ音のもとなった言語音の音韻名が与えられる言. 致群で最も高い学習成績が示され,ついで非言語音教示. 語音教示一致群,異なる言語音の音韻名が与えられる言. 群での成績が言語音教示不一致群よりも高いことが示さ. 語音教示不一致群,非言語音として A とB というラベル. れた。また,声質の違いによる音響変動は,適切な音韻. が与えられる非言語音教示群のいずれかにランダムに割. ラベルが与えられた場合(言語音教示一致群)には識別 成績にほとんど影響しなかった 15)。これらの結果は,. り当てられた。. アナログ音の知覚表象と音韻記憶表象とが照合可能であ. 実験での課題は,あらかじめ与えられた 2 つのラベ ルによるアナログ音の分類を学習することで、あった。ま. るときに限り適切な音韻知覚が成立すること,そしてそ. ず最初に,参加者は, 3 . 7 sの間隔で順々に呈示される 4. の照合は刺激の音響変動が捨象された段階で生じること. つのアナログ音を,そのラベル名を確認しながら 5 回. を示すものと解釈された。. 繰り返し開いた。アナログ音のラベル名は,アナログ音. 本研究の目的は,新たな音韻セット(日本語音韻「わJ. •r らJ:実験 1)を用いてこれまでの結果を確認すると ともに,日本語にない音韻セット(米語音韻 / la J・/ r a J: 実験 l l ) を用いて,先の効果が聴者の言語経験に基づく ことを示すことで、あった。. 呈示直前から参加者正面に置かれたモニター画面上に呈 示され,アナログ音呈示後 l . 4s後まで表示されていた。 続いて, 1 0 系列の識別学習を行った。各系列では, 初めに 4つのアナログ音がラベル名とともに 2回ずつ 3 . 7 sの間隔で順々に呈示され,参加者はアナログ音とラ. ベル名との連合を確認した。それから, 4つのアナログ. 2 . 実験 I 日本語音韻「わ J・「ら Jを模した正弦波ア. 音がランダムに 6回ずつ呈示された。各識別試行では, 刺激音がこれから提示される旨のメッセージがモニター S I 上に提示された後, 300,400,500msのいずれかの I. ナログ音の識別学習. でアナログ音が提示された。. 2 .1目的 まず, 日本語音韻「わJ ,r らJを模したアナログ音を 1 5 ) 同様,聴取の構えと識 合成し,これまでの研究 14), 別ラベルを操作した 3 つの教示群間で、アナログ音の識 別学習過程を比較した。その際,高山. 1 5 ) で見いだされ. 参加者は,アナログ音を聞いて,その音のラベル名に 予め割り当てられたキーを,それぞれのキーに割り当て られた右手指でできるだけ速く正確に押すよう求められ た。ラベル名のキーへの割り当ては参加者毎にランダム で、あった。参加者の選択したラベル名と選択反応時間,. たように,発話者の性別の違いにより生じた識別変動が,. 並びに選択の正誤がコンビュータのディスクに記録され. 言語音教示一致群で縮小もしくは消失するか否かも併せ て検討した。. 200ms以下(向早反応)あるいは 1000ms以上(遅延反. た。なお,参加者の反応直後に,正誤のメッセージと, 応)の反応時間を示した試行についてはそれに対する注. 2 . 2方法 2 . 2 . 1 刺激. 日本人男女が発声する「わJ と「ら j を参考にして,. 意メッセージ ( r不適切な反応時間 J )が I s 間モニタ上 に提示された。これらのメッセージが消えた 2 . 5 s 後に 次の試行が始められた。試行系列の聞には少なくとも. " '第 3 ブオルマントに近似する周波数変調音 その第 1. 1 0 s 以上の休憩時間が設けられ,被験者のペースで次の. で模擬した 4 種の正弦波アナログ音を刺激として用い. 系列に進んだ。. た。図 1にその周波数構成を図式的に示す。女声「ら」 を模したアナログ音の 3つの構成音の起点周波数は,下 から 450, 1550,3250Hz,女声「わ j の場合はそれぞ れ 450, 1 1 5 0,2850Hzで , 130msの聞にそれぞれの定 常部の 870,1400,3100Hz まで直線的に変化した。ま 3 0 0,2500Hz,男 た,男声「ら」ではそれぞれ 300, 1. わJでは 300, 1000,2200Hzで , 130msの聞にそ 声 f. H z. 女声. 5000. 男声. ら わ ら 4000 3000. 130ms. ‘ 一 歩. .. ~. T3_ _ _ ーーー~ーーー. れぞれの定常部の 740, 1 2 0 0,2400Hz まで直線的に変 化した。これらのアナログ音は, 3 つの構成音の相対振 幅を下から 0, ・1 ・ 6dB に設定し,持続時間が 300ms となるよう, 1 6 b i t, 11 .025 kHzの精度でソフトウェア により合成した。なお,合成後, 4 音の 1 5 0" ' 250ms. ー ー ー 一. 2000. T2___ 1000. わ. 300ms. ーーー. 四 回 ー 一. Tl/ 一/一/一/一. o. 区間の実効値振幅が等しくなるように,また波形の終末 部の 50msが 0に収束するように,波形編集を行った。. 図 1 日本語音韻「ら」・「わ」アナログのスペクトル構造.

(3) 7 7. 音韻知覚と音韻記憶表象. 実験は基本的にはコンビュータにより制御され,必要. ( 2, 5 7 0 ) = 7 . 0 2 6,Pく. 0 0 1 ; 第 9系列 F ( 2, 5 7 0 ) = 1 2 . 3 5 3,pく. 0 0 1 ;. な教示の提示,アナログ音の提示とそのタイミング,反. 第 1 0系列 F ( 2, 5 7 0 ) = 7 . 6 5 1, pく. 0 01)。そして,教示群の. 応の入力に対する反応時間の計測と反応の正誤のフィー. 単純主効果が有意となった各系列における多重比較. ドバック等,予めプログラミングされた手順で行われた。. (Ryan 法)の結果は,すべての系列において言語音教. 実験者は,実験開始に当たっての参加者プロフィールの. 示一致群の識別成績が他の 2 群よりも有意に高い,と. 入力,教示の補足,実験終了後の参加者の内省の記録を. いうことを示した (MSE=.062,併 5 70, pく. 0 5 )。. 行った。また,アナログ音は,コンピュータの出力をヘ. 次に,教示群×系列の交互作用について,各教示群に. ッドフォンアンプ ( A u d i o t e c h n i c aAT・HA2),ヘッドフ. おける系列による変動の傾向分析を行った。その結果,. A u d i o t e c h n i c a ATH-A900) 経由で被験者に煩わ ォン (. いずれの群で直線傾向が有意であり(言語音教示一致群 FO, 5 1 3 ) = 9 5. 463, pく. 0 0 1 ; 言語音教示不一致群 FO, 5 1 3 ). しさを感じさせない程度の強さで両耳提示された。. 2 . 2 . 3参加者. =32.038, p < . O O I ; 非言語音教示群 FO, 5 1 3 ) = 5 2 . 0 8 1, pく. 4年生 60名(男 44名,女 1 6 近畿大学工学部在籍の 1. 名,年齢範囲 1 8' "22歳)が実験に参加し, 3つの教示. . 0 01 ),言語音教示一致群では 2 次の傾向も有意で、あっ. た (FO, 5 1 3 ) = 8 . 9 2 5,pく. 01)。直線傾向について傾きの程. 群にランダムに割り当てられた。これらの参加者のいず. 度を比較するために,教示群ごとに系列間で識別率に関. れも,正弦波アナログ音を聞いた経験はなく,また実験 実施上問題となるような聴力障害はなかった。. する多重比較 (Ryan 法)を行った。言語音教示一致群 では,第 4 系列以降の成績が第 1・2系列よりも有意に 高く,第 7 系列以降は第 3 系列よりも有意に識別成績 が上昇していた ( M S E = . 0 3 1,併 5 1 3,pく. 0 5 )。他方,言. 2 . 3結果 まず,アナログ音の識別の正確さについての分析を行. 語音教示不一致群では,第 7系列以降でのみ第 1系列. った。教示群および声質ごとに学習経過を比較したもの. での識別成績を有意に上まわったにすぎなかった. が図 2 である。正識別率の角変換値を用いて教示群×. (MSE=.031,併 5 1 3,p < . 0 5 )。このことは,言語音教示. F ( 2, 5 7 ) 声質×系列の分散分析を行った結果,教示群 (. 不一致群は言語音教示一致群ほどには学習による識別の. 0 0 1 ) と系列 ( F ( 9, 5 1 3 ) = 1 9 . 9 8 9,pく. 0 0 1 ) の主 = 1 3 . 8 9 1,pく. 5 1 3 ) =1 .699 , pく. 0 5 ) と声質× 効果,教示群×系列 (F08, F ( 9, 5 1 3 )=2.780, pく. 01)の 2つの交互作用が有意で、 系列 (. 改善が進まないことを示している。. あった。. 0 系 列 で 第 4・5 系 列 を 有 意 に 上 ま っ て お り 第 1. 教示群の効果について,教示群×系列の交互作用にお ける単純主効果を検討したところ,第 2 系列を除くす べての系列において有意で、あった(第 l系列 F ( 2, 5 7 0 ). pく. 0 1 ;第 2系列 F ( 2, 5 7 0 ) = 1 . 0 8 6,n s ;第 3系列 F = 5 . 5 0 5, ( 2, 5 7 0 ) = 4 . 7 8 1,Pく. 0 1 ;第 4系列 F ( 2, 5 7 0 ) = 9 . 8 9 1,pく. 0 0 1 ;第 5系列 F ( 2, 5 7 0 )= 8 . 6 3 6 pく. 0 0 1 ; 第 6系列 F ( 2, 5 7 0 )= 8 . 6 3 9, ヲ. pく. 0 0 1 ; 第 7系列 F ( 2, 5 7 0 ) = 1 7 . 9 8 9,p < . O O I ; 第 8系列 F. 非言語音教示群での同様の分析では,識別成績は,第 8 系列以降で第 1・2系列を,第 9系列以降で第 3系列を,. (MSE=.031,併 5 1 3,pく. 0 5 ),比較的順調に識別が改善 されていることが示された。 声質の効果については,声質×系列の交互作用におけ る単純主効果を検討したところ,一部の系列で有意とな 5 7 0 ) = 7 . 7 6 5, pく. 0 1 ;第 7系列 F ったが(第 4系列 FO, 0, 5 7 0 ) = 6 . 3 1 2, Pく. 0 5;第 1 0 系列 F( I, 5 7 0 )= 5 . 0 7 9, pく. . 0 5 ),優位になる声質に一貫した傾向は認められなかっ た 。 続いて識別反応時間の分析を行った。. 100%. 識別反応時間を分析するに当たって,. 平均正識別率. まず,各参加者の各試行における反応 時間について, 200ms 以下のものを尚 早反応, 1000ms 以上のものを遅延反応 として除いた。そして,分散分析を行 う上で欠損値や外れ値が生じないよう, 1 つ以上の系列において 2種の声質それ. 50%. ぞれに対して尚早反応と遅延反応を除 '--4トー言語音教示一致群・女声. -<>・・言語音教示一致群・男声. --6-言語音教示不一致群・女声ー企ー・言語音教示不一致群・男戸 -ートー非言語音教示群・女声. ー司ー・非言語音教示群・男声. く反応時間が 2 試行以上得られなかっ た参加者の結果を分析の対象から除外 した。その結果,言語音教示一致群で 7名,言語音教示不一致群では 1 4 は 1. 2. 3. 4. 5 6 系列. 7. 8. 9. 10. 図 2 実験 Iの各教示群における声質毎の平均正識別率の推移. 名,非言語音教示群では 1 5名の被験者 の結果が以下の分析で用いられた。 これらの参加者の各系列における声.

(4) 近畿大学工学部研究報告. 7 8. N o 3 9. 者にとって, 日本語にない音韻を模したアナログ音の識 別に関しては,異なる予測がなされる。すなわち,アナ ログ音が呈示されるとき,照合可能な音韻表象が長期記. 昨l S. 800 ''POFO. nununu nununu. 平均識別反応時間. 憶内に存在しないので,与えられる音韻ラベルがアナロ グ音のもとになった言語音と一致するしないにかかわら ず,その識別学習は非言語音の識別学習と等価であり, 3 つの教示群聞に識別学習成績の違いは生じないであろ. 。 っ. 。 言語音教言語音教示非言語音 示一致群不一致群 教示群. 実験 Hでは,上記の予測を確かめるために,米語音韻 / l , J a / r a Jを模した正弦波アナログ音を用いて,これまで と同様に,聴取の構えと識別ラベルを操作した 3 つの 教示群間で、アナログ音の識別学習過程を比較した。. 図 3 実験 Iの各教示群の平均識別反応時間. 3 . 2方法. 3 .2 .1刺激 示群×声質×系列の分散分析を行った結果,教示群の主 < 2, 43 ) = 3 . 5 0 5,p ( . 0 5 )。教 効果のみ有意で、あった(図 3,F. l, J a / r a J の分析結果ならびに 米国人男女が発声する / おw usch& Gagnon16) が用いた刺激を参考にして, / la J 第 3フォルマントに対応する周 と/ r a J それぞ、れの第 1'". 示群間の多重比較 C R y a n 法)を行ったところ,言語音 教示一致群の識別反応時間が言語音教示不一致群に比較. 波数変調音で模擬した 4 種の正弦波アナログ音を識別 学習のための刺激材料として用いた。図 4 にその周波. M S E = 0 . 0 4 1,併4 3, pく. 0 5 )。 して有意に短かった C. laJを模したアナログ音の 数構成を図式的に示す。女声/. 2 . 4考察. で , 60ms間その値を保ち,次の 40ms間で定常部の 870, 1 4 0 0,3100Hzにそれぞれ直線的に変化した。女声/ r a Jの. 質別の識別反応時間の中央値の対数変換値を用いて,教. 3つの構成音の起点周波数は,下から 500,1400,3400Hz 日本語音韻「わ J, r らJ を模した正弦波アナログ音の 1 5 ) 同様,正識 識別学習において,これまでの結果 14), 別率,識別反応時間ともに言語音教示一致群における識 別学習の優位性が認められた。他方,平均値としては非 言語音教示群の識別率は言語音教示不一致群よりもわず かに高い値で、あったが,その差は有意水準には達じなか った。また,以前の研究 15) で認められた教示群と声質. 場合は,それぞれ 500, 1200,2100Hzで始まり, 20ms 閉その値を保ち,次の 80ms間で定常部の 870, 1400, 3100Hzにそれぞれ直線的に変化した。また,男声/ la J で は,構成音はそれぞれ 400, 1200,2900Hz を起点周波 laJと同じ時間経過を辿って,定常部の 740, 数とし,女声/ 1 2 0 0,2400Hzに変化した。男声/ r a Jの場合は, 400,1000,. との交互作用は,今回の結果では認められず,識別率に. 1400Hzで始まり,女声I r a Jと同じ時間経過で,定常部の. ついて示された声質と系列との交互作用においても,声 質に関する効果は明確なもので、はなかった。 1 5 ) で見いだされてきた言語音教 以前の研究結果 14),. 740, 1 2 0 0,2400Hz に変化した。これらのアナログ音. ・1 ・ 6dBに設 は , 3つの構成音の相対振幅を下から 0, 6 b i t,1 1 . 0 2 5kHz 定し,持続時聞が 300msとなるよう, 1. 示不一致群と非言語音教示群との差,あるいは言語音教 示不一致群と非言語音群における声質による差が今回の. の精度でソフトウェアにより合成した。なお,合成後, 4 音の 1 0 0 " '250ms 区間の実効値振幅が等しくなるよう. 実験で認められなかった理由のーっとして,これまでは 3 カテゴリーでの識別を求めていたのに対して,今回は. カテゴリーを 2 つに絞ったことがあげられるかもしれ. H z. ない。 4000. 3 . 実験 E 米語音韻/ I a /・/ r a /を模した正弦波アナ口. 3000. グ音の識別学習. 女声. l a. 男声. r a. l a. r a. '----j'-j. 2000. 3 .1目的 これまでの研究では,用いた日本語音韻の範囲で,ア ナログ音の音韻知覚が,その知覚表象と音韻記憶表象の 照合が可能であるとき成立する,としづ仮説を支持する 結果が得られた。他方,この仮説のもとでは, 日本語話. 1000. 。 図 4 英語音韻. / I a /・/ r a /のアナログのスペクトル構造.

(5) 7 9. 音韻知覚と音韻記憶表象. に,また波形の終末部が 50ms間で 0に収束するように, 波形編集を行った。 3 . 2 . 2手続き. 向分析は 1次 (F0, 42 3 )= 4 5 . 0 0,pく.000 と2次 (FO, 4 2 3 ) 0 5 ) の成分が有意であることを示した。すな = 4 . 5 8 2,pく. わち,いずれの教示群においても,系列を繰り返すとと. 用いたアナログ音と 2つの言語音教示群に与える識 r a Jとしたこと以外は,実験 Iとまった 別ラベルを/laJと / く同様の手続きで、実験を行った。. もに識別反応時間は単調に減少した。. 3 . 2 . 3参加者 4年生 60名(男 5 7名,女 3 近畿大学工学部在籍の 1 名,年齢範囲 1 8' " ' ' 24歳)が実験に参加し,実験 1と. 同様,言語音教示一致群,言語音教示不一致群,非言語 音教示群の 3つの教示群にランダムに割り当てられた。 これらの参加者のいずれも これまで、正弦波アナログ音 を聞いた経験はなく,また実験実施上問題となるような 聴力障害はなかった。. 3 . 3結果 アナログ音に対する正識別率に関して,角変換を行っ た後,教示群×声質×系列の分散分析を行った。その結 .2 53, pく. 00と系列 ( F ( 9, 5 1 3 ) = 4 4. 47 3, p 果,声質 (FO, 5 7 ) = 11 く. 0 01)の主効果,ならびに教示群×声質の交互作用(図 5, 35 5, pく. 00 が有意で、あった。 F ( 2, 5 7 ) = 5. 教示群×声質の交互作用について単純主効果を検討し たところ,いずれの声質においても教示群の効果は認め <O,声質の効果は言語 られなかったがれ、ずれも ,F 音教示一致群において有意であった (FO, 5 7 ) = 1 9 . 0 5 8,pく. 3 . 4考察 これまでの日本語音韻を用いた実験結果と異なり,日 本語にない音韻を用いた場合には,教示群による識別学 習の差異は認められなかった。また,声質の効果に関し ては,全体として有意な効果が見いだされたが,教示群 との交互作用の中で,言語音教示一致群と非言語音教示 群においてそれぞれ有意な単純主効果ならびにその傾向 が示された。 教示群に関する主効果や単純主効果が認められないと いうことは,聴者の言語にない音韻については,照合さ れるべき音韻記憶表象自体が存在しないことによるもの と解釈できるであろう。 他方,教示群×声質の交互作用における声質の単純主 効果に関していえば,この解釈は高山 15) の解釈と矛盾 する。高山 15) の研究では,母音アナログの識別学習に おいて,言語音教示不一致群と非言語音教示群で声質の 効果が示され,言語音教示一致群では声質の効果は見い だ、されなかった。それまでの結果で,識別学習に関する. .000。これは,男声に対する識別が女声に対してより 良かったためで、あり,この傾向は非言語音教示群におい. 言語音教示一致群の優位性が確認され,アナログ音の音 韻知覚がその知覚表象と音韻記憶表象の照合により成立 するとの仮説は支持されたと言えるので,言語音教示一 致群で、声質差がなかったことは,音響変動が捨象され抽. ても認められた (FO, 5 7 ) = 2 . 8 4 8, pく. 1 0 )。. 象化された段階でアナログ音の知覚表象と音韻記憶表象. また,系列の主効果に関して傾向分析を行ったところ, 5 1 3 ) = 3 7 6 . 7 9 0, Pく. 0 01)と 2次 (FO, 5 1 3 ) = 1 8 . 8 2 7, l次 (FO,. と照合が生じていることを示すものと解釈された。 この解釈は,声質による識別差が既有の音韻記憶表象 との照合が成立しない条件で生じると予想するので,先 の解釈が妥当であれば,今回の実験ではいずれの教示群 においても声質による識別差が生じることが期待され. pく. 00 の傾向が有意であり,教示群にかかわらず正識. 別数は単調増加していることが示された。 識別反応時間については,実験 Iと同様の処理をし, 教示群×声質×系列の分散分析を行った。その結果,系 pく. 0 01 ),傾 列の主効果のみ有意であり ( F ( 9, 4 2 3 ) = 7 . 5 3 7,. る。しかし今回の結果では,言語音教示一致群におい て声質の効果が生じており,声質差が生じなかったのは 言語音教示不一致群においてであった。高 山 15) が述べるように,声質による識別差の. 100%. 無いことが内的表象の抽象性の指標であると すれば,当該音韻記憶表象とは異なる何らか の内的表象との照合が抽象的段階で生じてい たのであろうか。あるいは,全くの偶然によ. 平均正識別率. -女声仁コ男声. るものであろうか。 ここで,実験手続きとアナログ音のスペク トルパターンから一つの可能性が示唆される。. 50%. 識別学習に関して与えられた音韻ラベルは,. 0弘 言語音教 示一致群. 言語音教示 不一致群. 非言語音 教示群. 図 5 実験 Eの各教示群における声質毎の平均識別率. 実験参加者前方のモニタ画面上に,実験が終 了するまでほとんど常に表示されている。今 回の実験では,“La", “Ra" が用いられた。 これらをローマ字として読めば,前者に対応 する日本語音韻は存在しないが,後者は日本.

(6) 近畿大学工学部研究報告. 8 0. 語音韻の「ら Jである。他方,図 l と図 4 のアナログ 音のスベクトルパターンを比較すると,日本語音韻「ら J のフォルマント遷移の方向は英語音韻/ r aJよりもむしろ. / laJと似ており,英語音韻の/ r aJは日本語音韻「わ」に似 ている。そうすると,言語音教示一致群というよりも言 語音教示不一致群において,アナログ音の知覚表象と抽 象化された音韻記憶表象の照合あるいは対応づけが生じ ていたと考えられないだろうか。すなわち,言語音教示 laJの知覚表象と,それ 不一致群において,アナログ音/ に与えられた音韻ラベル“ Ra" から誘導された音韻記 憶表象〈ら)とが近似的に対応し,それを手がかりとし. N o 3 9. られた。これらの参加者のいずれも これまで正弦波ア ナログ音を聞いた経験はなく,また実験実施上問題とな るような聴力障害はなかった。. 4 . 3結果と考察 正識別率について,教示群×声質×系列の分散分析を 3 8 ) = 5 . 9 0 3, pく. 0 5 ) と系列 ( F ( 9 , 3 4 2 ) 行った結果,声質 (FO, = 1 8 . 1 3 6,p < . o oI ) の主効果が有意で、あったが,教示群の. 効果は認められなかった。すなわち, 日本語にない音韻 をもとにしたアナログ音の識別学習に関して,識別ラベ. て識別学習が進行したのかもしれない。両者の対応は識. ルとして与えられる日本語音韻のフォルマント遷移のパ ターンがアナログ音のスベクトル変化の時間的パターン. 別学習を促進するほど十分ではないものの,対応づけは. に類似するか否かは,学習効率に影響しなかった。. 抽象化された表象を用いて行われたのであろう。この解 釈の可能性を検討するために,追加実験を行った。. 他方,先の実験と同様の処理をした識別反応時間に関 する分散分析の結果においては,教示群×系列の交互作 F ( 9, 3 2 4 )= 2 . 9 2 0,•pく. 0 5 )。教示群ごと 用が有意であった ( に系列の単純主効果を検討したところ,非類似言語音教. 4 . 追加実験. 米語/ I a /・/ r a /アナログの日本語音韻に よる識別学習. F ( 9 刀4 ) = 2 . 0 7 4, Pく0 5 ),傾向分析で 示群で有意であり ( 3 2 4 ) = 9 . 8 5 9,pく は 1次の減少傾向のみ有意となった (FO, . 01)。すなわち,図 6に示すように,類似言語音教示群. 4 .1目的. においては,学習開始当初から識別反応時間はほぼ一定 水準で、推移したが,非類似言語音教示群においては,試. 実験 Eの言語音教示不一致群の識別学習過程におい て,意識的か無意識的かにかかわらず,アナログ音のス ベクトル構造の時間的変動に類似したフォルマント構造 をもっ日本語音韻が手がかりとして用いられていたとす れば,それらの手がかりを明示的に与えることによって 学習過程を促進するとともに,声質の影響を抑えること ができるかもしれない。追加実験では,米語音韻/ la J ・/ r a J アナログに対して日本語音韻「ら j ・「わJ を用いる識別 学習の過程を検討した。. 4 . 2方法 4 . 2 . 1刺激. 行系列を重ねるにつれて識別反応時間が減少し,最終的 に類似言語音教示群と同じ水準に達した。 この追加実験は,実験 Eにおける言語音教示不一致群 で声質による識別差が見いだ、されなかったことに関して なされた推測を確かめるために実施された。正識別率に 関する結果はその推測に反するものであったが,識別反 応時間に関しては逆にその推測を支持するような結果で あった。正識別率と識別反応時間のどちらが内的な過程 に鋭敏な測度であるかは判断が難しいが,実験 Iの考察 で述べたように,二者択一的な反応カテゴリーを用いた ことが正識別率にも現れるはずの差を縮小させたのかも. l, J a / r aJに関する 4種のアナログ 実験 Eで用いた米語I. しれない。反応カテゴリーを増やして同様の検討を繰り. 音を刺激として用いた。. 4 . 2 . 2手続き 4 種のアナログ音を日本語「わ J ,r らJ と して学習させる以外は,実験 Eと同様で、あっ. ms 700. ~. た。ただし,教示群については,非言語音教 示群は実験 Eでのそれと等価であるので,刺 激音とラベルの対応を入れ替える 2群の言語 音教示群のみを設け,フォルマント遷移の類. la Jを日本語「ら J,米語I r a Jを 似性から,米語I 日本語「わ」と識別するよう教示する群を類 似言語音教示群,逆の組合せで教示する群を. 識 600 別. A‘ 、ゐ 、 /司 、 ~-. 反. 応. 富500. ー・一類似言語音教示群 ー企・非類似言語音教示群. 非類似言語音教示群とした。 400. 4 . 2 . 3参加者 4年生 40名(男 33 近畿大学工学部在籍の 1 名,女 7名,年齢範囲 1 8 22歳)が実験に. 2. 3. 4. 5. 6. 7 8 9 1 0. 系列. . . , . ;. 参加し, 2 つの教示群にランダムに割り当て. 図 6 追加実験の各教示群の識別反応時間の推移.

(7) 音韻知覚と音韻記憶表象. 8 1. 非言語音教示のもとで、の音韻以外のラベルを用いた識別. 返す必要があるであろう。. 学習(非言語音教示群)は,そのような既存の関係は利 用できないので,通常の対連合学習として成立するはず. 5 . 全体的考察. である。したがって,その際の学習の容易さや速さは, 言語音教示のもとで、適切な音韻ラベルを用いて学習する. 5 .1正弦波アナログ音に対する音韻知覚. 場合(言語音教示一致群)と不適切な音韻ラベルを用い. 正弦波アナログ音は,その音響エネルギーの周波数一. て学習する場合(言語音教示不一致群)の中間に位置す. 時間変動がもとの言語音と近似するものの,言語音のよ うな調波構造も,フォルマントを中心とした広い周波数. ると予想される。 加えて,音韻知覚過程の最終出力は個々の言語音の音 響的変動が捨象され抽象化された音韻内容であると考え. 帯域へのエネルギー分布ももたないので,言語音とは非 常に異なって聞こえる。 Remez ら 7) は,男性話者が発 声した文のフォルマント構造を分析して,第 1 ' " " "第 3 フォルマントの中心周波数と振幅の時間変動を周波数変 調音で模擬した複合音を作成し,音の 性質について何の a. 教示も与えず,その音の印象を自由に報告するよう求め たところ,ほとんどの被験者が非言語音としての知覚内 容を報告することを示している。他方,同じ実験におい て,それがコンビュータによって合成された文であり,. られる。アナログ音の識別学習を促進するのは音韻ラベ ルとアナログ音に対する音韻記憶表象との対応であると するならば,その対応は抽象化された表象レベルで、生じ ているものであろう。すなわち,与えられた音韻ラベル がアナログ音の音韻関連特性と音韻記憶表象との照合に おいて矛盾しないものであれば,声質等の音響的差異は アナログ音の識別のし易さに影響しないであろう。しか し,矛盾した音韻ラベルで、あったり,非言語音として任. できるだけ忠実に識別するように求められた被験者の多 くは,文全体あるいは文中の多くの音節を正しく識別で emez ら 7) はそれを,正弦波アナログが提供す きた。 R. 意のラベルを用いる場合には,抽象化された表象レベル での照合ができず,音響変動の影響を受けるかもしれな し 、 。. るフォルマント中心周波数の情報は,聴者の言語音知覚. 日本語音韻「ら j と「わJのアナログ音を用いた実験 Iの結果は,上記の予想、を一部確認した。すなわち,こ れまでの結果同様,言語音教示一致群での識別学習が他 の 2 群の識別学習よりも優位であった。他方,言語音. 過程を自動的に始動させるには十分とはいえないが,言 語音教示により,聴者の注意をアナログ音に含まれる言 語音関連特性に向けさせることで,言語音知覚を引き起 こすことができたことによる, としている。すなわち, 正弦波アナログ音から音韻内容を知覚するためには,ア ナログ音にもとの言語音のスベクトル変動の時間構造が 維持されていることが必要であり,それとともに,聴者 の注意がそれに向けられ,言語音情報として適切に処理 されることが必要である。その意味で,アナログ音の音 a l s t o n 1]) が述べて 韻知覚過程は,決して Johnson & R いるような自動的な過程ではあり得ない。 1 5 ) と同様,アナログ音の音 本研究は,以前の研究 14), 韻知覚が,刺激の知覚表象と長期記憶内の音韻表象との 照合により成立すると仮説し,アナログ音に与えられる ラベルを操作した識別学習実験を通して,その仮説の検 7 )。 証を試みた。これらの実験の論理は次のとおりである 1. 教示不一致群と非言語音教示群との聞には差は認められ なかった。加えて,いずれの群においても声質による識 別学習の難易度の差も認められなかった。 実験 Eでは,さらに, 日本語にない音韻である英語音 韻/ la J と/ r a J のアナログ音を用いて,上記の予想を検討し た。このようなアナログ音では音韻記憶表象との照合は 期待されないので,どのようなラベルが与えられるかは 識別学習の結果を左右しないと予想される。結果は予想 を支持し, 3つの教示群の識別学習の効率に関して違い は認められなかった。他方,音韻記憶表象との照合が期 待されないとき,声質による音響的変動の効果が予想さ れ , 3 つの教示群とも声質による識別学習への影響が期. emez ら 7) が述べ ログ音の識別を学習させることは, R. 待されたが,言語音教示一致群と非言語音教示群で声質 の効果が認められ,言語音教示不一致群では認められな かった。. るように,必然的に聴者の注意をアナログ音の(もとの 言語音から引き継し、だスベクトル的・時間的構造のよう. に日本語音韻の記憶表象と対応づけられると仮定するこ. な)音韻関連特性に向けさせ,それを音韻知覚の手がか りとして利用できるようにすると考えられる。アナログ. とで,解釈できるかもしれない。この点を確かめるため に,英語音韻/ l , J a / r a Jに比較的類似したブオルマントパ. 音に与えられた音韻ラベルが,その音韻関連特性と音韻 記憶表象との既存の関係に矛盾しない限り(言語音教示. ,r わj を音韻ラベルとし ターンをもっ日本語音韻「ら J. すなわち,言語音教示のもとで、音韻ラベルを用いてアナ. 一致群),識別学習は容易に成立するであろう。しかし, 音韻ラベルがそのような関係に矛盾する場合(言語音教 示不一致群)は,音韻関連特性と音韻記憶表象との対応 関係に混乱が生じ,学習が妨げられるであろう。他方,. 後者の結果については,本来矛盾した音韻ラベルが逆. て明示的に与える追加実験を行った。そこでは,アナロ グ音のスベクトル構造の時間的変動に類似したフォルマ ント構造をもっ日本語音韻をラベルとして与えること で,識別学習を促進し声質変動の効果を抑えることがで きるかもしれないと期待された。実験の結果,フォルマ.

(8) 近畿大学工学部研究報告. 8 2. ント構造が類似した日本語音韻をラベルとして与えるか 否かは,識別の正確さから見る識別学習過程には影響せ. N o 3 9. ているときには,プライミング効果は,プライムとター ゲ、ツトが同一刺激であるときにのみ生じていた。すなわ. ず,声質変動の効果も抑えることはできなかった。他方,. ち,アナログ音が言語音として知覚されている限り,言. 識別の速さから見るとき,ブオルマント構造の類似した. 語音とそのアナログ音の音韻知覚は,同一のメカニズム. 音韻ラベルが与えられる場合には学習当初から比較的速. により成立すると考えられる。. やかに識別がなされるが,類似していない音韻ラベルが 与えられる場合は識別が徐々に速やかになされるように. 5 . 3音韻知覚研究における正弦波アナログ音の意義. なり,最終的に両者が同等の速さで識別されるようにな るということが示された。これらの結果は,実験 Eの結. ルマント構造を周波数変調音で模した非言語複合音であ. 果に対する後付的解釈を必ずしも支持するものではない. り,聴者の経験や構えに応じて言語音様にも非言語音様. 先述したように,正弦波アナログ音は,言語音のフォ. が,新奇な音韻の学習における既有の音韻記憶表象の影. にも知覚される。これまでの多くの研究の主要な関心は,. 響の仕方を示唆するものであるかもしれない。更なる検. 知覚の言語音様式と非言語音様式それぞれにおける知覚 内容からもたらされる効果や現象,あるいはそれらの特. 討が必要であろう。 いずれにしても,これらの結果は,アナログ音の音韻. 徴であって,そもそもどのようにしてそのような知覚内. 知覚が,刺激の知覚表象と長期記憶内の音韻表象との照. 容がもたらされるのか,ということについてはほとんど. 合により成立するとの仮説を概ね支持するものと言えよ う。今後は,この照合過程にかかわる表象の性質を明ら. 関心が払われていなかったように思える。確かに,一部 の研究者たちは,アナログ音の音韻知覚にとって,言語. かにすることが必要である。. 音にスベクトル的時間的に近似している必要があること 1 0 ), 1 2)が,それはあくまでも実験条件 を指摘している 7),. 5 . 2音韻知覚における正弦波アナログ音と言語音との関. の操作の上からの指摘でしかなかった。多くの研究に見 9 ), 11 ), 21 ),本来,現象や効果の記述でし られるように 8),. 係. ところで,本研究も高山]4), 15) も,厳密な意味で,. かない知覚の言語音様式と非言語音様式によって,言語. 言語音とそのアナログ音の音韻知覚が同一のメカニズム. 音と非言語音との知覚的差異を説明しようとすれば,結 局,循環論に陥ることになるであろう。むしろ,このよ. により成立する,ということを支持するものではない。 しかし,多くの研究において,言語音として聞かれた, あるいは,訓練の結果として聞くことが可能となったア 11)や音声トレ ナログ音に関して,カテゴリー的知覚 9), ーディング. 8 ). など言語音特異的とされている知覚的効. 果や現象が再現できることを示しており,両者が同じ音 韻知覚メカニズムにより処理されることが示唆される。 先に述べたように,言語音とアナログ音が共通の音韻関 連特性を有しているが故に,共通の音韻記憶表象と照合 されるのであろう。 Takayama18) は,音韻知覚において,言語音とそのア ナログ音とが共通の音韻記憶表象にアクセスしているか 否か(あるいは共通の音韻記憶表象を活性化させるか否 か)を,言語音とアナログ音の聞の相互プライミング実 験によって検討した。プライミングでは,プライムする 刺激がプライムされる刺激に何らかの点で似ていると き,記憶内の表象を活性化させると仮定されている 19), 20 )。 したがって,プライムする側とされる側の物理的同一性 にかかわりなく,言語音とそのアナログ音との聞に音韻 的同一性に基づいた相互プライミングが成立するなら ば,両者が共通の音韻記憶、表象にアクセスしていると推 測される。実験の結果,この推測は支持された。アナロ グ音が言語音として知覚されているとき,ターゲット刺 激がアナログ音であろうと言語音であろうと,プライム 刺激がターゲット刺激と同じ音韻名であれば,プライム 刺激の物理的同一性にかかわらず,プライミング効果が 得られた。他方,アナログ音が非言語音として知覚され. うな知覚様式の違いをもたらすものは何か,ということ が明らかにされなければならない。われわれのこれまで の一連の研究の関心はまさにその点にあった。 1 5 ), 1 8 )は , 本研究ならびにこれまでの一連の研究 14), 音韻知覚は音韻関連特性の知覚表象と音韻記憶表象との 照合によって成立するものであり,言語音と非言語音と の知覚的差異は,音響信号の知覚的処理において音韻記 憶表象を参照するか(あるいは参照できるか)否かによ る,とする仮説を検討するために行われた。そのような 研究目的にとって正弦波アナログ音を用いる利点は,正 弦波アナログ音が,言語音をその主要なスペクトル的時 間的特性に還元した非言語音であり,聴者の注意や期待 ・構えあるいは経験に応じて非言語音様にも言語音様に も知覚される,という点にある。 先に述べたように,これまで多くの研究では,アナロ グ音を,知覚の言語音様式と非言語音様式による知覚内 容やその効果の違いを明らかにするための手段として用 いてきた。その意味では,言語音知覚過程と非言語音知 覚過程を分離するこ重知覚 22) やラテラリティ効果 23) と同じような位置づけでしかなかった。しかし,同一の 刺激が聴者の知覚的処理のあり方に応じて異なる知覚内 容あるいは効果をもたらすというアナログ音の特性は, 知覚過程やそこでの処理様式を分離するだけでなく,そ の知覚的処理の内容にまで踏み込んでいけるとし、う可能 性を示唆する。すなわち,アナログ音は,通常の言語音 では自動化され,隠蔽されているかのように思える言語.

(9) 8 3. 音韻知覚と音韻記憶表象. 音処理過程を,注意により制御された過程 2 4 ) として分 析・解明する手段を提供する。この刺激を用いた研究の 今後の展開を期待したい。. ,5 1,1 9 5・2 0 9 . c o m p a r i s o n s .P h o n e t i c a . C . 1 9 8 1 A u d i t o r y a n d p h o n e t i c 1 2 ) Schwab, E p r o c e s s i n gf o rt o n ea n a l o go fs p e e c h .D i s s e r t a t i o n. , 42, 3 8 5 3B . (UMI N o . A b s t r a c t s I n t e r n a t i o n a l 8 2 0 4 1 1 0 ) 引用文献 1 )F u j i s a k i,H .,& Kawashim , aT . 1 9 6 9 Ont h emodes. a n dmechanismsofs p e e c hp e r c e p t i o n .AnnualR e p o r t oft h eE n g i n e e r i n gR e s e a r c hI n s t i t u t e,F a c u l t y of ,U n i v e r s i t yofTo か0,28,67・7 3 . E n g i n e e r i n g .B. 1 9 7 3 A u d i t o r ya n dp h o n e t i cmemoη 2 )P i s o n i,D. c o d e si nt h ed i s c r i m i n a t i o no fc o n s o n a n t sa n dv o w e l s . s y c h o p h y s i c s,1 3, 2 5 3・2 6 0 . P e r c e p t i o n& P .,G o l d b e r g,R .F .,& B r a i d a ,L .D . 3 )M a c m i l l a n .N.A 1 9 8 8R e s o l u t i o nf o rs p e e c hs o u n d s :B a s i cs e n s i t i v i t y and c o n t e x t memory on v o w e l a n d c o n s o n a n t c o n t i n u a . J o u r n a l of t h eA c o u s t i c a lS o c i e t y of 2 6 2 1 2 8 0 . America,84,1 4 ) Kuhl,P . K. 1 9 9 2 P s y c h o a c o u s t i c sa n ds p e e c h. ,p e r c e p t u a la n c h o r s , p e r c e p t i o n :I n t e m a ls t a n d a r d s a n dp r o t o t y p e s . I nL . A. Wemer ,& E . W. R u b e l e v e l o p m e n t a lP s y c h o a c o u s t i c s .W a s h i n g t o n, ( E d s . ),D D . c . : American Psychological Association. Pp. 2 9 3 3 3 2 . . 1 9 7 7 D i c h o t i cc o m p e t i t i o no fs p e e c h 5 ) Repp,B. H s o u n d s : The r o l eo fa c o u s t i cs t i m u l u ss t r u c t u r e . ・ Human J o u r n a l of E x p e r i m e n t a l P s y c h o l o g y : 7 ・ 5 0 . P e r c e p t i o nandP e r f o r m a n c e,3,3 . 1 9 8 2 P h o n e t i c p r o t o t y p e s . 6 ) Samuel, A. G s y c h o p h y s i c s,3 1, 307 ・ 3 1 4 . P e r c e p t i o n& P 7 ) Remez ,R .E .,Rubin,P .E .,P i s o n i,D .B . , &C a r r e l l,. T .D . 1 9 8 1 S p e e c hp e r c e p t i o nw i t h o u tt r a d i t i o n a l 4 7・9 5 0 . s p e e c hc u e s .S c i e n c e,212,9 ,C .T .,M o r r o n g i e l l o,B . , &R obson,R . 1 9 8 1 8 )B e s t P e r c e p t u a le q u i v a l e n c eo fa c o u s t i cc u e si ns p e e c ha n d s y c h o p h y s i c s, n o n s p e e c hp e r c e p t i o n . P e r c e p t i o n& P 29,1 9 1 2 11 . 9 )B e s t ,C .T .,S t u d d e r t K e n n e d y,M.,Manuel,S .,&. R u b i n S p i t z, J . 1989 D i s c o v e r i n g p h o n e t i c 口e m s . P e r c e p t i o n & c o h e r e n c e i n a c o u s t i c pa P s y c h o p h y s i c s,45,237・2 5 0 .. 1 3 ) Tomiak ,G .R . , M u l l e n n i x,1 .W.,& Sawusch,1 .R. 1 9 8 7I n t e g r a lp r o c e s s i n go fp h o n e m e s :E v i d e n c ef o r ap h o n e t i c mode o fp e r c e p t i o n . J o u r n a lo ft h e 1,7 5 5・7 6 4 . A c o u s t i c a lS o c i e t yofAmerica,8 1 4 ) 高山智行 2002 正弦波言語音アナログの識別と, その識別学習に及ぼす知覚様式の効果近畿大学工 学部研究報告, 36 ,5 1・6 0 . 1 5 ) 高山智行 2 0 0 3 非言語音の音韻知覚における音韻 記憶表象の役割. 広島大学大学院教育学研究科紀要. 第三部第 5 2号 ,2 7 3・281 . 1 6 ) Sawusch,1 .R . , & Gagnon ,D .A. 1 9 9 5 A u d i t o r y u e s,a n dc o h e r e n c ei np h o n e t i cp e r c e p t i o n . c o d i n g,c J o u r n a l of E x p e r i m e n t a l P s y c h o l o g y : Human 2 1,6 3 5・6 5 2 . P e r c e p t i o nandP e r f o r m a n c e, 1 7 ) 高山智行 2004 言語音と非言語音の知覚的差異を もたらす内的過程広島大学大学院教育学研究科博. 士論文(未公刊) •. ,T . 2004 P r i m i n ge f f e c t si ns p e e c ha n d 1 8 ) Takayama n o n s p e e c hmodeso fp e r c e p t i o n .A c o u s t i cS c i e n c e& T e c h n o l o g y ,2 5,1 9 6 ・ 2 0 2 . . 1 9 9 7 The r e p r e s e n t a t i o n a lb a s i so f 1 9 ) Decoene,S s y c h o p h y s i c s,59 , s y l l a b l ec a t e g o r i e s .P e r c e p t i o n& P 8 7 7 8 8 4 . 9 9 1 直接プライミング心理学研究, 62, 2 0 ) 太田信夫 1 1 1 9 1 3 5 . ,R .E .,P a r d o,J .S .,P i o r k o w s k i,R .L . , & 2 1 ) Remez R u b i n,P .E . 2 0 0 1 Ont h eb i s t a b i l i t yo fs i n ewave 2, a n a l o g u e so fs p e e c h . P s y c h o l o g i c a lS c i e n c e,1 2 4 2 9 .. .A . , & L iberman,A. M. 1 9 8 3 Some 2 2 ) Mann,V d i f f e r e n c e sb e t w e e np h o n e t i ca n da u d i t o r ymodeso f 4,2 1 1・2 3 5 . p e r c e p t i o n . Co g n i t i o n,1 h a n k w e i l e r ,D . 1 9 7 0 2 3 )S t u d d e r t K e n n e d y,M.,& S H e m i s p h e r i cs p e c i a l i z a t i o nf o rs p e e c hp e r c e p t i o n . J o u r n a l oft h eA c o u s t i c a lS o c i e t y ofA m e r i c a,48, 5 7 9 5 9 4 . .C .,& Schwab,E .C . 1 9 8 6 Ther o l e 2 4 ) Nusbaum,H. ., & P i s o n i, D .B . 1 9 8 2 Some 1 0 ) Grunke, M. E e x p e r i m e n t s on p e r c e p t u a ll e a m i n go fm i r r o r i m a g e s y c h o p h y s i c s,3 1, a c o u s t i cp a t t e r n s .P e r c e p t i o n .& P 2 1 0 2 1 8 .. o f a t t e n t i o n a n d a c t i v e p r o c e s s i n g i n s p e e c h p e r c e p t i o n .I nE .C . Schwab ,& H .C . Nusbaum a t t e r nr e c o g n i t i o nb yhumansandm a c h i n e s : ・ ( E d s . ),P. 1 1 )J o h n s o n,K . , &R a l s t o n,1 .V . 1 9 9 4A u t o m a t i c i t yi n. 5 7 . P r e s s .P p .1 1 3・1. s p e e c h p e r c e p t i o n : some s p e e c h /n o n s p e e c h. 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