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マッカーシー知能発達検査における 物語記憶 の 分析
著者 豊田 弘司, 澤田 忠幸
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 26
ページ 85‑93
発行年 1990‑03‑01
その他のタイトル Analyses of "memory of story" in McCarthy scales of children's abilities
URL http://hdl.handle.net/10105/6696
マッカーシー知能発達検査における 物語記憶 の分析オ
豊田弘司・澤田忠幸
(心理学教室)
要旨 マッカーシー知能発達検査(MSCA)の下位検査の中で、言語及び記憶 尺度に対応する ことばの記憶(verbal memory) の第11部(物語記憶)検 査について4歳から6歳6か月の幼児を対象に発達的な分析を行った。この検 査は、短文を検査者が朗読し、その後、被験児にその内容に関する再生を求め るものであった。分析の結果、幼児期の前半においても、物語の主人公及び主 人公の中心的な行為に関する記憶の正答者率は高く、幼児でも主題を中心とし た枠組みに基づいて物語の記憶がなされていくことが明らかになった。
キーワード:マッカーシー知能発達検査、ことばの記憶、物語記憶
マッカーシー知能検査は、Dorothea McC趾thy女史によって1972年に出版されたMcCarthy Sca1es of ChiIdr㎝ s AbiIities(MSCA)の日本版(小川・茂木・池川・杉村、1977)である。
この検査は、年少児でも楽しみながら飽きることなく、テストが受けられるように工夫されてお り、幼児の知能測定には適した検査である。この検査は18の下位テストから成り、以下に示し た5つの能力を査定することができる尺度に割り当てられている。ω言語尺度:言語的刺激を 理解し、処理する能力と自分の考えを言語で表現する能力を査定する。12〕知覚一遂行尺度=具 体的なものの操作を通して、視覚一運動の整合と非言語的な推理能力を査定する。13〕数量尺度:
数を扱う能力と数概念の理解力を査定する。(4〕記憶尺度:多種の視聴覚刺激についての短期記 憶を査定する。15〕連動尺度:粗大運動と組カ)な運動の整合を査定する。これらの尺度のうち、
言語、知覚一遂行及ぴ数量3つの尺度を合成したものが一般知能尺度であり、これによって全体 的な知能機能が測定され、一般的知能として表される。
さて、上述した5つの尺度の内、記憶尺度は・ 絵の記憶 、 連続タッピング 、 ことばの記 憶 及び 数の記憶 という4つの下位検査から成っており、いずれも短期記憶を査定するもの である。なかでも ことばの記憶 は、第I部と第I部に分かれており、第I部では単語の系列 と文の記憶、第皿部は物語の記憶を査定するためのものであり、興味深い。特に、第皿部の物語 の記憶は、幼児の文理解の側面を調べる上でも注目すべきである。
幼児の物語記憶については、近年、数多くの研究が行われている。例えば、物語を呈示する際
Analyses of memory of s七〇ry in McCar仙y scales of chi1dren s abi1ities.
Hiroshi TOYOTA and Tadayuki SAWADA
(助α・tm・就・∫p・ツ・尻・一・砂,Mα・αω…吻・∫〃砒・α1肌Mα・α)
の読み聞かせの効果を検討した研究(高木・小林・田代・沢田、1975;玉瀬、1987)、教示の効 果を検討した研究(玉瀬、1988)、物語構造との関係に言及した研究(高木、1975.1978)、幼児
自身の物語産出を扱った研究(内田、1982)などがある。
しかし、これらの研究では、総じて物語の記憶に影響する要因に関心があり、細かく年齢段階 を区切った詳細な発達的分析を試みたものは見あたらない。そこで、本研究では、MSCAの下 位検査である ことばの記憶 第I部(物語)に注目し、物語の構成単位ごとに発達的変化を分 析することを目的とする。
このように、MSCAの特定の下位検査における発達に注目した研究は、 子ども画 を扱った、
井上(1984)、杉村・豊田(1985)及び豊田(1986a)、 図形の模写 に注目した、井上(1984)
及び豊田(1986b,1987)などがある。幼児の個別式知能検査は実施が難しく・実際に実施した 結果を発達診断に役立てるところまではいかないのが保育現場の実状のようである。しかし、特 定の下位検査について各年齢段階の平均得点がわかっていれば、その検査だけしか実施できなかっ たとしても、そこからおおよその発達診断は可能であろう。本研究で示される物語記憶に関する 資料は、上述したような発達診断に役立つものであると考えられる。
方 法
調査対象 調査対象は、1979年から1986年までの過去8年間にMSCAを受験したN保育 学院付属幼稚園の幼児であり・のべ人数は469名であった。その内訳は表1に示されている。
表1 調査対象の年齢別、性別の人数 平 均 4:0 4:6 5:0 5:6 6:0 6:6 3−9一・16 4−3−16 4−9−16 5 3 16 5−9一工6 6−3−16
範囲 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
4−3−15 4−9−15 5−3−15 5 9−15 6−3−15 6−9−15 男 児 39 41
女 児 20 29 合計 59 70
46
4288
47 44 39 42 43 37
89 87 76
㈱3−9−16,4−3−15などは、3歳9か月16日、4歳3か月15日を示す。
実施法 検査日は日本版手引(P.37)に従い、以下に示すような手順で個別的に実施された。
まず、「これから、短いお話を読みます。よく聞いてください。そして、あなたがどれだけうま く言えるかやってみましょう。できるだけよく覚えて、うまく話して下さい。」という教示を与 え・以下に示すような物語をゆっくり・正確に読んだ。
ケンちゃんはお使いでお店に行くところでした。途中でポストに手紙を入れに行く女の人に 会いました。その時、急に風が吹いてきて、手紙を吹き飛ばしました。ケンちゃんは ぼくが 拾ってきてあげましょう と言って、道の右、左をよく見てから、その手紙を拾ってきました。
女の人は大変喜んで、親切なケ:/ちゃんにお礼を言いました。
物語を読んだ後すぐに、「では、今話したお話をしてください。」と言って応答を求めた。もし、
被験児が応答をためらったり、できないという時には、手引に従い励ましを与えた。
採点法 採点は、日本版手引(p74〜76)に従い、11の構成単位ごとにO点もしくは1点 で採点した。以下には11の構成単位と正答(1点)に該当する応答の例を示した。なお、日本 版手引には、構成単位ごとに正答(i点)及び誤答(0点)に該当する応答の例が詳細に記され ており、誰でも正確な採点ができるようになっている。
l1〕ケンちゃんに用いられたことば(構成単位①)
ケンちゃん、少年、あの子、そいつ、彼、おにいちゃん、子どポ小さな(大きな)少年、
男の子、あるいは他の少年の名前
(2)女の人に用いられたことば(構成単位②)
女の人、婦人、近所の人、おとな、女のおとな、彼女、おかあさん、おばあさん、おねえ さん
13)手紙に用いられたことば(構成単位③)
手紙、封筒、はがき、紙、郵便、カード
14〕ケンちゃんが店の方に歩いていたこと(構成単位④)
店(スーパーマーケット、八百屋さん・洋服店・食料店)へ歩いていく(行く・走ってい く)、お使いで、買物のとき
15〕ケンちゃんは女の人に会った(構成単位⑤)
会った、出会った・気付いた、出くわした・見た、女の人がいた・見つけた (6〕風が手紙を吹き飛ばした(構成単位⑥)
風が(何カ)を)吹き飛ばした、(何かが)風に吹き飛ばされた、(何かが)飛んでいった。
17〕ケンちゃんは ぼくが拾ってきてあげましょう と言つれ(構成単位⑦)
取りましょう、拾いましょう、追いかけましょう、見つけましょう、手伝いましょう、持っ てきてあげよう、取ってくるよ
18〕ケンちゃんは注意深かった(構成単位⑧)
注意深かった、左右を見た、章の往来のないことを確かめた、車(トラック、バス)は来 なかった、〜よく見て
19〕ケンちゃんは手紙を拾ってきた(構成単位⑨)
取りにいった、拾いあげた、取ってきた、つかまえた、見つけた、もどしてやった、持っ てきた、届けた、渡した、あげた
ω 女の人は喜んだ(構成単位⑩)
喜んだ、満足した、うれしがった、笑った
⑰D女の人はケンちゃんにお礼を言った(構成単位①)
あなたは、なんと親切な少年でしょう とお礼を言った
結果と考察
合計点の分析 表2には、年齢別、男女別に合計の平均と標準偏差が示されている。男女を 込みにした平均でみていくと、4=Oから6:6にかけてゆるやかな得点の上昇が認められる。
幼児期全般に渡って物語記憶は徐々に伸びていくといえよう。男女別に見ても、同じよう発達曲 線が認められる。5:0において男女差がみられるが、これは本検査で読ませた物語がケンちゃ んという一男児の主人公に関するものであることが反映しているのかもしれない。
表2 合計点の平均と標準偏差(満点=11)
4:0 4:6 5:O 5:6 6:0 6:6
男児X
SD2,67 3,24 5,50 4,87 5,66 6,28 2,72 2,88 2,98 2,94 3,69 3.40
女児X
SD2,70 3,79 3,83 4,52 5,65 7,05 2,33 3,39 3,44 3,29 3,03 2.65
全体X 2,69 3,52 4,67 4.70 5,66 6.67
㈱男女込みにした全体の平均値は、重みをかけない平均値であ乱 構成単位』との分析 表3には、構成単位ごとの1点(正答)の者の割合が男女別に示され ている。以下に、各構成単位の主な特徴について述べることにする。
表3 各構成単位における男女別の正答者分布(%)
構成単位 十
即番号 性
4:O 4:6 5:O516
6:O6:6
1
男児
53.861.O
80.480.9 79.5 87.2
女児
60.068.O
66.776.2 83.7 94.6
2一
男児
25.6 34.2 50.O40.4 45.5 66.7
女児
30.0 48.0 38.140.5 60.5
81.13
男児
41.0 56.1 82.672.3 68.2 69.2
女児
60.0 56.O 57,171.4
72.王89,2
4 男児 2311
14.6 41.344.7 54.5
53.8女児
20,048.O
33.O40.5 51.2 5618
5
男児
20.5 22.O 28.327.7 50.O 41.O
女児
1O.0 28.O 23.828.6 32.6 59.5
6
男児
38.5 39.O 71.761.7 68.2 66.7
女児
40.O48.O
45.250.O
65.1 78.47
男児
10.3 12.2 34.823.4 38.6 38.5
女児
5.O 28.O 23.823.8 39.5 37.8
8 男児
12.8 17.1 43.536.2 36.4 48.7
セ1月
1nn 9∩∩ 1qn9^9
279 島1』女児 60,0 56,0 57,1
71,4 72.王 89,2女児 10,0 20.O 19.O
26,2 37,2 51.4女児 男児 25,6 31,7 63,0 30,0 40,0 42.9
57,4 52,3 69,2 50,0 62,8 75.7
1O
男児
女児 7.7 7,3 15.2 0,0 20.0 4.8
12,8 25,0 38,5
19.O 14,0 32.411
男児
女児 7,7 29,3 45.7 5.0− 32,0 35,7
38,3 47,7 48,7 31,0 46,5 48.6
(1〕ケンちゃんに用いられたことば(構成単位①)ゆるやかな発達的変化が見られる。構成 単位①は、この物語の中心的なトピックであるが、4:Oにおいても正答者率は50%を超えて おり、幼児期の半ばにはもうすでに物語の中の主題に関連した項目を記憶する能力は多くの幼児 が持っていることがうかがえる。男女差について見ていくと、5:0では男児が女児よりも正答 者率が高く、6:6になるとその反対の傾向が認められる。
12〕女の人に用いられたことば(構成単位②)これも物語の中心的なトピックではあるが、
意外と正答者率が低い。5:Oにおいて男児の正答者率が女児のそれを上回っているが、それ以 外は、全体的に女児の方が正答者率が高い。特に、6:O以上になると、明確に差が見られてい
る。
13)手紙に用いられたことば(構成単位③)男女差の際だった構成単位であるといえよう。
女児については、4 0から6 6までの全般に渡って緩やかに正答者率の上昇が認められるが、
男児は4:Oから5:0までに急激な正答者率の伸びが見られ、その後その伸びは停滞してしま
う。
上述の3つの構成単位に関する結果は・物語の記憶においては被験児の視点が関わっているこ とをうかがわせる。Pichart&Anders㎝(1977)は、二人の登場人物からなる物語をそれぞれ の登場人物の視点によって呈示したところ、視点によって再生される物語の内容が異なることを 明らかにしている。本検査では、視点を方向づけるような教示は与えられていなかったが、被験 児は主人公のケンちゃんの視点から物語の全体内容を構成したものと考えられる。そのために、
主人公であるケンちゃんが直面する出来事の直接の対象である構成単位③(手紙に用いられたこ とば)については4 0でも正答者率が50%に到達したのであろう。一方、構成単位②(女の 人に用いられたことば)は、ケンちゃんの直接行為の対象ではないために正答者率が低くなった
ものと考えられる。
14)ケンちゃんが店の方に歩いていたこと(構成単位④):4:6において男女差が大きく認 められ、女児が男児よりも正答率者が高い。男児は4:0から4:6にかけて急激に正答者率が 増加し、約50%に到達するもののその後の伸びはほとんど見られない。一方、女児は4:Oか ら4:6では正答者率は停滞しているが・4:6から5:0にかけてその率は急激に増加してい る。その後の伸びは男児とほとんど変わりない。
ところで、Thomdyke(1977)は、Rume1hart(1975)の研究に依拠し、物語の解析ルールと しての 物語文法 を提案しているが、本検査で用いられた物語をこのルールに従って解析した 結果が、図1に示されている。この図からわかるように、構成単位④は 設定 にあたる。設定
とは物語の導入に対応するものである。上述したように、5:6以前においては発達の時期に男 女差があるものの、5:6以降においては男女ともに 設定 部分の記憶はゆるやかに発達して いくことが示唆されるであろ㌔
15)ケンちゃんは女の人に会った(構成単位⑤)男児は5 6までは正答者率はほとんど変 化が見られないが、5:6から6:Oにかけて伸びが認められる。一方、女児はまず4:0から
4:6にかけて正答者率の伸びが認められ、6:0から6:6にかけてまた伸びが見られる。
傭
設定 主題 筋立て 解決
登場人物 日棚 エピソード 出来裏
l l1号芋蓄11
轟姦簑
図1 本検査で用いられた物語の構造
16)風が手紙を吹き飛ばした(構成単位⑥)この構成単位も物語の中心的なトピックである が、男女差の著しいものといえよう。男児は4:6から5:Oにかけて大幅に正答者率が増加し
(約40%)、その後はあまり変化がない。一方、女児は4:0から6:6にかけて緩やかに正答 者率が増加している。
構成単位⑤と⑥の正答者率を比較すると、全般に前者よりも後者が高くなっている。先に紹介 したThomdyke(1977)の 物語文法 によれば、構成単位⑤及び⑥はどちらも 主題 にあた るが、構造上は⑥の方が⑤よりも上部にあたる。すなわち、r途中で女の人の手紙が風で飛ばさ れたのを見た」という主題の中では、「女の人に会った」(構成単位⑤)よりも「手紙が飛ばされ た」(構成単位⑥)の方が上部に位置づけられている。この構造上の違いが正答者率に反映され たのであろう。また、上述の視点という観点からすれば、主人公の行動の直接対象である手紙に 関する事象を再生する方が直接の対象でない女の人について再生するよりも容易であったと考え
られよう。
17〕ケンちゃんは ぼくが拾ってきてあげましょう と言った。(構成単位⑦) この構成単位 は4=6と5:Oにおいて男女差が見られる。しかし、その後は全く男女差は見られず、6:6 においても正答者率は50%に到達しない。上述の 物語文法 からすれば、構成単位⑦、⑧及び
⑨は、 筋立で にあたる。本研究で用いた物語の場合 筋立て を構成するのは、「ケンちゃん が手紙を拾ってきた」というエピソードである。この 筋立て の中で、⑦は、エピソード内の
下位目標 にあたるので、幼児にとってこの構成単位は物語の記憶をする際の枠組みの中に統 合しにくいものといえるであろう。
(8)ケンちゃんは注意深かった(構成単位⑧): 物語文法 からすると、構成単位⑧は、エ
ピソード内の 企て にあたる。5:0と5=6において、明確な男女差が認められる。男児は
4:6から5:0にかけて正答者率が急増するのに対し、女児はゆるやかな上昇曲線を描いでい
る。あえて言えば、5:0以降の曲線の傾斜がやや強くなっている。
19〕ケンちゃんは手紙を拾ってきた(構成単位⑨) この構成単位は、年齢による変化が顕著 な単位であるといえよう。 物語文法 ではエピソード内の 結果 にあたるものである。先の構 成単位⑥と曲線のバターンは類似している。すなわち、5 0と5 6において男児の正答者率 が女児のそれより高くなっている。そして、男児は4:6から5:Oにかけて正答者率が急増す るが、女児にはそのようなパターンは見られない。全体的な正答者率が高いことから、この物語 の中で中心的な役割をはたしている単位であると考えられる。
ω 女の人は喜んだ(構成単位⑩)幼児にとって記憶するのが難しい構成単位であるといえ よう。したがって、発達差があまり認められない。すなわち、5:6までは男女ともに正答者率 が30%に到達しない水準にとどまっている。そして、5:6から6:6にかけて幾分正答者率 の増加があるものの・6:6における正答者率はまだ40%に達していない。
㈹ 女の人はケンちゃんにお礼を言った(構成単位①):男女差のほとんど見られない構成単 位であるといえよう。年齢差について言えば、4:Oから5:Oにかけて正答者率が増加するが、
この後はゆるやかな上昇曲線を描いている。 物語文法 においては、構成単位⑩と⑩は、 解肖 にあた孔そして・構成単位⑪が構成単位⑩よりも上部構造に位置すると考えられ孔実際、表
3に示された結果それを裏づけるものであった。すなわち、同じ 解消 部分にあたる構成単位 であっても下部構造に位置する構成単位⑩は、上部構造に位置する構成単位⑪よりも正答者率が 低い結果となったのであ乱
ところで、Kemper(1982)は、Soh㎝k(1980)の分類基準を用いて物語の因果構造を事象の 内容という質的な側面から検討し、命題の表す事象内容を 行為 状態 及び 心的状態 に分 類している。 行為 とは主体の自発的行動を示す命題すなわち動詞で表現される命題である。
状態 とは、登場人物や無生物(物、場所、出来事など)の状況、属性もしくは特色を説明し ている命題で、形容詞や名詞十「だ」「いる」「なる」などで表現される。 心的状態 とは、主 体の感情、意志及び思考活動を示す命題である。この分類によれば、本検査で用いた物語では、
構成単位⑥が 状態 、構成単位⑩が 心的状態 にあたり、その他の構成単位は 行為 になる。
Kemperの基準を物語産出に当てはめて検討した秋田・大村(1987)は、 状態 や 心的状態 を表す命題の産出は行為を表す命題のそれよりも難しいことを明らかにしている。しかし、本検 査では 状態 を表す構成単位⑥の方がむしろよく再生されており、産出を扱った彼らの研究と は違った結果が得られている。一方、構成単位⑩は文節数が少ないにも関わらず、最も再生率が 低かった。これは、構成単位⑩が 心的状態I を表す命題であるので、秋田・大村の研究に一致 するものといえるであろう。
全体的にみて、物語構造の中で重要であると考えられる構成単位は、との年齢においても正答 者率が高く、幼児期の比較的早い時期からこれらの構成単位を中心とする物語記憶の枠組みが形 成されていることがうかがえるといえよ㌔
縦断的分析(再テスト分析) これまでに報告してきた資料は、各年齢で異なる幼児につい
てのものであり、いわゆる横断的な比較資料であった。これに対して、同じ幼児の物語記憶がど
のように変化していくかを明らかにすることも発達理解の上で重要なことである。このような資 料は縦断的な比較資料と呼ばれているが、ここでは3年間に渡り本検査を受験した幼児47名
(男児31名、女児16名)の結果について報告する。
(1)合計点の変化 表4は、3年間にわたる合計点の変化を示したものである。平均得点で みると、1年目から2年目にかけて2.54増加し、2年目から3年目にかけて0.59増加している。
したがって、4二4から5:4への伸びの方が5:4から6:4への伸びよりも大きいことがわ
かる。
表4 合計点からみた3年間の変化(再テスト分析)
1年目 2年目 3年目
平均年齢(範囲)
4:4 (3:1O〜4:9)
5:4 (4:1O〜5:9)
6:4(5:10〜6:9)
平均得点(SD)
2.57(3.00)
5.11 (2.97)
5.70 (3.39)
12)構成単位ごとの分析 表5は、構成単位ごとの3年間の変化を図示したものである。この 図を見ると、1年目(4:4)から2年目(5:4)にかけての仲びが大きい構成単位(①、②、
③、⑥、⑧、⑨、⑩、⑪)、2年目(5:4)から3年目(6:4)への伸びが大きい構成単位
(⑤)及び伸びに大きな違いのない構成単位(④、⑦)に分かれている。このことから、先の分 析によって示唆されたことと同じように、幼児は比較的早い時期から物語の主題に関係する構成 単位(①、②、③、⑥、⑨)を中心とする枠組みを持ち、それによって他の構成単位を統合して いくことがわかる。
表5 構成単位ごとにみた3年間の変化(%)
構 成 単 位 番 号
実.施年次
1234567891011
年目 幽.7251542,625,514,931.98,512,829.86,414.9
年目 78,753,276,638,319,268,123.4幽.755,321,331.9 年目 78,761,772,351,146,863,834.0μ.753,227,736.22年目〜1年目 34,027,734,012.8 4,336,214,931,925,514,917.0 3年目〜2年目 0.0 8.5−4,312,827.6−4,310.6 0.0−2.1 6.4 4.3
引 用 文 献
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