閉塞 性黄痘に関 する実 験 的研 究
一 黄痘 遷延因子の追求, と くに胆 道感染に つい て
金沢大 学医学 部 第二外科 学 教 室 ( 指導 : 宮 崎逸 夫 教 捜)
浅 野 栄
(昭和5 3年7月2 0日受付)
( 本論 文の要 旨は第1 0 臥 な ら びに第1 1 回日本 消 化 器 外 科学 会 給 金に て発 表し た)
閉 塞 性 黄痘は その経過申におい て重 篤な腎 障害, 出
血, 肝不 全な どの合併 症1 卜 5壕 伴うこと が あ る. と くに
高度 黄 痘は そ れに伴うこれ らの重 篤な合 併 症を惹起 す る準 備状 態であ る と考え ら れ, 刷旦道 系悪 性 腫 瘍の根 治 手 術が ますます 拡 大さ れ る傾 向にあ る現 在, な ん ら かの減資 術を行なって のち 二期 的に根治 術を行な う必 要 性が強く なっ てきて いる6 I. し か し, こ のよ うに行な
っ てきても今な お, 治 療 上の大き な問 題と して黄 痘 遷 延の問題 が あ げ ら れ る. す な わ ち. 閉 塞 性黄 痘 患者に 対し何ら かの減 黄 処置が な さ れ, 月旦汁 路は十 分に確 保 さ れ ている と思わ れ るにもか か わ ら ず, 十分な排 出胆 汁量 が得ら れ な かっ た り, あ るい は ま た, 胆 汁が十 分
に排 出して いる と思わ れ るの に黄 痘 軽 減効 果が悪く. これ らの合 併 症のた めに不 幸な転 帰を と る症 例にし ば し ば通過す る.
し か し,こ のよ う な症 例の病 態生 理に関 する実 験 的, 臨 床的 研 究はノJヽ沢 らの報 告な ど に 2, 3 が散 見さ れ る のみで7卜川t そのは と ん ど が まった く不 明であ る とい
って過言でない. 教室の永 川1 21ら は, 悪性 閉 塞 性 黄 痘 2 5 0症 例の検 討か ら,黄痘が 遷延し た症 例 68例( 2 6.0
%) 申, と くに胆 道 感 染が原因して いる と思わ れ る も のが 43 .1 % を占め た と報告して いる.
そこ で著者は, こ のよ う な黄 痘遷 延例におい てt 胆 道感 染が 肝に対し如何な る影 響を あ た えて いる かにつ い て検 討す る た め, 雑 種成 犬を用い て. 単 純胆道完 全 閉塞 犬と 胆道 完全 閉塞 ・胆道 感 染 犬の両 群を作 成し,
これ らの閉 塞 解 除前 後にお け る肝の病 態の変 化につい て検 索を行なった. す な わ ち, ま ず. 閉塞4 過にわ た り, (1) 一 般 生 化 学 的 検 査を, ( 2) Indo cya nin e
Gr e e n を用い て どリル ビ ン代 謝を色 素 移 送の面か
ら,(3) ビタミン K 負 荷Hepapla stin Te st を用い て 肝細胞にお け る蛋白 合 成 能の変 化を. ( 4) 肝の組織 像 と血 清M o n o a min e Oxi da s e 値か ら 胆汁う っ 滞によ る 肝の線 維 化に つい てそ れ ぞ れ検討をカロえ. さ らに閉 塞解 除によって こ のよ う な因 子の回 復過 程を経 時的に 追 求し た. その結 果, 閉塞 性 黄 痘にお け る減 黄 後の責 痘 遷 延因子お よ び予 後な どにつ い て , と くに胆道感染
の面か ら興 味あ る知 見を 2. 3 え たの で報 告す る.
〔Ⅰ〕 閉 塞 胆道 感 染 犬にお ける 肝の病 態 生理学的 研究
Ⅰ. 実 験 方 法 1. 実 験 動物
10kg 前 後の雑種 成 犬を使 用し た.対 照 群と して43 頭, 胆道感 染 群と して3 0頭の総数73 頭を作 成し た.
2. 対 照 群
雑 種 成 犬 (10kg前 後) を使 用し た. 麻酔は. 初回塩 酸 ケ タミンを 1 2.5m g /kg 筋 注して背 臥位に固 定し,
以後T h iope ntal Sod iu m を25m g / 回 静注して深 度 を 一 定に維 持し た. 上 腹 部 正 中切 開に て開腹し, 十二 指腸近 傍に て総 胆 管を約5m m 切 除し た.
3 . 胆道 感染 群
対 照 群と同様の方 法で開 腹し, 十二指腸 近傍に て絶 胆管 内へ十二指腸液を 0.5 m⊥注 入後, 対 照 群と同様方 法で総胆管 結染 切 除術を施 行し た.
Ⅱ. 検 索方 法 ならび に そ の方 法 1. 白血 球 数
2. 血奨 生 化 学 的 検 査
Expe rim e ntal Study o n t he Inn u e n c e of Bilia ry Infe ctio n in O bstr uctiv e Jau nd ic e・
Ei ich i As a n o, Depa rtm e nt of S u rge ry (ⅠⅠ) (Dir e cto r : Pr of・ Ⅰ・ Miyazak i), Scho ol of M ed icin e, Ka n a z a w a U niv e r sit y.
閉 塞 性 糞痘に関する実 験 的研 究
胆管結染後, 両 群と も 4 題目まで毎 週 股静 脈よ りヘ
パリン処 理 し た注 射 器に て採血し. 以 下の諸検 査を行 なっ た.
1) 責痘 指 数(M e ule ngr aht値。 以下M G と略す) 2) 血清総ビリル ピ ン値 (D ia z o 反 応, 以 下 血 清 総
「 ビ」 値と略 す)
3) 血 清 A l kalin e P ho sphata s e 活 性 値 (Kind‑ K ing 法. 以下A トP 値と略 す)
4) 血 清 γ・G luta m yl tr a nspep ti da s e 値 (Orlo w sk i 氏 変 法, 以下γG T P値と略 す) 5) 血 清G luta mic o x alo a c etic tr am s a min a s e
活 性 値 (u ‑ Ⅴ 法, 以 下S G O T 値と略す)
6) 血清 G luta mic p yr u vic tr a n s a min a s e 活 性 値 (u ‑ Ⅴ法. 以 下S G P T 値と略 す) 7) La ctate dehydr oge n a s e 活 性 値 (テ ト ラ ゾ リ
ウ ム塩 比 色 法, 以下L D H 値と略す) 8) 血 清絵コ レ ス テロ ー ル値 ( 酵 素法)
9 ) T hym ol 混 瀦 反 応値 (チ モ ー ル 。 トリス法, 以 下T.T.T 値と略 す)
10 ) 硫 酸亜 鉛 温 海 試 験( 硫酸 塩パル ビタ ー ル法. 以 下Z T T 値と略 す)
1 1) 血 清 総 蛋 白量 ( ピュ ー レッ ト法)
1 2) 血清アル ブミンと血 清グロブ リン比( 算 出法. 以下A/G 比と略す)
3. lndo cya nin e Gr e e n Te st(以下I C G テ ス トと 略す)
肝にお け る色 素 移 送の動態を推 測 する目 的で, 両 群
につ垂手 術 後4 週 目ま で毎週 行なった.
1) 採 血 方法
一 側の股 静脈に 19G の Hak ko ェ ラ スタ ー 針を留
置. 他側の肘 静脈よ りジ アグノダリ ー ンを 1.Om g /kg
注 入後, 5,1 0, 1 5, 2 0,3 0,4 0, 5 0, 6 0 分の各 時 期
にヘパリン処理 し た注 射 器に て約2汀11採 血し た. 2) 測定 方 法
採血し た血 液を遠 沈 (1 500 回/1 0分) して各 血 奨 8.5 扉 を分 離し. 滅 菌生理食 塩 水2.5 山で稀 釈してよ く混和 する. 注 人 前 採 血 血欒を同 様に処理 し ブラ ン ク と してBe ck m a n D V 分 光 光度 計を用い て 810n m に お け る吸光 度を測 定 する. あ ら か じ め作成し た検 量 線
によ り血 中I C G 感 度を求め た. さ ら に片対 数グラ フを 用い て,経 時 的な血 中I C G 消失 曲線を作 図し た.次に,
こ の血 中I C G 消 失 曲線を解 析して, 血 焚と 肝の2 っの
コン パ ー ト メン トを設 置す ること によ り数 式Ct =
Ae K lt + Be
‑K 2t
が成 立し,
次式a 皇室
A 十B b = 姐 ら b =(K,+ K2卜
a
4 9 9
(a + h ) よ り血 祭か ら肝への移 行率a,肝から血 焚へ
の移 行 率b, 肝か ら胆 汁への移 行率h を算 出し た. Ct : t 時の血 中 濃度
K. ; K2 : 各Fr a ctio n にお け る消 失 率 A : K一にお け る 理論 的な零 時の血 中濃 度 B : K2 にお け る理 論 的な零 時の血 中濃 度
e : 自 然 対数の底
t : 任 意の時 間
消 失率 (K) は片 対数グラ フに I C G 注射 後5 分お よ び 1 5 分 後の血 中濃 度を プロ ットし, こ の2 点を結び,
作 図 的に零 時にお け る血 中I C G 濃 度(Co), お よ び濃 度の半 減 時 間 (tl′2) を求め次 式に よっ て計算し た.
K ニリ・
㌣
4. ビタミ ン K 負 荷Hepapla stin te st ( 以 下 K H P T と略 す)
肝にお け る蛋 白 合 成能を み る目 的で. 肝 疾 患の予後 判 定に有 効と さ れて いる Hepapla stin Te st は. 閉 塞 性 黄 痘に ては V itami n K の吸 収 障害が存在 する た め 真の活 性 値を表現して いない ので, ビタミン K を負荷 してt 4過 日まで毎 週 測 定し た.
あ ら か じ め調 整さ れ た Hepapla stin Te st用 試 薬を 370c恒 温 槽 内で約5 分 間 加 温 後, 採 血し た静 聴 血 0.0 1 m ほ . Hepapla stin 測 定用メラン ジュ ール で正 確
にと りt ガラ ス試 験 管 ( 内径8m m , 長さ6c m) に入れ た 0.2 5 mエの試 薬 申に一 気に吹善込み,試 験 管を ひ と ふ り し た後.370c 恒 温 槽 中に20 秒静 置, 凝固 時 間を測 定し た. つい で. 各ロ ッ ト毎に添付さ れて いる標 準 曲 線か ら対 応 する活 性 値を読み.
ヘ マ トク リット備によ
る補正を行なっ た.
5. 血 清Mo n o a min e Oxi da s e値 (以下M A O 値と 略 す)
同 一犬につき, 手 術後 毎 週 股静 脈か らヘ パリン処 理 し た注射 器に て約 2 mlの血 液を採 取し.遠 沈 ( 1500 回
/1 0分) して血 清を分離し,測 定に供し た. M A O 値の 測定には P・be n zyla min o・a Z O・β・n aPhtol を基 質に用
いた. その測 定 操作は蓑1. の如くであ り, 酵 素活 性は 活 性単 位=
題 諾 箆
×54よ り求め た.
6. 肝の病理組 織学 的 検索 法
各 種 実験 犬の再 開腹 時. 死亡ま た は屠 殺 直後に. 肝 臓の生 検ま た は摘 出を行ない.た だ ちに10 % ホ ルマ リ
ン液で固定 後パ ラ フィ ン切 片を作 製し, アザン染色な
ら びにへ マ トキシIj ン・ エ オ ジン染 色を行ない, 組 織 学 的 検 索に供し た.
Ⅲ. 実験 成 績 1. 白血 球 数の変 動 ( 図1)
結教後4週 日ま で毎週 白血 球を測 定し え た 8頭 を 対 照 群と し た・ 対 照群の白 血球 数の経 時 的 推 移は, 結繋 前 値を 一定に保って変 動 を 示さ な かっ た. し か し. 感 札 ㈹ 染 群では結 染 後1 週 目よ り著 明な白 血 球 増 多を認 め・ 2過でさ らに増 加し以 後 高値を保っ た. 各 時 期で
の対顔 群と感 染 群の白 血 球 数は,結染前 値で1 1,90 0 ± t O・輌 1・000 と 1 1.000 ±500 (n = 19 ) 結染後1 過で は 1 2 ・3 0 0 ±1 ,500 と 19,400 ±2,200 (n = 9 , P <
0・05). 2 過 後で は 12.300 ±1,400 と22 ,600 ± 3・60 0 (n == 1 1, P < 0 .05) , 3濁では 12 ,1 0 0 ± 2,4 0 0 と21,600 ±2 .200 (n = 5, P < 0.05 )であ り感 染 群 に有 意の 白血 球 増 多を 認 め た が. 4 過で はt 13 ・5 00 ± 3.3 0 0 と 23 ,300 ±5 ,7 0 0(n = 4)と高 値を み た が有意の差は み ら れ な かった.
2. 血 祭生 化 学 的 換 査
○ 書
i) 黄痘指 数 ( 図 2 )
血 発 生 化学 的検 査 会 般を結数後4過まで経 時 的に追 跡し え た 10 頭を対 照群と し た.対 照 群の黄痘 指 数の経 坤 時 的 推 移は, 結集後3 週 目まで漸 時 増 加し, 3 週 間 後
に Peak を 認 め, 4過では や や低 下し た.感染 群でほ結 的
染後1 過 日で対 照 群に此し急 峻な上 昇を認め, そ れ以 後は高 値 を保っ た ま ま で あった. 各 時期で の対 照 群と 感 染 群の黄痘 指 数は結染前 値で2 .5 ±0 .1 9 と 2.2 ±
t 0
0 ・20 (n == 20 ) , 結染後1 週で は, 19 .9 ± 2.35 と 26 ・8 ±3.0 (n = 1 1), 2 過 後で は.24.8 ± 1.7 4 と 2 5‑5 ±3.06 (n = 1 2) , 3 過で は29.8 ±3.1 と 26 ・0 ± 5.1 (n = 6 ), 4過では 2 8.1 ±3.7 と27.4
t t 暮 ■ ■●●l■
l l l I ● ( )一弘 p.H.
図1 ・ 胆 管 閉塞後の白 血球 数の変動
H ら
t t ■ ● ■●■■
岬 O I 仰 II I ( I 咄 .札
図2・ 過 管 閉 塞後の黄 痘 指数
表1 M A O 測 定 法
2
2 3.0
閉塞 性 黄 晴に関する実 験 的研 究
± 4.3(n = 5) であ り,結教後1過で感 染群の黄 痘 指 数は対 顔群に比し高値を認め た が両 群 間の推計 学 的有 意差は得ら れ な かった・
2 ) 血 清総 「ビ」 値 ( 図3)
対照群の血清 総 「 ビ」 値の推 移は. 結繁4週まで漸 時増加を続け た. しか し,感 染群で は結集後1週で急 峻 な上昇な ら びにPe ak を 認 め, 2 週 以後は や や低 下し て平坦 化を示し た. 各 時 期で の対 照群と感 染群の血 清 総 「 ビ」値は,結熟前 値で0・1 1 ±0 ・01m g /別 と0 ・1 2
±8.01m g /別 (n = 1 9), 結染後1 過では3 ・16 ± 0.35m g /d L と 4.87 ±0.66m g /d L (n = 1 1, P <
0.05), 2過 後で は 4・07 ±0.2 7m g /朗 と 4・31 ±
= 3m g/ d ヱ(n = 1 4) .3 過では 4.56 ± 0.7 1m g /山 と 4.7 3 ±0.9 7m g /別 (n = 6 ) ,4 過 で は 4.87 ±
S.T ■■ ■絹r 血
t t ● ■ ■●■l●
ll t 暮 ♭ l ( )叫 む ■.札
図3 . 胆 管閉塞 後の総 「 ビ」 値
量 ● ■ ■‑●
一叩 叩 q l l l l l ll ( :〉叫 む ■.札
図4・ 胆管閉 塞 後の直 「 ビ」 値/ 総「 ビ」 値 比
50 1
0.66m g /d L と 4.49 ±0.70 m g /d L(n = 5 ) であ り.
結繋 後1 過で感 染群の血 清総 「 ビ」 値は, 対 照 群に比 し有 意の差で高 値を示し, 結染後の急 峻な上 昇 を 認め た.
血 清 直 「 ビ」 値と血清 絵 「 ビ」 値の比は, 結 染 前の 0.4 5 ± 0.07 と0.40 ±0 .04(n = 16 )に比べ結染後 1過で は0.78 ± 0.02 と0 .7 4 ±0.02 (n = 12 ) と両 群と も急激に上 昇 する が, 4過まで0 .76 前 後と は ば
一定に保た れ両 群 間に は全 経 過を通じて有 意の差は み ら れ な かった.( 図4)
3) A l‑P 値 ( 図5)
対照 群の閉塞 期 間によ る A トP 慮の推移は. 結繋後 2 凋 まで上 昇をつづ け, 4過ま で は横 道い を示し た が, 感染 群で は結染後1 週にて対照 群に比べ高値を示
‡ ‑ ‑ ‑ ■ ‑● 一
間 椚 ㈱ 仲 川 ( I 伽札
図5. 胆管 閉塞 後の A トP
t ■ ● ■ ■‑▲●
柑l 桐 仙 ( I) ( ) 叫 .札
図 6 . 胆管 閉塞 後の γ・G T P