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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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(1)博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 論文提出者氏名. 中島 悠介. 論 文 題 目. 方位残効と運動残効のメカニズム. 視覚系は、活動した後に短い時間ではあるが、その感度を変化させる。この残効効果を利用し て、様々な視覚現象が研究されてきた。従来の研究では、知覚的な残効効果は知覚対象自体に順 応することで生じるとされてきた。しかし、本論文では、方位あるいは動きを持つ対象とその周 囲に提示された情報について対応づけた連合学習を行うことで、周囲に提示された情報に依存し て方位あるいは動きを持つ対象に対して知覚的残効効果が生じるという画期的な知見を報告して いる。さらに、周辺情報によって生じる知覚的残効現象と空間・網膜座標系との関係を緻密に調 べることで、背後にあるメカニズムの解明を試みている。さらに、従来の実験参加者の主観的な 報告に基づく心理物理学的方法ではなく、パブロフ型条件付けパラダイムを用いて条件反射の一 種である瞬目を参加者の反応として計測することで、残効効果をより精緻に実証し、網膜座標系 だけではなく空間座標系においても対象の方位残効が生じることを新たに報告した。 心理物理学的測定法による周辺随伴性方位残効の実験では、順応刺激とテスト刺激を網膜上で も画面上でも同じ位置に提示する Full 条件、画面上は異なるが網膜上では同じ位置に提示する Retinotopic 条件で残効が観察された。しかし、順応刺激とテスト刺激を網膜上では異なる位置だ が、画面上では同じ位置に提示する Spatiotopic 条件では観察されなかった。ところが、瞬目反射 を利用したパブロフ型分化条件付けを使って方位残効の強さを測定した実験では、Full 条件、 Retinotopic 条件に加えて、順応刺激とテスト刺激を異なる半側視野に提示する Spaciotipic 条件に おいても方位残効が観察された。全身麻酔を施した患者だけでなく植物状態になっている患者に 対してもパブロフ型条件付けが形成可能であることから、パブロフ型条件付けで得られた結果は、 視覚情報が前頭前野に到達し主観的判断が行われる以前の視覚情報処理の経過を反映していると 考えられる。また、パブロフ型条件付けを使った知覚研究は、実験動物に対して盛んに行われて きたものの人間を対象にした研究は極めて稀である。ヒトの視覚研究にパブロフ型条件付けを用 いることが、被験者の構えやバイアスに影響されない有効な方法であることを示したという点は 高く評価できる。 心理物理学的測定法による周辺随伴性運動残効の実験では、Full 条件、Retinotopic 条件、 Spaciotopic 条件に加えて、順応刺激とテスト刺激は網膜上も画面上も異なる位置に提示されるが、 いずれも同じ半側視野に提示される Unmatched 条件でも残効が観察された。周辺随伴性運動残効 は、左右どちらか一方の視野における Unmatched 条件で観察されたことから、この効果には大き い受容野の細胞が関わっている可能性があると指摘している。さらに、この効果には、大きな受 容野の細胞と空間座標の共有という二つのメカニズムが関与している可能性が高いとしている。 一方、方位残効が空間座標の共有によって観察されたことから、方位残効には、網膜座標を空 間座標に変換するための中間段階の処理も関与している可能性を指摘している。すなわち、方位 に関する処理は V1 で始まるが、それよりも高次の視覚皮質も方位の処理に関与している可能性 があることを指摘している。 周辺随伴性残効を生じるメカニズムに関しては、以下のように論じている。周辺随伴性方位残 効と周辺随伴性運動残効は、いずれも 2 つのペアになる視覚特徴が空間的に離れていたにも関わ らず残効が観察されることから、これらの現象は、2 つの視覚特徴に感受性を持つ単一の神経細胞 の順応によるのではなく、2 つの視覚特徴の連合による可能性が極めて高いことを指摘している。 さらに、周辺随伴性方位残効と周辺随伴性運動残効には、網膜座標ばかりでなく、空間座標の関.

(2) 氏名 中島 悠介. 与が示されている。したがって、周辺随伴性残効を生じる視覚特徴の連合は、より高次の視覚シ ステムにおいて実現されている可能性が高いと論じている。視覚システムは、階層構造を形成し ており、低次領域では、単純な視覚特徴が処理されるが、情報が高次領域に送られると、これら の特徴が統合され、より複雑な特徴が処理されると考えられている。周辺随伴性残効の実験結果 は、こうした視覚システムの階層構造をよく反映していると考えられる。 このように、この論文の中で、著者は残効現象に対して新たな知見を提供することで方位や動 きといった比較的初期段階で処理されると考えられる基本的な視覚情報においても、周囲の情報 と結びつき、空間座標で表現されるなどより高次の情報統合・表現系が成立する可能性を提言し ようと試みている。また、古典的な心理物理学的測定法だけでなく、パブロフ型条件付けを用い た新たな実験パラダイムを用いて知覚効果の測定を試みている。これらの研究内容は、非常に高 く評価できる。したがって、この論文を、博士学位を授与するに相応しい論文であると評価する。. 公開審査会開催日. 審査委員資格. 2017 年 6 月 1 日 所属機関名称・資格. 氏名. 専門分野. 博士学位名称. 主任審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 杉田 陽一. 知覚心理学. 医学博士(東北大学). 審査委員. 早稲田大学文学学術院・教授. 日野 泰志. 言語心理学. Ph.D. in Psychology (西オンタリオ大学). 審査委員 審査委員 審査委員. 立教大学現代心理学部・准教授. 日高 聡太. 知覚心理学. 博士(文学)東北大学.

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